告白してきた職場の後輩が、クズではなく『クズ様』だったので困っています。

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last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-05
Oleh:  山雨 鉄平Tamat
Bahasa: Japanese
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クズリンこと葛原凛太郎(くずはらりんたろう)は、IT企業に勤める冴えない優男。他部署に勤める先輩・阿賀川七海(あかがわななみ)密かに想いを寄せていたが、ある日盛大にフラれ、ショックで気絶してしまう。意識を取り戻した凛太郎は、人の姿を借りた最強の〇〇〇になっていた!? 自信を失いかけたすべての日本人に贈る、新時代の神話の物語。

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Bab 1

第1話 氷の女王の憂鬱

月森遥(つきもり はるか)は、ついに離婚を決めた。

結婚して五年。周囲からは「愛されている奥さん」と羨ましがられ、聡明で可愛らしい息子にも恵まれたと誰もが言った。

けれど、その幸福の影に隠された真実を知るのは、遥ただ一人。

夫は、ずっと初恋の人を忘れられずにいる。

命懸けで産んだ息子さえも、心の奥では早く母親を取り替えてほしいと願っているのだ。

遥は決めた。彼らの願いを叶えさせてやることを。心のない夫も、情のない息子も、もういらない。

パンッ、パン、パパーン……

窓の外から響く花火の音に、遥はハッと我に返った。手元には、離婚届。そっとそれを撫でながら、静かにペンを取り、自分の名前を書き入れた。

今日は大晦日。けれど夫も、息子も、帰ってこない。

そんなとき、夫・狩野成実(かりの なるみ)からメッセージが届いた。

【取引先と外で食事中。健ちゃんは秘書に預けてある。食事のあとで連れて花火を見に行くから、先に寝ていい。待たなくていい】

その文面に、遥は口元を歪め、冷たい笑みを浮かべた。

「取引先」とは誰なのか。健翔(けんしょう)を連れて、誰と花火を見に行くつもりなのか。

考えるまでもない。調べる必要すらない。どうせ父子そろって、立花明菜(たちばな あきな)という女と一緒にいるのだろう。

遥は、リビングに飾られた大きな家族写真をじっと見つめた。

成実が健翔を抱き、遥の腰に腕を回し、父と子がそれぞれ、彼女の頬と額にキスをしている。

写真の中の遥は、満ち足りた表情を浮かべている。健翔も笑っている。普段は感情を見せない成実でさえ、その時は穏やかな顔をしていた。

誰が見ても、理想的な三人家族だった。

だが、明菜が戻ってきたあの日から、すべてが変わった。

外で花火が炸裂する音と同時に、彼女のスマートフォンが震えた。届いたのは、明菜からの動画だった。

画面には、明菜が撮った成実と健翔の後ろ姿。大小の背中が寄り添うように並んでいる。その画面の片隅で、明菜の手に光る大きなダイヤモンドリングが、やけに眩しかった。

そして三人の声が重なる。

「あけましておめでとう!」

男が振り返り、優しさを湛えた瞳で明菜に囁いた。

「これから毎年、もう逃さない」

そんな眼差し、そんな声。遥は一度たりとも向けられたことがなかった。

最も情熱的だったはずの結婚初期の二年間でさえ、新年や記念日に彼がしてくれたのは、額に淡いキスと、「ありがとう」という事務的な言葉だけだった。

遥はずっと、成実のことを「岩」のようだと思っていた。何をしても、どう触れても温まらない岩のように。

だが明菜を見て、ようやく気づいた。彼の優しさは、最初からすべて、明菜に預けられていたのだ。

遥は動画を閉じ、最後の花火が夜空に消えるのと同時に、成実にメッセージを送った。

【早く帰ってきて。明日はお墓参りだから】

彼の両親への、最後の親孝行だ。

一ヶ月後、二人は赤の他人になる。

滑稽で、一方的な思い込みに満ちたこの結婚も、ついに終わりのときを迎えるのだ。

どれほどの時間が経っただろうか。玄関のドアが開く音がして、成実が入ってきた。

リビングに遥がまだいるとは思っていなかったらしく、一瞬驚いた顔をした。食卓に並んだ料理に目を向けても、表情は何も変わらない。

「新年くらい、穏やかに過ごさせてくれないか……本当に縁起が悪い」

澄んだ声で、苛立ちをぶつけてきた。

続いて健翔が入ってくると、わざと靴を蹴り飛ばしながら、ドタドタと大きな音を立てて歩き回った。

「もう遅いんだから、静かにして」

思わず注意すると、健翔は顔を真っ赤にして怒鳴り返した。

「余計なお世話だ!クソババア!」

そして彼女の右手を見て、吐き捨てるように言った。

「指が三本しかないクソババアが!」

遥は思わず右手を引っ込めた。薬指と小指のない手が、震えていた。

離れると決めていたはずなのに。子どもからの悪意は、彼女の心に深く突き刺さった。

一瞬、息ができないような苦しさに襲われる。

それでも、成実は最初から最後まで、一言も発さなかった。遥が命を懸けて産んだ子どもが、母親を罵倒するのを、黙って見ていたのだ。

ガンッ!

健翔が勢いよくドアを閉めた。

ようやく成実がゆっくりと歩み寄り、皮肉を口にした。

「今日は新年だ。みんな騒がしくて当たり前だろ。こんな音で文句言うやつなんていない。大げさすぎるんだよ。道理で健ちゃんがお前を嫌いになるわけだ」

遥は口元を歪め、冷ややかな笑みを浮かべた。

「もしかしたら下の階の人も、私と同じように、大晦日をひとりで過ごして、早く眠ろうとしていたのかもしれないじゃない?」

その言葉に、成実は一瞬、視線を落とした。食卓に並ぶ料理に気づき、わずかに罪悪感のようなものが表情に浮かんだ。

だが、遥の声は冷たく続いた。

「健翔の態度だって、誰かがいつも私の悪口を吹き込んで、私を嫌うように仕向けてたからじゃないの?」

成実の動きが、ピタリと止まった。その表情から、さっきまでのわずかな罪悪感が、すっと消える。

眉間に皺を寄せ、低い声で詰問した。

「……明菜のことを言ってるのか?お前が一人で寂しいと思って帰ってきてやったのに、それがその態度か?」

その言葉を聞いた瞬間、遥の心には、もはや怒りも哀しみも湧かなかった。ただ、滑稽だと……おかしくて仕方がないと、思っただけだった。

何も言わず、テーブルに置いていた署名済みの離婚届を手に取った。

そして、ウォークインクローゼット……いや、正確には「寝室」に向かった。

健翔は、遥がこの家のどの部屋にも入ることを許さなかった。成実もそれに何も言わなかった。

だから、遥の服だけが並ぶこの狭いクローゼットが、唯一の避難所になっていた。

扉を閉める瞬間、外でガシャンと食器が落ちて割れる音がした。

けれど遥は、無表情のまま鍵をかけ、その音を聞こえないふりでやり過ごした。

もう、彼らを甘やかす気はない。愛情も、絆も、とうに枯れ果てたそんな他人を、許し続ける理由なんて、遥にはもうどこにもなかった。

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第1話 氷の女王の憂鬱
――私は、この感覚を知っている気がする。 自分の体が飲み込まれる。普通に考えれば、死ぬ。 だけど、この感覚は何だろうか。 私のこれまでの人生は終わるのか。 これから始まるのは第二の人生か、それとも新しい神話だろうか――♦ ♦ ♦『れ…うか…れ…りんたろう……』いまひとつハッキリと聞こえない。自分の名前が呼ばれているのか。夢か現実か、区別がつかない。『代われ、凛太郎。戦《いくさ》じゃ』「…ハッ!」 葛原凛太郎《くずはら りんたろう》は、目を覚まして布団から飛び起きた。女のように長くツヤのある髪の毛が、汗で顔にへばりついている。(また、夢の中であの声が…。しょっちゅう聞いてる気もするし、久しぶりな気もする。誰の声なんだろ。どこか懐かしい感じがするんだけど…)ふと、時計を見る。「やっば、遅刻だ!」凛太郎はシャワーも浴びずに、ハンガーにかけたワイシャツとスーツを羽織って駅に走っていった。♦ 東京都新宿。株式会社ギャラクティカ。もともと2~3人規模の小さなwebデザイン事務所だったが、創業者で現社長の久田松湧慈《くだまつ ゆうじ》の手腕により顧客に恵まれ、一代であっという間に成長。現在はデジタルコンテンツ制作全般とプロモーション、コンサルまで幅広く扱い、業界でもそろそろ中堅から大手の背中が見えてきそうな位置にある。いわゆる「気鋭のIT企業」というヤツだ。 阿賀川七海《あかがわ ななみ》は新卒入社から5年目。現在は制作部デザイン課のチーフデザイナーである。非常に仕事が早く、何よりもルックスがいいため顧客がつきやすい。会社の内外に非常にファンが多い。 今日も朝7時半から七海は手を爆速で動かしながらパソコン画面とにらめっこをし、顧客からの仕事を黙々とこなしている。なんとPCは二刀流。2台別々のPCを同時に操作し、自分の仕事もしつつ、部下の仕事への指示出しとチェックもおこなっている。今やギャラクティカにとってなくてはならない戦力といえるバリバリのキャリア・ウーマンだ(この言葉や概念自体が相当に古臭いものではあるが)。  「おはようございまーす…」 汗をにじませ、照れ隠しの笑顔を浮かべながら、阿賀川七海と同じ職場に、入社3年目の葛原凛太郎が出社してきた。始業9時の2分前である。駅から走って、何とか滑り込みセーフで間に合ったらしい。 「おはよ
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第2話 クズ
「――私ね。多分、癌なんだ。乳がん」七海の口から予想外の答えを聞いて、凛太郎の脳みそは一瞬、活動を停止した。 入社早々、営業部の先輩である若生から、新入社員の歓迎会の時に「彼女、有名人やで」と阿賀川七海のことを知らされたが、その瞬間は凛太郎25年の人生で初めての”一目ぼれ”であった。阿賀川七海は確かに美人である。しかしそれ以上の『何か』を凛太郎は強く感じ、強力な引力に吸い寄せられるかのように惹かれていった。 だが同時に、あまりにも相手が高嶺の花過ぎるとも感じていた。かたや会社のアイドルでチーフデザイナー。仕事は抜群にできて人望も篤い。それと比べて自分は…営業成績は常に最下位争いばかり。不思議と社長を含むまわりの人に愛されているから社員を続けているだけで、普通ならいつクビにされてもおかしくないはずだ。人としての格差がありすぎるという理由で、凛太郎は七海に対して、自分の思いをうち開けることはしなかった。どれだけ苦しくても、このまま社内に大勢いる「阿賀川七海ファン」のうちの一人のままでいいと思っていた。 ところが今回、突然の七海の退社の噂を聞いて、七海と会えなくなるのは絶対に嫌だという思いが、この遠慮の気持ちを打ち破った。もし彼女が本当に会社を辞めるのなら、自分の思いを伝えよう。本来、なぜ営業マンを続けられているのかわからないほど奥手である凛太郎にとって、この決断をするだけでも実に膨大なエネルギーを使ったのである(少なくとも本人はそう感じていた)。 だが今、凛太郎は心底後悔していた。自分の惚れた腫れたという感情だけでしかモノを考えていなかった己れの浅はかさが、心底憎かった。決して体力に自信がある方ではないが、健康体である凛太郎にとって「癌」という言葉は新鮮ですらあった。それほど凛太郎の自分史において馴染みのない言葉であった。自分が思いを寄せている相手は、まったく予想外のものと、おそらくは大いなる深刻さをもって戦っていたのである。「……」凛太郎はなかなか言葉を発することができない。「ごめんね。リアクションに困っちゃうよね。…胸に…しこりがあってさ。今度、きちんと検査するんだけど、ほぼ間違いないでしょうっ、だって」「…そう…ですか…」「…乳頭にね。少しでも癌細胞があると、全摘出なんだって。全部取っちゃわなきゃいけないの。」「…」「私、しこりの場所が
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第3話 不思議
「いただきます」七海はたしかに、自分が龍に食べられる『ガブリ』という音を聞いた気がした。「いやーーっ!!!」七海は恐怖で目をつぶって叫び声を上げた。――私は、この感覚を知っている気がする。 自分の体が飲み込まれる。普通に考えれば、死ぬ。 だけど、この感覚は何だろうか。 私の人生は終わるのか。 これから始まるのは第二の人生か、それとも新しい神話だろうか――「…あれ?」おそるおそる目を開ける。どうやら自分は食い殺されてはいないようだ。「なんじゃ、大げさじゃの」おそるおそる目を開けて前を見ると、たった今自分にかぶりついたはずの龍は、凛太郎の姿に戻っている。ただ相変わらず口元からは牙が突き出ており、眼は緑色だ。「安心せい。おぬしの肉体を傷つけてはおらん」七海が周りを見ると、レストラン「カルメン」の客たちが、先ほどの七海の叫び声を聞いて一斉にこちらを見ている。七海は恥ずかしさで顔を赤らめる。「どうかなさいましたか?」七海の叫び声を聞きつけて、ポニーテールの女子店員が心配して声をかけてきた。アルバイトの子だろうか、女子高生くらいの年齢に見える。「いえ、何でもないです…すみません!」七海はさらに真っ赤になって冷や汗をかく。「なにするの!どういうつもりよ!」「なかなかうまかったぞ。これでもう、おぬしの体は心配いらん。」「はあ…?」「触ってみい」「どこをよ?」「何を言うか。乳に決まっておろうが」「乳って…!」「いいから、触ってみよ」凛太郎が真剣な眼差しを向ける。七海はおそるおそる、右の乳頭近く、しこりがあった場所を触る。「あれ…消えてる?」「言うたじゃろ。心配いらんと」♦ 数日後、新宿総合病院。七海は緊張しながら、自分の担当医である乘本洋幸と対面している。「不思議ですね…全く異常ありません」「…!」「ちょっと、触診失礼します。…やはり消えていますね。おかしいなあ…。前回触診したときは確かにしこりがあったのに。 念のため、1週間後、もう一度検査してみましょうか」「…はい…分かりました」病院からの帰り道、新宿の繁華街の屋外大画面には、国会中継が映し出されていた。与党人気の原動力ともいえる美人女性議員が、朗々と答弁をしているところだった。♦ ところ変わって、株式会社ギャラク
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-16
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第4話 病室の子
新宿総合病院。七海が検査を受けた病院である。七海と、九頭龍の人格のままの凛太郎の二人は、ある入院患者の部屋にやって来た。表札には、「阿賀川 光」とある。『見せた方が早いから』と、七海は九頭龍凛太郎に対し説明をせずに病院に連れてきた。「…お姉ちゃん!」読んでいた本から顔を上げて精いっぱい元気そうな声を絞り出したのは、小学校3,4年生くらいの少年だった。入院生活が長いのだろう。痩せているうえに髪の色も淡く、儚げな雰囲気が漂っている。よほど本が好きと見えて、大人が読むような分厚い難しそうな本が何冊も病室のベッドの周囲に積みあがっている。好きなミュージシャンなのだろう、病室に貼ってある女性歌手のポスターと、図書館にしかないような専門書の束とのコントラストが奇妙な感覚を与える。よく見ると、ベッド横に設置された大きな箱型の装置から2メートルほどの管が出ていて、少年の体につながっている。一体、何の装置だろうか。「光、また勉強してたのね。今日は会社の友達を連れてきたの。 …紹介するね。この子が弟の光。光、こちら会社の同僚の葛原さんよ。挨拶できる?」「こんにちは、阿賀川光です」光はニッコリと人懐こい笑顔で微笑む。「おう、葛原凛太郎じゃ。よろしくの」「葛原さんは、七海姉ちゃんの彼氏なの…?」「ち、チガウワヨ」「ま、そういうことにしとこうかの」七海と凛太郎の返答はほぼ同時だった。「よかった!… お姉ちゃん、働き過ぎでなかなか彼氏ができなかったんだよ。こんなに綺麗なのに」「こーら、あんまり大人をからかうんじゃないの」「からかってなんかないよ。僕のことなんか気にしないで、姉ちゃんは自分のために生きて欲しいって、何回も言ってるじゃないか」「光、その話はもう終わりって約束したでしょ。わたしの幸せはあなたが元気になることなの。お金は心配しなくて大丈夫。心臓のドナーもきっと見つかるわよ」七海は優しく諭すように言い聞かせるが、かなり感情が昂っているのがアリアリとわかる。心の底から、弟の幸せを願っているのだ。「…なるほどの」横で見ていた九頭龍凛太郎は一人で呟いた。少年の体と管でつながる大きな装置は、人工心臓の駆動装置らしい。と、突然、誰かの携帯のバイブ音が鳴りはじめた。 ヴーッ、ヴーッ…七海が携帯を取り出し、画面の表示を確認す
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第5話 斬新
「とりあえず、しばらくぬしの部屋に厄介になるぞ」「…え?」 七海が九頭龍凛太郎から、思いもよらない宣告を受けた数日後。すでに今日のギャラクティカでのwebデザイン業務は終えて、自分のマンションに帰ってきている。「はぁ…気が重い」七海はため息をつきながら、パジャマ姿にタオルを首にかけ、いま上がった風呂からリビングに戻る。すると…「だから、それやめてって言ってるでしょーが!心臓に悪い!!」リビングには、九つの首で一斉に別々の本を読む凛太郎の姿があった。「頭が九つあるから九頭龍というのじゃ。何の不思議もなかろう。学が9倍早く進む」「そんなの、葛原君の家でやってよ!」「おぬし、副業について詳しいのじゃろう?いろいろ商売に関する蔵書があると踏んだが、そのとおりで助かったわい。凛太郎はこの手の本にはとんと縁がないからの」九つの凛太郎の頭のうち、一つが、読んでいる本から視線を外すことなく答える。株の本を読んでいる頭もあれば、プログラミングについての本を読んでいる頭もある(一つの頭だけ、眼鏡をかけている)。パソコンで何かのサイトを読みこんでいる頭もある。「…とりあえず、儂とぬしの軍資金をつくらねばな」♦ 九頭龍凛太郎が居候のかたちで七海の部屋に(一方的に)転がり込んできた数週間後。七海はお金を引き出そうと、ギャラクティカからの帰りに銀行のATMに立ち寄った。(そろそろ今月分の入院費の準備しなきゃ… あ、そうだ。光がまた欲しい本があるって言ってたっけ。…あれ…? えっ。えーっ?)七海は自分の銀行口座を確認して唖然とした。預金残高が2千万円を超えている。帰宅した七海は、自宅のマンションのドアを勢いよく開けた。リビングで九頭龍凛太郎が作業をしている。「クズ君、口座に、口座に、お、お金、お金が… 何か知ってる?」凛太郎の体をしている九頭龍は、PCの画面を見ながらの作業を止めずに応える。ダボっとした無地の白Tシャツと色の薄いジーンズに裸足、というラフな恰好である。「あぁ、株で稼いだ分をとりあえず振り込んでおいたぞ。WeTubeの広告とメンバーシップで入ってくる分の振込先は、おぬしの口座に紐づけるかの。それだけで毎月50万くらい入ってくるはずじゃ」「すっご…!あ、ありがとう…」七海は喜びと驚きで口を手で覆う。「龍って、投資
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-02
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第6話 光の外出
 都内の議員会館。与党・自由公正党所属の参議院議員の江島めぐみと、その公設秘書の梅ケ谷知が会話を続けている。「彼が目覚めたようです。」「彼って…まさか…」「はい。そのまさかです。我が国の切り札です」「ようやくね。待たせてくれちゃって…。こちらから出向くべきかしらね」「…そうですね。選挙戦が落ち着いたら、電話でもかけてみましょう」「連絡先は分かるの?」「もちろんです。ケンゾクに調べてもらいますから」「それ、ホント便利よねー。うらやましいわぁ…」「これはこれで、マネジメントが大変なんですよ」「またまたぁ。苦労なんてしてないクセに」「ともかく、都知事選が終わるまでは選挙に集中しないと、何があるか分かりません。そのあとにきちんと彼にはコンタクトを取りますから、それまで気を抜かないでください」「はいはい、かしこまりましたよ、長」「その呼び方はやめてくださいと、何度言ったら分かるんです」「冗談だってば、そんなに怒らないでよ」 政権与党である自公党と、現在の内閣の支持率がおおむね好調なのは、この江島議員の人気によるところが非常に大きい。江島議員は父親がイギリス人のハーフである。ハーフ特有のすらりとした長身と美貌ゆえに「政界一の美女」「政界のアイドル」など、様々な二つ名を持つ彼女は、決して容姿だけが取り柄なのではない。テレビ・ネット番組に引っ張りだこであるが、出演時には、舌鋒鋭く不正義を糾弾し、時には身内の自公党も歯に衣着せないで批判する。国会での質問や答弁も非常に切れ味がよく、聞く人皆をうならせる。いまや名実ともに政治家としては人気No.1と言ってよい。最近は、外国資本による国内の土地・水資源・企業の買収問題を激しく追及している。 そんな江島めぐみは、現役の参議院議員であるが、今回満を持して東京都知事選に立候補した。自公党としても党を挙げて全面バックアップ体制を敷いている。もともと、現職都知事の尾池百合絵が自公党の公認で出馬、当選を果たしたのだが、尾池は当選後にアッサリと離党。人気が出たのをいいことに自身の政党まで作って造反した。はらわたを煮やした自公党は、東京における同党の基盤を再び盤石にすべく、今回の都知事選に江島めぐみを送り出すことにしたのだ。ちなみに現職の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-02
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第7話 凶日
 ある日、凛太郎が居候している七海のマンション。今は九頭龍は眠っており、凛太郎の人格が表に出ている。「葛原君、今度の土日、ちょっと付き合ってくれるかしら。光と外出なんだけど、葛原君にも一緒に来て欲しいんだって。遠出はたまにしかできないから、私の顔に免じて勘弁してあげて欲しいんだけど…」「そんな、勘弁だなんてとんでもない。僕なんかでよければ、いつでもご一緒しますよ」「ごめんね、ありがとう。今度の外出はどうしても葛原君と一緒がいいって言って聞かないのよ」「いや、それは光君が九頭龍さんを好きになったのであって、僕とは実質初対面になっちゃいますけど、大丈夫でしょうか…」「九頭龍さんの人格のときは、凛太郎君の意識はまったく無いの?何をしたか全く覚えてないものなのかしら」「それが… 最初のころはそうだったんですけど。今は、九頭龍さんが前に出てるときは、眠ってるのに半分以上意識があるような、不思議な感覚なんです。薄っすら意識があるというか… 一応、クズさんが何をしゃべってるのかも聞こえてはいます」「なら、話を合わせれば大丈夫よ」(そんなに簡単に言わないで欲しいなー…)凛太郎はため息をついた。仕事の鬼、デザイン課の氷の女王は、意外と楽観的なところがある。♦ 新宿総合病院、阿賀川光の病室。2人が部屋に入ると、光はパッと顔を輝かせる。「七姉ちゃん、凛太郎兄ちゃん!」凛太郎は、自分の人格が表に出ているときに光と会うのは初めてである(ぼんやりと記憶はあるが)。この姉にしてこの弟ありとでも言おうか、光の方も七海に負けないほどの美形だ。加えて光は、本当に屈託なく人懐こい笑顔を見せる。病気であることと淡い髪の色が相まって、どこか危うい儚げさは漂うものの、まさに天使のような笑顔である。(こりゃあ、阿賀川さんが体を壊すまで働いてでも手術代を工面してあげたくなるわけだ…)「おはよう、光。まずはスルタンケバブでいい?その後、本屋巡りをしてから、『カルメン』でお茶しようね」「うん!凛太郎兄ちゃんは、ケバブ好き?」「うん?あぁ、好きだよ。…光君は、ゲームセンターとかよりも本屋さんが好きなんだね。エライなあ」「ゲームなんかは、時間がもったいないからね。いつまで生きられるか分かんないし…」一瞬ではあるが、七海の顔が如実に曇る。「きっと大丈夫だよ。神様が味方
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-02
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第8話 二撃目
白昼の凶弾が選挙演説会場を襲う、一か月ほど前。都内某所の江島めぐみ事務所―「…こちらの写真と報告書を見てください。全国のケンゾクから送られてきたものです」江島めぐみ本人と、スリーピースのスーツ姿の秘書・梅ケ谷知が密談している。「ここ半年余りで3人の政治家や実業家が遠距離狙撃により暗殺されています。なぜか全く報道されていませんが」梅ケ谷が机に並べて見せた3種類のA4サイズの報告書には、それぞれ表紙に1枚ずつ写真がクリップで留められており、その全てに、頭部から血を流した死体の生々しい姿が収められている。「裏社会では“死神”と呼ばれているスナイパーだそうです。年齢・性別一切不明。分かっているのは側頭部を正確に一度の射撃で打ち抜くという殺し方だけ…今までの失敗はゼロ、一度の射撃で命中率100%。もはや凄腕とかいうレベルではなく、人間業ではありません」「、ってことは…」「はい。間違いなく、我々と同じような力を持った者の犯行です」「うわ~ぉ」「なーにノンキな声を出してるんですか。殺された3人は、全員が海外資本の日本進出に邪魔になった人物です。今後、江島先生も狙ってくる可能性は非常に高いです。ましてや先生は、これから選挙演説で開けたところに立つ機会が多くなる。向こうにとっては絶好の的ですよ」「そんなこと言われたってねぇ… また、あなたが助けてくれるんでしょ?梅ケ谷君」「まったくこの人は、どこまで緊張感がないんだ…」梅ケ谷は目をつぶって片手で顔の半分を覆った。「…いいですか、狙撃された3人は全員、一度の射撃で銃弾が側頭部に正確に命中したのち、貫通することなく脳内に留まっているんです」「…どゆこと?」「まだ分かりませんか(この人ホントに日本を代表する国会議員か?)。十中八九間違いなく、銃弾の動きを思い通りに制御できる人物の仕業です」「どっひゃー」「だとすれば、弾を避けたり私が覆いかぶさって先生を守ったとしても、意味がない可能性が高いです。銃弾は先生の脳に刺さるまで止まらないんですから」「ちょっと待ってよ。私、確実に死んじゃうじゃない」「今のところ、銃弾が命中する瞬間に叩き落して、物理的に弾を他の物体にめり込ませて慣性をゼロに
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-02
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第9話 サービスしすぎ
パシイィイン!頭を低くしていた江島めぐみの横に突然瞬間移動のように現れた優男は、空中で横向きになったまま、乾いた音を立ててライフルの弾丸を素手でキャッチした。素手と言ってもその手は人間のものではない。全体の形状こそ人間の手に近いが、爬虫類のような硬い鱗に覆われ、先端には猛禽類のように大きく鋭い爪が付いている。(龍の手…?)江島めぐみは今目の前に突如現れた優男の、特徴的な右手を見て思った。「ひとつ貸しじゃなあ!女子先生よ」優男もとい凛太郎は、見た目と相反する老人のような口調で言うと、弾丸の勢いを殺そうとするかのように回転しながら一瞬めぐみの方を向いた。よく見ると瞳も爬虫類のように、縦長の瞳に緑色の虹彩をしており、口元からは牙がのぞいている。「さて、返品じゃ」優男は、銃弾を受け止めた勢いで腕が後方に持っていかれた反動を利用して、腕と体をグルンと回転させると、そのまますさまじい速度でその銃弾を、撃ったスナイパーの方向へ投げ返した(野球の内野手守備の、異次元レベルの動きだと思っていただきたい)。人間の力では決して不可能な速度で投げ返された銃弾は、ビシッ!という鈍い音をたてて、スナイパーのいる数百メートル離れた屋上の壁にめり込み、大きなヒビを入れた。「ありゃ、外したかの」九頭龍となった凛太郎は掌を目の上にかざして言った。一方、ビルの上のスナイパーは思わずヘタンと尻もちをついてしまった。(ターゲットBか… 化け物め‼)スナイパーはできうる限りの早さでライフルをケースにしまうと、屋上から逃げていった。と、その光景をまた上空から大ガラスが見ている。「先生!おそらくもう大丈夫です。車の中に!」「う、うん…」選挙カー上にうずくまっていた江島めぐみの体を助け起こし、まだ人心地の付かない江島候補を車の中に押し込んだ梅ケ谷は転がっていた防弾ブリーフケースを拾うと、安堵のため息をついた。「…ふう。さすが三田村装備開発の最高級防弾仕様。ドイツ製と迷いましたが、こういうのは国産の特注品が断然安心ですね」だが、まだ安心するには早かった。「知君!大変…‼」たった今、命を救われたばかりの江島めぐみが、慌てた様子でカーウィンドウを下げて顔を覗かせると、金切り声をあげた。「?」梅ケ谷が不思
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第10話 商談
「その少年は、私どもが責任をもって病院までエスコートいたします。我々のお車へどうぞ。完全防弾仕様です」一行は選挙カーではなく公用車に乗り変えた。梅ケ谷が運転し、助手席には江島めぐみ。後部座席には七海、凛太郎と、凛太郎の右手が胸部に刺さったままの光が乗っている。「改めまして、隣におります江島めぐみの公設秘書をしております梅ケ谷と申します。この度はお礼と、それからお詫びのしようもありません」「そんなに畏まるな。儂とおぬしの仲ではないか」九頭龍凛太郎が言うが、その右手は光の胸につき刺さったまま、光の心臓を直接つかんで絶えずマッサージしている。「ちょっと、知り合いだったの?」七海が慌て尋ねる。「腐れ縁というやつでな。そちらの江島センセとやらとは、はじめましてじゃの」「はい、その… なんとお礼をしたらいいか」助手席にいるめぐみが、わざわざ後部座席の凛太郎たちの方を向いて、ペコリと頭を下げる。「おい、光。聞いたか?お礼に何でも一つ望みをかなえてくれるそうじゃ」「ホント…?」「そこまでは言ってないでしょーが…」七海がツッコむ。「それじゃあ、命を助けた儂へのお礼で一つ、流れ弾を食らって死にかけたこの童への詫びでもう一つ、願いをきいてもらおうかの」「我々にできることなら、何なりと」(この様子だと、この阿賀川七海という女性は、九頭龍と知り合いのようだ)運転をしながら梅ケ谷が答える。「光、何がいい?やっぱり本かしら」七海が問いかける。「うーん、そうだなぁ… レミに会ってサインが欲しい」「レミって、あの病室に貼ってあるポスターの…よっぽどレミって歌手が好きなのね。そんなに曲がいいの?」「それもあるんだけど… レミは、僕とおんなじ施設の出身で、これから曲が売れたら施設に寄付していきたいんだって」「ほう。光は養子か」「あ、ゴメン。言ってなかったね」「まぁ、一つ目はこれで決まりじゃな。次は儂の番じゃ」九頭龍凛太郎は、少し間を置いて言った。「おぬしら二人、国の政治に深く関わっておるのじゃろ?…これからは儂が、この国の財布を握ろうと思うんじゃ」♦ ♦ ♦株式会社ギャラクティカ。 総務係兼受付嬢の小畔美樹子が、まじめに業務に取り組んでいるフリをしながら会社のPC画面でネットニュースをチェックしていると、「ル
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