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6-7 京極と二階堂 1

last update Last Updated: 2025-05-22 18:50:49

「こちらが住まいになります」

億ションに案内された二階堂は建物を見上げた。

「へえ〜さすが鳴海だな。六本木に億ションとはね」

「二階堂さんはどちらにお住まいなんですか?」

「俺は赤坂に住んでるよ」

「赤坂ですか? それでも十分凄いですよ」

朱莉は感嘆の溜息を洩らした。

「どうかな? 俺は独身だからマンションだって1LDKだけどね。まあロフトはついているけれども……」

そんな会話をしながら2人でエントランスに入った時、二階堂はカフェの存在に気が付いた。

「へえ〜カフェがあるのか……いいね。朱莉さんはここのカフェは利用したことあるのかい?」

「いえ、私はまだ一度もありません」

「そうか。ここならエントランスの様子も良く見えるし、待ち合わせ場所には……」

そこで二階堂の動きが止まった。

「? どうしたのですか? 二階堂さん?」

「……」

しかし二階堂は朱莉の質問には答えずに、ゆっくりと大きな観葉植物に近付いた。

「二階堂さん……?」

二階堂は観葉植物の葉の隙間から小さな小型カメラを取り出した。

「! カメラ……!」

朱莉は思わず両手で口を塞いだ。二階堂はカメラの電源を切ってハンカチで包み、ポケットに入れた。

「ふ〜ん……なかなかやるな。この観葉植物はカポックと言って、ある程度成長すると、ほとんど水やりが不要になる植物なんだ。……このカメラを仕掛けた犯人は恐らくそのことを知っていてカメラを仕込んでいたんだろうな? コンシェルジュがあまり水やりをしない観葉植物に仕掛けたのか……」

「あ、あの……そのカメラ、どうするんですか?」

朱莉は震えながら質問した。

「いや、どうもしない。俺が持ってるよ」

「警察に届けないんですか?」

朱莉は不安げに二階堂を見上げた。

「ああ、届けない。こっちにも色々考えがあるからね」

二階堂の言葉に朱莉はますます不安になってきた。

「あ、あの……二階堂さんは社長さんでいらっしゃいますから、あまり危険な真似はなさらない方が……」

するとそれを聞いた二階堂が笑みを浮かべた。

「嬉しいね。朱莉さん。俺のことをそれ程心配してくれるのかな?」

「え? えっと、それは……」

その時――

「何をしているんですか?」

エントランスに現れたのは京極だった。彼は険しい顔で二階堂を見ている。

「きょ……京極……さん……」

朱莉の身体に緊張が走った。

「朱莉さん、こんばんは
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-12 明日香からの便り 2

    予想通りの答えに二階堂は頷く。「やっぱりそうなるか?」「ええ、いくら秘書といえど私がお世話をするのは仕事のことのみです。プライベートなことまで関わらせるのは契約違反です。余程個人的理由が無い限り、まずありえない話ですね」「そうだよな……確かに……」二階堂はポツリと呟いた。「あの? 社長……ご用件はもうお済みでしょうか?」向井が尋ねてきた。「ああ、もう大丈夫だ。引き留めて悪かったな。下がっていいぞ」「はい、失礼いたします」向井は丁寧に頭を下げると、社長室を後にした。二階堂は1人になると呟いた。「姫宮静香か……」二階堂は姫宮がバレンタインの日に翔と女性記者のインタビューをセッティングしたことを聞かされた時から怪しいと考えていた。おまけにこの間翔の家でワインを飲んだ時に、朱莉と翔が昼休みに式典に来ていく服を買いに行った際、姫宮が子供を預かってくれたと言う話まで出た時には正直驚いた。「幾ら秘書とはいえ、踏み込みすぎている。式典で会ったことはあるが必要以上に朱莉さんと親しげだったし……一度話を聞いてみた方が良さそうだな……」そして二階堂は向井が持って来た資料に目を通し始めた——**** その頃、朱莉は蓮を膝の上に乗せて絵本の読み聞かせをしていた。蓮が5カ月を迎えてからは毎日読み聞かせをするようになったのだ。絵本の読み聞かせをしながら朱莉は蓮の様子を伺った。大きな動物の絵が描かれた絵本を蓮は食い入るように見ている。「アーアー」蓮は犬の絵を見てパシパシ叩いている。(この頃の赤ちゃんて……目はもうはっきり見えているのかな? そうだ、4月になったらレンちゃんを連れて動物園に遊びに行ってみようかな……)朱莉はそのことを考えると今から楽しくなってきた。その時、突然インターホンが鳴り響いた。「あら? レンちゃん。誰かなあ?」朱莉は蓮を抱きかかえたままいそいそと玄関へ向かい、モニターを確認すると宅配業者だった。『鳴海朱莉様ですか?』「はい、そうです」『お荷物をお届けに参りました』「今開けますね」朱莉はボタンを操作して、自動ドアを開けた。「レンちゃん。荷物だって……何かなあ?」朱莉は蓮を抱っこしたまま玄関で待っていると、程なくして再びインターホンが鳴った。ドアを開けると大きめの茶封筒らしき小包を抱えた宅配業者が立っていた。朱莉はお届け用

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-11 明日香からの便り 1

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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   6-10 二階堂の考え 2

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