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第9話

Author: スズリ
足がつっちゃって、一緒に来てた男大生の奥山健一(おくやま けんいち)が顔を赤くしながらマッサージしてくれてた。

そしたら、横から黒い影が飛び出してきて、いきなり健一を突き飛ばした。

「誰の許可を得て、彼女に触ってるんだ?」

颯太は険しい顔で、低く、でも有無を言わせないような声で言った。

私はカチンときて、健一の前に立ちはだかり、彼をかばった。

私の行動を見て、颯太は驚いたように、そして少し傷ついたような顔をした。

「千佳……」

彼は不満そうな声で私の名前を呼んだ。

颯太はものすごいお金持ちで、出かける時はいつもボディーガードがそばにいる。

それでも、昔の私は彼が危ない目に遭うたびに、前に立って守ってあげてた。

でも、それはもう昔の話。

「なあ千佳、そんな目で見ないでくれよ。

ごめん。あいつがお前に近づきすぎてるのを見て……ヤキモチを妬いたんだ」

昔の私だったら、彼のそんな言葉に、胸がときめいていたはずだ。

でも、今の私には吐き気がするだけだった。

「颯太さん、どこに行っちゃったのよ、急にいなくなるんだから」

声の主は胡桃だった。彼女は私の姿を認めると、見せつけるように颯太の腕に自分の腕を絡めた。

そして、わざとらしく驚いたふりをして言った。「あら、千佳さんもいたのね」

太陽の光を浴びて、彼女の指のダイヤモンドの指輪がまぶしく輝いた。

私が指輪に気づいたのを見ると、彼女は得意げに手をひらひらさせた。

「颯太さんが無理やり買ってくれたの。断っても、『当然だから、受け取って』って譲らないのよ」

そばにいた陸は、憎々しげに私をにらみつけている。

三人が家族水入らずで並んでいるのを見ても、私の心は不思議なくらい落ち着いていた。

「千佳さん、もう戻ろうよ」

他の仲間たちも装備を外して、私のところに集まってきた。

私は笑顔で「うん」と答えた。

健一は私の足がまだ痛むんじゃないかと心配して、そっと支えながらゆっくり歩いてくれた。

颯太の横を通り過ぎようとした時、彼の体が強ばったように感じた。

そして、私の名前を呼んだ。「千佳……」

でも今度は、もう彼のために立ち止まることはなかった。
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