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Novels by Aica

社長、離婚した奥様が世界的トップモデルになっています!

社長、離婚した奥様が世界的トップモデルになっています!

結婚記念日、杏華は妊娠していた。 愛する夫に伝えようとしたその日、彼が寄り添っていたのは――腹違いの妹。 「サインしろ」 一弥が差し出したのは離婚届。 心が死んだ杏華は誰にも告げず、お腹の子とともに姿を消す。 自分さえいなくなれば彼は幸せになれる――そう信じて。 だが彼女を失った瞬間、一弥はすべてを知る。 愛していたのは、ずっと彼女だけだったと。 狂ったように探し続けても、もうどこにもいない。 そして―― 世界が注目するファッションショーのランウェイで トップモデルとして現れたのは消えたはずの元妻・杏華だった。 これは手遅れになってから愛を知った男が すべてを失ってなお、ただ一人の妻を追いかける極上の追妻ラブストーリー
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Chapter: 第127話 この先、守るために
【一弥side】「でもさすが綾乃だな」「え?」さっきまでの表情から打って変わり、俺はいつもの雰囲気に戻る。「逆に助かったよ。杏華の分だけ、あえて用意しなかったんだろ?」「え……?」当然綾乃は俺の言葉の意味がわからなかった。「杏華が別のスタッフが持っていたサンドイッチの箱を見て気付いたらしいんだが、あのサンドイッチは、杏華が何らかの理由で苦手だった物が入ってたらしいな。皆の前で口にせずにいられたって、逆に杏華が感謝してたよ」俺は少し微笑みながら、綾乃に真実ではない事実を伝える──。その俺の言葉を聞いた瞬間、綾乃の表情が一瞬歪む。そりゃそうだよな。杏華にした嫌がらせが、杏華をこらしめるどころか感謝されるだなんて。綾乃にとったら、ある意味屈辱だろう。「あ、あぁ~そうなの! お姉ちゃん、苦手な物入ってたから、あえて用意しなかったの! それサンドイッチ届いてから思い出したから、ホントお姉ちゃんには悪いことしちゃった」だがその屈辱を悟られないように、綾乃は、俺の嘘の話に、さぞかしそうであったかのように平気で答える。それも今までのように、わざとらしい表情まで見せて──。やはりな……。思った通りだ……。それならもっと煽ってみるかな。「あぁ。杏華は大丈夫だ。適当に、おにぎりを食べさせておいた。それであいつ喜んでいたよ」「やだ、私のせいで……。でも、お姉ちゃんそんなもので満足しちゃうなんて。ウフフッ」どうして俺はこんなことに気付いていなかったのか……。杏華の純粋な想いは、こんな風に捻じ曲げられていくのか……。杏華のそんな話を聞けば、綾乃はそんな反応になると思っていた。それなら、もっとそのお前の気分を
Last Updated: 2026-07-31
Chapter: 第126話 ようやく気付いた嘘
【一弥side】「ちょっと一弥お兄ちゃん! 何なのこれ!  酷いよ! せっかく私がサンドイッチ差し入れしたのに!」綾乃があまりの怒りで自分の立場を忘れ、今にも爆発しそうな顔で俺に突っかかってくる。あぁ、こういうことか……。しっかり綾乃を見ていたら、すぐにこんな風にボロが出ていたんだと、今更ながら納得する。今までの現場では綾乃が中心で常にチヤホヤされ、それが普通なんだと気付いていなかった。実際は、そんな素の姿なんて見せずに、俺の前では化けの皮を被っていたということか──。「あぁ~出た出た。RURIの本性(笑)」「自分の都合が悪くなると、あの我儘言い放題怒りまくりのあの豹変。マジ無理」「あの人、気遣うの正直疲れんだよね~」俺の後ろの方で小さくヒソヒソと囁かれてる声がリアルに聞こえてくる。目の前の綾乃は、怒り心頭でそんな声は聞こえていないようだ。それはここにいる関係者が、当たり前のように呟いていた。前に俺が一緒にいるときは、まったく聞こえてこなかった話。それどころか評判がいいと周りからも聞いていた。だが、きっとこれが本当の姿──。あの時は、周りにそう言わせる圧をかけていた、というところだろうか。そのことに俺は心底呆れる。あぁ、本当に情けない:──。俺はこんな性悪女の姿を今まで見抜けなかったってことか……。これから会社を背負う人間として、こんなのあってはならないことだ。<偽物と本物>きちんと見分けられる確かな目を養わないと、俺はこの先この世界を動かしてはいけない。自らが、そんなギラギラと野望に燃える目に、心に、熱くなっていってるのがすぐにわかった。だが、自分の感情だけで口にしたら、目の前のこいつと何も変わらない。今刺激を与えると、綾乃がまた杏華に何をしでかすかわからなかった俺は、あえてその気持ちを抑え込み、冷静な表情や心へと自ら促す。「綾乃。ちょっとこっちへ来い」杏華に俺の本心を聞かれないように、綾乃に冷静に告げ、杏華から離れさせる。「お前が言ってるのは、あの見た目だけのサンドイッチを用意したことか」俺は必死に食ってかかってくる綾乃を見下ろし、思っている感情のまま冷静に告げてしまう。「酷い! 見た目だけだなんて!」さっきスタッフが持っていたサンドイッチの箱を見て、あることに気付いた俺は、更にその現実を、このあと
Last Updated: 2026-07-30
Chapter: 第125話 驚きのサプライズ
現場に戻ると、ざわざわ騒がしかった。さっき以上に現場が賑わい、歓声が上がっている。「何なの……?」私は不思議に思いながら、その場所へと近づいていく。「え? もう撮影が始まってるの?」そんな風に思うほど、さっきまでいた場所が、明らかにそこは違う場所になっている。そこは、ただのロケの場所からホテルの会場の豪華なブッフェ会場に早変わりしていた。数々の豪勢で高級な料理が、テーブルいっぱいにズラッと並んでいる。その料理をシェフたちが更に盛り付け、サーブスタッフが丁寧に料理や飲み物を運び提供している。「うわぁ~こんな豪華な料理見たことない!」「あのロゴ。有名な高級ホテルでしょ? 予約がないと食べられないって聞いたことあるよ!」その料理を前にし、スタッフやモデルたちが、興奮し騒いでいる。「何これ……」私はそれを見て唖然としていると、現場スタッフが声をかけてきた。「桐生社長。こんなにすごい豪華なケータリングありがとうございます!」そう、私ではなく、隣の彼に──。私は驚いて、隣の彼を勢いよく見る。「いつも杏華がお世話になっております。今日はこんな場所でロケだと聞いたので、差し出がましいですが、皆様にほんのささやかな普段のお礼として、うちのグループのホテルから急遽ケータリングをご用意させてもらいました」私は思ってもみない言葉と、この現状にただただ唖然として、あっけに取られる。「驚いたか──?」そんな私を見て、一弥さんが少し嬉しそうに声をかけてくる。「驚いたなんてレベルじゃ……。まさかあなたが、こんなすごいことをするなんて……」「あの時、杏華から話を聞いて、すぐに手配したんだ。無事間に合ってよかったよ」あの時にそんな手配したってこと……?あんな短時間で、こんな高級ホテルの人や料理を用意出来るなんて……。それなりにお金持ちの人だとは思っていた。だけど、あの父は詳しくは話そうともしないし、当然一弥さんからもそんなこと聞けるタイミングもなかった。私は想像出来ない彼のすごさを、ここにいる人たちと同じようにこの瞬間知る。「お前が困ってると思って。おにぎりでは、味気なかっただろ。お前も良かったら食え」「私のために……? どうして、ここまで……」私は目の前の彼のこの行動が信じられなくて、つい彼に尋ねる。すると、彼がふわっと微笑む。「さっ
Last Updated: 2026-07-29
Chapter: 第124話 壊してしまった幸せ
【一弥side】そうだ……。その言葉だ。確かに『Be hapy』という言葉が、あのハンカチには記されていたはずだ……。「幸せになって」……。あぁ、母親からそんな大切に育てられた杏華を、幸せにするどころか、愛すこともなく、疑い、傷つけ、離婚した……。杏華は、母親のそんな大切な形見で、俺の命を救ってくれたのに……。心臓が今までにないほど、ドクドクと強い衝撃で打ち付け、自分でした大きな罪に、グサグサに刃物で傷つけられたような感覚になる。頭が割れそうなくらいズキズキと痛みを訴え、割れそうなほどの苦しみを感じた。その真実を知り、俺は今まで杏華にしてきたすべての恐ろしくて卑劣な情けない言動を思い出し血の気が引く。俺は杏華に何をした……?どんな酷い言葉を投げつけた……?どこからそれは始まっていた……?俺を助けてくれたのは杏華で、だとすれば綾乃は俺を助けたと嘘をついていた──。それだけじゃない。離婚に追いやったすべての綾乃の言葉も、全部綾乃の嘘……?男癖が悪いということも、綾乃を騙して海外に行かせたということも、綾乃の全部……。確かにそう思えば、すべて辻褄が合ってくる。最初から事実じゃないと杏華は否定していたのに、俺は恩人である綾乃を信じ、まったく聞く耳も持たなかった。だけど、綾乃が言っていた杏華のすべては、今俺がこの目で見て、接している限り、明らかに正反対で、どれも信じがたいことばかりだった。どれ一つ一致するどころか、普通の人間以上に、真面目で純粋で誠実で……。品のあるその優しさは、そんな言葉が似合いもしない、杏華そのものから醸し出すものだった。本当は今すぐ確かめたかった。あの時助けてくれたのは、お前だったのかと。俺はとんでもない間違いをしてしまっていたのだと、ちゃんとその真実を確かめたかった。だけど、今微笑んでいる杏華のこの笑顔を、俺の勝手な気持ちで、傷つけて壊したくなかった。今は大事な撮影中だ。杏華の感情をこれ以上乱したくはない。だけど、そう思ってはいても、その事実は俺の中で確かめる必要がある。あの保管庫に仕舞い込んでいる、あのハンカチさえ見れば──!だけど、このあと俺はやらなきゃいけないことがある──。「おいしかった。ご馳走様。これで午後の撮影も頑張れそう」ご馳走様と言いながら、手を合わせ、俺に微笑みながら礼を
Last Updated: 2026-07-28
Chapter: 第123話 運命が変わった真実
「聞きたいこと……?」ハンカチを見て、一瞬で表情も纏う空気も変わった一弥さんにその瞬間気付く。けれど私は、あえて何も気付かないフリをして微笑んだ。──もしかして、このハンカチを見て、あの時の事故のことに気付いてしまったのだろうか……。心臓が激しくなる。気づかれちゃいけない。今までずっと必死に隠してきたあの日のこと。ずっと想い続けていた彼が目の前で命の危険にさらされていた私は、とにかくあの時必死に彼を助けた。血だらけになっていた彼の傷口を、持っていた母の形見のハンカチで必死に縛り、泣きながら救急車を呼んだ。とにかく「生きてほしい」「助かってほしい」と必死に願いながら、彼の手を強く握り続け、その安否をずっと祈っていた。もう目の前から大切な人を失いたくない。ただ生きててほしい。それだけでよかった。だけど、無事助かった彼の隣には、命の恩人として、なぜか綾乃が存在していた──。私なんかが彼に関わったことで、彼に迷惑をかけたくないと、そう思った。だから、弱くて勇気のない私は、その場から逃げた……。無事救急車が来たことを見届けた私は、誰にも名乗らずにその場から姿を消した。そう。あの時、私が逃げたことによる、これは”報い”だ。彼は、命の恩人の綾乃とそのあと付き合い始めた。もしそのとき、私がそこにいることが出来れば、そこにいたのは私だったのだろうか……。それを知っていれば、そのとき愛してもらえていたのだろうか……。いや、きっとどんな形にせよ、彼にとって愛する女性を綾乃として選んだことは変わらない現実だったのだろう──。結局私が綾乃の変わりに結婚しても、彼は一度だって私を愛すどころか、見さえもしてくれなかったのだから……。綾乃は私の代わりに恩人となり愛されても、私は綾乃の代わりに結婚相手として愛されることはなかった……。その残酷な事実は、きっとどんな形になっても変わらない──。それなら、私の淡い初恋も、彼の綾乃への想いも、今更傷つけ合い汚れた物にする必要はない。ただ、彼が今こうやって生きていてくれること、今愛されなくても、ここでこうやって一緒にいること。それだけで私は十分なのだから……。私はその時の切ない想いを思い出し、瞼に熱い物が込み上げそうになるけれど、気づかれないように必死に堪える。その時、一弥さんは少し不安そうな表情を
Last Updated: 2026-07-27
Chapter: 第122話 蘇る記憶
【一弥side】「えっ、どうしたの? そんなにじっと見つめて……」杏華にそう言葉をかけられ、俺は無意識にずっと見つめていたことに気付く。「あっ、いや。そうだ。これもあるんだ」そんな自分を誤魔化すように、一緒に買ってきたもう一つの袋を渡す。「スープ? こんな物まで買ってきてくれたの?」「今日は少し肌寒いからな。おにぎりだけじゃ温まらないだろ」俺は少し照れくさく感じ、杏華の方を見ずに答える。「昼からもあまり気温が上がらないらしいから。少しでも体を温めておけ」今は杏華一人の身体じゃない。こんなことで変わるのかもわからなかったが、とにかく自分が出来ることをしたいと思った。「ありがとう……」杏華が、静かに呟く。そのスープを取り出そうとしたとき、杏華が何かに気付き、カバンからハンカチを取り出し、膝の上に乗せる。「どうした」「あっ、スープの底が零れていたから、念のため衣装を汚さないようにと思って。気を付けて食べるね」「悪い。零れてたのか。急いで持ってきたから、一瞬その容器が傾いてしまったのかもしれない」「あっ、うん。大丈夫」あの時、必死に持ってきてたからな……。スープが零れるなんて意識まったく飛んでいた。「急いで持ってきてくれたのね。ありがとう。あったかい」杏華はスープを手にし、温かいと手を温めながら、ふわっと柔らかく微笑む。杏華はそれを責めることなく、自らのハンカチを敷き、それを口にしようとしてくれる。俺はそのことに、まず驚いた。前に綾乃と一緒に食事をした時、あいつは店のスープが零れただけで、すぐ交換しろと我儘を言っていた。自分のドレスにかかってしまったから弁償しろと、そういえば抗議までしていた。だけど、杏華は、すべての出来事に責めることなく対応し、相手の気持ちを無下にしない。その返す言葉にも、行動にも、杏華が元から持ち合わせている品と優しさが表れている気がした。その取り出したハンカチも、杏華らしい品あるハンカチ……。……え。そのハンカチを見て一瞬固まる。白いハンカチに繊細な糸で刺繍されている紫の小花と文字がデザインされている。見覚えのあるその刺繍のデザイン。これは、確か綾乃が昔俺を助けた時に……。「そのハンカチ……。それは、お前の物か……?」どうして杏華が持っているんだ……。「え? これ? そうなの。そ
Last Updated: 2026-07-26
おいしい契約恋愛

おいしい契約恋愛

日々の楽しみは推しを愛でること。 全力で推し活をしてたある日。 「オレと契約しない?」 なぜだか始まった社長との契約恋愛。 「これは、オレとお前だけの秘密だ」 この日から始まった社長との秘密の関係。 だけど、それはお互いおいしい契約だけの関係。 二人を繋ぐのは、お金? 料理? 夢? 推し? 仕事? 恋愛? 契約恋愛から始まる二人にとってのいちばん大切なモノは…?
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Chapter: 355.二人が出会った意味②
「だけどさ。あの大将は、あの人のやりたいことも、意見もちゃんと聞いてあげてる。話し方も、接し方も、穏やかで……。ちゃんとあの人自身を見てる人なんだなってそう感じた」「確かに……、大将は昔からすごく女将さんを大切にされてるんだなって印象はあります。二人で一緒に二人三脚でやってきたみたいな、そんなイメージというか……」「……そう。あの人は、ちゃんと大切にしてもらえてたってことなんだな……」「はい。それはそうだと思います……」「うん。正直オレを捨ててまで手にした幸せが納得出来ないものだとわかったら、もしかしたらオレはもっと穏やかでいられなかったかもしれない」「え……?」「だけど、オレを捨てたあとに大将との幸せがあったのなら、仕方なかったのかもしれないな」「でもその選択をしたことで、慧さんは……」「うん。辛くて寂しい想いをしたのは事実。だけど、それがなければ、オレは今ここにこうしていなかったと思うから」「え……、どういうことですか……?」「もし母親とずっと一緒にいたら、また違った人生だった」「それは今の慧さんじゃなかったかもしれないってことですか……?」「そうだな……。もし今の状況になってなければ、柾弥とここまでガッツリつるむこともなかったと思うし、今の仕事も一緒にしてなかっただろうな」「そうなんですね……」「父親の家庭に引き取られて転校したから、柾弥と出会えたんだ。柾弥と出会えたから、今の仕事をしようって思ったし、それが出来たことで依那とも出会えた」「そっか……。その選択じゃなければ、あたしは慧さんと出会えてない運命だったかもしれないってことですよね……」そうだ。そういうことだ。慧さんがこの会社を作ってくれたことで、あたしは慧さんに出会えて、今一緒にいることが出来ている。今のあたしは慧さんがすべてで、慧さんがいるから今の自分がいる。慧さんを好きになれたことも、一緒にいることも、好きになってもらえたことも、すべてなかったことになる現実もあったかもしれないんだ……。今のこの現実が違ってしまうなんて……、この幸せが存在しないだなんて……。そんな慧さんといられない未来になっているかもしれないと、そんな想像するだけで怖くなる。「オレさ……、正直、母親に捨てられてから、自分は誰にも必要とされない人間なんだって、ずっと思ってたんだ」「え…
Last Updated: 2026-07-21
Chapter: 354.二人が出会った意味①
それから家に帰って、いつものようにリビングのソファに二人並んで座る。「依那。まず約束してくれるか?」「えっ、何を……ですか?」「今からする話で、依那が悪いと感じて謝るのは禁止。依那が気にすることは一切ないから。今から話すことは、オレとあの人との話だから」「でも……」「依那がそんな気持ちで聞くなら、この話はしない」「――嫌です! 慧さん一人で抱えるなんて絶対嫌です!」「ん。オレは、依那には悲しむんじゃなく、支えてほしい」「慧さん……」「今はオレの隣には依那がいる。だから大丈夫だ」「はい……」「ん」あたしにそう伝えながら、隣で優しくあたしの手を握って微笑む慧さん。こんなんじゃ、どっちが悲しんでるんだかわかんないや……。「慧さんは……、平気ですか?」「あぁ。依那がいてくれるから平気だ」「あたしが、いるから……ですか?」「そう。……まぁ、本音を言えば、まったく平気かって言われれば、そうとは言い切れない」「……ですよね……」「自分の中でも、自分の中でどう受け止めていいのかもよくわからない」「はい……」「オレを捨てて選んだことには変わりないんだし、そしてそこまでして一緒になりたかった相手があの大将だったんだよな……」そうだ……。慧さんの前からいなくなった理由、それだった……。だけど……、あたしが出会ってからの女将さんは、確かに大将と仲がいいけど、そんなに酷いことをする人だとはどうしても思えなくて……。あたしの母がいなくなってから、女将さんはずっと親身になってくれていた。他人のあたしでさえ、あんなに向き合ってくれていた人なのに、自分の子供を簡単に平気で見捨てるようなそんな人なんかじゃないはず……。大将もすごくいい人だし、理由を知っていれば、そんなことになっていなかったような気さえもしてしまう。だから、慧さんと離れることにならざるを得なかった理由が何かある気がして仕方ない。「でもなんかわかるよ」「え……?」「あの大将。穏やかで優しくて……。あの人が惹かれる気持ちはなんとなくわかる気がする」「そうなんですか……?」「うちの父親とは正反対だから」「え……?」「うちの父親は、自分が絶対主義で、自分が正しいと思うことは曲げない人だった。たまに会う時でも決して温かかったり穏やかな時間なんてものはなかったんだよね。母親の意
Last Updated: 2026-07-21
Chapter: 353.巡る運命⑪
「ごめんなさい……」あたしはその場で立ち止まって、俯いたまま慧さんに告げる。すると、少し前まで歩いていた慧さんが振り返って。「え? どした? 依那」逆にそんなあたしに心配そうに声をかけてくれる。「慧さんのお母さんだなんて知らなくて、あたし……」知らないとはいえ、あんな無神経に会わせてしまったこと。あたしの母親代わりだなんていって紹介してしまったこと。そんな中で、慧さんにお付き合いの挨拶をさせてしまったこと。今起きたすべてのことに申し訳なく思えて、泣きそうになる。「フッ。なんで、依那が泣きそうになってんの」そして、泣きそうになるのを堪えてたあたしを、傍まで近づいた慧さんが顔を覗き込み、そんなあたしを見て優しく笑う。「だって、何から謝ったらいいか……」いろんな想いは溢れてくるのに、どう言葉にすればいいのかわからない。何から謝ればいいかわからない。「いや、違うから。オレは依那をそんな悲しませたくて言ったんじゃない」「だって……」「でもまぁ、そっか、こんなタイミングで依那はいきなりそんなこと聞かされたらそう思っちゃうよな」あたしを覗き込んだ慧さんは、変わらず優しく微笑む。「依那」あたしの名前を呼んで、そんなあたしの手を握る慧さん。「家に帰って、ゆっくり話しようか」「はい……」「ん」そう返事したあたしの手を、慧さんはちゃんと繋いで、隣に並んでまた歩き始める。慧さんのが絶対苦しいはずなのに、どうしてこんなにこの人は優しいんだろう。関係ないあたしが泣いちゃダメだとわかっているのに、慧さんの辛さを考えると、胸が痛んで涙が出てしまう。こんな状況なのに、あたしを包み込んでくれる慧さんが優しすぎて涙が出てしまう。そんなあたしの手をしっかり握って引っ張って歩いてくれる慧さんは、ホントに頼もしくて。そして、その手からは、慧さんの気持ちが伝わってきそうな、優しさの中に少し強さがあるような……。だけど、なんだかその繋ぎ合っている手から、慧さんの隣にいていいんだよと言ってくれてるようで。慧さんとしっかり手を繋いで、今隣で歩けていることに、嬉しさで心が温かくなった。
Last Updated: 2026-07-19
Chapter: 352.巡る運命⑩
そんな慧さんが気になって、隣を歩きながら慧さんを見つめていると……。「ハハッ……。まさか本当にそうだったとはな……」慧さんが少し視線を落としながら、なんだか悲しそうに笑ってそんな言葉を呟く。「え……?  どうしたんですか? 慧さん……」あたしがそう聞き返すと、慧さんは。「うん……」あたしの問いかけに微妙な反応を示す。何か多分、慧さんの中で思ってることがあるのは違いなくて。だけど、それを自分の中で考え込んでいるような、そんな感じに見えてしまう。あたしはそんな慧さんを感じ取りつつ、それ以上何も聞けなくて、そのまま慧さんの隣を歩く。そんな時間がどれくらい続いただろう。何分もそんな沈黙が続いて、あたしはただひたすら慧さんが話始めるのを待っていた。「あの人……。あの女将さん……」すると、ようやく口を開いた慧さん。そしてその言葉はなぜか女将さんの名前。「はい……」「母親だった……」「え……?  母親って……?」慧さんのその言葉にあたしは、立ち止まって聞き返す。「オレを昔捨てた母親だよ……」「えっ……? 嘘……。あの、女将さんが……、慧さんの、お母さん……?」えっ、そんなことってある……? まさかの女将さんが慧さんのお母さんだなんて……。「母親のことはなんとなくしか正直覚えてなかったんだ。あの頃の記憶は曖昧というか……自分の中であまり思い出したくない記憶になってたから……。だけど不思議なもんだよな。なんとなくわかっちゃうんだよ、そういうの……」「慧さん……」「最初は特に気付かなかった。でも、ふと笑った時の表情とか、やっぱ面影あんだよな……」慧さんはどこから気付いてたんだろう……。どんな気持ちであの時あの場にいたんだろう……。そんな気持ちの中、慧さんはそれを隠して、ちゃんと挨拶までしてくれたってこと……?慧さん、一切なんの動揺もしてなかった。それどころかいつものように余裕があって……。だけど、そんな慧さんが唯一気弱になってしまうのは、ご両親の話になる時で……。そんな原因かもしれないお母さんが、女将さんで……、その人が目の前にいて、それであたしが感謝までしてる存在として紹介して挨拶するだなんて……。どうしよう、そんな辛い想いさせてただなんて……。言葉にならないほどの後悔と切なさと辛さで、胸が苦しくなる。
Last Updated: 2026-07-18
Chapter: 351.巡る運命⑨
「依那。少し歩いて帰ろうか」それからお店を出て、慧さんがそう声をかける。「はい」慧さんの隣に並んで歩きながら、あたしも返事を返す。「慧さん。今日は一緒に来てもらってありがとうございました」「ん」慧さんが微笑みながら返事をしてくれる。「二人に慧さんのこと、紹介出来てよかったです」「うん」「あんなに女将さんも感動してくれるなんて思ってなかったです。帰り際に、ホント涙ぐんで、慧さん紹介したこと、すごい喜んでくれてました」「そう……なんだ……」「はい。女将さんと知り合ってから、あんな女将さん初めて見たんで、ちよっとビックリしたんですけど」 女将さんは、どちらかといえば、いつも明るくて、感情的になるとこはもちろん見たことがなかった。女将さん、あんなにこども食堂に思い入れあったんだなぁ。でも、それほど思い入れあるのって、どうしてだろう。何か理由あったりするのかな……?「依那は、あのお店のご夫婦と知り合ったのは、どういうきっかけだったんだ……?」すると、慧さんが隣から尋ねてくる。「あぁ。あたしが高校生くらいに父が偶然見つけたお店なんですけど。たまたま新しく出来たお店だったらしくて、最初の頃からの父が常連なんです。そのうち、家族みんなで行くようになってって感じですかね」「そう……。あの女将さん、依那の母親代わりみたいなもんだったって言ってたけど。向こうには子供も本当にいないって……?」「あっ、はい。そうみたいです。夫婦二人であーやってお店やっていけることで十分幸せだからって」「そう……。いないのか……」「はい。自分に子供がいない分、愛が足りていない子供たちに、少しでも自分たちが力になってあげたいって女将さん言ってました」「愛が足りない……ねぇ……」慧さんは、その話を聞いて一人ボソッと呟く。「依那さぁ。あの、女将さんの名前って、知ってる……?」「えっ? 名前ですか?  えーっと、確か……、小夜子さんです」ん?  慧さん、なんで女将さんの名前なんか?「…………」「慧さん……?」名前を聞いてきたのに、なぜか慧さんは無反応でただ黙り込んでいる。なんか今日こんな慧さん多い気がするのは気のせいだろうか。あんまりこんな慧さん見たことないだけに、少し気にかかる。あたしと話してて、こんな風にボーッとして黙り込むこととか今まで一度もな
Last Updated: 2026-07-17
Chapter: 350.巡る運命⑧
そして、一通りそれから食事をして、帰り際、慧さんが大将と最後に挨拶をしていると。「依那ちゃん。今日は来てくれてありがとう」女将さんが声をかけてきてくれた。「こちらこそ。美味しいお料理ごちそうさまでした」「まさか依那ちゃんがこんな嬉しいこと……。ホントに、彼を連れてきてくれて感謝するわ……」女将さんが、そう言って少し涙ぐみながら、あたしの手を取りギュッと握り締める。女将さん。子ども食堂、そんなに感激してくれてるのかな。確かに女将さん、子ども食堂にはすごく思い入れある感じしてたし、いつも子どもたちに親身になって向き合っていたもんな。最近ちょっと大変だってことは耳にしてたから、慧さんが力になってくれることで、女将さんも安心したのかもしれない。「子ども食堂。これからは慧さんが力になってくれるんでもう大丈夫ですよ」あたしはそう言って、笑顔で女将さんの手を握り返す。「あ……。えぇ……。そうね……。これからは、彼が力になってくれるということだものね……。フフ。最近、ちょっと涙もろくなってダメね。ちょっとしたことでもすぐ泣けてきちゃう」そういいながら、女将さんが少し涙ぐみながら微笑む。「それほど喜んでもらえて、あたしも嬉しいです。あたしも関われるように頑張りますね。あっ、でも、慧さんはちゃんと関わってくれるみたいなんで安心してください」「そう……。彼は関わってくれるのね……。なんだか夢みたいだわ……」女将さんがそれほど感動して喜んでくれてるのを見ると、あたしも嬉しくなる。さっき慧さんが更にもう少し詳しい話をしてくれて、それを少し聞いてただけでも、慧さんが考えている子ども食堂のプロジェクトは、とても画期的で、更に今以上充実した素敵なモノになるのだろうと、あたしも聞いててワクワクした。慧さんが軽く話すだけで、そのすごさを感じるのに、これが正式な形になれば、更に素晴らしくなることが想像出来る。女将さん、慧さんの話すのを聞いてた時から、すでにウルウルしてたもんな。確かに、二人がメインで今までやってきた子ども食堂も、とても温かくて素敵なモノだったけど、きっと慧さんが加わることで、もっと手を広げたいこととか、もっと理想や望む状況に近い運営が出来ることになる。あたしもまさか、この出会いが、そんなきっかけに繋がるなんて思いもしなかったから、密かに女将さんと
Last Updated: 2026-07-16
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