Masuk相沢澪、27歳。普通の雑誌編集アシスタント。 三年間、彼女はただ一人のアイドルを愛していた。人気グループ「Stellar」のリーダー、柊蓮。画面越しに見る彼の姿に心を奪われ、誰にも言えない想いを抱き続けてきた。 そんな澪の前に、運命が転がり込む。取材で出会った蓮から、まさかの告白。「君だけが、本当の僕を見てくれていた」 戸惑い、拒絶しようとする澪。だが蓮の真剣な眼差しに、心は揺れ動く。 始まった秘密の交際。輝くステージの上の彼と、疲れた表情を見せる彼。二つの顔を持つ蓮を、澪は愛し始めていた。 憧れが恋に変わり、秘密が真実になる。アイドルとファン、決して交わらないはずだった二つの世界が、一つになる物語。
Lihat lebih banyak相沢澪が初めて柊蓮を見たのは、三年前の夏だった。
雑誌『SPOTLIGHT』のアシスタント編集として働き始めて半年。先輩に言われるがまま徹夜で記事のレイアウトを調整していた深夜、休憩がてら開いたYouTubeで、偶然その映像に出会った。
新人アイドルグループ「Stellar」のデビューライブ。
画面の中央で歌う青年の瞳が、澪の心を射抜いた。柊蓮――当時二十三歳。黒髪に切れ長の瞳、端正な顔立ちに反して、どこか儚げな雰囲気を纏っていた。
だが澪の心を掴んだのは、彼の容姿ではなく、その歌声だった。
高音の美しさ。言葉の一つ一つに込められた感情の深さ。そして何より、曲の間奏で見せた、ほんの一瞬の――
きっと誰も気づかなかっただろう。カメラはすぐに別のメンバーに切り替わり、蓮はまた完璧な笑顔を取り戻した。でも澪は見てしまった。その一瞬の、張り詰めた糸が今にも切れそうな顔を。
「この人、
澪は呟いた。画面を何度も巻き戻し、その瞬間を確認した。間違いない。彼は笑顔の裏で、何かを必死に押し殺している。
それから澪は、柊蓮の隠れファンになった。
隠れ、というのは文字通りの意味だ。職場でもプライベートでも、誰にも言わなかった。アイドルのファンであることが恥ずかしいわけではない。ただ、なんとなく、彼への想いを言葉にすることが憚られた。
自分の気持ちが、単なる「ファン」の域を超えていることに、薄々気づいていたからかもしれない。
仕事から帰ると、澪は小さなワンルームのデスクに向かい、イヤホンを耳に差し込む。Stellarの楽曲を流しながら、自分の編集作業を進める。蓮の声が耳に流れ込むと、不思議と集中力が増した。
週末には必ずStellarの映像をチェックした。YouTubeの公式チャンネル、音楽番組の録画、ファンが撮影した非公式の動画。あらゆる映像を見漁り、蓮の表情を観察した。
そしてあるパターンに気づいた。
蓮は、カメラが自分を捉えていないと思った瞬間、表情が変わる。ステージ上で仲間と談笑していても、ふと視線を落とす瞬間がある。その時の彼の顔には、深い疲労と、どこか諦めに似た影が浮かんでいた。
「大丈夫かな、この人」
澪は画面越しに、会ったこともない青年を心配した。握手会やライブに行く勇気はなかった。いや、行きたくなかった。大勢のファンの一人として彼の前に立ち、数秒間の会話を交わして終わり。そんなの耐えられない。
澪が望んでいたのは、蓮の「本当の顔」を見ることだった。カメラの前でも、ファンの前でもない、素の彼。疲れた時には疲れたと言える彼。笑顔を作らなくてもいい彼。
でもそれは叶わぬ願いだと、澪は分かっていた。
二十七歳の雑誌編集アシスタント。毎朝七時に起き、満員電車に揺られて出社。先輩の指示に従い、記事の校正、レイアウト調整、取材のアポ取り。昼食は近くのコンビニで買った菓子パン。夜は十時過ぎまで残業。帰宅後は簡単な自炊をして、シャワーを浴びて、就寝前に蓮の動画を見る。
これが澪の日常だった。
特別な才能もない。特別な美貌もない。特別な何かを持っているわけでもない。ただ真面目に、コツコツと仕事をこなす、どこにでもいる普通の女性。
そんな自分が、輝くアイドルに恋をするなんて。
「馬鹿みたい」
澪は自嘲気味に笑った。スマホの画面には、先週のStellarの音楽番組出演時の映像が流れている。蓮が新曲を歌い、数百人の観客が熱狂的に彼の名を叫んでいる。
あの世界と、この六畳一間のアパート。
どれだけ離れているんだろう。
澪はイヤホンを外し、窓の外を見た。東京の夜景が、無数の光を放っている。どこかであの光の中で、蓮も今日一日を終えようとしているのだろうか。
そんなことを考えながら、澪は眠りについた。
――そして、運命の日は突然訪れた。
それは二〇二四年十月、秋の始まりの頃。
「澪ちゃん、ちょっといい?」
先輩編集者の田中美咲が、澪のデスクに近づいてきた。美咲は三十二歳、編集歴七年のベテラン。面倒見がよく、澪にとっては姉のような存在だった。
「はい、何でしょうか」
「来週の特集、覚えてる? 『今、輝く若手エンターテイナー』特集」
「はい、覚えてます」
「その取材なんだけど、Stellarのインタビューが入ることになったの」
澪の心臓が跳ねた。
「Stellar、ですか」
「そう。事務所側から『SPOTLIGHT』を指名してくれたらしいの。で、取材は来週水曜日。場所は渋谷のスタジオ」
美咲は澪の様子に気づかず、続けた。
「で、ね。今回の取材、澪ちゃんにも同行してもらおうと思って」
「え」
「インタビュー自体は私がやるけど、写真撮影の段取りとか、ライブ映像の編集素材の受け取りとか、細かい作業があるでしょ。澪ちゃん、そういうの得意だし」
澪の頭が真っ白になった。
Stellarの取材。
つまり、柊蓮に会える。
三年間、画面越しでしか見たことのなかった彼に。
「澪ちゃん? 大丈夫?」
「あ、はい! 大丈夫です! 喜んで!」
澪は慌てて答えた。美咲が不思議そうな顔をする。
「なんか、テンション高いわね。もしかしてStellarのファン?」
「いえ、そんな……少し、曲は知ってますけど」
嘘をついた。美咲に本当のことを言えば、きっと取材に同行させてもらえなくなる。ファンが取材に入るのは、ジャーナリズムの倫理に反する。澪もそれは分かっていた。
「ふーん。まあいいわ。じゃあ、来週水曜、午後二時集合ね。場所の詳細は後でメールするから」
「分かりました」
美咲が去った後、澪は深呼吸をした。
手が震えている。
会える。本当に会える。
でも、どうすればいい? 何を話せばいい? いや、話せるはずがない。澪はただのアシスタント。蓮と直接会話する機会なんてないだろう。
それでもいい。同じ空間にいられるだけで。
澪はスマホを取り出し、蓮の最新の写真を見つめた。画面の中の彼は、いつもの完璧な笑顔を浮かべている。
「会えるんだね」
澪は小さく呟いた。
その夜、澪は興奮で眠れなかった。布団の中でスマホを握りしめ、Stellarの楽曲を繰り返し聴いた。蓮の声が、いつもより近くに感じられた。
来週水曜日。
あと五日。
澪の心は、期待と不安で満たされていた。
翌日から、澪は取材の準備に没頭した。Stellarの過去のインタビュー記事を全てチェックし、彼らの楽曲の歌詞を分析し、最近の活動を綿密に調べた。
「澪ちゃん、そこまでやる必要ないのよ」
美咲が苦笑しながら言った。
「でも、準備は大切ですから」
「まあ、その真面目さが澪ちゃんのいいところよね」
真面目なんかじゃない。ただ、蓮のことをもっと知りたいだけ。
澪は心の中でそう答えた。
そして水曜日がやってきた。
朝から澪は落ち着かなかった。何度も鏡の前に立ち、服装をチェックした。黒のパンツスーツに白いブラウス。髪は後ろで一つに結び、メイクは控えめに。仕事用の格好。目立たないように。
でも、心の奥底で、小さな期待があった。
もしかしたら、蓮が自分に気づいてくれるかもしれない。
「馬鹿みたい」
再び自嘲する。そんなわけない。彼は毎日何百人、何千人のファンと接している。澪みたいな地味な女性に気づくはずがない。
午後一時半、澪は渋谷のスタジオに到着した。美咲はすでに到着しており、スタッフと打ち合わせをしていた。
「澪ちゃん、来た? じゃあ、機材のセッティング手伝って」
「はい」
澪は撮影機材の準備を手伝いながら、入り口を何度も見た。まだStellarのメンバーは到着していない。
そして午後二時。
スタジオのドアが開いた。
最初に入ってきたのは、マネージャーらしき男性。その後ろから、五人の青年が現れた。
Stellarのメンバー。
そして、その中心に――柊蓮がいた。
澪の息が止まった。
実物の蓮は、画面で見るよりもずっと美しかった。いや、美しいという言葉では足りない。彼の存在そのものが、空間を支配していた。黒いシャツに細身のジーンズ。シンプルな服装なのに、まるでファッション誌から抜け出してきたようだった。
「Stellarの皆さん、ようこそ。今日はよろしくお願いします」
美咲が挨拶する。メンバーたちが礼儀正しく挨拶を返す。
蓮の声が聞こえた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
低くて、落ち着いた声。画面越しで聞くのと、直接聞くのとでは、こんなにも違うのか。
澪は機材の影に隠れるようにして、蓮を見つめた。彼はスタジオ内を見回し、スタッフたちに丁寧に会釈している。その所作の一つ一つが洗練されていて、まるで舞台の上にいるようだった。
「では、インタビューの前に、軽く撮影を済ませましょうか」
カメラマンが提案した。メンバーたちが指定された場所に並ぶ。
撮影が始まった。カメラマンの指示に従い、メンバーたちがポーズを取る。その間、澪は照明の調整を手伝いながら、蓮の様子を観察した。
彼は完璧だった。
どの角度から撮られても、どんな表情を求められても、瞬時に応える。プロフェッショナル。まさにその言葉がふさわしい。
でも――。
撮影の合間、カメラマンが機材を調整している時。蓮がふと、肩を回す仕草をした。そして首筋を軽く揉んだ。
疲れている。
澪には分かった。三年間、画面越しに彼を見続けてきたから。あの仕草は、蓮が疲労を感じている時の癖だ。
「お疲れ様でした。では次はインタビューに移りましょう」
美咲がメンバーたちをソファに案内した。澪はカメラの横に立ち、録音機器のチェックをした。
インタビューが始まる。
美咲の質問に、メンバーたちが順番に答えていく。新曲について、今後の活動について、ファンへのメッセージ。定型的な内容だが、彼らは真摯に答えている。
そして蓮の番になった。
「柊さん、リーダーとしてグループをまとめる上で、一番大切にしていることは何ですか?」
蓮は少し考えてから答えた。
「メンバー一人一人の個性を尊重することです。僕たちはそれぞれ違った強みを持っている。その違いを認め合い、助け合うことが、Stellarの強さだと思っています」
美しい回答だった。まるで台本を読んでいるかのように流暢で、隙がない。
でも、澪には分かった。
彼の瞳が、少しだけ曇っている。
インタビューは一時間ほどで終了した。メンバーたちが休憩に入り、スタッフがお茶を用意する。
「澪ちゃん、ライブ映像の素材、受け取ってきて」
「はい」
澪はマネージャーから指定されたUSBメモリを受け取るため、控室に向かった。心臓がまだドキドキしている。蓮と同じ空間にいた。それだけで、信じられない出来事だった。
控室のドアをノックする。
「失礼します」
「どうぞ」
中に入ると、マネージャーがソファに座っていた。
「あ、編集の方ですね。少々お待ちください」
マネージャーが鞄から何かを探し始める。その時、控室の奥から人の気配がした。
澪が振り返ると――蓮が立っていた。
二人きり。
いや、マネージャーもいるが、彼は鞄の中身に集中している。
蓮と澪の視線が、初めて交差した。
澪の心臓が激しく鳴った。何か言わなければ。でも何を?
「あの……」
澪が口を開きかけた瞬間、蓮が微笑んだ。
それは、今までに見たどの笑顔とも違っていた。カメラの前の完璧な笑顔でも、ファンに向けた営業スマイルでもない。どこか儚く、それでいて温かい笑顔。
「お疲れ様です」
蓮が言った。
「あ、お疲れ様です」
澪は慌てて頭を下げた。顔が熱い。きっと真っ赤になっている。
「はい、これです」
マネージャーがUSBメモリを渡してくれた。澪は受け取り、もう一度頭を下げて控室を出ようとした。
その時。
「あの」
蓮の声が、澪を呼び止めた。
澪は振り返った。蓮がこちらを見ている。その瞳に、何か言いたげな光が宿っていた。
「はい?」
でも、蓮は首を横に振った。
「いえ、何でもありません。今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
澪は控室を出た。廊下で深呼吸をする。手が震えていた。
会った。話した。たった数秒の会話だったけど。
澪はUSBメモリを握りしめた。これが、彼との唯一の接点。大切に仕事をしよう。
その後、取材は無事に終了した。Stellarのメンバーたちがスタジオを去る時、澪は遠くから見送った。蓮が最後に振り返り、スタッフ全員に深々と頭を下げた。
そして、彼は去っていった。
澪の日常が、再び始まった。
でも、何かが変わっていた。
その夜、澪は受け取ったライブ映像を編集しながら、蓮との短い会話を何度も思い返した。彼の声、彼の笑顔、彼の瞳。
全てが鮮明に記憶に刻まれていた。
「また会えるかな」
澪は画面の中の蓮に問いかけた。
答えは返ってこない。
でも、澪の心の中に、小さな希望が芽生えていた。
それは、運命の歯車が回り始めた音だった。
それから一年が経った。 春の陽光が、小さなライブハウスに差し込んでいた。 ステージ上には、一人の青年が立っていた。 柊蓮。 かつてのトップアイドル。今は、インディーズアーティスト。「みなさん、今日は来てくださってありがとうございます」 蓮がマイクに向かって話す。 観客席には、五十人ほどの人々。Stellarの時代と比べれば、圧倒的に少ない。 でも、蓮の顔には、本物の笑顔があった。「今日は、特別な日なんです」 蓮が客席を見渡した。「一年前の今日、僕は大きな決断をしました。そして、ここにいる皆さんは、その決断を支持してくれた人たちです」 客席から、温かい拍手が起こった。「今から歌う曲は、僕が初めて作った恋愛の歌です。タイトルは『輝きの向こう側』」 蓮がギターを手に取った。 そして、歌い始めた。 優しいメロディー。心に染み込む歌詞。「画面越しに君を見ていた頃 僕は孤独に笑っていた でも君は気づいていた 僕の本当の顔を輝きの向こう側で 一人泣いていた僕を 君は見つけてくれた そして愛してくれたもう嘘はつかない もう隠さない 君と生きていく それが僕の輝きだから」 歌が終わると、大きな拍手が起こった。 客席の最前列には、澪が座っていた。 涙を流しながら、拍手している。 ライブが終わり、蓮は澪のもとに駆け寄った。「どうだった?」「最高でした」 澪が微笑んだ。「言葉にできないほど……本当に素晴らしかったです」「澪のおかげだよ」 二人は、ライブハウスを出て、近くのカフェに入った。「最近、どう? 仕事は順調?」 蓮が聞くと、澪が頷いた。「はい。フリーランスの編集者として、少しずつ軌道に乗ってきました」 澪は、会社を辞めた後、独立し
騒動から一週間が経った。 事態は、予想以上に深刻だった。 Stellarの次のライブイベントが中止になった。スポンサーの一部が撤退を発表した。そして、事務所は蓮に対し、最終通告を行った。「相沢さんと別れるか、グループを脱退するか」 蓮は、答えを出せずにいた。 一方、澪は会社を休職することになった。編集長からの勧めだった。「しばらく、落ち着くまで休んだほうがいい」 美咲も心配してくれた。「澪ちゃん、私は味方だから。何があっても」 でも、澪の心は折れかけていた。 自分のせいで、蓮のキャリアが終わろうとしている。 自分のせいで、Stellarのメンバーたちも迷惑を被っている。 自分のせいで――。 その夜、澪は決意した。 蓮に会い、全てに終止符を打とうと。 約束の場所に向かう途中、澪のインスタに一通のメールが届いていた。 送信者:匿名 件名:応援しています 本文: 『相沢澪さんへ私は、Stellarのファンです。 柊蓮くんのファン歴は5年になります。最初、あなたのことを知った時、正直、許せませんでした。 私たちの蓮くんを奪った人だと思いました。でも、蓮くんのSNSの投稿を読んで、考えが変わりました。蓮くん、あんなに真剣に誰かを愛したことがあったんだって。 そして、その相手があなただったんだって。私たちファンは、蓮くんの笑顔が見たいんです。 本当の笑顔が。もし、あなたといることで蓮くんが笑顔になれるなら。 私は、応援したい。だから、負けないでください。 あなたと蓮くんの愛を、貫いてください。一人のファンより』 澪の目から、涙が溢れた。 こんな言葉をかけてくれる人がいる。 自分たちの愛を、認めてくれる人がいる。 澪は涙を拭い、前を向いた。 そして、約束の場所――あの海辺の町に到着した
蓮が事務所に全てを打ち明けたのは、翌日のことだった。 社長室に呼ばれ、社長、マネージメント部長、そして蓮の直属のマネージャーが同席した。「柊、本当なのか」 社長が厳しい声で聞いた。「はい」 蓮は真っ直ぐ社長を見つめた。「相沢澪さんと、交際しています」「なぜ、今まで黙っていた?」「ご迷惑をかけたくなかったからです。でも、もう隠せません」 蓮は深呼吸をした。「そして、隠したくもありません」「柊、君は分かっているのか」 社長が立ち上がった。「これが公になれば、どうなるか」「はい」「Stellarの売り上げは落ちる。スポンサーは離れる。君のキャリアは、大きく傷つく」「分かっています」「それでも、続けるつもりか」「はい」 蓮の声が、揺るがなかった。「僕は、澪を愛しています。そして、その気持ちに嘘をつきたくない」 社長は長い沈黙の後、ため息をついた。「柊、君は我が社の宝だ。できれば、このまま成功の道を歩んでほしい」「ありがとうございます」「だが、君が彼女を選ぶなら……」 社長が真剣な目で蓮を見た。「契約解除も辞さない」 蓮の心臓が止まりそうになった。「それは……」「事務所として、スキャンダルを抱えたアイドルを支えることはできない。特に、相手が元ファンとなれば、ファンダムの反発は計り知れない」 マネージメント部長が続けた。「今なら、まだ引き返せる。相沢さんと別れ、これを『一時の過ち』として処理すれば、傷は最小限で済む」「でも、それは嘘になります」 蓮が反論した。「僕と澪の関係は、過ちなんかじゃない。本物の愛です」「愛?」 社長が冷笑した。
週刊誌の記事が出てから三日後、決定的な瞬間が訪れた。 澪が編集部で仕事をしていると、受付から内線電話がかかってきた。「相沢さん、来客です。Stellar事務所の方が」 澪の心臓が止まりそうになった。「分かりました。すぐ行きます」 会議室に向かうと、スーツを着た中年の男性が二人待っていた。「相沢澪さんですね」 一人が名刺を差し出した。Stellar事務所、マネージメント部長。「はい」「単刀直入にお聞きします。あなたは、柊蓮と交際していますか?」 澪は深呼吸をした。 嘘をつくべきか。でも、もう無理だと分かっていた。「はい」 その言葉が、全てを変えた。「そうですか」 部長が冷たい目で澪を見た。「では、いくつか確認させてください。交際期間は?」「四ヶ月ほどです」「きっかけは?」「取材で知り合って……蓮さんから告白されました」「向こうからですか」 部長がメモを取った。「相沢さん、あなたは元々Stellarのファンだったと聞いていますが」「はい」「それで、意図的に近づいたのではないですか?」 澪は怒りを感じた。「違います。仕事として、真摯に取り組んでいました」「でも、結果的に柊と親密になった」「それは……はい」 部長が立ち上がった。「相沢さん、あなたの行為は、ジャーナリストとしての倫理に反しています。そして、柊のキャリアに深刻な影響を与えています」「分かっています」「分かっているなら、別れてください」 澪の心が引き裂かれそうになった。「今すぐに、柊との関係を断ってください。そうすれば、事務所としても穏便に処理できます」「もし、断ったら?」「法的措置も