Chapter: 彼がいない世界 4 振り返ると、畑野さんがうしろに立っていた。 周りには誰もいなかったため、嫌だなと思ってしまう。「先ほどはありがとうございました」 とりあえず、お店に来てくれたお礼を伝えよう。「美桜ちゃんに会いたくてね。おじさん。本当だよ?」 酔っているのかわからない。が、段々と近づいてくる。「お母さん、大変なんだってね?お金……も大変なんでしょ?」 後ずさりするわけにもいかず、立っていると、ついに畑野さんは私の肩に手を回してきた。 いやだな。お酒臭い。「おじさんのお願いを聞いてくれたら、お金のこと、相談に乗ってあげてもいいよ?」 顔が近い。振り払いたいけどこの人はお客さんだから。できるだけ我慢しなきゃ。「お気遣いいただき、ありがとうございます。でも、大丈夫ですので。またお店に来てくださいね」 私は畑野さんから離れようとした。 お願いとは、きっと身体の関係とか。パパ活とかそんな話だよね。「そんなこと言わないでさ。美桜ちゃんがおじさんのお願いを一つ聞いてくれるだけで、お金を援助してあげるって言ってるんだからさ?簡単なことだよ」 畑野さんはなかなか離してくれなかった。 どうしよう、強引に離れることはできるかもしれない。 常連さんだし嫌な思いをさせたら、せっかく雇ってくれたスナックのママさんに迷惑をかけてしまう。「ごめんなさい。結構ですので」 私が少し強引に畑野さんから離れようとした時「おい、馬鹿にしてんじゃねーぞ。こっちが優しくしてやってんのにさ。お前くらいのガキはどこにだっているんだよ?調子に乗るなよ!」 そう言われ突き飛ばされ、勢いよく転んでしまった。 痛い、膝から出血しているのが見えた。 男の人ってみんなこうなの? 東京での出来事を思い出す。 そして、転んでケガをした時、蓮さんに手当てをしてもらったことを思い出した。「なんでこんな時に……。思い出すんだろう」 独り言だったが、声に出して呟いてしまった。 「ああ?なんだって?」 畑野さんはまだ怒っているらしく、私に近寄ってくる。 お酒のせいか、正常だとは思えなかった。 私は、地面に座り込んだまま動けない。 次は何をされるんだろう? そう思った時ーー。「何をしてるんですか?」 この声、何度も聞いたことがある。 声のする方向を見ると、そこにいるはずのない人が
Terakhir Diperbarui: 2026-05-10
Chapter: 彼がいない世界 3「一言だけ言います。美桜はもう東京にはいません。それだけ教えてあげます。詳しいことを話すかどうかは、黒崎さんの理由を聞いてからにします」「東京に……。いないんですか?」 彼は目を見開き、驚いている。 冷静な彼でもそんな表情をするんだ、そんなことを思った。「わかりました。では、場所を移しましょう。時間、ありますか?」「はい」 二人で大学近くのファミレスに入り、黒崎さんの話を聞く。「えーー!!そんなドラマみたいな話がありますか?嘘でしょ?絶対」「嘘ではありません」 淡々と彼は答えた。 ドリンクバーのジュースを勢いよく私は飲む。 じゃないと、落ち着いていられなかった。「いやいや。そんな世界が身近にあるなんて。本当に信じられないんですけど」「正直、こうするしかなかった。美桜には本当に申し訳ないことをしたと思っています」「なんて言っていいか、もうわかりません」「美桜が許してくれるまで謝ります。俺は美桜のことがもちろんまだ好きです」 よく恥ずかし気もなく好きなんて言葉が出せるな。羨ましい。「その話、私は信じます。美桜も……。きっとまだ蓮さんのことが好きだと思うから。迎えに行ってあげてください。それで、もうあの子に苦しい思いをさせないで。約束してください」「はい、約束します」 私は彼女の今いる場所を彼に教えることにした。・・・---「美桜ちゃーん、会いたかったよ。この後、おじさんと遊びに行こうよ?」 泥酔した中年男性に絡まれる。 私は東京を離れ、夜は地元のスナックで働いていた。 愛想笑いでなんとかやり過ごす。「ちょっと、畑野さん!あんまり絡まないでよ?キャバクラじゃないんだから。だったらその分、指名料払ってちょうだい」 お客さんは、スナックのママさんに叱咤されている。「はいはい。ママは厳しいな」 ママさんから、注意を受けてもお酒をまだ上機嫌で飲んでいる。 きっと常連さんなのだろう、こんなやり取りが当たり前なんだ。 私の義母が、病気のため療養をすることになった。 そのため、東京から実家に帰ってきており、母の入院費を含め生活のために日中からレストランでアルバイトをし、夜は時給の良いスナックで働いている。 大学は一旦休学をした。 休学期間中にまた戻れるかどうかわからなかったが、せっかく途中まで勉強をした。戻れること
Terakhir Diperbarui: 2026-05-07
Chapter: 彼がいない世界 2 私のこと、年下だけど、下に接するような人じゃなかったし、自信を持てなかったのはいつも私の方で。だけど蓮さんが大切にしてくれて、自分を変えなきゃって思って可愛くなれるように努力したし、料理だって勉強した。 蓮さんと付き合っていても良いんだって、思えるように頑張ってた。 その時、涙が流れた。 やばい、こんなところで。 思わず涙を拭うと「わっ。ごめん。キツイこと言ったかも。泣くなよ。悪気はないんだって」 橋本くんが慌てている。 そしてティッシュをくれた。「ごめん」 私は彼から受け取り、涙を拭いた。 私の中にまだこんなに蓮さんが残っているんだ。それで自分の悪いところが復活しちゃったのも。橋本くんが教えてくれた。 涙はすぐに止まり、何事もなかったように食事をしたけれど、橋本くんはそれからどこか控えめだった。彼なりに気を遣ってくれたのかな。 橋本くんに家まで車で送ってもらった。 車から降りる時「東条。俺と付き合わない?」 橋本くんからの一言に、動きが止まる。 付き合う?橋本くんから告白された?「俺、実は昔、東条のことが好きで。中学生だった頃。さりげなく告白したつもりだったんだけど、お前、それ気づかなくてさ。卒業しちゃったんだ。どうしてきちんと言わなかったんだろうって後悔してた。今再会できて、東条、昔と同じで変わってなくて。お人好しで、バイトは一生懸命だし。今の東条を好きになった。別れたばかりでこんなこと伝えるのもダメかなって思ったんだけど、俺、もう後悔はしたくなくて。俺と付き合ってほしい」 橋本くんは、嘘をつくような人じゃないから。 その気持ちは本気なんだ。 私、橋本くんの前では自然体だし、巣の自分でいることができる。 だけど、蓮さんの時とは違うんだ。彼のことは好きだけど、好きじゃない。ドキドキしないんだ。 恋愛感情はない。それにまだまだ蓮さんに気持ちがあって、こんな状態で橋本くんと付き合うなんて失礼すぎる。しっかりと伝えてくれた彼に、私もきちんと答えなきゃ。「ごめん。私、まだ元彼のことが好きで。橋本くんとは付き合えない」 言葉にしたらまた蓮さんのことを思い出して、思い出に囚われてしまうかと思っていた。 だから言えなかったけれど、私、蓮さんのことがまだ好きなんだ。「そっか。わかった。俺、しっかりと言えて良かった。アルバイト先
Terakhir Diperbarui: 2026-05-04
Chapter: 彼がいない世界「時間?うん。あるよ」 帰ってからは、とくにすることもない。今は課題もないから、家事と伯母さんの洗濯くらいだ。「飯、食べに行かない?」 橋本くんは目線を合わせてくれない。 橋本くんからご飯に誘われたのは、はじめて。珍しいこともあるんだな。「うん。いいよ」 今、もう彼氏はいないから。ご飯を断る理由がない。「マジ?じゃあ、着替えたら外で待ってて」「うん」 橋本くんに言われた通り着替えて外に出ると、すでに彼が待ってくれていた。「ごめん。お待たせ」「いや、俺も今来たところだから」 そう言って彼は「こっち」と手招きをした。 どこに行くんだろうと、彼のうしろを追うと「乗って」と車を指さす。「えっ。橋本くんって、車持っているの?」 驚いていると「当たり前だろ。東京と違って、電車とバスなんてろくに走ってないから。通学もそうだけど、どこか行く時不便なんだよ。こっちじゃあまり不思議なことじゃないぜ」 そっか。私は自転車だけど。 都内だと車持っている子の方が珍しかったから、なんだか新鮮だ。 乗ってと言われてどこに乗ればいいんだろう。助手席、乗ってもいいのかな? 車なんて蓮さんの車に乗った以来かも。「助手席乗って」 私が悩んでいるのがわかってか、彼は助手席の扉を開けてくれた。「ありがとう。橋本くんってやっぱり優しいよね」 助手席の扉を開けてくれるなんて、蓮さんくらいだと思ってたのに。 橋本くんが運転してくれて向かった先は、夜遅くまで営業しているパスタ屋さんだった。「東条、パスタ好きだろ?」 降りる時にそんなことを言われる。 あれ、私、橋本くんにパスタが好きだって言ったっけ?「賄い、結構な確率でパスタ選んでるじゃん。俺、作ってるから知ってる」 ボソッと彼は呟く。 そっか。そういえば。自分でご飯を作るのが億劫の時、割引が効くアルバイト先の賄いを食べることが多い。キッチン担当の橋本くんに作ってもらうこともよくあったな。「うん。パスタ好きだよ。ありがとう」 覚えていてくれたんだ。 一緒に席へ座り、注文をする。どうしよう。なんだか緊張する。別に変なことをするわけじゃないのに。橋本くんはそんな気持ちで誘ってくれたわけじゃないよね。蓮さん以外の男の人と二人だけでご飯食べたことがなかったから。同年代の男子とは、プライベートではど
Terakhir Diperbarui: 2026-05-01
Chapter: 美桜からの手紙(蓮side)/彼女の現在<蓮さんへ。今までありがとうございました。蓮さんと一緒にいた時間は夢のようでした。私が蓮さんに甘えすぎていて、いつも迷惑をかけてごめんなさい。私は蓮さんに何もしてあげられなかった。急にお別れすることになった理由を本当は知りたかった。私のダメなところを全部直すって言ったら、もっと一緒にいてくれましたか?最後まで迷惑をかけてごめんなさい。蓮さんは、もっと綺麗で頭も良くて、性格も良くて。そんな人が相応しいと思います。私なんかと付き合ってくれてありがとうございました。毎日が幸せでした。私は、まだ蓮さんのことが大好きです。でも、ちゃんとさよならをします。蓮さんが幸せでいられますように。> 彼女はどこも悪くないのに、なぜ最後までこんなにも優しい言葉をかけてくれるのだろう。嫌味の一つも書かれていない。 涙が頬を伝っていた。 十年以上だろうか、そのくらいぶりに流した涙だった。 愛する人を失う時、こんなにも辛いのか。はじめての経験だから、わからなかった。 美桜はもっと辛いはず。 こんなことを願うことは間違っているかもしれない。 俺はまだ彼女のことをーー。 それから二か月後ーー。「いらっしゃいませ。お客さま、何名様でしょうか?」 私は今、ファミリーレストランでアルバイトをしている。 育ててもらった伯母が病気で入院することになった。意識はあるが、長期間の入院になるらしい。 途中まで一緒に育った伯母の子は、実家からかなり遠くの大学に通学をしている。彼女は薬剤師になりたいという夢がある。私には絶対になりたいという夢がなかったから。彼女の変わりに一旦大学を休学し、地元へ帰ってきている。 退院がいつになるのかわからないから、東京のアパートは退去し、アルバイトも辞めた。 アルバイト先の店長からは「また帰ってきたら連絡して」と言われた。嬉しかったな。 大学にいつかは戻れるのかわからないけれど、せっかく勉強してきたから、退学ではなく休学という方法を選んだ。 親友の優菜とは遠距離になってからも毎日連絡を取り合っている。 伯母には「帰ってこなくてもいいわよ」なんて言われたけれど、入院していると必要なものや書かなければならない書類がある。伯母も離婚をしているから、あまり頼りにしている親類はいないのは知っていた。 伯母は私のことを本当の子どもではないのに、いなく
Terakhir Diperbarui: 2026-04-28
Chapter: 突然のさよなら4/自分だったら(蓮side)「あっ!」 すぐわかった。 スーツ姿の蓮さんがこっちに向かってくるのが見えた。 スマホを見ていて、私には気づいていないみたい。 久しぶりに見る蓮さん。 カッコいいな。 呑気かもしれないけど、そう思っちゃう。 蓮さんが私に気づいて、一瞬、歩くのが止まった。「美桜……?」「蓮さん、ごめんなさい。待ち伏せみたいなことして。こうでもしないと会えないから……」 頑張れ、私。「きちんとさよならを伝えに来ました。あと、蓮さんの家にある荷物を取りに来ました。今日はそれだけで帰るので安心してください」 しばらく沈黙が続く。 蓮さんは、なんて返事をしてくれるんだろう。「わかりました。ここでは人目につくので、荷物もありますし、部屋に来てください」「はい」 私は、彼のうしろをついていく。 蓮さんは、別れたつもりでいたのだろうか。 私が<さよなら>と言っても動揺した素振りさえしなかった。 少しでもいい、寂しそうな顔をしてほしかったな。 私の存在は彼にとって、小さなものだったの?「お邪魔します」 久しぶりに入る蓮さんの部屋。 綺麗に整えられた部屋、何も変わってはいなかった。 忙しさが別れの原因だったら、部屋は散らかっているよね。 女の人の物があったらどうしようとか思ったけど、そんな痕跡もない。 二人で座って過ごしたリビングのソファも、二人でご飯を食べたキッチン前の机も、もうここへ来ることがないと考えるとすごく寂しい。 さよならするって決めたのは私なのに。決心がついたと思ったのに、蓮さんを前にすると心が揺らぐ。 リビングで蓮さんと向き合う。 私のこと、こんなにしっかりと見てくれたのは久しぶりかも。「蓮さん?」「俺は……」 その時、彼のスマホが鳴った。「すみません。電話をしてきます」 そう言って彼は寝室ではなく。珍しくベランダに出て行った。 よほど私に聞かれたくない内容なのかな。 早く蓮さんの寝室にある私の荷物を整理して帰らなきゃ。 そう思い、寝室に入る。 ベッドも何も変わっていない。 ここで蓮さんに慰められたり、抱きしめられたり、キスされたり。 幸せだったな。 もう泣かないと決めたのに、涙が溢れる。 ダメだ、我慢我慢。 私は持ってきたボストンバックに自分の荷物を突っ込んだ。 蓮さんの部屋にあった私の
Terakhir Diperbarui: 2026-04-25
Chapter: 最終話「お疲れ様です。オーナーが女性を連れていらっしゃるなんて、初めてですね」 バーテンダーさんが迅くんに声をかけた。 私は今、迅くんと再開したBARに彼と一緒に来ている。「もしかしてあの時の方ですか?」 私のこと、覚えているの? かなり前のことなのに。すごい記憶力。「そうなんです。よく覚えていますね。やっと僕の彼女になってくれたんですよ」 敬語で離す彼は、社長モードだけど、声音は穏やかだ。「オーナーが自分から女性の隣に座るところをあの時初めて見たので、よく覚えています」 慣れた手つきで手際よくカクテルを作り、スッと私の前にグラスを置いてくれた。 あの時と同じ、綺麗な瑠璃色だ。 カクテルを一口飲む。「美味しいです!」 そして覚えていてくれたからこそ、アルコールも少なめにしてくれたみたい。飲みやすい。「それは良かった」 このバーテンダーさんとは、オープン当初からの付き合いらしく、紹介したいと迅くんから言われた。 お店を出る時に「幸せになってくださいね」そう温かな声をかけられた。 あっ、そう言えば……。「ねぇ、迅くん。今日カクテルニ杯くらい飲んじゃったけど、あの時みたいに《《変なカクテル》》にすり替えてないよね?《《Love Potion》》とかって言うお酒」 私が見ている限りでは、変な素振りもなかったし、迅くんがお酒を作ることもなかった。だけど、たまに予想以上のことを彼はするから心配だ。 一時的なものかもしれないけど、また《《あんな身体》》にされても困る。 タクシーを拾おうとしていた迅くんの動きが止まった。しばらく無言だったが――。「……。ごめん。あれ、嘘」 ウソ、ウソって?「あれは俺が咄嗟についた嘘。惚れ薬とか媚薬とか、そんな効果はない。Love Potionの中身は普通のオレンジジュースとピーチリキュール、あと……」「ちょっと!迅くん!!私、信じてたんだけど!」「美月はあの時から俺と結ばれる運命だったんだよ」 彼の一言で何も言い返せなくなったが、裏切られた気分になった。 じゃあ、普通のお酒で私あんな風になっちゃったの!?同時に恥ずかしくもなって……。「迅くんのバカ」 涙が出てきた。「美月!?泣くなよ!」 私の涙に慌てている彼は、子どもの頃と同じ顔をしていた。 その後――。 私は|カフ
Terakhir Diperbarui: 2025-12-01
Chapter: 二人で 2 その後の生活は、迅くんが言った通り、大変な騒ぎとなった。 《《あの》》九条グループ社長の息子が怨恨による犯行で、他企業社長を刺したというニュースは、面白おかしくメディアで取り上げられた。 社員からの告発で、孝介が私的に会社のお金を横領していたことも世の中に知られる形になってしまったし、どこで情報が洩れたのか不倫をしていたことも報道された。 孝介の父である九条社長は責任を取って退任し、今は河野さんって人が社長になったと聞いた。 もちろん、私にも何人もの記者が取材に応じてほしいと依頼が来たけれど、全て断っている。 迅くんのアパートに住んでいることがバレたらまた面倒なことになるため、彼の配慮でホテルを転々としながら生活をしている。 毎日迅くんとは電話をしているが、彼とも会えていない。 そんな生活が続いた、一カ月後――。「迅くん!」 久しぶりにアパートで彼と会えることになった。「会いたかった」 彼に抱きしめられる。 どうしてこんなに落ち着くんだろう。「ごめん。大変だったな」「ううん。迅くんの方が大変だったでしょ。もう傷、痛くない?」「あぁ。大丈夫。明日、美月と一緒に行きたいところがあるんだ」 明日?どこだろう。「うん。どこ?」「秘密」 彼が秘密って言う時は、何かを考えている時だけど。何をするんだろう。 次の日の夜、迅くんに連れてきてもらった場所は――。「ここって。小さい頃、迅くんと初めて会った公園だ!」 車から降り、誰もいない公園を二人で歩く。 遊具は随分と変わってしまい、迅くんと一緒に会話をしたあのトンネルもなかった。「懐かしいな。小さい頃の迅くんと過ごした記憶がなくなってたこと、本当に後悔してる」 この公園で出会って、二人で遊びながら過ごして、成長して……。 あのまま迅くんとずっと一緒に過ごしていたらどうなっていたんだろう。 私の初恋の人は迅くんだったし、迅くんもあの時の私のことを好きだと言ってくれた。 大人になってもその関係は続いていたんだろうか。 もし彼の近くにあのまま居ることができたら、少しでも彼を助けてあげられたかもしれない。「美月が悪いわけじゃない。後悔なんてしなくていい。今こうやって一緒に居られることが大切だろ?」 彼が手を繋いでくれた。<今一緒に居られることが幸せ> 過去には戻れない
Terakhir Diperbarui: 2025-11-30
Chapter: 二人で 1 あっれ……。なんかおかしい。「約束な?」「えっ」 目を擦り、涙を一生懸命拭い、彼と目を合わせる。 迅くんの顔を見ると、薄っすら笑っているような……。 確かにワイシャツに血が付いてる。 だけどよく見ると、出血量が増えていない気がした。 これは――。「加賀宮さん。もういい加減、やめてください。ほんとーに美月さんに嫌われますよ」 亜蘭さんが全然心配してない。「どういうこと?」 私が状況を理解できないでいると――。「はぁ。痛いのは本当なんだから、少しくらい労われよな。亜蘭」 そう言って彼は上半身を起こした。「迅くん、大丈夫なの?」「大丈夫。俺があんなやつにヤられるはずない。あいつが俺を刺そうとした時、わざとちょっとだけ刺された。ナイフ掴んで止めたから、手も切れてる。けど、死ぬようなケガじゃない」「念のため、ハンカチ、手に巻いといてください」 亜蘭さんが切れている迅くんの手をハンカチで止血した。「あー。さっきの美月、可愛かったな」 そんな呑気なことまで言っている。 私は空いた口が塞がらない。 でも――。「良かったぁ……」 安心したからかまた涙が出てきた。 その時、パトカーの音と救急車の音が聞こえた。 「通報はしておきましたから。こんなことして、|あの人《孝介》。九条社長もしばらく忙しそうですね。大きなニュースになりそうですよ。それに、うちの会社も」 はぁぁぁと深く重い溜め息を亜蘭さんは吐く。 孝介は、周りの人に抑えられていた。 けれど、迅くんが普通に立ち上がっているのを見て、目を見開き、驚いている。「お前!!なんで!!?」 再び暴れそうになった孝介を周りの人が再度押さえつける。亜蘭さんも手伝っていた。 そんな孝介に迅くんは「好都合だった。ありがとう」 私には向けない冷たい眼で言葉をかけた。 間もなく、救急車と警察が駆けつけ、私たちは事情を説明し、迅くんは救急車で病院へ運ばれた。 私は救急車に同乗し、引き続き亜蘭さんは警察に事情を説明していた。 病院で治療後、警察にはありのままの話をした。 その後、迅くんのアパートに帰宅し、今私は二人分の温かいお茶を淹れている。 迅くんは腹部と手のひらに刺し傷と切り傷。 軽傷とまではいかないけど、命に別状はない。「また傷跡、残っちゃうかな。私のせいで」
Terakhir Diperbarui: 2025-11-29
Chapter: それぞれの行方 16「久しぶりです、《《加賀宮さん》》。まさか、そういうことだったんですね。あなたが必死に俺を美月から離そうとする理由がやっとわかりました。ただの《《知人》》じゃなかったわけですね。俺はあんたらに騙されたわけだ」 久しぶりに見る孝介は、この前よりもかなり痩せていた。眼は充血しており、顔色も悪い。「お久しぶりです。こんなところで何をしてるんですか?もう美月さんには関わらないでほしいと九条社長を通して何度もお伝えしたはずですが」 迅くんは私を庇うように前に立っている。「父さんはもう関係ない。本当にイライラする。まさか《《美和》》だけじゃなく、《《美月》》にまで手を出していたんだな。俺が相当《《羨ましかった》》のか?九条グループの次期社長だった俺がそんなに妬ましかったのか?だから回りくどい方法を使い、俺を引きずり落として……」 孝介の言葉は異常だった。 考え方がおかしい。 そして怒りからか、手が小刻みに震えている。「なぜそんな発想になるのか理解できません。あなたを一度でも羨ましいと思ったことなどない。バカな人だとは思いましたけど」 ちょっと! 迅くん、ケンカ売ってるの? 間違ったことは言ってない。けれど、今の孝介にそんな言葉をかけたら余計興奮するじゃない。「はっ!そもそも俺が不倫とか言う前に、お前らはもうとっくにデキてたわけだ。クソ!!全部、全部、全部、お前が悪いんだ!!お前のせいで!!」 孝介はカバンから何か取り出した。「美月、俺から離れて。警察を呼んで」 孝介が取り出したのは、ナイフだった。 まさか、本当に!?「うんっ!」 私は震える手でスマホを取り出し、通報しようとした。 が――。「お前も美月も一緒に殺してやるよ!!」 孝介が私たち目掛けて走り出した。「美月、離れろ!」 私は迅くんの指示に従い、走り、二人から距離を取った。早く通報しなきゃ。 その時「キャー!!」という悲鳴が聞こえた。 迅くんを見ると、孝介との距離がとても近い。 迅くんは、お腹を押さえているように見える。「加賀宮さん!!」 亜蘭さんが走ってくるのが見えた。「やめろ!」という声と共に、亜蘭さんは孝介を蹴り飛ばした。 その反動で孝介は転倒するも、迅くんは立ったままだった。「迅くん!!」 彼に駆け寄る。 孝介は周りの通行人が取り押さえてくれ
Terakhir Diperbarui: 2025-11-28
Chapter: それぞれの行方 15「良いよ」「やった!楽しみだな」 あっ、やっと笑ってくれた。 彼の表情に安堵する。 迅くんと一緒にお出かけするのは久しぶりだから、なんだか私も楽しみになってきちゃった。…・――――…・――― 昨日――。「亜蘭、俺に《《もしも》》のことがあったら頼む」「イヤですよ。ていうか、いきなりもしものことって何ですか?」 休憩中、社長室のソファに横になり、天井を見つめていた。「せっかく美月さんと結ばれたのに、どうして弱気になってるんですか?」「美月が離婚したらもっとラブラブになれると思ってたんだけど、なんか美月が素っ気ない。同棲しようって言った時も断られたから、強制的に隣の部屋に引っ越しをさせたけど、真面目すぎて。もっと<迅くん大好き、愛している>って言ってほしい」 美月が近くに居るだけで満足しなきゃいけないのに。 さらに愛情を求めてしまうのは、俺の性格が歪んでるからか。「はぁ。美月さんのご飯をほぼ毎日食べることができて幸せじゃないですか。俺は加賀宮さんが羨ましいですけどね。ラブラブって言い方、面白かったですけど」 俺のキャラじゃないってことか。「そんなに悩んでるなら、もう一回しっかりと<同棲をしたい>って伝えれば良いじゃないですか?あ。あと、正式にプロポーズはしたんですよね?」 亜蘭からの容赦ない言葉にさらに自信を無くしそうだ。「……。言ってない」「えっ?伝えてないんですか?」 資料を読んでいた手が止まる。「美月さんに<大好き、愛している>って言われたいんなら、まず自分が行動しないと。相手からの愛情を求めてばかりいてはダメですよ」 真っ当なことを言われ、何も言い返せない。「<迅くんの隣に居ても自信が持てるような女性になるまではダメ>って言われたらヘコむ」 過去に美月にそんなことを言われた。 俺は美月が居てくれれば何も要らないのに。「プロポーズ、フラれるのが怖いんですか?仕事は完璧なのに。本当、プライベートは普通の人なんですね」 仕事だって普通の人間だけどな。「俺が知っている加賀宮さんは、弱音なんて吐くような人じゃなかったから、なんだか新鮮で面白いです。高校の時に、あんな人数相手にケンカ吹っ掛けてた人だとは思えませんよ」 アハハっと亜蘭は昔を思い出したかのように笑った。「そんなこともあったよな。あの時の俺は、今の俺な
Terakhir Diperbarui: 2025-11-27
Chapter: それぞれの行方 14「俺の方から今日のことはあいつの父親、九条社長には伝えておく。あんな人通りの多い道の真ん中で大声出して騒がれて、もし通報されたら社長も困るだろうから。左遷の話は決定らしい。あいつが東京から出るまでの間、しばらくは美月も気をつけていて」 せっかくまたベガに行くことができると思ったのに。 役に立てることが見つかったと思った。 悲しかったけど、私が無理矢理出勤してスタッフさんたちに何か迷惑をかけてもイヤだ。「うん。わかった。孝介が近くから居なくなるまで、ベガに行くのはやめるよ。行ったり、行かなかったりでベガの人たちにまた迷惑かけちゃったけど」「それは美月が悪いことじゃないから。ベガのリーダーには俺の方から上手く説明しておく。|孝介《あいつ》も引っ越したら忙しいだろうし、前みたいに社長のコネも使えなくなるから、仕事だって大変になるだろう。俺たちのことなんて思い出すヒマもなくなる。それまで我慢だな。あー。本当にいつまでもネチネチしてきて嫌な性格だな、あいつ。自分の行いが悪いって認めたくないんだろうな」 はぁと迅くんは溜め息をついた。「ごめん。迷惑かけて」「美月は謝らなくていい。とりあえず、出かける時とか注意して。一応、な?」「うん」 その一カ月後――。「迅くん、朝だよ!起きて!?」「う……ん。もうちょっと寝たい……」 彼は枕に顔を埋めた。「ダメダメ!遅刻するよ!」 私は変わらず迅くんと半同棲生活を続けている。 不安視していたことは何も起こらず、平和な日々だ。 孝介はもう地方で働いていると聞いた。私と住んでいたマンションも引っ越したそうだ。「今は真面目に働いているって九条社長が言っていたけど。他の社員もいる手前、しばらくはこっちには戻って来させないって言ってた」 迅くんがそう教えてくれた。 孝介が何かしてくるとか、考えすぎだったのかな。孝介はあれからベガにも現れていない。 本当にこれで|孝介《彼》と離れることができて良かった。 相変わらず迅くんは仕事が忙しくて、一緒にいる時間も短いけれど、それでも彼が「ただいま」と変わらず帰って来てくれるだけで嬉しい。 《《夜の彼は》》激しすぎるところもあるけど、それも彼の愛情表現だと最近は思うようにしていた。そんなある日――。「美月、やっぱり一緒に住むところ探そう?」 仕事から帰って
Terakhir Diperbarui: 2025-11-26
Chapter: 最終話…・・…・…・・…・・「報告は以上です。皇帝陛下」 王座の間。 アイリスについての報告のため、皇居を訪れていた。「うむ。それでアイリス・ブランドンは、その日を境に全く力が使えなくなってしまったということだな」「はい」 アイリスはあの日以降、治癒力が使えなくなった。 いや、正確に言えば力が弱まってしまった。 容姿が変わるほどの力の発現が原因なのではないかと思う。「そこで皇帝陛下、私に提案があります」「なんだ?」 陛下はヒゲを整えながら、珍しいなという風に興味を抱いているようだった。「彼女の治癒力が再度現れる可能性は大いにあります。そのため、彼女を狙ってくる奴等も多いでしょう。それは帝国にとっても敵。逆に彼女が居れば、こちらが有利に働くこともあります。聖女の力は傷を癒すだけではなく、祈りにより人々の心を救います。彼女を守るのは、私に任せてもらえませんか?」「ほう……」 陛下は「任せるとは……?」確信的な部分に触れてきた。「アイリス・ブランドンと結婚をさせてください。この国で一番戦力があるのは私です。夫となり、彼女を守りながら力を引き出し、二人で人々を救います」 皇帝は話を最後まで聞き「承認をしよう。聖女は貴重な存在だ。また力が発現できるよう努めてくれ。国にとっても有益な人物になるだろう」 そう答えた。「ありがとうございます」 俺が頭を下げると「もしも私がダメだと言ったら、どうしていた?そちらを考える方が怖いわ」 ハハハっと声を出して笑った。 皇帝の様子につられて口角が上がってしまったが、もしも許可が下りなかった時、その時はーー。「レオン!おかえりなさい!」 皇居へ向かった後、帰宅をするとアイリスが笑顔で出迎えてくれた。「ただいま」 彼女を抱きしめ、頬にキスをする。 まさか自分にこのような大切な存在ができるとは思わなかった。「陛下は理解してくださった。今度二人で挨拶に行こうか?」 アイリスには事前に全て説明をしていた。「もしも力が戻ったら、人々のために使いたい」そう言ってくれたのは彼女だった。「はい」 彼女は最初に出逢った時と全く違う表情、頬には赤みがさし、目には生気が宿っている。「これからも俺についてきてくれるか?」「もちろんです。誓います」 彼女は迷いもなく、そう笑顔で答えてくれた。…
Terakhir Diperbarui: 2025-10-15
Chapter: 想っているから 4「間に合って良かった」 彼はそう言うと剣が腹部に刺さったまま、騎士の首に肘をつき、彼を気絶させた。「ぐっ……」 腹部から剣を抜くと鮮血が辺りに飛び散り、レオンも倒れてしまった。 彼を抱き起こし、腹部に力を注ぐ。「絶対に死なせない!」 お願いだから、治って! 願うも彼の出血は止まらなかった。「……。アイリス。逃げ……ろ。致命傷になった傷は……。聖女でも治せないと聞いた」「嫌!絶対に治す!あなたは私が死なせないから!」 お願い、お母様!助けて! その時、魔導師が近くに現れ「お前は兄を殺した。復讐がやっと叶った」 ニヤリ笑って、こちらを見ている。「逃げろ……。お前だけでも……」 レオンが震えているのを感じた。 顔色も悪くなっている。「愛してる……から」 彼の視界はボヤけているようで、目線が合わなかった。 いやよ、いやだ。神様、どうか……。 私の力がなくなってもいい。 一生使えなくても良い。 私の命と引き換えでもいいから! どうか、助けてください! 彼を抱きかかえながら祈る。「バカだな。二人そろって死ね!」 魔導師が私たちに向かって火を放った。 その刹那――。「なぜだ。何が起こっている」 自分でもわからなかった。 私の髪の毛は金髪になり、光が私たちを包んでいる。「アイリ……ス?」「レオン?」 彼を見ると顔色も戻り、血も止まっていた。「片目と髪色が金色になっている?」 自分ではわからなかったが、レオンが私の容姿を見て呟いた。「もう一度だ!死ね!!」 先ほどよりも大きな火の玉がこちらに向かって飛んできた。 レオンが呟くと私たちの前にシールドができ、炎を弾いた。「先にあいつを倒す」 彼はスッと立ち上がり、剣を腰から抜いた。 魔導師が慌てて何かを放とうとするも、彼の早さにはついてこれず、切先が身体を二つにした。「全て燃えろ」 レオンが唱えると魔導師の身体は青い炎に包まれ、一瞬にして炭になった。「レオン、どうなっているの?」 気づけば私の髪色と目の色は黒に戻っていた。「俺にもよくわからない。が、本来の聖女の力が最大限に引き出せたのではないかと思う」 それよりも……と「ケガはないか!?」 カバっと両腕を掴まれ、ジッと顔を覗き込まれた。「大丈夫。レオンが守ってくれたから。レオンは
Terakhir Diperbarui: 2025-10-14
Chapter: 想っているから 3 次の日――。 レオンは、休暇が取れたから街に出かけようと言ってくれたが、急な仕事が入ってしまったらしく、私はできる限りの雑用をこなしていた。 彼が今まで通りの生活ができるよう、配慮してくれたのだ。 執事長とメイド長はなんだか態度がぎこちないけれど、役に立ちたいという想いが強くなった。 二週間後――。 レオンと共に街に出かける機会ができた。 私も王都へ行ったことがなかったので、楽しみにしていた。レオンが用意してくれたドレスを着れることも嬉しい。「綺麗だ。似合っている」 そんな言葉をかけられ、浮かれていたのかもしれない。 いつものブローチをせず、ドレスに合った色合いのブローチを選択した。「レオンが一緒だから大丈夫よね」 不安要素などなかった。 二人で街を歩いていると「泥棒だ!誰か!助けてくれ!!」 そんな声が聞こえた。「レオン!行ってください!私は大丈夫です。騎士様たちと一緒にいるので」 私たちには一応、護衛の騎士、三名が同行していた。「わかった!すぐ戻る」 レオンは一人の騎士をつれ、声の方向へと走って行った。「アイリス様。巻き込まれたら危ないです。避難しましょう」 二名の若い騎士と一緒に、乗ってきた馬車が駐めてある広場へと移動している時だった。 黒服の男が急に現れ、私たちの前に立ちはだかった。「なんだお前は!?」 以前見たことのある、魔導師に似ている。 けれど、あいつはレオンが倒したし……。 騎士が剣を取り出そうとした時――。「うわぁぁ!!」 魔導師が何かを唱えたかと思うと、もう一人の騎士を刺していた。「な……」 ガクンと膝から崩れ、地面には血だまりができている。こんな深い傷、早く手当てをしなきゃ。 でも治癒力を使ったら……。 ううん、そんなことを考えている時間はないわ。 私は意識を集中させ、倒れている騎士に力を注いだ。「う……、あ……」 良かった、意識は取り戻したみたい。 ホッとしたのも束の間「アイリス様、離れてください!身体がいうことをきかない……!」 騎士の剣の切先が私へと向けられていた。 魔導師に操られているの? レオン、助けて……。 ブローチへ願おうとした。 けれど、今日は着けていないんだった。 自分の状況に絶望と恐怖を感じる。 騎士の剣が私に振り下ろされる
Terakhir Diperbarui: 2025-10-13
Chapter: 想っているから 2 彼の部屋の前で深呼吸をし、ノックをする。「アイリスです。夜遅くに申し訳ございません。どうしても会いたくて」 私がドア越しに声をかけると「アイリス。どうした?こんな時間に」 彼は驚いていたが私を部屋に入れてくれた。「あのっ」 私が話そうとすると「レディが屋敷の中とはいえ、こんな時間に一人で出歩くのは感心しない」 腕組みをしながらソファに座った彼に行動を咎められた。「申し訳ございません」「しかし正直なところ、アイリスが俺の部屋へ訪問してくれることは嬉しい。だから今度からブローチへ願え。そうすれば迎えに行くから」 あれ、怒っていない。いつもの彼だ。「カートレット様に謝りたくてきたんです。エリスの件で私が発言したことを謝罪させてください。私は何もわかってはいませんでした」 深く頭を下げた。「いや。あんなことをして、アイリスに嫌われてしまったかと思った。お前が被害に遭ったんだ。きちんと意見を聞くべきだったな。すまない。今日は夜遅いから。部屋へ戻ってゆっくり休んでくれ」 彼はそう言うと、私を部屋へ送っていくと立ち上がった。 なんだか嫌われてしまった気がして、ツーと私の目から涙が零れた。「嫌です。カートレット様、私のこと、嫌いになってしまいましたか?強情な自分勝手な女だって」 はじめて恋というものをしたからだろう。 自分の感情がよくわからない。 心が繋がった相手と気持ちが離れてしまうのが怖い。 フッと笑い「そんなわけないだろう」 彼はギュっと私を抱きしめてくれた。「カートレット様。私はあなたからずっと離れません。だからあのようなことは言わないでください。これからは私があなたを支えていきたい。愛しています」 自分の口から愛しているなんて言葉が出てくるなんて思わなかった。 彼は強く私を抱きしめ返し「ああ。ずっとそばにいてくれ。愛している。俺がお前を守るから」 涙を拭いながら、優しく微笑んでくれた。 その夜は忘れない。はじめて身体を重ねた。 唇が腫れるんじゃないかと思うほど、キスを繰り返し、お互いを求めた。「ん……っ、あぁ!」 胸の膨らみの下をチュッと強く吸われ、声が漏れる。「俺のものだという印だ」「は……い。カートレット様のものです」 私が悶えながら答えると「レオン。名で呼んでほしい」 これを意味することが
Terakhir Diperbarui: 2025-10-12
Chapter: 想っているから 1 カートレット様と心が通じ合ったと思ったのに、離れてしまったの? でも彼の行為は、私には理解できない。 その時、部屋をノックする音が聞こえた。「はい」「カイルです。夜分遅くにレディの部屋に申し訳ないのですが、一言伝えたいことがあって。入れていただけませんか?」 副団長のカイル様だった。「どうぞ」「失礼します」 ポスっとソファに座り、彼は神妙な面持ちで話し出した。「こんなことを伝えていることがバレたら、かなり怒られるんでしょうけれど、今日の団長の行いを許してあげてください」 カイル様は私に頭を下げた。「団長の両親は、部下に裏切られて殺されているんです」「えっ!」 ご両親が亡くなられていることはなんとなく察してはいたけれど、殺されていただなんて。「団長の両親、父親は彼ほどではありませんでしたが、有名な騎士でかなりの実力でした。当時の皇帝にも認められていました。それを良く思わなかった部下が罠を仕掛け、魔導師と手を組み、彼の両親を殺しました。自分の地位をあげるためです」 そんな過去があったの?「彼は自分の運命を恨むこともなく、若くしてカートレット家を継ぎ、強くなるために努力を続けました。騎士は普通、魔力には長けませんが、両親のこともあった為、剣術も魔法を使えるように毎日鍛錬を続けました。俺は幼少期から関りがあるから、それを知っていて。彼は、私利私欲の為に人を傷つける奴を許しません。世間では冷酷非道とか言われていますが、本当は優しい方なんです。もしもアイリス様でなくても、大切な人を殺されそうになったなんて知ったら、彼は自ら動くと思います。大切な家族を失くしているからこそ、同じ思いをさせたくないんだと、多くの方を救うために団長となり戦っているんです」 彼の言葉は続いた。「アイリス様はお優しいから、今回の仕打ちを酷いことだと感じていらっしゃるかもしれませんが、例えば、自分の大切な人が殺されそうになったら、傷ついたら……。同じようなことが言えますか?」 もしもお母様が生きていて、殺されそうになったら……。 私はその人をきっと許せない。 甘い考えだったんだとつくづく実感させられた。「殺人を起こそうとした者は罪人です。それを裁かず、監獄に送らなかっただけでも団長なりの配慮なんです」 彼は私の部屋から去る時に「いや、でも本当にやりすぎだと
Terakhir Diperbarui: 2025-10-11
Chapter: 裏切り 11 彼女の姿を見て「一体どういうことだ。エリスが人を殺そうとするわけがない」「どちらが正しいんだ」「エリスはずっとご主人様を慕ってきたわ。この子がそんなことをするわけがない」 口々にエリスを擁護する声が聞こえてきた。 やっぱり、まだ来て間もない私が信じてもらえるはずはないわよね。 泣き叫ぶエリスに驚嘆を隠せない人々、雑音がその場を占めた時――。「黙れ。これが真実だ」 あれ、カートレット様にもらった私のブローチが熱いような――。 すると、ブローチから光が溢れ、映像が映された。 これはさっきの私たちだ。<貴方なんて居なくていいのよ。邪魔者。バカな女> エリスが言葉を発した次の瞬間、私は彼女によって突き飛ばされている。「なっ!これは!?」「エリスが殺そうとしたのか?」 騙すことのできない証拠を突き付けられ、彼女は絶句している。「エリス。今すぐここから出て行け」 彼が冷たく言い放った。「そんな!カートレット様!待ってください!私は、あなたのことを一番に慕っていて!それをこの女がっ!」 すがりつく彼女に「罪のない人を平気で殺そうとした奴は、俺の従者には要らない。出ていけ。これ以上騒ぐと裁判にかけるぞ」 容赦ない彼の言葉が待っていた。 出て行けって、彼女は家族から見放されたって言っていたし、行くところもないんじゃ。「カートレット様。彼女に猶予を与えてあげてください」 私は運よく生きている、反省しているのなら許してあげてほしい。「ダメだ。カイル、こいつを連れて行け」 駆け付けていた副団長のカイル様に命じ「アイリス。悪かった。本当はこのブローチから事実を見ることができたんだ。キミの口から正直に話してほしくて、先ほどは黙っていた」 私にそう伝えてくれた。 カイル様と数人の騎士がエリスを連れて行こうとすると「あんたなんか来なければこんなことにはならなかったのに!この魔女め!!」 私に向かってエリスが叫んだ。 私なんていなければ……。 たしかに私が現れなければ、彼女は今まで通りここに勤めて、普通の生活を送っていただろう。 心が乱れることもなかったかもしれないのに。 彼女の気持ちを考えるとチクッと心が痛んだ。 なんて言葉をかけて良いのか悩んでいた次の瞬間、青い光が彼女の耳元をかすめた。 青い閃光は壁を突き抜け、チリチ
Terakhir Diperbarui: 2025-10-10
Chapter: 溺愛デート 2 <番外編>「うん。いいよ」 二人で海斗の部屋へ帰宅することになった。「先にお風呂でも入っておいで?なんか映画でも見ようか。準備しておくよ」「うん」 言われるがまま、シャワーを浴び、海斗の洋服をかりた。 同じマンションだから、帰れば自分の服はあるのに。少し大きい海斗のTシャツとハーフパンツにドキッとしてしまう。「先にシャワーありがとう。海斗もどうぞ」 タオルを羽織っている私の姿を見て、一瞬海斗の動きが止まった。「うん。じゃあ、行ってくる」 しばらくして、海斗が戻ってきた。 まだ濡れている髪の毛が色っぽい。 本当にこんな人が私の彼氏……《《役》》なんだ。 私以外にも適任がいっぱいいそうなのに。 はずかしくて海斗を直視することができない。「わたしっ!なんか飲み物持ってくるねっ!」 喉なんて乾いていないのに、雰囲気に馴染むことができず、急に立ち上がった。「あっ」 慣れていない海斗の部屋、机に足をぶつけてしまい、よろけてしまった。「くるみっ!」 転びそうになったところを海斗に腕を引かれ、反動でベッドに二人で倒れこんだ。「あ、ごめん」 海斗の上に倒れかかった私は、すぐに退こうとした。 がーー。「ダメ。離さない」 海斗にギュッと抱きしめられる。「えっ、重いから。離して」 こんなゼロ距離、耐えられない。 お風呂上りの良い匂いがするし、彼の体温を感じた。心臓の音が煩くなる。「キスしてくれたら、離してあげる」 私の耳元から聞こえた彼の声にゾクっとしてしまった。 海斗とは一線を超えてしまってはいるけれど、そんなことを続けていたら彼からどんどん離れられなくなる。「キスしてくれないとずっとこのままだからね」 フッと笑う海斗、どことなく楽しそうだった。 私のこと、からかっているんだ。「わかった」 観念した私は、顔をあげ、海斗の頬にキスをした。「はいっ!キスしたから離し……」 海斗に目線を合わせた時「んっ……」 海斗からキスをされた。「んんっ……」 これは普通のキスではない。「はぁっ」 海斗の舌が絡まって、離れる度に吐息が漏れる。「ちょっ……」「くるみに隙がありすぎて、心配になった。俺のくるみだってことをわからせて?」 どういうこと……? キスが激しい。リップ音が室内に響く。「私は、海斗のだからっ」
Terakhir Diperbarui: 2025-08-15
Chapter: 溺愛デート 1 <番外編> マンションのエントランスで待ち合わせをして、海斗《彼》を待っている。 彼と言っても「《《本当の彼氏》》」ではない。契約で結ばれている、愛のない偽りの関係。 だけど、偽りの関係なんかじゃないと思う瞬間が多く、私は戸惑っている。 なんせ彼氏の「海斗」は、私に対してとても甘い。 偽装彼女だから、そんなに気を遣わなくてもいいのに。「くるみ、お待たせ」「ううん。私も今来たところ」 待ち合わせ場所に現れた彼は、爽やかなジャケットにジーンズという服装。 ラフな格好に見えるが、彼の容姿の良さを邪魔しないシンプルな服装だった。 かといって私は「張り切ってきました」と言わんばかりの服装。短めのスカートに髪の毛はアイロンで緩く巻いてみた。お化粧もいつもより濃い気がする。「今日のくるみも可愛いね」 会った瞬間にそんなことを軽く言う彼は、本当にそんなことを思ってくれているのだろうか。 今日は、映画館デート。「私、見たい映画があるんだ」 そんなことを呟いたら、それを聞き逃さず「今度行こうよ」と自然な感じで誘ってくれた。 映画館に着き、エスカレーターで二階へ行く。「くるみ、先に乗って」 エスカレーターに乗る時に、そんな提案をされた。「うん」 どうしてだろうと思ったけれど、その時は気にもせず、チケットを買い、席へ座った時だった。 幸い、映画館はそれほど混んではなく、満席ではない状態だった。「まだ時間があるし、飲み物買ってくるね」 そう言って彼は席を外した。「うん、ありがとう」 私が海斗に気を遣わなきゃいけないのに。 彼の私ファーストの行動がいつもの私を狂わせる。 こんなに大切にされたことなんてない。元彼と比べてはいけないけれど、大和にもされたことがなかった。 海斗が席へ戻ってきた。「おかえり」 私が声をかけると 「くるみ、膝の上にこれ使って」 渡されたのは海斗のジャケットだった。「あ、ごめん。ありがとう。でもそんなに今日寒くないよ」「ん、そんな意味じゃなくて。俺が嫌なの」 彼は言葉を選びながら伝えてくれた。短いスカートとか、嫌だったのかな。ひざよりも少し上くらいなんだけれど。スタイルも良くないのに、そんな服装をしてくるなと思われたんだろうか。「ああ。ごめん。こんなカッコ
Terakhir Diperbarui: 2025-08-14
Chapter: 本当の彼女「だって、海斗のこと信じてたから。絶対にそんなことする人じゃない」 海斗の手を思わず握ってしまった。「あー。ダメだ。くるみ、可愛すぎる」 会社では見せない私だけの彼の姿、これからもずっと私だけの彼氏であってほしい。 そう、彼のことを守りたいと思った時、私は心の底から海斗のことを好きになってしまったことに気がついた。 さっき海斗に抱きしめてもらった時に、離れたくないと思った。「海斗、本当にごめん。私、ちゃんと彼女役になる自信がなくなっちゃった」 これ以上海斗と一緒にいると、もっと好きになっちゃう。「どうして?今日の挨拶とか、疲れたよね。ごめん。もうそんなことさせないから、普通にそばにいてほしい」 海斗は私の気持ちに気づいているわけではなさそうだ。「違うの。私、海斗の近くにいたら、海斗のこと今以上に好きになっちゃう。本当の彼女になれるわけないのに。一年後にはお別れしなきゃいけないのに……。だから……」「くるみは俺のこと、ちゃんとした恋愛対象で好きだってこと?」「……。そうだよ」 私が答えたあと、沈黙が続いた。 怖くて彼の顔を見ることができない。「あ――。ごめん。心の整理が必要で……」 やんわりとフラれてしまった。 一年後にはもっと傷が深くなっていたし、感情ももっともっと重くなっていたと思うから。ここできちんとフラれて良かったかもしれない。「俺は、くるみのこと、ずっと前から本気で好きだったよ。諦めようと思ったけど、無理だった。だからこの一年をかけて、偽装彼氏ってことを利用してまで、好きになってもらえるよう努力していこうと思ったんだ」「えっ」「俺はくるみのことが好き。だから、本当の彼女になってほしい」 海斗が私のことを好き? 嘘じゃないよね、夢でもないよね……。 隣にいる彼を見つめる。海斗の顔はいつもよりも赤かった。「はい!」 かみしめるように返事をしたあと、隣にいる海斗に飛びついた。「昔も今も――。大好きだよ」 海斗は私を優しく抱きしめてくれた。 半年後――。「ちょっと、海斗!大丈夫だよ!面接に行くだけじゃん」「いや、会場前まで送っていくよ。男性社員が多いって聞いたから。変なやつに声でもかけられたら……」 私は転職活動をしている。 海斗とは順調に交際を続けていて、私の夢だった、ゲーム開発会社で働くこと
Terakhir Diperbarui: 2025-08-12
Chapter: 無謀な計画 4 海斗は決起会が終わってからも、上層部との付き合いがあるため、私は先に帰宅することになった。「お疲れ様。今日はゆっくり休んで」 海斗が一番大変だったはずなのに、帰り際に疲れた顔一つ見せず、私に伝えてくれた。 帰宅し、シャワーを浴び、ベッドに横になるも眠れない。 海斗に会いたい、あんなことがあったのだから、海斗だって精神的にも疲れているよね。私にできることがあれば、何かしてあげたい。 それは本心からで、偽装彼女だからという配慮からじゃなかった。「海斗に会いたい」 ポツリ、言葉に出してしまう。 そんな時、スマホが鳴った。 電話? 相手を見ると、海斗だった。「お疲れ様。海斗、大丈夫?」<お疲れ様。今日はありがとう。くるみ、嫌な気持ちにさせてごめん。帰ったあととか、大丈夫だった?何かされるようなことはなかった?> 自分の心配をしないで、私を優先して考えてくれているの?「私は大丈夫!海斗こそ、大丈夫なの?」<ああ、問題ないよ。あそこまでしてくるなんて、想定外だったけど。海外で生活してた時に危ない目に遭ったことがあって。最近も恨み事が多くてさ。念のために仕込んでおいて良かった。あんなところで役に立つなんて思っていなかったけど> 海斗は電話越しに笑っていた。「私、海斗に会いたい」 今彼がどこにいるのかなんて訊ねることもせず、気持ちを吐き出した。<俺もくるみに会いたい。会いに行ってもいい?実はもう帰ってきたんだ> 数分後、海斗は私の部屋に来てくれた。玄関でギュッと彼を抱きしめる。「おかえり」「ただいま」 海斗も抱きしめ返してくれた。 彼の胸の中がこんなにも安心できるなんて。 同時にチクりと心が痛んだのを感じた。 一年だけなのに……。 私はあくまで本当の彼女ではないのだから。 二人でソファに座る。 私は自然と海斗に肩を預けていた。「どうしたの?今日は。くるみから甘えてくれるなんて嬉しいんだけど」「なんか、海斗に甘えたい気分」 可愛げがない発言かもしれない。 もっと素直に「甘えたいの」と伝えた方がいいのかな。「今日のことは……。吉田さんたちのことは、くるみは何も考える必要はないから。あんな元彼のこと、もう忘れて」「あの人たち、どうなるの?」 会社の士気をあげる大切なイベントに酷い騒ぎを起こしたのだ。 処分は
Terakhir Diperbarui: 2025-08-10
Chapter: 無謀な計画 3「今日は会社にとって大切な日でしたので、真実は別のところで証明しようと思ったんですが。僕の大切な彼女をこれ以上悲しませるわけにはいきませんから」 彼はフフっと笑って、私を見た。 あ、これ、海斗がゲームをしていて余裕で勝った時と同じ顔をしている。 その後、当事者を集めてパソコンを使い、吉田さんが海斗に襲われたと証言している時の映像を見ることになった。……――……<龍ヶ崎部長、雨宮先輩のことで話があります。少しいいですか?> ホテルの廊下に映し出されたのは、海斗と吉田さん二人だけだった。<すみません。吉田さんと二人だけで話をする場ではありませんので。本当に必要なことであれば、別日に改めてください> そう言って海斗が吉田さんの隣を通りすぎようとした時だった。 急に彼女が胸元からボタンが弾けるほど、洋服を引っ張り<キャアー!!誰か来て!!> 大声で叫んだ。<なっ?> 海斗が一瞬戸惑いを見せると、大和を含めた数人の男性がかけつけた。<龍ヶ崎先輩に襲われそうになって。助けてください!> 彼女は数人の後ろに走り込み、身を隠すようにその場に座り込んだ。……――…… 映像を見る限り、映し出されていたのは、完全なる彼女たちの自作自演だった。 呆然と画面を見ている吉田さんは、冷や汗をかいているようで、顔も青ざめていた。大和たちも映像を見ることなく、目を逸らしている。「これで僕は潔白です。虚偽ですよね、このまま警察に行きますか?」 海斗が当事者に向かい、鋭い目線を向けた。 その時――。「何の騒ぎですか?」 一人の背の高い気品のある高齢の男性が現れた。「会長……。それが……」 上層部が今の出来事を説明すると「よくこの場でこんなくだらない真似をしてくれたね。今日は息子の晴れ舞台だっていうから、足を運んだのに。キミたちの社長には、しっかりと伝えておくよ」 高齢男性は吉田さんたちに向かって、冷静にも怒りを伝えている。 会長って言われているけれど、うちの会社の会長ではない。 でもこの人、どこかで見たことがある気がする。 あれ……。ん!?息子?今、海斗のことを息子って言ったよね……。 まさかっ……!「久しぶりだね。くるみちゃん。元気にしてた?」 私に目線を向けたその人は、高校時代、お世話になった海斗のお父さんだった。 もしかして
Terakhir Diperbarui: 2025-08-08
Chapter: 無謀な計画 2 しばらく何もせず、ただ通り過ぎる人を見つめていた時だった。 私のスマホが鳴った。由紀からだ。 由紀も決起会に参加しているはず。「どうしたの?」 私が声をかけると<くるみ、どこにいるの?海斗さんが大変なの!今すぐ会場に戻ってきて!> 切羽詰まった様子に、慌てて飛び出し、会場まで走った。 海斗が大変ってどういうこと!? 会場に戻ると、空気がおかしく、人だかりができていた。「私はやめてくださいって言ったんです!なのに強引に龍ヶ崎部長が迫ってきて……。服を途中まで脱がされて……」 あぁぁぁっと大きな声で泣いている吉田さんがいた。 え、これはどういう状況なの?「くるみ!大変なの。龍ヶ崎部長が吉田さんを襲おうとしたって、彼女騒いでいるのよ」「そんなこと海斗がするわけない!」「それが、目撃をした人がいて。大和さんも証言しているし、その他にも……。今、決起会どころじゃなくなっているの」 大和は吉田さんに都合よく使われているだけだ。 だけど、他にも見た人がいるって。 どうして?「海斗はどこ?」 姿を探しているが、見当たらない。「別室で事情を聞かれているわ」 私は場所を聞き、走って向かった。 扉を開け「海斗!」息を切らしながら、彼から直接事情を聞こうとするも「今、本人から事情を聞いているところです。席を外してください。もしかしたら警察に通報することになるかもしれません」 会社の上層部らしき人に、出て行ってくださいと手で誘導をされた。 海斗は「くるみ……」 一言だけ私の名前を呟いただけだった。 目線と口角は下がり、不安そうな表情をしている。 どうして自分はやっていないと否定しないの?「絶対に部長はそんなことをする人じゃありません!私、さっきまで彼と一緒にいました!そんなことをする時間はありません。きちんと調べてください」 叫ぶように伝えるも「あなた、部長の彼女でしょ。普通、彼を擁護しますよね。事実確認ができるまで出て行って……」 怪訝そうな顔をされ、出て行ってと押された。「彼は頭が良くて、冷静で、自分を抑えられる人です。こんなところで人を襲うわけないじゃないですか!誰ですか、目撃した人って。嘘をついているに違いありません!」 海斗は絶対にそんなことをするような人ではない。「海斗!ちゃんと言ってよ!やってないって!
Terakhir Diperbarui: 2025-08-06