LOGINラノベ作家を目指す大学生、桜木アラタは目を覚ますとラブホに居た。しかも、隣には裸の女の子が寝ていた。名前は東城音葉。音葉はインディーズで活躍するそこそこ有名なバンド女子だった。 動揺するアラタに、音葉は私とダメ人間契約を結べと迫ってきた!?
View More「いって……」
内側からガンガンと叩かれるような、強烈な頭痛で目が覚める。 「あぁ……くっそ頭いてぇ……そんでもって、めちゃくちゃ気持ち悪いし……」 こりゃあれだ。何度か経験したことのある、二日酔いってやつだな。 「てか……ここどこだ?」 だるい体を無理矢理起こして、辺りを見回して見るが、俺の部屋じゃないってことは分かる。 でっかいベットに、整った内装、どっかのホテルか? でも、何でホテルにいるんだ? 「うぅ……寒い……」 「ん?」 隣から声が聞こえたから見てみると、見知らぬ女の子が寝ていた。しかも裸でだ。 「布団かけ直して……」 「あ、あぁ……」 俺は言われた通りに、布団をかけ直してやる。 まぁ確かに、いくら7月とはいえ朝方に裸だったら多少肌寒いもんな。しかも、部屋は冷房がオンになってるしな。 「……ん?」 いや、ちょっと待てよ。 そもそも何で、裸の女の子が俺の隣で寝ているんだ? 自慢じゃないけど、俺は女の子と裸の関係をするような、イケイケボーイじゃないぞ。何だったら、大学の入学式にインフルエンザになって、友達作りに失敗して今日までの1年半くらい友人が1人くらいしか居ない、寂しいやつだったはずだ。当然、その友人も男だ。だから、女の子との接点なんて存在しない。 あぁなるほど。これは夢か幻のどちらかだな。 きっと、二日酔いだから、頭の中がお花畑で最高にハッピーな状態なんだよ。 うん。そうに違いない。 そう思いつつも、もう一度布団をめくって見る。勘違いしないでほしいが、これは一応の確認だ。早いとこ、このポンコツ頭に現実を分からせてやるための必要な確認だ。 「あ、あれ……? やっぱりいるな……」 ってことは、これは現実なのか? リアルでエアリアル? っと……違う違う。エアリアルはガン○ムしたね。テヘペリンコ。 「うぅん……だから寒いってば……」 「あ、ごめん」 おっとと、いけないいけない。寒いから布団をかけ直したのに、めくったらダメじゃん。 失礼しました。今かけ直しまーす。 「……って! 違うわー!」 「うわっひゃー!」 「お前誰だよー!」 俺は全力で、布団をしっぺがしながら叫んだ。 あっぶねぇ、受け止めきれない現実から逃げるところだった。 「もぅ……いきなり何するのよ」 「何もクソもないよ!? お前誰だよ!?」 「はぁ? 誰って……覚えて無いの?」 「1ミリも記憶にないね! てか、何でそんなに平然としてられるの!?」 女の子は、眠そうに目を擦りながらゆっくりと体を起こす。 いや、てか待て! この子、めっちゃ裸だったわ! ふぁっと、欠伸をしている場合じゃないでしょうが! 服着てよ! 色々どころか、全部見えちゃってるから! 「とりあえずさ、布団もらっていい? 寒いから」 「あ、あぁ……」 俺は言われるままに、手に持っていた布団を手渡した。女の子は、背中から包まるように布団を自分の体にかける。 「えっと……で、何だっけ?」 「いや、まずあんた誰っすか?」 「えぇ……マジで覚えてないの?」 「さっきも言ったけど、本当に分からないから聞いているんだよ」 「うーん。じゃあ、こうすれば分かるかな?」 そう言って女の子は、近くにあるテーブルに置いてあった、赤いフレームのメガネを付けた。 いやいや、メガネを付けて分かるんだったら、苦労しないよ。ん? ちょっと待てよ。見覚えがあるぞ? アッシュグレーのセミロング。整った顔立ちと、とろんとしたたれ目。そして、この赤いメガネ……うん、見たことあるな。 しかも、俺の記憶ではかなり最近だ。……そうだ。昨日会ったんだ。 「お? その顔は思い出したね」 「もしかして……昨日ライブハウスで、ギターボーカルやってた子?」 「ピンポーン! 大正解〜」 そうだった。この子のライブを見たんだった。 だから見覚えがあったんだ。 「まぁせっかくだから、改めて自己紹介しよっか。私の名前は、東城音葉《とうじょう おとは》。AEGってバンドのギターヴォーカルやってまーす」 「俺は、桜木《さくらぎ》アラタだ」 「うん、知ってるよ。ほら、そろそろ思い出して来たんじゃない?」 確かにちょっとずつ思い出して来たぞ。 そうだ。俺は昨日、友達に連れられて初めてライブハウスに行ったんだ。んで、その後にこの子のバンドメンバーと、居酒屋で打ち上げをしたんだ。 でも、そこからの記憶がないぞ。少なくとも、記憶がぶっ飛ぶほど飲んだ覚えはないはずなんだけどな。 「どこまで思い出したかな?」 「居酒屋で飲んだところまでだね」 「そっか。んじゃ、何で桜木君が私とここに居るかが、分からないんだね」 「あぁ。出来れば、説明してくれるとありがたい」 「うん、いいよ。簡単に言うとね。私と桜木君は、大人の階段をかけ登ったんだよ」 「……マジで?」 「マジマジ」 うっそだろ……? この20年ちょいの間、ずっと貫いてきた童貞を卒業してしまったのか? おいおい、我がムスコよ。お父さんは知らないぞ。 「てか、そろそろ下の隠したら?」 「あ……」 そういや、俺も裸だったんだ。呑気にムスコと話してる場合じゃなかったな。 えっと、何か隠す物は……枕くらいしかないな。仕方ない。今はこれでいいか。 「失礼しました……」 「いえいえ〜、大変元気なムスコさんのようで」 「いえいえ、ただのきかん坊ですよ」 ……俺は何を言っているんだ? 「それで、あのー……どういった経緯で、その……大人の階段を登ることになったのか教えてくれないか?」 「桜木君が酔った勢いで私を襲った」 「え……?」 あれれ〜おっかしいなぁ〜? 耳が壊れたのかな? 何か今さぁ、今日イチどころか人生で1番受け入れ難い言葉が聞こえたんだが……。 「なーんてねっ! ウソだよ〜ん」 「お、驚かせないでくれよ……」 マジで心臓が止まるんじゃなくて、破裂するかと思ったぜ……。 童貞卒業と同時に刑務所へレッツゴー! するとことだったな。ついでに、人生終了だ。 ん? てことは、俺はまだ童貞のチェリーボーイってことになるのか。 あるれぇ? 安心したのに酷く残念な気持ちでいっぱいだぞ。 「えっと……じゃあ何でこうなってるんだ?」 「ん〜? それは私が、桜木君を酔わせてお持ち帰りしたからだよ」 「いや、もうそういう冗談はいらないから」 「にひひっ、残念。これは本当だよ」 マジかよ……。 え? なに? 俺、女の子に逆お持ち帰りされちゃったの? 仮にそれが本当だとして、意味がわからないぞ。 俺と東城さんは、昨日会ったばかりだ。お互いのことなんて、全くと言っていいほど知らない。一体何の為に? 「なぁ、そもそもの話なんだけど、俺は昨日記憶が飛ぶほど飲んだ覚えがないんだが」 「そうだね。桜木君はほとんど飲んでなかったね」 だよな。 俺は酒はあんまり得意じゃない。それに自分のキャパは把握している。だから、人前で酔いつぶれる真似はしないはずだ。 でも実際問題、こんな訳の分からない事態になってるんだよな。 「だからね。これを使ったんだ」 東城さんはそう言うと、ベッド横に置いてあるバックから、透明なピルケースを取り出して見せた。 「何だそれ?」 「スピリタスカプセル。聞いたことない?」 聞いたことある。世界一アルコール度数が高い酒を薬みたいにしたやつだ。 ヤリサー御用達で、女の子を無理矢理お持ち帰りする時に使う、マジでやばいやつだ。 確かに、あれを使われたら全てが納得出来る。 「目的は何だ?」 「にひひっ、いい目をするねぇ。ゾクゾクしてきちゃった」 可愛い顔でイタズラっぽく笑っているけど、今の俺には、悪魔のように見える。 「ねぇ、桜木君。私とさ1つ契約をしてほしいんだよね」 目的はそれか。 一体どんな契約を持ちかけてくる気だ? 「その名もダメ人間契約」 「だ、ダメ人間契約……?」 「そ。ダメ人間契約」 「それはどんな内容なんだ? 正直、意味が分からない」 「まぁ簡単に言うとね。お互いにダメ人間になろうってこと」 「はぁ?」 ますます意味が分からないぞ。 わざわざ自分から進んで、ダメ人間になろうだなんて、バカとしか思えない。 「桜木君って、ライトノベル作家を目指しているんだよね?」 「あ、あぁ……何で知ってるんだ?」 「昨日聞いたからだよ」 あー、そう言えばそんなこと言ったかもしれないな。よく覚えてないけど。 俺は大学に行きながら、ラノベ作家を目指している。ネット小説に投稿しながら、色んなレーベルの新人賞に応募している。まぁ、結果はどれもこれもイマイチなんだけどな。 「私は今のバンドで有名になりたい。そのために頑張っている」 「ちょっと待ってくれ。いきなり何の話だよ。俺はその契約について詳しく聞きたいんだが」 「焦んないでよ。ちゃんと説明するからさ」 「……分かった」 「私はね。今はバンド以外のことは極力何もしたくないんだよ。主に掃除や洗濯、ご飯の用意みたいな身の回りのことだね。それを桜木君にやってほしいんだ」 あぁなるほど。そういう事か。 要は、バンド活動以外は何もしない出来ないのダメ人間ってわけね。 「んで? 俺はどんなダメ人間にされるんだ?」 「お金だね」 「どういうことだ?」 「今後、桜木君のお小遣いや生活費なんかは全部私が払う」 「なるほどな……」 つまり、俺はラノベ作家っていう夢を持ったヒモになれってことか。 「どうかな? 悪くない契約だと思うけど」 「そうだな。悪くはない」 「なら――」 「だが断る」 「おぉ……ジョ〇ョネタ」 「たまたまだ……」 お金の心配をしなくていいのは、確かにデカい。バイトも辞められて、今までバイトしていた時間を執筆作業に回せるしな。 だけどそれだけだ。 「理由を聞いてもいいかな?」 「単純に意味がないからだよ。俺は現状の生活に全く困ってない。だから、東城さんの契約を結ぶ必要性がないんだ。それに、その契約を結んじゃったら、ダメ人間っていう不名誉な肩書きが付いちゃうだろ。それは避けたい」 「ふーん、なるほどねぇ。でもダメだよ」 「は? 何がダメなんだよ」 「正確には、桜木君には拒否権がないって言った方が正しいね」 何でそうなるんだよ。意味が分からないぞ。 「よく考えてみてよ。何でわざわざ私が、桜木君を酔わせて、ここに連れてきたと思う?」 「……」 そこなんだよな。今の話で、そこだけがどうしても分からなかった。 「じゃあヒント。私はその答えを言っているよ」 「答えを言っている……?」 今までの会話の中に答えがある。 どこだ? 起きてから全てのことを思い出せ。ま、まさか……。 「にひひっ、気がついたみたいだね」 おいおい……冗談だろ? もしこれが当たってたら最悪だぞ。でも、これしか思いつかないのも事実だ。 「ねぇ桜木君。性犯罪になりたくなかったら、私と大人しく契約して」 「性格が悪いにもほどがあるぞ」 「褒め言葉として受け取っておくよ」 「……」 お互いに裸でラブホのベッドの上にいる。状況だけ見るなら、間違いなく事後だ。 それだけだったら、まだいい。ただ問題なのが、俺が昨日の記憶がないってことだ。この状態で東城さんが俺に襲われたって言えば、話はかなり変わってくる。 「にひひっ、どうする? 桜木君」 「なっ……」 東城さんは布団を脱ぎ捨てると、俺の首に腕を絡めて耳元で囁いて来た。情けないことに全く動くことが出来ずされるがままだ。 「私とダメ人間になろうよ」 「……わ、分かった……その契約のるよ」 「あれ? 意外と素直だね。もうちょいごねるかと思った」 正直、東城さんの策には穴が結構ある。だから、やりようによっては俺に勝ち目はあるにはある。 ただ、余計な揉め事は可能な限り起こしたくない。そっちの方が俺にとっては一大事だ。 「俺にも色々あるからな……」 「桜木君のそういうところ結構好きだよ」 ち、何ドキッとしてるんだよ。俺は…… 「東城さん。契約について、具体的なことを教えてくれ」 「うん、了解。あ、その前にさん付けはしなくていいよ。私達同い年だから」 「分かった」 同い年だったのか。てっきり、1つ2つ年上かと思った。 「まずはね。これから、私は桜木君の家で一緒に暮らすから。あ、実家暮らしって嘘は通じないよ。桜木君が一人暮らししてるってのは昨日聞いたから。ついでに、寝ている間に免許証を見て確認済み」 しれっと怖いこと言うなよ……てか、昨日の俺色々と喋り過ぎじゃね? お酒って怖い。これから飲まないようにしよう。 「桜木君ってバイトしてる?」 「まぁ一応」 「なら、それも辞めて。じゃないと、私の方の契約が守れなくなる」 「分かったよ。でも、流石にすぐは無理だぞ。バイト先に迷惑がかかる」 「その辺は考慮してるから大丈夫だよ」 「因みに契約の期限はいつまでだ?」 「とりあえず、桜木君が大学を卒業するまでかな。延長するかは、その時に決めるってことで」 「分かった。他はあるか?」 「うーん。ぱっと思いつくのはこのくらいかな。後は、その都度決めていこう」 「了解だ」 やれやれ……これで俺はダメ人間の仲間入りか。人生何があるか分からないもんだねぇ…… 「それじゃ、これからよろしくね。桜木君」 「あぁよろしくな」 「そういえばさ」 「ん?」 「学校大丈夫なの?」 「え……?」 東城に言われて、携帯で時間を確認する。 や、やっべぇ……もう一限始まってるじゃんかよ。 「ま、まぁ……必修じゃないから大丈夫ということにしとこう……」 「なんかごめんね……」 「気にするな。俺のミスだから。でも、二限の必修だけは出席しないとやばいな」 「なら、早く出ちゃおうか」 「そうだな」 この後、急いで準備をして大学に向かった。幸いなことに、俺達が居たラブホは大学の近くだったから二限に間に合うことが出来た。 因みに、もう東城との契約は始まっているらしく、ラブホ代は東城持ちとなった。「なぁ頼むよ」 「えぇ〜」 今年、高校に入学したばかりの息子、桜木奏多《さくらぎ かなた》は心底嫌そうな声を出す。 むぅ……まさかここまで嫌がるとは思わなかったな。 「そんなに嫌なの?」 「嫌だよ。てか、それ以前に何でお見合いなんてしなくちゃいけないのさ。まずは、その理由を聞かせてよ」 「まぁ話せば長くなるんだけどな」 音葉《おとは》と夫婦契約を結んでから、早いもので18年の時が経った。 大学を卒業したその日に音葉と結婚して、その年に第1子である奏多が産まれた。 早くね? って思うかもしれんが、仕方がなかったことなんだ。ちょいとテンションが上がって、音葉とフィーバーし過ぎちまった結果だ。 まぁ色々大変ではあったが、全く後悔はないから良しとしよう。 そして何と驚いたことに、小鞠さんがいつの間にか結婚していて、おまけに奏多と同い年の娘を出産したらしい。めでたいことだ。 で、だ。俺は完全に忘れてたんだが、昔小鞠さんとした約束の話が持ち上がってきた。 そう、お互いの子供を結構させようっていうあれだ。あの時は、冗談だと思って適当に流していたが、どうやら小鞠さんは本気だったようで、つい先日お見合いをやろうという連絡がきたのだ。 んで、慌てて奏多にお願いをしているってわけだ。 「まぁそういうことだ。頼むぞ、我が息子よ」 「いや、頼むぞじゃねぇよ。クソ親父」 「こらこら奏多君。お口が悪いですよ。そんなんじゃいい大人になれませんよ」 「うっぜぇ……」 ち、本当に口が悪いなこのガキ。いったい誰に似たんだか。 「はぁ……分かったよ。とりあえず、出るだけ出てあげるよ」 「お? いいのか?」 「相手は雪城さんの娘さんなんだよね? 父さんと母さんの立場もあるからねぇ」 おぉ……流石俺の息子だ。その辺、言わなくてもちゃんと分かっていらっしゃる。 今の小鞠さんは、音葉が所属している事務所の社長さんだ。俺も個人的に小鞠さんには、そこそこお世話になってる。だから、断るのは少々都合が悪いんだよな。 まぁ断ったからって、あの人が何かしてくるとは全く思わないけど、それでもまぁ色々あるもんなんだよ。 「ただし、条件が3つある」 「ほう。言ってみろ」 「まず1つ目、お見合いはする。ただ、その後のこと
「おーい。アラタ君ー!」 「なんでいるんだよ……」 おっかしいなぁ。俺、今日帰るとは音葉に言ってなかったはずなんだけどなぁ。 てか、もう夜中なんだから、そんな大きな声出さないでもらえないですかね? 「お帰り」 「ただいま。んで? 何でいるの?」 「言い方悪い。何? 私が迎えに来るのは嫌なの?」 「まさか。嫌じゃないよ。ただ、何で俺が今日この時間に帰ってくるか、分かったのかなって思ってな」 「風実歌《ふみか》ちゃんから教えてもらったんだよ」 「なるほどな」 だから時間とか聞いてきたのか。納得納得。 「音葉は飯食ったのか?」 「うん。オムライス食べたよ」 「ほう。栞菜《かんな》ちゃんに作ってもらったの?」 「にひひっ。って思うじゃないですかぁ? でもね、私が作ったんだよねぇ」 「音葉。嘘つきは泥棒の始まりだぞ」 「全く信じてくれないねぇ!?」 当たり前だ。 卵すらまともに割れないやつが、オムライスを作った? そんなの信じろって言う方が無理だろ。 「胡桃《くるみ》に教えてもらったんだよ」 「胡桃ちゃんに?」 「うん。メイド喫茶特製のね」 「ほほう。まさに直伝ってやつだな」 「うん。これがめっちゃ美味いんだなぁ」 「え? てかガチで作れるようになったの?」 「ガチだよ。胡桃のやつに超スパルタで叩き込まれたんだよねぇ」 胡桃ちゃんのスパルタか。 めっちゃ厳しいってことだけは想像出来るわ。 「今度作ってあげようか?」 「お手並み拝見だな」 「にひひっ! 刮目していいよ」 「楽しみにしてる」 しかし、音葉と胡桃ちゃんがねぇ。 喧嘩ばかりしてるけど、やっぱ何だかんだで仲良いんだよな。 「そうだ。ありがとね、アラタ君」 「うん? 何のこと?」 「またまた〜、惚けちゃって」 「茶化すな。何の話だよ」 「スカウトのことだよ。雪城エンターテインメントから、契約の話が来てるんだよ。メジャーデビューしないかってね」 あぁなるほどね。その話か。 確か、もうすでにいくつかのバンドと契約して、メジャーデビューの話が進んでいるって言ってたな。まぁ当然、音葉達AGEにもこの話が来ててもおかしくはないか。 「別に俺にお礼を言うことじゃないだろ
「お? あにぃこれ美味しいよ」 「おぉ本当だな。絶品だ」 「あにぃ同じの作れない?」 「流石に無理だなぁ」 「うーん。残念」 クソ親父達が帰った後、俺と風実歌、それと雪城さん達で料理を食っていた。 まぁ残して行くには、少々もったいないくらいには、お高いところだからな。 ちなみに、和奏《わかな》さんは帰って行った。一緒にどうですか? って誘いはしたんだけど、和奏さん曰く、こういう高いところは仕事としてじゃなくて、プライベートで来たいからとのことだ。 まぁ気持ちは分からんでもない。 「それにしても、アラタさんと風実歌《ふみか》さんは仲がいいんですね」 「んー、多分普通ですよ。俺らとあのクソ兄貴が特別仲悪いだけなんで」 「なるほど。確かにそうかもしれませんね」 そもそもの話、あのクソ兄貴と仲良くなんて出来るわけがない。あいつ、性格が悪いってより、人として大分終わってるしな。 「あ、でもでも、あにぃは世の中のお兄ちゃんより、ずっといいと思いますよ!」 「こら、妹よ。恥ずかしいからやめなさい」 「えぇ〜、可愛い妹の愛を受け止めてよ」 「あーはいはい。ありがとな。愛してる愛してる」 「えへへぇ〜、私も愛してるよ。あにぃ」 やれやれ……何でうちの妹はこのやり取りがこんなに好きなんだろうねぇ? いい加減付き合うのにも飽きてきたぞ。 「う、う〜ん。やっぱり、仲がいいと思いますけど……色んな意味で」 「あはは……確かに僕の目にも、そう見えるかなぁ」 「気のせいですよ」 そうそう気のせいだ。俺はシスコンじゃないし、風実歌もブラコンじゃない。そこそこ仲がいいどこにでもいる兄妹なのだ。それ以上でもそれ以下でもないのである。 「そうだ。アラタさん、1つお願いがあるのですが」 「ん? なんすか?」 小鞠さんが俺にお願い? 何だろ? 全く想像出来ないな。 「私と結婚しませんか?」 「ぶほはっ!?」 「ちょ、あにぃ汚いよ! ほら、水」 「あ、ありが、と……」 きゅ、急に何言い出すんだこの人!? 食ってた餃子が変なところに入っていっちまったじゃねぇかよ。 「それでどうでしょうか? アラタさん」 「いや、ちょっと待ってくれ。いきなり何言ってんですか?」 「何って、
「遅いぞ」 「時間通りだろ」 「社会人なら10分前行動が基本だ」 「はいはい。そいつは悪かったな」 今日はいよいよ、俺のお見合いの日がやってきた。昨日、一昨日と挨拶回りだのと、あっちこっち連れ回されての今日だ。おかげで休む暇もなかった。ったく、本当に人の扱いが酷いもんだぜ。 でもまぁ、それも今日で終わりだ。さっさと済ませて早くあっちに帰りたいものだ。 俺達は今、お見合い会場となっている料亭に来ている。珍しいことにクソ親父にクソ兄貴、クソババアと俺と風実歌の家族全員参加だ。しかも、俺らが早く来ての相手さんを待ってる状態だ。 こりゃ、よっぽど相手さんを立ててるってことだな。 ちなみに、ホームズはお留守番だ。今日は獅雄《れお》さんに預かってもらってる。 「恥じかかすなよ。アラタ」 「努力するよ。クソ兄貴」 「お前。間違っても、相手方の前でそんな呼び方するなよ?」 「わーってるよ。今だけだ」 「ふん。相変わらず、出来の悪いやつだな」 ったく……こっちはこっちで、うるせぇやつだなぁ。少し黙ってらんねぇのか? 「ねぇあにぃ? 本当に大丈夫なの?」 「心配するな。風実歌は料理が運ばれてきたら、美味しそうに食ってればいいさ」 「んな適当な……」 「いいんだよ。適当で」 どうせ、これから始まるのは茶番なんだからな。しっかりするだけ無駄ってもんだ。 だったら、味だけは美味いご飯を楽しんでた方が何百倍もいい。 「桜木さん。お待たせしました」 お? 来たっぽいな。 扉が開いて、50代後半くらいのスーツを着た男性と、俺と同い年くらいの和服を着た金髪の女性が入って来た。 「雪城さん。本日はお越しいただきありがとうございます」 「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます」 「どうぞ。まずはおかけ下さい」 お決まりの硬っ苦しい挨拶を済ませると、クソ親父は雪城さん達を席に通す。 雪城さん達が席に座ると、待ち構えてたかのように、料理が運ばれてきた。 うわ……高そう。いったい1食いくらするんだこれ? 「ほら、アラタ。何してる。お前も挨拶しろ」 はいはい。分かってますよ。 「桜木アラタです。今日はよろしくお願いします。雪城さん」 「あぁ。こちらこそよろしくね。アラタ君。ほ