ユウヤはごく普通の20代半ばの社会人だった。あの日もいつものように会社へ向かおうと、電車を降りて最寄りの駅から会社まで10分ほど歩いていた、その時だった。——突如として襲いかかった強烈な目眩に、彼の意識は容赦なく飲み込まれ、そのままアスファルトの地面に崩れ落ちた。冷たい感触が頬に触れる間もなく、ユウヤの視界は真っ暗になった。
——異世界への転生次にユウヤが目を覚ますと、そこは七色の光が揺らめく、まるで万華鏡の中にいるような幻想的な空間だった。虹色の色彩に包まれたその場所で、彼はふわふわと宙に浮いている。目の前には、ユウヤと同じように宙に浮く一人の少女がいた。10代後半くらいに見えるその少女は、どこか見慣れない、しかし可愛らしい奇妙な服を身につけていた。心配そうにユウヤを見つめていた彼女は、彼が意識を取り戻したことに気づくと、途端に申し訳なさそうな表情になり、深々と頭を下げてきた。
「ごめんなさいっ!手違いで……その……魂を回収してしまいましたっ!」
「は、はい?魂?」
突拍子もない言葉に、ユウヤの頭は疑問符でいっぱいになった。「ここはどこだ?君は誰だ?間違って魂を回収しただと?」混乱する彼の脳裏に、なぜか既視感がよぎる。そうだ、これはまるでアニメや漫画で見た「異世界転生」のシーンではないか。
「いきなり言われても分かりませんよね……」
少女は困ったように眉を下げた。
「いえ、なんとなく分かってきたような気がします」
ユウヤは混乱しつつも、冷静を装って答えた。現状を素早く理解することが、この奇妙な状況を乗り切る唯一の方法だと直感していた。
「ホントですか? 話が早くて助かりますっ!」
彼女は少しだけ表情を緩め、安堵の息を漏らした。その表情は、まるで肩の荷が下りたかのようだった。
「それで……俺はこれからどうなるんですか? 元の場所には戻せないから困っているんですよね?」
「そうなんです……魂を完全に回収してしまったので元に戻せないんですよ~」
ユウヤが怒っていないと分かると、彼女は一気に緊張を解いたのか、普段通りの明るい笑顔と軽快な口調に戻った。その変わりように、ユウヤは少し面食らった。
「元の世界に戻れないってことは……別の世界に?」
「そうなんです。それで良いですかね?」
「いや……その別の世界の説明をお願いします……」
「忘れてましたっ! えっとですね……文明はそこそこに進んでいて~モンスターが現れたりする世界ですね~」
モンスターが現れるだと? それはつまり、命の危険が常に付きまとうということか。何の知識も、体を動かす術も、ましてや剣や魔法なんて使えるはずもないユウヤが、そんな世界にいきなり放り込まれても困る。すぐにモンスターの餌食になって、また意識だけがここに逆戻りになるのがオチだろう。
「はい? 完全にゲームの世界じゃないですか!」
「そうなんですか? 知ってる世界で良かったです~また、説明の手間が省けて良かったですっ♪」
少女がにっこり笑って言った。その無邪気な笑顔は、ユウヤの不安とは裏腹だった。
「そんな危険な世界に転生させられても、すぐに死んじゃうじゃないですか! 何か特別な能力とかスキルを付けてもらえませんか?」
いや、そんな世界に……ただ放り込まれたら即終了だろ!? なにか……いわゆる転生特典を……そんな思いで聞いてみた。喉元まで出かかった「チート能力をください」という言葉を寸前で飲み込み、表現を和らげた。
「もちろん良いですよ~♪ わたしの不注意だったので……何かご希望はありますか~?」
少女が、あっさりと許諾してくれた。微笑みながら可愛く首を傾げて聞いてくるその仕草は、まるで喫茶店の店員がメニューを尋ねるかのようだった。
あまりにも急な出来事で、すぐには思いつかない。頭の中をあらゆる選択肢が駆け巡る。
……普通ならば……死なないための強さを求めるのも悪くないが、そうするといわゆる『冒険者』になって、常に危険と隣り合わせの生活を送ることになる。正直、格闘技や戦闘はあまり得意じゃないし、好きでもない。
俺が欲しいのは、大切な人を守れるだけの力だ。そう考えると、攻撃よりも防御系のバリアが一番しっくりくる。あとは、異世界で生活していくための足掛かりとして、アイテム生成の能力が欲しい。そして、生成したものを劣化させることなく、無限に収納できるストレージシステムがあれば完璧だ。
ユウヤが希望を伝えると、彼女は納得したように笑顔でコクリと頷いた。
「はい。それなら大丈夫です! それで良いんですかぁ~? その世界で最強にしろとか……大金持ちにしろとか言われると思ってましたけど……それは出来ないんで。世界のバランスが崩れてしまうので。っていうか世界最強にすると大抵は好き放題をし始めて最後は魔王と呼ばれる存在になってしまうのですよ」
少女は笑顔から苦笑いしながら俺の願いを予想していたらしい事を言ってきた。
「俺は戦いが苦手なので、そういうのは興味がないですね……」
ユウヤは苦笑しながら答えた。
「他にはないですか?」
「他ですか……あなたのお名前は?」
「あ、まだ名乗っていなかったですねっ! わたしは、女神のサーシャですっ♪」
「その……俺と友達になってもらえないですか?」
ユウヤは、半ば冗談めかして、しかし本気で尋ねてみた。この状況で、唯一心を許せる存在になりそうな彼女に。
「え?あ……はいっ。初めて言われましたぁ~嬉しいですっ♪もちろん良いですよ~」
女神のサーシャが、花がほころぶような可愛い笑顔で答えてくれた。女神と友達なんて、前代未聞だろう。まあ、誰に話しても信じてもらえないだろうけど、これはこれで悪くない。
「サーシャって呼んでも良いかな?」
女の子を名前で呼び捨てで呼ぶのは初めでだった。その初めての相手が……女神さまになろうとは。内心ドキドキだった。
「はいっ。お友達ですもんねっ♪ じゃあ……わたしはユウヤと呼びますね~」
「たまに話しとか出来たら、寂しくないから会話も出来たら良いかな~なんて」
ま、無理だろうけど……女神さまは忙しいだろうし。声だけでも聞けたら……癒されるだろうなぁ……
「はい。出来るようにしておきますねっ♪」
あれ? すんなりと快諾されたぞ……!? 嫌われないように……たまに連絡くらいなら良いか?
「ありがと」
「それでは転生を致しますね~。お友達ですので色々とサービスしておきますね~♪」
「うん。よろしく」
会話が終わり、サーシャの言葉と共に、ユウヤの意識は再びゆっくりと、しかし確実に遠のいていった……。七色の光が収束し、彼の体を包み込む感覚と共に、意識は深い闇へと沈んでいった。
——新たな世界の夜明け…………
次にユウヤが意識を取り戻したのは、暖かな日差しが降り注ぐ高原だった。草木を揺らす風の音が心地よく、鳥のさえずりが遠くで聞こえる。柔らかい草の絨毯が広がるその場所で、彼は一本の大きな木にもたれかかって座っていた。土の匂いと、青々とした草の香りが鼻腔をくすぐる。
「おっ。キレイな景色の場所じゃん。でも、モンスターがいるんだよな。いきなりモンスターとか勘弁してよね……」
念のため辺りを見回すが、それらしい気配はなく、ユウヤは胸をなでおろした。ふと、手のひらを広げ、集中する。試しに『治癒ポーション』をイメージすると、彼の手のひらに、きらめく琥珀色の液体が満たされた小さなガラス瓶が、何の脈絡もなく現れた。
「すごいじゃん。効き目を試したいけど……でも、わざわざ怪我したくはないしな……。効き目が微妙だったら……最悪だしなぁ」
今度はアイテムを収納するイメージをすると、ポーションは手からすっと消え、まるで空間に溶け込んだかのように見事に収納されたようだ。なんて便利なんだ。さすが友達のサーシャは気が利く。
しかし、家はないのか……。こういうのって……普通さぁ、小屋とかで目覚めるんじゃないのか? 広大な草原のなかに放り出されても……
高原をしばらく歩いていると、やがてけもの道のような場所に出た。土と草が踏み固められたその道は、動物たちが通った跡だろうか。さらに歩き続けること数時間。太陽はすでに傾き始め、空はオレンジ色に染まりかけている。もう体力の限界だった。道の脇の木に寄りかかり、ずるずると座り込んだ。足の裏がじんじんと痛み、喉はカラカラに乾いていた。
「はぁ……まだ町や村に着かないのか?腹も減ったし……疲れた」
その時、閃いた!そうだ、体力回復のポーションを使えばいいじゃないか!さっそく取り出して飲み干すと、即座に効果が現れた。体中に温かい力が満ちていく感覚があり、みるみるうちに疲労感が消え去り、体力が回復した。だが、空腹感だけは解消されなかった。胃の腑がギュルギュルと鳴る音が、静かな高原に響き渡った。
ミリアは不承不承ながらも頷いた。納得してない様子だったので、もう一度、笑顔で念を押した。「ね?」「はいっ♪」 ミリアの機嫌が再び直ったのを見て、俺は安堵した。「ここに居ると、危険そうなので出ていきたいのですが……」 俺は総隊長に言った。「はい。本当に有難うございました。助かりました……ユウヤ様」 総隊長は深々と頭を下げた。名前も覚えられて、『様』付け? ミリアがムッとした表情で、再び総隊長を睨んだ。その視線は、有無を言わせぬ圧力を放っている。「次は無いですわよ……分かりましたか?」「はい! 全員に言い聞かせます!」 総隊長は震える声で答えた。兵士全員が、まるで一糸乱れぬように頭を下げてきた。彼らの額には、冷や汗が滲んでいるのが見て取れる。 ん? なんだかとても感謝されてるんだけど……そこまで?「じゃ、じゃあ行こうか?」 俺はミリアの手を取った。「はぁい♪」 ミリアは嬉しそうに俺の腕を組み、詰め所を出た。外に出ると、またミリアではない男性の怒鳴り声が聞こえた。 今日は俺が建物から出ると、怒鳴り声が良く聞こえてくる日だなぁ……。「先程は、ビックリしましたわ~ユウヤ様ったら……もぉ♡」 ミリアは腕を組み、俺の顔を見上げてきた。その頬は、まだほんのりと赤みを帯びている。「皆が見てなかったから大丈夫でしょ?」 俺はそう言ったが、ミリアは頬をさらに赤くして、恥ずかしそうに答えた。「……はいっ♪ 今度は……ユウヤ様の意思ですわね?」「まぁ……そうだね。俺の意思だね」「そうですか~嬉しいですわっ♡」 ミリアは幸せそうに目を細めた。
ん? 何この学校で恐い担任が朝、教室に入ってきて静まり返るのと同じ感じは……。見た目は可愛らしい美少女なのに? そんなに、お貴族様は権力があるのかな? あ。警備兵って、もしかして領主兵だからかな? それでミリアは領主の娘で雇い主の娘だから?「すみません……ミリア様」 お偉いさんが恐縮したように呟いた。「ふんっ! 1日に、わたくしの大切な方を2回も捕らえるなんて、わたくしに対しての嫌がらせなのかしら……」 ミリアは顔を曇らせ、明らかに不機嫌な様子で言った。その声には、怒りの感情が込められている。「そのような事は決してありません! どうかお許しを……」 お偉いさんは顔面蒼白になり、必死に弁解する。「まぁ……俺みたいな子供がアクセサリー店に入ったから怪しまれて当然だよな」 俺は場を和ませようと、軽い調子で言った。「何を仰っているのかしら? わたくしだって、たまにですがアクセサリー店に入りますわよ?」 ミリアは、きっぱりと言い返してきた。「それはミリアがお金持ちだって皆が知ってるからでしょ? 俺みたいなお金が無さそうな格好で入ればね……頭が良いミリアなら分かるんじゃない?」 俺がそう指摘すると、ミリアの表情が一瞬和らいだ。しかし、すぐにまたご立腹になった。「それでも捕らえた兵士は許せませんわっ。もぉ!」 ミリアは足を踏み鳴らし、不満を露わにする。連れてきた兵士の顔色が悪くなって座り込んでしまった。その体は震えている。 ん? 死ぬわけでも無いのに、そこまで怯える事なのか? それとお偉いさんも顔色が悪くなってるけど? 何か罰でもあるのか? そこまで怯える意味が分からないけど俺のせいなんだよな。はぁ……あまり気乗りしないけど……。「えっと……ここの責任者って
「護衛を男1、女1、メイドさんを1人でお願いします」 俺の提案に、護衛の責任者は顔をしかめ、即座に言い放った。「それは無理です!許可できません!」 その声には、一切の妥協が感じられない。「でしたら俺、一人で行くので付いてこないでください。ちょっと、目立ち過ぎなので……」 俺はきっぱりと言い放った。「平民服を着て平民を装ってるのがバレバレになってるし……平民が護衛を付けてる訳が無いし。お金持ちや重要な人物だから護衛を付けるのですよね? 今回の行動で顔を覚えられてしまいますよ?」 俺の言葉に、ミリアは表情を硬くし、護衛の責任者を鋭く睨みつけた。その視線は、まるで氷のように冷たい。責任者はゴクリと唾を飲み込んだ。「一応、今日は店舗を調べる予定だったからさ、ちゃんと調べないと。昼食と色々と話しが出来て楽しかったよ。ありがとね」 俺は、これ以上揉めるのを避けるように、ミリアに柔らかく話しかけた。「そうですか……ううぅ……」 ミリアは悲しそうに眉を下げ、ウルウルと瞳を潤ませながら俺を見つめてきた。その瞳は、まるで今にも零れ落ちそうな露を含んでいるようだ。「あの……次は、いつお会いできますか?」「明日も町の中にいると思うけど……ドレスを着て護衛を大量に連れて会いに来ないでくれるかな。お金持ちの知り合いが居ると思われて店舗の価格を上げられそうだし」 俺がそう言うと、ミリアはパッと顔を輝かせた。「分かりましたっ! むぅ……」 彼女は不満げな声を漏らし、再び警護責任者を睨みつけた。責任者はビクリと肩を震わせた。「ちなみに、もし会いに来られるなら護衛とメイドさんも普段着でお願いしますね。平民でメイドに護衛を連れて歩いてる人いないですし」「はいっ。分かりましたわ」 ミリアは素直に頷いた。
俺が礼を言うと、メイドは深々と頭を下げた。「いえ。お役に立てて良かったです」 教え終わると、メイドはお辞儀をして元の位置に下がった。その動きは流れるようにスムーズだ。「ポーションを売ろうと思ってるんだけどさ、価格ってどれくらいが良いと思う?」 俺はポーションの話を切り出した。「えっ!? あの治療薬ですか?」 ミリアは目を見開いた。「まぁー色々と売ろうと思ってるんだけど、ここに来たばっかりでさ、価格設定の相談が出来る知り合いがいなくてさ……困っていたんだよね」「あの治療薬をお売りになられるんですか?」 ミリアの声には、動揺が混じっている。「まぁ……商人をしようかと思って」「それはダメです。あの薬を売ると大混乱が起きかねませんので……お止めください」 ミリアはきっぱりと言い放った。その表情は真剣そのものだ。「え!? ダメなの? 混乱? なんで?」 貴族なら金儲けの話に乗ってくるんじゃ? 儲かりそうな話をしてるんだけど? この世界じゃポーションって栄養ドリンク程度で傷も治らないんだろ? 医者も応急手当だけで手術も出来なそうだし。「あの薬は、規格外に強力な効果を持っています。医者ギルド、軍事、他国等も係わって来ますのでユウヤ様の争奪、技術を手に入れようと最悪、戦争が起きる可能性も出てきますよ」 ミリアは早口で説明した。その言葉に、俺は思わず息をのむ。俺の事を心配してくれてたのか……っていうより頭良すぎじゃない? 金儲けより俺の事を、そこまで考えてくれたのか……。むしろ俺が売ることしか考えてなかった俺がバカ過ぎたか。「え? そこまで?」「瀕死の方が瞬時に回復をするのですよ?そのような治療薬存在していませんので、医者になった方が生活ができなくなりますよね?」 そりゃそうだ。逆の立場なら俺も生活が出来なくなれば、どうにかしたくなるかもな
「でも親が許さないんじゃない? 平民だよ俺は」「それも問題ありません。瀕死の状態の者を治療できるお方で貴重ですし。見返りを望まない無欲で勇敢なお方ですし。何より……この、わたくしが望んでいますので……」 ミリアは俺の目をまっすぐ見つめ、その言葉には一切の迷いがない。その真剣な眼差しに、俺は押し流されそうになる。 うわぁ……逃げられないじゃん。 別にミリアを嫌な訳じゃないけど、急ぎ過ぎで少し強引過ぎじゃない?「急だしさ、お付き合いをしてからじゃないの?」「お付き合いですか? お付き合いをしたら婚約と同義なので、どちらにしても結婚ですけれど?」 ミリアは首を傾げた。その仕草は可愛らしいが、俺の常識とはかけ離れている。「なんで、そうなるの?」「お付き合いをして取り消されたらお互い、どちらかが問題があるという事になりますので……普通は、今後の結婚がし難くなります。お付き合いと婚約は同じなのですよ」「あ~なるほど……」 この世界の常識か。俺は頭を抱えたくなった。完全に詰んでるじゃないのか……これ。「お話は、これくらいにしまして、お食事をしませんか?」 ミリアは、にこやかに提案した。その笑顔は、まるで何もなかったかのように明るい。「そうだな」 なんだか一気に食欲が無くなったんだけど。少し貴族の食事を楽しみにしていたんだけどな……。なんだか、やっぱり気楽に食べられるラーメンが恋しくなってきた。 リビングに移動すると、広くて豪華な感じで圧倒されるね……さすが貴族様って感じのリビングだなぁ。天井は高く、中央には豪華なシャンデリアが煌めいている。壁には精巧な彫刻が施され、窓からは陽光が降り注ぐ。「スゴイね……さすが貴族様って感じ」 俺は思わず感嘆の声
俺は内心で動揺した。心臓がドクンと音を立てる。それにしても、セミロングのサラサラの金髪は陽光を受けてキラキラと輝き、透き通るような青い目は宝石みたいにキレイだ。こんな近くで可愛い美少女を見られるなんて……。目のやり場に困る。 ミリアは少し顔を伏せ、戸惑いがちに口を開いた。その声は、控えめながらも真剣さを帯びていた。「あの……とても希少で高級な治療薬を使用をして頂いたとお聞きしています……しかも兵士達にまで惜しげもなく使って頂いたと……」 彼女の声は、どこか遠慮がちだ。「それも含めて、お礼は終わってるよ」 俺は軽く手を振った。別に気にすることじゃない。「いえ……それにキスまで……」 ミリアは顔を真っ赤にして、じっと俺を見つめてきた。その潤んだ上目遣いに、俺の心臓が少しだけ跳ねる。「うわぁ……上目遣いで頬を赤くして……可愛いなぁ……」 多分、どこの世界でも、貴族と平民だし付き合ったり仲良くするのは無理だろうなぁ……。彼女や友達にしても面倒になりそうだよな。貴族だし。「キスではなく、助けるためにしただけだよ? 気を失い掛けていて、一人で治療薬を飲めなかったので……口移しで飲ませただけで……」 俺は慌てて釈明した。誤解されては困る。「それでも、皆の前でキスをされたので……わたしは……」 ミリアの声が小さくなる。ん?まさかキスをしたので結婚とか? まさかなぁ……。一抹の不安がよぎる。「わたしは……ユウヤ様のお嫁さんになります……」 彼女の言葉に、俺は思わず固まった。