Chapter: 第3話翌日。僕は、本宮さんからもらったブレスレットをバッグに忍び込ませて登校した。アクセサリー類は、基本的に着用禁止だ。でも、バッグの中にしまっておく分には何も言われない。抜き打ち検査で見つかる可能性もあるけれど、それは例外中の例外だ。 ブレスレットをバッグに入れたのは、本当になんとなくだ。無意識のうちに、本宮さんの存在を求めていたのかもしれない。 「優樹。何か、いいことあったろ?」 昼休み、持参した弁当を教室で食べていると、僕の対面で弁当を食べている茶髪の男子生徒にたずねられた。僕の親友である渋井遼だ。遼は、何かを確信しているような口ぶりだった。 「何で?」 「いや、朝からずっとにやけてたからさ」 「え!? そんなに?」 僕は、慌てて自分のほほに手をあてる。赤くなっているのか、いつもより熱い。 「もしかして、昨日、本宮さんとデートにでも行ったとか?」 遼はそう言って、にまにまと笑みを浮かべる。 「何で知ってんの!?」 一発で当てられてしまい、僕は驚いてしまった。 1年前、本宮さんに告白された僕は、どうすればいいかわからなくて遼に相談した。結果的には、自分に正直になれと言われたけれど、一緒に悩んでくれた。そういうこともあって、遼は僕と本宮さんがつきあっていることを知っているのだ。 でも、昨日のデートのことはまったく話していない。どうして知っているのだろう。 「マジかよ。カマかけただけなのに。で? どこ行ったんだよ?」 さっさと白状してしまえとばかりに、遼が詰め寄ってくる。 「実は、隣町のアウトレットモールに……」 照れながらも、僕は正直に答えた。 洋服店に立ち寄っていろいろな服を試着したことや、本宮さんがどんな服でも似合うことなども話した。 「いいね、ショッピングデート! 俺も行きたいなー」 「遼が買いそうな服、何かあったかな?」 昨日行った店を思い出し
最終更新日: 2025-06-13
Chapter: 第2話「んーー! 美味いー!」ほほが緩んで、思わず声がもれる。「そっか、ならよかった」と、優しく微笑む本宮さん。その笑顔にまたドキッとして、僕は反射的に本宮さんから視線をはずした。「別に恥ずかしいことじゃねえだろ? 俺だって、美味いものは美味いって言うぜ?」苦笑する本宮さんに、そうだけれどと反論しかけて言葉を飲み込んだ。本宮さんの笑顔にドキッとしたなんて、まだ恥ずかしくて言えない。『好き』という言葉ですら、いまだに言えていないのだ。* * * *パンケーキを堪能した僕たちは、食後のコーヒーで喉を潤していた。とは言っても、僕はブラックコーヒーが苦手だ。なので、角砂糖を2個ほど入れている。「美味しかったー! 本当に来てよかったよ。ありがとう、本宮さん」と、素直に感謝を伝えると、本宮さんはまた少年のような笑顔を浮かべた。「そう言ってもらえると、誘ったこっちとしてもうれしいぜ。この後、他の店でも見てみるか?」「うん! あ、でもその前に……」そう言って、僕はショルダーバッグの中からラッピングされた小さな箱を取り出した。昨日買った、本宮さんへのプレゼントだ。「はい、これ。誕生日おめでとう!」と、シンプルなラッピングがされたプレゼントを差し出す。「ありがとう……! まさか、もらえるとは思ってなかったから、すごくうれしいよ!」そう言って受け取った本宮さんが、さっそく開けていいかとたずねた。もちろんと、僕は大きくうなずいた。期待と不安が、心の中で渦巻いている。本宮さんがラッピングを取ると、黒い箱が現れる。それを開けると、紫色と黒色のレザーが編み込まれたブレスレットが入っていた。それを見た本宮さんはにんまりして、「……いいじゃん」と、一言だけつぶやいた。その一言で、僕はものすごくホッとした。気に入ってもらえたようでよかった。「優樹、ありがとな。でもこれ、高かったんじゃねえか?」「ううん。予算内で収まる金
最終更新日: 2025-06-12
Chapter: 第1話(えっと……どれにしようかな?)僕は、目の前に並んでいるブレスレットを見ながらとても悩んでいた。自分用に買うのなら、こんなに悩むことはない。直感でこれっていうものを選べばいいのだから。でも、今日買うものは、誕生日のプレゼントだ。それも恋人への。(本宮さん、どんなのが好きなんだろ?)考えながら、本宮さんを思い浮かべる。普段からアクセサリーはしているけれど、ピアスだけだったような気がする。それも、ピアス穴が開いているのは、左だけだったような……。だから、ピアスは却下。大抵のピアスは、左右そろって販売されていることが多いからだ。チョーカーとかネックレスは、デザインが豊富だから、人によって好みの振り幅が大きい。僕がプレゼントしたものが、もし、本宮さんの好みじゃなかったらなんて考えると、怖くてとても選べない。その点、ブレスレットなら、ある程度デザインは似通ってくるだろうと思った。だから、こうしてブレスレットが並ぶ棚を見ているのだけれど、正直なところ、本宮さんが好きそうなデザインがまったくわからない。本宮さんと知り合って1年しか経っていないから、彼のことをあまり知らないというのもあるのかもしれない。1年前、僕は初めて学校の中間テストで赤点を取ってしまった。高校に入って初めての中間テストということで、変に緊張していたのだと思う。思うように問題が解けず、白紙に近いまま答案用紙を出した。その結果が、クラス唯一の赤点だった。クラスメイトや先生は、気を遣って慰めてくれたけれど、親には――とくに母さんにはこっぴどく叱られてしまった。わからなくても何か書いておけば、どうにかなったかもしれないのにと。テスト中の僕は、頭が真っ白になって、そんなことなんか考えられなかった。小学生の時も中学生の時も、問題文をちゃんと読めば理解できたし、答えも考えれば浮かんできたのに。中間テストの結果が出てすぐに、母さんが家庭教師を雇った。赤点を取った僕を案じてのことだったらしい。そして、この家庭教師というのが、本宮昌義さんだ。僕より背が高くて、体格がいい。ワイルド系の顔立ちで見た目はちょっと近寄りがたいけれど、とても優しくて勉強の教え方が上手い。学校の授業で理解できなかったところが、本宮さんの解説でちゃんと理解できたなんてことが、数多くあるくらいだ。そんな本宮さんは、どうやら僕が好きなタイ
最終更新日: 2025-06-11