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第5話

Author: 夏日
駿平はすぐに視線を戻し、夏生を見つめると、いつもの落ち着いた口調に戻った。「さっきのことは気にしなくていい。俺が君を好きならそれでいいんだ。ちょっと電話をかけてくる」

そう言って、駿平は慌ただしく駆け出していった。

夏生はその場に立ち尽くし、誰もいなくなった戸口を見つめた。口元を歪めてみたものの、最後には自嘲の笑みすら浮かべられなかった。

このパーティーに、もう一秒たりともいたくなかった。

夏生は踵を返し、ホテルの車寄せまで来たところで、目の前にひとつの人影が立ちはだかった。

都和だった。

目元にはまだうっすらと赤みが残っていたが、表情はすでに整えられ、どこか見下すような色を宿していた。

「あら、もうお帰り?」

都和は夏生を見つめ、柔らかな声で、しかし言葉の端々に棘を潜ませて言った。

「誕生日パーティーの主役が早々に抜け出すなんて、あまり感心しないわね。それとも、駿平が私を追いかけていったのが、面白くなかったのかしら?」

夏生は相手にする気もなく、都和を避けて通り過ぎようとした。

「待って」

都和が手を伸ばして遮った。

「ちょっと話さない?駿平のことも、あなたたちの結婚ごっこも、知っておいたほうがいいことがあると思うの」

「どいて」

夏生の声は冷たかった。

「あら、図星?自分が本来いるべき場所じゃないところにいるって、わかっているんでしょう?」

都和は引かず、一歩踏み出して夏生の手首を掴んだ。

「言っておくけど、駿平は本当は……」

「離して!」

夏生は力任せに振り払おうとした。

車寄せの脇で、ふたりはもみ合いになった。都和はハイヒールの踵が滑ったのか、小さく叫び声を上げて後ろに倒れかけ、とっさに夏生の腕にしがみついた。

その勢いに引かれ、夏生も体勢を崩した。

「きゃあ!」

耳をつんざくブレーキ音と衝突音が、ほとんど同時に響いた。

混乱の中、夏生は凄まじい衝撃に襲われ、視界がぐるりと回った。額と頬に焼けつくような激痛が走り、温かい液体があっという間に視界を滲ませていく。

すぐそばで、都和の悲鳴が聞こえた。

激しい痛みと眩暈に呑み込まれ、意識が朦朧とする中で、人々が駆け寄ってくる気配、ざわめく声、救急車のサイレンが遠くから聞こえるようだった。

朦朧とした意識の中、駿平が慌てて駆けつけてくる姿が見えた気がした。いつも冷静で凪いでいるはずの顔に、初めてはっきりとした動揺が浮かんでいた。

それから、途切れ途切れの会話が、遠くから聞こえてきた。

「早乙女さん、おふたりとも早急な処置が必要です。ただ、現在すぐに使える手術室が一室しかありません。奥様は顔に深い傷を負っていて、このまま処置が遅れれば傷跡が残る可能性があります」

医師は続けた。

「黒川さんは手に重傷を負っています。処置が遅れれば、今後、指の動きに支障が残るおそれがあります。どちらを先に……」

その時、駿平の声が聞こえた。

「都和を先にお願いします。彼女はピアニストなんです。手が動かなくなったら困る」

「では奥様は……」

「放っておけ。彼女にとって、容姿なんて重要じゃない」

重要じゃない。

その言葉が、刃物のように夏生の心臓を貫いた。

そう、醜いから、重要じゃない……!

目の前が真っ暗になり、夏生はそのまま意識を失った。

再び目を覚ましたのは、病室の中だった。

そばには誰もいなかった。

夏生は顔に触れてみた。分厚い包帯が巻かれている。

扉が開き、都和が数人の友人を連れて入ってきた。

都和の手にも包帯が巻かれていたが、顔には笑みが浮かんでいた。

「夏生」

都和はベッドの脇まで来ると、夏生を上から下まで眺めた。

「かなり酷い怪我だったそうね。顔にもかなり深い傷を負ったって聞いたから、今度こそ痕が残るかと思ったのに。早乙女家が呼んだお医者様、意外と腕がいいのね。ちゃんと治してもらえたみたい。

まあでも、治ったところで、もともとの不細工が隠せるわけじゃないけど。その分厚い包帯、あなたの前髪と眼鏡とお似合いよ。どっちも目障りなことに変わりないもの」

背後に控える男女から、くすくすと低い笑いが漏れた。

夏生は目を閉じ、彼らを見る気にもなれなかった。

「出ていって」

都和が何か言う前に、隣にいたピンクのセットアップを着た巻き髪の女が先に噛みついた。

「その態度、何様のつもり!?都和がわざわざお見舞いに来てあげたのに、出ていけですって?見た目が悪いだけかと思ったら、性根まで最低じゃない!ほんと救いようがないわね!」

夏生は目を開け、冷めた視線をその女に向け、それから都和を見た。

「その犬を連れて、出ていって。ここに、あなたたちの居場所はない」

「誰が犬ですって!?」

ピンク色の女は顔を真っ赤にして怒鳴ると、詰め寄ってきて、いきなり夏生の顔めがけて平手を振り上げた!

顔に傷を負い、身動きの取りにくい夏生は、その手が振り下ろされるのをただ見ているしかなかった。

「おいおい。病人相手に手を上げるのはよくないだろう」

花柄のシャツを着た男が、ピンク色の女を制した。年齢は27、8歳ほどか。軽薄な目つきで病床の夏生を上から下まで眺め回し、含みのある笑みを浮かべている。

「奥様、だったよな?なかなか気の強いお方だ。まあ、そういう頑固な性格を治す方法なら、俺が心得てるけどね」

男は少し進み出て、ベッドにゆっくりと近づいた。目つきは粘つくように無遠慮だった。

「あんたみたいな、見た目もぱっとしないくせに気だけは強い女は、何人も見てきたんだぞ。男に躾けられるのがお似合いってね。どんなに強情な女も、ひと晩男に抱かれれば、ちゃんと大人しくなるもんだ」

そう言うなり、男は無造作に手を伸ばし、夏生の掛け布団をめくり上げようとした!

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