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4.さよならの雨と、拾われた夜①

Auteur: 鷹槻れん
last update Dernière mise à jour: 2025-06-21 21:22:05

五月に入ったばかりという今日、まだ梅雨ではないけれど、外はあいにくの雨模様だった。

「ごめんなさい、孝夫さん。今日は月に一度の委員会活動の日で残業なの」

私の勤め先の青葉小学校では、毎月大体第四月曜日の五時間目が、各委員会の定例集会になっている。

校内にいくつもある様々な委員会所属の五・六年生たちが、各々定められた場所へ集まってイベントの取り決めをしたり、日々の反省会をしたり……。月によってやることはまちまちだ。

私が担当する図書委員会の児童らは、図書室に集まって定例会をする。

基本的には教員免許を所持している司書教諭の白石先生が主体になって議事進行をなされるのだけれど、図書委員会では学校図書館司書の私も白石先生の補佐として委員会活動に参加するのがずっと続いてきた習わし。

今年度初の委員会活動は年度はじめでバタバタしていた絡みで、四月が飛んだから、第一月曜日の今日が委員会活動に割り当てられていた。

年間行事予定表へ視線を落としながら夫の孝夫さんに声を掛けたら「はぁ? 何で今日。いつも月末辺りだっただろ」と、あからさまに溜め息を落とされる。

さすがに頭のいい人だ。委員会活動が大体第四月曜日に開かれていたことを覚えているみたい。

「今回は年度初めでごたついていて、四月の第四月曜日に出来なかったから今日になったの」

ごめんなさい、と付け加えながら答えたら、「ふーん。……で、俺の夕飯はちゃんと支度して出るんだろうな?」と返ってきた。それはある意味想定の範囲内の質問だったから、私は電子レンジの中へワンプレーと料理が用意してある旨を告げる。

「申し訳ないけど電子レンジで温めてもらえますか?」

炊飯器は孝夫さんのいつもの帰宅時刻に合わせて仕掛けておいたから、炊き立てのご飯も食べられるはず。

「はぁ? わざわざ疲れて帰ってきた亭主に飯、温めて食えって言うのかよ? すっげぇ面倒くせぇんだけど!? あー、もういいや! それお前が食えよ。俺、外で食って帰るから」

チッと舌打ちして「ホント使えねぇ女」とわざと聞こえるように私を罵ってから、「あー、あと。お前がいなくてもクソ犬が騒がねぇようにしっかり躾けとけ。ホントあいつ、お前がいないってだけでうるさくて仕方ねぇ」と付け加えてくる。

「はい……。ごめんなさい」

ケージの中、良い子にお座りをしてこちらをじっと見つめているうなちゃんを忌々しそうに睨み付ける孝夫さんの視線に、私は胸がギュッと締め付けられた。

(もしかして……私がいない間にうなちゃん、孝夫さんに虐待されたりしてないよ……ね?)

そんなことはないと信じたいけれど、ちょっぴり不安になった。

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