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39話 大先輩

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-05-14 06:05:09

「まず生人は地球でもキュア星でもない、他の惑星から来た宇宙人だ。簡単に言えば惑星間を旅するヒーローといったところだ。つまりはお前達の大先輩だな」

宇宙人。そう言われると先程の触手や傷の治りもイクテュスのものではないと説明できる。

「その……さっきはごめん。弁解は難しそうだったし、君達の本気を見ておきたくて……でも傷つけるつもりはなかったんだ」

確かに私達への攻撃は明らかに手加減されていた。一度触手に弾かれたがあれも本来だったら変身を保てなくなるレベルまで追い詰められていただろう。

「それって本当に信じていいのかな? さっきまでの彼はとても邪悪そうに見えたけど……?」

「そ、それは本当にごめん。過去に戦った奴らを参考にしてみたんだけど……」

「そうだ。生人は今回の件を無償で手伝ってくれるくらいには良い奴だ。今までイクテュスの索敵ができたのもこいつのお陰だしな。

言えなかったのは……すまない。キュア星や日本政府との取り決めで極力生人は介入させてはいけないんだ」

点と点が線で繋がる。

何故キュアリンが今まで索敵方法を教えなかったのか。生人君の存在を隠していたのか。

キュア星のメンツや地球とのこれからの関係。様々な大人の事情が絡み合っているのだろう。

「はぁ……そういうことかよ……なんだか必死になって損した気分だよ」

アナテマは肩を落とし、全力疾走後のこともありそのまま腰を落とす。

「生人さんの件は分かったよ。それよりさっきのモグラ……あれはイクテュス……なのかい?」

「何言ってるのノーブル? どう見てもあれはイクテュスよ。流石に」

「いや……ノーブルの言い分ももっともだ。今までイクテュスは水棲生物だけだった。なのに今回はモグラ……何かおかしい。嫌な予感がする……」

直近で戦ったイクテュスは、エビに亀にイカと確かにどれも水中や水の側に住む生き物達だ。

「とはいえ倒さないわけにもいかねーだろ? 今から追いかけるから今度はしっかり配信頼むぞ? あれないと全力出せねーんだからよ」

「それは分かっている……生人。奴の場所は分かるか?」

「モグラとなると……地中じゃ動物に頼もうにも……」

生人君が頭を悩ませているとまた揺れが私達を襲う。だが今度はそこまで大きくない。離れた場所に奴が居るのだろう。

「あっちだ! 配信は頃合
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