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第6話・忍び寄るもの その7

作者: さぶれ
last update 最終更新日: 2025-05-05 23:00:32

「あのね、玄さん」

「ん?」

 玄さんが優しい眼差しを向けてくれた。反社ですか、って聞いてみたい。けど――

「焼き鳥食べてる? おいしいでしょ」

「ああ、すごくうまい。眞子はいろんな店を知っているな。また教えてくれ」

 絶品つくねを頬張る姿も絵になる。そんな彼に、どうしても聞けない。踏み込めない。

 焼き鳥がおいしいなんて、どうでもいい話をしたいわけじゃないのに。

「眞子さ」

「なに?」

「盆休みって暇?」

「あ、うん。暇だよ。幼稚園休みだし」

「俺も休み取れそうだから、デートしない?」

「えっ。したい!」

「どこ行きたい?」

「じゃあ、玄さんといっぱいお喋りしたいから、ドライブデートがいいなぁ」

「海でも見に行くか」

「それもいいけど、よかったらキャンプしてみる? 楽しいよ」

「えっ。テントで寝るの?」

「うん。そうなの。それが意外に楽しくて、ハマっちゃうんだけれど…玄さんは寝袋なんかで寝ないよね?」

「寝たことは無い。でも、やってみたい」

「じゃあ、とっておきの場所でデイキャンプして、一泊キャンプは秋の涼しくなった時にやろうよ。お店は大丈夫? お盆休みだったら定休日は関係ない? 定休日が都合いいなら、合わせるよ」

「定休日は無いんだ。年中無休」

 年中無休?

 ますます業種がわからない。お子様も利用するって…もうファミレスしか無いよ!

 でも、昨今のファミリーレストランは、元旦は休みだったりするところもあるし、もう、謎すぎる!!

 焼き鳥やでそんな会話を交わし、さらに日にちは過ぎ、お盆休みに入った。玄さんとデイキャンプに行く約束をしていたので、私ははりきって準備をした。

 普段はソロキャンプばかりなので、持っている道具だけでは椅子が一脚しかなかったり、テーブルが小さかったり、足りないものが多く感じた。

 玄さんにも楽しんで欲しくて、キャンプ専門店に行ったり通販を利用し、今日を楽しめるように用
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     周りが綺麗になった頃に丁度炭の火加減がいい感じになる。  予め野菜や肉等の材料は食べやすく切ってきたので、専用グリルの上に網を置いて焼けるまでに時間のかかる食材から並べていく。「手馴れているな。いつからキャンプをやっているんだ?」「昔、高校生の時にクラブでサマーキャンプに参加してからかな。大勢でやったキャンプがとっても楽しくて。一人でも、大勢でも、どっちでも楽しめるからキャンプにハマっちゃったの。だからこの前のお泊り保育、本当は大自然のキャンプをやりたかったんだけれど、園児たちをテントに寝かせるっていうのは、ちょっと厳しいから断念したんだ。でも、いつかやってみたいな」「今、貸しバンガローとか沢山あるから、テントが厳しければそういう施設を貸し切ってやればできるんじゃないの?」「あ、そうだね! テントに拘って考えていたけれど、そっか、そういう手もあるね! よし、来年やってみよう」「グランピングなんか流行っているから楽しいかもな」「ホントだね。やりたいなぁ。でも、グランピングは高いから、予算が…」「そうか。園行事にするにはグランピングは高額か」「だったら、安く借りられる所を探してみようかな」「いいんじゃないか。来年のお泊り保育は楽しそうだ」 玄さんのアドバイスのお陰でアイディアがむくむくと膨らんだ。でも私、来年まで頑張れるのかな。なにかあるごとに羽鳥さんを思い出しては憂鬱になってしまう。正直辛い。 「玄さんはお仕事で嫌なことがあったらどうしているの?」 憂鬱気分が抜けない。玄さんはどうしているのか気になったので聞いてみた。「今のでモンペを思い出したのか?」 急にお仕事の話を振ってしまったからか、玄さんに胸の内を当てられた。こういう所、観察眼が鋭いな、って思う。「わかる? 園の事を考えると、どうしてもモンペのことがセットでくっついてきちゃう。もう、ホントいや」「それだけのことをされたら辛いよな。でも、この前はしっかり言い返せたし、嫌がらせの手紙も証拠を押さえて排除すればいい。眞子が気に病む必要はない」

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      「あのね、玄さん」「ん?」 玄さんが優しい眼差しを向けてくれた。反社ですか、って聞いてみたい。けど――「焼き鳥食べてる? おいしいでしょ」「ああ、すごくうまい。眞子はいろんな店を知っているな。また教えてくれ」 絶品つくねを頬張る姿も絵になる。そんな彼に、どうしても聞けない。踏み込めない。  焼き鳥がおいしいなんて、どうでもいい話をしたいわけじゃないのに。「眞子さ」「なに?」「盆休みって暇?」「あ、うん。暇だよ。幼稚園休みだし」「俺も休み取れそうだから、デートしない?」「えっ。したい!」「どこ行きたい?」「じゃあ、玄さんといっぱいお喋りしたいから、ドライブデートがいいなぁ」「海でも見に行くか」「それもいいけど、よかったらキャンプしてみる? 楽しいよ」「えっ。テントで寝るの?」「うん。そうなの。それが意外に楽しくて、ハマっちゃうんだけれど…玄さんは寝袋なんかで寝ないよね?」「寝たことは無い。でも、やってみたい」「じゃあ、とっておきの場所でデイキャンプして、一泊キャンプは秋の涼しくなった時にやろうよ。お店は大丈夫? お盆休みだったら定休日は関係ない? 定休日が都合いいなら、合わせるよ」「定休日は無いんだ。年中無休」 年中無休?  ますます業種がわからない。お子様も利用するって…もうファミレスしか無いよ!  でも、昨今のファミリーレストランは、元旦は休みだったりするところもあるし、もう、謎すぎる!! 焼き鳥やでそんな会話を交わし、さらに日にちは過ぎ、お盆休みに入った。玄さんとデイキャンプに行く約束をしていたので、私ははりきって準備をした。  普段はソロキャンプばかりなので、持っている道具だけでは椅子が一脚しかなかったり、テーブルが小さかったり、足りないものが多く感じた。  玄さんにも楽しんで欲しくて、キャンプ専門店に行ったり通販を利用し、今日を楽しめるように用

  • 婚活アプリで始まる危険な恋 ~シンデレラは謎深き王に溺愛される~   第6話・忍び寄るもの その6

     「これ以上すると止められなくなるから帰るな」 もっと欲しいとか、はしたない事を危うく口走る前に玄さんの方から退陣してくれた。「なにかあったらすぐ連絡して」「うん、ありがとう」「俺があげた防犯ブザー持ってる?」「ちゃんとあるよ。肌身離さず持ち歩いてる」「良かった。あと、前言撤回。それ、俺には使わないでくれると嬉しい」「ふふっ。使わないよ」 玄さんに触れられるのは全然嫌じゃないから。 これってもう、付き合ってもいいって思っている証拠だよね? でも、彼の事はもう少し知っておきたい。せめて反社でないかどうかだけでも。「じゃあ、また」 彼の車から降りて手を振った。エンジン音が遠ざかっていく。 玄さん。 どうして何も教えてくれないの? アプリで出会った素性の解らない人って、みんなこんなもの? もっと教えて欲しい。貴方のこと。  深入りしすぎて、戻れなくなる前に。玄さんのことをもっと知りたいよ―― ※ 翌日以降、園に投函される手紙に変化が起きた。白い封筒だった投函物だったのに、封筒には入れられずに直接白いハガキに書かれたメッセージが複数投函されるようになった。しかも内容は相当攻撃的なもの。『男を複数誑(たぶら)かせる魔性の女』や『淫乱教員を辞めさせろ』を筆頭に、数々の誹謗中傷が増えた。 私の名前こそ書いていなかったが、私のことを指している内容で間違いない。 それで確信した。 あおいさんだと思っていた攻撃は、羽鳥さんだったんだ。 あの問題――お迎え事件があって以降、酷い投函内容に切り替わった。数日後園でも会議があり、羽鳥さんと言い合いになった詳細を再度報告した。 事なかれ主義の園長も流石に大事と捕らえたのか、なにかしらの対策を投じると約

  • 婚活アプリで始まる危険な恋 ~シンデレラは謎深き王に溺愛される~   第6話・忍び寄るもの その5

     思わず駆け寄り声を掛けた。「あの…どうしてここに……?」「眞子が心配だったから」 目の前にいたのは玄さんだった。「四時ごろには家に帰れると思うって言っていたのに、連絡がないから心配でさ。自宅の方にも行かせてもらったけれど帰っている気配無いし、もしかしたら園で何かトラブルでもあったのかと思ったら、気が付いたらここに来てた」 玄さんには、さくら幼稚園に勤務しているという事は伝えてある。だから様子を見に来てくれたんだ…。「ついさっき着いた所だったんだけれど、眞子と入れ違いにならなくて良かった」 そう言って玄さんが微笑んだ。それだけで、胸が高鳴ってしまう。  イケメンの笑顔は罪だよね。「玄さん、心配してくれてありがとう。すごく嬉しい」 素直な気持ちを伝えた。このくらい、いいよね?「車で来たから家まで送るよ」「いいの? ありがとう」 近隣の駐車場まで歩き、料金支払いはICカード。車の車種にはあまり詳しくない私でも知っているような、海外の高級メーカーの車に玄さんは乗っている。どうぞ、とスマートに助手席を開けてくれた。 本当にこの人、何者なのだろう。富豪? ますますわからない。どうして私みたいな庶民に良くしてくれるのだろうか。  本当に謎。 理世ちゃんの言う通り玄さんの年収は五百万円以下ではなさそうだ。乗っている車が年収をはるかに超えている。 都内飲食店経営はそんなに儲かるものなの?  だったらお店が暇だっていうのはどういうこと? お店が暇な時間にアプリをやって私と繋がって時間つぶししていたのに。 彼には一体どんな秘密があるのだろう。とても気になった。「す、すごい車だね。初めて乗ったよ」 シートはふかふかで内装も凝っていてお洒落だ。「そう」「あの…玄さん。聞いてもいい?」「なに?」「どうしてこんな高級車に乗っているの? 一体、どうやって買ったの?」 玄さんは私の言葉を聞いて、瞳に嫌悪の光を滲ませた。あ…これ、聞いちゃいけなかったやつだ、と直感的に思った。「眞子はこういう車に乗る男が好き?」「ううん、そうじゃないよ。ただ…私と玄さんでは住む世界が違い過ぎる気がして。こういう車、沢山買えるなら猶更私みたいな庶民とは…」「なんだ、そんなことか。だったらその点は大丈夫。この車、俺のじゃないから」「あ…そうなの?」 それに

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