로그인村の外に出るとBGMがそれまでの明るいものから暗めのものに変わった。
「新しいBGMってワクワクするんだよねぇ」
などと独り言を言って視界を確認する。フロアマップの中心に自分が仰向けで横たわっているように見える。
そもそもにおいて自分の視界のど真ん中に自分がいる違和感もまぁ、そう言うもんと割り切ってしまえばそのうち慣れるものらしい。
もともとゲームで育った大学生だ。
叔父さんの影響でレトロゲームマニアになった経緯も手伝って、ゲーム画面を見ているんだと思えばそれもアリかと納得している。
ただ、そんなゲーム画面視界を見ているにも関わらず、現実である感覚があるのが認識のズレを感じさせられる。
なにせ村では家が、村の外では村が自分の倍くらいの大きさしかないだ。
「参ったね、これ」
それはともかく、村の周りはセーフティーゾーンになっているのか、ドラクエみたいにエンカウントしないと敵が見えない仕様なのか、モンスターが見当たらない。
とりあえず探険すると、村からそれほど離れていない草原にスライムを発見する。
「スライムって棍棒で殴って倒せるのか? あ・でも洞窟でも剣で倒してたわけだし、視覚的には体当たりしてるだけだし、どう言う原理か判ってないにしても倒せる前提なのか」
お気楽に近づくと不意に頭の中に戦闘イメージが浮かぶ。
どうやら、ここでは体当たりじゃなく武器を振る動作が必要なようだ。
「offense」「defense」のモードもあるらしい。
「defenseモードって使う?」
レイトはスライムに近づき、棍棒を振る。
自分のそばに棍棒がつき出てきてスライムに当たる……ような動きをする。
視覚的にはそんな感じだ。
それでも単純な当たり判定を神様にされてる気になる体当たりより、自分で戦ってる感が得られる。
そして、スライムを倒すと経験値の他にゴールドが獲得できるようだ。
例によって弾けたモンスターの後に金貨が落ちているとか言うことはなく、感覚としてゴー
レイトは宿屋で5ゴールド払って休むことにした。「二階の一番奥の部屋だ」 と言われたので、行ってみる。 小さな部屋にはベッドとタンスが一つずつ。 最初に目覚めた部屋によく似ている。「まぁ、ドット絵じゃしょうがないか」 PCGで定義された文字をタイリングしているんだろう。 ベッドに体当たりすると「ねる」「やめる」の選択肢が出たので「ねる」を選択する。 すると視界がブラックアウトして意識を持っていかれた。 意識が戻ると体調万全でスッキリした気持ちでベッドの横に立っていた。 確かに「寝たーっ!」って気はする。「でも、これなら最初の部屋でもよかったんじゃね?」 そんな気もする。 その後、レイトはウルフの森でウルフ、コボルド相手に8レベルまで、悪魔の祠のそばでゾンビ、スケルトンを倒しまくって11レベルまでレベルを上げた。 一度、祠の中に入れるかと試してみたが、頭の中に「はいれません」 と、アラートが出てそれっきりだったので、前のシナリオには戻れない仕様なんだろう。「つーか、現実世界に前のシナリオとかなんなん?」 自分がドット絵なことでいまいち現実感が怪しくなるレイトだった。 村に戻ると、今までいなかった男が村の中を移動している。 レイトは新しいイベントフラグだとアタリをつけて、その男に話を聞くことにした。「見かけない顔だな」(それはこっちのセリフだ) と、レイトは心の中でツッコミを入れる。「俺は猟師だ。ははぁん、お前だな異世界の旅人ってのは。遺跡の塔に行くつもりかい? 確かにあの塔には王国のある大陸に行く装置があるって話だが、やめといた方がいい。あそこに入って戻ってきたやつはいない」「それでも行かなきゃならないから」 他にすることもない。 この村で
「あ。レベルが上がった」 洞窟の時とおんなじ感覚だった。 洞窟の時はレベルが上がるたびに強くなった感が大きくなった。 今回のレベルアップはそんなに強くなった感が感じられなかったので、レイトはまた1レベルからスタートになったんだなぁとそんなふうに思う。「それにしたって、レベルアップと同時にライフが回復するんなら薬草使わなくてもよかったなぁ……」 と、さっき使った薬草をもったいなく思うレイトだったけれど、経験値どころかステータスが見られないのでこう言うことは仕方がない。 それに、洞窟内と違って移動しているだけでは回復できなくなっているようだ。 スライムの草原で3レベルまで上げた頃、最初に買った薬草がなくなったので村に戻ることにした。 村に戻るとまずは何でも屋に入る。 商品に「かばん」が追加されていた。「カバンを使うと道具を最大10アイテム持つことができるんだ」 と、店主が教えてくれた。 それと、店に入るとおもむろに何ゴールド持っているかが判ったのが面白い。 所持金一六八ゴールド。 なんでモンスターを倒すとゴールドが手に入るのか? とか こんな金の稼ぎ方で貨幣価値が維持できるってどう言うシステムなんだろう? なんて考えるのが野暮なことか「これが異世界ってやつなんだ」と納得する。 とりあえず50ゴールドののカバンと薬草三つを買って防具屋へ移動、「かわ の よろい」が増えていたけれど高くて買えなかったので、当初の予定通り一番安い「き の たて(100ゴールド)」を買って装備する。 残りは9ゴールドだ。 もう一度、何でも屋に立ち寄り薬草を三つ買って村を出る。「一文無しだ」 と、自嘲してスライムの草原に向かう。 そんなゴールドと経験値稼ぎを何度か繰り返した結果、レイトは5レベルになった。 これ以上スライムでレベルは上がりそうにない。 装備も革の鎧に革の盾、短剣と言うやっとまともな冒
村の外に出るとBGMがそれまでの明るいものから暗めのものに変わった。「新しいBGMってワクワクするんだよねぇ」 などと独り言を言って視界を確認する。フロアマップの中心に自分が仰向けで横たわっているように見える。 そもそもにおいて自分の視界のど真ん中に自分がいる違和感もまぁ、そう言うもんと割り切ってしまえばそのうち慣れるものらしい。 もともとゲームで育った大学生だ。 叔父さんの影響でレトロゲームマニアになった経緯も手伝って、ゲーム画面を見ているんだと思えばそれもアリかと納得している。 ただ、そんなゲーム画面視界を見ているにも関わらず、現実である感覚があるのが認識のズレを感じさせられる。 なにせ村では家が、村の外では村が自分の倍くらいの大きさしかないだ。「参ったね、これ」 それはともかく、村の周りはセーフティーゾーンになっているのか、ドラクエみたいにエンカウントしないと敵が見えない仕様なのか、モンスターが見当たらない。 とりあえず探険すると、村からそれほど離れていない草原にスライムを発見する。「スライムって棍棒で殴って倒せるのか? あ・でも洞窟でも剣で倒してたわけだし、視覚的には体当たりしてるだけだし、どう言う原理か判ってないにしても倒せる前提なのか」 お気楽に近づくと不意に頭の中に戦闘イメージが浮かぶ。 どうやら、ここでは体当たりじゃなく武器を振る動作が必要なようだ。 「offense」「defense」のモードもあるらしい。「defenseモードって使う?」 レイトはスライムに近づき、棍棒を振る。 自分のそばに棍棒がつき出てきてスライムに当たる……ような動きをする。 視覚的にはそんな感じだ。 それでも単純な当たり判定を神様にされてる気になる体当たりより、自分で戦ってる感が得られる。 そして、スライムを倒すと経験値の他にゴールドが獲得できるようだ。 例によって弾けたモンスターの後に金貨が落ちているとか言うことはなく、感覚としてゴー
「弱いと言ってもこの島にもモンスターはいる。武器も持たずに村の外に出て行くのは危険すぎるから、これをあげよう」 と、おじさんに渡されたのは「こんぼう」と50ゴールドだった。 中世ヨーロッパ風と言われるファンタジー世界で棍棒はないだろう。 時代設定間違ってんじゃないの? と、思ったことは口にせず、レイトはお礼を言う。 ただで物をもらったのだから当然だ。「ありがとう。おじさん」「なんのなんの」 おじさんの家を出ると、そこは村だった。 村の中を見て回ると、いくつかの民家が点在し、武器屋・防具屋・何でも屋と言う三軒の店屋と宿屋が一軒あるだけだった。 レイトは「基本は自給自足なのだろう」と、納得して何でも屋に入る。「いらっしゃい」 カウンター越しに店の親父に体当たりすると「かう」と「うる」が選択できる。 品揃えとしては「やくそう」「かいふくやく」「どくけしそう」の三つしか置いていない。「他にはないのか?」 独り言のつもりでつぶやいたレイトだったが、会話フラグが立ったようだ。「レベルが上がれば買えるものも増えるよ」 という。 そんなものかととりあえず「やくそう」を三つ買うことにした。「9ゴールドです」 村人が金貨で売買をすると言うことに若干のモヤモヤを感じるもののゲーム世界だと無理やり自分に言い聞かすレイトだった。 買い物といってもお金を渡したとか、商品を受け取るといったやり取りがあるわけじゃない。 そんなわけなので、これが現実のことなのか、ゲームの世界なのか、はたまたお馴染みの異世界召喚ものなのか今ひとつ判然としないレイトだった。 薬草を手に入れると、自然とどう使えばいいのかが理解できる。 ついでに薬草の効果が判った。 唐突に理解したのか思い出したのか、そこらあたりの原理もさっぱりだ。 悩むと先に進まないので「そういうものだ」で済ませることにしたあたり、レイトは
廊下があって上下にドアがある。「……気にはなるけど、たぶんただの部屋だろうな」 レイトはドアには目もくれず廊下の突き当たりを曲がって階段を降りると、画面が切り替わる。 一階にはおじさんが立っていた。「…………」 しばらく待ってみたが、なんの反応もないので仕方なくおじさんの前に立ってみる。「…………」 やっぱり反応がない。 レイトは頭をかきたかったが、できるわけもなく、ため息ひとつついた後、おもむろに体当たりした。「おぉ若者よ、気がついたか」 一応、音で会話ができるようだ。「おかげさまで」 と、レイトは答えるがそれっきり反応がない。「…………」 もう一度体当たりをすると「お前さんが悪魔の祠の前で倒れているとこをたまたま見つけて村まで連れ帰ってきたのだ。感謝したまえ」 と、おじさんが言う。「それはどうもありがとうございます」 と、お礼を言ったがやはりそれきり反応がない。「……これ、返答する意味なくない?」「そんなことはないぞ」 と、次に体当たりした時おじさんは言った。「体当たりしないと反応できないだけで、ちゃんと会話は成り立つ」 面倒臭いなぁと思いつつレイトは会話を続けることにした。 だって他にできることないじゃないか。「ここはどこですか?」「ここはハジマリの島サイショノ村だ」「始まりの島?」「アクセントが違う。ハジマリの島だ」「…………」「何か問題でも?」「……いえ」「お前さんどうしてあんなところに倒れていたんだい?」 レイトは事の経緯を説明する。「なるほど、お前さん『異世界の旅人』だったのか。と言うことは『世界の危機』が迫っているのだな。若者よ、この村は結界によって守られているので強
目覚めたレイトは目をこすりたくなった。 もっともこするギミックがないので、することはできない。 昔のゲームらしきものに吸い込まれてさまよった洞窟迷宮から脱出したはずだった。 その手の小説や漫画を思い返せば、さすがにたった数時間で元の世界に戻ってこれるなんて甘い考えは持ってない。 たぶん地上世界が待っているだろうと考えながら出口に入った。「出口に入ったとか、日本語としてどうかと思うけど……」 日本語としてはどうかと思うけれど、ゲーム画面の説明的には間違っていない。「……さて」 現状である。 レイトは部屋の中にいた。 相変わらずドット絵の世界だ。 しかし、さっきとは様子が違う。「……あ・色数が増えてる! キャラクターを構成しているドット数も増えてるわ」 相変わらずレイトの視覚はゲーム画面を見ているように正面を向いた自分を中心に背景がある。 部屋の外が黒くて判らないのは地図情報がないからだろう。 自分を構成しているドットは32×32ドットに増えているし、中間色表示がされている。 ただ、同時に表示されている色数は多くないようで、同時発色数16色ってやつだろう。 なにせドット絵なので元の自分の特徴が出ていると言えるかは微妙だったけれど、自分であるという認識はある。 そして、なぜかパン一だ。 部屋にはベッドとタンスがあるだけ。「とりあえず体当たりか?」 自分の隣にあるベッドに体当たりをしようとすると、今度は自分が横向きのキャラクターに変わる。「うえぇ……横向きの自分が見えるとか、ゲシュタルト崩壊しそうだ」 グッとこらえて体当たりをすると、「ねる」「やめる」の選択肢が頭の中に浮かぶ。 彼は「やめる」を選択してタンスを調べることにした。 移動は洞窟の時と違いドット単位で動いて見える。 もっとも1移動単位は半キャラ分で変わっていない。 タンス