バケモノが愛したこの世界

バケモノが愛したこの世界

last updateLast Updated : 2025-10-31
By:  一一Updated just now
Language: Japanese
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幼い頃、世界から敵と認定され祖国を滅ぼされた元王女のレイミス・エレナート。 全てを奪われながらも仇を討つ事を糧に生きてきた彼女はある日、自らをバケモノと名乗る青年ニイルと出逢う。 復讐を成す力を得る為、彼女はそのバケモノの手を取る事を決意する。 これはヒトとバケモノのモノガタリ

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Chapter 1

それはかつて置いてきた感情(きおく)

 その日は1日、雪が降りしきるそんな日だった。

 夜も更け寒さも厳しさを増す中、少年が1人空を眺めながら佇んでいる。

 しかし少年の周りは寒さを感じず、寧ろ燃えるような熱さに包まれていた。

 それもそのはず、少年の周りは火の海で囲まれているのだから。

 周りはかつて建物があったであろう瓦礫が散乱し、更にその中には、かつてモノすらも……

 まるでこの惨劇を生み出したかの様に夜空を見上げる少年。

 それもその筈まだ10歳になったばかりのこの少年こそが、この破壊の元凶なのだから。

 これはそれだけの事を行った大人達ヤツらに対する、復讐だった。

 当然の報いだろうと少年は思う。

 なにせ彼等は少年の家族を傷付けたのだ。

 親にも捨てられ行き場所の無かった自分を、血の繋がりは無くとも家族として迎え入れてくれたあの子達を、あろう事かモルモットとしてしか考えていなかったのだから。

 だから少年は懇願したのだ。

 自分があの子達の代わりに全てを受け入れる。

 だからあの子達に手は出さないでくれ……

 と。

 しかしそんな子供の戯言に誰が耳を貸すだろうか。

 表向きは安心させる様な事を言いながら、裏では結局変わらず彼等は……

 そんな彼らが嫌いだった……

 家族が傷付くのに耐えられなかった……

 優しい家族が1人、また1人と減っていくのが許せなかった……

 何より、そんな状況なのに何も出来ない自分が何より許せなくて……

 だから少年は今日この日、家族を守る為全てを殺しこわしたのだ。

 と、その時微かに自分を呼ぶ声が聞こえて、少年は周りを見渡す。

 すると遠くに避難させたはずの家族が、こちらに向かって走ってきているのが見えた。

 どうやら避難した先で自分が居ない事に気付きここに戻って来たのだろう。

 その事実に嬉しくなりやはりこれで良かったのだと、少し安堵する少年。

 その時今度は声が聴こえた。

「契約は完了した。これで君は何を成す?」

 まるで嘲笑うかの様に、試す様に、それでいて少し……

 そのどれでもあり、そのどれでも無い様に感じられる声が、そう問い掛けてくる。

 そうだ、自分はこの地獄を終わらせたくて……

 皆を守りたくて……

 だから契約したのだ、と。

 契約が完了した今なら分かる。

 何故彼がこんな問いをしてくるのかを……

 何せ今は

 なのでこの質問にも意味は無い。

 でも改めてこの想いが揺らがない様に……

 この決意が鈍らない様に……

 家族の元に向かいながら呟いた少年のその応えは、夜雪と共に儚く消えるのだった。

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それはかつて置いてきた感情(きおく)
 その日は1日、雪が降りしきるそんな日だった。 夜も更け寒さも厳しさを増す中、少年が1人空を眺めながら佇んでいる。  しかし少年の周りは寒さを感じず、寧ろ燃えるような熱さに包まれていた。  それもそのはず、少年の周りは火の海で囲まれているのだから。  周りはかつて建物があったであろう瓦礫が散乱し、更にその中には、かつて人であったモノすらも…… まるでこの惨劇を生み出したかの様に夜空を見上げる少年。  それもその筈まだ10歳になったばかりのこの少年こそが、この破壊の元凶なのだから。 これはそれだけの事を行った大人達に対する、復讐だった。 当然の報いだろうと少年は思う。  なにせ彼等は少年の家族を傷付けたのだ。  親にも捨てられ行き場所の無かった自分を、血の繋がりは無くとも家族として迎え入れてくれたあの子達を、あろう事かモルモットとしてしか考えていなかったのだから。 だから少年は懇願したのだ。 自分があの子達の代わりに全てを受け入れる。 だからあの子達に手は出さないでくれ……  と。 しかしそんな子供の戯言に誰が耳を貸すだろうか。  表向きは安心させる様な事を言いながら、裏では結局変わらず彼等は…… そんな彼らが嫌いだった…… 家族が傷付くのに耐えられなかった…… 優しい家族が1人、また1人と減っていくのが許せなかった…… 何より、そんな状況なのに何も出来ない自分が何より許せなくて…… だから少年は今日この日、家族を守る為全てを殺したのだ。 と、その時微かに自分を呼ぶ声が聞こえて、少年は周りを見渡す。  すると遠くに避難させたはずの家族が、こちらに向かって走ってきているのが見えた。  どうやら避難した先で自分が居ない事に気付きここに戻って来たのだろう。  その事実に嬉しくなりやはりこれで良かったのだと、少し安堵する少年。 その時今度は自分の中から声が聴こえた。 「契約は完了した。これで君は何を成す?」  まるで嘲笑うかの様に、試す様に、それでいて少し悲しむ様に……  そのどれでもあり、そのどれでも無い様に感じられる声が、そう問い掛けてくる。 そうだ、自分はこの地
last updateLast Updated : 2025-06-14
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それは今も燻り続ける激情(きおく)
聖暦1580年「ハア、ハア、ハア!」 走る。  走る、走る、走る。 薄暗い夜の森の中を2人の少女が駆け抜けていく。  一体どれだけ走り続けただろうか。  行き先も分からず、何が起こったのかも分からず、ただ手を引かれながら足元の悪い森の中をひたすらに走るこの状況は、6歳の少女には流石に過酷過ぎた。「も、もう走れないわ!」 「もう少しの辛抱ですレイミス様!あと少しで国境に辿り着きます!それ迄走り続けてください!」  それでも足を止める事は許されない。  足を止めてしまえば待っているのは死、のみだ。  幼い少女でもそれ位は分かる。 何せ目の前で父も殺されたのだから。  逃げる時に国民の悲鳴が聞こえてきたのだから。  国が燃やされるところを見てきたのだから。  だから分かっているのだ。  自分も見付かったら殺されてしまうことに。  だから逃げるしかないのだ。 たとえ一緒に逃げていた母と妹がはぐれてしまっても、幼い自分が探しに戻ることなど出来ようはずもないのだと。  そう必死に自分に言い聞かせここまで逃げてきたが、いよいよ体力の限界が来てしまったらしい。「あう!」  レイミスと呼ばれた少女が足を取られ転んでしまう。  疲労なのか恐怖なのかそれとも両方か、足もガクガクと震えており立ち上がる事が出来ない。「レイミス様!大丈夫ですか!?」  心配してくれるこの少女に、 「もう無理よぉ……走れない……お母様ぁ……」  と、泣き言をぶつける事しか出来ない。 泣いていないで走れと言うには、6歳の少女にはあまりに酷な出来事が多すぎた。  体力も気力も限界のレイミスの心は、もう折れかかっていた。「大丈夫です!レイミス様!」  と、そんなレイミスを励ますように務めて明るく少女は声を掛ける。 「レイミス様なら大丈夫です!ちょっとお休みすればまた走り出せます!なんせエレナート家始まって以来の才女と呼ばれた方なのですから!」 「そんなの今関係な…」 「大アリです!ですからちょっと休んで動ける様になったら、先にこの先の国境に行っていてください。必ず合流しますから!」  と、少女はレイミスを木の影に横たわらせた。「な!?どこに行こうというの!?私を置いていかないで!」 「私はこれからはぐれてしまったお二方を探してきます。大丈夫です!
last updateLast Updated : 2025-06-15
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出逢い
聖暦1590年「情報屋の話だとここの筈ね」 ここはアーゼスト最西端の大陸、ズィーア大陸。  その中でも最大の国家である、セストリア王国の首都セスト。  その端に存在する酒場である。  近くに冒険者ギルドがあるここ近辺は冒険者達の拠点として活用され、この酒場も2階は宿屋になっており冒険者達の憩いの場となっていた。 日も落ちかけている現在、そんな訳で周りには見るからに屈強な荒くれ者達が増えている状況において、その可憐な少女はあまりにも場違い感に溢れていた。  しかし、そんな状況など意に介さず平然と酒場に入っていく少女。  周りの客が少し意識し、しかしすぐに酒や料理、話に戻る。  それはそうだろう、少女が若い美少女だから目立つだけで、女の冒険者はそれこそこの酒場にだって居る。  いちいち気にしていたら冒険者なぞやっていけない。  ただやはり若い美少女というのは気になる存在なのだろう。  案の定少女に絡んでくる輩が居た。「オイオイなんだ嬢ちゃん?ここはレストランじゃねぇぞ?ガキはさっさと家に帰んな!それとも俺達と一緒にいい事したいのかい?」  下心丸出しの下卑た笑いを浮かべながら筋骨隆々の男が少女の前に立ちはだかった。  そんな男の横を素通りし、少女はカウンターの奥に居る店主らしき人物に声を掛けた。「人を探しているの。ここに最近フードを被った3人組が来ていると聞いたのだけれど、ご存知ないかしら?」  それに店主は顔を上げ答えようとするが。 「無視してんじゃねぇぞクソガキがァ!ちいとばかし痛い目をみてぇ様だな!?」  と、先程の男が少女に向かって殴りかかってきた。 背後からの不意打ち、少女は帯剣しているがそれを抜くより前に殴られその後は酷い運命が待っているだろう。  誰もが少女に哀れんだ目を向けようとした刹那…… 少女の姿が消えた―― そう思う程の高速移動で男に肉薄、鳩尾に拳を叩き込み男を沈めた。 あまりの一瞬の出来事に誰もが言葉を失い静まり返る中、少女は振り向き再度店主に問いかける。「ごめんなさい、話の続きで。それで?知っているかしら?」  何事も無かったかのように話す少女に気圧されながらも店主は店の一角に目を向ける。  少女も追ってそちらに向くと、居た。  食事中だというのにフ
last updateLast Updated : 2025-06-16
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今までとこれからと
 周りのざわめきを置き去りに案内されたのは酒場の2階、つまり宿屋として解放されている部屋の一室だった。  どうやら彼らはこの宿屋を拠点として生活しているらしい。 全員が室内に入り、備え付けの椅子に座った所でニイルが口を開いた。 「改めまして自己紹介から。私はニイルと言います。あぁ、フードで隠しながらは失礼ですね。こんな見た目だと色々と面倒なもので」  そう言いながらフードを脱いだ彼にレイは納得した。 所々に白髪が混じっているが基本黒髪の頭に黒目、この世界では黒は不幸の象徴として迫害の対象となり、黒髪黒目の彼は相応に大変な人生を歩んできたのだろうという事は容易に想像が出来た。 まぁ、それを言うなら自分も相当異質なのだが、とレイは心の中で苦笑する。「あなたも面倒な見た目をしてたのね?少し安心したわ。なら私もちゃんと自己紹介しないと」  そう言ってレイは自身に掛けていた偽装魔法を解除しながら述べた。 「レイミス・エレナートよ。こっちが本当の姿なの。お互い見た目が派手だと苦労するわね」 偽装していた茶色の髪と目が本来の薄紫色の髪と目に変わる。  多種多様な人種が存在するこの世界でもこの見た目の人間を目にする事はほぼ無い。 つまりそれは1つの事実を示していた。「その見た目とエレナート、もしやエレナート家の?あぁ、だから復讐ですか」 そう、人の髪や目の色は極少数の後天的な物を除けば基本は遺伝である。  故に珍しい色をした人はそれだけで何処の人間の誰なのか、知る人が見れば容易に分かってしまうのである。  そしてエレナートとは特に有名な名前でもあり、誰もが知る所なのであった。「知っているのなら話は早いわ。その通りよ、私があのエレナート王国の生き残り、エレナート王国の第1王女よ」 10年前滅びたエレナート王国、小国でありながら絶大な力を持つ魔法師が多数所属した魔法師団を有しており、世界的にも有名だった国、そして。「察しの通り私達を世界転覆の大罪人に仕立て上げ、滅ぼした奴への復讐の為に生きてきた」 その強大な力を持つが故に、世界に仇なす存在として滅ぼされた国である。  故に、巨悪の国として有名なのであった。「私達は世界征服な
last updateLast Updated : 2025-06-17
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垣間見た力の片鱗
「今日は遅いので明日の朝、ここの1階に集まりましょう」  ニイルの言葉でその日は解散となった。 レイもセストに到着したばかりである。  拠点とする様な場所も探しておらず腰を落ち着けたい気持ちもあったので、逸る気持ちを抑えながら賛同した。  幸いこの宿屋の空き部屋を借りられたので、その日はゆっくりと休む事が出来たのだった。  翌朝レイが1階に降りると3人はもう揃って、レイを待っていた。「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」 「おはよう。お陰様でね。待たせてしまったかしら?」 「いえいえ、これから朝食をとろうとしていた所ですよ。良ければ食べながら話しませんか?」  そう言われ空いている席に案内される。 レイもお腹が空いていたのでその提案に乗り、店主に注文をする。 頼んだ朝食が並び始めたところでニイルが切り出した。 「さて、修行を行う約束でしたが、まずはお互いの力量を知らなければなりません。こちらも貴女がどれだけ出来るのか分からなければ何も教えられませんし、貴女も自分より弱い相手に教わりたくないでしょう?」 それはもっともである。  いくら師匠の言葉といえど、実際に見て体験してみない事にはいまいち信憑性に欠けると感じていたところだ。「見たところ貴女は帯剣をされているので剣士だとお見受けしました。なのでまずはこのランシュと戦ってください。それを私が見て判断します」  その言葉にランシュが頷く。 そうして朝食後、ランシュとの模擬戦が行われる事となった。 街から少し離れ、多少暴れても大丈夫そうな場所まで移動してきた一同。  中々広々とした場所で、いかにも訓練に向いてそうな場所である。「ここは冒険者が特訓や訓練をする為の場所でしてね。ここなら派手に暴れても大丈夫ですよ」  そのニイルの言葉に少し感謝しながらレイは答える。 「模擬戦ならこの剣を使うより素手や木剣とかの方が良いんじゃない?」 見たところランシュは丸腰、魔法師のほとんどが杖か魔法使用を補助する物を持っている事を考えると、恐らく素手で戦うタイプだろう。 そんな相手に対して剣を使用する事は憚られたのだが、それを笑いながらニイルが否定する。 「大丈夫ですよ、その剣を使って本気で殺しに来て|く
last updateLast Updated : 2025-06-18
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幼い原石
 窓から差し込む夕日に照らされ、レイは目を開ける。  どうやら、ここは今朝まで居た宿屋の一室の様だった。  辺りを見回そうとするが全身に激痛が走り上手く動けない。 朦朧とした意識が痛みでハッキリしていくにつれ、意識を失う前の出来事を思い出してくる。  そう、確か自分はニイルに言われランシュとの戦闘中だった筈……「あ、起きたみたいだね」 横から声を掛けられそちらに意識を向けるとフィオがこちらの様子を伺っていた。「君、あれから半日近く寝ていたんだよ?部屋には鍵が掛かってたからアタシの部屋に連れて来たの。今2人を呼んで来るから待ってて!」  そう言って部屋から出て行くフィオ。 1人になり落ち着いてきた所で、ようやく頭が冴え意識もしっかりしてきた。  そうして1つの事実に気付く。 「そっか、私、負けたんだ……」 そう、意識を失う直前、顎にとてつもない衝撃を受けたのを覚えている。  恐らくランシュのアッパーをモロに受けてしまったのだろう。  顎に残る激痛がそれを物語っている。  そしてそれ以外の体の激痛は……「随分とお寝坊なお姫様ですね?」  そんな声と共に部屋にニイル達が入って来る。  それにレイは体を起こそうとするが、やっぱり体は言うことを聞いてはくれなくて。「そのままで良いので楽にして聞いて下さい。それとも明日にしましょうか?」  そんな様子に苦笑しながらニイルは言った。「ううん、今聞くわ。」  師匠相手にさえ使わなかった奥義を使っても勝てなかった。  そんな事実に焦る気持ちを抑えられずレイは言う。 「私が負けたのは見れば分かるわ。でもどうやってあの状態の私を止めたのか分からないの。自分で言うのも何だけれど、あの状態の私は雷みたいなもの。それを簡単に捉えるなんて、身体能力に優れていると言われる獣人でも出来ると思えない。それとも彼女もあれ程の速さで動けると言うの?」 もしそうなのだとしたら今後、戦闘において自分の優位性が失われる可能性がある。  自分と同じ速度で動けるのなら自分は奥の手を封じられたと同義だ。  それはつまり、相手に対して決定打が無いと言うことに他ならない。  これからの強敵、特にあの男に対抗する手段が無くなれば焦りもするだろう。 そんな焦燥からの質問を受けて、ランシュは静かに
last updateLast Updated : 2025-06-19
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修行という名の拷問
 レイの意識が宇宙へと飛び立った翌朝、4人は1階に集まっていた。「おはようございます、レイ。体の調子はどうですか?」 「お、おはよう。魔力は回復したし普通に動くだけなら大丈夫、よ……?」  と言いつつ、昨日魔力切れになれと言われたばかりである。  死刑宣告は流石に言い過ぎにしても、本当に死ぬんじゃないかと不安であまり寝れなかったのは秘密であった。 その様子に笑いながらニイルは言う。 「昨日は脅す様な事を言いましたが、ちゃんと理由が有ります。後ほど説明しますよ」 その言葉に、完全に安心出来ないながらも頷くレイ。  今日から行われるのは本当に修行なのだろうか。 (師事する相手、間違えちゃったかな?)  と思わなくもなかったレイなのであった。  朝食を済ませた一行が向かったのは、昨日と同じ場所だった。  当分はここで修行をする事になりそうだと思うレイ。 軽く準備運動を済ませたレイにニイルは言う。 「ではこれから始めますが、まず先程の発言の真意を説明しましょう。先日貴女が言った通り魔力を増やすのは容易ではありません。ただ容易でないからこそ、あまり知られていない方法が有るのです。それが魔力切れになります」 その言葉に、やはり理解が及ばず首を傾げるレイ。  ニイルは続けた。 「筋肉と同じ様なものだと理解すれば分かりやすいでしょうか?激しい筋肉痛の後、筋肉はより強靭になる。それが魔力にも言えるのです。死ぬ寸前まで魔力切れを起こしそれを繰り返すと、体内で作られる魔力量とそれを蓄える容量が増すのです。まぁ、一般的にそれを繰り返す人間はほぼ存在しないのでこの方法が認知されないのでしょうね」 それはそうだろう、そんな自殺行為を常日頃繰り返す人間がそうそう居て良い筈がない。  普通の冒険者でも激しい戦闘の後に稀になる程度で、普通の人間はそうなる前に対処する。  何故なら魔力切れを起こせば基本的に戦力低下を引き起こし、大抵は動けなくなるので致命的な隙を晒す事になるからだ。  後は単純に心身共に負担が掛るので辛いからなりたくない、というのが大半の理由だろう。  なのでそんな方法がある事など思い付きもしなかったが、しかし筋は通っている。  故に昨日の発言だったのかと、ようやく理解するに至ったレイであった。「1回や2回魔力切れを起こし
last updateLast Updated : 2025-06-20
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不意の遭遇
 ニイルによる地獄の特訓が始まって1ヶ月が過ぎた。  最初の頃はすぐに魔力切れを起こしていたレイだが、次第に魔力切れを起こしにくくなっていった。  また、肉体の疲労や魔力が回復しきっていない時は座学にも取り組んでおり、魔法に対する知識も、実践で咄嗟に使用出来る程身につけるに至った。  おかげで装填魔法使用時も、30%なら5分間活動出来る様になり、今は出力と活動時間の向上を目標に修行を重ねている。(復讐の為なら何でも出来ると意気込んでいた私でさえ、心が折れかけたなぁ……)  と、魔力切れを起こしては気絶し、ランシュにボコボコにされては嘔吐し、食欲が無くても無理矢理食べさせられていた最初の頃を思い出し、レイは遠い目をした。  今ではそこまで酷い事にはならなくなってきたが、それでも変わらないハードさに、しかし強くなった事を実感し嬉しさを噛みしめながら歩みを続けるレイ。 レイは今、首都セストの東の外れに向かって歩いていた。  その場所にはセストリア王国が保有し、ギルドが管理するダンジョンが存在する。  ダンジョンとは、はるか昔から存在すると言われる迷宮で、中には古代の遺物と呼ばれるお宝や、それを守護する様に罠や魔物が徘徊する、形や大きさも様々な建造物である。  何でも、世界には100階層を超える物すら存在するのだとか。  誰が、いつ、何の目的で造ったのか、その全てが未解明の建造物。  しかしその謎を解く為、はたまたダンジョン内に隠されたお宝を求める為等、様々な人が訪れる場所であった。 セストに存在するダンジョンは、地下に広がる形をしており、現在は28階層まで踏破されている。  本来ダンジョンは命の危険が伴う為、許可された者しか入る事が出来ない。  しかし冒険者は中の魔物を掃討するという名目で、中に入る事が許されているのであった。 レイもこの1ヶ月の間で冒険者登録を済ませ、過去に何度か訓練としてダンジョンに潜り、魔物と戦った事が有る。  その時は4人で行動していたが、今はレイ1人きりだった。  今日はニイルからの指示で、1人きりのダンジョンアタックに挑むのである。  ニイルからは行けるところまで行けと言われ、3人は後からやってくるそうだが、本来ダンジョンは1人で向かう様な所では無い。  1人で出来る事は限られている為、パーティを組み各々
last updateLast Updated : 2025-06-21
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かつて交わした約束
 レイが1人でダンジョン攻略を行っている頃、ニイルも1人別行動をとっていた。 ここはズィーア大陸から少し離れたテデア大陸、その辺境の地の森の中である。  そこにひっそりと一軒家が建っているが、今は人が住んでいる気配は無い。  代わりにその家の横にニイルが以前来た時見なかった、小石を縦に積んだオブジェの様な物が出来ていた。  ここはかつて、世界を巡る旅をしていた3人がたまたま見つけ、そして出会った人物が住んでいた場所だった。  当時は何故こんな人里離れた所に住んでるのかと思ったが、最近になり結構な有名人と判明した今なら、人目を避けるように隠れていたのも頷ける。「よう爺さん、20年来の約束を果たしに来たぜ」  そう言って、以前聞いた特徴と一致するオブジェの前にしゃがみこみ、ニイルが言う。 そう、ここは1年前迄レイと、その師匠であるザジが住んでいた場所だった。  この1ヶ月の間に、レイからザジの話を聞きやって来たのだ。  ちなみにこのオブジェの様な物はレイが作ったお墓で、この下にはザジが眠っているそうだ。 レイは持ってきた酒瓶を開け、その墓にかけ始める。 「この酒、あんたの愛弟子が言っていたが好きなんだってな?会った時から安酒をバカスカ飲む酒豪だったが、死ぬまでそれは変わらんかったのか」  少し苦笑しながら話しかけるニイル。  その脳裏にはかつて出会った時の記憶が蘇ってきていた。「あの時は驚いたぜ?こっちのギルドの依頼で、この森の薬草を取りに来たら家なんか見付けちまってよ?オマケに中にはとんでもねぇ強さの爺さんが住んでるときた。幻覚でも見てんのかと思ったよ」 あの時の事は、まだ鮮明に思い出せる。  油断していたとはいえ、あの体術が得意なランシュを一撃で斬り伏せたのだから。  そんな事が出来る人間がまだこの世に居ると思っていなかったニイルは、自分の驕りと見識の狭さを大いに恥じたものだった。「そりゃいきなりテリトリーに入ったのは悪かったとは思ってるが、いきなりウチの女を斬るかね普通?後から聞きゃバケモノだと思ったから斬ったなんて笑いながら言いやがって。どっちがバケモノだって話だよ」  あんなに美人の良い女なのに……  と、その後もブツブツ言いながら、残りの酒を自分で飲み始めるニイル。「しまいにはキレた俺を見て、死を悟って自分の腹切っ
last updateLast Updated : 2025-06-22
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ケダモノとバケモノ
「ルエル?」 理性が止まれと訴える。「ルエルと言ったか?」 理性が戻れと警鐘を鳴らす。「それはこの国の宰相の……」 しかし感情が、本能が、止まることを許してくれなくて。「ルエル・レオ・ナヴィスタスの事か?」 目の前が真っ赤に染まったと錯覚する程に、憎悪の炎がレイを突き動かしていた。「なんだぁ?このガキ。ルエル様だろうが。何呼び捨てにしてやがんだ」  そんなレイにベルリは吐き捨てる様に言う。「ですがこの女、結構上玉ですぜベルリ様!捕らえて売ればいい金になりそうじゃないですか?」 「よく考えろザギ。こんな所に1人な訳ねぇだろ。どっかに仲間が隠れてるに違ぇねぇ」 「ならよダル?その仲間も一緒に売っぱらっちまえば更に儲けもんじゃねぇか?」 ザギとダル、そう呼び合っていた取り巻き2人が話しているが、レイの耳には届かない。 「答えろ。ルエルとは10年前エレナート王国を滅ぼした男か?」 その問に少し考えた後、ようやく思い出したという風にベルリが声を上げた。 「お前、もしかしてエレナートの生き残りか?確かに噂では姫は2人居るって話だったが……捕らえた王妃も姫の片割れも、そんな奴は居ないの一点張りで有耶無耶になったんだっけ?やっぱり居たのかよ」 その言葉にやはりあの時一緒に居た男だと確信し、剣に手を伸ばすレイ。  そんな様子に気付かずベルリは続ける。 「しかしあの時のルエル様は凄かったよなぁ!?俺は傍に付いてるだけで何もせずに終わっちまったのが残念だったが、たったお1人で国を滅ぼしちまった!改めてあの人の強さに感服したってもんよ!」 もうコイツの言葉を聞き続けるのも我慢の限界だった。  しかし最後に聞いておかなければならない事がある。  さっき捕らえたと言っていた2人、その2人は…… 「お母様と妹はどこにいる?」 そう問われ、ベルリは下卑た笑みを浮かべ、こう答えた。 「ウチらの軍の慰み者にしてやったよ。んで壊れたから捨てた。壊れた玩具は要らねぇからな?」 その答えに、レイの理性は、完全に。  消えた。「貴様ァァァァァァァ!」  剣を引き抜き、ただがむしゃらにベルリへと突っ込むレイ。 それに焦ることも無くベルリは反応する。 「ザギ!ダル!」 「へい!」 「了解!」 その声に、2人は即座に魔法を展開し始める。  レイは
last updateLast Updated : 2025-06-23
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