俊介の目が一瞬、深く沈んだ。
「どう言ったんだ?」
「ボロが出るのが怖くて……ミルク半分、砂糖半分って言いました」
その一言を聞いた瞬間、俊介は大きく息をついた。
佳奈は昔から鋭い。ほんの些細な違和感でもすぐに気づいてしまう。
もし今日、あのコーヒーがミルク三分、砂糖なしって知られていたら、彼の正体にもっと疑いを持たれていたかもしれない。
俊介は秘書に手を振って、部屋から出るように合図した。
一人椅子に座り、書類に記された佳奈のサインを見つめながら、指先でそっとその名前をなぞった。
声は限界までかすれていた。
「佳奈……俺はお前を守ってるんだ」
佳奈は階段を下りると、すぐに白石に電話をかけた。
相手はすぐに出た。
「佳奈、会談はうまくいったか?」
「順調よ。契約も済んだし、これからは証拠集めね。俊介のことを調べた時、何か変わったことは見つかった?」
白石は少し考えてから答えた。
「二年前、彼は交通事故に遭ったらしい。けっこう重傷だったみたいだけど、しばらく休んだ後に復帰して、それからZEROの社長に就任した。どうした?何か引っかかる?」
「ううん、ただ……なんとなく、どこかで会ったことがあるような気がして」
「気のせいでしょ。あいつは今まで一切表に出たことがない。今回が初めての登場で、会ったのもお前が初めてだ。つまり、何か目的があるってことだ」
「目的なんてどうでもいい。しばらく様子見ね。この案件、いくつかの財閥も絡んでるから、ついでにそっちの腹の中も探れるし」
「気をつけて動けよ。そうだ、高橋グループから招待状が届いた。周年記念パーティーに来てくれって。行くか?」
佳奈の冷ややかな瞳に、一瞬だけ深い光が宿った。
「行くわ」
「でも、智哉も来るわ。お二人を試すつもりかもしれない。下手したら、これは罠だ」
佳奈はふっと笑った。
「浩之は今、高橋グループの大株主よ。あいつが来るのは間違いない。ちょうど会いたいと思ってたところ」
そう言いながら、彼女はハンドルをぎゅっと握りしめた。
二年前、あんなに幸せだった家庭が一瞬で壊されたことを思い出すたび、胸の奥から怒りが湧き上がる。
子どもを失い、父も意識を失ったまま。
幸せだった結婚生活も、全て失った。
そのすべての元凶が浩之だった。彼女は、この悪魔のような男がどんな