LOGINホラーゲームに入り込んだ私は目がすごく悪くてよく見えなかった。 だから、血濡れの姫を本当の娘みたいに可愛がったり、ラスボスを夫みたいに扱ったり、年老いた化け物を実の親みたいに敬ったりしていた。 初めてラスボスに会ったときなんて、思わずその腹筋をわしづかみにしちゃって、こう言ったのだ。 「わあ、すごい体してるね。でも、ちょっと背が低いのがもったいないかな」 そう言われボスは言葉を失ったけど、手に持っていた自分の首を体にくっつけると、歯ぎしりしながら言った。 「俺は身長186センチだ。さあ、もう一度よく見てみろよ」
View More仕事帰りに立ち寄った、いつものスーパー。
閉店まであと一時間を切った総菜コーナーには、赤い値引きシールが並び始めていた。秋山真琴は、何の気なしに、ひじきの煮物のパックを手に取る。
貼られていたのは――「30円引き」。その瞬間だった。
商品棚の横、すり切れたステンレスの壁に映った自分の姿が、視界に入った。
くすんだ照明。
仕事帰りの地味な服装。 肩から提げたバッグの重み。――あ。
喉の奥が、ひゅっと鳴る。
「すべてを投げ捨てて、逃げたい」
理由は分からない。
ただ、そう思った。ステンレスに映る自分の顔は、どこか擦り切れて見えた。
何度も磨かれて、角がなくなった金属みたいに。これが、今の私?
慌てて視線を逸らし、真琴はひじきのパックをカゴに入れた。
なぜか胸の奥が落ち着かず、他の商品を見る気になれない。レジを済ませ、外に出ると、夜風が頬を撫でた。
春先のはずなのに、少しだけ冷たい。親友の楓を助けるつもりだった。
それは、嘘じゃない。広告代理店で積み上げてきたキャリアを手放し、
診療報酬請求事務の資格を取り、 楓が立ち上げた外科病院を手伝った。「ありがとう、真琴がいてくれて本当に助かる」
そう言って笑う楓の顔を見るたび、
自分の選択は間違っていないと思っていた。――思おうとしていた。
病院を辞めると決めたとき、
真琴は楓に、こう伝えた。「実家に戻らなきゃいけなくなって」
「え……急だね」
「うん。ちょっと、いろいろあって」
本当の理由は言わなかった。
言えなかった。楓は一瞬だけ、何か言いたそうな顔をしたが、
すぐに微笑んで、「そっか」と頷いた。「今まで、本当にありがとう」
それだけだった。
あっさりしすぎていて、
胸の奥が、ちくりと痛んだ。少し離れた街に引っ越し、就職活動は思った以上に難航した。
結局、資格があるからという理由で、別の病院に採用された。
生活のための就職。
そう割り切ったはずだった。毎日、同じ時間に出勤し、
書類を整理し、 数字をパソコンに打ち込む。退勤後は、スーパーで値引き品を買って帰る。
それだけの生活。
アパートの部屋に戻り、
買ってきたひじきの煮物を皿に移す。テレビをつけても、内容は頭に入らない。
缶ビールを開けて一口飲む。スマートフォンを手に取る。
通知は、何も来ていない。
誰かを待っているわけじゃない。
……はずなのに。画面を伏せた瞬間、
胸の奥が、少しだけ苦しくなった。ふと、楓の顔が浮かぶ。
白衣を着て、忙しそうに歩く姿。 冬真と並んで立つ、あの自然な距離。幸せそうだ。
心から、そう思う。なのに。
冷蔵庫を開けたとき、
不意に、陽斗の声がよぎった。「仕事ばっかりだな、真琴」
すぐに首を振る。
今さら思い出す必要はない。私は、自分で選んだ。
一人で生きることを。仕事を軸に、自分の足で立つ人生を。
……本当に?
テーブルの上に置いたノートに、目が留まる。
引っ越しのとき、何となく持ってきただけの一冊。 中身は、まだ白紙のまま。真琴はペンを手に取ったが、
何も書けずに、また置いた。時計を見ると、日付が変わっていた。
カーテンの隙間から、街灯の光が滲む。
その光を見つめながら、真琴は思う。静かな幸福は、
選び取るものだと信じていた。でも。
この静けさは、本当に“幸福”なのだろうか。
答えは出ない。
ただ、胸の奥で、何かが小さく音を立てている気がした。
それが不安なのか、それとも、何かが始まる前触れなのか。
真琴には、まだ分からなかった。
それを見た蓮は突然パニックになり、狂ったように叫んだ。「幸福の心だとかなんだか知らないが、そんなの、生きた人間の心臓じゃないか!俺にだってある!」彼は化け物に手を出す勇気はなく、彩花の不意を突いて、彼女を自分のドアに叩きつけた。すると、蓮のドアについていた鍵が、たちまち頭の大きな獣に姿を変わり、悲鳴をあげる彩花を飲み込んでしまった。跡形もなく、きれいさっぱりと。私には、止める間もなかった。そして蓮はまた狂ったような目で私を見た。どうやら彼は私も投げ込むつもりのようだ。彼のドアには鍵が2つあるからだ。そんな時、血濡れの姫がフンと鼻で笑うと、白いワンピースがみるみる大きくなり、生きたミンチ機となって蓮に噛みついた。あっという間に、赤い肉片が舞い散り、白いワンピースは血で真っ赤に染まっていった。そして、血濡れの姫は辺りに飛び散った肉片に向かって呟いた。「ママが帰る前に、いい子にしてようと思ったんだけど。あなたが悪いことをしようとするなら仕方ないよね」そう言って彼女はまた、可愛らしい顔を上げ、細くて白い腕を伸ばした。素早く自分の心臓を取り出すと、私のドアにある2つ目の鍵に向かって投げつけた。「ママ、光希も離れたくない。でもね、光希はママに生きていてほしいの。たとえそこに光希がいなくても、黒い霧になんかなっちゃうより、ずっといいから」臓鬼爺と夜叉婆も同じようにして、私の次の鍵を開けてくれた。「いい子だ。もし、いつか私の息子に会うことがあったら伝えてくれ。消火栓に水がなかったのは、彼のせいじゃないってな」「俺の娘にも伝えてくれ。俺は、人助けをした大ヒーローだった。スケベじじいなんかじゃなかったってね」「あなたもやきもちを焼くなよ。あなたも、私たちにとって子みたいなもんだ。お母さんとお父さんは、ずっとあなたを愛してるからな」それを聞いて私の目から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。ほどなくして真っ黒な鉄の扉から、目もくらむような白い光があふれ出した。私の目は、相変わらずひどい近視のままだった。でも今度は、迷うことなく彼らに飛びついて、ぎゅっと抱きしめながら泣きじゃくって聞いた。「心臓がなくなったら、みんな死んでしまうのですか?」首切り将軍は私を強く抱きしめ返してくれた。その漆黒な瞳は、優しさにあふれてい
【明日、歴史が動く!『ハッピーホーム』の初クリアだ!】でも、私はここを離れることを思うと、想像していたほど嬉しくはないみたい。夜11時、4人の守護者たちが私を連れて、1階にたどり着いた。鉄壁のはずだった1階の壁には、いつの間にか趣のある黒い大きな扉が3つも現れていた。それぞれの扉には、違う数の錠前がかかっていた。私の扉には4つ、彩花の扉には1つ、そして蓮の扉には2つの錠前があった。私は、なんとなく察しがついた。扉の上にはプレイヤーの名前が、その下には恐怖値がそれぞれ表示されている。【藤井泉、恐怖値:0】【陣内彩花、恐怖値:99.9】【石川蓮、恐怖値:90】残りの2人は驚いた顔で私を見ていた。どうして私がそんなことができたのか、理解できないみたい。だって……みんなあんなに可愛くて優しいのに。どうして怖がったりする必要があるの?その時、また機械的な声が響いた。それはどこか人を揶揄うような意地悪な口調だった。「さて、プレイヤーの皆さん、鍵を使って、『異世界の門』を開けますか?期限は今夜12時まで、皆さんにはあと1時間しかありません。早くしないと、永遠にこのステージに閉じ込められますよ」鍵?30階の部屋の鍵以外に、心当たりなんてないけどな。でも、扉の鍵穴はハートの形をしていて、普通の鍵が入りそうには見えない。私はがっかりしたふりをしてしゃがみ込み、頬杖をついた。そして首切り将軍、血濡れの姫、臓鬼爺、夜叉婆に、しょんぼりした声で甘えて言った。「どうしましょうか?鍵がないから、もう帰れないみたいですよ。これでずっとみんなと一緒になくちゃ」えへへ、嬉しいな。突然、首切り将軍が私の顎に手をかけた。彼は身をかがめて私と目線を合わせると、その不気味なほど赤い瞳で、じっと私を見つめた。「泉、お前は鍵の正体に気づいている。だから帰りたがらないんだろう?だがお前は知らないんだ。もしここに囚われたとしても、お前は俺たちの仲間にはなれない。ただ、あたりを漂う黒い霧になるだけなんだ。お前たちの言うホラーゲームの世界は、この黒い霧で満ちている。霧には感情も、意識も、思考もない。それはもはや、存在ですらなくなるんだ。泉、そうなったら、俺はお前を永遠に失ってしまう。それならいっそ、お前がしばらくの間、
夜叉婆は、団地で火事があった時、息子は消火器の使い方も知っていたのに、消火栓に水がなかったせいで、結局、目の前で母親が生きながら焼かれて死ぬのを見ているしかなかったんだ。首切り将軍は、もともと成績優秀で良家の息子だったが、両親がカルト教団に入ってしまったのだ。そのせいで、彼は名門大学を卒業して、やっと実家から逃げ出すことができたのに、「息子を殺せばその命を受け継いで永遠の命が手に入る」などと完全に洗脳された両親に錆びた刃物で頭を切り落とされて亡くなったのだった。そして私がここで彼らと再会し、こんなに奇妙で、ぎこちない家族になったのは、たぶん偶然じゃない。実は、私が事故に遭う前日、給料日だったから、ウキウキしながら墓地のそばを通りかかったのだ。その時私は何かに引きつられたように、近くの花屋で花を4束買った。そして、隣り合っていた4つのお墓を適当に選んで、亡くなった人たちに供えたんだ。そしてその4つの墓石に刻まれていた名前は……【伊藤光希(いとう みつき)】【宮本拓也(みやもと たくや)】【山田由理恵(やまだ ゆりえ)】無名。なるほど、それで首切り将軍は本当に無名だったわけだ。30階に戻った私はすっかり元気を取り戻し、また何事もなかったように明るく振るった。家の入口に立ってみると、ドアが開いていた。そういえば、私がここを出て行ってから、このドアは一度も閉められることはなかったのだ。彼らは、ずっと私が帰ってくるのを待っていてくれたんだ。リビングには、老若男女が笑顔で座っていた。テーブルにはごちそうが並んでいて、私の大好きな飲み物も用意されていた。みんなに手を引かれ、囲むようにして座らせられた。そして、みんなにこにこしながら言った。「さっき、あなたの友達たちが来たから、訪問カードを渡しておいたよ。これから、この7日目は一緒に過ごそう。今日だけは本当の家族として!」1日だけ、それはなんて楽しくて、そして、なんて短いんだろう。ほどなくして夕食が終わり、夜の帳が下りてきた。夜叉婆が腕を振ると、夜空に火の粉が散って、まるで花火のようだった。私はすかさず煽てた。「お母さん、さすが……」すると横にあった手にそっと顔を包まれ、柔らかい唇が私のおでこに落ちてきた。目を向けると首切り将軍の顔は
プレイヤーは4日目まで生き残るのに、必ずしも住民を攻略して全部の訪問カードを手に入れる必要はないんだ。だって、プレイヤー全員が私みたいに運がいいわけじゃないから、いきなり強力なアイテムを手に入れて、化け物たちを黙らせることもできないし、下の階で新聞を読んでいなかったから、心から化け物たちを説得することもできないでしょう。だから、別の方法を使うしかなかった。それは、奪い合い、そして食い合うことだ。4日目からは、もしプレイヤーAがプレイヤーBを殺せば、AはBの階の化け物から訪問カードを手にすることができるし、その上、Bが持っていた訪問カードも全部、Aのものになるのだ。つまり、これは鵜飼いをしているようなものであって、AはBという名の鵜に魚を取らせて、そしてその鵜を捕まえて取り分を吐かせれば、すべてを手に入れることができるわけだ。だから、私たち全員が、直美と幸太が飼いならした鵜のような存在であって、私はその過程で、思いがけず最も収穫の多い鵜となった。クソ、なんて意地汚いんだ。要するに、このホラーゲームのルールでは、プレイヤー同士の殺し合いが許可されていて、むしろ推奨されてるってこと。ただ、今回、直美と幸太は標的を定めるのに失敗したようだ。そう思いながら、私は上着を脱いで、赤いワンピース姿になった。そして、スカートの裾から首切り将軍の包丁と、はらわた、それに黒焦げの手を取り出した。「聞かせてもらおうかしら。あなたたちは、私をどうやって殺すつもり?」私が包丁を軽く振るうと、S級の防御アイテムが音を立てて砕け散った。それを見た直美と幸太は顔を強張らせた。次第に、彼らは完全にへたり込んでしまった。「泉さん、私たちが間違ってた。ただ、生き返りたかっただけなんだ。お願い、殺さないで!命だけは助けて!」だが私は少しも容赦せず、彼らの命乞いを無視して、ただ淡々と尋ねた。「下の階のプレイヤーたちも、こんな風にあなたたちに命乞いしたんじゃない?あなたたちは、彼らを見逃してあげたの?」すると、錆びた包丁がまるで自分の意思を持っているかのように、2人に向かって飛んでいった。あの錆びた包丁に切り刻まれるのは、さぞかし苦しい死に方になるだろう。でも、包丁が彼らに触れる前に、そのSSSSS級のアイテムが自分に向かって飛んで
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