『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—

『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—

last update최신 업데이트 : 2025-08-14
에:  霞花怜참여
언어: Japanese
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理化学研究所にblunderのレッテルを張られた被験体№28は、幽世の妖狐に餌として売られる。目の前で少年が喰われるのを見て、自分もあんな風に喰われるのだなと思った。紅と名乗った妖狐は№28に蒼という名を与えた。「君たちが喜ぶと魂が美味くなるから」と安心できる生活を与えてくれる紅を優しいと思い始める。今の生活が出来て痛い思いや辛い思いをせずに死ねるなら悪くないと思う蒼。しかし紅は蒼を特別扱いし「自分を愛してほしい」と話す。知らなかった温もりを与えてくれる紅に恋慕を抱き始める。蒼は紅を愛するために、紅への『好き』を探し始める。

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1화

1. 人魂を喰う妖狐

 目の前に男が座っていた。

 多分、男なんだろうと思う。只、人間ではない。

 白い狐の面を顔の半分に被った男は、長い白髪で、白い着物を纏っていた。

 男の後ろに少年が二人、座っている。

 少年というには大人びた、かといって青年と呼べるほどの年齢でもなさそうに見えた。

 男に抱き付く一人の少年を撫でながら、こっちに視線を向けた。

 面のせいで正確な目線は解らないが、こっちを見ている気がする。

「……名前は?」

 短い問いかけに、首を捻った。

 №28 

 理化学研究所では、そう呼ばれていた。

 それ以外の呼称は、ない。

「二十八、です」

 仕方がないので、そう答えた。

 男が小さく息を吐いた。

「それは名ではないだろう。理研からくる子供らは皆、名を持たないね。君もか」

 知っているなら、聞かないでほしい。

 もう何度も理化学研究所から人間を買っている····らしいから、ある程度の事情なら知っていそうだが。

 男が顎を摩りながら、とっくりとこちらを眺める。

 観察している感じだ。

「こっちに、おいで」

 手招きされて、前に出た。

 人、一人分くらい空けて、前に立った。

「もっと近くだよ。俺が触れられるくらい、近くにおいで」

 更に手招きされて、移動に悩んだ。

 男に抱き付いている少年が足を投げ出している。

 そのせいで、これ以上、近づけない。

「紅《くれない》様ぁ、色《いろ》、もう眠いよ」

 首に腕を回して抱き付いていた少年が、ウトウトしながら目を擦る。

 年の頃、十二、三歳といった程度の少年だ。この子も、只の人間の気配とは違って感じた。

 よく見ると頭に大きな耳が付いている。尻には尻尾らしきものもある。

(髪の毛かと思ってたけど、違った。あの子も妖怪かな。てっきり、先に買われた理研の子供かと思ってた)

 後ろに控えている少年も、同じくらいの歳頃に見えるが、やはり同じように耳がある。

「紅様と早く一つになりたい。紅様と同じになりたい。いつもみたいに温かいの、欲しい」

 少年が、男の胸に顔を押し付ける。

 紅と呼ばれた男が、困った顔をした。

「色はもう、溶けてしまう時期だけど、いいの?」

「ぅん、溶けたいの」

 嬉しそうに頷く色という少年を、紅が眺める。

 その表情が、どこか悲しく映った。

「わかったよ。じゃぁ、沢山流し込んで、温かくしようか」

 紅が面を外した。

 色白で端正な顔立ちが顕わになる。

 何より、瞳の色に目を奪われた。

(紅……、血みたいに、真っ赤な、紅の瞳)

 理化学研究所で実験される時、折檻された時、何度も見てきた血の色だと思った。

「ん……」

 紅が色の額に自分の額をあてる。

 何かが流れ込んで、色の体がビクリと震えた。

 色の小さな体がほんのり光を帯びる。全身が喜んでいるように見えた。

「ぁ……、溶けちゃぅ、紅様、大好き……」

 恍惚な表情をした色の額に、紅が唇を押し付ける。

 色の体が発光して、体の輪郭が歪んだ。

「ありがとう、色」

 紅が色の額から何かを強く吸い上げた。 

 色の体が紅の口の中に吸い込まれて消えた。

(喰われた、んだ。魂が体ごと、あの男の中に、溶けたんだ)

 自分が見ていたのは紅という妖怪の食事風景だったのだと、ようやく理解した。

「……美味しかった」

 男がぺろりと、舌舐め擦りした。

「さぁ、おいで」

 紅が手を差し伸べた。

 怖い、という感情が確かに胸の中に膨らんだ。

 けれど、体は動いた。

 来いと命じられて逆らえば、もっと怖い目に遭う。

 それをこの体は、嫌というほど覚えている。

 差し伸べられた手に触れた自分の手は、震えてすらいなかった。

 怯えを悟られれば、折檻されるか、弄ばれる。

 感情は、表に出してはいけない。

 それもまた、体に沁み込んだ経験だった。

 乗せた手を掴んで、引き寄せられる。

 体が紅の目の前に屈んで、抱きつけそうなほどに近付いた。

「綺麗な髪だね。青色だ。現世《うつしよ》の日本では珍しい色だけど、染めたの?」

 紅の問いに、首を振った。

 実験的に霊元を移植されてから、黒かった髪と目が突然青くなった。

 その程度の変化はよくあるらしい。

 紅が、今度は目を覗き込んだ。

 大きな手が顔を包み込んで、親指が目尻をなぞった。

 酷く優しい手つきが、かえって怖かった。

「瞳も綺麗な青だね。君の名前は、蒼《あお》にしようか」

 静かに頷いた。

 初めてもらった名前らしい名前は、とても安直だけど、思った以上に嬉しかった。

「それじゃ、蒼。蒼も俺のモノになってもらうね。いいかな」

 確認なんて、無意味だ。

 この男は、金を出して自分を買っているのだから。

 一応、頷いて見せる。

 紅の顔が近付いて、額に口付けた。

 さっき、人間を丸呑みした唇が、自分の額に押し付けられている。

 背筋が寒くなるのと同じくらいに、体が熱くなって気持ちが良かった。

 生温かい舌が、額を舐める。

 押し付けられた唇から、何かが流れ込んでくる。

 紅の妖力らしいそれは、やけに温かかった。

「ぁ……、紅、様、熱い、です……」

 口が勝手に言葉を発する。

 何かが自分の中に入り込んで来たのだと思った。

 同時に、何かが出ていったのだと思った。

「蒼の霊力は、美味しいね。酔ってしまいそうだ。高い買い物をした甲斐があったよ」

 ちゅっとを額を吸い上げて、紅が唇を離した。

 真っ白な顔が、心なしか紅潮して見えた。

「次は、こっち。俺の一部になるために、口付けを交わすんだよ」

 紅の指が下唇を押した。

「はぃ、嬉しい、です……」

 何の戸惑いも躊躇いもなく、顔を近づける。

 唇が重なって、舌が絡まる。気持ちが善くて、力が抜ける。

 水音が響くたび、何かが流れ込んでくるのが分かった。

「上手だね、蒼。俺の妖力全部、しっかり飲み込んで」

 やんわりと顎を抑えられて、顔を上向かされる。

 反射的に口の中の何かを飲み下した。

 胸の中に、知らない感情が広がっていく。

「美味しい、です。もっと、ほしい」

 きっとこれが、この妖怪の妖術なのだろうと思った。

 今の自分は紅に心酔し、愛したいと思っている。

(何度も飲んだら、この気持ちを疑いもしなくなるんだろうな)

 こんな風に気持ち善くされて、何もわからない内に喰ってもらえるんだろうか。

 さっきの、色という少年のように。

(だったら、いいや。痛いのも辛いのも苦しいのもない内に、何もわからない死が迎えに来るなら、幸せだ)

 紅の手が頬をなぞるように撫でる。

 さっきと同じように、怖いくらいに優しい。

「これから、毎日あげるよ。蒼は、自分から欲しくなるからね」

 返事の代わりに、小さく頷く。

 紅の手が、視界を遮って、目の前が真っ暗になった。

 途端に強い眠気が襲う。

 紅の手の熱さを感じながら、促されるままに、ゆっくりと目を閉じた。

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t.terasawa092806
t.terasawa092806
異世界の物語が好きなのですが、神話も絡んで壮大な話になってきたら、止まらなくなりました。 紅優と蒼愛の人物像もとても好きです。 この続きを、ぜひお願いします。
2026-05-20 13:33:25
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109 챕터
1. 人魂を喰う妖狐
 目の前に男が座っていた。 多分、男なんだろうと思う。只、人間ではない。 白い狐の面を顔の半分に被った男は、長い白髪で、白い着物を纏っていた。 男の後ろに少年が二人、座っている。 少年というには大人びた、かといって青年と呼べるほどの年齢でもなさそうに見えた。 男に抱き付く一人の少年を撫でながら、こっちに視線を向けた。 面のせいで正確な目線は解らないが、こっちを見ている気がする。「……名前は?」 短い問いかけに、首を捻った。 №28  理化学研究所では、そう呼ばれていた。 それ以外の呼称は、ない。「二十八、です」 仕方がないので、そう答えた。 男が小さく息を吐いた。「それは名ではないだろう。理研からくる子供らは皆、名を持たないね。君もか」 知っているなら、聞かないでほしい。 もう何度も理化学研究所から人間を買っている御得意様らしいから、ある程度の事情なら知っていそうだが。 男が顎を摩りながら、とっくりとこちらを眺める。 観察している感じだ。「こっちに、おいで」 手招きされて、前に出た。 人、一人分くらい空けて、前に立った。「もっと近くだよ。俺が触れられるくらい、近くにおいで」 更に手招きされて、移動に悩んだ。 男に抱き付いている少年が足を投げ出している。 そのせいで、これ以上、近づけない。「紅《くれない》様ぁ、色《いろ》、もう眠いよ」 首に腕を回して抱き付いていた少年が、ウトウトしながら目を擦る。 年の頃、十二、三歳といった程度の少年だ。この子も、只の人間の気配とは違って感じた。 よく見ると頭に大きな耳が付いている。尻には尻尾らしきものもある。(髪の毛かと思ってたけど、違った。あの子も妖怪かな。てっきり、先に買われた理研の子供かと思ってた) 後ろに控えている少年も、同じくらいの歳頃に見えるが、やはり同じように耳がある。「紅様と早く一つになりたい。紅様と同じになりたい。いつもみたいに温かいの、欲しい」 少年が、男の胸に顔を押し付ける。 紅と呼ばれた男が、困った顔をした。「色はもう、溶けてしまう時期だけど、いいの?」「ぅん、溶けたいの」 嬉しそうに頷く色という少年を、紅が眺める。 その表情が、どこか悲しく映った。「わかったよ。じゃぁ、沢山流し込んで、温かくしようか」 紅が面を外した
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2. 心を殺したい少年
 国立理化学研究所。 日本でも最先端の科学実験が行われている、世界にも通用する研究機関だ。 だが、その一部では秘密裏に、非合法な実験が行われている。 少子化対策室と銘打った研究室では、非合法に体をいじられた被験体が日々、産まれている。 生殖能に特化した人間を生み出す傍らで行われているのは、霊元移植や霊能開発だ。 つまりはオカルトな能力を持った人間を作り出そうとしている訳だ。 なんとも馬鹿らしい話だと思うが、実際に霊能を持った人間は生まれている。 その子供たちはmasterpieceと呼ばれて特別扱いされている。 それ以外の子供はblunder、bugと分類される。 №28は最初、bugだった。 生殖能と共に霊能開発を進めているせいなのか、子供たちの霊能は性徴とともに変化する。第一次性徴で霊元が現れない子供は、ほとんどがblunderかbugだ。 霊元とは、霊力を生み出す人間の第二の魂のようなものらしい。 それがない時点で、理研にとってその子供はガラクタでしかない。 bugに分類された子供たちの末路は悲惨だ。 呪術の実験体、呪具の材料、幽世への売買。 名前どころか戸籍すらもらえない子供の命など、その辺の埃より軽いんだろう。 第二次性徴に合わせて、№28には再び実験が施された。 人工的に霊元を移植する実験だ。 一応、成功したらしい。だが、理研が期待したような成果ではなかったようだ。 霊元は根付いたが、霊力が多いだけで、使いこなせない。 何の術も使えない№28はblunderに分類された。 blunderなら名前と戸籍を貰えて、一般社会に出られる可能性がある。 少しは期待した。 だが、結局は幽世に売られた。『ウチの昔からの御得意様が、霊力の多い人間が欲しいらしい。お前は霊力が多いだけで何もできないんだから、お誂え向きだ。幽世で幸せにでもなるといい』 霊能開発室を奨めている所長の安倍千晴は、幽世との売買の中心人物でもある。 幽世に売られる人間は食料にされる。 そんなのは、理研の子供らにとって共通認識だった。(結局、喰われるのか) しかし、それでもいい気がした。 このまま理研にいても、殺される未来しかない。 足抜けを計った仲間は、ことごとく掴まってどこかに売ら
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3. 弔いの紙風船
 目が覚めたら、知らない天井が広がっていた。 ふかふかの敷布団の上で、温かすぎて汗をかきそうな羽毛布団がかかっている。(そっか、売られたんだっけ。その割に、やけに良い布団で寝ている) 和風の家屋の畳に敷かれた布団は、厚みがあり過ぎて体が沈む。 慣れない感覚に戸惑いながら、障子戸を開けた。 綺麗に晴れた空の下に、広い庭が広がる。 その中に、昨日の男がいた。(人間を喰っていた、僕を買った妖怪だ。紅、だっけ) 縁側に立つと、男が気付いてこちらを見た。「おはよう、蒼。昨日は眠れた?」(蒼……、そういえば、僕の名前だ) 昨日、紅という妖怪がくれた名前。 名前というものを初めてもらった。(自分を喰う妖怪がくれた名前でも、嬉しいものなんだな) それが自分を、自分だけを表す言葉なんだと思ったら、ちょっとだけ嬉しかった。 縁側から庭に降りて、紅に歩み寄った。「立派なお布団、ありがとうございました」 ぺこりと頭を下げる。 その頭を紅の大きな手が撫でた。(大きな手だけど、優しい。温かいな。そういえば昨日も、触れた手は酷く優しかった) あまりの優しさに、かえって驚いてしまった。「お礼は要らないよ。ここはもう、蒼の家だ。好きに過ごしていいんだよ。必要なものは揃えるから、欲しいものがあったら教えてね」 よくわからない話をされて、理解に苦しむ。「あの、僕は、貴方の食料として売られたと聞いてるんですが」「うん、そうだよ」 あまりにも普通に返事をされて、自分の言葉を後悔した。「昨日も見ただろ。俺が色を喰うところ。あれが俺の食事。俺の妖力をちょっとずつ流し込みながら、しばらくは生気だけ吸うの。俺の妖力が体内に増えるとね、人間の方から俺と同化したくなるから、そうなったら喰うんだ」 紅が、シャボン玉を吹きながら説明してくれた。 あまりに普通に話されて、どう返事をしたらいいか、わからない。(けど、色って子は痛そうでも辛そうでも、無かったよな) むしろあの顔は、気持ち良さそうに見えた。 だったら、怖くはないのかもしれない。「そうなるまで、大体、一月くらい。だけど、蒼は、ちょっと違うかな」 紅の手が蒼の顎を撫でた。「俺はね、本当は人の魂より、霊力の方が好きなんだ。霊元を持つ人間は霊力を量産できるし、すぐに喰い
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4. からくり人形
 蒼が起きたのは昼だったらしい。 他の子たちは済ませたからと、蒼にだけ別の昼餉が用意された。  広い和室の一角に洋風なテーブルが置かれていた。 「最近の現世の子はテーブルの方が楽みたいだから、揃えたんだ。正座とか慣れてないみたいだから。蒼もテーブルの方が楽? 畳の方が良ければ、座って膳でもいいよ」  食事する場所を選ぶなんて経験は、今までにない。 与えられた環境で、何より食えれば何でもよかった。 「テーブルで、大丈夫です」  目の前に並んだ豪華な食事に、蒼は唖然とした。 天ぷらや刺身、煮つけなど、食べきれないほどの量だ。 「とりあえず和食にしたけど、蒼は好物とかある? 栄養が偏らない程度になら、好きな食べ物を出すから、教えてね」  膳を前に呆然とする蒼を眺めて、紅が笑った。 「理研からくる子たちは、大体みんな、最初はそういう反応するんだよね。量が多すぎるとかだったら減らすけど、蒼も育ち盛りだから、それくらいは食べられるよね」  膳を眺め、紅の話を聞いて、ひらめいた。 (僕たちは餌だから、肥え太らせた方が美味いのか。魂とか霊元も食った方が育つのかな)  何となく納得して、箸を持ち、手を合わせた。 「い、いただきます」「召し上がれ」  紅が蒼を眺めているのが居心地が悪いが、とりあえず天ぷらに箸を伸ばした。 箸で持って重いと感じるようなエビの天ぷらなんか、人生で初めて出会った。 天つゆに浸して、ぱくりと頬張る。 噛むたびにぷりぷりした触感が歯を押し返してきて、驚いた。  蒼の顔を
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5. 餌仲間
 昼餉を終えると、部屋に案内された。 先に買われた子らがいる部屋だ。蒼にとっては餌仲間だ。  広々とした和室にいたのは、昨日、紅の後ろに控えていた少年二人だった。 「紅様~! もうすぐニコのお時間? いつもみたいに遊べる?」  少年が紅に抱き付く。 頭を撫でると、蒼に向き合った。 「新しいお友達だよ。蒼っていうんだ。仲良くしてね」  紅の腕の中で、少年がニコリと笑んだ。 「初めまして、ニコだよ。よろしくね、蒼」「うん、よろしく」  ニコと名乗った少年は、昨日喰われた色と同じくらいの年齢に見えた。 色白で白髪、紅と似ている。 耳も尻尾も生えているから、紅の妖術で体が変化しているのだろう。 長く術にかかっているのだろうと思った。 「で、彼が芯だよ。理研から来た子で、十六歳。蒼の一つ年上だよ」  芯が蒼を見詰めて、ぺこりと頭を下げた。 彼には見覚えがあった。 理研の同じ施設で生活していたと思う。 「蒼、です。よろしく」  二人の様子を眺めると、紅がニコを抱いて立ち上がった。 「じゃぁ、俺はニコと遊んでくるから、それまで芯に色々教えてもらってね。芯、頼むね」  芯が、ぺこりと頭を下げる。 紅がニコを抱いてその場を去った。  芯と二人きりになり、何となく気まずい。 蒼をじっと見詰めていた芯が、部屋の中に入って、ごろりと寝転がった。 「適当に楽にしてろよ。屋敷の中の案内とか必要なら、するけど?」
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6. 優しい温もり
 数時間後、ニコが戻ってきた。 入れ替わりに芯が呼ばれて、紅の部屋に入っていった。 ニコが屋敷の案内をしてくれているうちに、夕餉の時間になった。 「わぁ! お肉だぁ!」  昼餉と同じ部屋に通されると、既に支度が整っていた。 かなりぶ厚くて大きなステーキが皿に載っている。 あまりの光景に偽物かと疑った。 「紅様、俺、肉よりもっと、紅様と遊びたい……」  蕩けた顔をさせた芯が紅に抱き付いている。 紅に心酔しきったその顔は、昼間に逃げる算段をしていた芯と同じ人間とは思えなかった。 (紅様の妖術が効いてるんだ。あんなに変わるんだな)  蒼が昨日、キスされた直後も、紅への強い恋慕があった。 寝て起きたら、昨日ほど強い気持ちではなくなっていた。 強くなったり弱くなったりの波を繰り返しながら、安定していくんだろう。 ニコは既に安定して紅を好いている様子だ。 「ダメだよ、芯。ご飯はちゃんと食べないとね。俺とはまた明日、遊ぼう」  紅が芯に口付ける。 何かを流し込んでいるように見えた。 芯が紅から、すっと離れて席に着いた。 「いただきま~す」  ニコが嬉しそうに肉を頬張っている。 「うわぁ、うめぇ……」  我に返った様子の芯が感動して肉にがっついていた。 「紅様は、食事はされないんですか?」  何気なく問うと、紅が頷いた。 「人と同じ食事は、俺には必要ないからね。俺は君たちが食べてる姿を見ているのが好き
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7. 万華鏡
 目が覚めたら、紅の腕の中で眠っていた。 背中にぴったりと体を添わせて、後ろから抱き締められていた。 (え? うそ。本当に一緒に寝ちゃったんだ) 「一緒に寝るよ」とは言われたし、布団に入った覚えもあるが。 (キスして霊力を吸われたけど、それ以上は喰われてないよな)  キスされて気持ち悦くなった記憶しかない。 それ以降は、温かくて眠ってしまった気がする。 (たったあれだけで足りるのかな。僕の前にニコと芯を喰ったから、お腹いっぱいになったのかな)  喰われたからといって、特に体調も悪くない。 むしろ気持ち良かったな、くらいだ。 (やっぱり、紅様に喰われても痛くも苦しくもないんだ。良かった。最期に喰う時も気持ち悦くしてもらおう)  死ぬ瞬間まで気持ちが悦いなら、死ぬのも幾分か怖くなくなる。  紅の手が、蒼の肩を掴んだ。 体が大きい紅に抱き締められると、小さい蒼はすっぽりと収まってしまう。 今は体の前で腕がクロスしている。羽交い絞めにされている気分だ。  肩に掛かった紅の手をそっと握る。 やはり、温かい。 (大きくて温かい、優しい手。こんな風に触れてくれる相手が、僕の人生に現れるなんて、思ってなかった)  たとえ餌だとしても、喰いきるまでの短い夢だとしても。 温もりがどんなものか知れただけで、嬉しかった。 「おはよう、蒼」  耳元で囁かれた。 息が掛かって擽ったい。ゾクゾクして、肩が震えた。 「お、おはようございます、紅様」
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8. 一日一個の約束
 結局、蒼が起きたのは次の日の朝だった。 同じように紅の腕の中で目覚めて、紅が教えてくれた。 「蒼は自分の霊力を体の外に出したのが、初めてだったんじゃないかな。慣れないと放出するだけで人は相当に疲れるんだよ。目が覚めて良かった」  紅が強く蒼を抱きすくめる。 「起きない人もいるんですか?」「いるよ。寝続けてそのまま死んじゃう人もいる。蒼は大丈夫だろうと思ってたけど、なかなか起きないから、少しだけ不安になったよ」  そんな話は初めて聞いた。 そもそも自分の霊元も霊力についても、詳しい話を理研にされていないから、知らなくて当然だ。 使い物にならない被験体の霊力なんか、理研にとってはどうでもいいんだろう。 (寝たままいつの間にか死ぬのも、辛くはなさそう。それも、いいかもしれない)  ちらりと、紅を窺う。 (僕が死んだら、紅様は悲しいだろうか)  何気なく浮かんだ疑問を、自分で否定した。 (そんな訳ないか。僕は喰うために買われた餌なんだから。紅様にとってはいずれ失う命だ。でも……)  眠る前にしていた話を思い出す。 (紅様は、どれくらい長く僕を喰うつもりなんだろう。聞きたいけど、ちょっと怖い)  命の期限を知るのは、怖い。 そう考えて、驚いた。 (僕、死ぬの怖くなった、のかな。紅様の元で、ちょっと良い暮らしをさせてもらって、それが続くかもって思っただけで、死にたくなくなったのかな)  芯が話していたのは、こういう気持ちなのかもしれない。 「蒼、動けそうなら、お風呂入ろうか
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9. みんなでお風呂
 朝食をとった後、蒼は本当に紅と一緒に風呂に入った。 ヒノキの浴槽は床を掘り込んで作ってある。 洗い場もヒノキの板が敷き詰められていて、香りだけでも癒される。 浴槽も洗い場も、全体的に広くて、清潔感が漂っていた。 (やっぱり理研の共同浴場とは違うよな。基本、シャワールームだったし)  理研ではシャワーや風呂は、清潔を保つ意味合いしかなかった。 実験の前後や売られる前に入念に洗われる程度で、普段は毎日入る習慣もなかった。 「風呂って気持ちいいんだなぁって、ここに来て初めて知ったよ、俺」  先に湯船に浸かっていた芯がしみじみ話す。 「そうだよね。理研じゃ三日に一回くらいしか入らなかったし。僕もお風呂、好きになれそう」  紅が蒼の頭をもしゃもしゃ洗って、湯桶でざばっとお湯をかけた。 「ニコもお風呂好きぃ。紅様と入るのが好きぃ」  湯船の中でニコが紅に向かいニコニコしている。 「俺も、ニコや皆と風呂に入るのが好きだよ」  今度は蒼の体を洗いながら、紅がニコに笑いかけた。 「あの、自分で洗えますから、大丈夫ですよ」  おずおずと申し出るも、紅に首を振られてしまった。 「本当は最初に俺が洗ってあげてるんだけど、蒼は初回を逃したからね」  確かに最初に風呂に入った時は自分で洗った。 「皆、洗ってもらったの?」  湯船に浸かる芯とニコを振り返る。 二人が普通に頷いた。 「ニコも洗ってもらったよ。紅
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10. ニコとあやとり
 風呂の一件から三日ほど、蒼には自由な時間が出来た。 『芯に聞いたんだ。風呂で蒼に嫌なコト言っちゃったって。しばらくは芯を愛してあげるから、添い寝はまた今度ね』  安心と同時にどうしようもなく不安になった。 また芯が紅の妖術に深く犯されれば、元の芯に戻れなくなる。 『でも蒼も、一日一回は俺とキスね。その時に約束したお願いの話を聞かせてね』  紅の妖術は蒼にはあまり効果が出ていないようだった。 むしろ一日一回のキスは霊力を放出するために必要らしい。 (本心で愛してほしいって言われたし、妖術で心を操ったりする気はないのかな)  いっそ芯と同じように、妖術で操ってくれたら楽だと思った。 今の心境で、本心から紅を愛せる自信がない。 芯の変化を目の当たりにしてから、紅への漠然とした恐怖が消えない。 それが紅自身に対してなのか、紅の妖術に対してなのかは、わからない。 (芯にとって一番良い方法って、何なのかな)  喰われる現実を回避できないのなら、きっと今のままがいい。 幸せな気持ちで死ねる方がいい。 けれどもし、生きるという選択肢があるのなら、今の芯の状態は幸せではない。 (怖いけど、思い切って紅様に相談してみようかな。芯の分まで僕の霊力を食べてもらえれば、逃がしてもらえるかもしれない)  芯が言う通り、蒼の霊力が普通の人間三人分程度あるのなら、蒼が一人いれば紅が餓死する危惧はない。 (お金出して買ってる人間だし、やっぱり無理かな)  人間の相場がいくらなのか知らないが、きっと安くないだろう。 高い金を出して買った人間を只で逃がすとも思えない。
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