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坂森大我
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Novels by 坂森大我

聖女の身代わりとして死ぬ運命だったけど、どうしてか俺は成り上がって終末世界で無双しています

聖女の身代わりとして死ぬ運命だったけど、どうしてか俺は成り上がって終末世界で無双しています

ルカ・アルフィスは不思議な夢を見た。 ゲームという世界があり、それをプレイする過程が流れ続ける夢。途中までは興味を惹いていたのだが、唐突に自分が登場し夢は悪夢へと変貌する。 なぜなら、夢に出てきたルカはリィナというキャラクターのために死んでしまうのだ。 夢のルカはリィナに一目惚れをし、リィナもまたルカが好きだと言った。だが、リィナは病に冒され死を待つだけの身体。ところが、ルカには彼女を救う術があった。 リィナが息絶える場面。ゲーム内の選択は一つしかなかった。 リィナの身代わりとしてルカが死ぬという選択しか。ルカは唯一持っていた他者の運命を奪うスキルの行使にてリィナを救ってしまう。
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Chapter: 076 救世主
 翌日は入学式であった。俺は代表して挨拶することになっている。 二年前、アークライトが務めたとのことで、俺に声がかかったらしい。かといって、本年度はイステリア皇国の皇女殿下も入学されていたのだけど。「ルカ・シエラ・シルヴェスタだ。一年間、よろしく頼む。代表での挨拶とのことだが、まず最初に言っておくことがある」 騎士学校には王国と皇国の上位貴族以外に、小国の王族や上位貴族も入学している。 基本的に彼らは世界の平和を求めておらず、騎士学校を卒業したという肩書きを手に入れたいと考えている者たちだ。 だから、言っておかねばならない。俺が遊び半分で来ているわけじゃないってことを。「俺は魔国の侵攻から人類を救うために来た」 それ以外の理由はない。女神の使徒として俺はこの場にいるのだから。「よって真面目に訓練しない者には容赦ない叱責を加える。貴族院は身分差を考慮しない場所であるが、シルヴェスタ王家との関係を重んじるのなら俺が話す通りに動け」 ざわつく大講堂。入学式に不似合いな俺の挨拶は全員を戸惑わせている。「世界の滅びは近い。気の抜けた訓練は許さない。気に入らないのなら、さっさと所領へ帰れ。戦う気がないのであれば邪魔だ」 学長ですら戸惑っている。俺が王子であるから静観しかできないのだろう。「優秀だと感じた者は重用させてもらう。女神様の話では在学中に戦争は拡大する。シルヴェスタ王国内も戦地と化すだろう」 帝国が存在する現状では信じてもらえそうにない。だから、俺は女神様の話として、知りうる事実を告げていた。「戦って未来を守ろう。人類の明日が永遠に続くように……」 言って俺は壇上を去る。  魔国を滅ぼし、世界を安寧に導くだけ。それは俺が騎士学校へと入った理由の全てだった。 呆気にとられたのか、拍手はまばらである。まあ別に賛同を得ようとしたわけではない。 俺が本気であること。世界を救済に導く決意を分かってもらえたら充分だ。「これはシリウスのためでもある……」 俺が運命を奪
Last Updated: 2026-09-28
Chapter: 075 ルームメイト
 私はフィオナ殿下と女子寮にある自室へと来ていました。 発作の症状は随分と緩和しています。薬は血流を介して魔力を循環させるものでしたが、成分の大部分が高純度の魔石でして、飲みすぎてはいけません。 薬は体内に魔力を循環させられるのですが、服用しすぎると魔力を生み出す魔腑という器官がダメージを受けてしまうからです。「申し訳ございません、フィオナ殿下……」 まずは謝罪を。従者を押しのけてまでルームメイトになってくれたのです。隣国の侯爵令嬢ごときに彼女は手を差し伸べてくれたのですから。「構いません。それより貴方がルカ様の仰っていた想い人なのですね? わたくしは正直に嫉妬を覚えておりますが、それは貴方の命を輝かせることに何の支障も生みませんわ」 やはりフィオナ殿下もルカ様を慕っておられる。  まあ当然よね。一般の市民までルカ様を悪く言う人はいない。まして彼女は元婚約者。彼の人となりを既に知っていることでしょう。「ご病気のことですれけど、わたくしの精霊術にて緩和できるかもしれません」「本当ですか!?」 意外な話です。私は彼女の恋敵だというのに、フィオナ殿下は期待を持たせるようなことを口にしていました。「レベル20で覚えた【水精霊の雫】。このスキルは精霊の癒やしを体内に浸透させられます。対象者の体内魔力を活性化させ、魔法威力を増大させるというものですわ」 聞く限り、私の病状に合うような気がする。  体内の魔力を活性化させることができれば、弱り切っている臓器にも影響を与えるのではないかと。「デメリットはありませんので試してみましょう。水精霊召喚!」 フィオナ殿下は早速とスキルを行使してくれます。  眼前に召喚された水精霊が私の身体に幾つもの雫を降り注いでいく。「あっ……?」 身体が熱くなっていました。  きっとそれはスキルの効果。心なしズドンと重く感じる倦怠感が薄れたような気がします。「効果があったように感じます!」「それは良かったですわ。治療ではございませんけれど、魔
Last Updated: 2026-09-27
Chapter: 074 再び交わる運命
 俺とリィナは双国立騎士学校がある北東の街レザルへと来ていた。  直ぐ北側はバリウス帝国であり、そこは今も魔国との交戦中である。「騎士学校に入ってもバリウス帝国が存在しているなんて」 ゲームの開始時点は帝国が滅んだあとだ。  それどころか王国内の前線基地も襲われ、アークライトが亡き者となっていた。しかし、現状において、帝国もアークライトも無事であり、人類側が優勢のようにも感じられている。「だけど、脅威は去っていないってか……」 聞けば魔王ベルゼス・バルゼは異様な強さであるらしく、魔将軍マステルが消失したところで、痛手でもないようだ。 今現在は騎士学校での手続きをリィナがしてくれているところ。俺は手持ち無沙汰に彼女を見つめているだけだ。 時間がかかっているのは山のような書類を提出しなければならないからである。俺は王子だというのに、役所仕事は割愛したりしてくれないらしい。「とにかく戦力不足だ。モブたちから戦力を見つけ出さないと」 双国立騎士学校は基本的にシルヴェスタ王国とイステリア皇国の上位貴族が中心であるけれど、周辺の小国からも入学者がいる。 ただゲームでは主要キャラ以外に名前を持つ者がいなかったので、俺には誰が強者であるのか分からない。選抜は授業を見てからということになる。「殿下、手続きが終わりましたよ?」「ああ、すまないな。やっぱ寮は別々か?」 夜の営み。それは俺が生を感じられる瞬間に他ならない。しかし、並行世界と同じであれば、決して叶わぬこと。男女の寮は別々になっているはずだ。「それは流石に。だけど、殿下がお望みなら……」「同室にしてくれたら良かったのにな?」「仕方ないですよ。私たちは別に婚約者でもありませんし……」 ゲームと同じであれば、王子といえど恐らく相部屋であって優遇などされないのだろう。「明日の入学式で殿下は代表して挨拶しなければなりません。文面は用意しておきます」「ああいや、俺は自分の言葉を伝えたい。義務的に入学したわけではないのだと表明した
Last Updated: 2026-09-26
Chapter: 073 幸運に導かれて
 私は久しぶりにセラ様との邂逅を果たしていました。 いつ以来だろう。セラ様が仰った通りにルカが迎えに来て、聞いていたように私は彼と結ばれています。 幸せの絶頂にいた私は感謝の言葉を述べなければなりませんね。「お久しぶり、リィナ……」 美しいご尊顔は記憶のまま。といっても数ヶ月ぶりくらいだから、そこまで古い話じゃないよね。「お久しぶりです。セラ様が仰ったままの未来に私はいます。婚約破棄されたはずなのに、本当に私とルカ様は結ばれましたよ!」「それは良かったです。ワタクシは貴方の幸せを第一に考えております。使徒の喜びは主神として嬉しいものですね」「それで私は騎士学校に入ります。世界を救って英雄になる。彼の心と世界の記憶に私が生きた証しを残したい」 短い人生だけど、私はもう嘆息したりしない。  強い輝きを放ち、私はその軌跡を残すんだ。 愛する人に見守られながら逝くなんて最高のハッピーエンドだもの。「リィナ、予想以上に魔国が力を付けています。魔将軍はあと五体ですけれど、もう直ぐ王国と隣接することでしょう」 ここで予定と異なる話が続けられる。  どうやらイレギュラーは魔神側の問題であり、女神様たちの管轄外。向こう側の動きが活発化しているからのよう。「一刻も早くレベルを上げなさい。世界が滅びるよりも早く強くなるのです」「そんなに切羽詰まっているのでしょうか?」 私の質問返しに、セラ様は黙り込む。  充分と思える時間を費やしてから、セラ様は見解を語り始めました。「シエラがまたも裏切ったみたいです……」 はい?  シエラって悲運の女神様よね?  ルカ様に加護を与えた一柱。原初の三女神様は世界を救うために、全員が一人の人間を使徒に選んだ。 ルカ様は私の運命を背負うと言ったそうですけれど、三柱女神様はそれを阻止した。世界にはルカ様が必要だと説き伏せたのだと聞いています。「シエラ様が何を裏切るのです?」 まるで分かりません。原
Last Updated: 2026-09-25
Chapter: 072 最後の覚悟
「リィナはもう一年と生きられないから……」 俺は愕然としていた。  いや、あと二年あったはず。リィナ自身も二年あるとセラ様に聞いていたんだ。「何があった? それは俺が引き起こした改変と関係のある話か?」「ほぼ関連しないわ。あの娘が早く動いただけだもの」 まるで分からない。セラ様が早く動けと話したから、リィナは俺との邂逅を果たしたはず。「セラ様にも分からなかったのか?」「最初はそうかもね。運命は二年後で固定されたと思われていたから。しかし、明確に動き出したの。ルカを基軸として、運命は足早に動いていますわ」 やっぱ俺が原因じゃねぇか。ほぼどころか完璧に俺のせいだ。「どうすれば元に戻る?」「それは魔力循環不全という病気に問題があります。どうやら、あの娘は魔力を使用すると、魔管が太くなる。改変された世界の記憶によると、退魔封滅陣だけでなく回復系の魔法も多く使用したことになっています。魔管が太くなると体内の魔力圧が低下し、臓器に行き渡る量が減るみたいですの」 マジかよ。  魔管ってのは以前に聞いたけれど、使うたびに太くなるのなら絶望的じゃないか。「リィナは戦えないのか……?」 聖女の魔法が身を削っていたなんて知らなかった。 そうとも知らず、俺はリィナに魔法を使わせていた。熟練度が上がると、効果も上昇するのだと言って。「魔法を使わなければ、一年くらいは生きられるでしょう。しかし、今のペースで使用すれば、確実に一年と持たない」「それは今になってから判明した話じゃねぇだろ!? お前たちは知ってたんじゃねぇのか!?」 シエラはともかく、セラ様は知っていたのではないだろうか。最大値が二年であることしか、伝えていないのではないかと思う。「使徒の状態なら何でも知っていますの」 俺は呆然と顔を振っている。  やはり、セラ様は知っていた。リィナを救おうとしている体で、実のところは世界を優先していたらしい。「許せねぇよ、そんなの……」「許す許さな
Last Updated: 2026-09-24
Chapter: 071 知らされる現実
 俺とリィナは入学までの期間をレベル上げに勤しんだ。とてもハードな毎日であったが、夜の営みがあったおかげで乗り切れている。 現在のレベルは俺が55であり、リィナが46。レベル50から上がりにくくなるのはゲームと同じらしい。それでも、騎士学校に入る前としては充分な強さを得ていた。 旅立ちを前に俺たちはクリステラ大聖堂で祈りを捧げている。一応は女神たちの意見を聞いておこうと。 隣り合う二人の脳裏に女神が降臨しているなんて誰にも想像できないことだろう。間違いなくリィナの脳裏にもセラ様が降臨しているはずだ。「久しぶりね、ルカ……」 意外な女神様の登場だった。  現れたのはシエラ。言わずと知れた悲運の女神である。「お前、存在してたのかよ?」「ルカがいつも朝に祈るからでしょう? 失礼しちゃうわ……」 女神が朝に弱いって話からして間違っているけどな。俺のせいにするんじゃない。「ま、誰でも良かったんだがな。とりあえず俺は騎士学校に入る。異論はねぇな?」「当然ですわ。私とて原初の三女神ですもの。世界が滅ぶなんてことは容認できません」 まるで俺が騎士学校へ入るだけで世界が救われるように話している。  俺だって世界救済を考えているけれど、現状は不安要素の方が多いというのに。「なら、お前はあの呪文の使用についてどう考えている?」 ディヴィニタス・アルマを俺に与えた張本人。せっかくなので悲運の女神シエラがどう考えているのかを知りたい。「それはこれまでのこと? それともこれからのこと?」「これからのことだ。お前は俺に協力する気があるのか聞きたい」 俺がディヴィニタス・アルマを使用すれば世界が歪む。現状からの改変は辻褄が合わなくなる可能性が高いと聞いたのだ。「言ったでしょう? 私は世界の崩壊を容認できないと。このままであれば世界は闇に呑まれる。魔神が生み出した魔王という闇は全てを呑み込もうとするわ。闇は光から生み出されるけれど、闇は何も生み出さない。女神が闇に呑み込まれるだなんて我慢ならないわ」「世界が滅びたら、お前たちはどうなる?」「心配してくれるの? 嬉しいわ。じゃあ、特別に教えてあげる……」 さっさと言えよ。別に心配したわけじゃないし。  薄い目をして見ていた俺だが、思わぬ話を聞かされてしまう。「光が失われた時点で女神は消失する」 えっと
Last Updated: 2026-09-22
Solomon's Gate

Solomon's Gate

ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳。パイロット養成の航宙士学校に通っていたがミハルは既にパイロットへの興味を失っていた。だが強要された航宙機レースへの参加を機にミハルは思い出す。誰よりも航宙機が好きだったことを。  ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で太陽系は思わぬ事態に発展していた。 主要な宙域となるはずだった土星が突然消失し、そこに異なる銀河と接続するワームホールが出現したのだ。加えて接続先には文明があり、それは明らかに人類を敵視している。 人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。
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Chapter: カザイン光皇家
 恒星を失った星系。完全な闇に飲み込まれていたけれど、まだそこには生命が息づいていた。過酷な状況下にあっても彼らは希望を抱いている。「ハニエムよ、前哨戦は散々であったらしいな?」 宙間建造物“アルバ”の中でも一際目立つ建造物が皇都レブナである。 レブナに皇都が遷都されたのはつい先日のことだ。環境悪化が著しいゼクスを放棄し、カザイン光皇はレブナへと居城を移していた。「申し訳ございません。しかし、あれは前哨戦などではなかったのです。あの侵攻は敵情視察の延長に他なりませんので……」 ハニエムは連軍の最高司令官である。どうやら彼は此度の交戦結果を光皇に報告しているようだ。  不満げなカザイン光皇の問いには直ぐさま反論している。ハニエムは敗戦が想定内であったことを明確にしていた。「であれば次戦は勝利できるのだな?」「もちろんでございます。既に対策を立てております。何しろ光皇路を越えなければ向こう側の詳しい情報が得られませんので……。しかし、成果は十分です。エイリアンの指揮系統から戦術、戦力を正確に把握できております……」 自信満々にハニエムがいう。確かにゲートから距離があった彼らは情報が不足していた。偵察機を何度も送り込んでいたけれど、情報は如何ほども得られなかったことだろう。「次戦は五倍の戦力を投入します。また当てにならぬ自立機の割合を減らし、その分を有人機に割り当てる予定です。ただ一般兵は希望した臣民を訓練し始めておりますけれど、やはり技量を備えた操縦士が足りません。できれば即戦力となり得る操縦士の選定を光皇陛下にお願いしたいのですが……」 連軍の全権を任されているハニエムだが、熟練した兵の召集については問題があるらしい。自身の裁量で決定すると何やら不都合があるようだ。「それならばヘーゼン星院家及びリグルナム星院家の私兵から選べ。彼らは侵略戦争否定派であるし、奴らが私兵を多く残しているのは問題だ。余の勅旨であれば拒否できぬだろう……」 星院家とは光皇連最高の支配階級であって、カザイン皇家も厳密には十二ある星院家の一つである。皇家は世襲制ではなく、皇が亡くなるか失脚した場合にのみ次代の皇を星院家から選ぶ。また選定方法は十二星院家の投票によって決められるが、ここ四代はずっとカザイン星院家が皇家となっていた。 カザイン皇が名を上げたリグルナム家は最
Last Updated: 2026-09-28
Chapter: 慌ただしい朝
 ミハルの辞令を全員が覗き込むようにしていた。傍目から見るとミハルよりも周りが食いついているようにしか思えない。「ミハルちゃん、凄いじゃない? うわ! 連名が物凄いメンバーね!」 錚々たる顔ぶれの署名にシエラは声を上げて驚いていた。  承認欄にはクェンティン司令から参謀のアーチボルト准将の名。第三航宙戦団長のテレンス大佐や301小隊の隊長代理であるベイル准尉まで含まれている。更には要請者としてアイリス・マックイーンの名があった。「これはフロント閥の力が働いておるのぉ……」 小さく顔を振るバゴス。とてもルーキーを呼び寄せるだけの辞令だとは思えない。士官を迎えるような名が連なっていたのだ。 フロント閥とは木星圏を代表する軍事派閥である。所属するのは概ねガリレオサテライト5thを中心としたメガフロントユニック群に関係する兵士たちだ。派閥の長はクェンティン・マクダウェル大将。通常なら一等航宙士に派閥から声が掛かるはずもなく、この辞令には様々な憶測を巡らせてしまう。「内部異動という形じゃの。形式は出向となっておるが、どうなることやら……」 「おい、バゴスさんやめろよ! 俺は念を押したんだぞ? ちゃんと返せとな!」 ミハルを余所に会話が進む。当人であるミハルはどうにも信じられなかった。承認者に面識はなかったし、何よりミハルを酷評したアイリスが要請するなどあり得ないことである。「グレック隊長、これはどういうことです!?」 堪らずミハルは疑問を口にする。望まれて行くのならば確かに嬉しい。けれど、望まれるような状況にまで達していないことをミハルは自覚していた。「先日、アイリスから通信があってな。エース格が欲しいと言うから、ミハルを推薦しただけだ。まあアイリスが復帰するまでの繋ぎのようなもの。気楽に行ってこい」「でも、セントラル基地はどうなるのです!? また二人で戦うんですか!?」「それなら問題はない。ちゃんと気を遣ってくれているようだ。朝一の定期便でパイロットが二人補充されることになっている。ミハルはその便に乗ってフィフスへと帰れ。シャト
Last Updated: 2026-09-27
Chapter: 出向
 グレックが手術を決意してからもハンター隊は連日に亘って任務をこなしている。日程について考える暇もなく日数だけが過ぎていった。 早朝に全員でコーヒーを飲むといういつもの光景。しかし、突として鳴ったグレックのギアによって、憩いのひと時は終わりを告げてしまう。「早いな……」 出撃ではないだろう。ギアが鳴っているのだから個人的な用事に違いない。ただグレックは要件を察しているようだ。コーヒーを啜りながら、慌てることなくギアを眺めている。「おい、ミハル。お前は今日から出向だ――」「はいぃ……?」 唐突な話にミハルは声を裏返した。聞き違いでなかったのなら、グレックは確かに出向と口にしたはず。まだ配属して三ヶ月しか経っていない。ようやく馴染んできたところであったというのに出向とかあり得ないと思う。「異動じゃないぞ? 期間制限のある出向だ。三ヶ月という期間が満了すれば、お前はセントラル基地へ戻ることになっている。詳しくは辞令を読め……」 言ってグレックはミハルのギアに辞令を送信。有無を言わせず確認させた。  何だかわけの分からぬ展開であったものの、ミハルは辞令を開く。人間関係が変わるのはあまり好きじゃなかったから、不満げな表情を浮かべながら。「ソロモンズ……ゲート…………?」 ところが、ミハルの表情が一変した。 辞令にはソロモンズゲート支部イプシロン基地とある。そこは言わずもがな彼女が配属を望んでいた場所だ。ミハルは咄嗟に顔を上げてグレックを見つめた。「イプシロン基地への配備だ。それも301小隊だぞ? 目一杯に暴れてこい……」 とても信じられない。グレックが気を利かせてくれたとしか思えなかった。こんなにも早くイプシロン基地へと配置されるだなんて。 ミハルは呆然とギアを眺める。突如として舞い込んだ話がまだ消化し切れていない。 ◇ ◇ ◇  ミハルが辞令を受けるより遡ること三日。話が動き始めたのはグレックに手術の説得をしたあとである。ミハルがオペレーションルームを出て行った直後のことだ。 オペレーションルームに残されたグレックは考え込んでいた。仮に足が元通りとなれば自分はどう変わるのか。今よりも高みを目指していけるのか、或いはミスがなくなるだけだろうかと。「今まで考えもしなかったことだな……」 言ってグレックは小さく笑い、眠気覚ましのコーヒーを
Last Updated: 2026-09-26
Chapter: ミハルの要望
 セントラル基地では夜勤の時間になっていた。 本日の担当はグレックである。夜勤とはいっても基本的にはオペレーター業務をこなすだけだ。緊急通信や担当エリアの不審船アラートを受けるためであり、出撃の際には全員が集まることになっている。 大きな欠伸をしていたグレックは不意に開かれた扉に慌てて姿勢を正す。「何だミハルかよ? どうした?」 オペレーションルームに現れたのは自室へ戻ったはずのミハルだった。何やら神妙な面持ち。眠れないといった理由ではないのはグレックにも理解できた。「グレック隊長、ひとつお願いがあります」「面倒くさい奴だな? 何だ言ってみろ?」 グレックはミハルの要求をある程度察していた。成長著しいミハルが上を目指したいと願うのは自然な流れである。「ここでは嫌でも経験値が上がる。三人しかパイロットがいないからな。実戦は訓練で得られない確かな実力を与えてくれるんだ。同期の誰もミハル以上の経験は積んでいないだろう。もしもミハルがイプシロン基地へ向かいたいというのなら話はつけてやる。だが、これまで以上に訓練に身を入れないことには同じように成長できないぞ?」 ミハルが答える前にグレックが諭すように話す。毎日のように出撃があるセントラル基地と比べ、ゲートに配備されたパイロットは訓練でしか成長が望めないのだ。「違いますよ! 私は異動を願いに来たわけじゃありませんから!」 ところが、ミハルはその話を否定する。アイリスがいるイプシロン基地への配備は彼女の目的であったはずなのに。「じゃあ、何だ? まさか後衛機に変えてくれというつもりじゃないだろうな?」 またもミハルは首を振る。編隊に関する要望でもないらしい。  ミハルの希望なんてそんなにはないだろうと考えていたが、グレックが思いついたものは全て不正解だった。「グレック隊長、ちゃんとした義足をつけてください!」 意外な要求にグレックは唖然としている。それは予想していた内容とまるで違っていたのだ。てっきりミハル自身に関する話だと考えていたというのに。「確かに俺はミスを
Last Updated: 2026-09-25
Chapter: アイリスとベイル准尉
 ジュリアが去って行った病室。アイリスは悩んでいた。どうにも姉弟のコミュニケーションがマズいように思う。今までも上手くいった例はなかったものの、やはりたった一人の弟である。仲良くしたいとは考えていた。「まあ、あれは俗にいう反抗期というやつだろう」 見当外れの解答を導き、納得した様子。特にするべきこともなかった彼女はもう眠ってしまおうとライトパネルに手を伸ばした。「アイリス中尉! ベイルです!」 ところが、またも来客である。夕方になって面会謝絶が解除されたばかりだ。可愛い弟ならばまだしも、副隊長と仕事の話をする気にはなれなかった。  無視をして眠ろうとする。けれど、返事をしないからか呼び声は収まらない。「さっさと入れ! ベイル!」 怒りを露わにしながら、アイリスは解錠ボタンを押す。どうにも腹立たしく感じたが、早く話を済ませて追い返す方が建設的だと思い直していた。「何のようだベイル? このような夜更けに乙女の寝室を訪れるなど無礼だろうが!?」「失礼ですが、中尉のそのような時代はとうに過ぎ去っていますよ? しかし、寝たふりは酷いですね? 面会謝絶の頃に押し入らなかっただけ有り難いと考えて欲しいものです」 チッと舌を鳴らすのはアイリスである。仲が悪いわけでもなかったが、彼女は寝ようとした矢先に訪れたベイルが許せなかったらしい。「で、何のようだ? というより、その辛気くさい顔を何とかしろ! 親の顔より見たぞ? うら若き乙女の病室に入室を許されたのなら、男であればニヤついて見せるところだろうが!? 天使の如き目映さの乙女であれば尚更だ!」 地雷を踏んでしまったことにベイルは気付いた。苦い顔をして薄ら笑いを返すしかない。  ベイルは第三航宙戦団第一隊の副隊長だ。現在はアイリスの代理を務めている。年齢はアイリスより十歳も年上であったが、圧倒的な技量を見せるアイリスを尊敬していた。ただそれは操縦技術面のみであって、普段の彼女は実年齢ほど成熟していないことを分かっている。「実は補充に関することで相談が……」「補充だと? そん
Last Updated: 2026-09-24
Chapter: 面会
 イプシロン基地では大戦の後処理が急ピッチで行われていた。失われた無人機の補充からパイロットの異動。破損した艦隊や砲台、あらゆるものの修理が始まっている。 イプシロン基地に接続する施設の一つに病棟があった。そこは戦闘による負傷者の治療を一手に引き受ける場所だ。その中の一室。少しばかり広い個室に二つの影があった。「姉貴、すまない……。俺が先走ったばかりに」「なんだ、ジュリア? お前は見舞いではなく、泣き言を吐きに来たのか? これでも私は安静にしていないと怖いドクターに怒られてしまう重症患者だぞ?」 どうやらアイリス・マックイーンの病室であるようだ。見舞客は彼女の弟であるジュリア・マックイーンに他ならない。彼もまた病棟に運び込まれていたのだが、外傷のみであった彼は精密検査を受けただけで自室療養となっている。 俯き黙り込むジュリアに嘆息するアイリス。これではどちらが入院患者であるのか分かったものではない。「敢えて言わせてもらうと、ジュリアはまるで見えていない。小さな範囲だけで戦っている。私の支援機であったことを差し引いても、フライトの発想が乏しいと言わざるを得ないな。もしも私のいない間に戦闘があったとしたら命を失うと思え」 アイリスの指摘は手厳しいものだった。項垂れるジュリアに追い打ちを掛けるかの如く畳み掛けている。「分かってるよ。姉貴のように飛べないのは理解した。才能がないのも全て……」 ジュリアは悔やんでいた。自分が吹き飛んでさえいればGUNSはエースを失わずに済んだのだ。下手に生きながらえてしまったばかりに取り返しのつかない事態を引き起こしてしまった。「才能がない? ふはは! 面白い冗談だ! 腹部を切り裂き縫い付けた姉を笑わせるとは、お前も質が悪いな? 傷口に響いてかなわんぞ!」「冗談じゃねぇよ! 俺が生き残ったって何の足しにもならない! あの場面で俺を助けるなんて馬鹿な真似してんじゃねぇ!」 ジュリアは声を荒らげた。それでなくとも場違いなエース部隊に編成されてしまったのだ。大した戦果を上げられなかったことに加え、アイリスが戦線離脱する原因となってしまっては今まで以上に肩身が狭くなるだろう。「いいか、ジュリア? 才能なんて言葉を信用するな。それは努力しない者が作った都合の良い言葉だ。自身の怠慢さを棚に上げるために、他者を特別な存在に昇華さ
Last Updated: 2026-09-22
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