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第495話

Author: レイシ大好き
彼女が京弥と一緒にここまで来たのは、実はこれが一番の目的だった。

伊澄も確かめたかったのだ。

紗雪が一晩中家に帰ってこなかった理由を。

一体何をしていたのか、何のつもりなのか。

ここまで来ても、まだ姿すら見えないのは、どういうことなのか。

その道中、京弥はずっと考えていた。

伊澄を連れてくるという判断は、本当に正しかったのだろうか。

もし紗雪が彼女を見たら、気分を害するのではないか?

しばらく迷った末、京弥はついに車を路肩に停めた。

「降りろ」

伊澄は困惑して問い返す。

「え?もう半分くらい来ちゃってるのに、こんなところで私を置いて行くの?」

「自分でタクシー拾って帰れ」

その言葉に、伊澄は完全に呆然としてしまった。

まさか、こんなに急に態度が変わるなんて。

「でも、ここ途中だよ?私にどこへ行くって言うの?」

伊澄は不満と戸惑いを隠せない様子だった。

たった一言で態度を変えるなんて、人ってこんなに冷たいの?

「私はただお義姉さんの様子を見に行くだけだよ。別に邪魔する気なんてないし、余計なことも絶対言わないから」

その言葉に、もともと迷いがあった京弥の心がまた少し揺れた。

彼女の言っていることにも一理ある気がした。

ここは確かにタクシーを拾いにくい場所だし、途中で放り出すのも気が引ける。

何より、彼女は伊吹の妹でもある。

そんな立場の人間を、道端に置き去りにするのは筋が通らない。

京弥は頭の中で一瞬先の展開をざっと考えた末、折れることにした。

「......わかった、一緒に行こう」

「ただし、もし紗雪が少しでも嫌な顔をしたら、すぐに出て行け」

「うん、わかってるよ」

伊澄は拳を握りしめながら、にっこりと微笑んで答えた。

構わない。

今はあの女の様子をこの目で見られるなら、それだけで十分。

少しぐらい我慢することなんて、どうってことない。

大事を成す者は、小事にこだわらない、

伊澄は大きく息を吸い込み、必死で感情を押し殺した。

彼女は京弥の性格をよく分かっている。

万が一、逆鱗に触れてしまったら、本当に途中で降ろされることになっても不思議じゃない。

今、こうして表面上穏やかに接してもらえているのも、すべては兄の顔を立ててのことだ。

京弥の本来の性格からすれば、彼女なんてとっくに追い出されていてもお
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