主人公はスイーツが大好きなヒロイン、由紀乃。ある日由紀乃は、冷凍食品を扱う会社【スリーデイズ】で副社長を務める天野川大翔と出会う。 大翔からスリーデイズが新たにスイーツ部門を立ち上げることを聞かされた由紀乃は、大翔からスイーツ部門の開発メンバーとして立ち上げに協力してほしいとお願いされる。 その報酬は一億円で、一億円で大翔と結婚してほしいとお願いされた由紀乃は、戸惑いながらも結婚することを決める。スリーデイズのスイーツ部門のメンバーとしてスイーツ開発が始まる。 スリーデイズが最初に開発するスイーツを決めることになった由紀乃たちだったが、意見を出し合う中、スイーツ開発にアップルパイが決定する。
View More【プロローグ】〜副社長との出会い〜
* * *
「大変お待たせ致しました。 角切りりんごと紅茶クリームのパンケーキになります」
「うわぁ……」
お、美味しそう……! そして何より、見た目が美しいっ!
フワフワで厚みのある茶葉入りのパンケーキに、香り豊かな紅茶クリーム。そしてその周りを囲む、黄金色が輝く美しい角切りりんご。
「美しいっ……」
これぞカフェのパンケーキ。 いや、もはやそれ以上かもしれない。
見た目のクオリティに関して言うと、パーフェクトすぎるくらいだ。 これは女子受け、間違いなしのスイーツだ。
わたしはすぐにカバンからスマホを取り出し、一番いい位置から写真を撮影し、それをInstagramにハッシュタグを付けて上げる。
これがわたしの休みの日のルーティンだ。休みの日はどこかのカフェに出向き、そのお店のオススメのスイーツを必ずチェックしている。
もちろん、新作のスイーツや期間限定のスイーツなどは外せないため、必ずチェックするようにしている。
こんなことをしているせいか、わたしには彼氏など出来なそうにない。 今のわたしには、恋愛することよりもスイーツを食べる方が優先なのだ。
「それでは……いただきます」
Instagramにあげた写真をチェックした後、ナイフとフォークを両手に持ち、出来たばかりのパンケーキに手を伸ばしていく。
「うん、美味しいっ」
何これ、めちゃくちゃ美味しい。フワフワなのに軽い口どけのパンケーキに、甘さ控えめなのにしっかりと紅茶の風味を感じるクリームとの相性がバツグンすぎる。
何よりこの角切りされたりんごはシナモンが少し入っていて、口に入れた瞬間の爽やかなりんごの酸味とシナモンのフワッと香るほんのりとした香りが更に美味しさを引き立てている。
これは間違いなく、文句無しで美味しいスイーツだ。絶対に食べた方がいい。
くどくないし、クリームの口どけも滑らかなのに軽く食べられてしつこくないし。甘いものが苦手な人でも食べやすいように出来ている。
「やばっ、止まらない……」
あまりにも美味しくて、ナイフとフォークが止まらなくなる。
「ごちそうさまでした」
あまりにも美味しくて、あっという間にパンケーキを食べ終えたしまったわたし。
「うん」
これは評価高いな、もう一度食べたくなる。
そしてお会計しようと席を立ったその時……。
「きゃっ……!?」
誰かにぶつかってしまったみたいで、わたしはその衝撃でフラついてしまったようだ。
「おっと……!」
どうやらそんなフラついたわたしを、身体で受け止めてくれた人がいたようだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、す、すいません……!」
わたしはすぐにその人から慌てて離れた。
「ケガはないですか?」
「は、はい。すみません、わたしの不注意で……!」
「いや、ケガがなくて何よりだ」
と咄嗟に謝って顔を上げた瞬間に、わたしはその人から目を逸らせなかった。
「……えっ」
ウソッ……。この人って……。
「どうかしました?」
この人……。株式会社【スリーデイズ】の副社長さんじゃない……?
なんでこんな所に、スリーデイズの副社長がいるの……?
「あっ……い、いえ! 本当にすみませんでした!」
わたしは一瞬、頭の中がパニックになった。
だって目の前にいるのが、メディアでも取り上げられているあの有名なスリーデイズの副社長、天野川大翔(あまのがわひろと)だったからだ。
その姿を間近で見て、つい見惚れてしまいそうになった。
天野川大翔は、冷凍食品を取り扱っている食品会社【スリーデイズ】の副社長だ。
でもテレビで見るよりもイケメンだったし、顔も整っていて、肌も美しかった。
それに背も高くスラッとしていて、顔が小さかった。
驚いたな……。ここにあの天野川副社長がいるなんて。
「にしても、いいニオイだったな……」
なんかこう、天野川大翔のニオイに一瞬頭がクラっとしそうだった。
理性が崩れるかと思ったくらいだ。
「……って」
なんでわたし、そんなことを考えてるんだろう……。やっぱり目の前に有名人とかがいたからかな?
「それにしても、美味しいパンケーキだったな」
とても美味しくて、幸せだった。やっぱり甘いスイーツは人を幸せにする。
イヤなこととか辛いことがあったとしても、スイーツを食べれば笑顔になるし、幸せな気持ちになる。
スイーツは、人を幸せにする魔法だ。スイーツ好きにはたまらないひと時だ。
「あ、あれは、天野川大翔……?」
交差点の巨大なモニターに映し出された天野川大翔を見て、さっきのことを思い出す。
あれがわたしと天野川大翔との出会いだった。
そしてまさか、あんなことを言われるとは……。この時は想像もしていなかったのだけど。
大翔さんがいなきゃ、わたしはスイーツを作ろうと思えなかったかもしれない。 単純にスイーツを食べることが大好きってだけで、ここまで来ることは思ってなかった。「わたしは、スイーツが大好きだよ。食べることも、作ることも大好き。……だけど、わたしは大翔さんと一緒にいる時間が、一番大好きなんだよ。大翔さんがいないと、わたしは生きていけないもん」「由紀乃……」 だってわたしは、天野川由紀乃。スリーデイズの副社長である天野川大翔の妻だ。 大翔さんのことを誰よりも尊敬しているし、誰よりも愛おしいと思ってる。 大翔さんは誰よりも頼れる存在で、わたしにはもう大翔さんと過ごすこの時間がかけがえのない大切な
【〜最高の幸せは家族三人で〜】 「ただいま」 「大翔さん、おかえり。 今日もお仕事、お疲れ様でした」 「ありがとう、由紀乃」 わたしは大翔さんに「先にご飯食べる?」と聞くと、大翔さんは「ああ、そうするよ」と答える。 「今日の夕食、大翔さんのリクエストのチキン南蛮にしたよ。後豚汁とピリ辛キュウリ」 「お、チキン南蛮は嬉しいな」 「すぐ用意するね」 あれから気が付けば、半年が過ぎた。 半年間色々とあったけれど、無事にオンラインショップでのスイーツ販売にもこぎつけることに成功した。 そしてスリーデイズのオンラインショップでも自慢のアップルパイをハーフとホールでの販売も開始したところ、これがまた大反響なのだ。 大人気のためオンラインショップがサーバーダウンしてしまうことがあり、お客様には迷惑をかけてしまったが、無事にサイトも復旧しまた販売が出来るようになった。 思わぬサーバーダウンにわたしたちもてんやわんやでバタバタしてしまったが、サーバーに強いスタッフがいるおかげで割とすぐにサーバーは復旧することが出来たのも良かったと思う。 「お、チキン南蛮美味そうだな」 「ふふふ。正直、自信作」 「そうか。 よし、食べよう」 二人で「いただきます」と手を合わせると、大翔さんは早速出来たてのチキン南蛮に手を伸ばす。 パリパリというチキンの音が、口にした瞬間にいい音を奏でている。 「うん、美味いっ」 「でしょ? 自信作だからね」 「本当に美味いよ。最高だわ」 「ふふふ。良かった」 大翔さんがこうやっていつも美味しそうにご飯を食べてくれるから、わたしも作って良かったと思える。 一人で食べるより、やっぱり二人で食べる方が何倍もご飯は美味しい。 「豚汁も最高に美味い」 「良かった」 わたしが作る豚汁は出汁に特にこだわっている豚汁で、味噌は白味噌を使っているのだけど、出汁が美味しいから豚汁がもっと美味しくなっている。 「いつも美味しく食べてくれるから、わたしも嬉しいよ」 「本当に由紀乃の料理は美味い。疲れた身体を染み渡る」 「良かった」 大翔さんと色々と切磋琢磨しながらこうして美味しいスイーツ作りをしてきたけど、美味しいスイーツでみんなが喜んでくれるのはやっぱり嬉しいし、作ってて良かったと実感する。 「そうそう。ネットでのアップルパイの注
片山さんがそう伝えると、新メンバーの人たちは驚いているようで、「えっ! あ、天野川副社長の奥様……ですか!?」とわたしを見ている。「はい。わたしは副社長の妻です。……片山さん、伝えてなかったんですか?」「言ってたつもりだったんだけどね」「すみません。聞いてなかったのでビックリしました」 そう言われたけど、「わたしのことは普通にリーダーでいいですよ。 副社長の奥様だとか、気を張ることないですからね」と念の為伝えておいた。「お、恐れ多いです……」 と言われたけど、「わたしだって普通の一般人ですよ?元はスイーツ大好きな一般人です。 なので、気負わず話しかけてくれたら嬉しいです」と笑顔を見
わたしたちは頷きながら「はいっ!」と返事をした。「求人募集についての補足になるが、募集開始後の面接は俺と片山、二人で行うことになった。 片山、宜しく頼むよ」「えっ!わたしですか……!?」 片山さんは驚いたような表情をしている。 大翔さんは片山さんに「片山は俺がスイーツ部門を立ち上げた時からの初期メンバーだからな。片山が一番適任だと俺は思ってるんだが……どうだ?」と聞いている。「わたしも、片山さんが適任だと思います」 わたしがそう伝えると、片山さんは「そこまで言われたら、断れないじゃないですか」と言っているものの、「わかりました。面接担当、引き受けます」と受けてくれた。「ありがとう
無理だけは絶対にさせられない。「なんとか人手を増やせない、ですかね」「人手が増やせれば、なんとか回せるんだけどね……」 今の人数でやれることがギリギリになり、仕事を増やしてしまうと負担を掛けてしまう。 そうなると、なかなかお取り寄せにまでは辿り着くのは難しいかもしれない。「片山さん。副社長に、求人募集の依頼をかけてもらいませんか?」「求人募集?」「はい。社員でなくても、例えば短時間でも働けるスタッフとか、土日だけ働きたいみたいな人たちを募集してみませんか?」 派遣みたいなスタイルにしてもいいし、その人が働きやすい環境で働いてもらえるように、募集をかけていくしかもうない。「パ
ワンホールでの販売すれば、家族みんな分け合って食べられるし、自分なりにアイスを乗せたりしてアレンジも効くから、そっちの方がいい気もする。「そうだな、店舗では4/1カットが基本だもんな。……なあ、お取り寄せにするなら、ワンホールとハーフカットが選べるってのはどうだ?」 「ハーフカットとワンホールを選べるようにするってこと?」「そうだ。少人数だとワンホールは多いだろうし、ハーフカットを選べたら少人数でも食べやすいと思わないか?」 ああ、確かに……!「そのアイデア、素敵だね」「カップルや友人で少人数で食べるなら、ハーフカットくらいがちょうどいいだろ? ワンホールじゃ多くて食べきれなくなる
【スリーデイズの進化の時】 「副社長、後百個の追加、OK出ましたよ」「本当か? 良かったな」「うん」 後日の話し合いの結果、アップルパイの百個の追加注文を受けられることになった。 思ったより反響があったおかげで、製造数を増やすことが出来て、わたしたち自身も嬉しく思う。「ところで、大翔さん」「ん?」「この前言ってた冷凍スイーツの件、なんだけど……」 わたしたちみんなで話し合った結果、アップルパイを冷凍スイーツとして売り出すのであれば【お取り寄せ】として販売するのはどうか、という話が出てきたため、わたしはそれを大翔さんに相談することにしたのだ。「アップルパイを冷凍として
「うん。パフェの人気が思ったよりすごかったから、冷凍スイーツみたいな感じで販売出来たらいいなって思って」 わたしがそう話したら、大翔さんは「冷凍スイーツか。それはいいアイデアだな」と言ってくれた。「今冷凍スイーツが結構流行ってるじゃない? 今結構多いのが、無人販売スイーツみたいなのなんだけど、二十四時間買えるところもあって。 冷凍スイーツにして販売したら、いいかなって思ったの」「それがスリーデイズの第二のスタート、って所かもな」「第二の、スタート……」 確かにアップルパイが大成功したし、そしてイベントも大成功した。 次のステップは、冷凍スイーツにシフトしていったほうがいいのかもし
「大翔さん、ありがとう。大翔さんのおかげだよ」「それは由紀乃が頑張ったからだろ?」「……わたし、なんか泣きそう」 大翔さんはわたしの頭をそっと撫でてくれる。「泣いてもいいぞ」「……でも、ここでは泣かない」 家に帰ってから思う存分泣くことにする。「家で思いきり泣くことにするね」 「そうか。じゃあその時は俺の胸を貸してやるよ」「ありがとう」 こういう時に助けてくれるのが大翔さんだから、いいんだよね。「パフェが全部完売なんて、実はちょっとビックリしてるんだ」「そうなのか?」 わたしは「うん」と頷いた。「正直、完売は無理かなって思ってたし」「でも完売したな」 「うん
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