LOGIN強い分だけ経験値も溜まりやすいのか、この階でさらにレベルアップすることができた。
もっとも、経験値稼ぎに夢中になっていたせいで、さらに二回スコーピオンの毒にあたってしまったわけなのだけど。
三階は二階より狭く、ちょっとした障害物があるだけの空間で、コボルドとゴブリンがいた。
「む。迷路の方がよかったな。これは一対多の戦闘を強いられる」
アルゴリズム的な反応のおかげで、そこそこ近付かなければこちらをタゲってこないことが救いだった。
テクニック的には
けれどそれがなかなか難しい。
剣を振っている間は移動ができず、離脱距離を間違えて別のモンスターにタゲられることもちょいちょいあるのだ。
かなり苦戦を強いられて、フロアの敵全部倒すのに回復薬を二つ消費するハメになった。
「もう一回回復するべきか否か?」
悩みどころである。
塔の外観的にはそう高い印象はなかったけれど、如何せんドット絵の世界だ。
実際には何十階とある可能性も否定できない。
村に戻れない仕様になっていることだし、消耗品はできる限り使いたくないと思うのは当然だろう。
「レベルアップすれば全快するわけだしなぁ……」
彼は、上った先の敵を確認して使うかどうかを決めることにした。
四階は、三階よりさらに一回り小さい空間だった。
廊下で仕切られた部屋構造になっていて、なぜか中の様子が確認できる。
というか、この範囲ならフロア全体が見渡せる。
「そういえば、塔の中は自分を中心に一定範囲のマップが全部見える感じだったな。なぜか迷路の通路の壁の向こう側も見えていた」
場所によって見え方が違う視覚情報にちょっとクラクラしながら、改めて部屋の中のモンスターを確認する。
手前の部屋には赤い全身鎧のキャラが、奥の部屋には黒い鎧の敵キャラが行ったり来たりしている。
「さしずめレッドアーマー、ブラ
さて、これで先に進める。 と、思いはしたレイトだったけれど、これでは王女とコミュニケーションが取れないやと思い至った。「どうすんのこれ」 思わず独り言をつぶやくと、後ろから声が聞こえる。「どうかしましたか?」 便利な世界だ。「いや、じゃあ行きましょうか」「はい」 階段を登るとやたらSF感のある塔の屋上だった。 装置らしきものはフェンスのない屋上の端に置かれている。 風のエフェクトがあるたびに強い風を感じる。 こんなことはこの世界に来て初めてのことだ。(これはあれだ。何かの条件とか、演出の類だろうな) レイトは用心しながら一歩一歩と装置に近づく。 装置に体当たりするとBGMが鳴り止み、機械の起動音がした。 すると、屋上の中心に魔法陣らしき文様が浮かび上がって光りだした。 時折強い風の吹く中、レイトは王女が塔から落ちないように慎重に移動して魔法陣の中に入る。「あ」 王女が一言漏らす間に視界全てが白一色になったかと思うと、重力のなくなる感覚が襲う。 次の瞬間、視界が真っ暗になって重力が戻ってきた。「これはあれだ。テレポーテーションってやつだ」 さて、ここはどこだろうと目が慣れるのをじっと待っていたレイトだったけれど、一向に辺りが見えてこない。「ここはどこでしょうね?」「さぁ、こう何も見えないんじゃ判らないね」「私、いくつかの魔法なら使えますの。待っていてくださいね」 王女はそういうと、短い呪文を唱えだした。 なんて言っているかは判らない。 きっと、魔法用の特殊な言語なんだろう。 やがて光が灯り、レイトは驚くことになる。 どうやらゲームシステム的な何かが根本的に変わったようだ。 視界にはワイヤーフレームで表示された3Dダンジョン。 原始的なFPSとでも言えばいいのか、むしろウィザ
レイトがドレス姿の女の子に体当たりすると、女の子が起き上がる。 どうやら横になっていたのは階段の上だったようだ。 ゲーム的にはよくあるシチュエーションなのか? と、思いもしたわけだけど、「そんなわけあるかい!」 と、思わず突っ込んでみるレイトだった。 気を取り直して会話を試みる。「ここは? あなたは?」「僕はレイト。君は?」「私は王女クリスティーン。悪いウィザードにとらわれていたのですが、どうなっているのでしょうか?」 そこでレイトはざっとかいつまんで経緯を説明する。「では、ウィザードはあなたが倒したのですね」「そういうことになりますね」「ありがとうございます」「どういたしまして」 会話は進むがどうにも次のシナリオに進むフラグが立たない。 いや、視覚情報がゲームっぽいだけで現実らしいからシナリオとかフラグとかそういうんじゃないことはレイトにも判っちゃいるんだけど、ついついオタク的思考が先に立つ。「ところでそろそろ移動しません?」「え?」「あー……お城に帰らないのですか?」「ええ、帰りたい。そう! 帰りましょう」 それでもクリスティーンは動く気配がない。 レイトは仕方なくもう一度体当たりをした。「ああ……でも私、さらわれた際に気を失っていたので帰り道が判らないわ」 これは困ったぞとレイトは悩む。 展開的にクリスティーンの倒れていた階段を登るだけなのは明らかだ。 問題は何をどうすれば彼女が動いてくれるかだ。 腕を組んで考えたいところだが、ドット絵は腕組みが用意されていないようで、それもできない。 不便な身体になったもんだ。 心の中で悪態をつきつつも、頭の中ではゲーム的コマンド選択を考える。「一人では危ない。僕も元の世界に戻る方法を探しているところです。あなたの王国に行けば、その方法も見つかる
中には鋼鉄の鎧ってのが入っていた。 それに着替えたレイトは気合いを入れ直して次のドアを開ける。 反応はさっきの敵と同じだったが、スピードが違う。 さっきのはレイトの半分くらいだったが、目の前の敵は三分の二くらいのスピードで迫ってくる。「そもそものスペック差か? それとも鋼鉄の鎧が重いっていう処理?」 今はそんなことを考察している暇はない。 ということで殴りつつ逃げつつと格闘(この場合は取っ組み合いって意味じゃなく、困難に取り組む方だ)すること十分ちょっと、なんとかレッドゾーンにすることなく倒すのに成功した。 そしてでてきた宝箱の中には鋭利な鉄の剣。「こういう時は、鋼鉄の剣じゃないのかね?」 命名の法則にイマイチなぞなところがあるなと思いつつ持ち替えて階段を上ると、四階よりさらに狭いフロアにローブ姿の男(?)と横向きになった女性キャラがいる。 体の自由が利かなくなってローブの音がが喋り出す。「フハハ、よくきたな。我が名はウィザード。この塔のあるじだ」 レイトは(ウィザードって職業名なんじゃねーの?)と、心の中でつぶやきながら状況を確認する。 狭くなっているとはいえ戦闘空間としてはそれなりの広さが確保されている。 女の子はドレス姿か? ウィザードともに向かいの壁側にいるのでいきなり戦闘になることもないかな? と思いつつも(ウィザードっていうくらいなんだから魔法使ってくるんだろうな) と覚悟する。「塔を登ってきた勇気と実力は褒めてやろう。だが、ここまでだ。我が魔法を受けて死ね!」(最後雑っ!) と、心の中で毒づきながら自由が戻った体をまっすぐウィザードに向かわせる。 案に違わずウィザードは魔法を撃ってきた。 なんとなくパターンがありそうなクネクネとした火の玉の軌道を覚えながら避けて避けて避ける。 一度にフロアに放てるのは五つまでのようだ。 三度ほど当たったものの十五分ほど
強い分だけ経験値も溜まりやすいのか、この階でさらにレベルアップすることができた。 もっとも、経験値稼ぎに夢中になっていたせいで、さらに二回スコーピオンの毒にあたってしまったわけなのだけど。 三階は二階より狭く、ちょっとした障害物があるだけの空間で、コボルドとゴブリンがいた。「む。迷路の方がよかったな。これは一対多の戦闘を強いられる」 アルゴリズム的な反応のおかげで、そこそこ近付かなければこちらをタゲってこないことが救いだった。 テクニック的には一撃離脱を繰り返すことで、常に先制攻撃をして相手に攻撃させないようにすること。 けれどそれがなかなか難しい。 剣を振っている間は移動ができず、離脱距離を間違えて別のモンスターにタゲられることもちょいちょいあるのだ。 かなり苦戦を強いられて、フロアの敵全部倒すのに回復薬を二つ消費するハメになった。「もう一回回復するべきか否か?」 悩みどころである。 塔の外観的にはそう高い印象はなかったけれど、如何せんドット絵の世界だ。 実際には何十階とある可能性も否定できない。 村に戻れない仕様になっていることだし、消耗品はできる限り使いたくないと思うのは当然だろう。「レベルアップすれば全快するわけだしなぁ……」 彼は、上った先の敵を確認して使うかどうかを決めることにした。 四階は、三階よりさらに一回り小さい空間だった。 廊下で仕切られた部屋構造になっていて、なぜか中の様子が確認できる。 というか、この範囲ならフロア全体が見渡せる。「そういえば、塔の中は自分を中心に一定範囲のマップが全部見える感じだったな。なぜか迷路の通路の壁の向こう側も見えていた」 場所によって見え方が違う視覚情報にちょっとクラクラしながら、改めて部屋の中のモンスターを確認する。 手前の部屋には赤い全身鎧のキャラが、奥の部屋には黒い鎧の敵キャラが行ったり来たりしている。「さしずめレッドアーマー、ブラ
遺跡の塔はその名の通り朽ちた外観の塔だった。 一階が四角でその上に円筒が伸びている外観だ。「これで案外内部はしっかりしてたりするんだよなぁ……」 レイトは念の為、塔の前のモンスターでもう1レベル上げてから塔に入ることにした。 こういう時は案外慎重な男だ。 レベルアップすると強くなった気がする。 そのついでに怪我が治るんだ。「不思議な現象よね」 塔に入ると意思に反して動くことができなくなる。 ちょっと焦るも、BGMが鳴っていないことに気づき成り行きを見守っていると、ゴゴゴというSEとともに入り口の扉が閉まる。「あー、なるほど。入ったら戻ることができない……と。そりゃあ、戻ってきたやつはいないわな」 新しいBGMが鳴り出し、金縛りが解ける。 一階はちょっとした迷路になっていて、バットとスコーピオンが徘徊している。「スコーピオンは毒攻撃だろ。初めての状態異常攻撃モンスターだな」 カバンの中には毒消し草と解毒薬が10ずつ入ってる。 毒消し草は毒攻撃に有効で、解毒薬は毒の他に麻痺にも効く。「っていうか、麻痺状態で薬なんか使えんの?」 思わず考えそうになったが、そういう世界なんだ、その程度の麻痺なんだということにする。 相変わらず主人公適性の高い男だ。 バットは弱い。 剣で殴ればdefenseモードでも一撃で倒せる。 スコーピオンの方はoffenseモードでも三回くらい殴りつけないと倒せない。 そのスコーピオンは通常攻撃と毒攻撃でモーションが違うことを早々に発見したことで、一階をクリアするまでの間に二回しか毒攻撃を食らわずにすんだ。 階段を上ると二階はそこそこ広い円形の室内で、壁で仕切られためんどくさい通路になっていた。「ゲームあるあるだよね。意味もなく動線が複雑。ただ次の階段に向かうだけなのに」 二階にはスコーピオンとコボルドが徘徊している。「飛んでるバットと
レイトは宿屋で5ゴールド払って休むことにした。「二階の一番奥の部屋だ」 と言われたので、行ってみる。 小さな部屋にはベッドとタンスが一つずつ。 最初に目覚めた部屋によく似ている。「まぁ、ドット絵じゃしょうがないか」 PCGで定義された文字をタイリングしているんだろう。 ベッドに体当たりすると「ねる」「やめる」の選択肢が出たので「ねる」を選択する。 すると視界がブラックアウトして意識を持っていかれた。 意識が戻ると体調万全でスッキリした気持ちでベッドの横に立っていた。 確かに「寝たーっ!」って気はする。「でも、これなら最初の部屋でもよかったんじゃね?」 そんな気もする。 その後、レイトはウルフの森でウルフ、コボルド相手に8レベルまで、悪魔の祠のそばでゾンビ、スケルトンを倒しまくって11レベルまでレベルを上げた。 一度、祠の中に入れるかと試してみたが、頭の中に「はいれません」 と、アラートが出てそれっきりだったので、前のシナリオには戻れない仕様なんだろう。「つーか、現実世界に前のシナリオとかなんなん?」 自分がドット絵なことでいまいち現実感が怪しくなるレイトだった。 村に戻ると、今までいなかった男が村の中を移動している。 レイトは新しいイベントフラグだとアタリをつけて、その男に話を聞くことにした。「見かけない顔だな」(それはこっちのセリフだ) と、レイトは心の中でツッコミを入れる。「俺は猟師だ。ははぁん、お前だな異世界の旅人ってのは。遺跡の塔に行くつもりかい? 確かにあの塔には王国のある大陸に行く装置があるって話だが、やめといた方がいい。あそこに入って戻ってきたやつはいない」「それでも行かなきゃならないから」 他にすることもない。 この村で