Chapter: 垣間見た力の片鱗「今日は遅いので明日の朝、ここの1階に集まりましょう」ニイルの言葉でその日は解散となった。レイもセストに到着したばかりである。拠点とする様な場所も探しておらず腰を落ち着けたい気持ちもあったので、逸る気持ちを抑えながら賛同した。幸いこの宿屋の空き部屋を借りられたので、その日はゆっくりと休む事が出来たのだった。翌朝レイが1階に降りると3人はもう揃って、レイを待っていた。「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」「おはよう。お陰様でね。待たせてしまったかしら?」「いえいえ、これから朝食をとろうとしていた所ですよ。良ければ食べながら話しませんか?」そう言われ空いている席に案内される。レイもお腹が空いていたのでその提案に乗り、店主に注文をする。頼んだ朝食が並び始めたところでニイルが切り出した。「さて、修行を行う約束でしたが、まずはお互いの力量を知らなければなりません。こちらもあなたがどれだけ出・
最終更新日: 2025-06-18
Chapter: 今までとこれからと周りのざわめきを置き去りに案内されたのは酒場の2階、つまり宿屋として解放されている部屋の一室だった。どうやら彼らはこの宿屋を拠点として生活しているらしい。全員が室内に入り備え付けの椅子に座った所でニイルが口を開いた。「改めまして自己紹介から、私はニイルと申します。あぁ、フードで隠しながらは失礼ですね。こんな見た目だと色々と面倒なもので」そう言いながらフードを脱いだ彼にレイは納得した。所々に白髪が混じっているが基本黒髪の頭に黒目、この世界では黒は不幸の象徴として好まれていないという背景があり、黒髪黒目の彼は相応に大変な人生を歩んできたのだろうという事は容易に想像が出来た。まぁ、それを言うなら自分も相当異・質・なのだがとレイは心の中で苦笑する。「あなたも面倒な見た目をしてたのね?少し安心したわ。なら私もちゃんと自己紹介しないと」そう言ってレイは自身に掛けていた偽装魔法を解除しながら述べた。「レイミス・エレナートよ。こっちが本当の姿なの。お互い見た目が派手だと苦労するわね」偽装していた茶色の髪と目が本来の薄紫色の髪と目に変わる。多種多様な人種が存在するこの世界でもこの見た目の人間を目にする事はほぼ無い。つまりそれは1つの事実を示していた。「その見た目
最終更新日: 2025-06-17
Chapter: 出逢い聖暦1590年「情報屋の話だとここの筈ね」ここはアーゼスト最西端の大陸、ズィーア大陸。その中でも最大の国家であるセストリア王国の首都セスト。その端に存在する酒場である。近くに冒険者ギルドがあるここ近辺は冒険者達の拠点として活用され、この酒場も2階は宿屋になっており冒険者達の憩いの場となっていた。日も落ちかけている現在、そんな訳で周りには見るからに屈強な荒くれ者達が増えている状況において、その可憐な少女はあまりにも場違い感に溢れていた。しかしそんな状況など意に介さず平然と酒場に入っていく少女。周りの客が少し意識し、しかしすぐに酒や料理、話に戻る。それはそうだろう、少女が若い美少女だから目立つだけで女の冒険者はそれこそこの酒場にだって居る。いちいち気にしていたら冒険者なぞやっていけない。ただやはり若・
最終更新日: 2025-06-16
Chapter: それは今も燻り続ける激情(きおく)聖暦1580年「ハア、ハア、ハア!」走る。走る、走る、走る。薄暗い夜の森の中を2人の少女が駆け抜けていく。一体どれだけ走り続けただろうか。行き先も分からず、何が起こったのかも分からず、ただ手を引かれながら足元の悪い森の中をひたすらに走るこの状況は6歳の少女には流石に過酷過ぎた。「も、もう走れないわ!」「もう少しの辛抱ですレイミス様!あと少しで国境に辿り着きます!それ迄走り続けてください!」それでも足を止める事は許されない。足を止めてしまえば待っているのは死、のみだ。幼い少女でもそれ位は分かる。何せ目の前で父も兄も殺されたのだから。逃げる時に国民の悲鳴が聞こえてきた
最終更新日: 2025-06-15
Chapter: それはかつて置いてきた感情(きおく)その日は1日、雪が降りしきるそんな日だった。夜も更け寒さも厳しさを増す中、少年が1人空を眺めながら佇んでいる。しかし少年の周りは寒さを感じず、寧ろ燃えるような熱さに包まれていた。それもそのはず、少年の周りは火の海で囲まれているのだから。周りはかつて建物があったであろう瓦礫が散乱し、更にその中には、かつて人・で・あ・っ・た・モノすらも…まるでこの惨劇を生み出したかの様に夜空を見上げる少年。それもその筈まだ10歳になったばかりのこの少年こそが、この破壊の元凶なのだから。これはそれだけの事を行った大人達ヤツらに対する、復讐だった。当然の報いだろうと少年は思う。なにせ彼等は少年の家族を傷付けたのだ。親にも捨てられ行き場所の無かった自分を、血の繋がりは無くとも家族として迎え入れてくれたあの子達を、あろう事かモルモットとしてしか考えていなかったのだから。だから少年は懇願したのだ。
最終更新日: 2025-06-14