LOGIN見合い結婚をした、九条 美月(くじょう みつき)は夫からの愛情を受けることなく仮面夫婦を続けていた。 夫である孝介(こうすけ)の豪遊、浮気、監視されている環境が耐えきれなくなり、孝介が出張中にふらり気分転換へ出かけた美月。 そこで加賀宮(かがみや)という謎の男性に出逢い、美月の運命は変わっていく――。 ※このお話はフィクションです。 ※過激な描写があります。苦手な方はご遠慮ください。 ※イラストは武田ロビ様に描いていただきました。作中に挿絵があります。 イラストの無断転載・転用、二次利用禁止です。
View More住宅街から少し離れた、築数十年は経過しているであろう木造の二階建てアパート。部屋数は六戸。
私は二階へと続く階段を登り、202号室のインターホンを鳴らした。<ピンポーン>
インターホンの音だけが響き、中の住人の声は聞こえない。
<トントントン>
ノックをする。
「居るんでしょ。開けて」
私がそう声をかけると、ゆっくりとドアが開いた。
「お疲れ様」 一言だけ発し、彼は部屋の中へ戻って行く。私は彼の後ろ姿を追った。 六畳一間のワンルームには似合わない大きなベッド。部屋の中は相変わらず物が散乱している。 汚い。 でも私には関係ないと割り切ることにしている。私は
「さぁ、始めましょう?」 平然を装い、彼に伝えた。本当はドキドキしてるなんて口が裂けても言えない。
自分からブラウスのボタンを外し、その場にポスっとブラウスを置く。 次にスカートを脱いだ。「どうした?今日は積極的だな」
下着姿の私を嘲笑うかのように彼はフッと笑った。
ライトブラウンの少し長めの髪の毛、大きな瞳なのにどこか鋭い目、鼻筋はスーと通っている。いわゆる容姿端麗だ。 ベッドの上で胡坐をかいている彼に私は目を向ける。「勘違いしないで。早く終わらせたいだけだから」
そう伝え、彼に近づき、自分から唇を重ねた。
部屋の中にリップ音が響く。 「んっ……」 舌を入れられて、思わず吐息が漏れてしまった。どうしていつもこうなっちゃうんだろう。
この人に屈したくはないのに。ベッドに押し倒され、キスされながら下着を脱がされる。
抵抗はできない。 「んん……あ……」 耳朶をカプっと噛まれ、感じたくはないのに身体が反応している。 こんな自分が恥ずかしく、悔しい。「身体は素直だな。
「そんなことない!」
悔しくて言い返したが、彼が私の身体に触れる度に自分じゃなくなっていく。 あぁ。こんなことならあの日、出かけなきゃ良かった。 そうしたらこの人と出逢うこともなく、こんな契約も結ばなくて良かったのに――。「お疲れ様です。オーナーが女性を連れていらっしゃるなんて、初めてですね」 バーテンダーさんが迅くんに声をかけた。 私は今、迅くんと再開したBARに彼と一緒に来ている。「もしかしてあの時の方ですか?」 私のこと、覚えているの? かなり前のことなのに。すごい記憶力。「そうなんです。よく覚えていますね。やっと僕の彼女になってくれたんですよ」 敬語で離す彼は、社長モードだけど、声音は穏やかだ。「オーナーが自分から女性の隣に座るところをあの時初めて見たので、よく覚えています」 慣れた手つきで手際よくカクテルを作り、スッと私の前にグラスを置いてくれた。 あの時と同じ、綺麗な瑠璃色だ。 カクテルを一口飲む。「美味しいです!」 そして覚えていてくれたからこそ、アルコールも少なめにしてくれたみたい。飲みやすい。「それは良かった」 このバーテンダーさんとは、オープン当初からの付き合いらしく、紹介したいと迅くんから言われた。 お店を出る時に「幸せになってくださいね」そう温かな声をかけられた。 あっ、そう言えば……。「ねぇ、迅くん。今日カクテルニ杯くらい飲んじゃったけど、あの時みたいに変なカクテルにすり替えてないよね?Love Potionとかって言うお酒」 私が見ている限りでは、変な素振りもなかったし、迅くんがお酒を作ることもなかった。だけど、たまに予想以上のことを彼はするから心配だ。 一時的なものかもしれないけど、またあんな身体にされても困る。 タクシーを拾おうとしていた迅くんの動きが止まった。しばらく無言だったが――。「……。ごめん。あれ、嘘」 ウソ、ウソって?「あれは俺が咄嗟についた嘘。惚れ薬とか媚薬とか、そんな効果はない。Love Potionの中身は普通のオレンジジュースとピーチリキュール、あと……」「ちょっと!迅くん!!私、信じてたんだけど!」「美月はあの時から俺と結ばれる運命だったんだよ」 彼の一言で何も言い返せなくなったが、裏切られた気分になった。 じゃあ、普通のお酒で私あんな風になっちゃったの!?同時に恥ずかしくもなって……。「迅くんのバカ」 涙が出てきた。「美月!?泣くなよ!」 私の涙に慌てている彼は、子どもの頃と同じ顔をしていた。 その後――。 私は|カフ
その後の生活は、迅くんが言った通り、大変な騒ぎとなった。 あの九条グループ社長の息子が怨恨による犯行で、他企業社長を刺したというニュースは、面白おかしくメディアで取り上げられた。 社員からの告発で、孝介が私的に会社のお金を横領していたことも世の中に知られる形になってしまったし、どこで情報が洩れたのか不倫をしていたことも報道された。 孝介の父である九条社長は責任を取って退任し、今は河野さんって人が社長になったと聞いた。 もちろん、私にも何人もの記者が取材に応じてほしいと依頼が来たけれど、全て断っている。 迅くんのアパートに住んでいることがバレたらまた面倒なことになるため、彼の配慮でホテルを転々としながら生活をしている。 毎日迅くんとは電話をしているが、彼とも会えていない。 そんな生活が続いた、一カ月後――。「迅くん!」 久しぶりにアパートで彼と会えることになった。「会いたかった」 彼に抱きしめられる。 どうしてこんなに落ち着くんだろう。「ごめん。大変だったな」「ううん。迅くんの方が大変だったでしょ。もう傷、痛くない?」「あぁ。大丈夫。明日、美月と一緒に行きたいところがあるんだ」 明日?どこだろう。「うん。どこ?」「秘密」 彼が秘密って言う時は、何かを考えている時だけど。何をするんだろう。 次の日の夜、迅くんに連れてきてもらった場所は――。「ここって。小さい頃、迅くんと初めて会った公園だ!」 車から降り、誰もいない公園を二人で歩く。 遊具は随分と変わってしまい、迅くんと一緒に会話をしたあのトンネルもなかった。「懐かしいな。小さい頃の迅くんと過ごした記憶がなくなってたこと、本当に後悔してる」 この公園で出会って、二人で遊びながら過ごして、成長して……。 あのまま迅くんとずっと一緒に過ごしていたらどうなっていたんだろう。 私の初恋の人は迅くんだったし、迅くんもあの時の私のことを好きだと言ってくれた。 大人になってもその関係は続いていたんだろうか。 もし彼の近くにあのまま居ることができたら、少しでも彼を助けてあげられたかもしれない。「美月が悪いわけじゃない。後悔なんてしなくていい。今こうやって一緒に居られることが大切だろ?」 彼が手を繋いでくれた。<今一緒に居られることが幸せ> 過去には戻れない
あっれ……。なんかおかしい。「約束な?」「えっ」 目を擦り、涙を一生懸命拭い、彼と目を合わせる。 迅くんの顔を見ると、薄っすら笑っているような……。 確かにワイシャツに血が付いてる。 だけどよく見ると、出血量が増えていない気がした。 これは――。「加賀宮さん。もういい加減、やめてください。ほんとーに美月さんに嫌われますよ」 亜蘭さんが全然心配してない。「どういうこと?」 私が状況を理解できないでいると――。「はぁ。痛いのは本当なんだから、少しくらい労われよな。亜蘭」 そう言って彼は上半身を起こした。「迅くん、大丈夫なの?」「大丈夫。俺があんなやつにヤられるはずない。あいつが俺を刺そうとした時、わざとちょっとだけ刺された。ナイフ掴んで止めたから、手も切れてる。けど、死ぬようなケガじゃない」「念のため、ハンカチ、手に巻いといてください」 亜蘭さんが切れている迅くんの手をハンカチで止血した。「あー。さっきの美月、可愛かったな」 そんな呑気なことまで言っている。 私は空いた口が塞がらない。 でも――。「良かったぁ……」 安心したからかまた涙が出てきた。 その時、パトカーの音と救急車の音が聞こえた。 「通報はしておきましたから。こんなことして、あの人。九条社長もしばらく忙しそうですね。大きなニュースになりそうですよ。それに、うちの会社も」 はぁぁぁと深く重い溜め息を亜蘭さんは吐く。 孝介は、周りの人に抑えられていた。 けれど、迅くんが普通に立ち上がっているのを見て、目を見開き、驚いている。「お前!!なんで!!?」 再び暴れそうになった孝介を周りの人が再度押さえつける。亜蘭さんも手伝っていた。 そんな孝介に迅くんは「好都合だった。ありがとう」 私には向けない冷たい眼で言葉をかけた。 間もなく、救急車と警察が駆けつけ、私たちは事情を説明し、迅くんは救急車で病院へ運ばれた。 私は救急車に同乗し、引き続き亜蘭さんは警察に事情を説明していた。 病院で治療後、警察にはありのままの話をした。 その後、迅くんのアパートに帰宅し、今私は二人分の温かいお茶を淹れている。 迅くんは腹部と手のひらに刺し傷と切り傷。 軽傷とまではいかないけど、命に別状はない。「また傷跡、残っちゃうかな。私のせいで」
「久しぶりです、加賀宮さん。まさか、そういうことだったんですね。あなたが必死に俺を美月から離そうとする理由がやっとわかりました。ただの知人じゃなかったわけですね。俺はあんたらに騙されたわけだ」 久しぶりに見る孝介は、この前よりもかなり痩せていた。眼は充血しており、顔色も悪い。「お久しぶりです。こんなところで何をしてるんですか?もう美月さんには関わらないでほしいと九条社長を通して何度もお伝えしたはずですが」 迅くんは私を庇うように前に立っている。「父さんはもう関係ない。本当にイライラする。まさか美和だけじゃなく、美月にまで手を出していたんだな。俺が相当羨ましかったのか?九条グループの次期社長だった俺がそんなに妬ましかったのか?だから回りくどい方法を使い、俺を引きずり落として……」 孝介の言葉は異常だった。 考え方がおかしい。 そして怒りからか、手が小刻みに震えている。「なぜそんな発想になるのか理解できません。あなたを一度でも羨ましいと思ったことなどない。バカな人だとは思いましたけど」 ちょっと! 迅くん、ケンカ売ってるの? 間違ったことは言ってない。けれど、今の孝介にそんな言葉をかけたら余計興奮するじゃない。「はっ!そもそも俺が不倫とか言う前に、お前らはもうとっくにデキてたわけだ。クソ!!全部、全部、全部、お前が悪いんだ!!お前のせいで!!」 孝介はカバンから何か取り出した。「美月、俺から離れて。警察を呼んで」 孝介が取り出したのは、ナイフだった。 まさか、本当に!?「うんっ!」 私は震える手でスマホを取り出し、通報しようとした。 が――。「お前も美月も一緒に殺してやるよ!!」 孝介が私たち目掛けて走り出した。「美月、離れろ!」 私は迅くんの指示に従い、走り、二人から距離を取った。早く通報しなきゃ。 その時「キャー!!」という悲鳴が聞こえた。 迅くんを見ると、孝介との距離がとても近い。 迅くんは、お腹を押さえているように見える。「加賀宮さん!!」 亜蘭さんが走ってくるのが見えた。「やめろ!」という声と共に、亜蘭さんは孝介を蹴り飛ばした。 その反動で孝介は転倒するも、迅くんは立ったままだった。「迅くん!!」 彼に駆け寄る。 孝介は周りの通行人が取り押さえてくれ