幼い頃、世界から敵と認定され祖国を滅ぼされた元王女のレイミス・エレナート。 全てを奪われながらも仇を討つ事を糧に生きてきた彼女はある日、自らをバケモノと名乗る青年ニイルと出逢う。 復讐を成す力を得る為、彼女はそのバケモノの手を取る事を決意する。 これはヒトとバケモノのモノガタリ
Lihat lebih banyakその日は1日、雪が降りしきるそんな日だった。
夜も更け寒さも厳しさを増す中、少年が1人空を眺めながら佇んでいる。
しかし少年の周りは寒さを感じず、寧ろ燃えるような熱さに包まれていた。
それもそのはず、少年の周りは火の海で囲まれているのだから。
周りはかつて建物があったであろう瓦礫が散乱し、更にその中には、かつて人であったモノすらも…
まるでこの惨劇を生み出したかの様に夜空を見上げる少年。
それもその筈まだ10歳になったばかりのこの少年こそが、この破壊の元凶なのだから。
これはそれだけの事を行った大人達に対する、復讐だった。
当然の報いだろうと少年は思う。
なにせ彼等は少年の家族を傷付けたのだ。
親にも捨てられ行き場所の無かった自分を、血の繋がりは無くとも家族として迎え入れてくれたあの子達を、あろう事かモルモットとしてしか考えていなかったのだから。
だから少年は懇願したのだ。
自分があの子達の代わりに全てを受け入れる。
だからあの子達に手は出さないでくれ…
と。
しかしそんな子供の戯言に誰が耳を貸すだろうか。
表向きは安心させる様な事を言いながら、裏では結局変わらず彼等は…
そんな彼らが嫌いだった…
家族が傷付くのに耐えられなかった…
優しい家族が1人、また1人と減っていくのが許せなかった…
何より、そんな状況なのに何も出来ない自分が何より許せなくて…
だから少年は今日この日、家族を守る為全てを殺したのだ。
と、その時微かに自分を呼ぶ声が聞こえて、少年は周りを見渡す。
すると遠くに避難させたはずの家族が、こちらに向かって走ってきているのが見えた。
どうやら避難した先で自分が居ない事に気付きここに戻って来たのだろう。
その事実に嬉しくなりやはりこれで良かったのだと、少し安堵する少年。
その時今度は自分の中から声が聴こえた。
「契約は完了した。これで君は何を成す?」
まるで嘲笑うかの様に、試す様に、それでいて少し悲しむ様に…
そのどれでもあり、そのどれでも無い様に感じられる声が、そう問い掛けてくる。
そうだ、自分はこの地獄を終わらせたくて…
皆を守りたくて…
だから契約したのだ、彼と。
契約が完了した今なら分かる。
何故彼がこんな問いをしてくるのかを…
何せ今は彼は自分であり、自分は彼なのだから。
なのでこの質問にも意味は無い。
でも改めてこの想いが揺らがない様に…
この決意が鈍らない様に…
家族の元に向かいながら呟いた少年のその応えは、夜雪と共に儚く消えるのだった。
最初に異変に気付いたのは、同乗している獣人族達だった。現在レイ達が乗っている船には、ディードが選抜した精鋭の亜人達も同乗している。海上という事で鳥人族や魚人族等も居るが、その半数は獣人族で構成されていた。「うっ…!」「なんだこりゃ!」その獣人族達が一様に苦悶の声を上げ、酷い者はその場に蹲り出したのだ。「…こりゃひでぇな…」その影響は当然ディードも受けている様で、顔を顰めながら船の行先を見つめている。「ど、どうしたの!?」その異様な光景に思わず声を上げるレイ。何しろレイは勿論、ニイルでさえ何の変化も感じられないのだ。思わずニイルを見るレイだったが、首を横に振り否定を返してくる。「暫くすりゃ嫌でも分かるさ」そんなレイ達に一瞥くれ、視線を元に戻すディード。その間も船は進み、段々と他の種族達も呻き声を上げ始める。毒ガスなのではと警戒していたレイだったが、目的地に近付くにつれそれが思い違いだったと気付かされた。「酷い匂い…」思わず顔を顰めてしまう程の悪臭が辺りに充満しているのだ。人間のレイですら、思わず嘔吐いてしまいそうな程である。嗅覚等の感覚が鋭い獣人族はひとたまりもないだろう。「これは、腐臭ですか?」流石のニイルも少し顔を顰めながら辺りを見回す。レイも周囲を確認してみるが、異臭以外特に変化は感じられなかった。「あぁ、最初嗅いだ時かなり強烈だったが生物特有の腐敗臭がした。だから恐らく近くに何かしらの死骸が有る筈なんだが…」ニイルの思考を察したらしくディードが答える。そう、この原因が腐臭だとするならその発生源が近くに存在する筈である。しかし目に見える範囲では何も居らず、ただの水平線が広がるのみ。「だがこの辺りで異臭がするなんて話は聞いた事がねぇ…しかも
「まさか本当にすぐ出発するなんて思いもよらなかったわ…」呆れを滲ませて言うレイ達が居るのは海上のとある船。あの後、半ば連行される様に船へと案内され、そのまま即座に出港したのである。「以前屋敷のメイドから聞いた通り、随分と自由奔放な人物の様ですね」これにはニイルも苦笑しながら答えるしかない。2人共早期解決を目指して行動していたが、まさかそのまま直ぐに現場に連れ出されると思っていなかった。しかもこの国の頭首に連れられて、である。本来なら軍を編成し、国のトップは有事の際の対応の為、国に残るのが必定と考えていただけに、全てが想定外に進んでいる現状に困惑を隠しきれない。しかしそれはどうやらレイ達だけの様で。「まぁ、いつもの事ですよ…」出発の前、屋敷にてレイはベスタを問い詰めたが、彼から帰ってきたのはそんな諦めを多分に滲ませた言葉だった。そしてそれはどうやら他の亜人達も同様で、皆苦笑して誰もディードの暴走を止めようとはしない。いや、正しくは止まらない事を知っているかの様な、そんな反応だった。(彼等も苦労してるのでしょうね…)そしてディードの代わりに留守を任せられたベスタに思いを馳せ、少しだけ同情してしまうレイ。「ハッ!あんな所で無駄な時間を費やす位なら、さっさ
「まぁ、大抵の事は手紙に書いてあったんだが、てめぇの口からも聞いとかねぇとな?」そう言いつつ笑みを浮かべ、レイを見つめるディード。(まるで捕食者ね)それに対し、レイがディードに抱いた第一印象はこれだった。鍛え上げられつつも、しなやかさも併せ持つ肉体。薄い金色の髪から覗く獣耳。そして獰猛な笑みと相対した者を射竦める様な鋭い眼光。その全ての要素が凶暴な肉食獣を思わせる。それは敵を威圧し、味方を魅了するカリスマの様で。(…っ!呑まれるな!今更臆してどうするの!)その雰囲気に圧倒されそうになるレイ。しかしかつて出会った『柒翼』達を思い出し…「私達は…」「貴方に訊きたい事があって来たのよ、ディード・ホグウェル」ニイルの言葉を遮り、敢えて挑発的な態度をとって意識を切り替えた。レイの態度に部屋内の空気も変わり緊張感が走る。亜人達がレイに敵意を向け始める中。「ハッ!良いねぇ!気の強ぇ女は嫌いじゃない」当の本人であるディードは、寧ろ愉快そうに笑みを深めていた。それに他の亜人達の空気も正常に戻っていく。
レイ達の報告も終わり、その場は解散となった。ニイルの警告を受けたギルド支部長も直ぐに動く事を約束し、他の職員と慌ただしく部屋を出て行った。「一先ず、今日のところは皆さんお休みください。状況が変わりましたらご連絡いたしますので」ギルドを後にする際、いつもの受付嬢にそう言われ拠点としている宿を伝えるレイ。最後に、感謝の言葉と共に深々と頭を下げられながら、一行は宿へと戻るのだった。「今回の件で、国の連中が余程愚かでなければ傭兵の募集がかかる事でしょう。そうなれば私達も協力出来る様になると思います」就寝前、いつもの如く部屋に集まり今後の打ち合わせをしていた時ニイルはそう言った。それに頷きながらレイも同調する。「そうね。それに原因も明らかになった事だし、相手が魔獣なら私達も役に立てるかもしれないわね」そう言ってやる気を漲らせるレイ。正直、今回の原因が専門的な物ならレイは参加しないという選択肢も考えていた。知識も無いのに参加して、他の人々の足を引っ張りたく無かったからである。しかし荒事となればその心配も無い。人並み以上には戦えると自負しているし、事実その実力も兼ね備えている。故に相手が魔獣なら、と心の奥底で無自覚に油断していたのかもしれない。その機微を察し、ニイルは苦笑いで忠告する。「まだ確定した訳で
再び気絶してしまった男の治療を続けながら、他に生存者が居ないか確認する4人。しかし、残念な事に気絶していた男以外の人間を発見する事は出来なかった。その後レイのたっての希望で沈没船の調査も行ったのだが、そちらでも特に有益な情報を得る事は出来なかった。ただ1点、調査の結果沈んでいた船が、先日見た調査団の船の1つだった事が判明したという事のみ。他の船は見当たらなかったが、状況から察するにこの船同様沈められてしまったのだろうと全員が察する。「兎も角これで調査団に問題が起きている事は判明したのです。今は報告と、彼に治療を受けさせる事が先決です」「……そうね、急ぎましょう」周辺含め念入りに調査した結果、時間は大分過ぎ今は日も沈みかけてきている。水平線に沈む太陽を眺めながら提案するニイルにレイも賛同し、一行はデミーラ共和国へ戻る事となった。丁度男が意識を失い、目撃者も居ない事から帰りは転移魔法を使用したニイル。一瞬にして今朝居た浜辺へと到着し、外套を着込んで4人は冒険者ギルドへと向かうのだった。
今迄レイ達の周りを泳ぐだけだった魔鮫スクアルス達が、一斉に襲い掛かって来る。通常、単独でしか行動しない魔鮫スクアルスが群れを成し、連携を用いてレイ達に迫っていた。確かに魔獣化すると魔法を使える様になる分、知能は上がると言われている。しかしその分凶暴性も増し、更に個体数も多くない事から、例外はあれど基本魔獣は群れを形成しない。特にレイ達の目の前に居る魔鮫スクアルスはその特徴が顕著で、複数体の同時目撃すら一切報告された事は無かった。そんな存在が10体以上、しかも全員が協力し1つの獲物を狙うというこの事態は明らかに異常であり…「クソッ!」その厄介さはニイルでさえ顔を歪める程であった。故に瞬時に魔法障壁を展開する。直後魔鮫スクアルスの半数が全方向からから襲い掛かり、残りの半数がその隙間を埋める様に魔法を放つ。その魔法は水魔法によりヒレから水刃を打ち出すという物。水中で使う事により新たに水を生み出す必要も無く、威力も連射性能も高い。そんな無数の水刃が、水の抵抗等無視して4人へと迫る。よく見れば接近して来る魔鮫スクアルス達
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