◇◇◇
夜になっても俺がベッドでゴロゴロしていると、
「やっていることが昼間とまったく変わってないな、太智」
なんの前触れもなくケイロが部屋に入ってきて、俺はビクッと肩を跳ねさせる。
「急に入って来るなよ! せめて一声かけてくれ。親しき仲にも礼儀ありって言うだろ!? お前だって俺が不意打ちで部屋に来たら困らないか?」
「驚きはするが、歓迎するな。お前から積極的に夜這いへ来てくれるのだからな、喜んで相手をするぞ」
「なんでもかんでも夜の営みに繋げるなぁ……どうしてこんなにヤりまくってるのに、まだ身の危険を感じなくちゃいけないんだよ」
筋肉痛を全身へ響かせながら体を起こした直後の問題発言に、俺はベッドの上でうな垂れる。そして密かにケイロが部屋へ来た途端、いつも通りの空気になったことを驚く。
昼間に悠から教えてもらった話を延々と考えて、ついさっきまで引きずって胸が重たくなっていたのに。あっという間に元の調子を取り戻して、何事もなかったようにやり取りできてしまう。
まだ出会って二か月が経過するかしないかの期間なのに、もう夫婦の空気が板についている。
ケイロについて知らないことが山ほどあるっていうのに……。俺は頭を掻きながらケイロに尋ねる。
「今日はどこへ行ってたんだ? もしかして、あっちの世界?」
「ああそうだ。面倒なことに定期的に報告しなくてはいけなくてな……奪われた百彩の輝石は、我が国にはなくてはならない秘宝。早く取り返さなくては、これからの行事や国の大事にも影響が出てくる」
「百彩の輝石ってそんなにすごいものなのか?」
ケイロたちがこっちに来た目的の、百彩の輝石。
さり気なく尋ねてみると、ケイロは小さく頷いた。「ああ。遥か昔、精霊王が親愛の印にと祖先へ贈ったものらしい。それを覇者の杖にはめ込めば、その杖を手にした者はすべての精霊を使役し、あらゆる魔法を可能にする」
「魔法使いの最強装備じゃねーか。そりゃあ持っていかれたら困るよな」
◇◇◇休み明けの授業中。期末テストが近いと分かっていても、授業の内容は頭に入って来なかった。ケイロの国に力を与えている百彩の輝石。その輝石を守りたい。国のためにならないからと盗んだマイラット。少し話を聞いただけでも、輝石を奪われたことが国の一大事だとは分かるし、王子のケイロが直接乗り込んでくるほどのことなのも理解できる。でも悠の話が本当なら、どうして国のためにならないんだ?輝石を守るって、マイラットってヤツは何から守りたいんだ?国家転覆の陰謀とか、国の威信とか、王家の裏事情とか……そんな漫画やラノベな世界とは一切無縁な一般高校生の俺。あれこれ考えて真実を見つけ出すなんてまずできない。ムリ。期末テストで赤点回避するだけで精一杯な頭だし。考えても無駄――って分かってるのに、それでも頭が勝手に働いてしまう。ケイロたちはマイラットの意図は知ってるのか?もし悠から聞いた話をしたら、何か前進するか?……でも悠からは、自分のことを言わないでくれって頼まれてるしなあ。悠が協力者だって分かったら、容赦しないだろうなケイロは。魔法で自白は通常運転だろうし、マイラットをおびき寄せるために、悠を利用するかもしれない。一緒に昼食を取る仲でも、たぶんケイロはやる。だって国の一大事だから。親友を追い詰める真似はしたくない。けれど、このまま放置はできない。一回、マイラットから話が聞けるといいんだけどな。あっちの事情が分かったら、もしかしたら何か状況が変わるかもしれない。知らないから困るんだよ。うん。誤解の元だ。俺は巻き込まれちゃった第三者だから、当事者じゃない分だけ怒らずに事情は聞けるし、もしマイラットが悪いヤツで何か仕掛けてきたら遠慮なく倒せるし……俺が密かに動くしかないよな。うーん、これって内助の功になっちまうのか?ケイロのことを考えて動こうとすると、全部夫婦絡みな感じがしてならない。な
「うおっ、本当に出た。前から気になってたけど、これどうなってんだ?」俺は思わず指を差し出し、光球に近づけていく。モワッ、と。触ったという手応えはないし、そのまま指が精霊を貫通してしまった。指が入っているところはほんのり温かくて、風呂場の湯気に指を突っ込んでいるような感触だ。不思議だなあ、と思いつつ何度も指を上下させていたら――スス……。光球が自分から動いて、俺の指から離れた。「もしかして触られるの嫌だった?」呟いて小首を傾げる俺に、光球が一瞬光を強めた。まるで返事をしてくれたような行動で、俺は首を伸ばし、顔を近づけながらマジマジと観察する。「ひょっとしてお前、意志があるのか! へぇー……なあ、喋ることってできるのか?」この質問にはなんの反応も見せない。どうやらこれが否定らしい。まさかこんな光の球と意思疎通ができると思わず、俺は目を輝かせてしまう。ゲームや漫画好きなら憧れるファンタジー展開が今、目の前に……っ!こんなところをケイロたち以外の誰かに見られたら、間違いなく変人認定される。校内でこんなことするもんじゃないよな、とドキドキするけど、溢れる好奇心は止められなかった。「お前らもあっちの世界から来たのか? ……あ、光らねぇ。こっちにもいるんだ。へぇぇー……食べ物とか食べられるのか? せっかくだし、お近づきのしるしに何かあげたいんだけど……あ、ダメなのか」何もあげられないのは残念だなあと思っていたら、子犬がまとわりつくように光球が俺の周りをクルクルと回る。どうやら俺の気持ちは嬉しかったらしい。「食べられないなら、一緒に遊んだりするほうが嬉しいのか? 鬼ごっこしたりとか……うわっ、眩しいっ。そっか、そういうのは好きなんだ。なんか子供というか、人懐っこいワンコっぽいというか……あ、急に光が消えた。スン顔した
もっと精霊と交流を持ちたかったが、そろそろ昼休みも終わりかけ。もう帰っていいから、って言えば消えてくれるのかなあ……と思っていたその時だった。「あ……」ケイロたちが校舎裏へやって来たことに気づいて、俺は木の陰から三人をうかがう。まだ俺には気づいていないようで、アシュナムさんとソーアさんはケイロにへりくだった態度を取っている。ケイロもかしずかれるのが当たり前と言わんばかりに偉そうだ。このまま気づかれないなら、やり過ごしたほうがいいか? こんな所で俺ひとりで何やってんだって話になりそうだし。でもなあ……こっちの世界のことをアドバイスする立場にある身としては、ちょっと見過ごせない。俺は姿を現わし、ケイロたちに駆け寄った。「太智!? どうしてここにいるんだ?」驚くケイロに答える前に、俺は周囲を見回して人がいないことを確かめた上で近づき、コソッと告げた。「精霊が使えるようになったから、魔法の練習してたんだよ」「そうか。休みを強要されていても、自ら進んで鍛錬するとは良い心がけだな。さすがは俺の嫁だ」「学校で嫁呼ばわりするな……って、そんなことよりも! かなり重大な話があるんだけど」「なんだ?」「ケイロたちって、いつも校舎の中で集まったら三人一緒に行動しているのか?」俺の問いかけに、ケイロがきょとんとなる。そして心底「なぜそんなことを聞くのだ?」と言いたげに首を傾げた。「ああ、そうだが? 立場は違えど兄弟なら校内で一緒にいてもおかしくないだろ?」「……お前のキャラに合ってない」「どういうことだ?」「人と馴れ合わないクール男子は、学校で兄弟仲良く並んで歩かねぇ! むしろ身内とは顔を合わせないように避けるか、短く用件を伝えてさっさと離れる。基本、俺らぐらいの男子高生は兄弟と馴れ合わないことのほうが多い」「な、なん、だと…&helli
「えっ、俺、なんか変なこと言ったのか?」困惑したまま三人で顔を見交わしてから、アシュナムさんが大きく息を呑むのが見えた。「精霊と意思の疎通が図れるとは……我々の世界ではあり得ない」なんだって? 話しかけるだけで充分だぞ? めちゃくちゃ簡単だぞ?しかも反応だって単調じゃない。いろんなバリエーションがあって、むしろ感情豊かだ。これで意思がないだなんて考えられない。アシュナムさんの発言が信じられなくて、俺は慌てて背後の精霊に顔を向ける。「そうなのか、お前?」一瞬だけ申し訳なさそうに光球が弱く輝き、逃げるように姿を消してしまう。なんだか怯えた様子だったような……ケイロたちを怖がっているのか?疑問に思いながら顔を前に向け直すと、三人ともに険しい顔をして俺を見ていた。「な、なんだよ……俺、そんな怖い顔されるほど変なことしたか?」「……いや、物珍しいだけだ」ケイロは鋭い眼差しで左右に控える二人を見やってから、こっちに近づいてくる。「もうすぐ授業が始まる。さっさと教室に戻るぞ」「ああ……って、ちょっと待てぇ、は、離れろよぉ……っ」アシュナムさんたちに背を向けて歩き出そうとした途端、俺の隣に並んだケイロがしっかりと肩を抱いてきた。ち、力が抜ける……歩くと振動が……ぅぅ、授業に集中できなくなる……ってか、これ一番誰かに見られちゃいけないヤツだろ!?速く歩けと促すように、ケイロは俺の肩を押しながら颯爽と歩く。そして背後の二人と距離を取った後、一度立ち止まって振り向く。いつになくケイロの顔が怖い顔つきで、お付きの人であるハズの二人を牽制しているように見えた。「この件に関しては他言するな。なんの力もない、俺が気まぐれで選んで固執している
◇◇◇午後の授業が終わって、野球部の部室に向かった時だった。「……ん?」自分のロッカーを開けたら、きちんと折り畳まれた紙が置いてあって、一度首を傾げる。丁寧で達筆な字で書かれた『坂宮君へ』という宛名。差出人の名前は書かれていない手紙。だけど誰が出したかすぐに察しがついて、思わず息を呑んだ。「どーした百谷?」近くでユニフォームに着替えていた同学年の部員に話しかけられて、俺は咄嗟に首を横に振る。「な、なんでもない。ちょっとトイレ行ってくる」「なんでもなくないじゃねーか。早く行って来いよ。トイレは何を差し置いても最優先だろ!」笑いながら部室を出て行こうとする俺を、ソイツは快く送り出してくれる。ありがとうよ、トイレの重要性を分かってくれて。俺は親指をグッと立ててソイツの心意気に感謝すると、手紙を持って体育館のトイレに駆け込んだ。個室に入って一旦深呼吸して息を整えると、俺は手紙を開いていく。そこにも送り主の性格を表すような、きれいに整った字で書かれたメッセージがあった。『直接会って話がしたい。君に合わせるから、場所と時間を指定してくれ。くれぐれも殿下には内密に』今日の昼間に伝言したら、もうマイラットから返事がきた。早いな……精霊、ちゃんと仕事してくれたな。精霊ってマジで有能だなあ、と思いながら俺は腕を組んで考え込む。ケイロたちにバレないよう密会……それができれば苦労しないんだけど。しかも会ったことないけど、俺、この人の敵側の人間なんだよな。間に悠がいるせいか、あんまり怖い感じがしない。ノコノコと勝手にひとりで行ったら、人質になっちゃう展開かコレ?でも、悠の話を聞いてると何か事情がありそうだし、悪いヤツじゃなさそうな感じもするんだよな。悠が惚れちゃった旦那さんみたいだし。うーん……としばらく唸ってから、俺はそっとささやいた。
◇◇◇翌日、俺はとにかく寝た。遅刻ギリギリまでがっつり寝て、授業中もできる限り寝た。船を漕ぐ程度のうたた寝じゃない。しっかり机に突っ伏して寝た。科目によっては担当の先生が起こしに来たけれど、「……あ、すみません……ぐぅ……」返事をして速攻で寝た。きっと先生も呆れ果てていたと思う。三年生の一学期にこれはヤバいだろう。成績も内申点も激下がり間違いなしだ。後のことを考えると肝がブルリと冷える。でも今日だけは特別だ。通知表を見て母さんに怒られるのも、夏休みの補習も想定内。後の面倒を受け入れる覚悟はできていた。昼食後もすぐに寝ようとしたら、「大智……大丈夫? 体調が悪いなら保健室に行ったほうがいいよ?」心配そうに悠が声をかけてくれる。そしてケイロも、「そんな所で寝ても余計に疲れるだけだ。寝たいなら保健室へ行け。だらだらとやるより、堂々と休め」なぜか胸を張って全力でサボれと言ってきた。あまりにも堂々としたサボり押しが、いっそ清々しい。せっかくだからと立ち上がった俺の両腕を、ケイロと悠がガシッと捕まえる。そのまま引きずられるように保健室へ連行され、俺はベッドに寝かされるハメになった。……ケイロにがっつり触られて、体が疼いて声を堪えるのが大変だった……悠の前で情けない姿は意地でも見せられねぇ。しばらく悶々としてたけれど、意地で抑え込んで、遠慮なく午後の授業をサボって寝た。チャイムがなるまでしっかりと寝だめした。体力を使う部活も休んで、さっさと家に帰って夕寝もバッチリ。さすがに夕食を終えた後は眠くはならなかったけれど、それでも横になって体を休めた。◇◇◇そして――百谷家の庭がパァ……ッと光り、再び暗くなった夜十時過ぎ頃。俺は気配を殺しながらゆっくり
俺の態度が明らかに違うと分かって、ケイロが本心を探るように目を見つめてくる。「今日はやけに積極的だな……昼間から寝ていたのは、このためだったのか」「……あっ……ケイロと、思いっきりヤりたかったから、寝て体力をためまくったんだ……いつも抱き潰されるから、返り討ちにしてやりたいと思って」言いながら俺は体を起こしてケイロを見下ろし、スウェットの上を脱がしていく。てっきりプライドが高いから少しは嫌がるかと思ったが、むしろノリノリな俺を歓迎しているのか顔が嬉しそうだ。……脱がされるのも恥ずかしいけど、脱がすのも恥ずかしいもんだな。見るな、喜ぶな、次は何してくれるんだって期待の眼差しを向けてくるなぁぁ……っ。俺のほうが主導権を握っているハズなのに、手綱をケイロに握られたままのような気がする。正直悔しいけれど、今はケイロがノってきてくれることが大事だ。見返すのはまた今度だ。羞恥と、ケイロに触れるだけで感じる体のせいで、俺の中が火照ってたまらない。一方的に俺がケイロの肌に触れ、吸い付き、キスを刻んでいく。ケイロに何かすればするほど、俺の胸がせわしなく脈打って、激しく乱されたくてたまらない体に仕立ててくる。ケイロは何もしない。初っ端からエロ全開でイカれている俺の痴態を、うっとりと見上げて楽しんでいる。嫌悪の欠片も見当たらない。その視線が嬉しくて、俺は焦って落ち着かない手で自分とケイロの下をすべて脱がし、俺の中へ入りたがっている昂りに跨った。腰を落とし、ケイロの滾ったものへ擦り付けてみれば――にちゃっ、と粘った音と感触が俺の下半身に響いた。「ここへ来る前に自分で準備したのか……」「だって、ケイロと、いっぱいヤりたかったから……っ……俺も、魔法使えるようになっちゃったし、いつもお前がしてくれるように、やってみた
大きな快感の波に身を震わせている俺の腰を掴み、ケイロが容赦なく突き上げてくる。「はぁッ、ァ、ま、まって……ッ、ちょ、落ち着いてからぁ……ッ」ひでぇ……イッてる最中にガン攻めって、鬼だろコイツ!?連続でイカされるハメになって、ようやくケイロの動きがおとなしくなる。でも止まってくれない。緩く腰を上下させて奥を突きながら、ケイロはニヤリと不敵に笑う。「散々人を煽っておいて、それはないだろ? 体力は有り余っているようだし、今日は手加減せずに抱ける」「手、加減……? ぁ……お、前……っ、あれで、今まで加減してた……? ウソだろぉ……っ!?」「次の日に足腰立たなくなるほどではなかっただろ?」「ギリギリだぁ……ばか……ッ、根性出して、意地で行ってた……ぁ、ンン――……ッ」また奥が大きく脈打って、俺は腰を浮かしそうになる。これ以上でっかい快感はツラい。気持ちいいことは強すぎると、マジで俺が壊れる。少しでも軽くしないと――。――グッ。俺の腰はケイロによって強く掴まれた挙げ句、押さえつけられてしまう。強すぎる快感から逃がしてもらえず、俺の視界が激しく点滅した。「あぁ……ッッ! ……ぁ……っ……」こうなるだろうって、予想はできていたけど……やっぱりキツい。気持ち良いけど、自分が自分じゃなくなっていくこの感覚が辛い。でも今日だけは我慢するしかない。俺はしばらく呼吸できずに身を強張らせていたが、すぐに浅い呼吸で空気を必死に取り込み、体を揺らし始める。
大きな快感の波に身を震わせている俺の腰を掴み、ケイロが容赦なく突き上げてくる。「はぁッ、ァ、ま、まって……ッ、ちょ、落ち着いてからぁ……ッ」ひでぇ……イッてる最中にガン攻めって、鬼だろコイツ!?連続でイカされるハメになって、ようやくケイロの動きがおとなしくなる。でも止まってくれない。緩く腰を上下させて奥を突きながら、ケイロはニヤリと不敵に笑う。「散々人を煽っておいて、それはないだろ? 体力は有り余っているようだし、今日は手加減せずに抱ける」「手、加減……? ぁ……お、前……っ、あれで、今まで加減してた……? ウソだろぉ……っ!?」「次の日に足腰立たなくなるほどではなかっただろ?」「ギリギリだぁ……ばか……ッ、根性出して、意地で行ってた……ぁ、ンン――……ッ」また奥が大きく脈打って、俺は腰を浮かしそうになる。これ以上でっかい快感はツラい。気持ちいいことは強すぎると、マジで俺が壊れる。少しでも軽くしないと――。――グッ。俺の腰はケイロによって強く掴まれた挙げ句、押さえつけられてしまう。強すぎる快感から逃がしてもらえず、俺の視界が激しく点滅した。「あぁ……ッッ! ……ぁ……っ……」こうなるだろうって、予想はできていたけど……やっぱりキツい。気持ち良いけど、自分が自分じゃなくなっていくこの感覚が辛い。でも今日だけは我慢するしかない。俺はしばらく呼吸できずに身を強張らせていたが、すぐに浅い呼吸で空気を必死に取り込み、体を揺らし始める。
俺の態度が明らかに違うと分かって、ケイロが本心を探るように目を見つめてくる。「今日はやけに積極的だな……昼間から寝ていたのは、このためだったのか」「……あっ……ケイロと、思いっきりヤりたかったから、寝て体力をためまくったんだ……いつも抱き潰されるから、返り討ちにしてやりたいと思って」言いながら俺は体を起こしてケイロを見下ろし、スウェットの上を脱がしていく。てっきりプライドが高いから少しは嫌がるかと思ったが、むしろノリノリな俺を歓迎しているのか顔が嬉しそうだ。……脱がされるのも恥ずかしいけど、脱がすのも恥ずかしいもんだな。見るな、喜ぶな、次は何してくれるんだって期待の眼差しを向けてくるなぁぁ……っ。俺のほうが主導権を握っているハズなのに、手綱をケイロに握られたままのような気がする。正直悔しいけれど、今はケイロがノってきてくれることが大事だ。見返すのはまた今度だ。羞恥と、ケイロに触れるだけで感じる体のせいで、俺の中が火照ってたまらない。一方的に俺がケイロの肌に触れ、吸い付き、キスを刻んでいく。ケイロに何かすればするほど、俺の胸がせわしなく脈打って、激しく乱されたくてたまらない体に仕立ててくる。ケイロは何もしない。初っ端からエロ全開でイカれている俺の痴態を、うっとりと見上げて楽しんでいる。嫌悪の欠片も見当たらない。その視線が嬉しくて、俺は焦って落ち着かない手で自分とケイロの下をすべて脱がし、俺の中へ入りたがっている昂りに跨った。腰を落とし、ケイロの滾ったものへ擦り付けてみれば――にちゃっ、と粘った音と感触が俺の下半身に響いた。「ここへ来る前に自分で準備したのか……」「だって、ケイロと、いっぱいヤりたかったから……っ……俺も、魔法使えるようになっちゃったし、いつもお前がしてくれるように、やってみた
◇◇◇翌日、俺はとにかく寝た。遅刻ギリギリまでがっつり寝て、授業中もできる限り寝た。船を漕ぐ程度のうたた寝じゃない。しっかり机に突っ伏して寝た。科目によっては担当の先生が起こしに来たけれど、「……あ、すみません……ぐぅ……」返事をして速攻で寝た。きっと先生も呆れ果てていたと思う。三年生の一学期にこれはヤバいだろう。成績も内申点も激下がり間違いなしだ。後のことを考えると肝がブルリと冷える。でも今日だけは特別だ。通知表を見て母さんに怒られるのも、夏休みの補習も想定内。後の面倒を受け入れる覚悟はできていた。昼食後もすぐに寝ようとしたら、「大智……大丈夫? 体調が悪いなら保健室に行ったほうがいいよ?」心配そうに悠が声をかけてくれる。そしてケイロも、「そんな所で寝ても余計に疲れるだけだ。寝たいなら保健室へ行け。だらだらとやるより、堂々と休め」なぜか胸を張って全力でサボれと言ってきた。あまりにも堂々としたサボり押しが、いっそ清々しい。せっかくだからと立ち上がった俺の両腕を、ケイロと悠がガシッと捕まえる。そのまま引きずられるように保健室へ連行され、俺はベッドに寝かされるハメになった。……ケイロにがっつり触られて、体が疼いて声を堪えるのが大変だった……悠の前で情けない姿は意地でも見せられねぇ。しばらく悶々としてたけれど、意地で抑え込んで、遠慮なく午後の授業をサボって寝た。チャイムがなるまでしっかりと寝だめした。体力を使う部活も休んで、さっさと家に帰って夕寝もバッチリ。さすがに夕食を終えた後は眠くはならなかったけれど、それでも横になって体を休めた。◇◇◇そして――百谷家の庭がパァ……ッと光り、再び暗くなった夜十時過ぎ頃。俺は気配を殺しながらゆっくり
◇◇◇午後の授業が終わって、野球部の部室に向かった時だった。「……ん?」自分のロッカーを開けたら、きちんと折り畳まれた紙が置いてあって、一度首を傾げる。丁寧で達筆な字で書かれた『坂宮君へ』という宛名。差出人の名前は書かれていない手紙。だけど誰が出したかすぐに察しがついて、思わず息を呑んだ。「どーした百谷?」近くでユニフォームに着替えていた同学年の部員に話しかけられて、俺は咄嗟に首を横に振る。「な、なんでもない。ちょっとトイレ行ってくる」「なんでもなくないじゃねーか。早く行って来いよ。トイレは何を差し置いても最優先だろ!」笑いながら部室を出て行こうとする俺を、ソイツは快く送り出してくれる。ありがとうよ、トイレの重要性を分かってくれて。俺は親指をグッと立ててソイツの心意気に感謝すると、手紙を持って体育館のトイレに駆け込んだ。個室に入って一旦深呼吸して息を整えると、俺は手紙を開いていく。そこにも送り主の性格を表すような、きれいに整った字で書かれたメッセージがあった。『直接会って話がしたい。君に合わせるから、場所と時間を指定してくれ。くれぐれも殿下には内密に』今日の昼間に伝言したら、もうマイラットから返事がきた。早いな……精霊、ちゃんと仕事してくれたな。精霊ってマジで有能だなあ、と思いながら俺は腕を組んで考え込む。ケイロたちにバレないよう密会……それができれば苦労しないんだけど。しかも会ったことないけど、俺、この人の敵側の人間なんだよな。間に悠がいるせいか、あんまり怖い感じがしない。ノコノコと勝手にひとりで行ったら、人質になっちゃう展開かコレ?でも、悠の話を聞いてると何か事情がありそうだし、悪いヤツじゃなさそうな感じもするんだよな。悠が惚れちゃった旦那さんみたいだし。うーん……としばらく唸ってから、俺はそっとささやいた。
「えっ、俺、なんか変なこと言ったのか?」困惑したまま三人で顔を見交わしてから、アシュナムさんが大きく息を呑むのが見えた。「精霊と意思の疎通が図れるとは……我々の世界ではあり得ない」なんだって? 話しかけるだけで充分だぞ? めちゃくちゃ簡単だぞ?しかも反応だって単調じゃない。いろんなバリエーションがあって、むしろ感情豊かだ。これで意思がないだなんて考えられない。アシュナムさんの発言が信じられなくて、俺は慌てて背後の精霊に顔を向ける。「そうなのか、お前?」一瞬だけ申し訳なさそうに光球が弱く輝き、逃げるように姿を消してしまう。なんだか怯えた様子だったような……ケイロたちを怖がっているのか?疑問に思いながら顔を前に向け直すと、三人ともに険しい顔をして俺を見ていた。「な、なんだよ……俺、そんな怖い顔されるほど変なことしたか?」「……いや、物珍しいだけだ」ケイロは鋭い眼差しで左右に控える二人を見やってから、こっちに近づいてくる。「もうすぐ授業が始まる。さっさと教室に戻るぞ」「ああ……って、ちょっと待てぇ、は、離れろよぉ……っ」アシュナムさんたちに背を向けて歩き出そうとした途端、俺の隣に並んだケイロがしっかりと肩を抱いてきた。ち、力が抜ける……歩くと振動が……ぅぅ、授業に集中できなくなる……ってか、これ一番誰かに見られちゃいけないヤツだろ!?速く歩けと促すように、ケイロは俺の肩を押しながら颯爽と歩く。そして背後の二人と距離を取った後、一度立ち止まって振り向く。いつになくケイロの顔が怖い顔つきで、お付きの人であるハズの二人を牽制しているように見えた。「この件に関しては他言するな。なんの力もない、俺が気まぐれで選んで固執している
もっと精霊と交流を持ちたかったが、そろそろ昼休みも終わりかけ。もう帰っていいから、って言えば消えてくれるのかなあ……と思っていたその時だった。「あ……」ケイロたちが校舎裏へやって来たことに気づいて、俺は木の陰から三人をうかがう。まだ俺には気づいていないようで、アシュナムさんとソーアさんはケイロにへりくだった態度を取っている。ケイロもかしずかれるのが当たり前と言わんばかりに偉そうだ。このまま気づかれないなら、やり過ごしたほうがいいか? こんな所で俺ひとりで何やってんだって話になりそうだし。でもなあ……こっちの世界のことをアドバイスする立場にある身としては、ちょっと見過ごせない。俺は姿を現わし、ケイロたちに駆け寄った。「太智!? どうしてここにいるんだ?」驚くケイロに答える前に、俺は周囲を見回して人がいないことを確かめた上で近づき、コソッと告げた。「精霊が使えるようになったから、魔法の練習してたんだよ」「そうか。休みを強要されていても、自ら進んで鍛錬するとは良い心がけだな。さすがは俺の嫁だ」「学校で嫁呼ばわりするな……って、そんなことよりも! かなり重大な話があるんだけど」「なんだ?」「ケイロたちって、いつも校舎の中で集まったら三人一緒に行動しているのか?」俺の問いかけに、ケイロがきょとんとなる。そして心底「なぜそんなことを聞くのだ?」と言いたげに首を傾げた。「ああ、そうだが? 立場は違えど兄弟なら校内で一緒にいてもおかしくないだろ?」「……お前のキャラに合ってない」「どういうことだ?」「人と馴れ合わないクール男子は、学校で兄弟仲良く並んで歩かねぇ! むしろ身内とは顔を合わせないように避けるか、短く用件を伝えてさっさと離れる。基本、俺らぐらいの男子高生は兄弟と馴れ合わないことのほうが多い」「な、なん、だと…&helli
「うおっ、本当に出た。前から気になってたけど、これどうなってんだ?」俺は思わず指を差し出し、光球に近づけていく。モワッ、と。触ったという手応えはないし、そのまま指が精霊を貫通してしまった。指が入っているところはほんのり温かくて、風呂場の湯気に指を突っ込んでいるような感触だ。不思議だなあ、と思いつつ何度も指を上下させていたら――スス……。光球が自分から動いて、俺の指から離れた。「もしかして触られるの嫌だった?」呟いて小首を傾げる俺に、光球が一瞬光を強めた。まるで返事をしてくれたような行動で、俺は首を伸ばし、顔を近づけながらマジマジと観察する。「ひょっとしてお前、意志があるのか! へぇー……なあ、喋ることってできるのか?」この質問にはなんの反応も見せない。どうやらこれが否定らしい。まさかこんな光の球と意思疎通ができると思わず、俺は目を輝かせてしまう。ゲームや漫画好きなら憧れるファンタジー展開が今、目の前に……っ!こんなところをケイロたち以外の誰かに見られたら、間違いなく変人認定される。校内でこんなことするもんじゃないよな、とドキドキするけど、溢れる好奇心は止められなかった。「お前らもあっちの世界から来たのか? ……あ、光らねぇ。こっちにもいるんだ。へぇぇー……食べ物とか食べられるのか? せっかくだし、お近づきのしるしに何かあげたいんだけど……あ、ダメなのか」何もあげられないのは残念だなあと思っていたら、子犬がまとわりつくように光球が俺の周りをクルクルと回る。どうやら俺の気持ちは嬉しかったらしい。「食べられないなら、一緒に遊んだりするほうが嬉しいのか? 鬼ごっこしたりとか……うわっ、眩しいっ。そっか、そういうのは好きなんだ。なんか子供というか、人懐っこいワンコっぽいというか……あ、急に光が消えた。スン顔した
◇◇◇休み明けの授業中。期末テストが近いと分かっていても、授業の内容は頭に入って来なかった。ケイロの国に力を与えている百彩の輝石。その輝石を守りたい。国のためにならないからと盗んだマイラット。少し話を聞いただけでも、輝石を奪われたことが国の一大事だとは分かるし、王子のケイロが直接乗り込んでくるほどのことなのも理解できる。でも悠の話が本当なら、どうして国のためにならないんだ?輝石を守るって、マイラットってヤツは何から守りたいんだ?国家転覆の陰謀とか、国の威信とか、王家の裏事情とか……そんな漫画やラノベな世界とは一切無縁な一般高校生の俺。あれこれ考えて真実を見つけ出すなんてまずできない。ムリ。期末テストで赤点回避するだけで精一杯な頭だし。考えても無駄――って分かってるのに、それでも頭が勝手に働いてしまう。ケイロたちはマイラットの意図は知ってるのか?もし悠から聞いた話をしたら、何か前進するか?……でも悠からは、自分のことを言わないでくれって頼まれてるしなあ。悠が協力者だって分かったら、容赦しないだろうなケイロは。魔法で自白は通常運転だろうし、マイラットをおびき寄せるために、悠を利用するかもしれない。一緒に昼食を取る仲でも、たぶんケイロはやる。だって国の一大事だから。親友を追い詰める真似はしたくない。けれど、このまま放置はできない。一回、マイラットから話が聞けるといいんだけどな。あっちの事情が分かったら、もしかしたら何か状況が変わるかもしれない。知らないから困るんだよ。うん。誤解の元だ。俺は巻き込まれちゃった第三者だから、当事者じゃない分だけ怒らずに事情は聞けるし、もしマイラットが悪いヤツで何か仕掛けてきたら遠慮なく倒せるし……俺が密かに動くしかないよな。うーん、これって内助の功になっちまうのか?ケイロのことを考えて動こうとすると、全部夫婦絡みな感じがしてならない。な
◇◇◇夜になっても俺がベッドでゴロゴロしていると、「やっていることが昼間とまったく変わってないな、太智」なんの前触れもなくケイロが部屋に入ってきて、俺はビクッと肩を跳ねさせる。「急に入って来るなよ! せめて一声かけてくれ。親しき仲にも礼儀ありって言うだろ!? お前だって俺が不意打ちで部屋に来たら困らないか?」「驚きはするが、歓迎するな。お前から積極的に夜這いへ来てくれるのだからな、喜んで相手をするぞ」「なんでもかんでも夜の営みに繋げるなぁ……どうしてこんなにヤりまくってるのに、まだ身の危険を感じなくちゃいけないんだよ」筋肉痛を全身へ響かせながら体を起こした直後の問題発言に、俺はベッドの上でうな垂れる。そして密かにケイロが部屋へ来た途端、いつも通りの空気になったことを驚く。昼間に悠から教えてもらった話を延々と考えて、ついさっきまで引きずって胸が重たくなっていたのに。あっという間に元の調子を取り戻して、何事もなかったようにやり取りできてしまう。まだ出会って二か月が経過するかしないかの期間なのに、もう夫婦の空気が板についている。ケイロについて知らないことが山ほどあるっていうのに……。俺は頭を掻きながらケイロに尋ねる。「今日はどこへ行ってたんだ? もしかして、あっちの世界?」「ああそうだ。面倒なことに定期的に報告しなくてはいけなくてな……奪われた百彩の輝石は、我が国にはなくてはならない秘宝。早く取り返さなくては、これからの行事や国の大事にも影響が出てくる」「百彩の輝石ってそんなにすごいものなのか?」ケイロたちがこっちに来た目的の、百彩の輝石。さり気なく尋ねてみると、ケイロは小さく頷いた。「ああ。遥か昔、精霊王が親愛の印にと祖先へ贈ったものらしい。それを覇者の杖にはめ込めば、その杖を手にした者はすべての精霊を使役し、あらゆる魔法を可能にする」「魔法使いの最強装備じゃねーか。そりゃあ持っていかれたら困るよな」