異世界転生者ユウヤ、チート能力で波乱の幕開け! ごく普通の社会人だったユウヤは、ある日突然、異世界へ転生! 女神サーシャの「手違い」で、彼はモンスターがいる世界へ放り込まれることに。転生特典として、万能バリアとアイテム生成・収納能力を手に入れるが、同時に中学生くらいの見た目になってしまい戸惑う。 チート能力を駆使し、モンスターを倒しながら異世界生活を満喫し始めるユウヤ。しかし、初めて訪れた町で予期せぬトラブルと、重傷を負った貴族の少女との出会いが彼を待ち受ける。平穏を望むユウヤの異世界ライフは、早くも波乱の幕開けを迎える!
view moreユウヤはごく普通の20代半ばの社会人だった。あの日もいつものように会社へ向かおうと、電車を降りて最寄りの駅から会社まで10分ほど歩いていた、その時だった。——突如として襲いかかった強烈な目眩に、彼の意識は容赦なく飲み込まれ、そのままアスファルトの地面に崩れ落ちた。冷たい感触が頬に触れる間もなく、ユウヤの視界は真っ暗になった。
——異世界への転生次にユウヤが目を覚ますと、そこは七色の光が揺らめく、まるで万華鏡の中にいるような幻想的な空間だった。虹色の色彩に包まれたその場所で、彼はふわふわと宙に浮いている。目の前には、ユウヤと同じように宙に浮く一人の少女がいた。10代後半くらいに見えるその少女は、どこか見慣れない、しかし可愛らしい奇妙な服を身につけていた。心配そうにユウヤを見つめていた彼女は、彼が意識を取り戻したことに気づくと、途端に申し訳なさそうな表情になり、深々と頭を下げてきた。
「ごめんなさいっ!手違いで……その……魂を回収してしまいましたっ!」
「は、はい?魂?」
突拍子もない言葉に、ユウヤの頭は疑問符でいっぱいになった。「ここはどこだ?君は誰だ?間違って魂を回収しただと?」混乱する彼の脳裏に、なぜか既視感がよぎる。そうだ、これはまるでアニメや漫画で見た「異世界転生」のシーンではないか。
「いきなり言われても分かりませんよね……」
少女は困ったように眉を下げた。
「いえ、なんとなく分かってきたような気がします」
ユウヤは混乱しつつも、冷静を装って答えた。現状を素早く理解することが、この奇妙な状況を乗り切る唯一の方法だと直感していた。
「ホントですか? 話が早くて助かりますっ!」
彼女は少しだけ表情を緩め、安堵の息を漏らした。その表情は、まるで肩の荷が下りたかのようだった。
「それで……俺はこれからどうなるんですか? 元の場所には戻せないから困っているんですよね?」
「そうなんです……魂を完全に回収してしまったので元に戻せないんですよ~」
ユウヤが怒っていないと分かると、彼女は一気に緊張を解いたのか、普段通りの明るい笑顔と軽快な口調に戻った。その変わりように、ユウヤは少し面食らった。
「元の世界に戻れないってことは……別の世界に?」
「そうなんです。それで良いですかね?」
「いや……その別の世界の説明をお願いします……」
「忘れてましたっ! えっとですね……文明はそこそこに進んでいて~モンスターが現れたりする世界ですね~」
モンスターが現れるだと? それはつまり、命の危険が常に付きまとうということか。何の知識も、体を動かす術も、ましてや剣や魔法なんて使えるはずもないユウヤが、そんな世界にいきなり放り込まれても困る。すぐにモンスターの餌食になって、また意識だけがここに逆戻りになるのがオチだろう。
「はい? 完全にゲームの世界じゃないですか!」
「そうなんですか? 知ってる世界で良かったです~また、説明の手間が省けて良かったですっ♪」
少女がにっこり笑って言った。その無邪気な笑顔は、ユウヤの不安とは裏腹だった。
「そんな危険な世界に転生させられても、すぐに死んじゃうじゃないですか! 何か特別な能力とかスキルを付けてもらえませんか?」
いや、そんな世界に……ただ放り込まれたら即終了だろ!? なにか……いわゆる転生特典を……そんな思いで聞いてみた。喉元まで出かかった「チート能力をください」という言葉を寸前で飲み込み、表現を和らげた。
「もちろん良いですよ~♪ わたしの不注意だったので……何かご希望はありますか~?」
少女が、あっさりと許諾してくれた。微笑みながら可愛く首を傾げて聞いてくるその仕草は、まるで喫茶店の店員がメニューを尋ねるかのようだった。
あまりにも急な出来事で、すぐには思いつかない。頭の中をあらゆる選択肢が駆け巡る。
……普通ならば……死なないための強さを求めるのも悪くないが、そうするといわゆる『冒険者』になって、常に危険と隣り合わせの生活を送ることになる。正直、格闘技や戦闘はあまり得意じゃないし、好きでもない。
俺が欲しいのは、大切な人を守れるだけの力だ。そう考えると、攻撃よりも防御系のバリアが一番しっくりくる。あとは、異世界で生活していくための足掛かりとして、アイテム生成の能力が欲しい。そして、生成したものを劣化させることなく、無限に収納できるストレージシステムがあれば完璧だ。
ユウヤが希望を伝えると、彼女は納得したように笑顔でコクリと頷いた。
「はい。それなら大丈夫です! それで良いんですかぁ~? その世界で最強にしろとか……大金持ちにしろとか言われると思ってましたけど……それは出来ないんで。世界のバランスが崩れてしまうので。っていうか世界最強にすると大抵は好き放題をし始めて最後は魔王と呼ばれる存在になってしまうのですよ」
少女は笑顔から苦笑いしながら俺の願いを予想していたらしい事を言ってきた。
「俺は戦いが苦手なので、そういうのは興味がないですね……」
ユウヤは苦笑しながら答えた。
「他にはないですか?」
「他ですか……あなたのお名前は?」
「あ、まだ名乗っていなかったですねっ! わたしは、女神のサーシャですっ♪」
「その……俺と友達になってもらえないですか?」
ユウヤは、半ば冗談めかして、しかし本気で尋ねてみた。この状況で、唯一心を許せる存在になりそうな彼女に。
「え?あ……はいっ。初めて言われましたぁ~嬉しいですっ♪もちろん良いですよ~」
女神のサーシャが、花がほころぶような可愛い笑顔で答えてくれた。女神と友達なんて、前代未聞だろう。まあ、誰に話しても信じてもらえないだろうけど、これはこれで悪くない。
「サーシャって呼んでも良いかな?」
女の子を名前で呼び捨てで呼ぶのは初めでだった。その初めての相手が……女神さまになろうとは。内心ドキドキだった。
「はいっ。お友達ですもんねっ♪ じゃあ……わたしはユウヤと呼びますね~」
「たまに話しとか出来たら、寂しくないから会話も出来たら良いかな~なんて」
ま、無理だろうけど……女神さまは忙しいだろうし。声だけでも聞けたら……癒されるだろうなぁ……
「はい。出来るようにしておきますねっ♪」
あれ? すんなりと快諾されたぞ……!? 嫌われないように……たまに連絡くらいなら良いか?
「ありがと」
「それでは転生を致しますね~。お友達ですので色々とサービスしておきますね~♪」
「うん。よろしく」
会話が終わり、サーシャの言葉と共に、ユウヤの意識は再びゆっくりと、しかし確実に遠のいていった……。七色の光が収束し、彼の体を包み込む感覚と共に、意識は深い闇へと沈んでいった。
——新たな世界の夜明け…………
次にユウヤが意識を取り戻したのは、暖かな日差しが降り注ぐ高原だった。草木を揺らす風の音が心地よく、鳥のさえずりが遠くで聞こえる。柔らかい草の絨毯が広がるその場所で、彼は一本の大きな木にもたれかかって座っていた。土の匂いと、青々とした草の香りが鼻腔をくすぐる。
「おっ。キレイな景色の場所じゃん。でも、モンスターがいるんだよな。いきなりモンスターとか勘弁してよね……」
念のため辺りを見回すが、それらしい気配はなく、ユウヤは胸をなでおろした。ふと、手のひらを広げ、集中する。試しに『治癒ポーション』をイメージすると、彼の手のひらに、きらめく琥珀色の液体が満たされた小さなガラス瓶が、何の脈絡もなく現れた。
「すごいじゃん。効き目を試したいけど……でも、わざわざ怪我したくはないしな……。効き目が微妙だったら……最悪だしなぁ」
今度はアイテムを収納するイメージをすると、ポーションは手からすっと消え、まるで空間に溶け込んだかのように見事に収納されたようだ。なんて便利なんだ。さすが友達のサーシャは気が利く。
しかし、家はないのか……。こういうのって……普通さぁ、小屋とかで目覚めるんじゃないのか? 広大な草原のなかに放り出されても……
高原をしばらく歩いていると、やがてけもの道のような場所に出た。土と草が踏み固められたその道は、動物たちが通った跡だろうか。さらに歩き続けること数時間。太陽はすでに傾き始め、空はオレンジ色に染まりかけている。もう体力の限界だった。道の脇の木に寄りかかり、ずるずると座り込んだ。足の裏がじんじんと痛み、喉はカラカラに乾いていた。
「はぁ……まだ町や村に着かないのか?腹も減ったし……疲れた」
その時、閃いた!そうだ、体力回復のポーションを使えばいいじゃないか!さっそく取り出して飲み干すと、即座に効果が現れた。体中に温かい力が満ちていく感覚があり、みるみるうちに疲労感が消え去り、体力が回復した。だが、空腹感だけは解消されなかった。胃の腑がギュルギュルと鳴る音が、静かな高原に響き渡った。
その仕草は、まるでお気に入りのぬいぐるみを抱きしめる子どものようで――けれど、そこには「わたしのもの」という強い意志がこもっていた。 レニアは、少しだけ目を伏せて、かすかに笑みを浮かべた。「……私のような者は、相手にされませんので。大丈夫です」 その言葉に、ユウヤは思わず言葉を詰まらせた。(いや……レニアは、十分可愛いと思うけど) 心の中でそう呟く。しかし、それを口に出してしまったら、目の前の状況がどうなるか、本能的に理解していた。「……ユウヤ様?」 にこぉっと満面の笑みを浮かべたミリアが、ユウヤの腕にさらにぎゅっとしがみついてくる。その圧力から、何らかの警告を感じ取った。(……あ、今、何か言ったら終わるやつだ) ユウヤは、何も言わずに、ただただ高く広がる青空を見上げた。穏やかな風が吹き抜け、ミリアの豊かな金髪がふわりと揺れる。その動きに合わせて、ほんのりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。「この近くに住んでるの?」 ユウヤの問いかけに、レニアは小さく頷いた。「馬車で三十分ほどのところに、小さな村があります。王都の外れにある農村で、私の家が治めています。農産物の供給地として、王都にも野菜や穀物を届けているんです」「そうか……多分、治ると思うけど、もし治らなかったら――」 ユウヤは、ちらりとミリアの方に視線を送り、彼女の表情を確かめてから、優しい声で続けた。「ミリアの屋敷に居るから、来てもらえれば俺が直接、治しに行くよ」 その言葉に、レニアの目がぱっと見開かれた。希望の光が、彼女の瞳の中で瞬く。「……ありがとうございます」 その声は、震えるほどに嬉しそうで――レニアの顔に、はっきりと希望の光が灯った。長い間、諦めかけていた父の病が治るかもしれないという、確かな希望だった。 けれど、その瞬間――「……ユウヤ様?」 ミリアが、にこぉっと笑いながら、ユウヤの袖をそっとつまんだ。その笑顔は柔らかいけれど、どこか拗ねたような気配が混じっている。「『ミリアの屋敷』って……まるで、わたくしのところに居候しているみたいな言い方ですわね?」「え、いや、そういう意味じゃなくて……」 ユウヤは慌てて否定する。「ふふっ、冗談ですわ。……でも、あまり他の女の子に優しくしすぎると、嫉妬しちゃいますからね?」 ミリアは、そう言ってユウヤの腕にぴたり
今は、髪も整えられ、ドレスも綺麗に着こなしている。けれど、その表情にはまだ、どこか不安が残っていた。「あ、あの……先程は、本当にありがとうございました」 少女は、ユウヤとミリアの前で深く頭を下げた。「あれは……ヒドかったしね」 ユウヤが静かに返すと、少女は小さく頷いた。「ホントに……助かりました。あのままだったら、きっと……」 言葉の先を飲み込みながらも、感謝の気持ちは確かに伝わってくる。ミリアも、そっと微笑んで言葉を添えた。「あなたは、何も悪くありませんわ。あの場で毅然としていたこと、わたくしは誇りに思います」 少女の目が、かすかに潤んだ。そして、もう一度、深く頭を下げる。「……ありがとうございます」 その姿に、ユウヤはふと、“助ける”という行為の意味を、改めて感じていた。「……いつものことですから、大丈夫です。み、ミリア皇女殿下だったのですね……」 貴族の少女は、少し緊張した面持ちで頭を下げた。ミリアは、にこやかに頷く。「はい。ミリアですが?それより――ユウヤ様のお陰で、いじめてくる人は居なくなったんじゃないのかしら?」「……はい。助かりました……」 貴族の少女の声は、かすかに震えていたが、その表情には、確かな安堵が浮かんでいた。 けれど、(……他にも、何か話したそうだな) ユウヤは、貴族の少女の視線が何度も揺れているのに気づいた。言葉を選ぶように、何度も口を開きかけては閉じている。「何か他にも話がありそうだけど?」 ユウヤがやんわりと促すと、レニアは小さく息を吸い、勇気を振り絞るように口を開いた。「……はい。えっと……冒険者の方が話していたのを聞いたのですが……薬屋さんと、お聞きしたのですが……本当でしょうか?」「あ、うん。薬屋だよ」 ユウヤは、少し照れたように笑って答えた。それは、戦場でモンスターを一掃した“剣士”の顔ではなく、人を癒す“薬屋”としての、素朴な笑顔だった。「
驚いた顔をして、「何者なんだ」と聞かれたけど、(……俺は薬屋、だよな?) 王子って、職業なのか?いや、違うよな。肩書きだ。でも、それを名乗るのもなんか恥ずかしいし、そもそも信じてもらえないだろう。(他国の王子が、護衛も連れずにモンスターの出る場所に来るなんて、普通ないし……) だから、ユウヤは少しだけ困ったように笑って、答えた。「えっと……薬屋ですけど?」 その瞬間、「そんな薬屋がいるかよ!!」 冒険者の叫びが、森に響いた。ユウヤは、苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。(だよね~。やっぱ信じてもらえないかぁ) じゃあ、なんて答えればいいんだよ?王子?いや、それはもっと信じてもらえない。しかも他国の王子が、護衛も連れずにモンスターの巣に来るなんて、どう考えてもおかしい。(……薬屋って言っても、服がこれじゃ説得力ないしな) 冒険者たちの視線が、じりじりとこちらに集まってくる。俺の着ている、王族仕様の豪華な服。そして、六体のモンスターを一瞬で斬り伏せた異常な強さ。そのギャップが、彼らの脳を混乱させているのが、痛いほど伝わってきた。「……じゃあ、なんて言えば納得する?」 思わず、ぼそっと呟いた。誰かが、ぽつりと答える。「……“勇者”とか、“伝説の剣士”とか……?」「いや、それはそれで恥ずかしいな……」 ユウヤは頭をかきながら、ため息をついた。(肩書きって、難しい)「そう言われても、薬屋なんですけどね……」 ユウヤが肩をすくめてそう言うと、冒険者は戸惑いながらも頷いた。「そ、そうなのか……薬屋ね…&hel
ただの八つ当たりだった。誰にも見られていない、誰にも知られない、そんな“感情の処理”のつもりだった。 けれど、ふと頭をよぎる。(……あれ、仲間だったんじゃないのか?)(俺が倒したあいつらの“家族”とか、“群れ”とか――)(それで、怒って……復讐に来た?) 王都の外れに現れたという、人型モンスターの群れ。冒険者ギルドが緊急出動を要請するほどの規模。負傷者が続出し、街が混乱しているという報せ。(……俺が、引き金を引いた?)(……大量発生って聞いたけど) 現場に到着したユウヤは、眉をひそめた。森の開けた一角。そこには、確かに人型のモンスターがいた。――六体。(全然、大量じゃないし) てっきり、十体以上が暴れているのかと思っていた。王都が騒然となるほどの規模なら、それくらいは当然だと。だが、目の前にいるのは、たったの六体。その六体が、数人の冒険者たちと激しく交戦していた。剣戟の音、叫び声、飛び散る血――現場は、確かに“戦場”だった。 ユウヤは、交戦中の冒険者の一人に声をかけた。「えっと……モンスターって、これだけ?」 その言葉に、冒険者が振り返る。顔には、驚きと苛立ちが浮かんでいた。「『六体も』の間違いじゃないのか!?六体もいれば、十分に脅威だろ!」 その声には、怒りというより、“理解されないことへの焦り”が滲んでいた。ユウヤは、少しだけ目を丸くした。(……あ、そっか) 自分にとっては“六体”でも、普通の冒険者にとっては“六体も”なのか。その感覚のズレに、少しだけ申し訳なさを覚えた。「……それで全部で六体?他の
その穏やかな時間を破ったのは、王様のもとに駆け寄る使者の声だった。「陛下、冒険者ギルドより緊急の出動要請が届いております!」 その声に、場の空気が一変する。王様が使者から書状を受け取り、目を通すと、眉をひそめて静かに呟いた。「……人型のモンスターが、大量に現れた、か」 その言葉に、周囲の将軍たちがざわつく。そして、王様の視線が、まっすぐにユウヤへと向けられた。その眼差しには、問いかけも命令もなかった。ただ、静かな“信頼”があった。 ユウヤは、すっと立ち上がる。(……俺のワガママで兵士を練習相手に貸してもらったんだ)(だったら、今度は俺が返す番だ) ミリアが、不安そうにユウヤの袖を掴んだ。「ユウヤ様……行かれるのですか?」「ミリア、行ってくる」 ユウヤが立ち上がり、軽く手を振るように言うと、「ダメです。お休みください!ずっと戦い続けていますよ!」 ミリアが、すぐさまユウヤの腕を掴んだ。その手は小さくて華奢なのに、驚くほど強くて、何より、温かかった。青く透き通った瞳には、明らかに疲労を気遣う色が浮かんでいる。「いや……人型のモンスターが大量に現れてるんだよ?」「ですから、少しお休みください!」 ミリアの声が、少しだけ震えていた。それでも、ユウヤは苦笑して肩をすくめる。「まだ余裕あるしさ。俺は薬屋だよ?体力回復薬もあるし、ちゃんと使うから」 その言葉に、ミリアは唇を噛みしめた。言い返したいのに、言葉が出てこない。そして――「ううぅ……気を付けてくださいよぅ……!」 ミリアは、掴んだ腕をぎゅっと握りしめたまま、涙をこらえるように顔を伏せた。ユウヤは、そっとその手を包み込むように握り返す。「……分かった」
そして、視線の先には、三十人の兵士たちが、静かに木剣を構えて待っていた。「格好良いところ、見ててくれる?」 ユウヤが軽く笑ってそう言うと、ミリアは、ふるふると首を振った。「そのようなことをなさらなくても……ユウヤ様は、もう十分に格好良いですわ……」 その声は、かすかに震えていた。青く透き通った瞳が、うっすらと潤んでいる。それでも、ミリアはしっかりと頷いた。 その姿に、ユウヤは小さく息を吐いた。(……俺の、自己満足なんだけどね) けれど、彼女のその言葉が、胸の奥にじんわりと染み込んでいく。 そして、視線を前に向ける。そこには、整然と並ぶ三十人の兵士たち。全員が木剣を構え、無言でユウヤを見据えていた。(うわぁ……実際に対峙すると、結構な迫力だな) 木剣の列が、まるで壁のように立ちはだかる。その圧力は、数の暴力そのものだった。だが、ユウヤは、静かに剣を構えた。その動きに、無駄は一切なかった。観客席が静まり返る。誰もが、息を呑んで見守っていた。 そして、試合が、始まった。 木剣を構えた三十人の兵士たちが、一斉にユウヤに向かって殺到する。その動きは、まるで訓練された獣の群れのようだった。だが、ユウヤは動かない。その静けさが、かえって周囲の緊張感を高めていく。 ――シュッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ! 木剣が交錯する音が、運動場に鋭く響く。ユウヤは、地を蹴った。彼の身体が、一瞬で空へと舞い上がる。宙を舞い、降り注ぐ剣の雨を避けながら空中で一回転。その回転の勢いを利用し、木剣を水平に一閃させる。風を切り裂き、最初に飛び込んできた兵士の胴体を一撃で叩き伏せた。 着地と同時に、しなやかなバク宙。背後にいた兵士たちの死角に滑り込み、木剣の柄で脇腹を正確に打ち抜く。一撃。次の瞬間には、別の兵士の懐に入り、剣を弾き、足を払って倒す。その動きは、もはや剣術ではなかった。 まるで舞踏。 剣を振るうというより
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