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第1505話 番外編百五十三

Author: 花崎紬
隼人はゆみが何をしようとしているのかわからなかったが、彼女の体力をこれ以上消耗させまいと、彼女を抱きかかえて一番奥の教室へ向かった。

一方、ゆみを襲った赤い服の霊は、もう形すら維持できないほど朔也に打ちのめされた。

朔也は女の霊と他の霊たちを睨みつけると、隼人とゆみの後を追った。

彼がいるおかげで、他の霊たちは怯えて近づこうともしなかった。

隼人はゆみを抱えたまま一番奥の教室の前に到着し、ドアを蹴り破った。

教室には机もなく、厚い埃とえげつない異臭に充満されていた。

ゆみは隼人の手を軽く叩き、降ろしてほしいと合図した。

隼人は従ったが、まだゆみを支えていた。

背中に走る激痛に耐えながら、ゆみは歯を食いしばって教室の中央へ進んだ。

彼女はお札を取り出し、呪文を唱えると、それを床に貼り付けた。

そして埃まみれの床を手で触れた。

数秒後、ゆみは全身が震えた。

次の瞬間、隼人が反応する間もなく、彼女は床に倒れ込んだ。

ゆみは気を失ったわけではなかった。お札の効果によって、その教室で起きた過去の出来事を追体験していたのだ。

彼女は教壇の横に立ち、6人の学生が机を囲んでいるのが見えた。

机の上にはろうそくが2本灯り、その間に「はい」と「いいえ」と書かれた白い紙が置かれていた。

学生たちはこっくりさんという降霊術の儀式を行っていた。

しばらくすると、赤い服の女の霊が現れた。

まさにゆみを襲ったあの霊だ。

女の霊はある男子生徒の背後に立ち、陰の気で筆を動かしていた。

その顔には嘲笑うような笑みが浮かんでいた。

答えを得た学生たちは順番を交替して、質問を続けた。

しかし最初に参加した女子生徒の一人が突然嘲るように言った。

「全部ウソじゃん!答えがおかしいわ!彼氏は私を愛してるのに、こっくりさんは裏切ったと言ってる!」

その言葉で、女の霊の表情は一変した。

彼女は女子生徒を睨みつけ、ろうそくの炎を念で激しく揺らした。

ゆみは胸騒ぎを覚えた。

霊を呼び出しておきながら、その答えを否定するなんて、自殺行為だ!

女の霊は怒りに震え、その女子生徒に憑依した。

そして突然、ペンを握ると向かいの男子生徒の胸を刺した。

他の4人の学生はパニックに陥った。

女の霊は次々と学生たちに憑依し、教室は血の海と化していった……

ゆみは目の前の惨劇
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