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霞花怜
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Nobela ni 霞花怜

only/otherなキミとなら

only/otherなキミとなら

『WOは脳が求める本能の恋』 慶愛大学で講師を務める向井理玖はonlyであることを隠して仕事をしている。人付き合いは当たり障りなくと毎日を過ごす理玖だが、一つだけ楽しみにしていることがある。毎日午後二時、理玖の研究室に雑用のために来る事務員の空咲晴翔との何気ないやり取りは、理玖にとって心地が良い。 新年度が始まり晴翔との距離が縮まる中で、晴翔に抱き締められた理玖が大量のフェロモンを発してしまう事件が起きる。 本人たちも気が付かないうちに大きな問題に巻き込まれる理玖と晴翔。解決を追いかける先には、思いもよらない巨悪が待ち構えていた。 ※WOバースは作者の創作です。(オメガバースの派生です)
Basahin
Chapter: 第73話 かくれんぼサークル長の鈴木君
「向井先生、ですよね? すみません。迎えに行こうと思ったんですけど」 小走りに学生が駆け寄ってきた。「鈴木君? どうしたの?」 晴翔が向き直る。 名前から察するに、かくれんぼサークルのサークル長・鈴木圭だろうか。 國好が少しだけ理玖に寄ったから、きっとそうなんだろうと思った。「今日は助手の佐藤さんがお休みなので、僕がご案内するようにって言われていて。一階で待っていたんですが、すれ違っちゃったみたいです。すみません」 鈴木が申し訳なさそうに頭を下げる。「俺たちも早くに来ちゃったから、気にしなくていいよ」 晴翔が自分の腕時計を眺めながら労う。 約束の時間より十分近く早いから、すれ違っても仕方がないが。 学生にそんなことまでさせなくてもいいのに、と理玖は思う。(愛人を我が物顔で使う感じも、嫌いだ。そもそも学生の本分は勉学なのに) 午後二時は三限の真っ最中だ。 かくれんぼサークルのサークル長が話に参加してくれるなら、理玖としては有難い。だが、学生が優先すべきは講義だ。「鈴木君は、三限の講義はないの? 講義を休んでまで、折笠先生に付き合う必要はないよ」 折笠の言付で講義を休んだのなら言語道断だ。 ちょっとくらいは文句を言ってやろうという気になった。「水曜の午後は、講義を入れていません。出来るだけ折笠先生のお役に立ちたいので、僕がお願いして仕事をもらっているだけなんです。向井先生とのお話にも同席するよう言われています」 照れた顔で鈴木がおずおずと答える。 折笠への恋慕の強さ
Huling Na-update: 2025-07-15
Chapter: 第72話 違う国の王子様
 時計を確認した國好が立ち上がった。「そろそろ時間です。折笠准教授の研究室に行きましょう」 理玖の白衣の襟の裏に、栗花落が小さな盗聴器を付けた。「お話し中、俺は部屋の外で待機しています。何かあれば、突入します。向井先生や空咲さんが気が付かれた異常があれば、呼んでください」 一介の警備員が理玖たちと一緒に折笠の部屋に入り込んで話を聞くのは無理がある。妥当な方法だと思った。 第一研究棟の真後ろに第二研究棟が建っている。 古くて小さい第一研究棟の倍以上の横幅で八階まである。学生棟よりは古いらしいが、それでも第一研究棟に比べたら遥かに新しい。「難点は、学生棟を通らないと第二研究棟に行けない所だよね」 第一研究棟の通用口は、第一学生棟と繋がる一か所だけだ。その通用口を通って、第一学生棟から後ろの第二学生棟を経由し、第二研究棟に入らないと、折笠の研究室に辿り着かない。 近くに見えるのに遠い場所だ。「第一研究棟の一階の北側にある非常口から出ると、近いんですけどね」 晴翔が反対側を指さした。 第一研究棟の北側の非常口を出ると、第二研究棟の非常口が目の前にある。そこから入って階段を昇る方がずっと近い。 第一研究棟と第二研究棟の非常口は職員駐車場に隣接しているので、こっそり利用する職員も多い。その為、暗黙の内に夜間以外は開錠されている。「本来なら非常口は非常時以外、施錠されているべきだよ。通ってはいけない」 防犯の観点からも、日中の開錠はよろしくないと思う。 晴翔が理玖の顔を覗き込んだ。「あの非常口、呪いの研究室の真ん前ですもんね」 ぽそり
Huling Na-update: 2025-07-14
Chapter: 第71話 潜入の本音②
「立場としては、お二人と似たような感じっす。ただね、佐藤さんの方から、内密にしてくれって言われてるもんでね。特に向井先生にはバラすなってね」 栗花落が困った顔で苦笑する。「なんで、僕……。関わりたくないから?」 素朴な疑問だ。 普通に考えて、職を失う原因になった生徒と再会なんか、したくないだろう。今の自分を知られたくないとも、考えたかもしれない。「そうでは、ありません。満流は貴方を守るために折笠の助手に入った。貴方を疎んじたりはしていません」「僕を、守る……?」 理玖の呟きに、國好がはっとして、苦い顔をした。「國好さん、内密の意味」 栗花落が諦めた顔を向ける。 國好が息を飲んで顔を真っ赤にした。「佐藤さんは内緒にしてほしいんでしょうけど、俺と國好さん的には向井先生に佐藤さんの本当の気持ち、知ってほしいって思うんすよ。だから國好さん、中途半端な態度になっちゃって」 栗花落が國好の肩を叩いて慰めている。 國好が片手で頭を抱えている。 理玖は國好を見詰めた。 その視線を無視できなかったのか、國好が気まずそうに顔を上げた。「懲戒免職に、なってから。更生するまでの約束として、満流は親父の所に通っていました。私立探偵のような仕事を始めて、軌道に乗るまで、八年くらい。俺は、その頃からの友人で」 國好の顔が赤い。 何ともぎこちない話し方のせいで、余計に気持ちが籠って感じる。 歳が近い國好と佐藤が友人になるのは、あまり不思議ではないと思った。「向井先生の事件に関して、満流の口からは、ほとんど何も聞いていません。だけど、アイツがWO優先
Huling Na-update: 2025-07-13
Chapter: 第70話 潜入の本音①
 俯いていた晴翔が、思い出したように顔を上げた。「研究室に来る前に、事務に寄って聞いたんですが。積木君も父親の病院に入院しているって。二週間の休学申請が出ているそうです」 驚いた理玖とは裏腹に、國好と栗花落は訳知り顔をしている。「入院? 頭を打ったからかな。そういえば、僕が講堂を出た後のことをまだ、聞いていませんよね。佐藤さんと積木君は、どうなったんですか?」 積木はあの時、佐藤に思いっきり蹴り飛ばされて頭部を教壇に強打していたから、入院したとしても納得だが。佐藤は、どうなったのだろう。(というか、國好さんたちと、どういう関係なんだろう) 午前中は弁当窃盗から報告書事件、かくれんぼサークルの話でほとんど終わってしまった。 國好が、あからさまに理玖から目を逸らした。「積木大和は頭部を打撲する怪我をして一週間の入院だそうっすよ。都合が悪い事実が発覚した時の政治家や有名人ばりの雲隠れっすかねぇ」 RISEの存在を警察から隠すための時間稼ぎだろうか。 理玖が積木との会話を警察に話せば、任意の取り調べくらいはあるかもしれないが。「向井先生との会話だけでは、証拠不十分で逮捕には至れません。白石が持っていた違法な興奮剤の出所の特定と向井先生の事件で証拠が上がれば、引っ張れないこともないですが」 理玖は國好をじっと見詰めた。 さっきから國好に目を逸らされている気がする。「僕はまだ、積木君との会話の内容を國好さんにお伝えしていませんが」「協力者からの情報提供です」 早口で言葉を切ると、國好があからさまに顔を逸らして押し黙った。 あの状況での協力者など、佐藤満流以外にいないと思うのだ
Huling Na-update: 2025-07-13
Chapter: 第69話《5/14㈬》ティータイム
 國好たちが晴翔の入院先に見舞いに来た次の日は、水曜日だ。 折笠と午後二時に話をするアポを取っている。 國好と二人で行こうと思っていたら、午前中に退院した晴翔が大学に午後出勤してきた。(昨日、話に出なかったから、てっきり忘れていると思っていたのに) だから理玖もあえて、話題には出さなかったのに。「今日、退院したばかりなんだから、無理しないで家で休んでいいよ」 敢えて促してみる。 晴翔が、じっとりと理玖を|睨《ね》めつけた。「俺は忘れてませんから。ちゃんと考えてましたから。國好さんと二人だけでは行かせませんから」 どうやら、しっかり覚えていたらしい。 理玖が休めというのを見越して、晴翔も敢えて話題に出さなかったのだろうか。「というか、皆さんは何をしているんですか?」 晴翔が大変、怪訝な顔でテーブルを眺める。 二人掛けのソファに挟まれて置かれたテーブルの上には、籠に山盛りのクッキーが置いてある。 理玖と向かい合って、國好と栗花落が座っていた。「今日の午前中、僕は休みだったから、國好さんたちと一連の事件の擦り合わせをしていたんだよ」 本当なら理玖も昨日一日、療養休暇の予定だったが、火曜日の午前には二年生のWO講義が二限に入っている。だから休みを昨日の午後と今日の午前にずらした。「そうですか……。クッキーは理玖さんの手作りですか?」 一目で理玖の手作りと見抜く辺り、晴翔も慣れてきたなと思う。 昨日、晴翔の見舞いから帰っても何となく落ち着かなくて、気晴らしに作ったクッキーだった。
Huling Na-update: 2025-07-12
Chapter: 第68話 キスの熱
 國好と栗花落が帰ってから、晴翔が布団に転がって不貞腐れていた。「あんなの、狡いです。普通に格好良い。誰でも惚れる」 國好の話をしているんだろう。 跪いて手を握る様が、まるで物語に出てくる騎士のようではあったが。「確かに格好良かったけど……。晴翔君、國好さんに惚れちゃったの?」 理玖には確実にない要素だ。 そういう部分に晴翔も惚れるのだろうか。 ゴロンゴロンしていた晴翔が動きを止めた。「今のは一般論です。俺は惚れません」 晴翔の手が伸びてきて、理玖の顎を掴まえた。「理玖さんの、こういう顔が見られるなら、ちょっと許せる」 晴翔がニコリと笑む。「こういうって、どういう?」「俺が他の人に惚れたかもって思って、不安になる顔」 顔が近付いいて、唇が触れるだけのキスをする。 理玖を見詰める瞳が妖艶で、そっちの方が何倍もドキドキした。(國好さんは騎士《ナイト》系イケメンだったけど。晴翔君は晴翔君で王子様系イケメンだからな。僕は爽やか笑顔の王子様が好きらしい。……時々、ワンコ系だけど) 理玖の乙女脳が解析を始めた。 あざと可愛い系の栗花落といい、何とも個性的だなと思う。 自分が一番、没個性だと理玖は思った。「というか、積木君はどうなったんでしょうね。佐藤と一緒に講堂に置いてきちゃったんでしょう?」 晴翔の素朴な疑問を聞いて、理玖も思い出した。「そうだった。國好さんに聞き忘れちゃった。佐藤先生は警察の協力者かと思ってたん
Huling Na-update: 2025-07-11
仄暗い灯が迷子の二人を包むまで

仄暗い灯が迷子の二人を包むまで

【エブリスタ新星ファンタジーコンテスト ハッピーエンドBL 佳作受賞】 【Amazonkindle電子書籍販売中】 『俺は最強だよ。だから嫌なんだ』 ネットの求人広告からバイトの面接に行った大学四年生の瀬田直桜は後悔した。これは怪異に関わる仕事だ。バディを捜しているという化野護には告白まがいの発言をされる。鬼の末裔のくせに邪魅に憑かれている化野が気になって三カ月だけバディを組むことに。化野という男が気になり始める。 ※リバ・TS・NTR・フリー・凌辱・レイプなど物語の展開に合わせて雑多に出てくるBLです。ご注意ください※
Basahin
Chapter: 第51話 【R18】約束
 忍たちと最終的な打ち合わせを行い、警察庁を出た頃には外は既に暗かった。 律が送るというのを断って、護の運転で岩槻の自宅まで車で帰ってきた。久々に戻った事務所は、大して長くも住んでいないのに、懐かしささえ覚えた。「やっと帰ってきたって感じですね」 護の腕が伸びてきて、直桜を抱き寄せた。「二週間も直桜に触れられないのは、拷問でした」「ん……、俺も」 言いかけた言葉を飲み込む。 代わりに護の匂いを思いっきり吸い込んだ。 唇を指がなぞって、舌が誘うように舐め挙げる。無意識に口付けを受け入れて、口内が犯される。「んっ……、ふ……」 久しぶりの刺激が甘くて、声が否応なしに洩れる。(やばい、このままだと、流される) 名残惜しい唇を押しのけて、体を離した。「とりあえず、シャワー、浴びよ。俺、汗だくだから」「そうですね。今日は久しぶりに二人でゆっくり過ごしたいですし」 残念そうにしながらも、護が納得してくれた。 申し訳ない気持ちを抱きながらも、直桜は護を風呂に押し込んだ。〇●〇●〇「訓練、お疲れさまでした」 互いにシャワーを浴びてすっきりしたところで、乾杯する。 とはいえ、酒が入ると記憶が飛んでしまう直桜はノンアルコールで我慢する。「護、なんで眼鏡しているの? 視力、回復したんだよね?」 護は今現在も鬼の常態化を維持している。完全なる鬼化とは異なり、鬼の力を右手だけに集中する方法なのだという。その副産物として視力が戻り、体躯が少しだけ大きくなっている。「伊達眼鏡ですよ。その、眼鏡をかけていたほうが、直桜は見慣れているでしょうから」「眼鏡かけてる方が、俺の好みだからってこと?」  護の顔が赤らんでいるのは、酒のせいではなさそうだ。 直桜は息を吸い、静かに吐き出した。 立ち上がって
Huling Na-update: 2025-07-15
Chapter: 第50話 13課の生きる伝説
 剣人の手を握ってみて、呪具である刀そのものに憑りつかれているのだとすぐに分かった。(でも、不思議だ。白雪も健人も、刀に守られている? いや、まるで刀が相棒みたいに、二人に悪さしてない。これってやっぱり) 忍に視線を送る。 白雪の時と同じように頷いて、微笑まれた。(忍は13課の仲間を、すごく大事にしてるんだな。自分で自分を守れる強さを教えているんだ) 怪異に関わる以上、他者に守ってもらうだけでは限界がある。結局のところ、自分を一番に守れるのは自分だ。 そのためには自分が強くならねばならない。忍が直桜に施した訓練もそういう類のものだった。 改めて忍の優しさを垣間見た気分だった。「そろそろ飯にせんかのぅ。腹が減った。化野も、いい加減に回復したじゃろ」 梛木がサラダを食みながら声を掛けた。「もう食べてるだろ。神様ってご飯食べなくても平気なはずだけど」 呆れながら、席に着く。「惟神の神と違うて、質量のある顕現は疲労がたまる。神でも腹は減る」 梛木が卵焼きを頬張って至福の顔をした。 食事を始めながら、直桜は先ほど剣人が呟いた名前が気になっていた。「ねぇ、さっき剣人が話していた紗月って、どんな人? 13課の人?」 陽人からもあまり聞いたことがない名前だ。 不意に視線を感じて、剣人を振り返る。感動した顔で、直桜を見詰めいている。「あ、ごめん。呼び捨て、早かった? 白雪が白雪だから、つい」 言い訳すると、剣人がぶんぶんと首を振った。「いいです、そのま
Huling Na-update: 2025-07-14
Chapter: 第49話 狂犬と駄犬
 一通り食事の支度が済んだ頃、十二階から護たちが降りてきた。「何じゃ、過ごしやすそうな部屋じゃのぅ。こんな場所で訓練しておったのか?」 梛木が部屋の中を見回しながら呆れ顔をしている。 直桜はむしろ、その後ろを疲れた顔で付いて来た護の姿の方が気になった。ジャージ姿で髪を降ろしたまま眼鏡も掛けずに項垂れている。 その肩には枉津日神が乗っていた。よく見ると、護の後ろに直日神がいる。神力で支えてやっているようだった。「体を大きく使う激しい訓練ではないからな。そういう時は空間を変えていたが、基本はこの部屋だ」 梛木と話し始めた忍を通り越して、護に駆け寄る。「護、大丈夫? 梛木に酷い目に遭った?」「失礼な言い草じゃな。必要な訓練を施したにすぎぬ。軟弱な鬼よのぅ」 梛木の言葉には耳を貸さずに護の腕を取る。何となく、いつもより目線の位置が高く感じる。「大丈夫ですよ。ちょっと疲れただけです。神倉さんは、神様というか、私より鬼ですね」 護が疲弊した顔で笑って見せる。「眼鏡なくて見えるの? てか身長、高くなってない?」 一見しては普段の護だが、心なしか体付きも大きくなっている気がする。 梛木が得意げに腕を組んだ。「鬼の常態化じゃ。完全なる鬼化とは別に、平素から鬼の力を自在に使う訓練を施した。化野は元の体付きが華奢だからの。これくらいでちょうど良かろう」「鬼化すると視力が良くなるので眼鏡も必要ありませんし、便利なことも多いですよ」 ははは、と笑う護の顔に覇気がない。 相当に大変な訓練だったと想像できた。「大丈夫だ、直桜。吾の神力
Huling Na-update: 2025-07-13
Chapter: 第48話 卵焼き
 二週間と伝えられていた訓練期間はあっという間に過ぎて、気が付けば九月になっていた。 警察庁の地下十三階に籠りっきりでいると、時間も日付の感覚も鈍ってくる。 キッチンに立って食事の支度をしている忍の姿と体感的に、今は恐らく朝なんだろう。テーブルに頬杖をついて、朝食を作ってくれる忍の背中を、直桜はぼんやりと眺めていた。「調子はどうだ? 仕上がりは悪くないと思うが。体の変化に脳は順応しているか?」 コーヒーを差し出されて、受け取りながら頷く。「多分、大丈夫。思ったより馴染んでる。直日の神気も前より扱いやすくなったよ」「直桜と直日神の魂は、ほとんど融合している。直日神の神気は直桜の霊力そのものだ。今なら直日神が本気で神力を使っても直桜の体が壊れることはないだろう」 直桜の頭に手を置いて、忍が微かに笑んだ。 その顔を呆けて見上げる。(もっと早くに俺が本気でこの訓練をしていたら、もっと何かが違っていたのかな) 少なくとも十年前の呪詛事件に槐が関わることはなかったのかもしれない。未玖だって、呪詛にならずに済んだのかもしれない。 忍の手が直桜の頭を鷲掴みにした。「今だからこそ、成し得た。今の直桜でなければ、本気で俺の訓練を受ける気にはならなかっただろう。タイミングは大事だ。もしもの話を考えすぎるな」 手を離してキッチンに戻っていく忍の後姿を気まずい顔で見送る。(また考えを読まれた。あんなの、心を読んでるのと同じだ) 長く生きていると表情を見ただけで何を考えているかわかるものなのだろうか。自分がそれだけわかり易いのかと思うと、複雑な気持ちになる。「今の直桜だから出来ることも多い。十年前の、体が出来上がる前の幼い直桜では禍津
Huling Na-update: 2025-07-12
Chapter: 第47話 梛木の真意
 直桜と別れて12階に残った護は、不安を抱えていた。 小脇に抱えた犬のぬいぐるみの中に在る枉津日神と直日神に挟まれて、神倉梛木が目の前に立っている。(神様の密度が高すぎる。皆、高位の神すぎる) 全く落ち着かない。 オフィスのフロアのような空間の真ん中にある長椅子を梛木が指さす。その指をすぃと下に向けた。 座れという指示だろうと思い、素直に腰掛ける。隣に並んで直日神がちょこんと座った。護の手から離れた枉津日神も、反対側の隣に腰掛けたので、またもや挟まれた。「久しいのぅ、直日。この間は姿を見せもせんかったが。直桜と離れれば、顕現せざるを得ぬか」 ニタリと笑んで、梛木が直日神を見下す。「この間は必要ないと思うたのだ。だが、何やら不穏な気配を感じ取ったのでな。何より今日は、護にこの姿を覚えさせたかった」 直日神が隣に座る護に目配せする。 どう返事してよいかわからずに、軽く会釈をした。(髪が長くて声も優しいし中性的だが、顔立ちはどこか直桜に似ている。直桜をもっと大人にしたような) 直桜の姿で話したことが一度だけあるが、顕現した姿を見るのは初めてだ。「どうした? 吾の姿に見惚れたか?」 言い当てられて、顔が熱くなる。 咄嗟に目を逸らしたら、犬の枉津日神と目が合った。 可愛らしいぬいぐるみ姿が、今は癒しだなと思う。「なんだ、化野は直日と既に話しておったか」「以前に直桜の姿で一度だけです。姿を拝見するのは初めてですよ」「珍しいのぅ。滅多に人と話さぬ直日が、自分から話しかけたのか?」 枉津日神が護の足に手を掛けて前にのめる。
Huling Na-update: 2025-07-11
Chapter: 第46話 須能忍と特殊係13課
 何もなかった空間は、何時の間にかマンションの一室に変わっていた。それが同じフロアであることは、体感でわかった。「ねぇ、この空間がころころ変わるのって、梛木の空間術?」「いいや、俺が用途に合わせて変えている。梛木の術は空間を維持するだけだ。そうでないと、大変だろう」 ソファに座る直桜に、忍がコーヒーを手渡す。 何となく普通に受け取ってしまった。 コの字型のソファに、忍が普通に腰掛けて、直桜をじっと見詰めた。「……何?」 コーヒーを啜りながら、忍をじっとりとねめつける。 蛇のような真っ赤な目に見詰められると、身動きが取れないような気分になって、どうにも居心地が悪い。「中の上」「は?」 突然訳の分からないことを言われて、反射で感じの悪い声を出してしまった。「お前単身の今の霊力は、中の上だ。そこそこ使えなくもないが現場に出たら早い段階で死ぬだろうな、といったレベルだ」 大変失礼なことを言われている。 しかし、自覚している所なので何も言い返せない。 直桜は押し黙ったまま、またコーヒーを含んだ。「自身が持つ力の使い方、特に雷の使い方は良かった。水も使い方を考えればもっと良くなる。そのあたり、器用なようだから自身で考え得るだろう。得手不得手も心得ているようだが、機転が足りない。そこは経験不足だろうな」「つまり応用力と絶対的な霊力が足りないって言いたいワケ?」 忍が表情も変えずに頷いた。「ああ、そうだ。だが、応用力の方は今は必要ない。今上げるべくは絶対的な霊力だ。直日神に頼ることなく、どこまで自身を高められるか。それが今後のお前の命の長さに直結す
Huling Na-update: 2025-07-10
『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—

『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—

理化学研究所にblunderのレッテルを張られた被験体№28は、幽世の妖狐に餌として売られる。目の前で少年が喰われるのを見て、自分もあんな風に喰われるのだなと思った。紅と名乗った妖狐は№28に蒼という名を与えた。「君たちが喜ぶと魂が美味くなるから」と安心できる生活を与えてくれる紅を優しいと思い始める。今の生活が出来て痛い思いや辛い思いをせずに死ねるなら悪くないと思う蒼。しかし紅は蒼を特別扱いし「自分を愛してほしい」と話す。知らなかった温もりを与えてくれる紅に恋慕を抱き始める。蒼は紅を愛するために、紅への『好き』を探し始める。
Basahin
Chapter: 53.御披露目前の控室②
「やぁ、早かったね。良かったよ」 案の定、月詠見と日美子が待ち構えていた。 月詠見に会う時は、こういうパターンなんだなと、蒼愛は理解した。「御披露目の前に打ち合わせをしようと提案したのは、月詠見だろう。他の神々は、まだ来ていないかな」 どうやら月詠見と淤加美の間では、決まっていた打ち合わせらしい。 淤加美に問い掛けられた黒曜が、気まずい顔をした。「土ノ神、:須勢理(すぜり)様は既にお見えですぜ。御披露目の前に庭園の花の鑑賞と手入れがしたいとかで、お庭にいらっしゃいますよ」 黒曜が淤加美に向かい頭を下げる。「熱心だよねぇ。よっぽど:花|が気になるみたいだよ。黒曜が、かなり質問攻めにされたんだよね」 月詠見の目が、ちらりと黒曜に向いた。「蒼愛の蒼玉について、色彩の宝石ではないかと疑っているようでしたね。直接的な質問はされませんでしたが、あの様子だと、どこからか情報を得ているんじゃぁねぇかと」 心臓が、ざわりと鳴った。 隣に立つ紅優が手を握ってくれた。「やはり、蛇々でしょうか」 紅優の短い問いに、淤加美が考える様子で黙った。「他に洩れる可能性がねぇよなぁ。それに、須勢理様だけじゃねぇんですよ。昨日、お会いした火産霊様からも似たような質問をされましてね。須勢理様ほどしつこくはありませんでしたが、もしかすると一部には噂が広まっているのやもしれませんぜ」 黒曜の話に、怖さを感じた。 蛇々が紅優の屋敷を襲撃してきたのは、約一月前だ。 あの襲撃で、蒼愛は初めて霊能を使った。あの時、蒼玉の質を見抜かれていた可能性はある。  だが、あの時点では紅優と番になっていないから、色彩の宝石の質は出ていなかったはずだ。「紅優の屋敷の結界は並の妖怪では破れないだろ。それでも蛇々は入り込めるんだね」「探りを入れられてた可能性はある、か」 日美子と月詠見の言葉に、背筋が寒くなった。 番になった後の、黒曜との会話などを聞かれていたら、バレていても不思議ではない。
Huling Na-update: 2025-07-15
Chapter: 52.御披露目前の控室①
 淤加美の授業から二日の後、御披露目の日がやってきた。 日付の段取りや通達は総て淤加美が取り計らってくれたのだが、寄合の日と合わせたらしい。 水ノ宮に留まっている蒼愛と紅優は、淤加美の巫女たちに身支度から準備されていた。「なかなか似合っているよ、二人とも。やはり蒼玉の蒼愛には藍の着物が良く似合う」 整えた髪をなぞって、耳を撫でられた。 今日は蒼愛も紅優も藍色を主にした着物に藤色の羽織を着ていた。 足元にかけて藍から藤へのグラデーションが施された着物と藤の羽織の調和が美しい。 落ち着いた色味ながら流水の地紋が入っていて、御披露目には向いた着物なのだそうだ。「紅優も、思ったより私好みの着物が似合うね。いっそ紅優にも水の加護を与えようか?」「流石にそれは、:火産霊(ほむすび)様に申し訳が立ちませんので」 困った顔をする紅優に、淤加美が愉快そうに笑った。「冗談だよ。着物くらいじゃ火産霊は怒ったりしないだろうけど、加護を与えたりしたら怒り狂いそうだからね」「このように立派な着物を誂えていただきまして、ありがとうございます」 頭を下げようとする紅優の顔を、淤加美が両手で包み込んだ。「この際だから、はっきり言っておくけれどね。私は以前からお前を気に入っているんだよ。今は蒼愛の次だけれどね。蒼玉の番になったのだから、紅優も私のモノだ。忘れないようにね」「……え?」 紅優が本気で驚いている。疑いを隠しようもない声だ。 蒼愛としては、あまり意外でもなかった。 淤加美の加護を何度も受けている蒼愛は、その気持ちも感じ取っていたから。「紅優を手に入れる良い口実ができたよ。ねぇ、蒼愛」 同意を求められて、蒼愛は苦笑いするしかなかった。「有難いお言葉とは思いますが、このタイミングで念を押しますか」 何とも言えない顔をして、紅優が零した。「このタイミングだからだよ。いつでも私に頼りなさい、という話だ」 淤加美の笑みが色を変えた
Huling Na-update: 2025-07-15
Chapter: 51.創世の惟神クイナ④
「番になると、妖怪は食事が必要なくなる。それって、とっても大事な気がするんです。クイナがどんな気持ちでこの国を作ったのか、色彩の宝石を作ったのかわかれば、人間と妖怪はもっと、今より良い関係になれるんじゃないかって、思って」 自分の中に在る考えや思いを上手く言葉に出来なくて、もどかしい。 顔を上げたら、月詠見に頭を撫でられた。「そうか、そうか。蒼愛はやっぱり賢いな。賢いし、優しいね。どうして蒼愛が色彩の宝石なのか、わかった気がするよ」 賢いという言葉の後には、決まって不穏な言葉が続くのに、今日の月詠見の言葉は全部優しかった。「クイナがどんな気持ちだったのか、私にも仔細はわからない。けれど、良い国にするために力を貸してほしいと頼まれたのは事実だよ。人間と妖怪が、理を崩さずに、良い距離感で生きられるようにと、この幽世ができたんだ」「理を崩さずに……」 淤加美の言葉は難しくて蒼愛には充分には理解できなかった。 けれど、とても大事な話なんだと感じた。「もし興味があるのなら、書庫の本を読んでみるかい? この国の歴史や成り立ちが書かれた本や、この国に住む妖怪について書いてある本もある。蒼愛が知りたい真理が見つかるかもしれないよ」「良いんですか! 読みたいです!」 淤加美の提案に、蒼愛は一も二もなく食いついた。「あ……、でも僕、まだ読めない漢字も沢山あって。難しい本は、読めないと思います」「俺が一緒に読むから、大丈夫だよ。漢字の勉強にもなるよ」 紅優がくれた提案で、しゅんと丸まった背中が、ぴんと伸びた。「本当? 紅優、ありがとう。本が読めるのも漢字を覚えられるのも、すごく嬉しい」 まだ読んだことがない本を読めるのは、蒼愛にとって何よりの贅沢だ。 紅優の屋敷の書庫で、芯と本を読んでいた時も、とても楽しかった。 淤加美の書庫に行くのが楽しみで、とてもワクワクした。「蒼愛が本を読める時間を作ろうね。ただし、試練も受けてもらうよ。まずは神々への御披露目だ」
Huling Na-update: 2025-07-14
Chapter: 50.創世の惟神クイナ③
「妖怪もね、瑞穂国から出るのは自由だよ。現世側から入るには許可が必要だから、出る前に黒曜に通行手形を申請するんだ。:幽世(こちら)側から行く分にはそれ以外の縛りはないよ。現世側から入るのは、難しいけどね」 紅優の説明に、蒼愛は首を捻った。 現世側から瑞穂国に入っても、人間にメリットはない。 瘴気に中てられて死ぬか、妖怪に喰われて死ぬ。「現世から瑞穂国に移り住みたい妖怪がいたら、どうするの?」「その手のコンタクトを取る窓口が黒曜なんだよ。瑞穂国に入る妖怪や人間を調節している。それもまた、均衡を守るために必要な役割だね」 淤加美の話を聞いて、ニコの話を思い出した。 女は子を孕むから、人間の女は勝手に喰ってはいけないが、自由にもしない、と話していた。「前に、ニコに聞いたんだ。人間の女は幽閉されるって。現世に、戻すの?」 蒼愛の問いを聞いた紅優が返事を戸惑った。「人間は繁殖力が強いからねぇ。瑞穂国に人間の女を放ったら、一気に増えて第二の現世になる。それじゃぁ、瑞穂国が在る意味がない。だから、瑞穂国では人間を繁殖させるのは禁止なんだ。現世に戻す場合もあるけど、食料にする場合が多いかな。人間の女を主食にする妖怪も多いからね」 きっと月詠見は、皆が話しずらい説明をしてくれた。 この国では、それが普通で、珍しい話でもないんだろう。 人間の価値は食料か奴隷か番だと、前に紅優も話してくれた。「中央で管理して、孕ませない条件付きで卸すんだ。個人で現世から買うのも禁止されてる。黒曜の所に売られてきたり、間違って迷い込んできちゃった程度しかないから、数は少ないよ」 紅優は蒼愛に気を遣ってくれているんだろう。 確かに怖い話だと思う。 しかし蒼愛は、来てすぐに紅優におねだりした牛肉を思い出していた。(人間だけが喰われないのって、自然なのかな。喰われたくないけど、それはどんな生き物だって同じはずだ。クイナは、どんな風に考えたのかな) クイナがどんな思いでこの国を作り、色彩の宝石を作ったのか。 それが知れれば、色彩
Huling Na-update: 2025-07-14
Chapter: 49.創世の惟神クイナ②
「話を続けるよ。色彩の宝石はね、実のところ、総ての力を把握できていないんだ」 蒼愛は首を傾げた。「何せ、瑞穂国ができてすぐに盗まれちまってるからね。均衡を維持する以外にも、備わっている力があるんだろうが、わかってはいないのさ」 日美子は前にも、そんな風に教えてくれた。 「最初の色彩の宝石を作ったのは、誰なんですか?」 そういえばと、ふと疑問に思った。 存在した以上、誰かが作っているはずだ。「この幽世を作った現世の人間だよ。勿論、只の人間ではなくてね。神と強く結ばれた神のような力を持った人間、そういう人間を:惟神(かんながら)と呼ぶんだ。名はクイナといった。クイナは死んでしまったけれど、今の現世にも同じ神を内包する惟神の人間はいるんだよ」「惟神……」 淤加美の言葉を繰り返す。不思議な響きの言葉だと思った。 神様を背負う、神様のような人間。 そんな存在が現世にいるのが不思議だった。(理研で何度か妖怪は見たけど。神様に会ったのは、瑞穂国に来てからが初めてだ。現世にも、そういう存在がいたんだ。だからあの所長は、強い術者を作ろうなんて、本気で考えたのかな) 理研に居た頃、所長の安倍千晴がやろうとしていた実験を、蒼愛は馬鹿らしく感じていた。 それはもしかしたら、蒼愛が強い術者や神様を知らなかったからなのかもしれない。 そういう存在が実現すると知っていたから、安倍千晴は自分の手で、強い術者を作ろうと考えたのかもしれない。(今でも、違う意味で馬鹿らしいと思うし、腹が立つけど。今なら荒唐無稽な夢物語だとは思わない) 身勝手な理由で命を作り出し、殺し、捨てる。千晴の行為には今でも怒りが込み上げる。 ただ、憧れる気持ちは、理解できる気がした。(今の僕は、強くなりたいって思ってる。守る力が欲しいと思う。力を欲するって、こういう気持ちなんだ) 強い力が欲しいと願う気持ちは、危ういし怖いと少しだけ思った。「その、今でも現世にいる惟神の人間には、色彩の
Huling Na-update: 2025-07-13
Chapter: 48.創世の惟神クイナ①
 ケーキを食べてひとしきり楽しんだあとは、地図を広げての授業になった。 瑞穂国を知らない蒼愛へ、神様たちが色々教えてくれるらしい。 淤加美が広げてくれた地図は紅優が見せてくれたものより大きく、古いように感じた。「まずは瑞穂国の地形について教えよう。この国の地図を見るのは、初めてかい?」「月詠見様と日美子様の宮に行く前に、紅優が見せてくれて、説明してくれました」 大雑把な国の全体図と、神様の宮の場所は聞いた。 明るくて広い町や城がある場所の上空に日ノ宮があったり、暗がりの上に暗ノ宮があったりと、神々の宮の下の大地には、それぞれの属性に近い自然が広がる。 淤加美の水ノ宮の下には巨大な湖と大きな滝がある。「ならば、臍の場所も聞いたかい?」 淤加美に問われて、蒼愛は地図の中央付近の小さな社を指さした。「このお社の中に臍があって、そこに紅優の左目があるって。色彩の宝石の代わりに均衡を保っていると黒曜様に聞きました」 社は国のほぼ中央、暗がりの平野寄りに建っている。 臍と言っても真ん中じゃないんだなと思った。「瑞穂国の全体図はちゃんと理解できていそうだね。じゃぁ、均衡を守る役割が、具体的にどういうものかは、聞いている?」 首を傾げる蒼愛に、淤加美の目が紅優に向いた。「本当に話していなかったんだね」「すみません。話すタイミングがなくて」 言われてみれば、霊元が開いてから紅優と番になったり色彩の宝石の話があったりと盛りだくさんで、紅優の役割まで話が至らなかった。「僕が知らないことばかりで、他の話を説明してもらっていたから、聞けませんできた。ごめんなさい」 ぺこりと頭を下げる。 上がった頭を淤加美に撫でられた。「蒼愛にとっては初めての経験ばかりだ。現世とは勝手も違うだろう。知らねばならない事柄ばかりだから、仕方がないね」 蒼愛の場合、理研で過ごした生活が現世の総てだ。 きっと普通の現世とは違うのだろうと思う。 初めて知るという意味では、幽世
Huling Na-update: 2025-07-13
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