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ローランドの怒り

作者: Kaya
last update 最終更新日: 2025-06-24 19:00:00

 さすがは性悪妻。

 自分自身の事は自分で解決できるらしい。

 だから私は放っておいた。

 なのに………

 「陛下。少しよろしいでしょうか?

 実は昨夜から王妃陛下が妙なのです。

 いつもなら当たり前のように私達侍女に嫌がらせをしたり、暴言を吐いたりするのですが、なぜか今朝に限って何もしてこなかったのです。

 それにいつもは気合いを入れて朝食に行くはずなのに、陛下と食事を共にしないと仰るのですから……不気味………いえ、一体何を考えていらっしゃるのかと。」

 侍女は、真実に悪意を織り込みながら話をしているようだった。

 時々あの嫌な感じの嘲笑が見えるから。

 なぜだ。

 なぜ……この侍女の態度が不快に感じる?

 「誰が発言していいと許可をした?

 勝手に喋るな、不愉快だ。」

 「ひっ………!」

 無意識に侍女を睨みつける。

 敵意を剥き出しに。

 私は氷の王という異名を持つ男だ。睨まれたら誰でも怖気付くだろう。

 「王妃は私の妻だ。

 お前如きが嘲笑できる相手ではない。

 下がれ。」

 「ひ、っ、大変失礼いたしました!」

 気分を不愉快にさせた侍女が真っ青になって部屋を出て行った。

 ふうっ、と溜息を吐いてふと周りを見渡す。

 護衛兵に給仕達が皆一様に驚いたような顔をしていた。

 その中でも、一番驚いていたのはランドルフのようだった。

 陛下が王妃陛下を庇った……?という目をしていた。

 確かにそうだ。

 なぜ私は咄嗟に、あの女を庇ってしまったのだろうか?

 

 ◇

 朝食後、日課の行政庁に向かう途中、太い円柱の柱が何十本と並んだ広々とした廊下でアデリナに出くわ

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     だが、やはりアデリナはその時も何も言って来なかった。 その代わりに私に近づくな!と言わんばかりに凄い形相で睨みつけてくる。 恐ろしい顔だ。伝説の魔女のようだ。 何を要求するのかと待ち構えていたが、向こうは本気で私と会話するのが嫌だとでも言わんばかりにプイッと目を逸らした。 そのまま怒ったようにズンズンと、反対側に大股で歩いていく。 いや………あの女はあんな風に大股で歩く女だっただろうか? 何だかあの日以来アデリナは、マナーというか、王妃としての気品が欠けている気がする。 侍女のホイットニーだけが申し訳なさそうに振り返り、頭を下げた。 一体何なんだ。 何がしたい? いつもの様に、私の腕にわざとらしく纏わりつく事もないのか。 まさか昨夜の事を怒ってるのか? どうせ離婚する気など無いくせに。 その態度。こちらこそ不愉快だ……! ◇◇◇ 行政庁から戻り、軽めの昼食を取る。 昼食だけはいつも一人で食べる事ができた。 だから自室の隣にある執務室に昼食の準備をさせる。 早い話、仕事をしながら簡単な食事をするのだ。 「陛下………もっと、まともに昼食を取られては? この所働き詰めです…できたら休息もなさって下さい。」 一緒に目の前の膨大な書類を片付けていたランドルフが、そう促した。 「いや、この所仕事が増える一方だから、休んでなどいられない。 この前起きた、森林火災による西部地区の救助活動と、建物被害の復興活動も十分ではないし、東部地方での厄介な山賊の討伐にも、人員が必要だ。 それに例の汚職疑惑の書類についてもまだ」  この国は小国だが、自然災害や人的災害はそれなりに起きる。 解決するのもまた、王である自分だ。 必要な場所に必要な人員を采配し、援助

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     さすがは性悪妻。 自分自身の事は自分で解決できるらしい。 だから私は放っておいた。 なのに……… 「陛下。少しよろしいでしょうか? 実は昨夜から王妃陛下が妙なのです。 いつもなら当たり前のように私達侍女に嫌がらせをしたり、暴言を吐いたりするのですが、なぜか今朝に限って何もしてこなかったのです。 それにいつもは気合いを入れて朝食に行くはずなのに、陛下と食事を共にしないと仰るのですから……不気味………いえ、一体何を考えていらっしゃるのかと。」 侍女は、真実に悪意を織り込みながら話をしているようだった。 時々あの嫌な感じの嘲笑が見えるから。 なぜだ。 なぜ……この侍女の態度が不快に感じる? 「誰が発言していいと許可をした? 勝手に喋るな、不愉快だ。」 「ひっ………!」 無意識に侍女を睨みつける。 敵意を剥き出しに。 私は氷の王という異名を持つ男だ。睨まれたら誰でも怖気付くだろう。 「王妃は私の妻だ。 お前如きが嘲笑できる相手ではない。 下がれ。」 「ひ、っ、大変失礼いたしました!」 気分を不愉快にさせた侍女が真っ青になって部屋を出て行った。 ふうっ、と溜息を吐いてふと周りを見渡す。 護衛兵に給仕達が皆一様に驚いたような顔をしていた。 その中でも、一番驚いていたのはランドルフのようだった。 陛下が王妃陛下を庇った……?という目をしていた。 確かにそうだ。 なぜ私は咄嗟に、あの女を庇ってしまったのだろうか?  ◇ 朝食後、日課の行政庁に向かう途中、太い円柱の柱が何十本と並んだ広々とした廊下でアデリナに出くわ

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     ここ数日、私は非常に怒っていた。 突然離婚宣言をしたあの夜、アデリナは本当にこれまで一緒に使っていた寝室を訪れなかった。 夜中に眠れずに侍女を捕まえると、アデリナは大人しく自室に一人で寝ているという。 あの時癇癪まで起こしたくせに一体何を考えているんだ?  さっぱり分からない。 分からないから困惑した。 あの女の真の狙いが何なのか見極められないから。 だが、きっとまたロクでもない事だろう。 また私に何か高価な物を買わせる作戦かも知れない。    だったらこちらはあの女の事をとことん無視してやる。  あの女の訳の分からない我儘に付き合う必要はどこにも……  ◇ 「陛下。今日、王妃陛下がご一緒に朝食を食べないと仰られていますが……」 翌日アデリナは、自らが決めた朝食を一緒に食べるという約束を破った。  言ってきたのは、アデリナのお気に入りの侍女ではなかった。 気まずそうに言ってきたこの女もまた、この国の貴族で王妃付きの侍女だ。  確か侯爵家の……名前は知らないが、髪は金色に近く、いつも派手な色の口紅をしている。 「そうか。分かった。」 口ではそう言いながら、またピリッとした怒りが胸の片隅に湧いた。 あの女は自分で決めた事も守れないのか? そんな私の態度に気づいたかは知らないが、侍女はまだ部屋から下がらず、ランドルフや他の給仕達がいる中、一歩前に足を進めた。 「本当に……王妃陛下はご自分でお決めになられた事すらも、守れぬお方なのですね。」 クスッとその女から嘲笑が聞こえた。 その瞬間……なぜか別物の怒りを覚える。 実はこれまでも何度か、専属侍女達のアデリナに対する態度が悪いという噂を耳にした事があった。 だけどその度にアデリナは、侍女の頭から酒をぶっかけたり、足を引っ掛けて廊下で転ばせたりしたのだと言う。 大人しくやられるだけの女ではなかった。

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     本来なら、この先数年後にローランドがリジーと不倫するからそれが一番の離婚事由なんだろうけど…さすがにまだ起きてもない事を理由に離婚するわけにはいかないし。 それに最悪、アデリナに生活能力も財産もなかったとしても……確か実の父親には溺愛されてたよね? だったら離婚したら実家に帰ればよくない? 実家暮らし駄目なの? なんか無いかな。 こう!って言う最もな離婚理由が! 「あ……これだ!王国法・王族の離婚に関する法律。 《第108条・伴侶に対し、精神的苦痛を与える、または著しく相手の尊厳を踏み躙るような行為をした場合。 傷つけた相手に罰金を支払い……》あ!罰金って慰謝料かな!」 ついに見つけた!大興奮して私は本を手にして席を立ち上がる。 「そうか!そうよね? 何もローランドの悪い部分を探す必要はない! 理由はアデリナでいい! だってアデリナは性悪妻だから! ねえ?ホイットニー! 逆にアデリナの悪事を理由に罰金を払ってローランドと円満離婚すればいいの……」 「ほお。………私に自ら罰金を払うと? それで私と離婚をすると?」 あれ?いつの間にホイットニーがあんなに遠くに? そしていつの間にローランドがそこに!? ◇ 睨み合う私とローランド。 図書室には隅に震えるように佇むホイットニーと、その横に(あんたもいつ来た?)澄ましたような顔をして立っているランドルフ。 すぐ隣には、私を敵のように睨みつけるローランドの姿。 サラッサラの薄水色にも見える銀の髪。 相変わらず丁寧に一本に纏められている。 鋭い目つき。口元のセクシーな黒子。 今日も無駄にくっそイケメン。 ピシッとした濃い緑色に、繊細な刺繍が施された上下服が似合ってる。

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     私が離婚宣言したって、いつもの事だと邪険にあしらわれたのだ。 誰にも本当は私がアデリナじゃないと気づかれない現状…… 裏にはお国同士のパワーバランス問題…… 今、私がバッドエンド回避に向けてできることは限られている。 それにローランドと円滑に離婚するにしても、冷静になって考えてみたら私はこの国の離婚や法律を、ほぼ何も知らない状態なのだ。 「アデリナ様は離婚について何をお調べになりたいのですか?」 だらしなく項垂れながら本を捲る私に、ホイットニーが背筋をピンと伸ばしたまま尋ねてくる。 「ええっとね……あのローランドに離婚を納得させる為には、法律による離婚事由で説得するのが一番早いでしょ?」 「離婚事由…ですか?」 「そう、例えばこの国の王族はどんな理由があれば離婚ができるのか。」 興味深そうに耳を傾けるホイットニーに私は丁寧に説明する。 「ローランドと単に性格が合わないから即離婚ができるのか、それともDVとかモラハラとか具体的な理由が必要なのか、とか。」 「でぃーぶい……もら、はら?」 ほぉっ、とホイットニーはそれを外国語のように復唱にする。 いや、可愛いな。ホイットニー。アデリナが側に置きたがっていた理由が分かる気がする。 「それに離婚時に財産分与はあるのか!ってのがポイントよ。 だって離婚が成立したら私は一人で生きていくわけでしょ? その時にお金がなければ生きていけないじゃない。 別に贅沢なんてしなくていいから、当面の生活ができるお金があればいいのよ。逆に全くお金がないと困るの! 結局、世の中お金なんだから」 豪語しといて、本当それ。 現実の私もさっさとクズ夫に見切りをつけて、慰謝料踏んだくれば良かった。 そもそもアデリナの私財ってどのくらいあるんだろう? 王妃ってお

  • 愛のために我が子を失った悲劇の王妃に憑依したみたいです。推しの息子と二人で幸せに暮らすため、夫はヒロインに差しあげます!   避けてるのに何で追ってくるんですか?

     特に侯爵家令嬢の金色の髪に派手な口紅してる侍女……セイディだっけ? あの女を中心に分かりやすくアデリナに悪意を向けてくるんだよね。 私アデリナじゃないのに(笑)。 あの人達も確か小説では、アデリナに酷い態度を取ってたはず。  まあ、かと言って大人しくやられてるアデリナではなかったけど。 侮辱されたら直接攻撃もアリ的な? 頭にきたら、具体的に相手の頭からお酒かけるとか。 とにかく性格が悪いだけあって、アデリナもぶっ飛んでるキャラだった。 まあ私には関係ない事だし、何言われても無視してるんだけど。 「ていうか……私アデリナじゃないし。」 ぶつぶつ言いながら、王族に関する分厚い国法の本をパラパラと捲る。 表紙はレリーフのような金縁で繊細に彩られていて、とても立派なものだった。 さすが王宮の図書室というだけあって、壁一面、さらには高い天井付近まで棚があって、どこも様々な本がびっしりと詰まっていた。 本当に小説の世界にいるんだなと思わずにいられない。 訳のわからない独り言を言う私を見て、側に控えているホイットニーが苦笑した。 「またまた。アデリナ様は本当にご冗談がお上手ですね。」 この子も、どうやら伯爵家のご令嬢らしい。 花嫁修行の一貫としてアデリナに仕えているんだとか。 そもそもアデリナ付きの侍女達は、全員が貴族の令嬢なのだそうだ。 一般人の下働きのメイド達とは違うみたい。 「だから〜私はアデリナじゃないって言ってるでしょ?」  自分が憑依者であり、本当はアデリナではないという事実をホイットニーに隠す気は全くなかった。 だがホイットニーは、相変わらず信じてくれない。 やっぱり顔がアデリナだと、中身が違うなんて事に気づく人はいないんだろうか。 まだホイットニー以外の人には秘密にしてるんだけど。  けど私がアデ

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