「君だけが本当の僕を見てくれていた」トップアイドルの、禁断の告白。その時、私は……

「君だけが本当の僕を見てくれていた」トップアイドルの、禁断の告白。その時、私は……

last updateÚltima actualización : 2025-12-16
Por:  佐薙真琴Completado
Idioma: Japanese
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相沢澪、27歳。普通の雑誌編集アシスタント。 三年間、彼女はただ一人のアイドルを愛していた。人気グループ「Stellar」のリーダー、柊蓮。画面越しに見る彼の姿に心を奪われ、誰にも言えない想いを抱き続けてきた。 そんな澪の前に、運命が転がり込む。取材で出会った蓮から、まさかの告白。「君だけが、本当の僕を見てくれていた」 戸惑い、拒絶しようとする澪。だが蓮の真剣な眼差しに、心は揺れ動く。 始まった秘密の交際。輝くステージの上の彼と、疲れた表情を見せる彼。二つの顔を持つ蓮を、澪は愛し始めていた。 憧れが恋に変わり、秘密が真実になる。アイドルとファン、決して交わらないはずだった二つの世界が、一つになる物語。

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Capítulo 1

第一章:憧れの距離

どんな男の心にも、手に入らなかった「特別な女」がいるという。

江崎詩織(えざき しおり)はずっと、賀来柊也(かく しゅうや)だけは違うと信じていた。なにしろ二人は、若い頃からずっと一緒にいたのだから。

でも、そんなのはただの幻想だった。

結局、誰もがそんな「忘れられない人」を胸に抱いて生きている。柊也もまた、その例外ではなかったらしい。

詩織が柊也と付き合い始めたのは18の時。それから、もう7年が経つ。

二千日を超える夜と朝を共にし、誰よりも深く肌を重ねてきたというのに。それでも、彼が若い頃に一度だけ目にしたという女性の面影には、敵わないなんて。

なんだか、笑えてくる。

7年もかけて、一人の男の本心さえ見抜けなかったのだ。

一体どれほどの想いだったのだろう。こんなにも長い間、その人を胸の内に秘めさせてしまうほどだなんて。

詩織の意識が逸れていることに、彼女の上で激しく体を動かしていた柊也は気づいた。不機嫌さを隠しもせず、彼女に集中を促す。

彼はベッドの上では、いつも貪欲だった。

その拍子に、彼の腕がベッドサイドに置かれていた黒いビロードの小箱に当たった。

落ちそうになったそれを、柊也は慌てて受け止める。下にいる詩織に当たらないように。

見慣れないものだったからだろう。彼は珍しく興味を示した。

「なんだ、これ」

詩織は感情の読めない表情でその小箱をひったくると、無造作にベッドの脇へ放る。そして柊也の首に腕を絡め、喉仏に唇を寄せた。

「こんな時に別のものに気を取られるなんて。もしかして、私に飽きたの」

その吐息まじりの囁きに、柊也は抗えない。小箱のことなど一瞬で思考の彼方へ追いやられた。

男が自分に夢中になっているその時、詩織は傍らに追いやられた黒い小箱に視線をやった。瞳が、じわりと潤む。

──柊也、あなたはこの箱の中に何が入っているかなんて、永遠に知ることはないのよ。

……

ひと月前、エイジア・キャピタルが上場を果たした。柊也の仲間たちが、彼のためにささやかな祝賀パーティーを開いてくれた。

詩織はめいっぱいお洒落をして、そのパーティーで柊也にプロポーズするつもりでいた。

本来、そういうことは男がするべきだろう。

でも詩織は、柊也を深く愛していたから。彼のためなら、女の意地もプライドも捨てて、自分からプロポーズしたって構わなかった。

この日のために、彼女が丸7年も待っていたなんて、誰も知らない。

柊也は仕事一筋の男だった。詩織はそんな彼のために、好きだった専攻を変え、興味のなかった金融の世界に飛び込んだ。

大学を卒業すると、海外の有名大学からの誘いも断り、エイジア・キャピタルに入社して柊也を支えた。

一番下の平社員から、一歩一歩キャリアを積み上げ、彼のトップ秘書にまで上り詰めたのだ。

その裏にあった苦労は、詩織本人にしかわからない。

付き合い始めて一番夢中だった頃、詩織は何度も柊也に問いかけたくなった。

「私と、結婚してくれる?」

けれど、その言葉を飲み込んで、結局一度も口にすることはなかった。

母がよく言っていた。贈り物も愛情も、自分からねだるものじゃない、と。

相手が自ら与えてくれるのが「愛情」で、こっちから求めるのはただの「施し」よ、と。

それに、柊也は愛情を言葉にするような男ではなかった。

これまでの長い間、彼の隣には詩織しかいなかったし、他の女性の影など一度も見えたことはない。

だから結婚は、二人にとってごく自然な成り行きのはずだった。

詩織はその未来を信じて、これまで会社の矢面に立ち、がむしゃらに戦ってきた。

仕事の大小や困難さなんて、関係なかった。

交渉のためにどれだけ酒を飲み、何度病院に担ぎ込まれたか、自分でももう覚えていないくらいだ。

急性アルコール中毒で流産した時は、手術台の上で本当に死にかけた。

親友の近藤ミキ(こんどう みき)が彼女に尋ねた。

「死の淵を彷徨って、少しは後悔した?たった一人の男のために、自分をこんなボロボロにしてまで、それって価値のあることなの」

詩織は迷いなく頷いた。

「価値はあるよ」

そんな詩織に、ミキは称号を授けた。

『愛に突っ走る勇者』!

そして、こう言った。

「あんたが、負けないことを祈ってる」

その時の詩織は、自信満々に答えたのだ。

「柊也が私を負けさせたりしない」

その信念だけを頼りに、彼女はエイジア・キャピタルが上場するその日まで、ひたすら耐え抜いたのだった。

柊也が本港市で上場を知らせる鐘を鳴らしたあの日、詩織が部屋に閉じこもって、一人で泣きじゃくっていたことなど誰も知らない。

泣き終えると涙を拭い、詩織は柊也へのプロポーズのサプライズを準備し始めた。

仕方ない。柊也はあまりにも忙しすぎた。

エイジア・キャピタルが上場を果たし、いくつものプロジェクトを抱えている。親しい友人や仕事仲間からの祝いの席にも、次から次へと顔を出さなければならない。二人のことまで考える余裕なんて、きっとないはずだ。

だから、自分から動くことにした。

柊也の負担を、少しでも軽くしてあげたかったのだ。

早くから覚悟を決めていたというのに、いざその瞬間を前にすると、詩織は心臓が張り裂けそうなくらい緊張していた。

ドアの外に立ち、何度も深呼吸を繰り返しながら、震える手をもう片方の手でさする。

口を開く前に声が詰まって、暗記するほど練習したプロポーズの言葉が出てこなくなってしまいそうで、怖かった。

ドアの向こうではパーティーがたけなわで、男たちの大きな話し声が聞こえてくる。

「なあ柊也、柏木志帆(かしわぎ しほ)とはまだ連絡取ってんのか」

「柏木志帆?それって、柊也の『忘れられない女』だろ?なんで今さらその名前が」

「あいつ、近々桜国に帰ってくるらしいぞ」

「マジで?じゃあ、柊也もついに本命とよりを戻せるってわけか」

その言葉に、興奮で微かに震えていた詩織の手が、ぴたりと止まった。

「つーか、志帆ちゃんの親父さん、最近じゃかなり出世してるらしいじゃないか。柊也が彼女と結婚すりゃ、柊也自身にとっても会社にとっても、メリットは計り知れないだろ。エリートと美人のお嬢様、家柄だって釣り合ってるしな。

しかも相手は柊也の『忘れられない女』だ。仕事も恋も、一気に手に入れるってか。最高じゃん」

そう言ったのは、柊也の幼馴染である宇田川太一(うだがわ たいち)だった。

自分は柊也と「ガキの頃からの付き合いだ」といつも豪語している男だ。彼の言葉に、嘘はないのだろう。

柊也に……忘れられない人が、いたなんて。

詩織の心臓が、不意にぎしりと軋むような痛みを立てた。

「じゃあ、詩織さんはどうなるんだ?」誰かが興味本位といった口調で尋ねる。「なんだかんだ、もう長年尽くしてくれたんだろ」

太一は、それを鼻で笑った。

「手切れ金でも渡してやればいいだろ。

そんなに惜しいなら、結婚してから囲っとけばいい」

彼の周りでは、そういった男は珍しくもなかった。家庭を壊すことなく、外にも女を作る。それが彼らにとっては当たり前の感覚だったのだ。

ドアの外で、詩織は感覚がなくなるほど強く拳を握りしめていた。

彼女は、柊也の答えを必死に待っていた。

彼がすぐに反論し、そして皆に宣言してくれることを。愛しているのは詩織で、結婚するのも詩織なのだと。

しかし、いくら待っても聞こえてきたのは、彼の気のない一言だけだった。

「いつからそんなゴシップ好きになったんだ、お前ら」

反論も、否定もしない。

それは、まるで事実だと認めているかのような響きだった。

「はいはい、わかったって。せっかくのめでたい日なんだ、もっと面白い話をしようぜ。退屈で寝ちまいそうだ」

太一がソファから身を起こし、その場の空気を変えようとする。彼は札付きの遊び人で、いつも変わったゲームを提案しては場を盛り上げる役だった。

「各自、今までで一番ヤバかった経験を一つ話すってのはどうだ」

すると、誰かがとんでもないことを口にした。

「カーセックス」

太一が茶化す。

「そんなの、別にヤバくもなんともねえだろ」

相手は付け加えた。

「新幹線で、な」

その一言で、個室全体がどっと沸いた。

「お前、やるな!」

太一は興奮気味に、退屈そうにしている柊也に尋ねた。

「柊也は?なんかヤバい経験あるか」

柊也は数秒考え込んだ後、静かに口を開いた。

「好きな女のために、不倫した」

その一言で、部屋中が先ほど以上に沸き立った。

あの賀来柊也が、だぞ。この江ノ本市でも指折りの名家の跡取りで、どんな女だって手に入るはずの男が。本気で愛していなければ、そんなことまでするはずがない。

太一の反応は、誰よりも激しかった。その甲高い声は、ドアを隔てていても詩織の鼓膜をビリビリと震わせる。

「相手、柏木志帆だろ!やっぱりまだ志帆ちゃんのこと、好きだったんだな!昔、お前は志帆ちゃんが好きで、志帆ちゃんは俺のいとこ、宇田川京介(うだがわ きょうすけ)が好きだった。だから、お前は不倫相手に甘んじたのか! 柊也、お前ってやつは……マジもんの純愛ファイターだな!」

男たちの囃し立てるような笑い声が、頭から浴びせられた冷水のように、詩織の体を芯から凍えさせた。

胃の奥から、何かがせり上がってくる。気持ち悪さに耐えきれず、詩織はその場にゆっくりと蹲った。

太一はまだしつこく食い下がっていた。

「なあ柊也、正直に言えよ。十月十日、お前、志帆ちゃんに会っただろ」

柊也が聞き返す。

「なんで知ってる」

「あいつがあの日、SNSに上げてたんだよ。『再会はこの世で一番ロマンチックなこと』だってさ。絶対あんただと思ったぜ!

で、どうだったんだよ、その夜は。再会を祝して一発、ってとこか?」

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第一章:憧れの距離
 相沢澪が初めて柊蓮を見たのは、三年前の夏だった。 雑誌『SPOTLIGHT』のアシスタント編集として働き始めて半年。先輩に言われるがまま徹夜で記事のレイアウトを調整していた深夜、休憩がてら開いたYouTubeで、偶然その映像に出会った。 新人アイドルグループ「Stellar」のデビューライブ。 画面の中央で歌う青年の瞳が、澪の心を射抜いた。柊蓮――当時二十三歳。黒髪に切れ長の瞳、端正な顔立ちに反して、どこか儚げな雰囲気を纏っていた。 だが澪の心を掴んだのは、彼の容姿ではなく、その歌声だった。 高音の美しさ。言葉の一つ一つに込められた感情の深さ。そして何より、曲の間奏で見せた、ほんの一瞬の――疲れた表情。 きっと誰も気づかなかっただろう。カメラはすぐに別のメンバーに切り替わり、蓮はまた完璧な笑顔を取り戻した。でも澪は見てしまった。その一瞬の、張り詰めた糸が今にも切れそうな顔を。「この人、無理してる」 澪は呟いた。画面を何度も巻き戻し、その瞬間を確認した。間違いない。彼は笑顔の裏で、何かを必死に押し殺している。 それから澪は、柊蓮の隠れファンになった。 隠れ、というのは文字通りの意味だ。職場でもプライベートでも、誰にも言わなかった。アイドルのファンであることが恥ずかしいわけではない。ただ、なんとなく、彼への想いを言葉にすることが憚られた。 自分の気持ちが、単なる「ファン」の域を超えていることに、薄々気づいていたからかもしれない。 仕事から帰ると、澪は小さなワンルームのデスクに向かい、イヤホンを耳に差し込む。Stellarの楽曲を流しながら、自分の編集作業を進める。蓮の声が耳に流れ込むと、不思議と集中力が増した。 週末には必ずStellarの映像をチェックした。YouTubeの公式チャンネル、音楽番組の録画、ファンが撮影した非公式の動画。あらゆる映像を見漁り、蓮の表情を観察した。 そしてあるパターンに気づいた。 蓮は、カメラが自分を捉えていないと思った瞬間、表情が変わる。ステージ上で仲間と談笑していても、ふと視線を落とす瞬間がある。その時の彼の顔には、深い疲労と、どこか諦めに似た影が浮かんでいた。「大丈夫かな、この人」 澪は画面越しに、会ったこともない青年を心配した。握手会やライブに行く勇気はなかった。いや、行きたくな
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第二章:運命の交差
 取材から一週間が経った。 澪の日常は、いつも通りに戻っていた。朝の満員電車、デスクワーク、先輩の指示、夜遅くまでの残業。でも、何かが違った。 蓮に会ったという事実が、澪の心に小さな変化をもたらしていた。 以前は画面越しでしか見たことのなかった彼が、今は現実の人間として澪の記憶に存在している。彼の声の質感、彼の瞳の色、彼の笑顔の温度。全てが、リアルな記憶として澪の中に残っていた。「澪ちゃん、この記事のレイアウト、もう少し調整してくれる?」 美咲の声で、澪は現実に引き戻された。「あ、はい。すぐやります」 澪はパソコンの画面に集中した。今週号の特集記事――その中に、Stellarのインタビューも含まれている。澪が撮影現場で受け取ったライブ映像を編集し、記事に添える予定だ。 編集作業をしながら、澪は蓮の表情を何度も見返した。インタビュー中の彼、撮影中の彼、休憩中の彼。どの瞬間も完璧で、隙がない。 でも、やはり気になる部分があった。 インタビューの最後、カメラが別のメンバーに向いた瞬間。蓮が深く息を吐き、目を閉じる一瞬の映像。その表情には、深い疲労が滲んでいた。 澪はその部分を拡大し、じっくりと見つめた。「大丈夫かな」 また、同じ言葉を呟いていた。 その時、デスクの電話が鳴った。「はい、編集部です」「あ、すみません。田中美咲さんはいらっしゃいますか?」 男性の声だった。丁寧で、落ち着いた口調。「田中は今、外出中です。ご用件をお伺いできますか?」「実は、先日のStellarの取材の件で、追加の撮影をお願いしたいんです。事務所の者ですが」「追加の撮影、ですか」「はい。今回の記事、かなり好評だったらしくて。それで、もう少し詳しい特集を組みたいという話が出てまして」 澪の心臓が高鳴った。追加取材ということは、また蓮に会える可能性がある。「分かりました。田中が戻りましたら、折り返しご連絡させます」「お願いします」 電話を切った後、澪は深呼吸をした。落ち着け、と自分に言い聞かせる。でも、心は既に浮き足立っていた。 美咲が戻ってきたのは夕方だった。澪は早速、事務所からの電話を伝えた。「追加取材? 珍しいわね」 美咲は興味深そうに言った。「まあ、Stellarは今、勢いがあるからね。もっと深掘りした記事を作るのは悪くないわ」「で
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第三章:告白
 Stellar事務所からの提案は、すぐに現実のものとなった。 翌週の月曜日、澪は上司から呼ばれた。「澪、ちょっといいか」 編集長が、珍しく柔らかい表情で澪を見ていた。「はい」「Stellar事務所から、君を指名で映像編集の仕事を依頼したいという話が来ている」「指名、ですか」「ああ。通常の雑誌の仕事とは別に、彼らの公式YouTubeチャンネル用の映像編集をしてほしいらしい。もちろん、報酬も別途出る」 澪の心臓が高鳴った。「柊蓮本人が君の編集を気に入ったそうだ。才能を認められたんだな、澪」 編集長の言葉に、澪は複雑な気持ちになった。嬉しい。でも同時に、罪悪感もあった。 自分は、ただのファンだ。プロとして蓮の仕事を評価されているのに、心の奥底では、彼に会いたいという個人的な感情が渦巻いている。「受けてくれるか?」「はい、喜んで」 答えは、既に決まっていた。 その日の午後、澪は事務所から送られてきた映像素材を確認した。Stellarの最新ライブ映像、リハーサル風景、メンバーたちの日常。膨大な量のデータ。 そして、その多くに蓮が映っていた。 澪は一つ一つの映像を丁寧に見ていった。編集者として、最も効果的なカットを選ぶ。でも同時に、ファンとして、蓮の表情を追ってしまう。 矛盾している。 でも、やめられない。 編集作業は深夜まで続いた。澪は自宅で、ヘッドフォンを耳に当てながら、タイムラインを調整していく。蓮の歌声が、直接脳に響き込んでくる。 そして、ある映像に気づいた。 リハーサルの合間、蓮が一人でスタジオの隅に座っている場面。カメラは彼を捉えていないはずだったが、たまたま広角レンズの端に映り込んでいた。 蓮は顔を両手で覆っていた。 肩が小さく震えている。 泣いている? 澪は映像を一時停止し、拡大した。確認できない。でも、明らかに彼は何かに耐えているように見えた。
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第四章:秘密の始まり
 三日間、澪は答えを出せなかった。 仕事中も、蓮のことばかり考えていた。彼の言葉、彼の表情、彼の手の温もり。全てが澪の心を占領していた。 スマホには、蓮からのメッセージが毎日届いていた。「おはようございます」 「今日も一日、頑張ってください」 「無理に返信しなくていいです。ただ、澪さんのことを考えています」 その優しさが、澪をさらに混乱させた。 そして、三日目の夜。 澪は決心した。 スマホを手に取り、蓮にメッセージを送った。「明日、お時間ありますか? お話ししたいことがあります」 すぐに返信が来た。「あります。どこでも行きます」 翌日の夕方、澪は新宿の静かなカフェで蓮を待っていた。個室のある店。人目を避けるため。 ドアが開き、蓮が入ってきた。黒いキャップに マスク、サングラス。完全な変装。でも、澪にはすぐに分かった。「お待たせしました」 蓮がマスクを外し、微笑んだ。「いえ、私も今来たところです」 二人は向かい合って座った。沈黙。 澪は深呼吸をした。「蓮さん、私……」「はい」「あなたの気持ち、受け取ります」 蓮の瞳が、大きく見開かれた。「でも、条件があります」「何でも聞きます」「まず、私はまだあなたのことをよく知りません。本当の、素のあなたを」 澪は蓮の目を見つめた。「だから、時間をください。ゆっくりと、お互いを知る時間を」「もちろんです」「そして、この関係は秘密にしてください。あなたの仕事に影響が出るのは避けたいから」「分かりました」 蓮が嬉しそうに微笑んだ。「じゃあ、これから僕たち……」「まだ恋人じゃありません」 澪が慌てて付け加えた。「まずは、友達として。そこから始め
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第五章:甘い日常
 秘密の交際が始まって一ヶ月が経った。 澪の生活は、表面上は何も変わっていなかった。朝早く起き、満員電車に揺られ、編集部で仕事をこなし、夜遅く帰宅する。 でも、その日常の合間に、蓮との時間が織り込まれていた。 週に三回、澪は蓮の家を訪れた。仕事の後、夜九時過ぎ。蓮のスケジュールが空いている日だけ。 マンションのエントランスで、澪はいつも周囲を確認してから中に入った。エレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。心臓が高鳴る。 ドアが開くと、蓮が待っていた。「おかえり」「ただいま」 この言葉の交換が、二人の儀式になっていた。 蓮の家では、二人は完全にプライベートな時間を過ごした。 ある夜、蓮は約束通り料理を作ってくれた。和食。鯖の味噌煮、小松菜のお浸し、豆腐とわかめの味噌汁。「すごい。本格的ですね」 澪が驚くと、蓮が照れくさそうに笑った。「母が料理上手で、小さい頃からよく一緒に作ってたんです」「お母様、素敵な方なんですね」「はい。でも、僕がアイドルになってから、あまり会えてなくて」 蓮の表情が、少し曇った。「実家は大阪なんです。年に数回しか帰れない」「寂しいですね」「まあ、これも仕事だから」 蓮はすぐに笑顔を作った。でも、澪には分かった。彼が、家族を恋しく思っていることが。 食事の後、二人はソファに座ってテレビを見た。深夜のバラエティ番組。Stellarも時々出演する番組だ。「あ、これ、先月収録したやつだ」 蓮が画面を指差した。そこには、Stellarのメンバーたちが笑いながらゲームをしている姿が映っていた。「蓮さん、楽しそうですね」「演技ですよ、半分は」 蓮が苦笑した。「バラエティって、求められるキャラを演じなきゃいけないんです。僕はリーダーだから、しっかり者で、真面目な役回り」「でも、実際もそうじゃないですか?」
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第六章:揺らぐ心
 交際三ヶ月目に入った頃、澪は異変に気づき始めた。 最初は小さな違和感だった。 編集部で、同僚たちがStellarの話をしている時。「柊蓮って、本当にかっこいいよね」「でも、近寄りがたい感じがする。完璧すぎて」「そうそう。でも、そのギャップがまたいいんだよね」 澪は黙って聞いていた。心の中で、違う、と叫びながら。 彼は完璧じゃない。夜、一人で泣くこともある。疲れて、弱音を吐くこともある。 でも、それは誰にも言えない。 二重生活の重さが、少しずつ澪の心に重くのしかかってきた。 そして、ある日のこと。 美咲が澪に声をかけてきた。「澪ちゃん、最近どう? なんか疲れてない?」「いえ、大丈夫です」「本当に? クマできてるわよ」 美咲が心配そうに澪の顔を覗き込んだ。「無理してない? 仕事、大変?」「少し、忙しいだけです」 嘘をついた。仕事が忙しいのは事実だが、本当の理由は別にあった。 蓮との時間を作るため、澪は睡眠時間を削っていた。夜遅くまで蓮の家にいて、帰宅は深夜二時過ぎ。朝は七時に起きなければならない。 慢性的な睡眠不足。 でも、蓮と過ごす時間は、何にも代えがたかった。「ちょっと休んだら?」「大丈夫です」 澪は笑顔を作った。美咲は納得していない様子だったが、それ以上は追求しなかった。 その夜、澪は蓮の家を訪れた。 ドアを開けると、蓮が心配そうな顔で澪を見た。「澪、やつれてない?」「そんなことないです」「嘘。顔色悪いよ」 蓮が澪の頬に手を当てた。「最近、ちゃんと寝てる?」「寝てます」「また嘘」 蓮が優しく言った。「僕のせいだね。無理させてる」「そんなことないです」「でも――」
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第七章:嵐の予兆
 それは、交際四ヶ月目のことだった。 ある日、澪が編集部に出社すると、オフィス内が妙にざわついていた。「見た? 今朝のネットニュース」「え、何があったの?」「Stellarの柊蓮、女性とのデート写真が流出したらしいよ」 澪の心臓が凍りついた。 慌ててスマホでニュースサイトを開くと――。 トップページに、見覚えのある写真が掲載されていた。 公園を歩く二人の人物。マスクとサングラスをした男性と、女性。 先週、蓮と散歩した時の写真だ。 記事のタイトル:『Stellar柊蓮、謎の女性と密会!? 交際の可能性も』 澪の手が震えた。 写真は少し遠くから撮られていて、顔は鮮明には写っていない。でも、蓮だと分かる人には分かるだろう。 そして、自分も。「誰なんだろう、この女性」「モデルとか女優じゃない?」「でも、顔が見えないよね」 同僚たちが噂話に花を咲かせている。 澪は席に座り、深呼吸をした。 落ち着け。まだ特定されていない。大丈夫。 その時、スマホが振動した。蓮からのメッセージ。「見た? ごめん。気をつけてたのに」 澪は返信した。「大丈夫です。まだ私だとは特定されていません」「でも、時間の問題だよ。事務所が調査を始めてる」 澪の心臓が激しく鳴った。 昼休み、澪は外に出てカフェで一人考え込んだ。 このままでは、いずれ自分が特定される。 そうなったら、蓮のキャリアに傷がつく。 どうすればいい? 別れる? その選択肢が頭に浮かんだ瞬間、澪の胸が締め付けられた。 嫌だ。蓮と別れるなんて、考えられない。 でも、このままでは――。 午後、澪が編集部に戻ると、美咲が深刻な顔で待っていた。「澪ちゃん、ちょっと話がある」 会議
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第八章:決意の光
 週刊誌の記事が出てから三日後、決定的な瞬間が訪れた。 澪が編集部で仕事をしていると、受付から内線電話がかかってきた。「相沢さん、来客です。Stellar事務所の方が」 澪の心臓が止まりそうになった。「分かりました。すぐ行きます」 会議室に向かうと、スーツを着た中年の男性が二人待っていた。「相沢澪さんですね」 一人が名刺を差し出した。Stellar事務所、マネージメント部長。「はい」「単刀直入にお聞きします。あなたは、柊蓮と交際していますか?」 澪は深呼吸をした。 嘘をつくべきか。でも、もう無理だと分かっていた。「はい」 その言葉が、全てを変えた。「そうですか」 部長が冷たい目で澪を見た。「では、いくつか確認させてください。交際期間は?」「四ヶ月ほどです」「きっかけは?」「取材で知り合って……蓮さんから告白されました」「向こうからですか」 部長がメモを取った。「相沢さん、あなたは元々Stellarのファンだったと聞いていますが」「はい」「それで、意図的に近づいたのではないですか?」 澪は怒りを感じた。「違います。仕事として、真摯に取り組んでいました」「でも、結果的に柊と親密になった」「それは……はい」 部長が立ち上がった。「相沢さん、あなたの行為は、ジャーナリストとしての倫理に反しています。そして、柊のキャリアに深刻な影響を与えています」「分かっています」「分かっているなら、別れてください」 澪の心が引き裂かれそうになった。「今すぐに、柊との関係を断ってください。そうすれば、事務所としても穏便に処理できます」「もし、断ったら?」「法的措置も
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第九章:真実の代償
 蓮が事務所に全てを打ち明けたのは、翌日のことだった。 社長室に呼ばれ、社長、マネージメント部長、そして蓮の直属のマネージャーが同席した。「柊、本当なのか」 社長が厳しい声で聞いた。「はい」 蓮は真っ直ぐ社長を見つめた。「相沢澪さんと、交際しています」「なぜ、今まで黙っていた?」「ご迷惑をかけたくなかったからです。でも、もう隠せません」 蓮は深呼吸をした。「そして、隠したくもありません」「柊、君は分かっているのか」 社長が立ち上がった。「これが公になれば、どうなるか」「はい」「Stellarの売り上げは落ちる。スポンサーは離れる。君のキャリアは、大きく傷つく」「分かっています」「それでも、続けるつもりか」「はい」 蓮の声が、揺るがなかった。「僕は、澪を愛しています。そして、その気持ちに嘘をつきたくない」 社長は長い沈黙の後、ため息をついた。「柊、君は我が社の宝だ。できれば、このまま成功の道を歩んでほしい」「ありがとうございます」「だが、君が彼女を選ぶなら……」 社長が真剣な目で蓮を見た。「契約解除も辞さない」 蓮の心臓が止まりそうになった。「それは……」「事務所として、スキャンダルを抱えたアイドルを支えることはできない。特に、相手が元ファンとなれば、ファンダムの反発は計り知れない」 マネージメント部長が続けた。「今なら、まだ引き返せる。相沢さんと別れ、これを『一時の過ち』として処理すれば、傷は最小限で済む」「でも、それは嘘になります」 蓮が反論した。「僕と澪の関係は、過ちなんかじゃない。本物の愛です」「愛?」 社長が冷笑した。
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第十章:永遠の誓い
 騒動から一週間が経った。 事態は、予想以上に深刻だった。 Stellarの次のライブイベントが中止になった。スポンサーの一部が撤退を発表した。そして、事務所は蓮に対し、最終通告を行った。「相沢さんと別れるか、グループを脱退するか」 蓮は、答えを出せずにいた。 一方、澪は会社を休職することになった。編集長からの勧めだった。「しばらく、落ち着くまで休んだほうがいい」 美咲も心配してくれた。「澪ちゃん、私は味方だから。何があっても」 でも、澪の心は折れかけていた。 自分のせいで、蓮のキャリアが終わろうとしている。 自分のせいで、Stellarのメンバーたちも迷惑を被っている。 自分のせいで――。 その夜、澪は決意した。 蓮に会い、全てに終止符を打とうと。 約束の場所に向かう途中、澪のインスタに一通のメールが届いていた。 送信者:匿名 件名:応援しています 本文: 『相沢澪さんへ私は、Stellarのファンです。 柊蓮くんのファン歴は5年になります。最初、あなたのことを知った時、正直、許せませんでした。 私たちの蓮くんを奪った人だと思いました。でも、蓮くんのSNSの投稿を読んで、考えが変わりました。蓮くん、あんなに真剣に誰かを愛したことがあったんだって。 そして、その相手があなただったんだって。私たちファンは、蓮くんの笑顔が見たいんです。 本当の笑顔が。もし、あなたといることで蓮くんが笑顔になれるなら。 私は、応援したい。だから、負けないでください。 あなたと蓮くんの愛を、貫いてください。一人のファンより』 澪の目から、涙が溢れた。 こんな言葉をかけてくれる人がいる。 自分たちの愛を、認めてくれる人がいる。 澪は涙を拭い、前を向いた。 そして、約束の場所――あの海辺の町に到着した
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