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第279話

Author: 木憐青
役員たちは一通り議論を交わした末、ついに静雄を当面の職務から解任する決断を下した。

「松原家に後継ぎがあなただけでなければ、とっくに経営を任せたりはしなかったでしょう!」

「とにかく、今は退室してもらう!」

静雄は歯を食いしばった。

だが、どれだけ株を握っていようと、役員全員の意志に逆らうことはできなかった。

彼が執務室を出た途端、背後から冷ややかな声が聞こえてきた。

「やはり先代が株を渡さなかったのは正しかった。深雪さんが去ってからというもの、会社は散々だ」

静雄は激しく眉をひそめ、自室の扉を乱暴に叩きつけた。

「社長、もうこれ以上はおやめください!」

秘書は、やつれていく彼の姿に耐えられず、声をかけた。

「会社は今や生死の瀬戸際です。どうかお気を強く持ってください!」

だが静雄は社長椅子に崩れ落ち、虚ろな目を天井に向けた。

「気を強く?どうやって?」

掠れた声は、まるで砂紙で擦られたようだった。

「深雪は本気で俺を潰す気だ。松原商事も一緒に......」

「社長、まだ希望はあります!」

秘書は必死に言葉をつないだ。

「深雪の弱みさえ掴めば、必ず逆転できます!」

「弱み?」静雄は乾いた笑いを漏らし、首を振った。

「奴は十分に準備していた。そんな簡単に尻尾を出すか。仮に見つけてもどうだ? 今や株主の大半は彼女の味方だ。俺に何ができる?」

「ですが......」

「もういい。下がれ。ひとりで考えたい」

静雄は手を振って退出を命じた。

秘書はため息をつき、仕方なく部屋を後にした。

扉が閉まると、室内は再び死んだような静寂に包まれた。

静雄は目を閉じ、頭の中に浮かぶ深雪の冷酷な顔を振り払えずにいた。

なぜ、こんなことになったのか?

自分こそがすべてを掌握していたはずなのに。

俺は......間違っていない。間違っているのは深雪だ。奴が、俺からすべてを奪ったんだ!

静雄の目が見開かれ、そこには憎悪の炎が宿った。

必ず復讐してやる。必ず深雪に代償を払わせる!

その時、扉が叩かれた。

「入れ」

低くかすれた声が返った。

扉が開き、芽衣が姿を現した。

白いワンピースに身を包み、丁寧な化粧を施した彼女は、柔らかな笑みを浮かべていた。

「静雄、大丈夫?」

芽衣は彼に近づき、気遣うように問いかけた。

静雄は複雑
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