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第716話

Author: アキラ
落梅院の戸を押し開けると、目に飛び込んできたのは数本の太い梅の木だった。

今はまだ初秋で、梅の木はまだ花を咲かせていないが、梅の木の間に植えられた他の植物、桃や百日紅などが、落梅院を年中花の香りで満たし、生き生きとした雰囲気にしていた。

そして今、まさに芙蓉が満開の季節だった。

その大輪で色鮮やかな花々が咲き誇り、この落梅院にまた異なる風情を添えていた。

最後に落梅院に来たのは、いつだっただろうか?

喬念は思いを巡らせた。

ええと、それは彼女が剣を持って林鳶を傷つけに来た時のことだろう。

あの時、祖母上の仇を討つことだけを考えて、林鳶を見つけることしか頭になかった。この幼い頃から育られた場所をじっくり見ることができなかった。

今となっては、ようやくじっくりと見ることができる。

だが庭の塀際の石像は鉢植えに変わり、庭の東側の鞦韆もなくなっていた。代わりに小さな小屋が建てられていた。

おそらく、林鳶が建たせたのだろう!

この落梅院は、結局、彼女の記憶の中のあの場所とはもう違っていた。

「奥方様、お気をつけあそばせ!」そう遠くないところで、驚きの声が響いた。

喬念が声のする方へ目をやると、一人の女中が林夫人の後ろを、恐る恐るといった様子でついて行くのが見えた。

一方、林夫人は手の中に何かを抱えているのか、嬉々とした表情で外へと歩み出ていた。「早く、早くお行き。もうすぐ念々が帰ってくるわ!」

「あら、奥方様、お気をつけあそばせ!お足元がおぼつきませぬぞ!」女中は後ろについて歩いていたが、おそらく年を取っていて足腰が不自由なのだろう。明らかに林夫人の足取りについていけていなかった。

そして林夫人は後ろの女中のことなど全く気にせず、ひたすら前へ走った。あっという間に喬念の目の前まで走ってきた。

そして、ぴたりと足を止めた。

「そなた......」

林夫人は喬念を見て、顔に戸惑いの表情を浮かべた。

明らかに、彼女はまだ喬念を認識していなかった。

喬念はそれを見て、口元を歪めて笑い、礼をした。「奥様にお目にかかります。わたくしは老夫人のご親戚の者でございます」

それを聞いて、林夫人はそこで何か思い出したかのように、「ああ、そなた!そなたはうちの姑に会いに来たの?それなら道を間違えたわ!ここはあの方のお屋敷ではないの。ここはわたくしの娘の住
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