Chapter: 48 真白さんの家でお母さまと蓮司が監修のもと、花嫁修行に励んだ。30分で退席すると伝えてあったので、難なく帰る。仕事でどうしても今日中にやらなければならない事案がある、と蓮司は真顔で言っていたけれど、ほんとうはハンバーグを作るというミッションがあるだけ。 いいのかな…。 嘘はついていない。このミッションも立派な『仕事』であることに変わりはない。 でもなぁ~~~~~。「さあ、スーパーはどこがいい? 案内してくれ」「別に近所のスーパーでいいですよ」「そうなのか」「どうせなら、安いスーパーにしましょう。おいしいものが安く売っている、ギョムースーパーがいいですね」 業務・店舗用の大きなお肉や調味料が豊富に、しかも激安で売っているスーパーがある。全国展開していて、どこにでもあるものだ。「行きましょう」 店舗検索すると、車で10分ほどの距離にいちばん近くの店舗があるので、そこに行ってもらうことにする。駐車場が無いので近くで待ってもらうことにして、私と蓮司がそのスーパーに向かう。 狭い入口前から、激安品が積み上げられている。「わあ、安い♡」 目がハートになるくらい、ティッシュからキッチンペーパー、ラップ、なんでも安い!!「すごい所だな…」 蓮司は狭さと混雑具合に若干ヒいているみたい。「庶民の味方のお店ですから! さあ、買うわよ~」 カゴを持って合い挽きミンチのお得パック、玉ねぎ、食パン、牛乳、玉子、デミグラスソース、照り焼きソース、もみじおろし、ポン酢、調味料類、チーズ、バンズを買った。他にも欲しい調味料があるので、どんどんカゴに入れていく。途中で蓮司にカゴを取り上げられた。重いから持ってくれるとのこと。優しいな。 球児(元夫)なんか、カゴすら持ってくれたこと無いよ。「たくさん買うんだな」「蓮司の家は全然調味料なんかが揃っていないから、買っておかなきゃ」「それはこれからも家で飯を作ってくれるというこ
Last Updated: 2025-09-17
Chapter: 47 「今後、妻とお話になりたい場合は、こちらを通してください。暴言を吐かれて彼女は大変傷ついておりますから、連絡はこちらにお願いします」 蓮司は1枚の名刺を球児の前に置いた。 御門蓮司と書かれた社の名刺だ。「じゃあ、帰ろう」「はい」 仲良く手を繋いで歩いた。球児の苛ついた視線を背中に感じたが、無視して店を出た。「あの…蓮司、ありがとうございました」(ここではもっと仲のいい夫婦のふりをしておこう) と耳元で囁かれ、慌てて頷いた。 確かに、このまま他人行儀に戻れば、店を出た球児に見られてしまう。「まずは真白の家に行こうか。すぐ送るから。俺も行く」「えっ」「修行は30分、仕事のトラブルで退勤時間が押してしまい、到着がやや遅れると伝えてある」「ありがとうございます」「乗ってくれ」 目の前にすーっとやってきた送迎者に乗り込む。 扉が閉まり、車が発車した途端、蓮司の低い怒り声が聞こえた。「なんなんだ、アイツは…!」「すみません。元夫が失礼なことをして…」「ひかりが悪いわけじゃない。俺のひかりをあんな店先で堂々とディするなんて…絶対に許さん」――俺のひかり ん? え? 今なんて…!?「ひかり」「は、はいっ」「……そんな顔をしないでくれ」 蓮司の低く落ち着いた声が耳に落ちる。 私が驚いて彼を見ると、彼は私の方を向いて言った。「元旦那が店を飛び出し、この車を追ってくる可能性もある。だから本当に幸せそうな妻の顔をして欲しい。困った顔はナシだ」
Last Updated: 2025-09-16
Chapter: 46 「は? えっ…妻!?」 驚いて球児が後ろに視線を注いでいる。私は慌てて振り向いた。 そこには、蓮司が立っていた。来てくれたの…?「ひかり。探したぞ。今日、約束のハンバーグを作ってくれると言っていただろう」「あ、ごめんなさい。この人に呼び止められて話があると…」「こちらの方は?」 ジロリと蓮司が球児を睨んだ。「随分妻を貶める発言をされていたようですが」「なんでもありません。彼は私の離婚した夫です。お金の無心をしてきたので、断っていた所です。もう用事はすみましたから、帰りましょう」「ん、そうか。じゃあハンバーグ作ってくれる約束は有効だな?」「もちろんです。買い物行きましょう」 私は立ち上がった。蓮司が伝票を持ってくれる。「あ、代金は…」「いいよ。彼にはお金がないみたいだから、俺が払うから」 蓮司が私に笑いかける。トクン、と胸が高鳴る。今まで球児に痛めつけられ、ヒリヒリしていた胸の奥が嘘のように穏やかになった。一緒にレジへ向かおうとしたときだった。「待てよ」 球児が低い声で言った。「アンタ、誰なんだ! ひかりのこと、妻とか言ってるけど、どこの誰なんだ? この女は俺と離婚したばかりなんだぞ」 その問いに蓮司は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。「名乗るほどのものではありませんが――彼女と結婚した者です」
Last Updated: 2025-09-15
Chapter: 45「どの口が言ってるのよ……!」 怒りを抑えきれず、ぎゅっと拳を握った。私の様子を見て球児の顔色が一瞬引きつる。「浮気、借金、モラハラ、全部やらかしておいて、今さら頑張るですって? 私がどれだけ傷ついて、どれだけ泣いたか知らないでしょ? 逃げて離婚しておきながら金を貸せ? ふざけるのも大概にしなさいよ」「まあまあ。若気の至りってあるじゃん?」「それが通用するのは10代までよ! アンタなんかもう30越えじゃない!!」 この男と喋っていると頭痛がするのはなぜだろう。 そして過去の私よ、どうしてこんなクズを夫に選んでしまったのか。 後悔してもしきれない人生選択のミスよ。この代償はあまりにも大きい。「30越えなのはひかりだって一緒だろ。出会った頃は若くて綺麗だったのに…いつの間にかこんな口うるさいオバサンになってしまって…俺は悲しいよ」 このク〇男ッ!! いけない、いけない。あまりの怒りに感情が暴走しちゃうわ。「もっと従順でかわいげのある女だったのに、」
Last Updated: 2025-09-14
Chapter: 44 仕事を無事に終え、帰り支度をしていると、受付から呼び出しがあった。山川と名乗る男性の方が、中原さんにお会いしたいと言っている、とのこと。 山川ってまさか…。「よっ、ひかり!」 出た! 諸悪の根源、山川球児(やまかわきゅうじ)!「待ってたんだよ」 珍しくスーツを着ていた。いつも派手な柄シャツか、ジャージが多かったから。 目の前の男は、言わずともがな私の前の夫。 背も高くきちんとしていたら割とイケメン。だからスーツ着ているとまともに見える。 私と結婚する前までは、今みたいなきちんとした身なりだった。優しいし、話も合うし、スポーツ好きでアウトドア好き。だからいいなと思ったし、大事にしてくれるから結婚したのに…ほんと、騙された!!「なんの用? 私、これから用事あるの。アンタと話すことなんかなにもないわ」「ツレないこと言うなよ。俺とお前の仲だろ」 肩に手を回されたので、手をはたいた。「やめて! 触らないで!」「あれあれ~? いいのかな~。会社なのに大声出して~」 悪びれもなく脅してくるこの男…。会社に来たのはそのためね。私が断ったら騒ぎ立てるつもりなんだ。ホント、クズ!! 私、こんな男と結婚していたなんて、最大の選択ミスだわ。 こいつと結婚する前の過去に戻って、人生やり直したい。「ちょっと来て。カフェでも行きましょ」「いいね~オゴリだよな?」「は? 自分の分くらい自分で払いなさいよ。アンタに払うお金なんて1円でも惜しいわ」「ケチくせぇな~。昔はよく奢ってくれたじゃん」「それは“好きな人”だったからよ。今はただの“迷惑な他人”だから」 私はさっさと会社を出た。ついてきた球児がニヤ
Last Updated: 2025-09-13
Chapter: 43 「いい嫁だと思っている。頑張り屋だし、料理もうまいし」「あ…そ、そうですか。それはありがとうございます……」 なんか、思っている答えじゃなかったけど、褒めてもらえて嬉しいな…。 「それがなにか?」「いえっ、なんでもありません!! お味噌汁とご飯、入れ直しますねっ」 誤魔化すように慌ててご飯を入れ直した。「どうぞ」「ありがとう。いただきます」 小食なのかと思っていたのに、結構がっつり食べるのね。焼き魚も綺麗に食べたし、玉子焼きも気に入っているみたいだし。 「蓮司はいつもご飯はなにを食べていたのですか?」「食べないな」「今は食べているじゃないですか」「ひかりのご飯はうまいから」「そ…そうですか」「なんだどうした。さっきからおかしな質問ばかりして」「なんでもありません!! いろいろ考えていたら、聞きたくなっただけです!!」「そうか。別に隠すことはなにもないし、気になることがあれば聞いてくれ。質問は随時受け付ける」 人間味があると思ったら、急にビジネスモードになる。冷徹な部分があるのは否めない。「真白の家の修行のことだが、適当でいいぞ」「そういうわけにはいきません」「まあ、母さんがついてるから変なことはしないだろうがな。もし、おかしなことをされたら、すぐ俺に言えよ?」「大丈夫です。返り討ちにしてやります。黙ってやられるタマじゃありませんから」「ははっ。俺の嫁は強いな。最高だ」 ドキっ――! し、ししし、心臓に悪いッ!!「それより、昨日怪我させられた手は大丈夫か?」「蓮司が買ってくれた湿布のおかげで、すっかり良くなりました」「そうか。よかった。朝食うまかった。差支えが無ければ明日も作ってくれたら嬉しい」「お母さまと約束しましたし、作りますよ」「義務的だな」「契約ですから」「それもそうか」 わかんないっ。いったいどういうつもりなの!?「食べたいものがあれば、リクエストをください。作りますから」「なんでも作れるのか?」「まあ、一通りは。そんな難しい料理はできませんけど…インピタ映えするようなキラキラご飯は無理です」「そういうのは求めてない」 うん。だよね。「じゃあ、なにが?」「ハンバーグ」「えっ…」「やはり難しいのか?」「あ…別に……できますけど……」「そうか」ぱっと顔が輝いた。「会社の近くで
Last Updated: 2025-09-12
Chapter: 最終・旦那様(本物)に愛された嫁(本物)のお話は、大団円を迎えます。 その6「伊織。どうか、私と結婚してほしい。必ず幸せにする。一生、伊織だけを大切にすると、この場で誓う!」 えっ……なにそれ……。 よく通る低い声が教会中に響き渡った。何百人もの視線が一斉に私たちに注がれる中での、堂々たる公開プロポーズ。 頭が真っ白になったけれど、すぐに思い出した。式場探しの時、二人で見た結婚雑誌。そこには「一生心に残る挙式にするためのサプライズ演出」がいくつも紹介されていて、その一つに「入場時に新郎が新婦へ改めてプロポーズし、ゲスト全員に祝福される」というものがあったのだ。 ――あの時、私が「こんな演出、一生忘れられないだろうね、素敵だね」と言ったことを、一矢はちゃんと覚えていてくれたんだ。 「伊織は、絶望しかなかった幼い私の心の支えだった。お前がいたからこそ、私は今日まで生きてこられた。これまでも、そしてこれからも変わらない。伊織……ずっと私の傍で笑っていてくれ。私の幸せのそばには、お前がいなくては始まらない。そして、私を伊織の本当の家族にしてほしい。一平や美佐江を父や母と呼び、美緒や琥太郎、倫太郎、雄太郎、明奈と、本当の兄妹として生きていきたい」 胸が熱くなった。涙がこぼれそうになるのをこらえながら、私ははっきりと答えた。 「はいっ! 私も一生、一矢だけを大切にします。本当の家族になりましょう! ふつつか者ですが、よろしくお願いします!!」 なにも迷うことなんてない。一矢は私のすべてで、ずっと愛し支えたい人。彼と本当の家族になることを、私は心の底から願ってきたのだから。「さあ、愛しき人よ。これより神の前で、一生の愛を誓い合おう」 差し出された手を取る。まだバージンロードを一歩も歩いていないのに、もう一矢が目の前にいて、私に家族になることを皆の前で誓ってくれた。 こんな素敵な演出をしてくれる旦那様に愛されて、私は世界一の幸せ者だ。「一緒に歩きましょう。家族全員で」 一矢とお父さんに両側をエスコートされながら、私はゲスト全員に祝福されてバージンロードを歩く。胸がいっぱいで、何度も涙がこぼれそうになった。 かつて家族に背を向けられ、幼い頃に絶望を知り、どれだけ手を伸ばしても温かな家族の幸せを掴めなかった旦那様――。 これからは一生、私が大切に大切に愛していく。 時には喧嘩もするだろう。それでも、今日という人生の門出
Last Updated: 2025-08-06
Chapter: 最終・旦那様(本物)に愛された嫁(本物)のお話は、大団円を迎えます。 その5 入念な準備を終え、私はついにバージンロードを歩く瞬間を迎えた。重厚で堂々とした木製の扉の前で、お父さんと並んで待機している。新郎である一矢はすでに祭壇の前に立ち、私が入場するのを静かに待っているはずだ。 今日は特別に中松が選んでくれた、純白のウェディングドレスを身にまとっている。シンプルだけど品があり、何より一矢の好みに完璧にマッチしている。私はそのドレスに相応しい姿勢を心がけて背筋をぴんと伸ばし、まさにこれから開こうとしている新たな未来の扉を前に深呼吸を繰り返した。 一方、隣にいるお父さんのほうが緊張でガチガチになっている。彼は妙な発声練習を何度も繰り返し、ひたすら深呼吸をしている。「い、伊織……あ、あー……う、うー」 何度も口を開けたり閉じたりしながら必死に落ち着こうとしているけれど、効果はあまりないようだ。庶民である私たちが、これほど壮大で厳かな舞台に立つのはやっぱり容易ではない。挙式は有名な大教会で行われるため、参列者は非常に多い。一矢の会社関係者や著名人など、多彩で華やかな顔ぶれが集まっているのだ。新婦側としては親戚や友人も数多く集まっているものの、どうしても新郎側の豪華さには圧倒されてしまう。「と、父さんさ、変じゃないか? ネクタイ曲がってないか?」「もう、大丈夫だって言ってるでしょ?」「そ、そそそそうか。だ、大丈夫か」 あまりにもお父さんが緊張しているので、その背中を勢いよく叩いて励ました。「今日は娘の晴れ舞台なのよ。しっかりしてよ! お父さんでしょ!」「はは、お前は本当にしっかり者だなあ」 私の叱咤が効いたのか、お父さんは苦笑しながら少し緊張が和らいだようだった。「ついこの間、産まれたばかりだと思っていたのに、もう嫁に行くんだもんなぁ……」 お父さんがぽつりと感慨深そうに呟いた。「お父さんにはお母さんがついてるから、娘が一人や二人嫁に行っても、全然平気でしょ?」 少し冗談交じりに言ってみたけれど、お父さんは真剣な顔で私を見つめ返した。「そんなことはないぞ! 伊織がいなくなって、本当に寂しいと思っているんだ」「お父さん……」 驚いた。いつもグリーンバンブーで一緒に働き、何気ない会話を交わしていたから、まったく気づかなかった。お父さんは私が気にしないように、あえて普段通りの振る舞いをしていたんだ……。 気にかけ
Last Updated: 2025-08-05
Chapter: 最終・旦那様(本物)に愛された嫁(本物)のお話は、大団円を迎えます。 その4 そのすぐ後、スタッフの方が二人もブライズルームに駆けつけ、私を整えるための準備を手早く始めてくれた。すると、そのタイミングを見計らったように美緒が控室に入ってきた。彼女は小さな紙袋を手にして、笑顔で私に歩み寄る。「お姉ちゃん、いよいよイチ君のお嫁さんになるんだね。本当におめでとう!」「ありがとう、美緒。嬉しいわ」「これ、イチ君に頼まれて持ってきたの。お姉ちゃんが朝食を食べ損ねたって聞いたから、グリーンバンブーのおにぎりを食べさせてやってくれって。家族みんなで一生懸命握ってきたよ」「えっ……ウソ…」 驚きながら美緒から包みを受け取り、慎重にお弁当箱を取り出した。すると、お弁当箱の蓋には七枚のメッセージが貼られていることに気付いた。一矢に毎日お弁当を渡す時、いつも励ましの一言を書いていた私に、家族みんなが同じように温かい言葉を寄せてくれたのだ。 『いおちゃん、お幸せにぃ』 一枚目はお母さんからだ。いつも通り軽くて明るいノリのメッセージに、思わず笑みがこぼれる。 『伊織、イチ君と末永く仲良くするんだぞ。父さんと母さんみたいにな』 続いてお父さん。相変わらず家族愛に溢れた温かな言葉だ。 『お姉ちゃん、おめでとう。イチ君と幸せになってね』 美緒のメッセージは優しく、胸がじんわり温かくなる。 『また家に帰って来てください』 倫太郎の素直な言葉。 『元気で!』 雄太郎らしいシンプルだけど心がこもった言葉。 『今度おやしきに遊びに行かせてね』 明奈の可愛らしいお願いに頬が緩む。 『結婚おめでとう。イチとお幸せに!』 最後は琥太郎だ。ちょっとぶっきらぼうで男らしい字に、琥太郎らしい気持ちが溢れている。契約婚のことを最後まで心配して怒っていた彼が、最終的には姉ちゃんが決めたことだからと認めてくれたことが、改めて嬉しい。 家族からの優しさと温かさに胸がいっぱいになり、思わず涙が込み上げてきた。こんなに嬉しい気持ちを味わったら、バージンロードを歩く前に泣き崩れてしまいそうだ。 感動を噛み締めながらお弁当箱を開けると、俵型、丸型、少し形が崩れたもの、楕円型など、家族それぞれが握った七つのおにぎりがぎっしり詰まっている。 「お茶も用意したよ。さあ、召し上がれ!」「ありがとう!いただきます!」 ひと口頬張ると、おにぎりの中からエ
Last Updated: 2025-08-04
Chapter: 最終・旦那様(本物)に愛された嫁(本物)のお話は、大団円を迎えます。 その3 朝から極上の甘い溺愛に振り回され、私は挙式の準備をするために旦那様(本物)に抱きかかえられ、ようやくブライズルームまで辿り着いた。そのせいで、予定していた朝食を食べ損ねてしまい、なんだか元気が出ない。 私という人間は、しっかりご飯を食べないと力が湧いてこないのよ!「朝から無理をさせてしまって、本当に申し訳ない」 旦那様は珍しく、しゅん太郎のようにしょんぼりして猛省の表情を浮かべている。そりゃあそうよ、私がぐったりして動けなくなるまで溺愛するから……! 黙っていると、私が怒っていると思ったのか、一矢が真剣に頭を下げてきた。「伊織とようやく結ばれることが嬉しくて、つい自制が効かなくなってしまったんだ。ずっと前から触れることを我慢してきたから、感情のタガが外れてしまったようだ。本当にすまない」 そんな風に素直で可愛いことを言われたら、もう許さないわけにはいかない。私だって、愛されるのは嬉しい。ただ、その激しすぎる愛に身体がついていけないだけなのに……そんなことを考えると色々な場面を思い出してしまい、恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。「もういいのよ。一矢、今日はたくさんの方々が私たちを祝福しに来てくださる日よ。しっかり気合いを入れて、美しくバージンロードを歩かないと、せっかく中松に厳しく指導されたのに怒られちゃうじゃない」 中松はきっと今日も最後まで私のことを見守ってくれるだろう。彼にとっても一区切りとなるこの日。私たち夫婦の新たな門出を、これからは穏やかに支えてくれるに違いない。だからこそ、今日は絶対に無様な姿を見せられない。「朝食を逃してしまっただろうと思って、握り飯を調達してあるんだ。伊織が一番好きな味だ。もうすぐ届くから、食べて元気を出してほしい」「本当? ありがとう!」 私のお腹がちょうど空いていたから、とても嬉しかった。一矢のこうした気遣いに、改めて胸がじんわりと温かくなる。嬉しさのあまり自然と笑顔がこぼれた。「そういう笑顔を見せるから……」 一矢が耳元で甘く囁いた。「押し倒したくなってしまうんだ」「ひゃっ!」 瞬間的に顔が真っ赤になってしまう私を、一矢はあのエビフライを勝ち取った時の最高に魅力的な笑顔で見つめてくる。 旦那様(本物)のその笑顔、本当にカッコよすぎるのよ! そんなあなたに、私は二十年前からすっかりメロメロな
Last Updated: 2025-08-03
Chapter: 最終・旦那様(本物)に愛された嫁(本物)のお話は、大団円を迎えます。 その2 「ん……」 甘ったるい声がつい唇から漏れてしまう。明日はいよいよ結婚式なのに、旦那様(本物)の甘い溺愛は今夜も止まらない。明日まで身体が持つかどうか、本気で心配になるほどだ。 一矢の長くて繊細な指が優しく私の胸を包み込み、その弾力を確かめるように揉みほぐす。自分でも小ぶりだと思っていた胸が、彼の指に触れられるたびに熱を帯び、形を変え、敏感に反応してしまう。「はぁ……っ、一矢……」 何度彼に抱かれても、やっぱり全然慣れない。恥ずかしさがいつも私の胸を満たしてしまう。一矢が部屋の明かりを点けたままにしようとするので、私は思わず懇願する。「電気……消して?」「今日の麗しいお前を、この目にしっかり焼き付けておきたいのだが」「だって、恥ずかしいんだもん……や、んっ……」胸の先端に唇が触れ、舌が優しく這う。すぐに身体が熱を持ち、快感に蕩けてしまう。旦那様(本物)の丁寧で繊細な愛撫は、いつだって私をすぐに翻弄する。「ふぅ……ん……っ、あぁ……いち……やぁっ」「可愛いぞ、伊織」低く囁く甘い声が耳元をくすぐり、身体の奥まで響いてくる。「はぁっ……一矢っ……あぁ……」「どうして欲しいのだ?」「ん……も、もう分かってる……くせにっ……」 本当に意地悪な人だ。私がはっきり言葉にするまで、彼はいつも焦らすように触れる。鋭い観察力で私の反応を見極め、的確に私の敏感なところを探り当てるから、私はどんどん追い詰められてしまう。「やぁっ……ん、一矢ぁっ、そこっ……っあ――!」 あっという間に快感の波に飲み込まれ、身体から力が抜けていく。視界が徐々に白く霞み、意識が甘い陶酔の中に溶けてしまいそうだ。「やだぁっ……も、もう……へんになるぅっ……あ、んっ……」「伊織の『いやだ』は、『もっとして』という意味にしか聞こえないな」 彼はあえて私の一番敏感なところを避け、内腿の敏感な部分を焦らすように弄る。「やっ、もうっ……意地悪っ……」 思わず抗議の声が漏れそうになるけれど、素直に求める言葉を言うのがどうしても恥ずかしくて言えない。 だから私は代わりに、とっておきの言葉を彼に伝える。「一矢……大好き」 そっとキスのおねだりをする。彼は満足そうに微笑みながら私に覆いかぶさり、極上の蕩けるような口づけを優しく落としてくれる。そのまま、慈しむように私の身体を丁寧
Last Updated: 2025-08-01
Chapter: 最終・旦那様(本物)に愛された嫁(本物)のお話は、大団円を迎えます。 その1 いよいよ待ちに待った結婚式前日を迎えた。グリーンバンブーは日曜日が定休日なので、日曜日に挙式をすることになっている。前日から式場の近くにある豪華ホテルに宿泊し、全身エステにマッサージ、最終衣装合わせ、さらにはネイルやヘアスタイリングなど、明日に向けて万全の準備を整えることになった。 本来なら今日もグリーンバンブーで忙しく働き、汗まみれになっていたはずだけれど、今日は特別な日。いつもと違う意味で『つるつるピカピカ』になり、最高に幸せな気分を味わっている。定食屋の厨房で汗だくになっているのとは、比べ物にならないくらい別次元だ。 夜は旦那様(本物)とホテルの高級レストランで優雅なディナーを楽しみ、素敵な時間をゆったりと過ごした。バーではシャンパンを少し嗜みながら、ふと甘えたくなって隣に座る一矢の肩にもたれかかった。「もう酔ったのか?」 一矢が優しい口調で尋ねてくる。「ううん。酔ってないよ。ただ、独身最後の夜を噛み締めているの。色々あったなあって、ちょっとしみじみしてただけ」「部屋でゆっくり話すか?」「うん、そうしたいな。一矢に思いっきり甘えたい気分」「うむ、悪くない提案だな」 一矢が照れたように微笑む。普段のビジネス用のスーツ姿も十分カッコいいけれど、今日のフォーマルな装いはそれ以上に素敵だ。 今日は私もプロの手でドレスアップしているから、一矢の横に並んでも違和感がないことが嬉しい。この前グリーンバンブーで感じた切なさとはまったく違う。この差を思い出すと少し胸が痛むけれど、今夜は深く考えるのをやめておこう。 部屋はホテルの最上階にある、贅の限りを尽くしたロイヤルデラックススウィートルームだ。こんな部屋に泊まれる日が来るなんて、夢にも思わなかった。しかも、愛する人と二人きりなんて、まるで夢のよう。 部屋に入った途端、一矢が私をそっと抱き寄せる。「今日の伊織は本当に綺麗だ。私のために美しくなってくれたのなら、これ以上嬉しいことはないな」 甘く優しい囁きが耳元に響き、体がぞくぞくと震える。極上のエステやマッサージで磨かれ、文字通りつるつるピカピカになった私を、旦那様(本物)はこのまま愛でるつもりらしい。「ちょっと、お喋りは……?」 照れ隠しに軽く抵抗してみる。「愛を囁きながらでも、会話くらいはできるさ」「きゃっ」 力強い腕に優しく抱きか
Last Updated: 2025-07-31
Chapter: エピローグ その3 「わかったわ、玄介さん! 中身は『シンデレラのガラスの靴』ね!」「きゃー。まこちゃん、せいかーい!」 パチパチと茉莉恵ちゃんが拍手をしてくれた。「さすが、クイズに強いだけあるな。その通りだ」 玄介さんが鋭い瞳を解き、微笑んでくれた。「では正解者の眞子、ガラスの靴を受け取ってくれないか」「あ、ありがとう。じゃあ、遠慮なく」 私は玄介さんがプレゼントしてくれた紙袋を受け取った。これは恐らく、茉莉恵ちゃんにプレゼントしたシンデレラのガラスの靴のお礼にと、大きなものを用意してくれたのだろう。こんなに大きなものでなくても良かったのに。でも、玄さんの気持ちが嬉しかった。「気に入らないかもしれないから、この場で開けて見て欲しい」「え? ここで?」「うん。あけて、あけてー!」 茉莉恵ちゃんは尚も期待の視線を向けてくる。あ、そうか。茉莉恵ちゃんを助けたお礼にプレゼントしてくれたものだから、きっと茉莉恵ちゃんも一緒に選んでくれたんだ。子供って、自分があげたプレゼントへの喜びの感想を期待するから、貰ったプレゼントはその場で開ける事を切望する子が多い。「ありがとう。じゃあ、遠慮なく開けるね」 綺麗な黒いマットな紙袋の中に丁寧にラッピングされたボックスがひとつ入っている。リボンを解き、ボックスの中を開けると、更に透明のボックスに収められた、婦人用のSサイズくらいの大きさのガラスの靴が見えた。ガラスのハイヒールパンプスだ。 そのガラスの靴の先端部分はブリザーブドフラワーになっていて、ピンクの大きな薔薇が複数収められていて、雫に見立てた小さな宝石と共に輝いていた。 そしてその薔薇の中央に、ひときわ輝くものがあった。 これは――「うそ…」 中央の薔薇の上で輝いているもの――それは、プラチナリングにラウンドブリリアントカットされたものが幾重にも散りばめられた、ダイヤモンドの指輪だった。「それは俺の気持ちだ。君が交際をオーケーしてくれたら、渡そうと思
Last Updated: 2025-05-24
Chapter: エピローグ その2 「玄介さん、腐ったパンから離れよう? そういうのじゃないから」「ううむ。眞子の出すクイズはやはり難しいな…」 超初級なんですが! 王様はやっぱりクイズが苦手な模様。 完璧に見える蓮見リゾートホテルの社長も、苦手なものがあったのね。「まこちゃんのクイズ、すごーくむずかしいよぉぉ…」茉莉恵ちゃんが眉毛をはの字にして訴えた。「じゃあ、ヒントを出すね。ヒントは、お料理する時に使うもの。もしくは、茉莉恵ちゃんの目の前にいる動物でも正解。たくさんあるんだよ」「あっ」茉莉恵ちゃんが目を輝かせた。「パンダさんだ――!」「はい、よくできました。正解」「やったあ! パパより先に答えられたよ!」「ふふ。ほんとうだ。茉莉恵ちゃん天才!」 玄介さんは私たちのやり取りを見て、とても悔しそうにしている。 負けず嫌いの男児そのもの。本当に子どもみたい。「こうなったら、眞子にとっておきのクイズを出してやる。まあ、ここでは何だから、帰り際にでも」「そうなんだ。難しいクイズ?」 「それは――」玄介さんは私を見て、不敵な笑いを見せた。「眞子次第だ」 ※ あれからクイズバトルを楽しみ、たくさん動物たちを見て閉園時間までたっぷり楽しんだ。 そろそろ帰らなきゃいけない時間。なんか、名残惜しいな。 今日一日、二人と一緒に過ごして本当に楽しかった。茉莉恵ちゃんはかわいいし、玄介さんは素敵だし。 茉莉恵ちゃんを真ん中にして、玄介さんと一緒に彼女の小さな手を握り、はしゃぎ合った。まるで本当の親子と錯覚してしまうほど濃密な時間を三人で過ごした。私の作ったお弁当を残らず食べてくれて、美味しいってかわいいほっぺにご飯粒付けて言ってくれたのは、とても嬉しかった。「まこちゃん、たのしかったねー!」「ええ。茉莉恵ちゃんのお陰ね。とーっても楽しかった!」「ほんと? よかったあ」
Last Updated: 2025-05-24
Chapter: エピローグ その1 「パパー! はやくぅ――!」 茉莉恵ちゃんが玄介さんを呼んでいる。入園して一番にパンダの見える場所まで走っていき、目を輝かせながら。 玄介さんと想いを通じ合ってから翌日。茉莉恵ちゃんと一緒に動物園に行きたいねと提案したら、あっという間に実現してしまった。彼は私と動物園に行った話を茉莉恵ちゃんにしていたらしく、それを聞いていたものだから、小さな彼女はずっと動物園に来たい、来たい、と言っていたそうだ。「まこちゃんも、はやく、はやくぅ――!」 茉莉恵ちゃんに私のことを紹介してくれたら、『シンデレラのおねえちゃんだ!』と再会を喜ばれた。お互いに顔見知りだったから早急に仲良くなり、茉莉恵ちゃんが『まこちゃん』と呼んでくれるようになった。出会ったときは三歳だった茉莉恵ちゃんは、今では四歳になっていて、おしゃべりもあの頃よりも上手になっていて、元気いっぱいだ。「茉莉恵…早いって」 玄介さんはやや息を切らせながら、一番最後にやって来た。私は毎日園児を追いかけまわしているので、全く平気だけど。「玄介さんが体力無いのよ」「仕事ばかりで運動不足になっているな。よし、また眞子と一緒に運動しようか」 私たちに追いついた玄介さんが、私の腰をぐい、と引き寄せた。「今夜どう?」と耳元で囁いてくる。「もう、玄介さん! 茉莉恵ちゃん見てるよっ」 昨日散々愛されたから、そっちの体力は残ってないよっ。 玄介さんは含み笑いをしている。うっ…そんな顔しても、明日仕事だから無理だってっ。 ひと悶着している間にパンダを見る順番が回って来た。 「うわぁ――、おおきぃ――! ぱんださん、かわいい――ぃ!」 玄介さんに抱き上げられ、茉莉恵ちゃんは大興奮でパンダを見つめる。「そうだ、茉莉恵。眞子先生がクイズを出してくれるぞ」「えっ、クイズ? やるやる――!」 突然ムチャぶりされたけれど、幼稚園で園児たちと毎日のように繰り広げられる『なぞなぞバトル』で鍛えた私。クイズなら任せて!
Last Updated: 2025-05-23
Chapter: 第10話・向き合う その10 待ちわびていた雄々しい欲望が秘所に当てこまれた。早速愛液が絡みつき、ぬめりのある洞窟の奥底へ沈んでゆく。 「ぁあっ、玄介さっ…ぁあぁっ、んあ、ふっ、やあぁっ――…!」 待ち焦がれていた雄槍の侵入に思わず歓喜の声を上げてしまう。体の一番奥の部分が熱を帯びて震える。膣壁はうねって欲を包み込み、締めつける。 「眞子っ…」 やがて律動が始まった。切なげに眉根を寄せ、玄介さんは激しく腰を打ち付けてくる。奥まで突き入れられる度、広い室内に卑猥な水音が響く。 「はぁんっ・・・・・んんっ・・・・・」 抽送のたびに感じる快感がどんどん膨らんでいく。腰が動く度に汗が散り、私の胸が弾む。その様子を見つめる彼の瞳は獣のような熱を持ち始めていた。 「あっ・・・・・んっ・・・・・・玄介さっ・・・・・・・ああっ!」 最奥を突かれるたびに喘ぎ声が止まらない。その声を抑えることすらできないほど感じてしまう。体の深いところが溶けてしまいそうなほどに気持ち良い。 「眞子っ・・・・・愛してる・・・・・」 彼の声は熱い吐息混じりになっていて、脳内から全身へとゾクッとした快感が広がっていく。最中に愛の言葉を囁かれるなんて、ほんとうに夢みたい。 「あっ・・・・・んんっ・・・・・・」 結合部からは愛液が溢れ出し。ぐちゅぐちゅと淫靡な音が響き渡る。 「ぁああっ・・・・玄介さんっ、は、んぁっ、あぁあぁ―ーっ」 甲高く叫ぶと、より一層激しさが増した。中が激しくかき回され、快楽の波に押し流される。彼から必死に求められることが、なによりも嬉しい。言葉からも、体からも、彼の愛を感じた。 いつもはもっとゆったりとした攻めで、こんなに激しいことは無い。じっくり堪能してくれるのに、性急に昇りつめようとしている。 離れていた時間を急いで埋めるかのように、玄介さんからの余裕が一切感じられなかった。 まるで飢えた獣のように、私の体を貪り尽くそうと暴れまわる。 交わすキスさえも激しく、胸のふくらみに及ぶ攻撃も、普段のも
Last Updated: 2025-05-23
Chapter: 第10話・向き合う その9 恋愛は自由なのだと常に思っていた。 でも、そうではなかった。 実は沢山のしがらみに包まれていて不自由であり、添い遂げるとなればその苦難は尚の事。 それでも一緒に居たいと思える相手かどうかを考えた時、困難を乗り越えてでも傍にいたい、玄介さんの隣にいたい、と素直に思った。「あっ……んんっ……ふぅ……」 彼の名前を呼ぶたびに私の心は満たされていき、この瞬間が永遠に続けばいいのにと思う。この気持ちを伝えることが出来るのなら、私はどんな困難だって乗り越えられる気がした。「玄介さん……玄介さん……!」 彼を求める想いが強くなればなる程に身体の奥底が熱を帯びて疼く。それに伴い鼓動も早まっていく。 玄介さんの手が下肢へと伸びてきて私の秘部へと触れる。 指先で撫でられてびくりと身を震わせながらも拒むことは無く、むしろもっと触れて欲しいという欲望を抱いてしまっている自分に困惑してしまう。「眞子……俺は君の全てが欲しい」 彼の言葉に頷くと同時に彼は私の両足を割り開く。そして中心に顔を埋めて舌を這わせてきた。その途端に電流のような快感が駆け抜けた。「やっ……んっ……はぁ……」 敏感な突起を舐められ吸われて甘噛みされる度に快楽が押し寄せてくる。思わず声が漏れてしまい慌てて口元を押さえた。「我慢しないで声出して」 低い声で囁かれればそれだけでゾクゾクとしてしまう。恥ずかしさと快感が入り混じった複雑な感情が押し寄せてくるものの拒むことも出来ずに、ただ彼の愛撫を受け入れるしかなかった。 秘部の上を何度も往復させながら舐め続けているうちに蜜が溢れ出し彼の舌によって掻き出されていく。その度に甘美な刺激に襲われて意識が飛びそうになる。「んっ……はぁ……あっ……んっ……」 舌先で転がされて擦り付けられて吸い付かれると堪らず声を上げてしまった。あまりの気持ち良さに腰が揺れてしまうのを抑えられない「気持ちいい?」「ん……気持ち……いい……」 喘ぐように答えると更に攻め立てるよ
Last Updated: 2025-05-22
Chapter: 第10話・向き合う その8 「ふっ、ああっ、玄介さんっ、ぁあぁっ」 彼は私の反応を見ようと、鋭い視線をぶつけてくる。ぞくりと背筋が粟立ち、腰が浮いてしまう。 恥ずかしくて顔を逸らしたくなるのを堪えて見つめ返すと、彼は満足そうに目を細めた。――ああ、やっぱりこの人だ。 確信する。私が好きなのは、彼。触れ合いたいのも、彼。 何時の間にこんなにも深く玄介さんを好きになり、私の中で大きな存在へ形を変えていたのだろう? 蓮見リゾートホテルの社長だから好きになったんじゃない。彼が何者であったとしても『玄さん』と過ごす時間が、今の気持ちを作り上げたのだ。 彼の正体を知っていたら、恋に落ちる事は無かっただろうけど。 婚活アプリで素性不明だったからこそ、繋がった不思議な縁。「眞子」 余裕を失った玄介さんが、必死に私を求めて雄になる。――玄介さんも、私と同じ。 そう思うと不思議なほどに気持ちが楽になる。そこには身分差も何もなく、ただ一人の男と女が惹かれあうだけの、純粋な気持ちだけが存在しているのだ。今はその中で、彼を好きだと素直に伝えよう。 私は彼の背中に手を回して強く抱きしめた。すると玄介さんもまた、同じように返してくれる。 暫くそうしていると、玄介さんの手が私の胸を包み込むように触れてきた。その感触に驚いて思わず体を離そうとしても、彼はそれを許さない。 まるで宝物でも扱うかのような優しい手つきで、両胸を揉みしだかれていく。その感覚があまりに官能的で、甘美な吐息を漏らしながら身を捩った。 気付けば玄介さんの顔が間近にあり、そのまま唇を奪われる。舌を差し入れられて絡め取られると、脳髄が刺激されて何も考えられなくなる。 彼の手の動きに合わせて次第に体が熱を帯びてくる。自然と息が上がり、艶のある吐息が漏れてしまう。恥ずかしいのに止められない。「眞子……」 玄介さんが私の名を呼んだ声は、低くかすれていた。熱を
Last Updated: 2025-05-22