しかし、俊介夫妻が結婚祝いをする暇もなく、また社長から催促の電話がかかってきて、会社に戻り引き続き仕事をする羽目になってしまったのだ。そして、彼は結城社長が妻を溺愛しているというインタビュー記事を見たのだった。唯花の夫である結城理仁は本当にあの結城社長だったのだ。彼は当時そうかもしれないと疑ったことはあったが、それは彼に否定されたのだ。それが結局、結城理仁は本当にあの結城家の御曹司だったのだ!莉奈はこのことを知ると、嫉妬で狂ってしまった。唯花はこんなに運が良く、一気に高い地位に就けたと妬んだ。以前、神崎夫人が唯月姉妹の実の伯母であるということを知った時も、莉奈は羨望と嫉妬の目を向けていた。莉奈がこの日の午後ずっと嫉妬し続けているものだから、俊介は面白くなかった。唯花が結城家の御曹司と結婚したのは、唯花自身のことだというのに、莉奈がこのように嫉妬するとは、俊介のことが嫌になったのか?「唯月!」俊介は唯月に話しかけるというか、彼女を詰問するようにこう尋ねた。「さっきのあの男は東社長だろう?彼はお前の家から出てきたぞ、一体あいつと何やってたんだ?あの男はもしかして、お前のことを好きなのか?」唯月は最近かなり痩せている。あの昔のスタイルからはまだまだかけ離れているが、離婚前と比べて、彼女はスリムになっていた。「それでお前、最近こんなに痩せたのか。お前、自分が痩せて俺と結婚する前の容姿に戻れば、妹と同じように一気に上流階級に上がれると考えてんじゃないのか?唯月、俺らは前夫婦だったんだ、その情があるから良いことを教えてやるよ。自分の身の丈に合わないことなんかやるんじゃねえ、東社長はお前なんかと釣り合うような人間じゃないんだぞ。お前が再婚したいと思ったら、年寄りにでも好かれるのがせいぜいってとこだろ。まさか俺が離婚してから若くて綺麗な女の子と結婚したように、自分もそうなれるとでも思ってんのか?」唯月は冷たい顔になった。「佐々木さん、私と東社長がどんな関係かなんてあんたには関係ないでしょ。あんた、私のなんだと思ってるの?一体何様のつもりよ、自分が偉いとでも?あんたに私のことが言える資格なんてないのよ。確かにすごいわよ、あんた、離婚してから若くて綺麗な女の子をお嫁さんにもらえたのでしょう。だったら、今すぐ帰ってその若くて綺麗な新
「礼なんて必要ないさ。俺はただ理仁たちあの夫婦のことを気にかけているだけだから」隼翔が率直にそう言ったのは、まるで唯月に他意はないから誤解するなと言っているようにも聞こえた。「あいつら、どうだった?」隼翔はとても気になってそう尋ねた。唯月はため息をついて言った。「東社長が結城さんと知り合ってからもう長い時間が経っているのでしょう。ただビジネス上での付き合いがあっただけじゃなくて、実際はとても仲の良いご友人同士だったんですよね。東社長、あなたまで結城さんの嘘に付き合って、私たちを騙していたんですね。結城さんがどのような方か、あなたのほうがよくわかっていらっしゃいますよね。彼は今、唯花を自分の傍に置いておけば問題ないと思っています。唯花はあの家から出て行きたいと思っているのに、彼のほうがそれを許さないんです。彼ももう疲労困憊した様子で、妹のほうも悪い意味で諦めてきてしまっているようでした」隼翔は口を開けて、親友のためにも何か彼を擁護する言葉を言おうと思ったが、あと何を言えばいいのか言葉が見つからなかった。彼の良いところはすでに何万回と唯月には話した。喉が乾くまで必死になって理仁のことを擁護し、唯月のところで何杯もお茶をおかわりしたくらいだ。「今は結城さんが気持ちに区切りをつけない限り、私たちには二人の関係を改善させる方法なんてありません」理仁のあのねじ曲がった性格を思い、隼翔は思わずため息をついた。「理仁に数日時間をあげよう。無理やり妹さんを閉じ込めておいても、関係がどんどん悪化していくだけだと、きっと気づくはずだ」隼翔は愛というものはよくわからないが、それでもそれくらいはわかる。理仁が気づかないわけはないだろう。隼翔は時間を確認してから唯月に言った。「内海さん、俺はこれで失礼するよ。今後何か困ったことがあれば、いつでも俺に連絡してくれていいから」「下まで送ります」隼翔は唯月が見送ってくれるというのを断らなかった。唯月は息子を抱っこしたまま、隼翔を下まで見送りに行った。「陽ちゃん、東おじさんが帰るわよ」隼翔は軽く陽の可愛い小さな顔をつねった。陽が彼の手を叩く前に、隼翔はサッと手を引っ込め、陽に怒りの目つきで睨まれながら、ハハハハと豪快に笑って車に乗り込み、すぐに運転して帰っていった。隼翔の車が見えなくなって
陽は東おじさんが抱っこしようとしてきたが、それを拒み、ベッドからスルリとおりて、泣きながら部屋中、母親の姿を探し回った。部屋の中を全部探してみても、母親の姿がなかったので、陽はさらに大声で泣き喚き始めた。「陽君、お菓子でも食べるかい?泣かないで、おじさんが食べさせてあげるから」隼翔は陽をあやしていた。「おかしなんかいらない、ママがいいの……」「おじさんが風車買いに連れてってあげようか?」「かざぐるまなんかいらない、ママがいい……」陽はさらに泣き叫び始めた。隼翔がどうあやそうとしてもできなかった。彼は子供をあやしたことなどないから、わからないのだ。結局、彼は携帯を取り出しロックを解除すると、それを陽の前に持って来てまたあやしてみた。「いい子だね、泣かないで。ほら、おじさんの携帯でアニメでも見よう、どう?」陽はその携帯を片手でパシンッと払いのけた。「けいたいもいらない」隼翔はどうしようもなく髪の毛を掻きむしった。「現代の子供は携帯があれば、すぐにおとなしくなるんじゃないのか?」陽は携帯では喜ばなかった。しかし、携帯を使うのはあまり良くない。陽はまだ小さいので、確かに携帯は相応しくないだろう。するとこの時、玄関のドアが開く音がした。その音を聞き、隼翔は急いで携帯をズボンのポケットへ戻した。唯月に彼が携帯で陽をあやそうとしているところなど見られてはならない。これは子供にとって良くないことだからだ。唯月は階段のところで、息子の泣き喚く声を聞いていたのだ。彼女は急いで上までやって来ると、慌てて玄関を開けて入ってきた。「ママ」陽は母親が帰ってきたのを見ると、顔をくしゃくしゃにして泣きながら彼女のほうへと飛んでいった。唯月は腰を屈めて息子を抱き上げ、顔中涙と鼻水だらけにさせている息子の顔をまずはティッシュで綺麗に拭いてあげた。「陽ちゃん、ママが帰ってきたから、もう泣かないでね」彼女は息子の頭を自分の肩にもたれかけさせ、優しい声で慰めた。「泣かないの、ママはちょっとお外で用事を済ませていただけよ。陽ちゃんのこと置いていったわけじゃないの。東おじさんもいるでしょ、そんなに怖がらなくていいのよ」東おじさんがいるから彼は怖がっていたのだが。隼翔は申し訳なさそうに言った。「内海さん、俺では陽君
「義姉さん、俺は唯花さんを失いたくないんです。離婚なんて絶対にしません!」理仁が先に口を開いた。「義姉さん、俺もずっと自分の正体を隠し続けて唯花さんのことを騙していたってわかっています。唯花さんは他の女性とは違う、彼女は俺が金持ちだからって喜ぶような人じゃない。俺が唯花さんに間違ったことをしたんだ、彼女が怒っていくら罵ってこようが構わない。だけど、俺から離れるのだけは許さない、離婚なんてなおのことだ!」理仁がそう言い終わってから唯月は彼に言った。「唯花がこの家から出て行けば、永遠にあの子に会えないと思ってます?」理仁は返事しなかった。怖いのだ。唯花がここから出て行けば、今後本当に彼女には会えないかもしれないと怯えていた。「結城さん、唯花は私の妹です。私たちは長い間お互いに支え合って生きてきました。だからこそ私には彼女のことがよくわかるんです。あの子はね、物事に対して及び腰になったり、逃げたりするような人じゃないんです。彼女がいくら腹を立てて怒ってあなたに離婚を突き付けても、絶対に逃げることなんかしません。逃げることは本当の解決には繋がらない。もっとひどい状況になったって、現実と向き合わなくちゃ。妹と一緒に帰らせてちょうだい。私の家で数日間過ごして、冷静になったほうがいいんです。あの子をここから出さないなら、ただ強制的に彼女をここに留めておくだけで、あの子の気持ちを思い通りにすることなんてできませんよ。あの子が本気でどうするか決めたら、ここにいようが他のところにいようが、結局は同じことです」理仁は黙っていた。「結城さん、以前は私、あなたのことを偉そうな人だとか、頑固な人だとか思ったことはありませんでした。今回の件で、あなたの本性を見ることができた。考えてみてください、そのように上から人を抑え込もうとする態度を唯花は受け入れられるでしょうか?強い力で握れば握るほど、持っているものは壊れやすいでしょう。それと同じで、あなたがそんなふうな態度を取るたびに唯花は苦しくて、どんどんあなたから離れたくなります。二人はやっとお互いに愛するようになったのに、あなたのその悪足掻きがその愛を削っていきます。今唯花に残っているあなたへの愛が本当に削り取られてなくなってしまえば、二人は永遠に元には戻れなくなりますよ。あなたは自分の意思が
唯花は姉が入ってきたのにとても驚き、すぐに箸とお椀を置いて立ち上がり、姉のほうへとやって来た。しかしあの結城氏はすぐに彼女の腕を掴んだ。唯花は冷ややかな瞳で彼を睨みつけた。「唯花さん……」理仁は彼女からこのような目つきで睨まれて、ナイフで刺されたように心がズキッとした。夫婦の関係が一夜にしてお互いを知らなかった頃のように冷めてしまったようだった。いや、スピード結婚したばかりの時よりも悪化している。彼は結局はその手を放し、彼女を姉の元へと行かせてあげた。「唯花」唯月は駆け足で妹のほうへとやって来た。姉妹が向かいあった時、唯花は辛そうな声で姉を呼び、懐の中へと飛び込んでいった。「唯花」唯月はとても心を痛め、妹をきつく抱きしめてあげた。「泣きたいなら、泣きなさい。お姉ちゃんがここにいるからね」「お姉ちゃん……」唯花は懸命に抑えつけていた気持ちを、姉の胸の中で吐き出した。彼女はあまりの辛さに大泣きしてしまった。理仁はそれを遠くで見守り、最愛の妻が辛そうに泣く姿を見て、心が張り裂けてしまいそうになった。しかし、彼は彼女を慰めることも、その涙を拭いてあげることなどできない。彼女がこのように涙をこぼすのは、全部彼のせいなのだから。十分後。唯月姉妹は一緒に座り、それに向かい合う形で理仁が姉妹の前に座った。「結城さん、私は唯花を迎えに来ました」唯月は率直にそう伝えた。理仁はその言葉を聞くと、顔をこわばらせて低く沈んだ声を出した。「義姉さん、ここが唯花さんの家です。私たちは夫婦だから、私が住んでいるところが彼女の家でもあります」それを聞いて唯月は「私はただ、暫くの間妹をうちに連れて帰ろうと思っているだけですよ」と言い直した。「だったら、義姉さんと陽君がここに引っ越して一緒に暮らしたらどうでしょう」唯月「……」「結城さん、それってどういうことですか?」唯月は表情を冷たくさせて言った。「つまり、唯花をこの家から出すつもりはないということですか?あなた、今自分が何をやっているのかわかっていますか?このようにして唯花を繋ぎとめておくことができると思っているんです?今のままでは、あなた達夫婦の関係はさらに悪化していくだけですよ」「唯花さんがここから出て行けば、二度と俺のところには帰ってこない。だか
理仁はほっと胸をなでおろした。彼は少し黙ってから、唯花のほうへやって来て、彼女の向かいに座った。箸を手に取り、唯花のために料理を取り分けてあげようとしたが、彼女はお椀ごと持ってそれを避け、彼から受け取ろうとしなかった。理仁は失意のままその手を元に戻し、その箸でつかんだおかずを自分のお椀の中へと落とした。「唯花さん、全部君が好きな料理だから、たくさん食べてね」理仁は優しい声で言った。唯花はそれに何も返事をせず、彼のほうを見向きもしないで、ただ黙々と食べていた。「君が一番好きなエビ、殻を剥いてあげるよ」理仁は使い捨て手袋をはめて、エビの殻を剥いたが、唯花は殻付きのままのエビを箸でつかみ、それをそのまま食べてしまった。理仁「……」今、妻は何もさせてくれないらしい。「ピンポーン……ピンポーン……」その時、インターホンの音が鳴り響いた。外はもう暗くなっているし、空気も冷たい。一体こんな時間に誰が訪ねてきたのだろうか?「私が開けてきます」渡辺が開けにいった。邸宅の門の外には渡辺の見たことのない車が止まっていた。結城家の誰かが来たのではないらしい。結城家は一家揃って唯花を完全に騙していたので、この時彼女に会いに来ることはできないだろう。まずは理仁が自分で彼女に向き合い、もしどうしようもなくなったら、家族はどうするか対策を練るつもりだった。だから理仁は家族に不満があっても一人でどうにかするしかない。「渡辺さん、私です」車から一人降りてきた。それは清水だった。彼女は渡辺のほうへ手を振り、彼はやって来たのが清水だとわかると急いで出て来て鍵を使い門を開けた。「清水さんじゃないですか、どうしてここに?」「唯月さんを連れてきたのです。彼女は若奥様のお姉様ですよ」唯花の携帯は充電がなくなり自動的に切れてしまったので、彼女に連絡することができず、唯月はとても心配していたのだ。同じように意地っ張りである夫婦二人がどうなっているかわからず、清水に聞いてここまで連れて来てもらったのだった。ちょうど唯花が昼間結城グループまで車でやって来て、鍵は車の中にそのまま残されていたので、彼女は妹の車で家に帰り、ここまで来ることができたのだ。「渡辺さん、若奥様の様子は?」渡辺は素早く清水の後ろの車を見て、小声