突然離婚宣言をしたあの夜、アデリナは本当にこれまで一緒に使っていた寝室を訪れなかった。
夜中に眠れずに侍女を捕まえると、アデリナは大人しく自室に一人で寝ているという。
あの時癇癪まで起こしたくせに一体何を考えているんだ?
さっぱり分からない。分からないから困惑した。
あの女の真の狙いが何なのか見極められないから。
だが、きっとまたロクでもない事だろう。
また私に何か高価な物を買わせる作戦かも知れない。
だったらこちらはあの女の事をとことん無視してやる。 あの女の訳の分からない我儘に付き合う必要はどこにも…… ◇「陛下。今日、王妃陛下がご一緒に朝食を食べないと仰られていますが……」
翌日アデリナは、自らが決めた朝食を一緒に食べるという約束を破った。
言ってきたのは、アデリナのお気に入りの侍女ではなかった。気まずそうに言ってきたこの女もまた、この国の貴族で王妃付きの侍女だ。
確か侯爵家の……名前は知らないが、髪は金色に近く、いつも派手な色の口紅をしている。「そうか。分かった。」
口ではそう言いながら、またピリッとした怒りが胸の片隅に湧いた。
あの女は自分で決めた事も守れないのか?
そんな私の態度に気づいたかは知らないが、侍女はまだ部屋から下がらず、ランドルフや他の給仕達がいる中、一歩前に足を進めた。
「本当に……王妃陛下はご自分でお決めになられた事すらも、守れぬお方なのですね。」
クスッとその女から嘲笑が聞こえた。
その瞬間……なぜか別物の怒りを覚える。
実はこれまでも何度か、専属侍女達のアデリナに対する態度が悪いという噂を耳にした事があった。
だけどその度にアデリナは、侍女の頭から酒をぶっかけたり、足を引っ掛けて廊下で転ばせたりしたのだと言う。
大人しくやられるだけの女ではなかった。