男の自殺の邪魔をしたのは、同じく自殺しようとしていた女だった。 その最悪の出会いが縁となり、共同生活を始めることになった二人。男は言った。「お前が死ぬまで俺は死なない。俺はお前の死を見届けてから死ぬ」と。 死に囚われた二人は共に生活していく中で「生きる意味」「死の意味」について考える。そして「人を愛する意味」を。
View More11月5日。金曜の昼下がり。
男は駅のホームで待っていた。 通過する特急を。 * * *長い間自問した。
生きる意味。理由を。 そして辿り着いた。 猛スピードで通過する特急に飛び込む。それが自分に残された、最後の仕事なんだと。「まもなく3番ホームを、特急が通過します」
アナウンスが聞こえ、静かに立ち上がる。
顔を上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。 男は自虐的な笑みを浮かべ、ゆっくりホームへと歩を進めた。 その時だった。「ちょっとあんた!」
突然腕をつかまれ、男はバランスを崩し転びそうになった。
誰だ、こんなタイミングで声をかけてくる馬鹿は。 やっと定まった決心が揺らぐだろうが。 そう思い、男は振り返り憎しみのこもった視線を向けた。「あんた、次にしなさいよ」
腕をつかみ、自分をまっすぐ見つめる邪魔者。
それは年の頃20代の、若い女だった。「次ってなんだ? 意味が分からないぞ」
「だから、飛び込むのは次にしてって言ってるの」
「はああああっ? ますます訳が分からん。大体お前、誰なんだよ」
「誰だっていいでしょ。とにかく私が飛び込むんだから、あんたは次の電車にしなさいよ」
「いきなり人の腕をつかんでおいて、何好き勝手なことを言ってるんだよ。俺はこの列車に飛び込むと決めて、ここでずっと待ってたんだ。後から来たやつにとやかく言われる筋合いはないぞ」
「この電車じゃなきゃ駄目だって理由でもあるの?」
「ねえよそんなの。ある訳ないだろ」
「だったら譲りなさいよ」
「ならお前にはあるのかよ、この列車じゃなきゃいけない理由が」
「そんなものないわよ、当たり前でしょ。大体飛び込むなんて勇気がいるんだから、ベンチに座ってずっと決心がつくのを待ってたのよ。それでやっと決心がついて、最後にお手洗いを済ませて戻ってみれば、あんたが先に飛び込もうとしてた。割り込みよ割り込み。いいから私に譲りなさい」
「割り込みだろうが何だろうが、先に動いたのは俺だ。大体お前、この列車に決めたのは今だろ? 別にこだわりがある訳じゃないだろ? だったら俺の後にしろ」
「こだわりがあろうがなかろうが、とにかく私は今飛び込むって決めたの。男なら黙って譲りなさいよ。レディファーストでしょ」
「今から死ぬのに男も女もあるか。いいから離せよ」
「列車が緊急停止します。緊急停止します」
「え……」
「なっ……」アナウンスに二人が声を漏らす。
視線を移すと、徐々に速度を落としていく特急が見えた。 二人のやり取りを見ていた誰かが、緊急停止ボタンを押したようだった。「マジ……か……」
「あんなスピードじゃ死ねないじゃない……」
「そこの人! 何してるんですか!」
周囲がざわめく中、駅員がものすごい剣幕で近付いてきた。
「ヤバっ……」
そうつぶやいた女が、男の腕をつかんだまま出口に走っていく。
「お、おい! 何で俺まで」
「いいから! とにかく逃げるわよ!」
「あ、こらっ! 待ちなさい君たち!」
駅員が声を上げる中、男は女に引っ張られるように改札口に走っていった。
なんてこった。
俺、死に損ねたのか? こんな訳の分からん女に邪魔されて。 と言うかおい! いい加減手を離せよ!そう思いながら。
大地は混乱し、海から離れようとした。 しかし腕をつかまれ、動くことが出来なかった。「なんで逃げるのよ」「いやいやいやいや、待ってくれ、ちょっと待ってくれ。いきなりすぎて訳が分からん」「いきなりかもしれないけど、分からないことはないじゃない。私は今、大地に告白してるの」「いやいやだから、それがおかしいって言ってるんだ。何でそういう話になるんだよ」「大地は私のこと、嫌い?」「好きとか嫌いとか、そういうことを言ってるんじゃねえよ。話が飛び過ぎてんだよお前」「何も飛んでないじゃない。私はただ、素直な気持ちを伝えてるだけよ」「裕司〈ゆうじ〉のことはどうするんだよ。あいつのところに行くんじゃなかったのかよ」「それはさっき撤回したでしょ」「やっぱり訳分かんねーよ。お前にとって、裕司はその程度のやつだったのかよ」「そんな訳ないでしょ! それ、デリカシーとかで片付けられない暴言だよ! 私がどれだけ裕司のことを好きか、大地も知ってるくせに!」 海の剣幕に大地が怯む。そして、確かに失言だと思った。「……すまん、言い過ぎた」「裕司は私の全てだったの! 希望だったの!」 声を震わせ、大地の胸倉をつかむ。 そしてそのまま、大地の胸に顔を埋めた。「でも……裕司はもういない……触れ合えない……」「……」 息を吐き、大地が海の頭を撫でる。「でも……大地が好きって気持ちも本当なの……あんたってば本当、好みと全然違うし、裕司とは似ても似つかないんだけど……でも、それでも私……好きになったのよ!」「海……」「大地言ったよね。死ぬまでここにいて
「大地。話があるんだけど、いいかな」 風呂上がりの海が、早々に横になってる大地に声をかけた。「……構わないけど……急ぎの話か?」 壁を向いたまま、弱々しい声で大地が答える。 そんな大地を見つめ、可愛いと思ってしまう私は悪魔だろうか、そう思った。「急ぎって訳でもないんだけどね。でも、出来れば聞いてほしい」「……分かった」 大きく息を吐き、大地が勢いよく体を起こす。 そして海を見ないように台所に向かい、ビールを取り出した。「海も飲むだろ?」「うん。ありがとう」 大地がベッドにもたれると、海は隣に座った。 間近に海の体温を感じ、大地が動揺する。 何でだ? いつものことなのに、なんで俺、こんなに動揺してるんだ? そう思い、戸惑い。大地が煙草に火をつけた。「……吸っていいか?」「いいよ。と言うか、もう火をつけてるじゃない」「そ、そうだな……ごめん……」 何この可愛い生き物。そう思い、海が大地の頭を撫でた。「撫でるな撫でるな。子供じゃないんだ」「いいからいいから。たまには私にも撫でさせてよ」 海にそう言われ、大地は赤面してうつむいた。「それで? 話ってなんだ」「ふたつあるの。でもこのふたつは、ある意味繋がってるの」「どっちも聞くよ。言ってみろ」「うん……私の髪、どう思う?」 その問いに、大地はビールを吹き出しそうになった。「げほっ、げほっ……」「ちょっと大地、大丈夫?」 海が慌てて背中をさする。 しばらく咳き込んだ大地だったが、やがて海に手を向け、「ありがとう、大丈夫だ」そうつぶやいた。「なんでその……そんなこと聞くんだ」「だって大地、何も言ってくれないから。普通こういうのって、見た時に何かしら感想を言うものだと思うの。男としての責務じゃない?」「い
「おかえり、寒かっただろ。早く入ってあったまれよ」 そう言って海の方を向き、大地が固まった。「どう……したんだ、海……」 ふわふわで長かった髪がばっさり切られ、ストレートになっていた。 そして色が、明るい茶褐色から黒に変わっていた。「何か……あったのか……」「何かって、何が?」「い……いやいや、聞いてるのは俺だ。大丈夫なのか」 こんなにうろたえてる大地を見るのは初めてだ。また新しい大地を知れた、そう思い微笑む。「まあ、ね……気分転換って言うか」「それにしては思いきりが良すぎるだろ。よく分からんが、あそこまで伸ばすのは大変だっただろ? 毎日手入れしてたし、あのふわふわな髪は女子の憧れじゃないのか」「確かに惜しいと思ったよ。でもほら、仕事中、髪が結構邪魔だなって思ってたし」 そう言われ、確かに海は仕事中、いつも髪を束ねていたなと思った。「あと、その……自分に対するけじめって言うか」 頬を赤らめうつむく。そんな海に動揺し、大地が慌てて視線を外した。「とにかくその……なんだ、早く中に入れよ。そんなところに突っ立ってたら風邪ひくぞ」「うん……そうだね」 海にとってこの行動は、今言った通り、自身に対するけじめでもあった。 裕司〈ゆうじ〉はいつも、自分の髪を褒めてくれた。 綺麗ですね、そう言って撫でられるのが嬉しかった。 その髪を切ることで、裕司と過ごした日々を、自身の想いを。 過去の思い出へと変える。 髪を切られる時、感情が溢れて止まらなかった。 涙ぐみ、肩が震えた。 そんな彼女を気遣い、美容師が手を止めたほどだった。 そして生まれ変わ
「裕司〈ゆうじ〉……今なんて」 ――僕はあなたに、生きて幸せになってほしい―― 呆然と裕司を見上げる。 自分にとって唯一の希望。その裕司から、残酷に突き放された気がした。「……私はあなたといたいの! 毎日あなたに触れて、あなたの声を聞いて。でも、あなたはもういなくて…… だったら私が行くしかないじゃない! ねえ裕司、なんでそんなこと言うの? どうして私に、今すぐ来いって言ってくれないの?」 ――海さんは今、生きています。それは僕が、最後の瞬間まで望んでいたことなんです――「どういうこと? どっかの映画みたいに、私が死にたいと思ってるこの日は、あなたが生きたいと思った一日なんだって言いたいの?」 ――僕は運命を受け入れました。勿論、叶うものなら生きていたかった。でもそれが無理なことは分かってました。 僕の願いはただひとつ、海さんの幸せなんです。海さんが生きて、今いる世界で笑ってることなんです――「酷いよ裕司……あなたがいないのに笑えだなんて……」 涙が止まらなかった。「私に残された、たったひとつの願い……あなたの元に行くことすら、私には許されないの?」 ――海さんは生きてる、生きてるんです。命ある限り、その世界で幸せを求めるべきなんです――「無理だよそんな……だって裕司、いないじゃない……」 ――こんなにもあなたに愛されて、僕は幸せです――「だったら!」 ――でも……僕は死者です。この世界に存在しない者です。その願い、叶えてはいけないんです――「……」 ――死者はどこまでいっても死者です。あなたを愛することも、抱きしめることも出来ません。あなたの中に生きている僕は、過去の残
次の休日。 海は裕司〈ゆうじ〉の墓に来ていた。 大地は何も聞いてこなかった。ただ何となく、察しているように思えた。 相変わらずだな、大地。 そういうところに惹かれたんだろうな、そう思った。 * * * その日は朝から、冷たい雨が降っていた。 腰を下ろし、じっと墓を見つめる。 雨が傘を叩く音が心地よかった。「久しぶり、裕司……中々来れなくてごめんね。最近バタバタしてて……あなたのこと、忘れてた訳じゃないの。あなたの一部はここにある訳だし……って、言い訳だよね」 そう言って胸のペンダントを握り締める。その中には墓の中同様、裕司の一部が納められている。「私、どうしたらいいのかな。こんなこと、裕司に聞くのはおかしいって分かってる。でも……裕司の本当が知りたくて……」 何度も何度も問いかける。しかし答えが返ってくることはなかった。「まあ、そうだよね……」 苦笑し、立ち上がる。 そして墓をそっと撫で、「また来るね」 そう言ってその場を後にした。 * * *「……」 帰り道。海はあの駅に立ち寄った。 かつて人生を終わらせようとした場所。 大地と出会った場所に。 駅員にバレないよう、リュックから帽子を取り出し、深くかぶる。 懐かしいな、このベンチ。そう思い、そっと撫でる。 ここに座って、電車に飛び込む勇気を育てて。 そしてようやく覚悟が決まり、いざ飛び込もうとしたら。 大地が飛び込もうとしてた。 思い返し、苦笑する。 何度か列車が通過していった。ほんと、物凄いスピードだ。 あれに飛び
「で、あいつのどこを好きになったの?」 いきなりの剛速球に、海が困惑した。 * * * 休憩時間。 運動場のベンチに並んで座り、青空〈そら〉が煙草に火をつけた。「青空〈そら〉さん、直球すぎます……」「あはははっ、ごめんごめん。大地に言わせれば私、アイドリングを知らない女らしいから」「何ですかその例え、ふふっ」「でも休憩時間も短いし、前置きはいいでしょ。それでどうなの、ほんとのところは」「私は……」 空を見上げ、海が目を細める。 昼下がりの住宅街は静かで、心が洗われるような気がした。 今なら素直に話せるかも、そう思った。「大地のどこが好きとか、そういうのはないんです。何て言ったらいいのかな、さっきの青空〈そら〉さんの言葉じゃないですけど、大地といると肩肘張らず、そのままの自分でいられるって思ってたんです」「それ、いいことだと思うよ。結婚してからの必須条件だから」「そうなんですか?」「うん、そう。私も浩正〈ひろまさ〉くんと住むようになって思ったんだけどさ、言ってみれば私たち、他人な訳じゃない? だからその人が何を感じ、何を思ってるか分からないから、いつも気になってしまうんだ。そしてそれが積み重なっていく内に、いつの間にかストレスになってしまう」「浩正さんともそうだったんですか?」「そうなると思ってた。だから最初の内はかなり気を使ってた。でもそんな時、浩正くんが言ったんだ。『そういうの、疲れませんか』って」「……」「その言葉を聞いてね、思ったの。勿論、最低限の礼儀はいるよ? でもね、必要以上に気遣うことは、言ってみれば相手を鎖で縛ることになるんだ。 そしてこうも思った。考えてみれば私、大地に対してはそんなことなかったなって」「それってどういう」「あいつは弟、家族だ。家族ってのは、そう
朝目覚めて。 目の前に大地の背中があり、安堵した。 微笑み顔を埋める。 そして思った。思い返した。 昨日大地に言ったことを。「私はそんな大地のこと、好きだよ」「大丈夫、今のは友達としての好きだから」「今はまだ、ね……」 自分の言葉に赤面し、動揺した。 なんで私、あんなこと言っちゃったの? 大地と出会って1か月。色んなことがあった。 知らなかった世界に触れた。 そして。大地や青空〈そら〉さんの過去を聞いて。 いかに自分が恵まれていたか、幸せだったのかを知った。 甘えていたのかを知った。 両親との別れは辛かった。 裕司〈ゆうじ〉との別れに絶望した。 でも。それでも。 あの人たちとの思い出に、私の心は温かくなった。 しかし。大地はどうだろう。 過去を思い出すたび、身が引き裂かれるような思いをしてるに違いない。 それでも彼は笑顔を絶やさず、人々の為になろうと生きている。 そんな強さに憧れた。 だけど。 今自分の中にある感情は、ただの憧れとは思えなかった。 そして、その感情に覚えがあることに気付いた。 その感情。それは。 裕司に向けたものと似ていた。「……」 そんなことある? 私にとって、愛する人は裕司だけだ。 彼に会いたい、その一心で命を断つ決意もした。 その私が、裕司以外の男に心を寄せている? そんな馬鹿なこと、ある訳がない。 それは裏切りだ、不義だ。許されるものじゃない。そう思い、打ち消そうとした。 しかしその時、大地の言葉が脳裏を巡った。「生きるにしろ死ぬにしろ、それは海が決めることだ。俺はただ、その選択を尊重するだけだ」「死ぬまでここにいればいいよ」 大地らしい、デリカシーの欠片もない言葉。でも温かい
「素敵……」 海が目を輝かせた。「素敵かどうかは知らないけど、そうして青空姉〈そらねえ〉は無事、社会復帰を果たした」「大地はいつからとまりぎに?」「俺はかなり後になってからだ。まあそれまでも、ちょくちょくヘルプで入ってたけどな」「そうなんだ……そして青空〈そら〉さんは、浩正〈ひろまさ〉さんに告白されて」「いや、告白は青空姉〈そらねえ〉からだ」「そうなの?」「ああ。それも電光石火だったぞ。いつしたと思う?」「いつって、それはやっぱり相手のことを知ってからになるから……半年後ぐらい?」「出会ったその日だ」「ええええっ?」「あの日、家に浩正さんを連れてきて。仕事の話を色々聞かされて、青空姉〈そらねえ〉は益々やる気になってた。まあ、その前にもう決めてたみたいなんだけどな。それで一緒に酒飲んでる時に、俺の目の前で告白しやがった」「……ほんと青空〈そら〉さん、アグレッシブだね」「いやいや、そんないいものじゃないから。弟の目の前で告白する女なんて、聞いたことないぞ」「それで浩正さん、オッケーしたの?」「ああ。それにもびっくりしたけどな」「何と言うかほんと、面白い人たちね」「変わり者ってだけだよ」 そう言って苦笑し、新しいビールを冷蔵庫から取り出した。「それで半年後、青空姉〈そらねえ〉は浩正さんの家に転がり込んでいった」「同棲ってこと?」「ああ。それまで何度も泊まりに行ってたからな、時間の問題だと思ってたよ」「そうなんだ」「もう大地は大丈夫、そう言って笑いながら出て行きやがった」 そう言って笑う大地を見て、こんな笑顔も見せるんだ、そう海が思った。 そして同時に。 胸が高鳴るのを感じた。「青空姉〈そらねえ
「それで? 何があったのか、聞かせてもらえますか」 警官の問い掛けに、浩正〈ひろまさ〉が状況を説明する。 穏やかに、淡々と。 青空〈そら〉は男に手をつかまれた時、いわゆるフラッシュバックが起きていた。もう一人の警官が肩に手をやると叫び声を上げ、過呼吸状態に陥った。 一通りの説明を済ませた浩正がジャケットを脱ぎ、青空〈そら〉の肩にかける。そして、「落ち着いて、ゆっくり息をしてみてください。大丈夫、もう怖くないですよ」 そう言って微笑んだ。 そして鞄からコンビニの袋を取り出し、青空〈そら〉に差し出した。 青空〈そら〉は袋を受け取ると口をつけ、浩正の言う通りゆっくりと息をした。 そうしてる内に震えが収まり、袋を外すと、「……もう大丈夫です。ありがとうございました」そう言って袋を返した。 浩正が笑って「今日の記念にどうぞ」と言うと、「何それ、ふふっ」と笑顔を見せた。「ええっと、落ち着いたところ恐縮ですが……大体の事情は分かりました。こういう場所ですから、次からは気を付けてください、と言いたいところなんですが……君、歳はいくつかな」 若い方の警官が青空〈そら〉に聞いた。 青空〈そら〉は見るからに面倒臭そうな表情を浮かべ、大きなため息をついた。「君、未成年だよね。未成年がこんな時間、こんな場所で何してるんだ? それに君、飲酒喫煙もしてるようだけど」「私、23歳なんですけど」 青空〈そら〉が吐き捨てるように答える。その言葉に、若い警官は呆気にとられた表情の後、苦笑した。「どう見ても君、中学生じゃないか。身分を証明するものは?」「持ってません」「なら親御さんに連絡を。連絡先は?」「親はいませんよ。生きてるかもしれないけど、はてさてどこにいるのやら」「君、ふざけた言い方はやめなさい」「ふざけてなんかいませんよ。本当のことですから」「嘘
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