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煉彩
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Novels by 煉彩

この愛を止めてください

この愛を止めてください

雨宮 くるみ には、付き合ってもうすぐ三年になる彼氏、近藤 大和 が社内にいた。 婚約を結んでいるにも関わらず、一向に結婚の話が進展する気配がなく、彼女は日々悩んでおりーー。 そんな中、龍ヶ崎 海斗 という他企業から出向してきた男性がくるみの部署の部長になることに。 くるみと海斗が出逢ったのは初めてではなく、十年以上前の苦い思い出が二人の心の中に残っていた。   思わぬ再開を果たした二人に訪れる未来とはーー? たった一年間の偽装彼女のはずだったのに……。 愛が重すぎじゃありませんか? ※イラストの無断転用・転載は禁止です。
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Chapter: 溺愛デート 2 <番外編>
「うん。いいよ」  二人で海斗の部屋へ帰宅することになった。「先にお風呂でも入っておいで?なんか映画でも見ようか。準備しておくよ」「うん」 言われるがまま、シャワーを浴び、海斗の洋服をかりた。 同じマンションだから、帰れば自分の服はあるのに。少し大きい海斗のTシャツとハーフパンツにドキッとしてしまう。「先にシャワーありがとう。海斗もどうぞ」  タオルを羽織っている私の姿を見て、一瞬海斗の動きが止まった。「うん。じゃあ、行ってくる」 しばらくして、海斗が戻ってきた。 まだ濡れている髪の毛が色っぽい。 本当にこんな人が私の彼氏……《《役》》なんだ。 私以外にも適任がいっぱいいそうなのに。 はずかしくて海斗を直視することができない。「わたしっ!なんか飲み物持ってくるねっ!」 喉なんて乾いていないのに、雰囲気に馴染むことができず、急に立ち上がった。「あっ」 慣れていない海斗の部屋、机に足をぶつけてしまい、よろけてしまった。「くるみっ!」 転びそうになったところを海斗に腕を引かれ、反動でベッドに二人で倒れこんだ。「あ、ごめん」 海斗の上に倒れかかった私は、すぐに退こうとした。 がーー。「ダメ。離さない」 海斗にギュッと抱きしめられる。「えっ、重いから。離して」 こんなゼロ距離、耐えられない。 お風呂上りの良い匂いがするし、彼の体温を感じた。心臓の音が煩くなる。「キスしてくれたら、離してあげる」 私の耳元から聞こえた彼の声にゾクっとしてしまった。 海斗とは一線を超えてしまってはいるけれど、そんなことを続けていたら彼からどんどん離れられなくなる。「キスしてくれないとずっとこのままだからね」 フッと笑う海斗、どことなく楽しそうだった。 私のこと、からかっているんだ。「わかった」 観念した私は、顔をあげ、海斗の頬にキスをした。「はいっ!キスしたから離し……」 海斗に目線を合わせた時「んっ……」 海斗からキスをされた。「んんっ……」 これは普通のキスではない。「はぁっ」 海斗の舌が絡まって、離れる度に吐息が漏れる。「ちょっ……」「くるみに隙がありすぎて、心配になった。俺のくるみだってことをわからせて?」 どういうこと……? キスが激しい。リップ音が室内に響く。「私は、海斗のだからっ」
Last Updated: 2025-08-15
Chapter: 溺愛デート 1 <番外編>
 マンションのエントランスで待ち合わせをして、海斗《彼》を待っている。 彼と言っても「《《本当の彼氏》》」ではない。契約で結ばれている、愛のない偽りの関係。    だけど、偽りの関係なんかじゃないと思う瞬間が多く、私は戸惑っている。  なんせ彼氏の「海斗」は、私に対してとても甘い。  偽装彼女だから、そんなに気を遣わなくてもいいのに。「くるみ、お待たせ」「ううん。私も今来たところ」 待ち合わせ場所に現れた彼は、爽やかなジャケットにジーンズという服装。  ラフな格好に見えるが、彼の容姿の良さを邪魔しないシンプルな服装だった。  かといって私は「張り切ってきました」と言わんばかりの服装。短めのスカートに髪の毛はアイロンで緩く巻いてみた。お化粧もいつもより濃い気がする。「今日のくるみも可愛いね」 会った瞬間にそんなことを軽く言う彼は、本当にそんなことを思ってくれているのだろうか。 今日は、映画館デート。「私、見たい映画があるんだ」 そんなことを呟いたら、それを聞き逃さず「今度行こうよ」と自然な感じで誘ってくれた。    映画館に着き、エスカレーターで二階へ行く。「くるみ、先に乗って」 エスカレーターに乗る時に、そんな提案をされた。「うん」 どうしてだろうと思ったけれど、その時は気にもせず、チケットを買い、席へ座った時だった。 幸い、映画館はそれほど混んではなく、満席ではない状態だった。「まだ時間があるし、飲み物買ってくるね」 そう言って彼は席を外した。「うん、ありがとう」 私が海斗に気を遣わなきゃいけないのに。  彼の私ファーストの行動がいつもの私を狂わせる。  こんなに大切にされたことなんてない。元彼と比べてはいけないけれど、大和にもされたことがなかった。 海斗が席へ戻ってきた。「おかえり」  私が声をかけると 「くるみ、膝の上にこれ使って」  渡されたのは海斗のジャケットだった。「あ、ごめん。ありがとう。でもそんなに今日寒くないよ」「ん、そんな意味じゃなくて。俺が嫌なの」 彼は言葉を選びながら伝えてくれた。短いスカートとか、嫌だったのかな。ひざよりも少し上くらいなんだけれど。スタイルも良くないのに、そんな服装をしてくるなと思われたんだろうか。「ああ。ごめん。こんなカッコ
Last Updated: 2025-08-14
Chapter: 本当の彼女
「だって、海斗のこと信じてたから。絶対にそんなことする人じゃない」 海斗の手を思わず握ってしまった。「あー。ダメだ。くるみ、可愛すぎる」 会社では見せない私だけの彼の姿、これからもずっと私だけの彼氏であってほしい。  そう、彼のことを守りたいと思った時、私は心の底から海斗のことを好きになってしまったことに気がついた。  さっき海斗に抱きしめてもらった時に、離れたくないと思った。「海斗、本当にごめん。私、ちゃんと彼女役になる自信がなくなっちゃった」 これ以上海斗と一緒にいると、もっと好きになっちゃう。「どうして?今日の挨拶とか、疲れたよね。ごめん。もうそんなことさせないから、普通にそばにいてほしい」 海斗は私の気持ちに気づいているわけではなさそうだ。「違うの。私、海斗の近くにいたら、海斗のこと今以上に好きになっちゃう。本当の彼女になれるわけないのに。一年後にはお別れしなきゃいけないのに……。だから……」「くるみは俺のこと、ちゃんとした恋愛対象で好きだってこと?」「……。そうだよ」 私が答えたあと、沈黙が続いた。  怖くて彼の顔を見ることができない。「あ――。ごめん。心の整理が必要で……」 やんわりとフラれてしまった。 一年後にはもっと傷が深くなっていたし、感情ももっともっと重くなっていたと思うから。ここできちんとフラれて良かったかもしれない。「俺は、くるみのこと、ずっと前から本気で好きだったよ。諦めようと思ったけど、無理だった。だからこの一年をかけて、偽装彼氏ってことを利用してまで、好きになってもらえるよう努力していこうと思ったんだ」「えっ」「俺はくるみのことが好き。だから、本当の彼女になってほしい」 海斗が私のことを好き?  嘘じゃないよね、夢でもないよね……。 隣にいる彼を見つめる。海斗の顔はいつもよりも赤かった。「はい!」 かみしめるように返事をしたあと、隣にいる海斗に飛びついた。「昔も今も――。大好きだよ」 海斗は私を優しく抱きしめてくれた。 半年後――。「ちょっと、海斗!大丈夫だよ!面接に行くだけじゃん」「いや、会場前まで送っていくよ。男性社員が多いって聞いたから。変なやつに声でもかけられたら……」 私は転職活動をしている。 海斗とは順調に交際を続けていて、私の夢だった、ゲーム開発会社で働くこと
Last Updated: 2025-08-12
Chapter: 無謀な計画 4
 海斗は決起会が終わってからも、上層部との付き合いがあるため、私は先に帰宅することになった。「お疲れ様。今日はゆっくり休んで」 海斗が一番大変だったはずなのに、帰り際に疲れた顔一つ見せず、私に伝えてくれた。 帰宅し、シャワーを浴び、ベッドに横になるも眠れない。 海斗に会いたい、あんなことがあったのだから、海斗だって精神的にも疲れているよね。私にできることがあれば、何かしてあげたい。 それは本心からで、偽装彼女だからという配慮からじゃなかった。「海斗に会いたい」 ポツリ、言葉に出してしまう。 そんな時、スマホが鳴った。 電話? 相手を見ると、海斗だった。「お疲れ様。海斗、大丈夫?」<お疲れ様。今日はありがとう。くるみ、嫌な気持ちにさせてごめん。帰ったあととか、大丈夫だった?何かされるようなことはなかった?> 自分の心配をしないで、私を優先して考えてくれているの?「私は大丈夫!海斗こそ、大丈夫なの?」<ああ、問題ないよ。あそこまでしてくるなんて、想定外だったけど。海外で生活してた時に危ない目に遭ったことがあって。最近も恨み事が多くてさ。念のために仕込んでおいて良かった。あんなところで役に立つなんて思っていなかったけど> 海斗は電話越しに笑っていた。「私、海斗に会いたい」 今彼がどこにいるのかなんて訊ねることもせず、気持ちを吐き出した。<俺もくるみに会いたい。会いに行ってもいい?実はもう帰ってきたんだ> 数分後、海斗は私の部屋に来てくれた。玄関でギュッと彼を抱きしめる。「おかえり」「ただいま」 海斗も抱きしめ返してくれた。  彼の胸の中がこんなにも安心できるなんて。 同時にチクりと心が痛んだのを感じた。 一年だけなのに……。 私はあくまで本当の彼女ではないのだから。 二人でソファに座る。 私は自然と海斗に肩を預けていた。「どうしたの?今日は。くるみから甘えてくれるなんて嬉しいんだけど」「なんか、海斗に甘えたい気分」 可愛げがない発言かもしれない。 もっと素直に「甘えたいの」と伝えた方がいいのかな。「今日のことは……。吉田さんたちのことは、くるみは何も考える必要はないから。あんな元彼のこと、もう忘れて」「あの人たち、どうなるの?」 会社の士気をあげる大切なイベントに酷い騒ぎを起こしたのだ。 処分は
Last Updated: 2025-08-10
Chapter: 無謀な計画 3
「今日は会社にとって大切な日でしたので、真実は別のところで証明しようと思ったんですが。僕の大切な彼女をこれ以上悲しませるわけにはいきませんから」 彼はフフっと笑って、私を見た。 あ、これ、海斗がゲームをしていて余裕で勝った時と同じ顔をしている。 その後、当事者を集めてパソコンを使い、吉田さんが海斗に襲われたと証言している時の映像を見ることになった。……――……<龍ヶ崎部長、雨宮先輩のことで話があります。少しいいですか?> ホテルの廊下に映し出されたのは、海斗と吉田さん二人だけだった。<すみません。吉田さんと二人だけで話をする場ではありませんので。本当に必要なことであれば、別日に改めてください> そう言って海斗が吉田さんの隣を通りすぎようとした時だった。  急に彼女が胸元からボタンが弾けるほど、洋服を引っ張り<キャアー!!誰か来て!!> 大声で叫んだ。<なっ?> 海斗が一瞬戸惑いを見せると、大和を含めた数人の男性がかけつけた。<龍ヶ崎先輩に襲われそうになって。助けてください!> 彼女は数人の後ろに走り込み、身を隠すようにその場に座り込んだ。……――…… 映像を見る限り、映し出されていたのは、完全なる彼女たちの自作自演だった。 呆然と画面を見ている吉田さんは、冷や汗をかいているようで、顔も青ざめていた。大和たちも映像を見ることなく、目を逸らしている。「これで僕は潔白です。虚偽ですよね、このまま警察に行きますか?」 海斗が当事者に向かい、鋭い目線を向けた。 その時――。「何の騒ぎですか?」 一人の背の高い気品のある高齢の男性が現れた。「会長……。それが……」 上層部が今の出来事を説明すると「よくこの場でこんなくだらない真似をしてくれたね。今日は息子の晴れ舞台だっていうから、足を運んだのに。キミたちの社長には、しっかりと伝えておくよ」 高齢男性は吉田さんたちに向かって、冷静にも怒りを伝えている。 会長って言われているけれど、うちの会社の会長ではない。 でもこの人、どこかで見たことがある気がする。 あれ……。ん!?息子?今、海斗のことを息子って言ったよね……。 まさかっ……!「久しぶりだね。くるみちゃん。元気にしてた?」 私に目線を向けたその人は、高校時代、お世話になった海斗のお父さんだった。 もしかして
Last Updated: 2025-08-08
Chapter: 無謀な計画 2
 しばらく何もせず、ただ通り過ぎる人を見つめていた時だった。 私のスマホが鳴った。由紀からだ。 由紀も決起会に参加しているはず。「どうしたの?」 私が声をかけると<くるみ、どこにいるの?海斗さんが大変なの!今すぐ会場に戻ってきて!> 切羽詰まった様子に、慌てて飛び出し、会場まで走った。 海斗が大変ってどういうこと!? 会場に戻ると、空気がおかしく、人だかりができていた。「私はやめてくださいって言ったんです!なのに強引に龍ヶ崎部長が迫ってきて……。服を途中まで脱がされて……」 あぁぁぁっと大きな声で泣いている吉田さんがいた。 え、これはどういう状況なの?「くるみ!大変なの。龍ヶ崎部長が吉田さんを襲おうとしたって、彼女騒いでいるのよ」「そんなこと海斗がするわけない!」「それが、目撃をした人がいて。大和さんも証言しているし、その他にも……。今、決起会どころじゃなくなっているの」 大和は吉田さんに都合よく使われているだけだ。 だけど、他にも見た人がいるって。 どうして?「海斗はどこ?」 姿を探しているが、見当たらない。「別室で事情を聞かれているわ」 私は場所を聞き、走って向かった。 扉を開け「海斗!」息を切らしながら、彼から直接事情を聞こうとするも「今、本人から事情を聞いているところです。席を外してください。もしかしたら警察に通報することになるかもしれません」 会社の上層部らしき人に、出て行ってくださいと手で誘導をされた。 海斗は「くるみ……」 一言だけ私の名前を呟いただけだった。 目線と口角は下がり、不安そうな表情をしている。 どうして自分はやっていないと否定しないの?「絶対に部長はそんなことをする人じゃありません!私、さっきまで彼と一緒にいました!そんなことをする時間はありません。きちんと調べてください」 叫ぶように伝えるも「あなた、部長の彼女でしょ。普通、彼を擁護しますよね。事実確認ができるまで出て行って……」 怪訝そうな顔をされ、出て行ってと押された。「彼は頭が良くて、冷静で、自分を抑えられる人です。こんなところで人を襲うわけないじゃないですか!誰ですか、目撃した人って。嘘をついているに違いありません!」 海斗は絶対にそんなことをするような人ではない。「海斗!ちゃんと言ってよ!やってないって!
Last Updated: 2025-08-06
Love Potion

Love Potion

 見合い結婚をした、九条 美月(くじょう みつき)は夫からの愛情を受けることなく仮面夫婦を続けていた。  夫である孝介(こうすけ)の豪遊、浮気、監視されている環境が耐えきれなくなり、孝介が出張中にふらり気分転換へ出かけた美月。  そこで加賀宮(かがみや)という謎の男性に出逢い、美月の運命は変わっていく――。 ※このお話はフィクションです。 ※過激な描写があります。苦手な方はご遠慮ください。 ※イラストは武田ロビ様に描いていただきました。作中に挿絵があります。 イラストの無断転載・転用、二次利用禁止です。
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Chapter: 真実 6
 亜蘭さんは|医者《先生》を送って行くらしい。一緒に部屋を退出してしまった。 また加賀宮さんと二人きりの空間になる。「加賀宮さん、ありがとう。あの……。お金、加賀宮さんに渡せば良いの?ていうか、今の診察は保険適用だよね?今度でもいいかな」  お金、どうしよう。 今、お財布の中は小銭しかない。 医療費だって孝介に相談しないともらえない。「そういうところ、しっかりしてんのな。金は要らないよ。俺の自己満だし」 私の発言に彼はクスっと笑った。「でも……」「痛いんなら、早く薬飲めよ」 彼は部屋の隅にあった小さい冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、渡してくれた。「ありがとう」 こんなに優しくして、何か裏があるのかな。何を私に求めているんだろう。「ちょっと電話してくるから、待ってて」  彼は部屋から出て行った。 仕事の用事かな。 ソファに座って彼が戻って来るのを待った。 しばらくすると加賀宮さんが部屋に戻ってきた。 今日は変なこともしないで、これで帰してくれるよね。「じゃあ、行くよ?」「うん」 てっきり家に帰れるのかと思っていたが――。「なに、ここ?」 彼に連れてこられたのは、とある高層ビルだった。「ついて来て」 加賀宮さんの後ろを追って、エレベーターに乗る。 二十階でエレベーターが止まった。 エレベーターを降りると、目の前にお店だと思われる雰囲気の自動ドアがあった。 ドアが開き、数歩歩くと――。「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」 スーツを来たウエイターさんらしき人が出迎えてくれた。「こんばんは」 加賀宮さんは普通に挨拶をしている。 店内に入ると、クラシックのBGMが流れていた。彼らの後ろを歩く。「こちらでよろしいでしょうか?」「はい」 店内は個室になっていた。 何ここ。どういうお店? こんなお店、来たことがない。 個室だけど、目の前はモニターになっている。 テーブルと二人掛けくらいの大きさのソファ、《《一つずつ》》しかない。 これって……。 「座って」  彼に言われ、ポスっとソファに座る。 私の隣に加賀宮さんも座った。「では、お飲み物をお持ちしますね」 部屋まで案内してくれたウエイターさんが扉を締めた。「ねぇ。何ここ?」「会員制のレストラン。部屋は俺が選んだ。なんか
Last Updated: 2025-09-12
Chapter: 真実 5
「なんで……。優しくするの?優しくなんてしないでよ……」 涙は止まらなかった。「おい、泣くなよ。キズが酷くなる」 私の涙を見て、彼は彼らしくない反応だった。戸惑っている。加賀宮さんでもこんな顔するんだ。  加賀宮さんは私が泣き止むの待って「よし、行くぞ」 そう言って立ち上がった。「どこに行くの?」「秘密」 秘密って、何をする気なんだろ。  彼と一緒にアパートを出て、数分ほど歩くと駐車場があった。 そこに停めてあった、いかにも高そうな外車の助手席に案内をされる。「これ、加賀宮さんの車?」「そうだけど」 やっぱり不思議な人。 どうしてこんな高級車に乗れるのに、あんな古いアパートに住んでいるんだろ。何か理由でもあるのかな。 加賀宮さんの運転する車に乗るのは初めてだ。 強引な運転をしそうなイメージだったけど、そんなことなかった。意外と安全運転だ。「加賀宮さんって、運転乱暴そうなイメージだったけど、きちんと運転できるんだね」「なんだよそれ。酷いイメージだな」 ハハっと彼は笑った。 加賀宮さんの前では、《《普通》》に話せる。 昔から知り合いだったみたいに。 彼は私のこと、前から知っているみたいだし……。 私が覚えていないだけで、本当にどこかで会ったことがあるのかな。 そう言えば……。「ねぇ。下の名前教えてよ?加賀宮……なんて言うの?」「……。まだ秘密」 まだ秘密?どうして? もし有名人だったら、インターネットとかで本名を検索したら出てくるもんね。いつかは教えてくれるのかな。「着いた」 そう言われ、着いた先は……。「あれ?ここって……」 ここの地下駐車場は見覚えがある。 エレベーターに乗り、加賀宮さんの後ろをついて行くと、恥ずかしくて思い出したくもない場所に着いた。  ここは、《《Love Potion》》という不思議なカクテルを飲まされて、初めて彼に身体を預けた場所。 室内は変わっていなかった。大きなソファにパソコン、デスクが二つあるだけのシンプルなオフィスだ。「ソファに座って」 加賀宮さんに促され、ポスっと座る。 私はここで……。 この場所で加賀宮さんとあんな卑猥なことしてたんだ。「思い出したの?美月、顔が赤いけど」「ちがうっ……!痛っ……」 顔の筋肉が大きく動き、頬に痛みを感じた。
Last Updated: 2025-09-11
Chapter: 真実 4
「早くどいて。今日は私に何の用事?またいつものように……」 いつものように彼に身体を預ければいいの。「シャワー浴びてくる。予想よりも帰るのが遅くなった。ベッドにいて?」 彼は着ていたスーツを脱いだ。「わかった」 私はベッドへ行こうとしたが、加賀宮さんに手を引かれ止められた。「なに?」「シャワー、一緒に浴びる?」 彼の言動に「浴びるわけなっ!痛っ……」 呑気な彼の言葉に思わず大きな声を出してしまった。  口角が急に上がったため、叩かれた頬に痛みが走る。頬に手を当ててしまった。「どうした?」 様子がおかしい私に加賀宮さんが声をかけてくれたが「なんでもない。シャワー、浴びてきて」 孝介に殴られたとは言えない。「どこか痛いの?」 彼は顔を歪ませている私を心配してくれているみたいだ。 そっか。どっちにしろ、こんな感じだったらキスだってできない。彼に身体だって預けられない。「顔を……。ぶつけたの。だから痛いだけ。ごめんなさい。やっぱり今日は私、何もできない。許して下さい」 彼はそんなことお構いなしに、契約違反だと責めるのだろうか。それとも――。「顔をぶつけたって、どこにぶつけたんだよ。ちょっと見せて」 隠している私の手を退けようとした。「イヤ!」 抵抗しようとしたが「命令」 彼の一言で身体の力が抜けた。 加賀宮さんが私の頬を見る。「触るよ」 そしてそっと優しく彼の手のひらが触れた。「熱感ある。化粧で隠れているけど、よく見ると腫れてる」                                     彼はそう言い、私をベッドに座らせた。「ちょっと待ってて」 彼は冷蔵庫の中を見て、何かを探している。「大丈夫だから」 私の言葉には返事をしてくれない。  彼はアイスノンをタオルで包み、私の頬に静かに当てた。「しばらく冷やして」 加賀宮さんは、私の隣に座った。「ありが……と」 冷たくて気持ちが良い。 適切な処置をしてくれた彼に戸惑う。「正直に言え。どこでぶつけた?九条家のお嬢様だろ、どうして医者に行かない?旦那は何か言わなかったのか?」 返答に困る。どうしよう。なんて言えばいいの。 無言の私に「まさか、旦那に殴られたとかじゃないよな?」 ピクッと身体が反応してしまった。  YE
Last Updated: 2025-09-10
Chapter: 真実 3
「加賀宮さん!?」 電話、出なきゃ。「もしもし?」<……。久し振り> 久し振り!?「久し振りって、数日前まで会ってたけど?」<俺にとっては久し振りなんだよ>「なにそれ?」 この人もかなり俺様だなって、今日もまた呼び出し?<今から来て?>「はぁっ?今からって。もう夫は出張から帰ってきてるから。そんなに自由には……」<お前の旦那、今日は帰らないよ?>  どうしてわかるの?「どうして……。わかった。行くけど」 隠しカメラとか盗聴器とか私に仕掛けられてる? 孝介が今日帰らないことを知っているから、きっと加賀宮さんは私を呼び出すんだ。<今からタクシーを向かわせるから。十分くらいで着くと思う。俺のアパートに来て>「ちょっと!急すぎっ!」<じゃあ。待ってるから> 私が反論しようとする前に電話が切れてしまった。 今、何時だろう。十五時?こんな時間に何の用?またあんなことをするつもりなの。 とりあえず身なりを整え、軽く化粧をする。 どうしよう、引っ叩かれた頬が痛い。 薄くファンデーションを塗ることしかできなかった。 加賀宮さんの指示通り、タクシーに乗り、彼のアパートに向かう。 いつも通り部屋をノックすると「お疲れ様」 加賀宮さんがドアを開けてくれた。 あれ? 今日は初めて会った時と同じようなスーツを着てる。さっきまで仕事だったのかな。「お邪魔します」 部屋に入る。 しかし――。 玄関で靴を脱ぎ、一歩踏み出したところですぐ加賀宮さんに腰を引き寄せられた。「……!?なに?」 彼はジッと私を見つめた。「お前……。飯、食べてんの?」「えっ?」 ご飯? そういえば最近あまり食欲がない。 というか、一週間千円生活で最近お粥とかしか食べてなかった気がする。「俺と初めて会った時より痩せた。もともと細いなって思ってたけど」 そんなに痩せたかな。まぁ、ご飯食べなきゃ痩せるよね。「俺のせい?」 彼は少し首を傾けた。  加賀宮さんと契約を結んだことは確かに不安でしかないけれど。 加賀宮さんのせいというよりは、明らかに|家庭環境《夫》にあると思う。「加賀宮さんのせいじゃ……ない。食欲がないだけ。私にだっていろいろあるのよ」 孝介からお金をもらえず、食材が買えなかっただなんて言えない。 別に加賀宮さんに媚を売
Last Updated: 2025-09-09
Chapter: 真実 2
 殴ったことは、何とも思わないの。 やりすぎたとか、感じないの?  孝介がその場からいなくなり、段々と痛みが増す。 頬に触れてみる。熱い。 口の中、切れたのかな。血の味がした。 暴言は言われたことがあるけど、暴力は初めてだ。 これってDVってやつ……?だよ……ね。 私は呆然と立ち尽くしていると、孝介が部屋から出てきた。 ボストンバッグを持っている。 彼は無言で玄関へ向かった。「どこに行くの?」「気分転換。実家に帰る。今日は実家に泊って、明日は実家から出勤するから。明日は会議で遅くなるし、明後日の朝には帰る」 私の顔一つ見ないで、彼はスタスタと歩き、靴を履き始めた。  私のさっきの言動が原因で実家に帰るってこと? そんなに悪いこと、私、言った? ここはもう一度謝って、引き止めた方が良いの? グルグルと頭の中で何が最善なのかを考える。「孝介、ごめんなさい。あなたの立場を考えられなくて。謝るから」  彼の背中に伝えるも、振り返ることなく玄関の扉が<ガチャン>と音を立て、閉まった。 力が抜けて、その場にストンと座り込む。 しばらく動けなかった。  孝介から連絡がなく、次の日を迎えた。 鏡で自分の顔を見てみると、腫れていた。触れると痛い。 今日は特に何もすることがない。孝介も明日まで帰ってこないと言っていた。お昼を過ぎても|家政婦さん《美和さん》がこないということは、本当に帰ってくる気はないのだろう。 どうしよう。 義母さんには一応、謝っておいた方が良いよね。 謝るのなんて嫌だけど、私のお母さんに直接嫌味とか言いそうだ。 深呼吸をして、義母へ電話をする。<もしもし?>「あっ。申し訳ございません。今、お時間大丈夫ですか?」<ええ。大丈夫よ。どうしたの?> 声からして、義母の機嫌は至って普通そうだった。「申し訳ございません。孝介さん、昨日そちらに帰られましたよね?」<孝介?帰って来ていないけど……> えっ?実家に帰るって言ってたのに。 ビジネスホテルとかにでも泊ったのかな。<孝介がどうかしたの?>「いや。あの……。私が孝介さんの気持ちに寄り添うことができなくて。ケンカのような形になってしまい……」 余計なことを言ったら、また怒鳴られる。<夫婦ケンカをしたってこと?あなたもいい加減、一流企業の妻
Last Updated: 2025-09-08
Chapter: 魔法のカクテル 22/真実 1
「嫌いになんかならないですよ。美和さんにはいつも助けてもらっていますし……」 家からあまり出ることがない私にとって、美和さんは唯一の話し相手だった。 孝介と結婚してから、同性の友達とは連絡も取らなくなり、疎遠になってしまったから。 彼女と《《普通》》のことを話す時間が、私にとっても気分転換になっていた。「良かった。美月さんとは《《ずっと》》仲良くしていきたいと思っています。だから、もし何か気に障ることがあったら何でも話してくださいね。雇い主さんとただの家政婦との関係かもしれないけど……」 美和さんの気持ちが嬉しい。  私は何の疑いもなく「はい。ありがとうございます」 返事をした。 しかしその刹那ーー。「美月さんって本当に羨ましいです。あんな優しくて頼りになる旦那さんがいて。私は結婚どころかまだ彼氏もいないから。孝介さんみたいな人が旦那さんだったら良いなって。思っちゃいます」 本当の孝介がどんな人か知らないから、そんなことが言えるんだろう。 でもここで孝介を否定するようなことを言ってはいけない気がする。「そんな。孝介も美和さんにそんなことを言われたらきっと喜びますよ」                          無難な返答をするしかない。 さっき<《《ずっと仲良くしていきたい》》>って言ってくれたけど、羨ましいって伝えてくれた美和さんの目は笑っていなかった。 どこか鋭くてーー。 私は怖いとさえ感じてしまった。美和さんが帰って、孝介と二人きりになった。 もう一度孝介に「働きたい」と伝えよう。 タイミングを見計らっていた。 孝介は自分の部屋にいる。 何をしてるかわからない。 夕食後、お酒が入っている時に話をしよう。 美和さんが作ってくれた夕食をただ温め、テーブルに並べる。 孝介の部屋をノックし「夕ご飯だよ」 声をかけるも返事がない。 ただ扉の向こうで物音がしたから、リビングへ来るだろう。 しばらくすると彼が部屋から出てきて、イスに座った。「お酒は飲みますか?」「ビール」「はい」 ビールをグラスに注いで彼の前に出すと、それを彼は勢いよく飲んだ。「はぁ。一日休んだだけだと、休んだ気にならないな。明日も仕事だし」 美和さんが作ってくれた料理を食べながら彼がポツリ呟いた。 明日は仕事なん
Last Updated: 2025-09-07
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