Chapter: 第35話 モデル界のカリスマ 私は近くにいるモデルの女性に初めて聞くその名前を尋ねる。 「え? お姉ちゃん知らないの?」 すると近くにいた綾乃がすばやくそれを聞きつけ反応する。 「AKIはすっごく有名なカリスマフォトグラファーで、モデル業界ではその名を知らないほど有名な人よ? 」 「そうなんだ……」 「彼に撮られたいモデルは山ほどいるのに、滅多にその仕事を受けない。大きなコレクションや決まった有名ブランドの撮影でないとお目にかかれないの」 「そんなにすごい人なんだ……」 「彼が撮影するとどんなモデルでも成功すると言われてるわ。その人の魅力をすべて映し出し美しさの限界まで引き出してもらえるって有名で、すごいフォトグラファーよ。有名モデルも口を揃えてまた撮ってもらいたいってアピールしてる」 モデルの世界のことを知らない私は、その人物の存在も初めて聞いた話だった。 「そんなAKIが今回この撮影に参加だなんて、運命感じちゃう! モデル始めた頃から、AKIに撮られることが本当に夢だったの……! ようやく今日その夢が叶うなんて、もう私興奮と嬉しさでどうなかなっちゃいそう!」 綾乃がテンション高く興奮しながらAKIの話を嬉しそうに話す。 「私も! こんなチャンス私に巡ってくるなんて思ってもみなかった!」 「このために私もモデルの世界で頑張ってきたの!」 綾乃だけじゃなく、周りにいるモデルたちが次々にAKIへの熱い思いを語り始める。 そんなすごいチャンス私も手に出来る資格があるのだろうか……。 「誰でもそのチャンスってあるんですよね……?」 私は隣の女性に尋ねる。 「もちろん。ここでは誰でも平等に勝負出来る場所よ。私もまだモデル始めたてでこんなチャンスに遭遇しただけで夢みたいだわ」 そう私に教えてくれた瞬間。 「フッ。まさかそんなこと本気で思ってるの?」 「えっ……?」 またもや綾乃が反応してくる。 「所詮この世界は実力勝負よ。どれだけその力を魅せられるかアピール出来るかで仕事にどう繋げられるか変わってくる。その実力を手にするために、どれだけ苦労してきたか……。モデルを最近始めたあんたたちが簡単に手に出来るほど、この世界は甘くないわ」 さっきは一弥さんが近くにいたから私に気遣うフリをしていた綾乃が、今はモデルしかいないこの空間で、早々に本性を見せる。 「そうよ
Last Updated: 2026-05-02
Chapter: 第34話 海外撮影モデルの仕事にまだ慣れないまま、私は今、一弥さんの指示の元、新たな大きな海外撮影の仕事に参加している。話によるとこれはファッション業界を盛り上げるために、デザイナーやモデルなどが一堂に集まりそれぞれの魅力を発信するという大型イベントだそうだ。新進気鋭の新人から有名な人物まで、実力も経歴も問わない、いわばこのイベントに参加出来れば誰にでもチャンスがある仕組みになっている。どれだけ今いるポジションで有名になれるか、このイベントでこれからの将来が決まるとまで言われているほどだ。けれど、それはいわばサバイバルゲームのようなもの。このイベントで自分の実力や魅力を活かし、どれだけ大きな影響力ある仕事を生み出し、そのあとの大きな可能性に繋げられるか。裏テーマとしては、そんな弱肉強食の意味合いも含まれている。特にモデルの世界では大きな仕事に繋げることというのは簡単ではなく、実力はもちろんチャンスもどれだけ手に出来るかも大きな要因になってくる。たくさんのモデルが参加する中、もちろん綾乃もこれに参加している。「あれ? お姉ちゃん。まだ撮影に一度も参加してないの?」綾乃は初日早々明るく華やかな自分の魅力を周りにアピールし、そういうイメージを求めているブランドの数人のモデルの中に選ばれていた。「海外まで来て何も出来ないなんて辛いよね。でも私の仕事を譲るわけにはいかないし、華やかな雰囲気はお姉ちゃんには到底無理だもんね。こんなところで実力の差が出ちゃうなんて、お姉ちゃんには不利になっちゃうね」綾乃にそこまで言われても、自分の魅せ方などをまだ何も知らない私は、ただその一部始終を見ているしか出来なかった。「焦らなくていい」すると撮影に同行している一弥さんが、その綾乃の撮影を見ている私にそっと声をかける。「綾乃は何年も前から留学してまでモデルをやっているんだ。同じ土台に立とうと思うな」その言葉は励ましてくれているのか、それとも……。「このイベントでお前は選ばれなくても仕方がない」「え……?」「何の経験も実力もないお前が、今回大きな仕事を手に出来るとは思ってはいない」彼のその言葉で期待してくれてるわけじゃないのだと、少し落ち込む自分がいる。「急に飛び込んだ世界だ。これがいい機会だと思って、綾乃や他のモデルを見て勉強しろ」けれど、それは最もなことだと納得し
Last Updated: 2026-05-01
Chapter: 第33話 接近 「じゃあそろそろ行くぞ」「えっ? 行くって?」「お前の引っ越しだ」「引っ越し!? 私手続きも手配も何もしてないわよ!?」「全部俺が済ませてある」「済ませてあるって?」「大家にもお前が今日出ていくことは了承済だ。引っ越し業者も、もう少ししたら向こうに行くように手配してある」「えっ!? もう!? そんなの私何も準備してないのに!」「あのスペースでそこまで手がかかる準備なんて何もないだろう」「そうだけど──!」「だから今から帰って軽く準備すればいい。業者にすべて任せれば全部やってもらえる」すべてが強引な彼に私はまた唖然とする。結局私は言われるがまま彼とアパートに戻り、子供のために準備している物や自分の身の回りの物をまとめる。気づけばあっという間に引っ越しも終わり、またこのマンションへと戻ってきた。「今日は、ありがとう」すべてが片付くまで彼はこの部屋で見届けていた。「あぁ。今日は疲れただろうからゆっくり休め」「え、えぇ……」こんな気遣いが出来る人だったのね。他人になって初めて知ることばかりだわ……。「あなたもこんな時間まで付き合わせてごめんなさい。すっかり時間遅くなったわね。今からあの家に帰るのは、少し距離あるわよね。あなたも気を付けて帰ってください」他人になると私もこんなにも自然と気にかけることが出来る。この人とはやっぱり近い距離じゃない方がいいのだとよくわかるわ。「あぁ。問題ない。今日はあの家には戻らない」「え? 戻らないって? まだ仕事なの?」「いや。仕事はない」「なら……」綾乃のところに今から行くの……?二人でいた時間があまりにも早すぎて、そんなこともすっかり忘れていた。この人のそばにはいつも綾乃がいることを……。なんでもないことは言い合えるようになったのに、綾乃のことになると、やっぱり私はつい躊躇して何も言えなくなってしまう。本当はそれが一番彼に問いただしたいことかもしれないのに……。「戻るのはすぐそこだ」「すぐそこ?」意味がわからなくて私は怪訝な表情で彼に尋ねる。「すぐ隣に帰るだけだ」「隣って?」「隣の部屋だ。俺もそこに住むことにした」「──えっ!?」あぁ、またこの人はどこまで暴走していくの。まったく理解出来ないわ。お金ある人ってこんなに自由で暴走しまくるの!?「住むって
Last Updated: 2026-04-30
Chapter: 第32話 一流の環境「ふっ……。よし。それでいい」すると彼がふっと笑って告げる。「え…?」「中に入れ」私はそんな彼に何も言葉をかけられないまま、結局中へと足を踏み入れる。「すごっ……」その広さと豪華さに思わず玄関から圧倒される。そして中に入ると、そこにはすでにしっかりと家具もインテリアも準備されてあり今すぐにでも住める仕様になっていた。「ここ。誰か住んでるの……?」「ふっ……」私がそう尋ねると、彼はなぜか顔を横に向け吹き出すように笑う。「ちょっ、何よ──!」「誰か住んでるわけないだろ。お前のために用意したんだ」「私のためにって……。えっ? この家具も全部?」「そうだ。そうじゃなきゃ今すぐ住めないだろ」「そうだけど……。そんなすぐに?」「当たり前だろ。すぐにあんなボロアパートから出ろ。一日でも早く意識を高めた方が上質な自分に早く近づける」「だとしても……、これを私のために……?」「お前がこんなの用意出来るわけないだろ」「それはわかってるけど……。そうじゃなくて……」どうして私なんかのためにそこまで……?その言葉を彼に伝えようとしたけれど、彼から返ってくる言葉はなんとなく予想は出来た。だから私はあえて、その言葉を伝えず──。「甘えていいの……?」「甘えるか……。確かにそう言われたら悪い気はしないな」えっ!? 私言葉の選択間違った!?どうしてこの人は少し嬉しそうな顔をしているの?「いや、違う……! そうじゃなくて、あなたがそこまで言うなら、しょうがないから使ってあげるわ」これが正解なのかもわからないけれど、私はなんだか彼に見透かされてる感じがするのが嫌で、つい意地を張った言い方をしてしまう。「あぁ。ここを無駄にされても困る。遠慮なく使え」この人の世話になるのは悔しいけれど、これはビジネスパートナーの助けだと思えば──。私も彼を利用するつもりで使わせてもらうわ。「奥の部屋も見てみろ」「奥の部屋?」「あぁ」彼に言われその指定された部屋へと足を進める。その扉を開けると、部屋一面がウォークインクローゼットになっていて、高級服やバッグに靴にアクセサリー、あらゆる高級な物が並んでいた。「えっ! 何これ!?」「それも全部お前のための物だ」「えっ!?」彼の行動があまりにもすごすぎて、私はただ驚くしか出来ない。「正直俺はお前
Last Updated: 2026-04-29
Chapter: 第31話 未来のために翌日。家まで迎えに来た彼は、どこに行くかを告げないまま車をどこかへ走らせていた。そのあと、彼に連れてこられた場所を見て「何なのここ……」と、思わずボソッと呟いた。高くそびえ立つ高級感を感じるそのビルを見上げながら、唖然としている私を置いて彼はその建物の中へと入っていく。私はそんな彼を追いかけ、一緒にその建物に足を踏み入れると、そこは別世界だった。ゴージャスなエントランスはどれくらいの広さかわからないほどの解放的な空間で、建物は大理石で覆われ、煌びやかなシャンデリアが共に光り輝く。ラウンジにはお洒落な高級ソファーとテーブル。一面の窓からは鮮やかな緑を感じられる樹木や花々を眺められる癒しの空間が広がる。私はその景色をキョロキョロしながらあとについていき、エレベーターホールで上層階へと上がっていく。目的の部屋に着き、彼が鍵を開け扉を開きながら、ようやく私の方へと振り向いた。そして衝撃な言葉を彼は私に告げた。「ここがこれからお前の住む家だ」「えっ!? どういうこと!?」「そのままの意味だ。今日からここに引っ越してこい」「えっ!? ちょっと待って。急展開すぎて頭がついていかないわ」「お前も今住んでる家は気に入ってそうしてるわけじゃないと言ってただろうが」「それは、そうだけど……。でも急にこんなところに住むなんて」「お前はモデルという仕事をそんな簡単なことだと考えてるのか。ちょっと意識が低すぎるんじゃないのか」「そんなことないわ! 私は真剣にモデルとしてやっていきたいと思ってる!」「なら今の生活をすべて変えろ」「変えるって……?」「華やかなトップモデルになろうって人間が、あんな貧相なアパート暮らしをしてそこを目指せると思ってるのか」「それは……。少し落ち着いたら……」「落ち着いてから? はっ。ふざけてるのか。そんないつかもわからない未来までお前は指をくわえて、あんな屈辱的な生活を我慢するというのか」「そんな言い方……!」「仮にもお前は桐生の人間だったんだぞ。そんな人間が、たとえ一時的でもあんな場所で生活していくなんて俺が許さない」「またあなたの体裁の話……? もう私とあなたは離婚していて他人なのよ。なのにあなたのそんな勝手でとやかく言われる筋合いないわ」「は……? 今は俺の話じゃない、お前の話をしているんだ」「わかっ
Last Updated: 2026-04-28
Chapter: 第30話 追いつめられる宿命まだ何の経験もない私がどうして直接そんなすごい人にオファーされたのか不思議だった。彼についていき、そのプロデューサーさんに話を聞くと、その理由はまさかのあの日のプールでの写真だった。私にとって辛い出来事がまた大きな光に繋がる。この世界に飛び込んでから、私の知らないいろんな可能性の扉が一つ一つ開いていくそんな感覚だった。話が終わり、彼と車まで戻ると、そこにはまた綾乃の姿があった。「一弥お兄ちゃん! 」「綾乃。まだ仕事なんじゃないのか」「一弥お兄ちゃんと一緒に帰りたくて、急いで撮影終わらせて来たの」「そうか。なら二人とも送ってくから乗ってくれ」「ありがとう~! 一弥お兄ちゃん!」一弥さんにそう言われ、助手席に座ろうかとドアに手を伸ばしたら……。「そこ。私の席なんだけど」その手をバシッと掴まれ綾乃がキッと私を睨む。「彼がなんであんたをマネジメントしようと思ったのか知らないけど、ちょっと面倒見てもらえるからっていい気になんないでよね。彼が一番大事にしてるのは私よ。勘違いしないで」綾乃は私に言いたいことだけ言って、助手席に乗り込む。私はその手を引っ込め、仕方なく後ろの席に座った。「綾乃の家のが近いから、先に綾乃を送っていく」「あっ、一弥お兄ちゃん……! 私この前お兄ちゃんの家に忘れ物しちゃったみたいなの」「忘れ物?」「家に帰ったらピアスつけてなかったことに気づいて……。お気に入りのピアスだから、今から一緒に取りに行っていい?」「それなら次会うとき、持って行ってやるが」「お気に入りのピアスだから次のお仕事につけて行きたいの」「わかった。なら先に杏華の家から回るか」「ありがとう~!」一弥さんにそう告げたあと、運転席で前を向いている一弥さんに気づかれないように、綾乃は後ろに振り返り、私を盗み見る。そして私と目が合った途端、勝ち誇ったような顔をして意味ありげに笑った。その言葉の意味は、きっとその微笑みが答えなのだろう。それからも、助手席で綾乃がこれ見よがしに隣の一弥さんに寄り添い嬉しそうに会話をし彼を独占する。少し前まで、その彼の隣のその場所は私の特権だった。この密室でそれを見せつけられる苦痛は、彼と他人になった時点で受け入れていたはずなのに。虚しく後ろから見つめている私は、そんな二人を見ることでまだ胸の痛みが残っている
Last Updated: 2026-04-27
Chapter: 275.社長の新たな一面④「何があっても慧さんだけを信じます。だから、慧さんも、あたしを信じてください。あたしも慧さんに真実しか伝えません。あたしは何があっても慧さんについていきます」「うん。わかった」時には、もしかしたらついてもいい嘘だったり、つかなきゃいけない嘘なんかもあるかもしれない。だけど、なんとなくあたしと慧さんの間には、そういうことは必要ない気がして。それよりも、お互い想ってる気持ちを言葉にして、出来るだけ伝えていくことが一番大切な気がする。自分を出来るだけ一つでも多く慧さんに知ってほしい。そして一つでも多く慧さんのことをあたしも知りたい。それなら、出来るだけ本当の自分を伝えたい。今想ってる瞬間のこの気持ちも全部が全部伝えられるわけでもないし、自分が慧さんに対しての想いを、きっとあたしは1000個あったらそのうちほんの数個しか伝えられていないと思うから。それならその好きだという想いを、一つでも多く慧さんに伝えたい。どれだけあたしが慧さんを好きで、慧さんが大切かをもっともっと知ってほしい。そして、慧さんも感じてる想いを、きっと全部言葉にする人ではないから。そのうちのほんの数個だけでも、あたしに伝えてくれるのなら、それを全部受け取りたいって思う。例えそれが言葉じゃなくても、空気でも、雰囲気でも、態度でも。どんな伝え方でもいいから、慧さんの伝えてくれることは一つ残さず全部受け取りたい。だから、まずは、あたしが慧さんを想う気持ちを、そして慧さんがあたしを想ってくれる気持ちを、言葉を信じよう。あたしと慧さんなら、きっとその気持ちがあれば、何かあってもきっと乗り越えられるはずだから。「あ~。明日から行きたくねぇなぁ……」すると、慧さんがボソッと呟く。「明日、何かあるんですか?」「あぁ~。また出張」「あっ、そうなんですね」「ちょっと次は長いんだよね」「どれくらいですか?」「う~ん。二週間……長ければもっとになるかも」「えっ! そんなにですか!?」前の出張の長さどころじゃなくて、あたしは思わず驚いて聞き返してしまう。「韓国とシンガポールそれぞれまとめて行く予定でさ」「二つもですか!?」「あぁ。スケジュール的にここでまとめて行くことになったから」そんなまとめて行かなきゃいけないほどの忙しさなんだ。「韓国だけならすぐ行っても帰って来れた
Last Updated: 2026-05-02
Chapter: 274.社長の新たな一面③「ハハ……」えっ?すると、慧さんはなぜかそんなあたしを見て笑う。「依那……。お前、いつからそんな強くなったんだ……?」すると、今度は穏やかに優しく微笑みながらそう聞き返す慧さん。「ただ。あたしは慧さんが好きなだけです」そして、あたしも一番伝えたいその言葉を伝えながら微笑み返す。「ん……」そしてまた微笑み返してくれたその笑顔に、その一言だけでも、ちゃんとあたしのその言葉と気持ちを受け止めてくれているのだとわかる。「でも……」「えっ……?」「あたしがもし前より強くなったのだとしたら。それはやっぱり慧さんのおかげです」「オレ……?」「はい。慧さんを好きになれたから強くなれてるのかも」「そっか……」「きっと慧さんを好きになればなるほど、あたしは強くなれると思います」少し前までは、自信失くしたりもしてたけど、今は不思議とそんな気持ちよりも強くなりたいって気持ちのが大きくて。自信失くしてる自分でいるより、強くいられる自分として、慧さんのそばにいたい。頼りなく不安にさせるような存在じゃなく、安心して笑顔になってもらえるような、そんな存在でありたい。だから、あたしはもっと強くなりたい。慧さんの隣にいて、恥ずかしくないような自分でいられるように。堂々と慧さんの隣で笑顔でいられる自分でいられるように。「だから。いつか。慧さんがあたしに頼ってくれるくらい頼もしくなれるように頑張ります」「それは心強いな」「はい。何かあったら、あたしが慧さんを守ってあげられるように、もっと強くなりますね」そして今は、慧さんにこうやって伝えられるほどまでには、あたしは強くなってると思うから。だから、これから何があっても乗り越えられるように。もっともっと強くなれるように。慧さんに今その気持ちを伝えておこう。あたしの今の強い気持ちを。これからもずっと慧さんとずっと一緒にいられるように。すると、そんなあたしを見ながらまた少し微笑んで、腕を伸ばしてそっと慧さんが隣から抱き寄せる。そのあと、あたしの頭にそっと優しく触れ、慧さんの肩に今度はあたしがもたれかかるように慧さんが促してくれる。そして、慧さんもそっとあたしの方に頭を傾け、更に近づいて寄り添ってくれる。「依那。ありがとう」そして静かにそのままそう呟く慧さん。「フフ。なんですか? ありがとうっ
Last Updated: 2026-05-01
Chapter: 273.社長の新たな一面②どうしたんだろう慧さん。こんなこと初めてだな。お仕事でなんかあったのかな?それともお酒の席で?あたし聞いてもいいやつなのかな?それとも聞かない方がいいかな?抱き締められながら、いつもと違う慧さんに少し心配する。「慧さん……?」そう思いながらも、やっぱり心配で慧さんに声をかける。すると。身体を離した慧さんは。「依那。顔見せて……」「えっ!?」そう言いながら目の前であたしを見下ろしながら、今度はあたしの頬を両手で挟み、じっと見つめる。あたしは恥ずかしさも感じつつ、少しいつもと違う慧さんが気になってその言葉のまま身を任せる。素直にそういう表現をしてくれるのに嬉しい反面、お酒を飲んだからこそのこの行動のような気がして気にかかる。「どうしたんですか……?」だから思わず尋ねてしまいたくなる。いつもなら帰ってすぐ、慧さんからこんなスキンシップなんてすることなかったから。そしてあたしがそう声をかけた言葉に、フッと柔らかく笑ってあたしを見つめる。酔っているせいか、少しとろんとした目で見つめる慧さんのその表情は、また初めて見る顔で。そんな慧さんに見つめられて、またあたしの胸はキュンとする。だけど、どういう感情で、帰ってきてすぐに慧さんがこんな風になったんだろう。いつもと違う慧さんには、きっと何か理由がある。「ん。落ち着いた」そう言って笑いかけて、慧さんはあたしから離れ、フラフラとリビングへ歩いていく。そしてそのままドカッとリビングのソファーに座った慧さんの隣に、あたしもちょこんと一緒に座る。何か話しかけようか少し迷っていると。コツン。隣に座っている慧さんがあたしの肩に頭を乗せる。えっ!? 慧さんあたしの肩にもたれかかってる!?よっぽど疲れてるのか、酔って気分が悪いのか。だけど、こんな状況でも、慧さんが少しでもあたしに心を預けてくれている気がして、少し嬉しくなる。「やっぱ。お前の隣は落ち着くな……」そしてもたれかかったまま、静かに慧さんがそんな言葉を呟く。「あたしでよければ、いつだって隣にいます」「うん。オレの隣は依那がいい」そんなストレートな言葉をなんの抵抗もなしに、あたしに伝えてくれる。それは、今酔っているから、今だけしか言ってもらえないのかもしれないけど。でも、酔っていても、慧さんの中に、きっと少なか
Last Updated: 2026-04-30
Chapter: 272.社長の新たな一面①それから数日経ったある日。家でいつものように慧さんの帰宅を待っていると、玄関の方で音がしたので、リビングで待つ。あれ? 音鳴ったよね?慧さんはいつも帰宅するとすぐ、自分の部屋に行く前に、リビングにいるあたしに、毎回 ”ただいま” を言いに、すぐに顔を出してくれる。だけど、なぜか今日はすぐに慧さんがリビングに来ない。不思議に思って、思わず玄関の方まで行って確認しに行くと……。えっ!? 慧さん!?「慧さん! どうしたんですか!?」玄関で倒れこんでる慧さんの姿を見て、あたしは驚いてすぐに声をかける。えっ、どうしよう! 慧さんに何があったの!?今まで見たことないその姿と今の状況に、あたしは訳がわからなくなって、少しパニックになりそうになる。すると。「う~ん……」と、倒れこんだ慧さんからうなり声がうっすら聞こえてくる。「慧さん!? 大丈夫ですか!?」あたしは慧さんをゆすりながら顔を覗き込んで声をかける。「あぁ……。依那……」と、あたしに気付いて、あたしの名前を呼ぶ慧さん。「よかった……。家か……」今いる場所に気付き、なぜかホッとしてる様子の慧さん。「どうしました!?」「あ、あぁ……。いや、ごめん。ちょっと、飲み過ぎただけ……」えっ……? 飲み、過ぎた……?はぁ~~なんだー! 飲み過ぎただけかー!よかったー!そして、慧さんは、ようやくその場で自分でむくっと身体を起こし、とりあえずその場で座り込み、まだボーッとしている。飲み過ぎただけと聞いて、病気とか何か心配するようなことじゃないとわかって、とりあえず安心する。慧さん最近お酒ずっと控えてたし、ここまで飲み過ぎるのって久々な気がする。でもお仕事ではお酒飲むの避けられないって言ってたしな。たまにはここまでになることもあるか。だけど、そのまま座り込んでる慧さんが心配で、あたしはリビングに戻り冷蔵庫から冷たい水を取り出し、慧さんの元へと持ってくる。「慧さん。お水です」慧さんのそばにしゃがみ込み声をかけ、ペットボトルの水を差し出す。「あ、あぁ……。ありがと……」その水を受け取って、慧さんはその場で水を口にする。「大丈夫ですか……?」「ん。ごめん……。水飲んだらちょっと落ち着いた……」「よかった」安心して慧さんの顔を見ると、なぜかじっとあたしを見つめている
Last Updated: 2026-04-29
Chapter: 271.注目と噂⑪「うん、そんな感じで君は君のままでいればいいよ」本村さんは、あたしに聞いてきたその問いかけの答えをくれるわけでもなく、何を見てそう言ったのかもわからないけど、なぜだがまたあたしのままでいればいいと、そう伝えてくれる。「えっ、教えてくれないんですか?」「だってその理由は慧しかわかんないもん」いやいやいや、そこまで言っといて!本村さんってこういうとこあるんだよなー!「とにかくオレが言えることは、何があっても慧のそばにいてやってほしいってことかな」「それはもちろんそうしたいです……」「うん。今の君のままであいつをこれからも支えてやって」「今のあたしでいいんですか……? しかも、あたしが慧さんを支えるなんてこと出来るかわからないですけど……」ただあたしが一緒にいたくているだけで、支えるなんてそんな大それたこと出来るとも思ってないけど、でも、慧さんが少しでも安心して心を預けられるような存在でいたいとは思う。「あ~。それね。きっといつかわかる時がくると思うよ?」「わかる時って?」本村さんは意味ありげにそんなことを言う。「君が慧を支えるようになる時」「えっ、そんな時来ますかね?」あたしが慧さんを頼ったり支えてもらったりするならわかるけど、慧さんをあたしが支える……?その言葉に、あたしはまだしっくり来ないし、想像も出来ないけど。だけど、本村さんは余裕ある顔で満足そうにあたしに笑いかける。「だから君はもっと強くなりなね」「もっと、強く、ですか?」「そう。何があっても慧と一緒にいるために強くなること。それが今オレが君に伝えたいことかな」「慧さんといるために? それってどういう意味ですか?」多分本村さんは、慧さんの何かを思って、あたしに伝えているような気がする。「あぁ、そしてあともう一つ。とにかくあいつを信じてやること。」そしてまたもう一つ本村さんが付け加える。実際何か起きてしまった時に、あたしはその時どう対応するのかとか、どんな感情になってしまうのかとかはわからないけど、多分本村さんはその時を予測して、そう伝えてるのかもしれない。だけど、それはどちらも、あたしが慧さんを好きな以上絶対必要なことで。多分何かあった時、それをちゃんと確かなモノにしておけば、乗り越えられるような、あたしもそんな気がするから。「わかりました。慧さんを
Last Updated: 2026-04-28
Chapter: 270.注目と噂⑩「君はさ、どうして慧が君を選んだかわかる?」「えっ、全然わかんないです」今でも全然わからない。なんであたしを受け入れてくれたのか、どうしてあたしを好きになってくれたのか。あたしが必死にアピールしたから好きになってくれた?一緒に住んでて一番近くにいたから?料理作れたから?きっとそれらは単なるきっかけでしかすぎないのかもしれない。だけど、そのきっかけがなければ、きっと今の慧さんとはなくて。多分、きっと、その理由は散りばめられた小さな欠片くらいのモノで。もしかしたら、ちょっとした積み重ねで好きになってくれたのかもしれない。だけど、それは慧さんにとって小さな欠片で気付かないような理由だとしても、あたしにとってはその一つ一つの欠片がたくさんたくさん積み重なって慧さんへの想いがどんどん大きくなっていて。慧さんにとってわからないくらいの欠片でも、あたしにとってはどれも一つずつ大切な宝石のようなモノだから。だから、今慧さんがあたしを選んでくれただけで十分幸せで。どんな理由であれ、今のその幸せを手に出来ていることに、きっと意味があると思うから。いつの間にか、あたしの慧さんの憧れが好きという想いに変わったように、慧さんも、その小さな欠片から、今は同じような気持ちになってくれていたら嬉しい。例えあたしと同じ大きさの想いじゃなくても、慧さんの中で、あたしが存在していて、どんな欠片でもいいから、あたしを必要としてくれたり、好きだと想ってくれればそれでいい。その分あたしがもっともっと想いを大きくすればいいだけ。自分だけが大きくなって、時に辛くなる時があるかもしれないけど。だけど、あたしは慧さんを想えることで、今のあたしは存在しているから。きっとあたしがその気持ちさえ確かなモノにしておけば、きっともっと強くなれるはずだから。「うん、そんな感じで君は君のままでいればいいよ」本村さんは、あたしに聞いてきたその問いかけの答えをくれるわけでもなく、何を見てそう言ったのかもわからないけど、なぜだがまたあたしのままでいればいいと、そう伝えてくれる。「えっ、教えてくれないんですか?」「だってその理由は慧しかわかんないもん」いやいやいや、そこまで言っといて!本村さんってこういうとこあるんだよなー!「とにかくオレが言えることは、何があっても慧のそばにいてやっ
Last Updated: 2026-04-27