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53.御披露目前の控室②

Author: 霞花怜
last update Huling Na-update: 2025-07-15 19:00:09

「やぁ、早かったね。良かったよ」

 案の定、月詠見と日美子が待ち構えていた。

 月詠見に会う時は、こういうパターンなんだなと、蒼愛は理解した。

「御披露目の前に打ち合わせをしようと提案したのは、月詠見だろう。他の神々は、まだ来ていないかな」

 どうやら月詠見と淤加美の間では、決まっていた打ち合わせらしい。

 淤加美に問い掛けられた黒曜が、気まずい顔をした。

「土ノ神、:須勢理(すぜり)様は既にお見えですぜ。御披露目の前に庭園の花の鑑賞と手入れがしたいとかで、お庭にいらっしゃいますよ」

 黒曜が淤加美に向かい頭を下げる。

「熱心だよねぇ。よっぽど:花|が気になるみたいだよ。黒曜が、かなり質問攻めにされたんだよね」

 月詠見の目が、ちらりと黒曜に向いた。

「蒼愛の蒼玉について、色彩の宝石ではないかと疑っているようでしたね。直接的な質問はされませんでしたが、あの様子だと、どこからか情報を得ているんじゃぁねぇかと」

 心臓が、ざわりと鳴った。

 隣に立つ紅優が手を握ってくれた。

「やはり、蛇々でしょうか」

 紅優の短い問いに、淤加美が考える様子で黙った。

「他に洩れる可能性がねぇよなぁ。それに、須勢理様だけじゃねぇんですよ。昨日、お会いした火産霊様からも似たような質問をされましてね。須勢理様ほどしつこくはありませんでしたが、もしかすると一部には噂が広まっているのやもしれませんぜ」

 黒曜の話に、怖さを感じた。

 蛇々が紅優の屋敷を襲撃してきたのは、約一月前だ。

 あの襲撃で、蒼愛は初めて霊能を使った。あの時、蒼玉の質を見抜かれていた可能性はある。

 だが、あの時点では紅優と番になっていないから、色彩の宝石の質は出ていなかったはずだ。

「紅優の屋敷の結界は並の妖怪では破れないだろ。それでも蛇々は入り込めるんだね」

「探りを入れられてた可能性はある、か」

 日美子と月詠見の言葉に、背筋が寒くなった。

 番になった後の、黒曜との会話などを聞かれていたら、バレていても不思議ではない。
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     ケーキを食べてひとしきり楽しんだあとは、地図を広げての授業になった。 瑞穂国を知らない蒼愛へ、神様たちが色々教えてくれるらしい。 淤加美が広げてくれた地図は紅優が見せてくれたものより大きく、古いように感じた。「まずは瑞穂国の地形について教えよう。この国の地図を見るのは、初めてかい?」「月詠見様と日美子様の宮に行く前に、紅優が見せてくれて、説明してくれました」 大雑把な国の全体図と、神様の宮の場所は聞いた。 明るくて広い町や城がある場所の上空に日ノ宮があったり、暗がりの上に暗ノ宮があったりと、神々の宮の下の大地には、それぞれの属性に近い自然が広がる。 淤加美の水ノ宮の下には巨大な湖と大きな滝がある。「ならば、臍の場所も聞いたかい?」 淤加美に問われて、蒼愛は地図の中央付近の小さな社を指さした。「このお社の中に臍があって、そこに紅優の左目があるって。色彩の宝石の代わりに均衡を保っていると黒曜様に聞きました」 社は国のほぼ中央、暗がりの平野寄りに建っている。 臍と言っても真ん中じゃないんだなと思った。「瑞穂国の全体図はちゃんと理解できていそうだね。じゃぁ、均衡を守る役割が、具体的にどういうものかは、聞いている?」 首を傾げる蒼愛に、淤加美の目が紅優に向いた。「本当に話していなかったんだね」「すみません。話すタイミングがなくて」 言われてみれば、霊元が開いてから紅優と番になったり色彩の宝石の話があったりと盛りだくさんで、紅優の役割まで話が至らなかった。「僕が知らないことばかりで、他の話を説明してもらっていたから、聞けませんできた。ごめんなさい」 ぺこりと頭を下げる。 上がった頭を淤加美に撫でられた。「蒼愛にとっては初めての経験ばかりだ。現世とは勝手も違うだろう。知らねばならない事柄ばかりだから、仕方がないね」 蒼愛の場合、理研で過ごした生活が現世の総てだ。 きっと普通の現世とは違うのだろうと思う。 初めて知るという意味では、幽世

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