Share

89. 終便

Author: Mr.Z
last update Last Updated: 2025-07-03 20:05:11

 すぐに座ると、アナウンスが響いた。

『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。この飛行機はNJA航空、"新崎ユキ様の死因確認"行き、00X便でございます。当機が離陸するには、"操縦席にての操作が必要"となります』

 え、操作!?

 どういう事!?

 "操縦席で操作が必要"ってなに!?

「⋯⋯くそッ! っざけやがって! ユキ、前行くぞッ!」

「うん!」

 【02:30】、【02:29】、【02:28】、私たち間に合うの!?

 タイムリミットが足を強張らせる。

「きゃぁッ!!」

 焦ってこけそうになった時、ルイが私の全身をキャッチした。

「ごめ⋯⋯! 足がつって! ⋯⋯置いてっていいから!」

 なんでこんな時に⋯⋯早く治ってよ、私の足ッ!

 【02:00】、【01:59】、【01:58】、私たちを貪るかのように、カウントダウンは進み続ける。

 いや⋯⋯こんなところで⋯⋯消えたくない!

「⋯⋯ッ! 今は文句言うなよッ⋯⋯!!」

「えっ!?」

 私の太ももと背中を抱え、彼は走り出した。

 絶対見捨てた方がいいのに、それでも二人で行こうとしてくれている。正直、ピンクのショーツ丸見えだと思うけど、そんなの今はどうでもいい。というか、ルイだったら別に幾ら見られても⋯⋯って、こんな時に何考えてるんだろ、私。

「⋯⋯ごめんね、いつも迷惑かけて」

「何言ってやがんだ、俺を蘇らせてくれただろ」

「それは⋯⋯それだから」

「んな事より! "秋葉駅の時"と! 同じだなッ!」

 彼は少し息を切らしながら、そう発した。その顔は少し、笑っているようにも見えた。

 この"新経済対策の洗礼"を受けた最初の日。初めてネルトに遭遇した私は、足をつって動けなかった。置いて行ってって言ったのに、それでも彼は私を抱えて、電車の3階へと飛び乗った。

 あの時の彼の顔、ずっと覚えてる。そっか、やっぱルイはルイなんだ。

「⋯⋯変わらないね」

「まぁ結局! イーリスマザーだのなんだの! 変わんねぇよッ! 俺はッ!」

 なんか安心した。あのルイも変わらないんだって事に。もし他の人が"イーリス・マザー構想の成功者"だったら、彼のようにいられるだろうか?

 自分の力を振りかざし、好き放題しているの違いない。ホテルで私とヒナが襲われた時だって
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • フォールン・イノベーション -2030-   90. 紫界

     ボタンを押した先、終便で私たちが見たもの。それは⋯⋯ ― あのAI総理の姿だった 場所は、ここは国会議事堂じゃ無い⋯⋯? 突如、総理の背中から"羽?"が生えた。左には白い日本列島、右には黒い日本列島の形をした、見た事も無い羽らしきもの。それだけで全身に悪寒が伝った。 そう感じた時、"あっちの世界の私"に異変が起こった。急に体内から血が噴き出し、倒れてしまった。何が起こっているのか全く分からないまま、その様子を見る事しか出来ない。 倒れた私を"あっちの彼"が抱えると、なんと私の身体が総理の中へと取り込まれていった。取り込まれる直前、あの私が何か言ったように見える。 そして、一人になった彼が"2つの銃剣"を取り出し、総理へと立ち向かっていく。左手に持っているアレは、前にルイが使っていた"虚無限蝶の銃剣"⋯⋯? 意味不明な事柄だけが揃い、また眩い光に包まれた。明けた先、目の前に広がった光景は―「ここ⋯⋯渋谷⋯⋯よね?」「⋯⋯渋谷サクラステージか?」 夜の渋谷サクラステージが広がっていた。数回しか来た事ないけど、位置関係はなんとなく分かる。「テラスの場所ね、ここ」 二人歩き、辺りを散策する。誰一人いない渋谷の夜、"紫に光る夜景"だけが目に入る。「俺があの時見た夜景と全く同じだ」「それじゃ、やっぱりここが⋯⋯」 閑散とした中、渋谷ストリームへと続いた通路を歩いて行く。目指しているのは、渋谷スクランブルスクエア屋上、渋谷スカイ。彼が言うに、あの場所に未来ルイがいるという。「さっき見た"ユキの死因"、訳分からなかったな」「ね。何が何やら」「総理とやり合うとこまで分かったってのに、"あいつ"はもう、対処法を教えてくれないんだよな」「うん⋯⋯」 未来ルイはもういない。もう何も教えてもらう事はできない。この、彼のズノウが作り出した渋谷世界に、私たちは閉じ込められたまま。 なんだろう、この感覚。現実感の無い、フワフワした感じ。まるで山登りを続けているみたい。あまり長居はできなそう。でも今は、耐えなきゃ。「ん? あれ、誰かいないか?」 確かに、奥に誰か一人立っている。長い黒髪、ニットワンピっぽい服、黒のロングブーツ⋯⋯女性? 向こうから近付いてきた。敵⋯⋯じゃないよね?『待ってた、二人を』 少し遠くから、その女性は話しかけてきた。待っ

  • フォールン・イノベーション -2030-   89. 終便

     すぐに座ると、アナウンスが響いた。『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。この飛行機はNJA航空、"新崎ユキ様の死因確認"行き、00X便でございます。当機が離陸するには、"操縦席にての操作が必要"となります』 え、操作!? どういう事!? "操縦席で操作が必要"ってなに!?「⋯⋯くそッ! っざけやがって! ユキ、前行くぞッ!」「うん!」 【02:30】、【02:29】、【02:28】、私たち間に合うの!? タイムリミットが足を強張らせる。「きゃぁッ!!」 焦ってこけそうになった時、ルイが私の全身をキャッチした。「ごめ⋯⋯! 足がつって! ⋯⋯置いてっていいから!」 なんでこんな時に⋯⋯早く治ってよ、私の足ッ! 【02:00】、【01:59】、【01:58】、私たちを貪るかのように、カウントダウンは進み続ける。 いや⋯⋯こんなところで⋯⋯消えたくない!「⋯⋯ッ! 今は文句言うなよッ⋯⋯!!」「えっ!?」 私の太ももと背中を抱え、彼は走り出した。 絶対見捨てた方がいいのに、それでも二人で行こうとしてくれている。正直、ピンクのショーツ丸見えだと思うけど、そんなの今はどうでもいい。というか、ルイだったら別に幾ら見られても⋯⋯って、こんな時に何考えてるんだろ、私。「⋯⋯ごめんね、いつも迷惑かけて」「何言ってやがんだ、俺を蘇らせてくれただろ」「それは⋯⋯それだから」「んな事より! "秋葉駅の時"と! 同じだなッ!」 彼は少し息を切らしながら、そう発した。その顔は少し、笑っているようにも見えた。 この"新経済対策の洗礼"を受けた最初の日。初めてネルトに遭遇した私は、足をつって動けなかった。置いて行ってって言ったのに、それでも彼は私を抱えて、電車の3階へと飛び乗った。 あの時の彼の顔、ずっと覚えてる。そっか、やっぱルイはルイなんだ。「⋯⋯変わらないね」「まぁ結局! イーリスマザーだのなんだの! 変わんねぇよッ! 俺はッ!」 なんか安心した。あのルイも変わらないんだって事に。もし他の人が"イーリス・マザー構想の成功者"だったら、彼のようにいられるだろうか? 自分の力を振りかざし、好き放題しているの違いない。ホテルで私とヒナが襲われた時だって

  • フォールン・イノベーション -2030-   88. 赤陽

     佐野大臣に使った≪灰涅槃の楽園≫は1日1回しか使えないらしく、他で何とかしないといけない。 だったら、至近距離でぶつかるべき⋯⋯! 私の鎌と赤ヒナの槍が衝突し、鈍い音が強烈に響く。適当にズノウは使えない、≪天魔神の超反撃≫でとてつもないカウンターを食らう可能性がある上、遠距離攻撃は≪天魔神の超重力≫で無効化される。 あなたはフィジカルはそれほど強くなかった。補うために、少し離れたところからいつも戦ってる。つまり、この距離の物理戦にそれほど慣れてないはず。 私は散々ルイとシンヤ君に鍛えられてきた。 高校の時、あの二人に置いて行かれないよう、どれだけ一緒にトレーニングしたか。圧倒的な速さを前に、私は自分の限界を気にしてばっかりで⋯⋯ ルイには追い付けないとしても、せめて、せめてシンヤ君の背中は捉えていようって。だけど、その見える背中はあまりに小さい。米粒ほどの大きさが見えていればラッキーくらいで、それはきっと私が調子良い時。 その調子の良さをたった今感じてる、ルイが戻って来てくれたおかげで。好きな人が傍にいるってだけで、全てが良くなっていく。 あなたに見せてあげる、それがどれだけの事なのかを⋯⋯! 槍をはじき返すと、彼女はズノウを使ったのか、上から"数えきれないほどの白と黒の槍"が降ってきた。「⋯⋯まだ知らないみたいね、私の事」 降る白黒の槍は一瞬にして、"灰色蝶の銀河空間"へと吸い込まれていく。ハイネハンノズノウの一つの≪灰空の天の川≫は、吸い込んだそれらを"灰色の閃光槍"へとアップデートし、彼女へと降り返した。 しかし、それをまた彼女は超反撃によって返そうとしてくる。その繰り返しが空中で行われる中、また私と赤いヒナが零距離で睨み合った。鎌と槍の擦れる音が、タイムリミットを焦らせる。 【04:30】、【04:29】、【04:28】。「いい加減に⋯⋯しなさいッ!!」「⋯⋯」 彼女は諦めてくれない、槍の姿を黒く変えて。まるでこの光景が、"いつか彼を取り合う日が来る"、そんな風にも感じた。だったらより負ける訳にはいかない。 ここは恋の戦場。この土俵から落ちれば、大好きな彼の全てを奪われる。そう思い込むと、想像以上の馬鹿力が湧き上がって来た気がした。 毎日彼の声を聴きたくて。 毎日彼の顔を見たくて。 毎日彼の生活の一部になっていたく

  • フォールン・イノベーション -2030-   87. 中間

     他に方法は無いのかな。未来ルイを助ける、他の方法は。走り続ける中、ルイと考え続けた。 でも、今の私たちに出来る事は無い。ただ今を生きるのに精一杯なままで⋯⋯「あいつと俺は枝の分かれ目で繋がってる。だから分かる、あいつは簡単に消えたりしない」「うん⋯⋯」 話し合っていると、最後の出発ロビー前へと辿り着いた。私の立ち絵が用意されている。水色のパーカー、水色のプリーツミニスカート、白のショートブーツ、左に纏めた長髪、今の私の格好まんまだ。 ここに私の死因が⋯⋯ ⋯⋯ん、なに? 私の横を"半透明の何か"が通り過ぎていく。 灰色の⋯⋯蝶⋯⋯? それは誘うように、ロビー内へと入って行った。私とルイは顔を合わせ、中へと入る。そこには、灰色蝶が何匹も上で漂っていた。 さらに目線を上にすると、天井には大きな赤字で"新崎ユキの死"。壁際には、立体プロジェクションマッピングで私の紹介PV。 「ユキのはこんな感じか」「⋯⋯あんま見なくていいから」 すると、一匹の蝶がゆっくりと上から降りてきた。 この蝶だけ、他と違う⋯⋯?「付いて行ってみましょ」 先導するように進む"光った灰色蝶"、身体からは"残像のような灰粒子"を発している。 これ、私の"灰涅槃の鬼鎌"から出る粒子と同じ⋯⋯? 付いて行った先、"灰色のリフト?"がぽつりとあった。その上で蝶が舞っている。 ⋯⋯それに乗れって事?「行くしかないな」「みたいね」 乗った瞬間、リフトは下へと降り始めると同時に、目の前に【07:00】という謎の時間が表示された。「⋯⋯なにこれ?」 【06:59】【06:58】【06:57】と時間が減っていっている、何が始まったの⋯⋯?「ユキ! 上見ろッ!」「え!?」 上を向くと、なんと上の方が少しずつ砂のように消えていっていた。 まさかこのタイムリミット⋯⋯この世界の終わりってこと!? リフトが搭乗ロビーへと着く頃、"YUKI's LOST GATE"を直線先に見つけた。「走るぞッ!」 【06:30】【06:29】【06:28】、時間が刻々と過ぎていく。搭乗橋を駆け抜けると、中間地点の広い空間へと出た。 そこには⋯⋯「!? なんでヒナ、ノノ、アスタ君が!?」「⋯⋯どうなってやがる」『(たぶん⋯⋯これが最後の話に⋯⋯なる)』 これ、未来ルイの

  • フォールン・イノベーション -2030-   86. 四便

    「とうとうアスタか。あいつが死ぬなんてありえるのか?」「⋯⋯一番想像できないわね」 第四の出発ロビー。 先に入ると、「きゃぁっ!?」「なんだ!?」 こんなのビビるに決まってるでしょ!? 薄暗いロビーの中心に"巨大な黒能面"が飾られてあって、大声を上げてしまった。「んだこりゃ、アスタが付けてるからか?」「もう、こんなの置かないでよ⋯⋯」「まぁでも、なんかしてくる訳じゃなさそうだな」 ぐるっと黒能面の周りを回ってみると、裏側に"白石アスタの死"と赤字で書かれていた。 こんなとこに書くなんて、まるで"これのせい"って言ってるみたいじゃない⋯⋯? 壁には、やっぱり謎の紹介PV。だけど、ここではニイナとカイ君までも映っている。 黒能面の背後に続く通路を行くと、"青い霧?"が流れてきた。「この青い霧の中に、エスカレーターがあるっぽいな」 ルイの指差す上の方、微かに見えたエスカレーターの一部が露出している。 その他はどうなってるか、霧が濃くて分からない。「行くしかねぇよな。待ってても時間が来ちまう」「そうね⋯⋯」 勇気を出して、青い霧の中へと一歩踏み入れる。人体への影響は⋯⋯特に無さそう。 エスカレーターはというと、案外すぐ近くだった。足を乗せた瞬間、青く光って動き出し、身体は勝手に上っていく。 そこからは、いつもの搭乗ロビーへと繋がっていた。"ASUTA's LOST GATE"の文字が記されたゲート。「はい」 私はそっとルイへ手を差し出す。彼は何も言わず、私の左手を取ってしっかりと握る。 ここまで来たら、最後までしてもらわないとね。もしかしたら私、この時間を楽しみに今頑張ってるのかもしれない。 ここの搭乗橋にも、また"青い霧"が漂っていた。でももう、恐れたりなんてしない。私たちがみんなを助けなきゃいけないんだから。「なんか、強くなったな」「そう?」「さっきと違う、ずっと前を向いてる」「慣れたからかもね」 あなたがいるから、なんて言ったらどんな顔するかな。それは現実に帰ってからに取っておく。 機内は変化なく、相変わらず全席スーパーファーストクラス。だけど一席、青色に光る席があった。「合わせて青にしてみるか」「いいんじゃない?」 座ると、アナウンスが流れ始める。『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)

  • フォールン・イノベーション -2030-   85. 三便

     2階へ降りると、雰囲気が全く違った。  一定間隔で"地面が波打っている?"ようで、私たちの足元だけはなぜか波に飲まれない不思議な場所。 「この流れてくる"黒い波"、なんだろう⋯⋯」 「身体に影響は無さそうだし、一旦放っとくぞ」  私たちは、近くにある"ノノの便"から向かった。 「なぁ、ノノって⋯⋯昔よく遊んでた"あのノノ"だよな?」 「気付いた?」 「大きくなっても、目元に面影が残ってるというか」 「なんだ、薄っすら気付いてたのね」  歩いていると、ノノの立ち絵が見えてきた。どの出発ロビーにも、手前に各々の立ち絵が浮かんでおり、それを目印に私たちは進んでいる。  第三の出発ロビー。  そこでは、流れる波の面に"三船ノノの死"と赤字で書かれている。黒い波が赤字をより強調させ、壁には相変わらず謎の紹介PVが流れている。 「⋯⋯ちょっと変えてきやがったな」 「全部同じではないのね」  さらに奥へ行くと、螺旋状のエスカレーターが待っていた。  この上に搭乗ロビーがあるって事⋯⋯?  エスカレーターに足を乗せた瞬間、黒白に光り始め、上へと動き始めた。  着いた搭乗ロビーは3階の時と特に変わらず、"NONO's LOST GATE"があった。 「ここは⋯⋯さすがにもういいか」  彼が小さくそう呟き、手を引っ込める。もう手を繋がなくてもいい、それの表れだった。だけど、私は無理やり手を取った。 「やだ、これで行こ」 「お、おい」 「この後も同じとは限らないでしょ、ほら」  今度は私が前を行く。芯まで握って、離さないようにして。  ここの搭乗橋の中にまで、黒い波が蠢いていた。まるで私たちを吸い込むかのように。怖く感じて足が止まった時、彼がそっと前に出た。 「大丈夫だ、行こう」 「⋯⋯うん」  私を連れて歩き始める。その背中を見るだけで、恐れが飛んでいくのが分かる。  機内も3階の時と変わりなく、全席がスーパーファーストクラス。気分転換に前の席へ座ろうという彼の提案があり、違う場所へと座ってみる事にした。 「俺たちだって、変えてみた方がいいかもしれないしな」 「それ、ルイのやり方って感じする」 「どんな感想だよ」 「ふふっ」 『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status