Chapter: 最終話 桜木家「なぁ頼むよ」 「えぇ〜」 今年、高校に入学したばかりの息子、桜木奏多《さくらぎ かなた》は心底嫌そうな声を出す。 むぅ……まさかここまで嫌がるとは思わなかったな。 「そんなに嫌なの?」 「嫌だよ。てか、それ以前に何でお見合いなんてしなくちゃいけないのさ。まずは、その理由を聞かせてよ」 「まぁ話せば長くなるんだけどな」 音葉《おとは》と夫婦契約を結んでから、早いもので18年の時が経った。 大学を卒業したその日に音葉と結婚して、その年に第1子である奏多が産まれた。 早くね? って思うかもしれんが、仕方がなかったことなんだ。ちょいとテンションが上がって、音葉とフィーバーし過ぎちまった結果だ。 まぁ色々大変ではあったが、全く後悔はないから良しとしよう。 そして何と驚いたことに、小鞠さんがいつの間にか結婚していて、おまけに奏多と同い年の娘を出産したらしい。めでたいことだ。 で、だ。俺は完全に忘れてたんだが、昔小鞠さんとした約束の話が持ち上がってきた。 そう、お互いの子供を結構させようっていうあれだ。あの時は、冗談だと思って適当に流していたが、どうやら小鞠さんは本気だったようで、つい先日お見合いをやろうという連絡がきたのだ。 んで、慌てて奏多にお願いをしているってわけだ。 「まぁそういうことだ。頼むぞ、我が息子よ」 「いや、頼むぞじゃねぇよ。クソ親父」 「こらこら奏多君。お口が悪いですよ。そんなんじゃいい大人になれませんよ」 「うっぜぇ……」 ち、本当に口が悪いなこのガキ。いったい誰に似たんだか。 「はぁ……分かったよ。とりあえず、出るだけ出てあげるよ」 「お? いいのか?」 「相手は雪城さんの娘さんなんだよね? 父さんと母さんの立場もあるからねぇ」 おぉ……流石俺の息子だ。その辺、言わなくてもちゃんと分かっていらっしゃる。 今の小鞠さんは、音葉が所属している事務所の社長さんだ。俺も個人的に小鞠さんには、そこそこお世話になってる。だから、断るのは少々都合が悪いんだよな。 まぁ断ったからって、あの人が何かしてくるとは全く思わないけど、それでもまぁ色々あるもんなんだよ。 「ただし、条件が3つある」 「ほう。言ってみろ」 「まず1つ目、お見合いはする。ただ、その後のこと
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Chapter: 46話 新しい契約「おーい。アラタ君ー!」 「なんでいるんだよ……」 おっかしいなぁ。俺、今日帰るとは音葉に言ってなかったはずなんだけどなぁ。 てか、もう夜中なんだから、そんな大きな声出さないでもらえないですかね? 「お帰り」 「ただいま。んで? 何でいるの?」 「言い方悪い。何? 私が迎えに来るのは嫌なの?」 「まさか。嫌じゃないよ。ただ、何で俺が今日この時間に帰ってくるか、分かったのかなって思ってな」 「風実歌《ふみか》ちゃんから教えてもらったんだよ」 「なるほどな」 だから時間とか聞いてきたのか。納得納得。 「音葉は飯食ったのか?」 「うん。オムライス食べたよ」 「ほう。栞菜《かんな》ちゃんに作ってもらったの?」 「にひひっ。って思うじゃないですかぁ? でもね、私が作ったんだよねぇ」 「音葉。嘘つきは泥棒の始まりだぞ」 「全く信じてくれないねぇ!?」 当たり前だ。 卵すらまともに割れないやつが、オムライスを作った? そんなの信じろって言う方が無理だろ。 「胡桃《くるみ》に教えてもらったんだよ」 「胡桃ちゃんに?」 「うん。メイド喫茶特製のね」 「ほほう。まさに直伝ってやつだな」 「うん。これがめっちゃ美味いんだなぁ」 「え? てかガチで作れるようになったの?」 「ガチだよ。胡桃のやつに超スパルタで叩き込まれたんだよねぇ」 胡桃ちゃんのスパルタか。 めっちゃ厳しいってことだけは想像出来るわ。 「今度作ってあげようか?」 「お手並み拝見だな」 「にひひっ! 刮目していいよ」 「楽しみにしてる」 しかし、音葉と胡桃ちゃんがねぇ。 喧嘩ばかりしてるけど、やっぱ何だかんだで仲良いんだよな。 「そうだ。ありがとね、アラタ君」 「うん? 何のこと?」 「またまた〜、惚けちゃって」 「茶化すな。何の話だよ」 「スカウトのことだよ。雪城エンターテインメントから、契約の話が来てるんだよ。メジャーデビューしないかってね」 あぁなるほどね。その話か。 確か、もうすでにいくつかのバンドと契約して、メジャーデビューの話が進んでいるって言ってたな。まぁ当然、音葉達AGEにもこの話が来ててもおかしくはないか。 「別に俺にお礼を言うことじゃないだろ
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Chapter: 45話 俺の好きなやつ「お? あにぃこれ美味しいよ」 「おぉ本当だな。絶品だ」 「あにぃ同じの作れない?」 「流石に無理だなぁ」 「うーん。残念」 クソ親父達が帰った後、俺と風実歌、それと雪城さん達で料理を食っていた。 まぁ残して行くには、少々もったいないくらいには、お高いところだからな。 ちなみに、和奏《わかな》さんは帰って行った。一緒にどうですか? って誘いはしたんだけど、和奏さん曰く、こういう高いところは仕事としてじゃなくて、プライベートで来たいからとのことだ。 まぁ気持ちは分からんでもない。 「それにしても、アラタさんと風実歌《ふみか》さんは仲がいいんですね」 「んー、多分普通ですよ。俺らとあのクソ兄貴が特別仲悪いだけなんで」 「なるほど。確かにそうかもしれませんね」 そもそもの話、あのクソ兄貴と仲良くなんて出来るわけがない。あいつ、性格が悪いってより、人として大分終わってるしな。 「あ、でもでも、あにぃは世の中のお兄ちゃんより、ずっといいと思いますよ!」 「こら、妹よ。恥ずかしいからやめなさい」 「えぇ〜、可愛い妹の愛を受け止めてよ」 「あーはいはい。ありがとな。愛してる愛してる」 「えへへぇ〜、私も愛してるよ。あにぃ」 やれやれ……何でうちの妹はこのやり取りがこんなに好きなんだろうねぇ? いい加減付き合うのにも飽きてきたぞ。 「う、う〜ん。やっぱり、仲がいいと思いますけど……色んな意味で」 「あはは……確かに僕の目にも、そう見えるかなぁ」 「気のせいですよ」 そうそう気のせいだ。俺はシスコンじゃないし、風実歌もブラコンじゃない。そこそこ仲がいいどこにでもいる兄妹なのだ。それ以上でもそれ以下でもないのである。 「そうだ。アラタさん、1つお願いがあるのですが」 「ん? なんすか?」 小鞠さんが俺にお願い? 何だろ? 全く想像出来ないな。 「私と結婚しませんか?」 「ぶほはっ!?」 「ちょ、あにぃ汚いよ! ほら、水」 「あ、ありが、と……」 きゅ、急に何言い出すんだこの人!? 食ってた餃子が変なところに入っていっちまったじゃねぇかよ。 「それでどうでしょうか? アラタさん」 「いや、ちょっと待ってくれ。いきなり何言ってんですか?」 「何って、
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Chapter: 44話 面倒な話は迅速に「遅いぞ」 「時間通りだろ」 「社会人なら10分前行動が基本だ」 「はいはい。そいつは悪かったな」 今日はいよいよ、俺のお見合いの日がやってきた。昨日、一昨日と挨拶回りだのと、あっちこっち連れ回されての今日だ。おかげで休む暇もなかった。ったく、本当に人の扱いが酷いもんだぜ。 でもまぁ、それも今日で終わりだ。さっさと済ませて早くあっちに帰りたいものだ。 俺達は今、お見合い会場となっている料亭に来ている。珍しいことにクソ親父にクソ兄貴、クソババアと俺と風実歌の家族全員参加だ。しかも、俺らが早く来ての相手さんを待ってる状態だ。 こりゃ、よっぽど相手さんを立ててるってことだな。 ちなみに、ホームズはお留守番だ。今日は獅雄《れお》さんに預かってもらってる。 「恥じかかすなよ。アラタ」 「努力するよ。クソ兄貴」 「お前。間違っても、相手方の前でそんな呼び方するなよ?」 「わーってるよ。今だけだ」 「ふん。相変わらず、出来の悪いやつだな」 ったく……こっちはこっちで、うるせぇやつだなぁ。少し黙ってらんねぇのか? 「ねぇあにぃ? 本当に大丈夫なの?」 「心配するな。風実歌は料理が運ばれてきたら、美味しそうに食ってればいいさ」 「んな適当な……」 「いいんだよ。適当で」 どうせ、これから始まるのは茶番なんだからな。しっかりするだけ無駄ってもんだ。 だったら、味だけは美味いご飯を楽しんでた方が何百倍もいい。 「桜木さん。お待たせしました」 お? 来たっぽいな。 扉が開いて、50代後半くらいのスーツを着た男性と、俺と同い年くらいの和服を着た金髪の女性が入って来た。 「雪城さん。本日はお越しいただきありがとうございます」 「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます」 「どうぞ。まずはおかけ下さい」 お決まりの硬っ苦しい挨拶を済ませると、クソ親父は雪城さん達を席に通す。 雪城さん達が席に座ると、待ち構えてたかのように、料理が運ばれてきた。 うわ……高そう。いったい1食いくらするんだこれ? 「ほら、アラタ。何してる。お前も挨拶しろ」 はいはい。分かってますよ。 「桜木アラタです。今日はよろしくお願いします。雪城さん」 「あぁ。こちらこそよろしくね。アラタ君。ほ
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Chapter: 43話 帰省「なぁ音葉《おとは》。1人で大丈夫か?」 「にひひっ、大丈夫だよ。栞菜《かんな》とかが助けに来てくれることになってるから」 「なるほど。確かにそれは心強いな」 まぁ……栞菜ちゃんには、また迷惑かけることになるけどね……。 ごめんね。うちの子がポンコツのダメ人間で。戻ってきたら、俺が責任もって世話するんで、少しの間お願いします。 「ねぇ……何か今、心の中で失礼なこと考えてなかった?」 「気のせいだよ」 「本当かなぁ」 「本当だって」 「まぁいいや。気をつけて行ってきてね。それと、ちゃんと帰って来てね」 「あぁ分かってるよ」 「行ってらっしゃい。アラタ君」 「行ってきます。音葉」 ―――― ―― 音葉達のライブバトルが終わって早数日。あの後、打ち上げやら、胡桃《くるみ》ちゃんの歓迎会やらをやっているうちに、あっという間にクソ親父との約束の日がやってきた。そんな訳で、嫌々ながら地元に帰ることになった。 あ、ちなみに胡桃ちゃんとは、歓迎会で結構仲良くなった。主に音葉に対する愚痴や苦労なんかを話してたら意気投合した。今じゃお互いに名前呼びする仲になった。 「新幹線に乗ってる間は、大人しくしてろよ?」 「にゃ〜あ」 「いや、ほんとに頼むぞ。ホームズ」 うちの愛猫、ホームズも連れて帰ることになった。まぁ、俺がいない間、音葉には流石に任せられないってことになったからだ。 ネットで調べたら、新幹線に猫を乗せても大丈夫とのことだったから安心したぜ。今は、俺のバックの中で頭だけ出して大人しくしてる。 ふむ。こうして見ると、某ゲームの主人公みたいだな。 「っと、そろそろ発車の時間だな」 ぼやぼやしてるとあっという間だな。 指定席を取ってあるから確実に座れるけど、ぎりぎりに行って乗り込むのに苦労したくないし、さっさと座ってしまおうか。 あーあ……それにしても、まじでくそめんどくせぇなぁ。 ―――― ―― 「あにぃ〜! こっちこっち!」 駅から出てすぐに、風実歌《ふみか》の大変元気な声が辺りに響き渡る。 うん。ちょい恥ずかしいから、あれやめてくれないかな? ほら、めっちゃ注目集めてるじゃん。お兄ちゃんは、シャイで恥ずかしがり屋さんだから目立つのは嫌いなんだよ? 「お
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Chapter: 42話 AGE―胡桃視点― 負けた……。 結果を聞くまでもない。完全に私達の負けだ。 その証拠に会場は、大AGEコールが鳴り響いている。 悔しい……悔しい悔しい悔しい! 「胡桃」 「大丈夫。帰ろう……」 私はそれだけ言って舞台袖へ帰ろうとする。 ごめん優。今はちょっと顔を見れない。多分、私すっごい酷い顔してるから。情けなくて見せられないよ。 「胡桃!」 「え?」 会場の大AGEコールをかき消すほどの大きな声で、音葉が私の名前を呼んだ。 余りにも突然のことで驚いてしまった私は、思わず音葉の方を向いてしまう。 「にひひっ」 音葉はいつものように、白い歯を見せて笑うと、ジャーンとギターを掻き鳴らす。 それに応えるように、璃亜はベースを栞菜はドラムを弾き始めだ。 「こ、この曲は……」 忘れもしない。これは、私達がまだAGEだった頃に初めて作って演奏した曲だ。 何で今さらこの曲をこの場所で演奏してんのよ。バカじゃないの? でも……。 「あぁ……そう……」 ほんとに腹立つやつだ。 何? その顔。 出来るよな? 早く入って来いって顔してさ。 いいよ。やってあげるよ。忘れてるかもしれないけど、この曲のメインは私なんだから! ―――― ―― 「はぁ……はぁ……」 突然始まった演奏に会場のお客さんは、戸惑いはしたものの、すぐに熱狂に変わった。 まぁ当然かな。この曲で盛り上がらないわけがないんだから。 「にひひ、出来るじゃん」 「うるさい。急になんのつもり?」 「べっつに〜。ただ泣きそうな顔してたから、ちょっと慰めてあげただけだよ」 「はぁ? 喧嘩売っての?」 ほんとに音葉は昔からこうだ。ほんとにムカつく。 「はいはい。2人ともその辺にして」 分かってましたよって言わんばかりに、栞菜が私と音葉の間に入ってきた。 なんというか、流石と言うべきかな。私と音葉が喧嘩しそうになると、いつもこうやって間に入ってくれたっけ? 「ごめんね胡桃。急にやっちゃって」 「別にいい……」 無視しようと思えば出来た。それなのに演奏に参加したのは私だ。だから、栞菜が謝ることじゃない。 「ねぇ胡桃。やっぱり戻ってこない?」 「その話は前に断ったでしょ」 「お
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Chapter: 最終話 魔女と最低最悪のプロポーズ「なるほどな。そういうことか」 「うん。中々いいアイディアでしょ?」 「まぁ、そうだな」 「ふふん。もっと褒めてくれてもいいんだよ」 「調子のんな」 アタシが花火を見るために用意したのは、空の上。 つまり、魔法で空を飛んでいるってことだ。いつもは、箒で飛んでいるんだけど、流石に箒に乗ってだと、ゆっくり花火を見ることは出来ないから、代わりに絨毯に乗っている。あの有名な魔法の絨毯みたいな感じだ。 「でもまぁ、確かにこりゃいいな。遮るものもないし、見上げるんじゃなくて、ほぼ同じ目線で見ることが出来るからな」 「気に入った?」 「あぁ」 「なら、良かった」 ほう? 珍しく総司《そうじ》が上機嫌だね。これは本当に気に入ったっぽいね。うんうん。我ながらよくやったって感じだね。 「そういえばさ」 「ん?」 「百合《ゆり》達もお祭りに来てるのかな?」 「あー……多分来てねぇぞ」 「え? そうなの?」 意外だ。百合って結構お祭りとか好きだから、てっきり、高木君と来ているのかと思ってた。 「黒川と翔《かける》はあれだ。今頃、ホテルでお楽しみ中だ」 「え? ホテルって……あの、アダルティの?」 「あぁ。アダルティなホテルだな」 わぁお……。 おいおい、二人ともお盛ん過ぎないかな? 「いや、実はな。今日の午前中に翔ん家でゲームしてたんだが、昼くらいに黒川がいきなり来てさ。何かすっぽんとかマムシが入った、精力料理を翔に食わせて、そのまま出ていったんだよな」 「な、なるほど……。た、確かにそれはもう間違いないね」 「だろ?」 百合ってば、マジでやってんなぁ。流石自分で、ここ掘れワンワンの如き性欲が溢れてくるとかどうとか言ってただけのことはあるね。まさに有言実行だよ。 てか、大丈夫なの? 一応、高木君って病み上がりのはずだよね。最近、百合の魔法具の実験に付き合わされて入院して、退院したばっかりのはずだよね? 「まぁあれだ。翔も何だかんだで、ノリノリだったから、まぁ何とかなるんじゃね? 知らんけど」 「まぁそうだね。何だかんだで、高木君ってタフだしね。何とかなるよね。知らんけど」 うん、まぁ。結局のところは、二人のことだし二人がいいなら別にいいか。どうなっても、知らないけど。
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Chapter: 32話 お祭りデート「あー……、うざいだるい疲れた暑い眠い帰りたい……」 夕方の五時だってのに、何でこんなにクソ暑いんだよ。しかも、無駄に人がごった返しているせいで、暑いのとは別に気持ち悪さもある。 ちくしょう……やっぱり来るんじゃなかったぜ。 これも、姫乃《ひめの》を祭りに誘えって言った黒川のせいだ。まじでギルティだ。 「つーか、あの女全然来ねぇし……」 とっくに待ち合わせの時間は過ぎてるぞ。何やってんだよ、あのクソ女が。 「総司《そうじ》〜、お待たせ〜」 「死ね」 「いきなり何!?」 「あ? 時間を守れんやつは、世のため人のため、俺のために死んだ方がいいんだよ」 「いくらなんでも言い過ぎだからね!?」 言い過ぎなことがあるか。時間ってのは、大事なんだよ。タイムイズマネーって言葉があるくらいなんだ。場合によっちゃ、時間は金よりも重いことがあるんだよ。 「ごめんって。準備に色々と手間取ったの。あとで何か奢るから許してよ」 「ちっ。たこ焼きな」 「うん。分かった」 にしても、準備に手間取ったねぇ。確かに今日の姫乃は、いつものだらしない格好ではなくて、浴衣を着ている。まぁ多分、そのせいだろうな。 「それよりも、どうよ?」 「何が?」 「浴衣だよ、浴衣! 見たら分かるでしょ!」 「あぁうん。いいんじゃない? 知らねぇけど」 「いや、適当! めっちゃ棒読みだし!」 「んじゃ、浴衣は綺麗だな」 「何で浴衣に限定してるのかなぁ? 普通に似合ってるとか言えないの!」 ちっ……めんどくせぇやつだな。つーか、大声出してんじゃねぇよ。めっちゃ見られてんだろうが。 こりゃ、さっさと移動した方がよさそうだな。 「もう何でもいいから、早いとこ行くぞ」 「はぁ……もぅ。はいはい、分かりましたよ」 ―――― ―― 「うげぇ……」 「うっわぁ……」 何だこれ? 気持ち悪いくらいに人が居るな、おい。病気かってくらい人口密度高ぇじゃねぇかよ。 姫乃も同じこと思ってるのか、苦虫を噛み潰したような顔している。 まぁこいつも、どちらかというと陰キャよりの人間だしな。本能的に人混みを嫌ってるんだろう。 「どうする? 帰るか?」 「いや帰らないし! てか、そんなこと言わないでよ。本当に帰りた
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Chapter: 31話 魔女と使い魔達「にゃあ、ヒメノ。ついに妄想と現実の区別がつかなくにゃったのかにゃ?」 「言い過ぎだよ、モナちゃん。もしかしたら、さっきまで寝てたから、都合のいい夢を見てたって可能性もあるよ」 「にゃるほどにゃ」 「いや、にゃるほどにゃじゃないよ! 夢でも妄想でもなくて現実だから!」 まったく、なんて失礼な使い魔達なんだ。モナはともかく、アヤメちゃんまでこんなことを言い出すなんて。完全にモナの悪い影響を受けてるね。 「え? 姫乃お姉ちゃん、マジで言ってるの?」 「マジだよ。大マジ。マージ・マジ・マジーロだよ」 「まーじまじまじーろ……?」 「ジェネレーションギャップ!」 マッジかぁ……伝わらないのかぁ。いや、うん……まぁそうだよね。何年前のニチアサヒーローだって話だよね……。 って、いやいや。今はそんなことどうでもいいんだった。 「にゃあいいにゃ。一旦信じてやるから、話してみるにゃ」 「ちょっと〜、モナ〜? そろそろアタシ怒るよ? おこだよ、激おこだよ。激おこプンプン丸だよ?」 「激おこプンプン丸って何?」 「うっそぉん! これも通じないのかぁ〜」 なんてこった。これが華の高校生と五歳児の差なのか。正直辛いんだが……。 「さっさと話せにゃ」 「うっさいわ! このクソ猫!」 「やっかましいにゃ! 魔法しか取り柄のないバカ魔女!」 「モナのくせに調子のるなぁー!」 「ヒメノの分際でワガハイに意見するにゃ!」 本当にもう怒った。このクソ猫。今日という今日は絶対に許さないんだから! ここらで一発絞めて、アタシがご主人様だってこと分からせてやるんだから! ―――― ―― 「ごめんって、アヤメちゃん……」 「ごめんにゃ……」 「むぅ〜」 アタシとモナに正座をさせて、リスみたいに頬を膨らませながら、腕を組んで仁王立ちしているアヤメちゃん。私怒ってるんだからねオーラを漂わせている。 ただなぁ……全然怖くないんだよね。むしろちょっと可愛いまである。 「姫乃お姉ちゃん?」 「あ、うん。ごめんって」 「とりあえず、背筋伸ばせよ」 「は、はい……」 やっぱり、可愛くないわ。 まぁ……何でこうなったかと言うと、アタシとモナの喧嘩が原因である。あの後、モナとは取っ組み合
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Chapter: 30話 使い魔達の会話「アヤメ。邪魔するにゃ」 「いらっしゃい。モナちゃん」 ちょうどお昼になったくらいに、モナちゃんがやってきた。やっぱり、姫乃《ひめの》お姉ちゃんの転移魔法は便利だね。 姫乃お姉ちゃんの使い魔である、私とモナちゃんは、何個か姫乃お姉ちゃんの魔法を使うことが出来る。転移魔法もその一つなんだよね。 「今日はどうしたの?」 「お腹空いたにゃ」 「姫乃お姉ちゃんにご飯貰えなかったの?」 「珍しく朝から出かけていて、居ないんだにゃ」 「総司《そうじ》お兄ちゃんは?」 「ソージも同じだにゃ」 「なるほどね」 へぇ、二人して居ないんだ。もしかして、二人でお出かけしてるのかな? ……いや、流石にそれはないか。だってあの二人だもんね。まぁ、色々と事情があるけど、それをなしにしても二人でお出かけはしないね。 「そんな訳で、何か食べさせてにゃ」 「うん、いいよ。ちょうど私もお昼ご飯にしようと思ってたしね」 「ゴチになるにゃ」 と言ってもまぁ、大したものはないんだけどね。お母さん達はお仕事で居ないから、昨日の残りを温めて食べるくらいだ。 「そういえば、アヤメ?」 「ん? どうしたの?」 「ここ最近、ヒメノが妙にご機嫌なんだにゃ。何か知ってないかにゃ?」 「えー? 何だろう? それっていつからなの?」 「確か一週間くらい前からにゃ」 一週間前だと、確か総司お兄ちゃんの試合があった日だよね。ってことは……。 「多分だけど、総司お兄ちゃんの魔法が一つ解けたからじゃないの?」 「んにゃ? ソージの魔法が解けたのかにゃ?」 「え? 聞いてないの?」 「聞いてないにゃ……」 「えぇ……」 嘘でしょ、姫乃お姉ちゃん……。何でそんな大事なことモナちゃんに伝えてないの。あーでも、姫乃お姉ちゃんって、そういうところ適当そうだもんなぁ。 「にゃったく……ヒメノのやつ」 「あはは……苦労してるね」 「本当だにゃ。あいつは昔っからホウレンソウが出来ないんだにゃ。人として大分クズな部類にゃ」 すんごい言われようだなぁ。そこまで言わなくてもいいと思うけど。 でもまぁ、姫乃お姉ちゃんはもうちょっと色々と報告とかしてくれてもいいのは、確かなんだけどさ。 例えば、私のお母さん達を記憶改ざんし
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Chapter: 29話 打ち上げとお誘い「お疲れ様でした〜! 乾杯〜!」 「「「乾杯〜!!!」」」 近藤先輩の音頭で俺達は乾杯をする。 今日は野球部の打ち上げだ。場所は学生の味方、まんぷく太郎。肉、寿司、カレーなどなどが食べ放題の太っ腹なお店だ。お値段も中々のリーズナブル。金のない学生がする打ち上げにはもってこいの場所だ。 「んじゃ改めて、総司《そうじ》、黒川。今回は協力してくれてありがとうな」 「結局負けちゃいましたけどね」 「それもド派手にねぇ……」 そう。俺らは結局負けた。 姫乃《ひめの》に手を治してもらって、意気揚々とマウンドに行ったはいいものの、これでもかってくらいに、バカスカ打たれた。そりゃもうトラウマになるレベルで。 最終的には、十五対一のコールド負け。完敗ってやつだ。 「ま、仕方ないさ。相手の方が強かったのは事実だしな」 「それもそうっすね」 悔しいか悔しくないかと言われれば、当然悔しい。でも、今から野球部に入って、来年リベンジしてやる! って気持ちは全く起きない。つーか、普通にもう投げたくない。だって、あんなにボコスカ打たれたんだもん。 「それで、今後は野球部どうするんすか?」 「来年に期待だな」 「ですよね」 近藤先輩は引退。助っ人で入った俺は、この間の試合で終わり。現状野球部は、七人しかいない。つまり、秋の大会には当然間に合わない。それに来年入部希望者がいなければ、廃部だってありえる。 「まぁ、その辺はおいおい考えていくさ」 「そうっすか。陰ながら応援してますよ」 「私も」 「ありがとうな。んじゃまぁ、あとは好きなだけ食っていけよ。二人の分は俺の奢りだからよ」 「うっす」 「ゴチになります」 そう言って、近藤先輩は他の部員のところに行った。 「黒川はあっちに行かなくていいのか?」 「別にいいわよ。特に思い入れないし」 「どの口が言ってんだよ……」 つい最近まで、鬼教官やってて部員達を立派な兵士にしてたじゃねぇか。 まぁ……今はその洗脳? が解けて、ごく普通の青少年達に戻ってるけど。 「それにさ、私があっちに行ったら、せっかく近藤先輩に席を二つ取ってもらった意味がなくなるでしょ」 「それもそうだな」 今回、近藤先輩に無理を言って、野球部と俺と黒川だけの席を取って
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Chapter: 28話 魔女と一本目 「で? 何でベンチ裏なんだよ」 「あのねぇ、こっちにも色々あるの」 「色々って何だよ。治すくらい、お前なら一瞬だろ」 「治すのはね。ただ、魔力を抜くのは別なの」 「は?」 あー、こいつ忘れてるわ。ほんとにもうさ、そういうところだよ。 「あのさぁ、前に死にかけた時にアタシはどうやったか忘れたの? 忘れたなら今すぐ思い出して」 「前……? あ、あぁー」 「いや、あーじゃないからね?」 「はいはい。悪かったよ」 本当に悪いと思ってるのかね、この人は? まぁいいけどさ。いや、良くはないかな。 だってあれじゃん。中々すごいシチュエーションだったよね。 半裸のボケナスと下着のアタシ。ベットの上でくっついている。エロいやん。どエロいやん。最早エロスの要素しかなくない? それを普通忘れるかな? いやいや忘れないでしょ。いくらボケナスがアタシのこと嫌いでも、性欲という欲望が体に刻みこんでいてもおかしくないでしょうよ。それともなにか? アタシの体には魅力がないってか? ぶち殺すぞこんちくしょう! 「まじで死ね! ボケカス唐変木!」 「いきなり何だてめぇ!」 「うっさい! ボケナスが悪い!」 「意味わかんねぇんだよ! このクソアマが!」 分かれ! 分かれよ! アタシにとっては大事なことなの! 性欲マシマシでどエロい目で見られるは嫌だけど、お前なんて全く魅力ないぜって、エロスを感じられないのも問題なの! ほどよくエロい目で見ててほしいの! それが女子! 乙女! 女の子なの! 「ったく、もう何でもいいからさっさと治してくれ。いい加減時間もやばいから」 「まぁそうだね」 確かに治療するって言ってから、何だかんだで三十分くらいは経ってる。流石に怒られてもおかしくはないか。 「んじゃ、上を脱げばいいのか?」 「あ、その前に」 「何だよ」 「ギャラの話をしよっか」 「は? ギャラ?」 「そう。大事でしょ?」 「ふざけんなよ。何でお前にギャラを払わなくちゃいけねぇんだよ」 「は? 逆に聞くけど、何でアタシはタダでやってあげなくちゃいけないのさ」 あーあ。アタシって本当に性格悪いなぁ。自分で言ってて嫌になる。 別に治療くらい、ボケナスの為ならいくらでもやってあげる
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