SILENT BETWEEN TWO HEARTS

SILENT BETWEEN TWO HEARTS

last updateLast Updated : 2026-01-30
By:  OPRAH JAEOngoing
Language: English
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Harry DuBois is the name everyone knows. At 6'4", sharply dressed, with silver at his temples and a velvet voice, he commands attention the moment he enters a room. Owner of DuBois Fine Arts & Jazz Lounge, the town’s cultural heartbeat, he offers a haven for music, poetry, and taste. Women adore him, men envy him, and all assume he’s living the dream. But Harry is haunted. Beneath success lies a past that won’t let him go, a tragedy he never speaks of. For Harry, love isn’t just risky, it’s dangerous. He’s a single father to Naomi, his teenage daughter, the only light he’s allowed to stay. Yet even with her, there are walls. When new art curator Elena Rivera arrives from New York to partner with his lounge on a revival series, a celebration of Black art, music, and history. Harry is drawn to someone he hasn’t been with in decades. But Elena has secrets, and she’s starting to notice cracks in Harry’s perfect image. As past and present collide, Harry is forced to confront the pain he has buried for over 25 years. A love lost, a betrayal unforgiving, and a night that changed everything. The question is: can Harry finally allow himself to feel again, or will the past claim him once and for all?

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Chapter 1

CHAPTER ONE: The Velvet Shadow

私には、秘密がある。

誰かに触れた瞬間、その人が心の中でいちばん大切に想っている人の顔が見える。

7歳のとき、上田大河(うえだ たいが)が隣に引っ越してきた。あの日から、大河の心の中にはずっと、私だけがいた。

18歳、初めて手を繋いだとき――私だった。

22歳、プロポーズされたとき――私だった。

結婚式の夜、唇が重なったとき――やっぱり、私だった。

しかし結婚3周年の朝。ネクタイを直してあげようと、指先が喉仏にそっと触れたとき、いつものように目を閉じた。

浮かび上がったのは、二つの顔だった。

一つは私。もう一つは、見知らぬ女。

その夜、大河のスマホが光った。

【大河さん、今日は付き合ってくれてありがとう】

21年間で、10万回もの触れ合い。

初めて、狂いが生じた。

……

結婚記念日を祝うために、1カ月前からレストランを予約していた。

着ていく赤いワンピースは、大河が「似合うよ」と言ってくれたお気に入りの一着。パールのピアスも大河からもらったもの。

午後6時。着替えを終えて鏡の前に立ち、ピアスをつけていると、大河から電話がかかってきた。

「急な出張が入った。今夜は無理だ」

慌ただしい声で、それだけ言い残して電話は切れた。

大河のほうから先に電話を切るなんて、これが初めてだった。

鏡の中の自分を見つめる。右のパールはちゃんと収まっているのに、左のピアスだけがつけられないまま、指先で揺れていた。

ほどなくして、親友の真野菜奈(まの なな)から電話がかかってきた。「じゃあ私が付き合うよ」と。

彼女の車に乗って、街なかの洋食屋へ連れていってもらった。

店の前に着いて、ドアに手をかけた瞬間、私の足が止まった。

ガラス張りの窓際の席に、大河がいた。

向かいに座っているのは、25、6歳くらいの女性。笑うと口元に、くっきりとしたえくぼが浮かぶ人だった。

大河はすっと手を伸ばし、親指で彼女の口元についたクリームをそっと拭った。

18歳のころからずっと、私だけに向けてくれていた仕草だった。

隣の菜奈もそれに気づいていた。今にもドアを押して飛び込んでいきそうな彼女の腕を、私は咄嗟に掴んで引き留めた。

「やめて」

「……あの女、誰なの!?」

「ううん、知らない」

夜の11時、大河が帰ってきた。毎年の記念日とまったく同じように、赤いバラを一束抱えていた。

シャワーを浴びて出てきた大河が、背後からそっと私を抱きしめる。あごを私の頭の上に乗せて、低い声で言った。

「実里、今日は本当にすまなかった。絶対埋め合わせするから」

そっと目を閉じると、二つの顔が脳裏に交互に浮かんだ。私――伊能実里(いのう みのり)と、あの女。

半分ずつ。

21年間で初めて、大河の心の中に「他の誰か」を見た。

大河が眠りについてから、スマホをそっと手に取った。

ロック解除のパスコードは私の誕生日のまま、何も変わっていなかった。

チャット一覧のいちばん上に「ピン留め」されていたのは、本間望美(ほんま のぞみ)との会話だった。

半年前から始まったそのやり取りは、仕事の連絡からいつしか日常の雑談へと変わっていた。【了解です】というビジネスライクな返信が、【おやすみ】という親密な挨拶になっていた。

【今日、気分が落ち込んでて。甘いもの食べたい】という彼女のメッセージに、大河は【1階のお店のナポレオンパイ、買ってきてあげるよ】と返していた。

少し遡った日のメッセージには、【前に勧めてくれたお店、一人で行ってみたけど、イマイチだった。次は一緒に連れてって】と。

そして最後が、今夜届いたメッセージだった。【大河さん、今日は付き合ってくれてありがとう】

スマホを置いて、ベッドに戻った。

大河は寝返りを打って、長年の習慣のように私を引き寄せ、寝ぼけた声を漏らした。私はそっと問いかけた。

「……今日、誰と一緒にいたの?」

眠りの淵で、大河は「ん」とだけ喉を鳴らして、私をもっとしっかり抱きしめた。

「クライアントと」

私は、もう何も聞かなかった。

翌朝、出かける前に大河が私の額にキスをした。

「昨日は本当に抜けられなかったんだ。週末、温泉に連れていくから」

その笑顔は、昔と何も変わらなかった。

しばらく彼の瞳を見つめてから、私は「うん」とだけ言った。

大河が出ていくと、あの赤いワンピースをきちんと畳んで、クローゼットの一番奥にしまい込んだ。

昼に菜奈から電話があった。大丈夫かと聞かれて、長い沈黙が流れた。

「実里。あんた、7歳のころからずっと、彼だけを見てきたじゃない」

「わかってる」

「これから……どうするつもり?」

窓の外を見た。空はどこまでも青く、雲ひとつなかった。

「私にも、わからない」

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