ログインそれを見た蓮は突然パニックになり、狂ったように叫んだ。「幸福の心だとかなんだか知らないが、そんなの、生きた人間の心臓じゃないか!俺にだってある!」彼は化け物に手を出す勇気はなく、彩花の不意を突いて、彼女を自分のドアに叩きつけた。すると、蓮のドアについていた鍵が、たちまち頭の大きな獣に姿を変わり、悲鳴をあげる彩花を飲み込んでしまった。跡形もなく、きれいさっぱりと。私には、止める間もなかった。そして蓮はまた狂ったような目で私を見た。どうやら彼は私も投げ込むつもりのようだ。彼のドアには鍵が2つあるからだ。そんな時、血濡れの姫がフンと鼻で笑うと、白いワンピースがみるみる大きくなり、生きたミンチ機となって蓮に噛みついた。あっという間に、赤い肉片が舞い散り、白いワンピースは血で真っ赤に染まっていった。そして、血濡れの姫は辺りに飛び散った肉片に向かって呟いた。「ママが帰る前に、いい子にしてようと思ったんだけど。あなたが悪いことをしようとするなら仕方ないよね」そう言って彼女はまた、可愛らしい顔を上げ、細くて白い腕を伸ばした。素早く自分の心臓を取り出すと、私のドアにある2つ目の鍵に向かって投げつけた。「ママ、光希も離れたくない。でもね、光希はママに生きていてほしいの。たとえそこに光希がいなくても、黒い霧になんかなっちゃうより、ずっといいから」臓鬼爺と夜叉婆も同じようにして、私の次の鍵を開けてくれた。「いい子だ。もし、いつか私の息子に会うことがあったら伝えてくれ。消火栓に水がなかったのは、彼のせいじゃないってな」「俺の娘にも伝えてくれ。俺は、人助けをした大ヒーローだった。スケベじじいなんかじゃなかったってね」「あなたもやきもちを焼くなよ。あなたも、私たちにとって子みたいなもんだ。お母さんとお父さんは、ずっとあなたを愛してるからな」それを聞いて私の目から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。ほどなくして真っ黒な鉄の扉から、目もくらむような白い光があふれ出した。私の目は、相変わらずひどい近視のままだった。でも今度は、迷うことなく彼らに飛びついて、ぎゅっと抱きしめながら泣きじゃくって聞いた。「心臓がなくなったら、みんな死んでしまうのですか?」首切り将軍は私を強く抱きしめ返してくれた。その漆黒な瞳は、優しさにあふれてい
【明日、歴史が動く!『ハッピーホーム』の初クリアだ!】でも、私はここを離れることを思うと、想像していたほど嬉しくはないみたい。夜11時、4人の守護者たちが私を連れて、1階にたどり着いた。鉄壁のはずだった1階の壁には、いつの間にか趣のある黒い大きな扉が3つも現れていた。それぞれの扉には、違う数の錠前がかかっていた。私の扉には4つ、彩花の扉には1つ、そして蓮の扉には2つの錠前があった。私は、なんとなく察しがついた。扉の上にはプレイヤーの名前が、その下には恐怖値がそれぞれ表示されている。【藤井泉、恐怖値:0】【陣内彩花、恐怖値:99.9】【石川蓮、恐怖値:90】残りの2人は驚いた顔で私を見ていた。どうして私がそんなことができたのか、理解できないみたい。だって……みんなあんなに可愛くて優しいのに。どうして怖がったりする必要があるの?その時、また機械的な声が響いた。それはどこか人を揶揄うような意地悪な口調だった。「さて、プレイヤーの皆さん、鍵を使って、『異世界の門』を開けますか?期限は今夜12時まで、皆さんにはあと1時間しかありません。早くしないと、永遠にこのステージに閉じ込められますよ」鍵?30階の部屋の鍵以外に、心当たりなんてないけどな。でも、扉の鍵穴はハートの形をしていて、普通の鍵が入りそうには見えない。私はがっかりしたふりをしてしゃがみ込み、頬杖をついた。そして首切り将軍、血濡れの姫、臓鬼爺、夜叉婆に、しょんぼりした声で甘えて言った。「どうしましょうか?鍵がないから、もう帰れないみたいですよ。これでずっとみんなと一緒になくちゃ」えへへ、嬉しいな。突然、首切り将軍が私の顎に手をかけた。彼は身をかがめて私と目線を合わせると、その不気味なほど赤い瞳で、じっと私を見つめた。「泉、お前は鍵の正体に気づいている。だから帰りたがらないんだろう?だがお前は知らないんだ。もしここに囚われたとしても、お前は俺たちの仲間にはなれない。ただ、あたりを漂う黒い霧になるだけなんだ。お前たちの言うホラーゲームの世界は、この黒い霧で満ちている。霧には感情も、意識も、思考もない。それはもはや、存在ですらなくなるんだ。泉、そうなったら、俺はお前を永遠に失ってしまう。それならいっそ、お前がしばらくの間、
夜叉婆は、団地で火事があった時、息子は消火器の使い方も知っていたのに、消火栓に水がなかったせいで、結局、目の前で母親が生きながら焼かれて死ぬのを見ているしかなかったんだ。首切り将軍は、もともと成績優秀で良家の息子だったが、両親がカルト教団に入ってしまったのだ。そのせいで、彼は名門大学を卒業して、やっと実家から逃げ出すことができたのに、「息子を殺せばその命を受け継いで永遠の命が手に入る」などと完全に洗脳された両親に錆びた刃物で頭を切り落とされて亡くなったのだった。そして私がここで彼らと再会し、こんなに奇妙で、ぎこちない家族になったのは、たぶん偶然じゃない。実は、私が事故に遭う前日、給料日だったから、ウキウキしながら墓地のそばを通りかかったのだ。その時私は何かに引きつられたように、近くの花屋で花を4束買った。そして、隣り合っていた4つのお墓を適当に選んで、亡くなった人たちに供えたんだ。そしてその4つの墓石に刻まれていた名前は……【伊藤光希(いとう みつき)】【宮本拓也(みやもと たくや)】【山田由理恵(やまだ ゆりえ)】無名。なるほど、それで首切り将軍は本当に無名だったわけだ。30階に戻った私はすっかり元気を取り戻し、また何事もなかったように明るく振るった。家の入口に立ってみると、ドアが開いていた。そういえば、私がここを出て行ってから、このドアは一度も閉められることはなかったのだ。彼らは、ずっと私が帰ってくるのを待っていてくれたんだ。リビングには、老若男女が笑顔で座っていた。テーブルにはごちそうが並んでいて、私の大好きな飲み物も用意されていた。みんなに手を引かれ、囲むようにして座らせられた。そして、みんなにこにこしながら言った。「さっき、あなたの友達たちが来たから、訪問カードを渡しておいたよ。これから、この7日目は一緒に過ごそう。今日だけは本当の家族として!」1日だけ、それはなんて楽しくて、そして、なんて短いんだろう。ほどなくして夕食が終わり、夜の帳が下りてきた。夜叉婆が腕を振ると、夜空に火の粉が散って、まるで花火のようだった。私はすかさず煽てた。「お母さん、さすが……」すると横にあった手にそっと顔を包まれ、柔らかい唇が私のおでこに落ちてきた。目を向けると首切り将軍の顔は
プレイヤーは4日目まで生き残るのに、必ずしも住民を攻略して全部の訪問カードを手に入れる必要はないんだ。だって、プレイヤー全員が私みたいに運がいいわけじゃないから、いきなり強力なアイテムを手に入れて、化け物たちを黙らせることもできないし、下の階で新聞を読んでいなかったから、心から化け物たちを説得することもできないでしょう。だから、別の方法を使うしかなかった。それは、奪い合い、そして食い合うことだ。4日目からは、もしプレイヤーAがプレイヤーBを殺せば、AはBの階の化け物から訪問カードを手にすることができるし、その上、Bが持っていた訪問カードも全部、Aのものになるのだ。つまり、これは鵜飼いをしているようなものであって、AはBという名の鵜に魚を取らせて、そしてその鵜を捕まえて取り分を吐かせれば、すべてを手に入れることができるわけだ。だから、私たち全員が、直美と幸太が飼いならした鵜のような存在であって、私はその過程で、思いがけず最も収穫の多い鵜となった。クソ、なんて意地汚いんだ。要するに、このホラーゲームのルールでは、プレイヤー同士の殺し合いが許可されていて、むしろ推奨されてるってこと。ただ、今回、直美と幸太は標的を定めるのに失敗したようだ。そう思いながら、私は上着を脱いで、赤いワンピース姿になった。そして、スカートの裾から首切り将軍の包丁と、はらわた、それに黒焦げの手を取り出した。「聞かせてもらおうかしら。あなたたちは、私をどうやって殺すつもり?」私が包丁を軽く振るうと、S級の防御アイテムが音を立てて砕け散った。それを見た直美と幸太は顔を強張らせた。次第に、彼らは完全にへたり込んでしまった。「泉さん、私たちが間違ってた。ただ、生き返りたかっただけなんだ。お願い、殺さないで!命だけは助けて!」だが私は少しも容赦せず、彼らの命乞いを無視して、ただ淡々と尋ねた。「下の階のプレイヤーたちも、こんな風にあなたたちに命乞いしたんじゃない?あなたたちは、彼らを見逃してあげたの?」すると、錆びた包丁がまるで自分の意思を持っているかのように、2人に向かって飛んでいった。あの錆びた包丁に切り刻まれるのは、さぞかし苦しい死に方になるだろう。でも、包丁が彼らに触れる前に、そのSSSSS級のアイテムが自分に向かって飛んで
私も10階にたどり着いた。この時点で、私の手にはたくさんの訪問カードが集まっていた。実は20階から下は、ボスもそれほど怖くなくなっていた。おかげで、私は生き残りのプレイヤーを2人も見つけたんだ。でも、彼らは私に逆らおうとはしなかった。もちろん、彼らに住民の攻略を手伝ってもらう必要もなかったけど。なぜなら、ここの住民はみんな親切で、かわいいくらいだったから。自分からドアを開けて、訪問カードを手渡してくれるんだもの。その後、生き残りのプレイヤーたちも私についてきて、一緒に他の住民を訪ねた。そうして私たちは、順調に10階まで下りてきたんだ。一方で、コメント欄では、やきもきするようなツッコミが飛び交っていた。【30階のあの方々が睨みを利かせてるからな。渡さないわけにはいかないだろ?】私たち3人が10階に着くとすぐに、身長2メートルはある犬の頭を持つ人型の化け物が廊下に立っていた。ドアは大きく開け放たれていて、中にはプレイヤーたちの白骨が散乱していた。その化け物は、私たちに訪問カードを3枚差し出してきた。私が何か言おうと口を開きかけた時、化け物は突然私の方を向いて、少し屈みこんだ。酷い近眼の私でも、その犬歯の間に挟まった肉片がはっきりと見えた。人間の指らしきものまでくっついている。「人間よ、30階の奴らがお前を守っているからといって、俺が恐れをなすとでも思ったか。少なくとも、この件に関しては、絶対に譲らない。この10階に足を踏み入れた人間は、誰も生きては帰れないようにしてやるから。お前の顔を立てて、気に入った人間にだけは訪問カードをくれてやろう。それ以上を望むな」それを聞いて、私は黙り込んだ。今にも飛び出しそうな包丁を必死に抑えつけて、小声でなだめた。「まあまあ、怒らないで。立派な男が犬を相手にすることないでしょ」包丁は、ぷんぷんしながらも、ようやく落ち着いてくれた。この化け物と人間間の恨みは、きっと彼が生きていた頃だけじゃなくて、今の現実世界にまで根差しているんだろう。一部の人々が犬や猫などの動物を虐殺している。だから、この世界では犬の頭を持つ化け物が現れて、この10階だけで人間を虐殺しているんだ。聞く分にはなんとも公平な話のようにも思えた。「この殺し合いは、いつになったら終
「それに、ここには社会のしがらみなんてなく、あるのは生と死だけですから、あなたは好きな服を着ればいいし、メイクをするかどうかも自由です。もし彼らが死んでここに来たら、また思う存分いたぶってやればいいんです。まあ、そんな人間は、死んでもここで復活する資格なんてないと思いますけどね」私の話の続きを聞いて、女の子はにこっと笑った。そして彼女はゆっくりと背後にあった格闘の武器を取り出すと、その瞳には血に飢えたような光が宿っていた。それはまさしく、この子がコスプレしていたアニメのキャラクターの武器だった。「ええ、私らしくいることにするわ。もし、あの人たちが本当にここに来たなら……彼らも自分たちが崇拝していた神の武器で殺されるなんて、光栄なことでしょ」そうこなくっちゃ。それでこそ、28階のボスにふさわしい風格だ。そうこうしていると、私は27階にやってきた。この階の化け物は、制服を着てメイクをし、エプロンをつけたOLなのだが、どこかぎこちなくも見えた。そして、彼女の手は、全身が押しつぶされた小さな男の子とつながっていた。私は新聞を見なくても、彼らが誰なのかはすぐに分かった。当時、この男の子は学校で交通事故に遭った。母親は取り乱して仕事着のまま学校に駆け付けた。でも、その姿を心ない人間にネットに晒されてしまった。「水商売の女だ」「息子が死んだのによくメイクなんてしていられるな」「男のベッドから這い出てきたばかりじゃないのか」と、ひどい非難を浴びせられて。この母親は悲しみに暮れる中、ネットでの誹謗中傷に耐えきれず、ビルから飛び降りて自殺を選んだ。そうか、この世界で、彼女は息子と再会できたんだ。私がこの若い母親を慰めようと口を開こうとした時、傍にいたその恐ろしい形相の男の子が、突然愛らしい声で言った。「お姉ちゃん、僕がママのこと慰めてあげたから大丈夫だよ。へへっ、もしあの人たちが現れたら、僕がみんなやっつけてあげるからね。えへへ、こっそり教えちゃうけど、3日前にうちに来た人、あれってママをいじめた人なんだ。死ぬ直前、あの人は必死に命乞いをしてきたよ。『ネットで関連する投稿をシェアしただけで、君のママを罵ったことはない』って。でも、僕は殺した。だって、あの人は共犯者だと思ったから。ママは、僕が一番よく知ってる。おしゃ