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第325話

Author: アキラ
喬念ははっと息を呑んだ。昨夜、あの山賊が、もし章衡が人を付けていなければ、棺の中身が荊岩だと気づきもしなかっただろう、と話すのを、確かにこの耳で聞いたのだ。

昨夜、あのような斬り合いは起こらなかったはずだ。

もしかしたら今頃、彼女たちはもう泳北を出ていたかもしれない。

章衡を責めるべきだろうか?

理性では、責めるべきではないと分かっていた。

章衡の意図は彼女の安全を守るためであり、昨夜山賊が現れることなど誰も予想できなかった。

ましてや、今回の件は結局のところ、山賊があまりにも凶悪で、村一つを皆殺しにし、むつきの中の赤子さえ見逃さなかったことが原因なのだ。

そうでなければ、御上様が夜通し兵を派遣することも、この全ての出来事が起こることもなかっただろう。

しかし......

現実に起こってしまった。

荊岩は死に、多くの人々が死んだ。

彼女は冷静にに「責めない」と言うことはできなかった。

本当は心の奥底でこの件に関わった全ての人を責めていた。

だがそれ以上に、自分自身を責めていた......

だから、喬念は何も言わなかった。ただ俯き、静かに座っていた。

再び山賊が襲ってくることを心配し、二人は羅上が援軍を送ってくるまで待ってから、ようやく再び出発した。

丸一日遅れ、夜になるまで、一行は再び前進を始めなかった。

そしてこの道中、喬念と章衡は、もう一言も言葉を交わさなかった。

荊岩が亡くなってから十二日目の午前、一行はようやく都に到着した。

しかし、まだ城門をくぐる前に、喬念はすでに城門の下に立つ数人の人影を目にしていた。

心臓がどきりと跳ねた。

荊岩の家族だ。

章衡はとっくに荊岩の戦死の知らせを都に送っていたのだ。だから今、荊家の者たちは城門で、荊岩を迎えるのを待っていた。

隊列は止まらなかった。

喬念は馬車に乗りながら、どうしていいか分からなくなっていた。

この道中、彼女はずっと考えていた。もし老夫婦に会ったら、どう説明すればいいのか、と。

しかし、これほど考え続けても、喬念はやはり、どう切り出せばいいのか全く分からなかった。

他人の息子が死んだ!自分のせいで死んだのだ!自分に口を開く資格などあるだろうか?

袖の下で両拳を固く握りしめ、喬念の体は心と共に微かに震えていた。

一瞬、馬車から飛び降りて、ここから逃げ出
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