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アイリスとベイル准尉

Author: 坂森大我
last update publish date: 2026-09-24 16:31:48

 ジュリアが去って行った病室。アイリスは悩んでいた。どうにも姉弟のコミュニケーションがマズいように思う。今までも上手くいった例はなかったものの、やはりたった一人の弟である。仲良くしたいとは考えていた。

「まあ、あれは俗にいう反抗期というやつだろう」

 見当外れの解答を導き、納得した様子。特にするべきこともなかった彼女はもう眠ってしまおうとライトパネルに手を伸ばした。

「アイリス中尉! ベイルです!」

 ところが、またも来客である。夕方になって面会謝絶が解除されたばかりだ。可愛い弟ならばまだしも、副隊長と仕事の話をする気にはなれなかった。

 無視をして眠ろうとする。けれど、返事をしないからか呼び声は収まらない。

「さっさと入れ! ベイル!」

 怒りを露わにしながら、アイリスは解錠ボタンを押す。どうにも腹立たしく感じたが、早く話を済ませて追い返す方が建設的だと思い直していた。

「何のようだベイル? このような夜更けに乙女の寝室を訪れるなど無礼だろうが!?」

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  • Solomon's Gate   出向

     グレックが手術を決意してからもハンター隊は連日に亘って任務をこなしている。日程について考える暇もなく日数だけが過ぎていった。 早朝に全員でコーヒーを飲むといういつもの光景。しかし、突として鳴ったグレックのギアによって、憩いのひと時は終わりを告げてしまう。「早いな……」 出撃ではないだろう。ギアが鳴っているのだから個人的な用事に違いない。ただグレックは要件を察しているようだ。コーヒーを啜りながら、慌てることなくギアを眺めている。「おい、ミハル。お前は今日から出向だ――」「はいぃ……?」 唐突な話にミハルは声を裏返した。聞き違いでなかったのなら、グレックは確かに出向と口にしたはず。まだ配属して三ヶ月しか経っていない。ようやく馴染んできたところであったというのに出向とかあり得ないと思う。「異動じゃないぞ? 期間制限のある出向だ。三ヶ月という期間が満了すれば、お前はセントラル基地へ戻ることになっている。詳しくは辞令を読め……」 言ってグレックはミハルのギアに辞令を送信。有無を言わせず確認させた。  何だかわけの分からぬ展開であったものの、ミハルは辞令を開く。人間関係が変わるのはあまり好きじゃなかったから、不満げな表情を浮かべながら。「ソロモンズ……ゲート…………?」 ところが、ミハルの表情が一変した。 辞令にはソロモンズゲート支部イプシロン基地とある。そこは言わずもがな彼女が配属を望んでいた場所だ。ミハルは咄嗟に顔を上げてグレックを見つめた。「イプシロン基地への配備だ。それも301小隊だぞ? 目一杯に暴れてこい……」 とても信じられない。グレックが気を利かせてくれたとしか思えなかった。こんなにも早くイプシロン基地へと配置されるだなんて。 ミハルは呆然とギアを眺める。突如として舞い込んだ話がまだ消化し切れていない。 ◇ ◇ ◇  ミハルが辞令を受けるより遡ること三日。話が動き始めたのはグレックに手術の説得をしたあとである。ミハルがオペレーションルームを出て行った直後のことだ。 オペレーションルームに残されたグレックは考え込んでいた。仮に足が元通りとなれば自分はどう変わるのか。今よりも高みを目指していけるのか、或いはミスがなくなるだけだろうかと。「今まで考えもしなかったことだな……」 言ってグレックは小さく笑い、眠気覚ましのコーヒーを

  • Solomon's Gate   ミハルの要望

     セントラル基地では夜勤の時間になっていた。 本日の担当はグレックである。夜勤とはいっても基本的にはオペレーター業務をこなすだけだ。緊急通信や担当エリアの不審船アラートを受けるためであり、出撃の際には全員が集まることになっている。 大きな欠伸をしていたグレックは不意に開かれた扉に慌てて姿勢を正す。「何だミハルかよ? どうした?」 オペレーションルームに現れたのは自室へ戻ったはずのミハルだった。何やら神妙な面持ち。眠れないといった理由ではないのはグレックにも理解できた。「グレック隊長、ひとつお願いがあります」「面倒くさい奴だな? 何だ言ってみろ?」 グレックはミハルの要求をある程度察していた。成長著しいミハルが上を目指したいと願うのは自然な流れである。「ここでは嫌でも経験値が上がる。三人しかパイロットがいないからな。実戦は訓練で得られない確かな実力を与えてくれるんだ。同期の誰もミハル以上の経験は積んでいないだろう。もしもミハルがイプシロン基地へ向かいたいというのなら話はつけてやる。だが、これまで以上に訓練に身を入れないことには同じように成長できないぞ?」 ミハルが答える前にグレックが諭すように話す。毎日のように出撃があるセントラル基地と比べ、ゲートに配備されたパイロットは訓練でしか成長が望めないのだ。「違いますよ! 私は異動を願いに来たわけじゃありませんから!」 ところが、ミハルはその話を否定する。アイリスがいるイプシロン基地への配備は彼女の目的であったはずなのに。「じゃあ、何だ? まさか後衛機に変えてくれというつもりじゃないだろうな?」 またもミハルは首を振る。編隊に関する要望でもないらしい。  ミハルの希望なんてそんなにはないだろうと考えていたが、グレックが思いついたものは全て不正解だった。「グレック隊長、ちゃんとした義足をつけてください!」 意外な要求にグレックは唖然としている。それは予想していた内容とまるで違っていたのだ。てっきりミハル自身に関する話だと考えていたというのに。「確かに俺はミスを

  • Solomon's Gate   アイリスとベイル准尉

     ジュリアが去って行った病室。アイリスは悩んでいた。どうにも姉弟のコミュニケーションがマズいように思う。今までも上手くいった例はなかったものの、やはりたった一人の弟である。仲良くしたいとは考えていた。「まあ、あれは俗にいう反抗期というやつだろう」 見当外れの解答を導き、納得した様子。特にするべきこともなかった彼女はもう眠ってしまおうとライトパネルに手を伸ばした。「アイリス中尉! ベイルです!」 ところが、またも来客である。夕方になって面会謝絶が解除されたばかりだ。可愛い弟ならばまだしも、副隊長と仕事の話をする気にはなれなかった。  無視をして眠ろうとする。けれど、返事をしないからか呼び声は収まらない。「さっさと入れ! ベイル!」 怒りを露わにしながら、アイリスは解錠ボタンを押す。どうにも腹立たしく感じたが、早く話を済ませて追い返す方が建設的だと思い直していた。「何のようだベイル? このような夜更けに乙女の寝室を訪れるなど無礼だろうが!?」「失礼ですが、中尉のそのような時代はとうに過ぎ去っていますよ? しかし、寝たふりは酷いですね? 面会謝絶の頃に押し入らなかっただけ有り難いと考えて欲しいものです」 チッと舌を鳴らすのはアイリスである。仲が悪いわけでもなかったが、彼女は寝ようとした矢先に訪れたベイルが許せなかったらしい。「で、何のようだ? というより、その辛気くさい顔を何とかしろ! 親の顔より見たぞ? うら若き乙女の病室に入室を許されたのなら、男であればニヤついて見せるところだろうが!? 天使の如き目映さの乙女であれば尚更だ!」 地雷を踏んでしまったことにベイルは気付いた。苦い顔をして薄ら笑いを返すしかない。  ベイルは第三航宙戦団第一隊の副隊長だ。現在はアイリスの代理を務めている。年齢はアイリスより十歳も年上であったが、圧倒的な技量を見せるアイリスを尊敬していた。ただそれは操縦技術面のみであって、普段の彼女は実年齢ほど成熟していないことを分かっている。「実は補充に関することで相談が……」「補充だと? そん

  • Solomon's Gate   面会

     イプシロン基地では大戦の後処理が急ピッチで行われていた。失われた無人機の補充からパイロットの異動。破損した艦隊や砲台、あらゆるものの修理が始まっている。 イプシロン基地に接続する施設の一つに病棟があった。そこは戦闘による負傷者の治療を一手に引き受ける場所だ。その中の一室。少しばかり広い個室に二つの影があった。「姉貴、すまない……。俺が先走ったばかりに」「なんだ、ジュリア? お前は見舞いではなく、泣き言を吐きに来たのか? これでも私は安静にしていないと怖いドクターに怒られてしまう重症患者だぞ?」 どうやらアイリス・マックイーンの病室であるようだ。見舞客は彼女の弟であるジュリア・マックイーンに他ならない。彼もまた病棟に運び込まれていたのだが、外傷のみであった彼は精密検査を受けただけで自室療養となっている。 俯き黙り込むジュリアに嘆息するアイリス。これではどちらが入院患者であるのか分かったものではない。「敢えて言わせてもらうと、ジュリアはまるで見えていない。小さな範囲だけで戦っている。私の支援機であったことを差し引いても、フライトの発想が乏しいと言わざるを得ないな。もしも私のいない間に戦闘があったとしたら命を失うと思え」 アイリスの指摘は手厳しいものだった。項垂れるジュリアに追い打ちを掛けるかの如く畳み掛けている。「分かってるよ。姉貴のように飛べないのは理解した。才能がないのも全て……」 ジュリアは悔やんでいた。自分が吹き飛んでさえいればGUNSはエースを失わずに済んだのだ。下手に生きながらえてしまったばかりに取り返しのつかない事態を引き起こしてしまった。「才能がない? ふはは! 面白い冗談だ! 腹部を切り裂き縫い付けた姉を笑わせるとは、お前も質が悪いな? 傷口に響いてかなわんぞ!」「冗談じゃねぇよ! 俺が生き残ったって何の足しにもならない! あの場面で俺を助けるなんて馬鹿な真似してんじゃねぇ!」 ジュリアは声を荒らげた。それでなくとも場違いなエース部隊に編成されてしまったのだ。大した戦果を上げられなかったことに加え、アイリスが戦線離脱する原因となってしまっては今まで以上に肩身が狭くなるだろう。「いいか、ジュリア? 才能なんて言葉を信用するな。それは努力しない者が作った都合の良い言葉だ。自身の怠慢さを棚に上げるために、他者を特別な存在に昇華さ

  • Solomon's Gate   特訓の成果

     太陽系全域に防衛成功という吉報が届いた。誰しもがGUNSの奮闘を称え、星系に訪れた束の間の平穏を実感したことだろう。 セントラル基地にも勝利の一報は届いている。しかし、吉報だけではなく届いたのは負傷者や死者の詳細まで。 いの一番にキャロルの無事を確認したミハルは安堵している。また長く軍部に在籍する他の隊員たちも食い入るように名簿を眺めていた。 朝一番は出撃がなければ全員でコーヒーを飲むのが慣例である。夜勤明けの交代時間であるため、簡単な引き継ぎと雑談をするのだ。いつもなら大した話題もないのだが、本日は開戦翌日とあって長話となっている。「大尉、アイリス中尉が戦線離脱だって! 無事だといいのだけど」 シエラが被害報告書を読みながら話す。顔見知りである人たちの怪我や訃報は快勝した事実よりも大きく、心の内からゆとりを奪っていく。 死者数は想定よりもかなり少なかったのだが、それでも昨年度に記録した二百倍という人数がたった数時間で失われていた。「何でもジュリア坊を庇ってのことらしいの。心配じゃなぁ」 ミハルの目標であるアイリスの容体については詳しく書かれていた。損傷した内臓の手術に加え、挫滅した左足を膝上から切断したことまで。内容を見た限りは、とてもパイロットを続けられる状態だと思えなかった。「アイリス・マックイーンは絶対に復活しますよ!」 皆が溜め息を吐く中、ミハルが声を張った。彼女がパイロットを辞めるなんて少しも想像できない。憎らしいほどの自信と共に復活すると信じている。「逃げも隠れもしないって彼女は言ってたもの!」 ミハルを導いていた目も眩むほどの光。少し風が吹いたくらいで消えるはずがない。今も太陽の如く輝いてミハルを誘っているのだから。「俺もそう思うぞ。損傷した臓器の手術は成功しているようだし左足についても、さして問題はないだろう。俺にちゃんとした義足を付けろというくらいだ。あいつは棒切れじゃないものを選ぶだろう」 言ってグレックが笑う。自虐的なその冗談に本気で笑える者はいない。皆が経緯を知っていたからオペレーションルームは微妙な空気に支配されてしまう。「き、緊急通信! 大規模な海賊団が現れたようです! 大至急応援に向かってください! 位置はエスバニア区画から2000kmのところです! データリンクします!」 GUNSが歴史的勝利を収

  • Solomon's Gate   大戦の爪痕

     敵機の殲滅を任された航宙機部隊はゲートより進入したほぼ全てを撃墜していた。 最前線に陣取る第三航宙戦団第一隊【301小隊】も例に漏れず、任務をほぼ完遂している。「アイリス隊長、エリア内の敵機はあと二機です!」 「ジュリア、急ぐ場面じゃない! 艦船はまだ生きているぞ! 深追いするな!」 圧倒的な戦果を収めていたのは隊長であるアイリス・マックイーン。最も敵影の濃い中央エリアを担当していたにもかかわらず、301小隊は後方に敵機を逃していない。被害がないわけでもなかったが、エース部隊と呼ばれるに相応しい戦果を上げている。「大丈夫です! この敵機だけでも!」 姉であるアイリスの警告にジュリアは勇ましく答えた。だが、彼の戦果は正直に芳しくない。アイリスの支援機を務めていたこともあって撃墜数は隊員の中でも極端に少なかった。 ジュリアは少しでも撃墜数を稼ごうというのか、隊列を乱し残存航宙機の排除へと向かう。濛々と粉塵を上げる艦船の脇を抜け、ジュリアはようやく敵機を照準に捕らえた。「もらったぁぁっ!!」 ジュリアが叫んだその刹那、突如として艦船が爆散する。放射状に破片を撒き散らしながら、周辺に存在した全てを巻き込む大爆発を起こした。 全員が息を呑んだ。それは誰も予想できなかった絶望的な場面に違いない。しかし、そのような状況であっても声を上げる者がいた。「ジュリアァァアアア!!」 声の主は姉であるアイリス・マックイーンだった。声の限りに叫んだ彼女はジュリアの無事を疑っていない。なぜならレーダーを確認する限り、ジュリアの機体はまだ反応を残している。確実に巻き込まれたはずであるが、【3SP25】という機体反応は消失していない。「ベイル、指揮を執れ! 私はジュリアと合流する。一旦引いていろ!」「了解です!」 戦局がほぼ決定した場面であったはず。残念ながら、すんなりとは終わらなかった。  アイリスは直ぐさま回頭しジュリア機の元へと急ぐ。「ジュリア、応答しろ!」 通信するも返事はなかった。気を失ってい

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