父親が借金をしたせいで、その借金を返すことになってしまった主人公の紅音(あかね) だけど借金を返すこともままならない紅音の前に、救世主である爽太(そうた)が現れる。 爽太は紅音の借金を返すと告げる。 しかし爽太がその代わりに要求したのは、紅音との【契約結婚】だった。 紅音はその結婚を受け入れ、彼と夫婦になることを決める。 ニ年という期限付きで結婚した紅音は、幸せになれるかわからない結婚に戸惑うも、徐々に彼に惹かれていることに気づくが……。 子供を作らないという条件の中で、紅音は妊娠していることが発覚してしまう。 それを知った紅音は、爽太に妊娠を隠し通そうとするが妊娠したことが爽太に知られてしまう。
View Moreある日突然、私は期間限定で夫と結婚することになった。しかも二年間という、期限付きで。
それは【離婚を前提とした結婚】であることを示していた。✱ ✱ ✱
「爽太(そうた)さん、おはよう」
「紅音(あかね)、おはよう」
私と爽太さんと結婚したのは、半年前のこと。 そのきっかけになったのは、父親の借金だった。
父親が多額の借金を作ってしまい、返せなくなった父親は、首を吊って自殺した。 その事実を知ったのは、父親が亡くなったすぐ後のことだった。まさか私の名前を借りて借金していたとは知らなかった私は、その後すぐに借金を取り立てを受け、地獄を味わうことになった。
毎日借金取りが家にやってきて、金を返せと言われた。 時には金を払えないなら自分の身体で払えと言われて、その日も無理矢理連れて行かれそうになった。そんな時私助けてくれたのが、私にとってはヒーローである爽太さんだった。
「やめてっ、離してよっ……!」
「暴れるんじゃねーよ!」
「おい。女一人によってたかって何してんだ。イヤがってるだろ?」
それが、私と爽太さんとの出会いだった。そしてその日は、私の25歳の誕生日だった。
「コイツの父親が借りた借金返さねぇから、返せって言ってるだけだろ?」
「だからって身体で払えなんて、そんなセクハラまがいな発言していい訳ないよな?」
「うぜぇ……。何なんだよてめぇは!?」
あの時、そう言って殴りかかる男の拳を受け止めた爽太さんは、その男たちを撃退してくれたのだった。
「大丈夫か?」
「……ありがとう、ございました。助けて頂いて」
私はあの時、爽太さんに助けてもらったからこそ、こうして恩返しが出来ている気がする。
「……お前、借金どのくらいあるんだ?」
「え……?」
「借金。父親が借金、してるんだろ?」
「……500万です」
その言葉の後、爽太さんは「500万? そんなにあるのか、借金」と言って私を見ていた。
「……はい。父親が借金してると知ったのは、父親が死んだ後です。 気が付いたら、私が払うことになっていました」
父親の借金を抱えて生きていくのは、とても辛い。毎日こうして取り立てられて、生きてくことに疲れてしまった。
「……もう、イヤだ」
父親の借金さえなければ、わたしは今頃幸せになっていた。
「……お前、名前は?」
「……え?」
その時、爽太さん私の名前を聞いてきた。
「俺は小田原爽太《おだわらそうた》だ。……お前の名前は?」
「……加藤紅音《かとうあかね》です」
「よし、紅音。お前のその借金、俺が全額払ってやる」
「……え?」
初めて会った人にそんなことを言われて戸惑うのは当たり前なのだけど……。
なぜそんなことを言ってくれるのか、分からなくて……。ただただ、瞬きを繰り返すことしか出来なかった。「……私の借金を、あなたが?」
そんな、どうして……?「ああ。 その代わりに、俺のお願いを聞いてくれるか?」
「……え? お願い、ですか……?」
お願いとは、一体何なのだろう……。そんなことを思っていたら、爽太さんはこう言ってきた。
「期間限定で、俺の妻になってほしいんだけど」
「……え?」
期間限定で……妻? え、それってまさか……結婚ってこと?
「妻って……。私と、あなたが……?」
「そうだ。俺とお前がだ」
私と彼が、結婚……。しかも今日初めて会った人と、結婚……?
そんなの、急すぎる……。「……でも、そんなの……。悪いです」
今日初めて会った人に借金を返済してもらうなんて、そんなこと出来ない……。
そんなの迷惑になってしまうし……。「じゃあ聞くが、お前はこのまま借金を返済し続けられるのか?」
そう聞かれて私は「それは……」と口を閉ざした。
「どうする? お前はこのまま、一生この先も辛い人生を送るつもりなのか?」
「…………」
何も言えなかった。 だって、もうそんな人生送りたくないって思ってるのは確かだから……。
「どうなんだ?」
「……イヤです。 もうこんな人生……送るなんてイヤです!」
だけどこれが、正直な気持ちだ。もうこんな人生真っ平ごめんだ。借金を抱えて生きていくなんて、もう懲り懲りだ。
こんなことになるくらいなら、死んだほうがマシだ。「お前が俺との結婚を受け入れるというのなら、俺は今すぐその借金を全額その場で返済してやる」
「……どうして?」
どうしてそんなに私に、優しくしてくれるの……? どうして?
「俺は困っている人を見捨てられない主義なんでね」「……私、もうこんな辛い生活から抜け出したいです」
父親の借金を背負って生きていくなんて、もうごめん……。幸せになりたい。
一人の女として、幸せに生きていきたい。「どうだ?俺と結婚、するか?」
「……私、幸せになりたいです。 だから、結婚します、あなたと」
それで結婚して借金が失くなるのなら、わたしは彼と結婚する。幸せになれるのかは分からないけれど、やるしかない。
「じゃあ契約成立ってことで。お前のその借金、肩代わりしてやる」
「……ありがとうございます。 本当に、感謝しています」
「それとお前は、すぐにここのアパートを引き払った方がいい。 また借金取りが来る可能性があるからな。今からでも俺の家に住めばいい」「……え?」
今から?そんな、急すぎる……。すぐに引き払うなんて出来るのかな……?
「ここの家賃はいくらだ?」
「……4万5千円です、けど……」
それがなんだと言うのだろうか……?「じゃあすぐに、この金を持ってこのアパートを引き払ってこい」
そう言って何枚もの一万円札を渡してきた爽太さんに、私は「え……?これって……」と爽太さんを見る。
「これだけあれば足りるだろ?」
「え、こんなに……?!」
「早くしろ。それを大家に渡してこい。 今すぐにだ」
「は、はい……」
私は言われた通りすぐに大家さんの元へ行き、渡されたお金を渡し、アパートを引きうことになった。
それから三年が経った。 相変わらず私たち夫婦は、仲良しでやっている。 莉音もだんだんと大きくなり、だいぶ言葉を話せるようになってきた。 莉音が本当にかわいいのか、爽太さんは莉音にメロメロだ。 それだけではなく、一年後に産まれた第二子の女の子【莉子(りこ)】にもメロメロなのだ。 莉子も間もなく二歳になるところだ。 爽太さん自身男の子がほしいそうだけど、もはや二人の女の子に恵まれて幸せそうなので、もう一人出来たら今度は男の子がいいと言っている。「まーまー!」「どうしたの?莉音」「りこがりおんのえほん、かえしてくれない!」 莉音が莉子に絵本を取られてしまいいじけているが、それを私は「莉音、莉音はお姉ちゃんなんだから、今は莉子に絵本貸してあげなさい」と告げるが、莉音は「やーだー!」と駄々をこねている。「莉音、絵本はいつでも読めるでしょ」「やーだー! いまよみたいのっ!」 最近の莉音は莉子にベッタリな私がイヤなのか、よくこうして駄々をこねるようになった。「莉音、莉子だって絵本読みたいのよ? ママと約束したでしょ?莉子には優しくするって」「だって、さきにえほんよんでたのは、りおんだもんっ!」 これは困った。 こうなると莉音は、なかなか機嫌を直してくれないのだ。「莉音、莉子に貸してあげなさい」「なんでりおんはだめなのに、りこはいいのー?」 莉音も物心が付いてきたのか、最近はこうしてわがままを口にするようになった。 もちろん、ダメなものはダメだと言い聞かせているのだけど、なかなか言うことを聞いてくれない。「りこは妹なんだから、譲ってあげるのは当たり前でしょ」「なんでー? りおんのがさきだったもんっ!」 私はため息を付くと、莉音に「じゃあ、ママが莉音と莉子に絵本読んであげる。 だから一緒に絵本飲むのはどう?」と提案してみると、莉音も諦めたのか「じゃあ、ママがりおんとりこにえほんよんでくれるの?」と聞いてくれるから、「そうだよ。それなら二人で見れるでしょ?」と言ってみる。「じゃあ、ママがよんでっ」 良かった、それで納得してくれようだ。 今日は爽太さんが出張で大阪に行っていていないので、ワンオペなので特に体力が必要になる。「じゃあね、莉音も莉子もママのところに来てね」「はーいっ!」「まーまー!」 莉子も私の元へと走ってくる。「じゃあ
もちろん、今までも幸せだった。だけど今の方がもっともっと幸せだ。 こうしてまた、爽太さんと会えたから。これ以上ないってくらい、幸せになりそうな予感がする。「今まで一人で苦労を背負わせてしまって、すまない。……これからは俺も、ちゃんと父親になるから。前よりももっと、いい旦那になれるように頑張るからさ」 爽太さんからその言葉がもらえただけで、私は充分だった。それでも、幸せだと感じたからだ。「爽太さん……私たちはまだ、親になったばかりですよ。 だから二人で一緒に、手を取り合って支え合って、これからも莉音を立派に育てていきましょうね」「ああ、そうだな。……任せておけ」 爽太さんは、嬉しそうに微笑んだ。「頼りにしてます、パパ」 「パパか……。良し、新米パパ、頑張るか」「はい。私も新米ママとして、頑張っていきますので」 こうしてまた、二人一緒に生きていくことが出来ることを、幸せだと思う。 一年間単身赴任みたいな感じになったけど、またこうして再会出来たから。「……紅音、俺の結婚指輪、まだ持ってるか?」 そう問いかけられた私は「もちろんです。……ここにありますよ、ずっと」とネックレスに付いた爽太さんの結婚指輪をそっと見せた。「……良かった。 ありがとう、失くさずに持っててくれて」「爽太さんも、私の指輪……持ってますか?」「当たり前だ。ずっと持ち歩いてたよ」 爽太さんは私の結婚指輪を同じくネックレスにした状態から取り出すと、それを外した。「……紅音。あの約束、覚えてるか?」 あの約束……。その約束を、忘れる訳がない。「もちろんです。……またプロポーズ、してくれるんですよね?」 帰ったらまたプロポーズしてくれると、爽太さんは約束してくれた。……私はそのプロポーズを、ずっと待ち続けていたのだから。「紅音、愛してる。 これからもずっと、一緒にいよう。今まで以上に大切にすると約束する」「……はい」 そんなの、当たり前だよ……。 ずっと大好きなんだから、爽太さんのこと。この出会いは、私にとって運命なの。 爽太さん以外、考えられない。「紅音、俺ともう一度家族になってください。……今度こそ、ずっと一緒にいる。 もう離れたりしないと、約束する」 爽太さんから結婚指輪を受け取った私は、「……はい。よろしくお願いします」と返事をして、
それから時は過ぎ、一年後ーーー。「さ、莉音(りおん)、ご飯にしようね」 生後半年を過ぎた娘、莉音(りおん)を育てながら、私は莉音と二人で生活していた。 莉音は本当に可愛くて、フニフニしていて、癒やしの存在だった。 だけど夜泣きもひどくて、毎晩夜泣きに悩まされている。 寝る時間もあまりないし、どうしたらいいのかわからない。「美味しい?莉音」 もぐもぐとご飯を食べる莉音のその姿は、可愛くて仕方ない。「あらら……。こぼしちゃダメでしょ」 赤ちゃんの育児をするのって、とても大変で……。一人だと自分の時間もないから、なかなか時間が作れない。「莉音、ご飯もういらないの?」 莉音にご飯を食べさせた後は、私も自分でご飯を食べる。 最近は食事を作る余裕もなくて、コンビニでお弁当とかを買ったりして食べている。「莉音、おねむになった?」 ご飯を食べて眠そうにしだした莉音を抱っこして、布団に寝かせる。「さ、お昼寝しようね、莉音」 莉音の横に私も横になり、子守唄を歌いながら莉音が眠るまで寝かしつけていく。 二年で離婚する予定だった私たちだけど、二年という時を経て本当の家族になれた。 それは離婚したくない気持ちが、お互いにあったからというものあるし、家族になるために努力出来たからだ。 だから私たちは、こうして家族になれた。「はあ、やっと寝てくれた……」 莉音は本当に寝なくて、寝かしつけるのが大変だ。「爽太さん、会いたいな……。何してるかな」 莉音は出産した時は、あまりにも嬉しくて、その感動から涙が溢れた。幸せだと感じたし、とても嬉しかった。 莉音が産まれた後、すぐに爽太さんにも莉音の写真を何枚も撮って送ったりしていた。 爽太さんはとても喜んでくれて、電話もしてきてくれた。私に【出産、おめでとう。お疲れ様】と言ってくれた。 それからはちょこちょこ、爽太さんにも莉音の写真や動画を送ったりしている。 その度にいつも送られてくるのは、私たちへの愛の言葉だった。 【愛してる】とか【早く会いたい】とか【愛おしい】とか、そんな愛のある言葉をたくさんくれた。 私はその言葉をもらう度に幸せを感じて、そして勇気をもらえた。 離れていても心は一つなんだって、そう思えるくらい大切な人……。早く会いたい。 会って、抱きしめて
それから数日間、私たちは二人での時間を過ごしていた。 明後日になったら、ついに爽太さんはイギリスへと旅立ってしまう。 寂しいし、本当は行ってほしくない。ずっと一緒にいたい。 だけど爽太さんとは、これからもずっと一緒にいれるんだ。 愛してる人とずっと一緒にいられる。 それって素晴らしいことだって思ってる。 だから爽太さんのことを信じて、これから私は生きていくの。後はこの子を産むために、一生懸命頑張るだけだ。 赤ちゃんが産まれる瞬間を、一緒に見たかったけど……仕方ない。「……爽太さん、明日、見送りに行ってもいいですか?」「え、来てくれるのか?」「はい。爽太さんを笑顔で、見送りたくて」 私は爽太さんにそう告げると、爽太さんは「ありがとう、紅音」と微笑んでいた。「俺はイギリスに行っても、紅音のことを絶対に忘れないからな。 毎日紅音のことを思いながら、向こうで頑張るよ。後、子供のこともな」「はい。そうしてください」 私は爽太さんから預かった結婚指輪を、ネックレスにして首にかけていた。 爽太さんからの愛の証を、常に身に着けていたいから。「紅音、愛してるよ。これからもずっと」「はい」「一年間、待たせてしまうし、色々と大変な思いをさせてしまうけど……待っててくれるか?」 その問いかけに、私は「当たり前です。だってこの子は、私たちの子供なんですよ?……大切に大切に、育てていきますから」と答えた。「ああ。……帰ってきたら、お前たちをギュッと抱き締めていいか?」「はい、もちろんです。 ギュッと抱き締めてくださいね」 だけど離れてもしまっても、私たちはまた必ず会える。 こうしてお互いを思い合う気持ちがあれば、私は頑張れる。この子と一緒に、爽太さんのことを待つ。「日本に帰ってきたら、赤ちゃんのこと、抱いてあげてくださいね」「いいのか?」「当たり前じゃないですか。 この子の父親は、爽太さんだけなんですよ?」 そう話した私は、爽太さんに抱きついて、爽太さんの温もりを感じた。 「……大好き、爽太さん。愛してる」 明後日になったら、爽太さんはイギリスに行ってしまう。 とても寂しい。 それまで爽太さんの温もりを感じることが出来なくなるから、いっぱい温もりを感じたい。 しばらく抱き締めてもらえないし、キスもしてもらえないから。✱ ✱ ✱
爽太さんがイギリスに発つまで気が付けば残り一週間となっていた。 あと一週間後、私たちは離れてしまう。「爽太さん、もうすぐですね」「ああ。そうだな」 こうしてニ年間一緒に生活してみて、すごく思い出がたくさんあった。楽しいこと、面白かったこと、色々と思い出が蘇ってくる。 泣いたこともあった。辛かったこともたくさんあった。「私、爽太さんのことずっと大好きですから。……離れても、ずっと」「ああ、俺もだよ」 私たちのお互いを思うその気持ちは、これからもずっと変わらない。 私は爽太さんのことを愛している。この子の父親として、爽太さんは必ず帰ってきてくれると言ってくれたから。 待ってる、この子と二人で……。「そろそろ、向こうに行く準備しないとですね」「そうだな。もうそろそろ、やらないとな」「はい」 爽太さんと離れるのは、正直寂しい。本当のことを言うと、離れたくない。 ずっとずっと、一緒にいたい。「もしかしたら紅音のことを、もう少し待たせてしまうかもしれない。……けど、必ず迎えに行くから」 爽太さんからそう言われた私は「約束ですよ?……必ず、迎えに来てください」と言って爽太さんの手を握った。「ああ。 だって俺には、守らなきゃいけないものがもう一つあるからな」 それは私だけでなく、赤ちゃんもという意味だ。「だって私たちの赤ちゃん、ですからね」 大切な大切な、私たちの宝物。この子を守るためにも、私は爽太さんの分まで頑張らないといけない。 この子の成長を見届けて、爽太さんとまた再会した時、笑顔でまた会いたいから……。「帰ってきたら、二人を思いっきり抱きしめたいよ」「……はい。抱きしめて、あげてください」 私たちは、またさらに家族になるんだから。またこうして再会した日から、みんなで家族になるんだから……。「紅音、俺はこれからも、君のことを……。いや、君たちのことを大事にする。今度はこんな風に離れたりしないと約束する」 爽太さんの言葉は、私を強くしてくれる。心の奥まで、温かくしてくれる。「……約束、ですからね」 今度もし離れるようなことがあった時には、私はどうしようもなく、泣いてしまうかもしれないな。「紅音、俺の結婚指輪……持っててくれないか?」「え? でも、いいんですか?」「ああ。持っててほしいんだ、紅音に」 爽太さん
それからというもの、徐々にカウントダウンだけが進んでいった。 確実にその日は、やって来ようとしている。 以前よりもお腹は大きくなっていき、本当に妊娠しているのだという自覚が出てきた。 最近はよく、赤ちゃんがちょっとだけど、お腹の中で動くようになってきた。 その度に赤ちゃんがちゃんと生きてるんだって感じて、なんだか嬉しくなる。私たちの赤ちゃんは、こんなにも元気なんだって感じる。「紅音、お腹……触ってていいか?」「いいですよ」 最近の爽太さんは、よくこうして大きくなってきたお腹を触るのが日課になっている。 そして赤ちゃんに話しかけながら、嬉しそうな表情をしているんだ。「お、赤ちゃん今、動いたな」「動きました?」「ああ、動いた。……すげえ、嬉しいもんだな」 爽太さんは幸せそうに笑みを浮かべながら、そう言っていた。「爽太さんもすっかり、父親の顔になってきましたね」 と言うと、爽太さんは「だって俺、この子の父親だからな」と言っていた。「確かに、そうですね」 爽太さんが父親というだけで、この子はきっと幸せだ。……爽太さんは離れていても、私しとこの子のことを一番に思ってる。 そう言ってくれたから、信じることが出来る。「俺はこの子のために、いい父親になりたいって思ってる」 爽太さんは突然、そんなことを言ってきた。「……大丈夫ですよ、爽太さんならなれます」 私は爽太さんの言葉に、そう返した。「そう思うか?」「はい。……だってこの子の父親に相応しいのは、あなたしかいないんですよ?」 あなただけが私の夫であり、家族になる人なんだから……。 この子の父親として、爽太さんはきっと私たちを幸せにしてくれると信じてる。「そうだな……。俺はこの子の父親、だもんな」「そうですよ。この子もパパが爽太さんだと分かって、きっと喜んでくれてると思いますよ?」 あなたの父親は、とても優しくて心の温かい人なんだって……ちゃんと伝えたい。「そうだといいな。……俺もたくさん、愛してやりたい。紅音のことも、この子のことも。世界一幸せにしてやりたい」「それは嬉しいです。 きっとこの子も、嬉しいと思います」 お腹に手を当て優しく撫でながら、こうやって微笑み合うのももう少しか……。 この一瞬を、この瞬間を、大切にしていかなきゃって思う。爽太さんとは一年間、
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