暴走する愛情、彼は必死に離婚を引き止める

暴走する愛情、彼は必死に離婚を引き止める

By:  フカモリUpdated just now
Language: Japanese
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結婚して三年、片桐真琴(かたぎり まこと)がしてきたことと言えば、夫・片桐信行(かたぎり のぶゆき)の数えきれないほどの火遊びの後始末だった。 しかし、また彼のスキャンダルを処理したまで、彼が仲間と自分の結婚を嘲笑しているのを耳にするまで。 その瞬間、真琴の心は完全に折れた。 離婚協議を突きつけるが、信行は冷たく言い放つ。 「片桐家にあるのは死別だけだ。離縁はない」 そして、ある「事故」によって、真琴は信行の目の前で燃え盛る炎の中に消え、その身を灰にした。 彼の前から、永遠に。 *** 二年後、仕事で東都市に戻った彼女は、彼の差し出す手を握り返し、静かに名乗った。 「浜野市・西脇家の西脇茉琴(にしわき まこと)です」 亡き妻と瓜二つの女性を前に、二度と結婚しないと誓った信行は狂気に駆られ、猛烈な求愛を始める。 「茉琴、今夜、時間はあるか?一緒に食事でも」 「茉琴、このジュエリーはよく似合うよ」 「茉琴、会いたかった」 茉琴は穏やかに微笑む。 「片桐さんは、もう二度とご結婚なさらないと伺っておりますが」 信行は彼女の前にひざまずき、その手に口づけを落とす。 「茉琴、俺が悪かった。どうか、もう一度だけチャンスをくれないか?」

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Chapter 1

第1話

「今、どのメディアも信行の話題で持ちきりよ。記者たちがホテルの入り口をびっしり取り囲んでるわ。今回も、真琴ちゃんには苦労をかけるわね」

深夜十時。

デスクの前で、片桐真琴(かたぎり まこと)は義母からの電話に耳を傾けながら、力なく額に手をあてて、しばらく黙っている。

結婚して三年、夫・片桐信行(かたぎり のぶゆき)のスキャンダルと彼の浮気相手は後を絶たず、次から次へと現れて、終わりが見えない毎日。

たまに夫に会えるのは、いつも彼の火遊びの後始末をする時だけ。

真琴が黙っていると、義母・片桐美雲(かたぎり みくも)は諭すように続ける。

「今回は会社の評判や株価だけの問題じゃないわ。由美が帰ってきたの。他の女とは違うのよ。信行との結婚を絶対に守り抜かなきゃダメよ」

内海由美(うつみ よしみ)が帰ってきた?

真琴は眉をひそめ、どっと疲れが押し寄せる。

しばらく黙ってから、穏やかな声で答える。

「わかりました。今から向かいます」

電話を切り、真琴は疲れた様子でスマートフォンを見つめていたが、やがて車の鍵を手に立ち上がった。

……

三十分後。

真琴がホテルの裏口から上がると、執事・江口健三(えぐち けんぞう)と秘書・金田美智子(かねだ みちこ)がすでにドアの前で待っている。

美智子は高級ブランドの紙袋を手に歩み寄る。

「副社長、お洋服の準備ができました」

今夜の由美と同じ服。信行の芝居に合わせるためのものだ。

健三は部屋のドアをノックした。

「信行様、真琴様がお見えになりました」

「入れ」

信行の淡々とした声が聞こえてくる。その口調と態度は、まるで何も特別なことがないかのように。

健三が真琴のためにドアを開けると、ちょうど信行がバスルームから出てきた。ゆったりとしたグレーのルームウェアを身にまとい、胸や腹の筋肉の輪郭がはっきりと見て取れる。濡れた髪を無造作にタオルで拭く姿は、気だるくもセクシーな雰囲気を自然と醸し出している。

真琴を見ても、信行には浮気の現場を押さえられたという気まずさやうろたえは一切ない。

三年という月日が、二人をこの状況に慣れさせていた。

身をかがめてテーブルの上のタバコとライターを手に取ると、信行は一本抜き出して口にくわえ、火をつけた。

薄い煙が彼の口から吐き出される。何事もなかったかのように真琴に声をかける。

「来たのか」

「ええ」

真琴は頷き、事務的に返事する。

「先に着替えてきます」

そう言って、美智子から服を受け取ると寝室へ向かった。

ドアの前に立った時、中から由美が耳元の髪をかきあげながら出てきた。

真琴は思わず足を止めた。

由美……本当に帰ってきてたんだ。

彼女の姿を見て、由美も一瞬驚いたようだったが、すぐに落ち着きを取り戻し、笑顔で話しかける。

「来たのね」

そして、子供をあやすように真琴の頭を軽く叩いた。

「お疲れ様、真琴ちゃん」

無意識に服を抱く腕に力がこもり、真琴はなんとか笑顔を作って言う。

「いえ、由美さん、お気遣いなく」

かつては知らなかった。由美が信行の初恋の相手であることも、信行が今も由美を愛していることも。

でなければ、信行の祖父に孫のことが好きかと聞かれた時、頷くことはなかっただろう。信行もプレッシャーで自分と結婚させられることもなかったはず。

そうすれば、今、自分もこんな辛い思いをすることもなかった。

信行という男は、仕事ぶりは常に迅速で徹底しており、非の打ち所がない。興衆実業を率いるようになってからは、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

年上の重役たちでさえ、彼には一目置き、頭が上がらない。

そんな慎重な人間が、こと私生活になると、これほどまでに隙だらけになる。

きっと、この結婚がよほど不満なのだろう。だからこんな方法で真琴を辱め、お爺様への当てつけにしている。

由美は手を下ろし、彼女の横を通り過ぎていく。真琴は無意識に振り返る。

出てきた由美を見て、信行はジャケットを手に取り、優しく言う。

「これを着ていけ。風邪をひくなよ」

「心配しすぎよ、信行」

由美は幸せそうに微笑んでいる。

二人を見つめながら、真琴の胸に様々な感情が入り混じる。

あの時、火事の中から自分を抱き出してくれたのに。昔はあんなに優しくて、気遣ってくれたのに。

信行とは、どうしてこうなってしまったのだろう?

しばらく二人を見つめた後、真琴は服を抱えたまま、一言も発さずに寝室へ入った。

由美と同じ白いワンピースに着替えて出てくると、彼女はもういなかった。

健三と美智子の姿もない。

しかし、外からまた激しくドアをノックする音が響く。

「片桐社長、離婚されるというのは本当ですか?」

「片桐社長は、内海由美さんとご一緒だったのですか?」

もしさっき、信行と由美の決定的な写真が撮られていたら、明日の興衆実業の株価は大混乱に陥っていただろう。

組んでいた足を下ろし、持っていたスマホを放り投げると、信行はバスローブ姿のまま、気だるげに立ち上がってドアを開ける。

「片桐副社長は離婚後も会社に在籍されるのでしょうか?副社長は離婚でどれくらいの財産分与を受けられるのですか?」

「片桐社長、今最も注目しているのは、お二人様の離婚協議です。興衆実業の株は副社長に譲渡されるのでしょうか?」

寝室のドアの前で、真琴は思わず乾いた笑いを漏らす。離婚するだなんて、メディアは随分と先見の明があることだ。

ドアの前に群がる人々を見て、真琴は気持ちを切り替え、しなやかな足取りで信行の後ろに歩み寄る。

細く白い腕をそっと彼の腰に回し、その肩に顎を乗せ、真琴は甘い声で尋ねる。

「あなた、どうしたの?」

その優しい腕と親しげな呼び声に、信行は背後を振り返る。

「片桐……副社長?」

「副社長?」

「内海由美じゃない、片桐副社長だ!」

真琴の登場に、記者たちは必死にシャッターを切るが、その表情は失望に満ちている。信行の大スキャンダルを掴んだと思ったのに。

結局、また真琴だった。

真琴が腰に回した手を離さないまま、信行は記者たちに向き直り、気だるげに尋ねる。

「まだ何か?」

「申し訳ありません、片桐社長、副社長。お邪魔いたしました」

「申し訳ありません。お休み中を失礼しました」

慌ただしく謝罪の言葉を述べると、記者たちはぞろぞろと立ち去っていく。

ドアが閉められ、信行が振り返ると、真琴はさっと彼から手を離し、説明しようとする。

「記者たちへの対応をしただけ」

その態度はよそよそしく、丁寧だった。

信行は気にも留めず、コートハンガーに向かうと、真琴に背を向けたままバスローブを脱いだ。

広い肩に引き締まった腰。肌は白い。

日頃から鍛えているため、余分な贅肉は一切ない。

真琴は顔を赤らめ、それ以上見る勇気もなく、小声で言う。

「じゃあ、会社へ戻ります」

信行が振り返ると、真琴はすでにドアを開けて去っていくところだ。

しばらくの間、じっとドアの方向を見つめていた。

そして、服を着替え続けた。

*

帰り道、真琴は両手でハンドルを握りながら、心身ともに疲れ果てていた。

胸が締め付けられるように苦しい。

先月の健康診断で、医者から小さな結節があると言われた。気持ちを穏やかに保ち、定期的に検査を受けるように、と。

結婚前は、こんなものなかったのに。

ちらりと助手席に置いた離婚協議書に目をやり、真琴はまたどうしようもない気持ちになった。

さっきホテルまで持っていったのに。

また持ち帰ってきてしまった。

この三年間、数え切れないほど離婚を考えた。でも、その度に信行が火の中から自分を抱きかかえて飛び出してくれた時のことを思い出し、踏みとどまってしまう。

この協議書を突きつけて、信行があっさり同意してしまったら、もう後戻りはできない。それが怖い。

だから、この協議書はずっと手元に置いたまま。

……

スキャンダルが片付くと、すべてはまた日常に戻った。

いつも通りに。

その日の午前、真琴が会議室の前を通りかかると、中で会議が開かれている。

「また計算し直しかよ?信行、もう六回もやったぜ」

「やっぱり真琴は運がいいわよね。結婚しただけでトントン拍子に出世して。企画書も作らずに、クライアントの書類にサインするだけなんだから」

「羨ましい?私たちには彼女みたいな腕利きでもないし、人心掌握術もないし、それに何より、あんなに我慢できる人間でもない。一昨日の夜のトレンド見た?また信行の尻拭いに行ったんでしょ。本当にできた奥さんだね」

二人の女性が話し終えると、今度は男性の声が聞こえる。

「ねえ、一昨日の夜、真琴がホテルに行った時、お前と由美は真っ最中だったって聞いたぜ。マジで酷いことするよな。真琴、泣かなかったのか?」

彼らの話を聞きながら、信行は笑って問い返す。

「どこで聞いたゴシップだ?面白いじゃないか」

あの夜、由美と食事をしていただけで、ウェイターがジュースをこぼしたから、上の階で着替えただけだ。

だが、信行は説明しなかった。他人がどう言おうと気にしないし、ましてや真琴が喜ぶかどうかなんて、どうでもよかった。

「信行、真琴じゃ家柄が釣り合わないんだから、さっさと離婚しなよ。他の人にもチャンスをちょうだい」

ドアの外。

満面の笑みを浮かべ、まるで他人事のように自分の浮気話を語る信行。

真琴はただ、彼をじっと見つめている。

信行が今進めているのは政府系のプロジェクトで、仲間内の数人が担当している。

こういうプロジェクトに、信行は決して真琴を関わらせようとはしない。

結婚してから、彼の生活や友人関係に、彼女は一切足を踏み入れることができない。結婚前よりも、関係は希薄になっていた。

その時、篠井拓真(ささい たくま)が気だるげに椅子に寄りかかり、信行を見ながら言う。

「おい、信行。こいつらの言うことなんて聞くなよ。会社じゃ真琴ちゃんがお前のために切り盛りして、家じゃ真琴ちゃんもお前の面倒を見てる。

お前が外で遊び呆けてる間、真琴ちゃんは文句も言わずに後始末までしてくれる。こんな妻、他にいるか?

二百年前に生まれてたら、あの献身ぶりは『妻の鑑』として表彰ものだぞ。そんな嫁さんを大事にしないで、バチが当たるぞ」

拓真の言葉に、納得しない者もいる。

「見て見ぬふりをするだけじゃない。信行、そんなことなら私の方が真琴よりうまくやれるわ。もし本当に離婚するなら、私が相手になってあげる。私の持参金、真琴なんかよりずっと多いわよ」

「詩織、お前の出番はないさ。まだ由美がいるんだから」

上座に座る信行は、小林詩織(こばやし しおり)に向かい、笑いながら言う。

「じゃ、じいさんによろしくな。持参金の準備をしておけってさ」

会議室は笑い声に包まれている。真琴は静かに背を向けて、黙ってオフィスへ戻った。

彼女の家柄は、確かにごく普通だ。

母は教師で、真琴が八歳の時に病気で亡くなった。父は警察官、数年前に出動中に殉職した。

祖父は元自衛官だったが、高級幹部でもなく、信行の祖父の運転手を務めていた。

だから彼女と信行は、幼い頃からの知り合いだ。

結婚した後、信行の祖父は真琴を会社の副社長に据え、孫の仕事を補佐させる。

補佐というと聞こえはいいが、実際は信行を見張らせるため。

残念ながら、彼女は見張ることができなかった。

引き出しから離婚協議書を取り出し、真琴はそれを長い間見つめている。

本当はとっくに自分を騙すのはやめるべきだ。とっくに分かっているはず。信行を待っていても無駄だということを。

ふと、もう頑張るのはやめようと思う。

彼が幸せを追求する上での足手まといになりたくない。

そして、信行が会議を終えるのを待って、彼の元へ向かった。

社長オフィスのドアの前に着くと、ちょうど中から信行がドアを開けて出てきた。

真琴を見て、少し驚いた。

「何か用か?」

真琴は答える。

「いくつかサインしてほしい書類があるんですが」

信行は振り返ってデスクの前に座り、サインペンを手に取る。

いくつかの仕事の書類にサインしてもらった後、真琴は二通の離婚協議書を差し出し、淡々と言う。

「都合のいい時でいいわ、離婚しましょう」

ペンを握った右手が宙で止まり、信行はただ真琴を見つめている。
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第1話
「今、どのメディアも信行の話題で持ちきりよ。記者たちがホテルの入り口をびっしり取り囲んでるわ。今回も、真琴ちゃんには苦労をかけるわね」深夜十時。デスクの前で、片桐真琴(かたぎり まこと)は義母からの電話に耳を傾けながら、力なく額に手をあてて、しばらく黙っている。結婚して三年、夫・片桐信行(かたぎり のぶゆき)のスキャンダルと彼の浮気相手は後を絶たず、次から次へと現れて、終わりが見えない毎日。たまに夫に会えるのは、いつも彼の火遊びの後始末をする時だけ。真琴が黙っていると、義母・片桐美雲(かたぎり みくも)は諭すように続ける。「今回は会社の評判や株価だけの問題じゃないわ。由美が帰ってきたの。他の女とは違うのよ。信行との結婚を絶対に守り抜かなきゃダメよ」内海由美(うつみ よしみ)が帰ってきた?真琴は眉をひそめ、どっと疲れが押し寄せる。しばらく黙ってから、穏やかな声で答える。「わかりました。今から向かいます」電話を切り、真琴は疲れた様子でスマートフォンを見つめていたが、やがて車の鍵を手に立ち上がった。……三十分後。真琴がホテルの裏口から上がると、執事・江口健三(えぐち けんぞう)と秘書・金田美智子(かねだ みちこ)がすでにドアの前で待っている。美智子は高級ブランドの紙袋を手に歩み寄る。「副社長、お洋服の準備ができました」今夜の由美と同じ服。信行の芝居に合わせるためのものだ。健三は部屋のドアをノックした。「信行様、真琴様がお見えになりました」「入れ」信行の淡々とした声が聞こえてくる。その口調と態度は、まるで何も特別なことがないかのように。健三が真琴のためにドアを開けると、ちょうど信行がバスルームから出てきた。ゆったりとしたグレーのルームウェアを身にまとい、胸や腹の筋肉の輪郭がはっきりと見て取れる。濡れた髪を無造作にタオルで拭く姿は、気だるくもセクシーな雰囲気を自然と醸し出している。真琴を見ても、信行には浮気の現場を押さえられたという気まずさやうろたえは一切ない。三年という月日が、二人をこの状況に慣れさせていた。身をかがめてテーブルの上のタバコとライターを手に取ると、信行は一本抜き出して口にくわえ、火をつけた。薄い煙が彼の口から吐き出される。何事もなかったかのように真琴に声を
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第2話
しばらく真琴を見つめた後、信行は薄笑いを浮かべる。「結婚したい時に結婚して、離婚したい時に離婚する。お前もずいぶん気ままだな」真琴は協議書を差し出したままの姿で言う。「ずっと考えてました。私たち、やっぱり合わないと思います。それに、あの時は由美さんとの関係を知りませんでし……」真琴が言い終わる前に、信行は彼女の言葉を遮った。「由美が帰ってきたのは事実だが、あまり調子に乗るなよ。駆け引きなんて、俺には通用しないぞ」ずっと片桐家の権力を狙って、お爺様を口車に乗せ、片桐家に嫁いできた女だ。誰が離婚を望もうと、真琴が離婚を望むはずがない。駆け引き?信行の偏見に満ちた眼差しの前では、真琴は弁解のしようもない。自分をどう見ているか、それを変えることはできない。当時、彼が由美を好きだったことも、自分をあれほど嫌っていたことも、さっぱり知らなかった。協議書を強く握りしめ、手の甲に青筋が浮き上がる。それでも平静を保ち、落ち着いた声で言う。「調子に乗っているのか、駆け引きをしているのかは、サインをして役所へ行けば、お分かりになるはずです」真琴が自分を証明しようと食い下がると、信行はしばらく相手を見てから、冷たく言う。「いいだろう、離婚してやる」そして問いかける。「だが、お前のじいさんは承知したのか?うちのじいさんは同意したのか?本当に離婚したいなら、まずそいつらを説得してから俺のところに来い。じゃないと、俺の時間と労力の無駄だ」信行の淡々とした問いかけに、真琴は言葉を失った。そうだ、信行との離婚は、そんなに簡単なことじゃない。結婚は二人だけのことじゃない。家と家との結びつきなんだから。真琴が青ざめた顔で黙っていると、信行は立ち上がり、相変わらず淡々とした口調で言う。「その気がないなら、おとなしく片桐副社長を、片桐家の若奥様をやってろ」協議書を握った右手を宙に浮かせたまま、真琴は何かを説明しようとしたが、何度も言葉を飲み込んだ。結局、こう言うしかなかった。「私の考えが足りませんでした。できるだけ早く、家の者と話をつけてきます」信行はもう彼女を相手にせず、デスクから離れるとドアを開け、ポケットに両手を突っ込んだまま出て行った。真琴が離婚?天地がひっくり返っても、あり得ない
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第3話
結婚して三年、信行が帰ってきた回数は片手で数えるほどしかない。だから今、目の前にいる彼を前にして、真琴は心の底から驚いている。驚きのあまり、思わず問いかける。「どうして帰ってきました?」そして、はっとしたように言葉を付け加えた。「帰ってくるべきじゃないって意味ではありませんが。ここはあなたの家なんですから、もちろん帰ってきて当然ですもの」さらに、一言付け足す。「洗面所は長いこと使ってないし、ベッドもずっと空けてますよ。江藤(えとう)さんたちが毎日掃除して、消毒もしてくれてますから」そう言ったのは、ふとある出来事を思い出したからだ。あの時も、信行は黒いスーツを着ていた。彼女が彼の袖を引いてしまったばかりに、信行は後でそのスーツを捨ててしまった。それ以来、よほどのことがない限り、真琴は信行に触れないようにしている。彼のものにも、一切。そう説明したのは、もし信行が今夜家で休むつもりなら、彼女が主寝室で寝たことを嫌がるのではないかと心配したからだ。実際には、二人が結婚して間もなく、真琴はこの部屋で寝るのをやめていた。ずっと隣の客室で寝ている。信行は彼女の説明を聞き流しながら上着を脱ぐと、無造作にソファへ放り投げる。真琴は彼の邪魔になるのを恐れ、横に二歩ずれて道を空ける。信行は彼女を無視する。真琴がスキンケア用品を抱えて部屋を出ていこうとした時、男が淡々と尋ねる。「離婚の許可は、もらえたのか?」真琴は彼の方を向き、こくりと頷く。「ええ。おじい様ちゃんが許可してくれました。あなたの家の方も、それほど難しくはないはずですね」「あなたの家」、「私の家」、真琴は以前、そんな話し方はしなかった。だが、信行がいつもはっきりと線を引くものだから、彼女もいつしかそれに倣うようになっていた。それに、彼が由美を深く愛しているという話も聞いている。よく考えてみれば、信行の想いは本物なのだろう。歴代の浮気相手は皆、由美とどこか似ているのだから。彼の本気の想いを前にして、まだ諦めずにいようとするなんて、見苦しいだけかもしれない。信行は真琴にちらりと視線を送ると、おもむろにシャツの襟元を緩める。覗く鎖骨と、すっと伸びた首筋が、彼の持つ気だるくも退廃的な色気を際立たせる。真琴が言う。「じゃあ、隣の部屋に
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第4話
由美は笑顔で立ち上がって出迎える。「さっき真琴ちゃんに会ったから、一緒に食事に誘ったの。信行、気にしないわよね?」信行は無表情で真琴を一瞥する。「お前がいいなら、それでいいさ」信行が隣に腰を下ろすと、由美は彼にお茶を注ぎながら言う。「さっき真琴ちゃんと話してたの。二人は離婚するつもりなんですって。だから、もしそうなったら真琴ちゃんにいい男性を紹介しなきゃって考えてたところよ。信行に数年間も無駄にさせられたままじゃ可哀想だもの」妻である真琴を前にして、信行はごく自然に由美の隣に座る。その視線はどこか淡々としていて、真琴を捉えるたびに、まるで視界に入った障害物を避けるようにすっと逸らされる。真琴はもう、気にする気力も余裕もなかった。ただ、ひどく気まずい。もっと早く気づくべきだ。由美が会社に現れたのなら、きっと信行と約束があったに違いない。ウェイターがメニューを信行に渡すと、彼はいくつか料理を注文する。それを見て由美は窘めた。「私の好きなものばかりじゃなくて、真琴ちゃんが好きなものも頼んであげなさいよ」メニューを持ったまま、信行は再び真琴を一瞥する。きっと邪魔だと思っている。真琴も自分が邪魔だと感じ、こっそりとスマートフォンを手に取る。信行がメニューを彼女に渡した、まさにその時。テーブルに戻したばかりのスマートフォンが鳴った。慌てて電話に出ると、聞こえてきたのは秘書の美智子の声だ。「副社長、崇成建設の水谷(みずたに)社長がお見えです。第二プロジェクトのプロセスがまだ完了しておらず、社長のサインがないため着工できないとのことです」真琴は答える。「分かったわ。すぐ戻る」美智子からの電話を終え、由美に向き直って言う。「由美さん、会社で急用ができたので、先に戻ります。お二人はごゆっくり」バッグとスマートフォンを手に、二人の返事を待たずに店を出ていく。レストランを出た途端、真琴は心がすっと軽くなるのを感じる。頭上の空が、いつもより高く見えるようだ。……レストランの中では、由美が信行の方を向いて尋ねる。「本当に離婚するの?」信行は鼻で笑う。「あいつの言うことを、信じるのか」自分以上に権力欲が強い女だ。離婚したくないのはもちろん、もし本当に離婚するとしても、真琴は緻密
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第5話
真琴は由美が帰国したのを気にして、揺さぶりの手口を変えてきただけだと思っていた。まさか、本当に離婚の許可を取り付け、秘密保持契約書まで準備し、挙句の果てにはここ数日で役所へ問い合わせまでしたとは。信行は、この事態が面白くなってきたと感じる。そして、離婚を口実に、彼女がどんな法外な要求を吹っかけてくるのか、この目で見てみたいとさえ思う。その言葉を聞き、真琴は目の前の男が信じられなくなる。信行の心の中で、自分が一体どれほど下劣な人間だと思われているのか、想像もつかない。話にならない。この人とは、もう話にならない。彼が自分に抱く偏見は、一生変えられないだろう。もういい。もう、どうでもいい。やがて、真琴は彼を見つめ、力なく告げる。「そう思うなら、それでいいです。それで、ご都合はいつがよろしいですか。手続きに行きましょう」真琴があっさりと認めたことに、信行の顔から笑みがすっと消える。そして、ただ冷ややかに真琴を見つめる。自分を見て何も言わない彼に、真琴は続ける。「休んでいてください。時間ができたら、知らせていただければ結構です」そう言って、真琴は振り返り、ドアへ向かう。右手を上げてドアを開けようとした瞬間、手首を突然掴まれた。反応する間もなく、信行にぐいと引き戻され、彼の目の前に投げ出される。よろめきながらも体勢を立て直し、信行を見上げる。こうして引き戻され、本来なら腹が立つはずだったが、炎の中から自分を抱き出してくれた時のことを思い出すと、その怒りも霧散してしまう。掴まれて赤くなった手首をさすりながら、尋ねる。「まだ何か御用ですか?」ずっと考えていた。何度も、何度も。どうしてこうなってしまったのか。信行がどうして自分をこんなにも嫌うのか、真琴には分からなかった。真琴は平然と佇んでいる。信行は両手をズボンのポケットに戻すと、顔をそむけて呆れたように笑った。一頻り笑った後、再び顔を戻し、真琴を見下ろして言う。「どこのどいつだ?俺に恥をかかせるだけの度胸があるやつは」「……」真琴は黙り込む。そう言うなら、自分だって一体いくつ恥をかかされてきたことか。真琴が何も言わないので、信行はテーブルに近づき、腰をかがめてタバコとライターを手に取り、また一本火をつける。
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第6話
驚きのあまり、真琴は顔を上げて彼を見つめる。「まだ寝ていなかったのですか?驚きました」真琴は彼の問いには答えず、ただ立ち尽くしている。信行は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、冷ややかに彼女を見つめていた。その視線に、真琴はなぜか少し居心地の悪さを覚える。これまで一度も自分のことなど気にかけてくれたことなどなかったのに。彼の視線を避け、真琴は説明した。「携帯の電池が切れてしまったんです。紗友里が出張から帰ってきたので、一緒に食事をしていました」信行は「はっ」と鼻で笑う。「食事一回に六、七時間も費やすのか?」真琴も、同じように信行を見つめ返す。彼をしばらく見上げた後、口を開く。「私にも友人を持つ権利くらいありますし、自分の生活があってもいいはずです」真琴を見下ろし、信行は気だるげに言う。「まだ離婚も成立していないのに、もう演技もできなくなったか?」演技?自分がいつ、何を演じたというのだろう?結婚して三年、外出したのはこの一回きり。今夜、彼が自分より早く帰ってきただけで、たまたま携帯の電池が切れただけだ。三年間、ずっとこうして過ごしてきた。三年間、ずっとこうして誰もいない部屋を守ってきた。信行を前に、真琴は是非を争う気にはなれなかった。結局、この道を選んだのは自分自身なのだから。ただ、淡々と告げる。「私たちは、もうすぐ離婚します」それは「もう私に関わらないでほしい」という、無言の宣告だった。真琴がそう言うと、信行はただ冷ややかに彼女を見つめる。自分を見て何も言わない彼に、真琴は背を向け、洗面所へ行こうとする。その時だった。ポケットから伸びてきた信行の右手が、ぐいと彼女の腕を掴む。「結婚したい時に結婚して、離婚したい時に離婚する。片桐家を何だと思ってるんだ?」数日前、離婚の話を持ち出した時、信行は取り合わなかった。今日また同じ話を蒸し返すとは。本当に、彼は堪忍袋の緒が長いとでも思っているのか?信行に引き戻され、真琴も一気に腹が立ち、相手を睨みつけて強い口調で言う。「もし結婚後の生活がこうなると知っていたら、あなたと結婚なんてしませんでした」少し間を置いて、続ける。「離婚が会社に影響するのではとご心配なのは分かります。手続きが終われば、この件は秘密
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第7話
信行はその様子に気づき、低い声で尋ねる。「どうした?」と言いながら、両手をそっと拳に握り、頭の両脇に置く。真琴は静かに唾を飲み込み、信行の目を見つめながら、先ほどの話を真剣に続ける。「ちゃんと考えて、離婚を切り出すことにしたのです」信行の先ほどの説明など、何の意味もない。何も表してはいない。来る日も来る日も続く彼の無関心、嫌悪、そして冷たい態度こそが、紛れもない真実なのだ。離婚を固持する真琴に、信行は彼女の手首を掴み、身をかがめてその唇にキスをする。突然のキスに、真琴は目を見開く。体中が硬直する。驚きの表情で彼を見つめ、呼吸さえも止めてしまう。真琴の柔らかい唇に優しくキスをしながら、彼女が息もつけないほど緊張しているのを見て、信行はさらに丁寧にキスを重ねる。拓真の言う通りだ。やはりこいつの機嫌を取らないと、反乱を起こしかねない。滑らかな肌を撫でながら、信行がベッドから抱き上げた時、真琴は「んっ」とくぐもった声を漏らす。その声は、とても艶めかしい。そして、両手を彼の胸に当てる。その様子を見て、信行は彼女の両手を取り、自分の指と絡ませて拘束する。その時、真琴は少し震える声で尋ねる。「キスする相手を間違えていませんか?」真琴が尋ね終えた、その瞬間。信行は、途端に興ざめする。彼女の上から身を起こすと、メインライトをつけ、立ち上がってタバコに火をつけた。真琴は急いで身を起こし、服のボタンを留め始める。窓際に立っている信行は彼女を振り返る。真琴は……実はひどくつまらない女だ。テーブルの方へ歩み寄り、何事もなかったかのように腰をかがめてタバコを消すと、クローゼットからシャツとスーツを取り出し、平然と着替え始める。真琴はとっさに視線を逸らす。信行はそれに気づき、笑って尋ねる。「見る勇気もないのか?」真琴は彼を見上げるが、何も言わない。信行は彼女に手招きする。「こっちへ来い」しばらく彼を見つめていたが、やがてベッドから降りて彼の元へ向かう。信行の前に近づく。「ネクタイを締めるのですか?」男は笑う。「夜中に、ネクタイなんて締めるかよ」そう言って、ベルトを彼女の手に押し付ける。「締めてくれ」「……」真琴は言葉を失う。手の中のベルト
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第8話
両手でハンドルを握り、信行は笑ってしまう。「なんだ?俺と一緒にいるのが、指折り数えるほど苦痛か?」真琴は説明する。「そういう意味ではありません。私自身の予定を立てて、今後の計画を考えたいだけです」数日前にアークライト・テクノロジーへ履歴書を送ったところ、先方からは社長自ら「いつでも入社してくれて構わない」と返信があったのだ。今は五月の上旬。今月中に退職手続きを済ませ、来月には出社するつもりだ。だから、信行にこれ以上、時間を取らせるわけにはいかない。信行は言う。「一ヶ月か二ヶ月ぐらいだろう」一ヶ月か二ヶ月ぐらいなら、先方との調整もできるはずだ。心の中で算段を立て、真琴は応じる。「では、分かりました」しばらくして、二人は会社に着く。信行は車のキーを警備マネージャーに投げ渡し、真琴と共にビルへと入っていく。「社長は今日、副社長と一緒に出社したんですか?」「今日は、社長が副社長とご一緒だなんて。また何か会社の広報活動の一環ですか?」「社長、副社長、おはようございます」「社長、副社長、おはようございます」社員たちの挨拶に、真琴は軽く頷いて応え、信行は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、視線だけで応じる。しかし、二人が揃って出社する光景は、やはり社内に大きな波紋を広げる。オフィスは、その噂話で持ちきりだ。さらには、二人が平穏を装っているのか、それとも時が経つうちに愛情が芽生えたのか、賭けをする者まで現れる始末。そして、ほとんどが平穏を装っているだけ、に賭けている。十時過ぎ、真琴が二つのファイルを手に別の副社長のオフィスから出てくると、前から由美の声が不意に聞こえてくる。「真琴ちゃん」顔を上げると、そこにいたのは由美だ。真琴は丁寧に挨拶する。「由美さん」由美は親しげに近づき、笑顔で言う。「真琴ちゃんにデザートを持ってきたの。デスクに置いておいたわ」真琴は言う。「ありがとうございます、由美さん。でも、これからはそんなにお気遣いなく」由美は手を伸ばし、真琴の顔にかかった髪を耳の後ろにかけてやる。「そんな他人行儀な言い方はやめてよ。私たちの仲でしょ?」そう言って手を離した時、真琴は彼女の薬指にプラチナのダイヤモンドリングがはめられているのに気づく。指輪はと
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第9話
しかし、もう三年だ。美雲は疑わずにはいられない。あの人でなしのバカ息子は、真琴をまるで後家のように扱っているのではないか、と。美雲の問いかけに、一瞬、真琴はどう答えていいか分からなくなる。しばらく義母を見つめた後、口を開く。「お義母様、信行さんとは、離婚するつもりです」考えに考えた末、やはり本当のことを告げることにした。「離婚!?」美雲は一気に激昂する。「何かあったの?どうして、いきなり離婚なんて」畳み掛けるように、また真琴に尋ねる。「信行が言い出したのね。あのバカ息子……!」美雲が罵り終える前に、真琴は急いで割って入った。「お義母様、信行さんが言い出したのではありません。私から、切り出したのです」その言葉に、美雲は瞬時に静まり返る。しばらく真琴を見つめた後、尋ねる。「真琴ちゃん、由美が帰ってきたからなの?由美は帰ってきたけれど、お義母さんと片桐家は絶対にあなたの味方よ。あの子が何か騒ぎを起こせるはずがないわ。信行をしっかり見張っておくから」この三年間、真琴が耐え忍んできたことを、美雲は全て見てきた。彼女を不憫に思うと同時に、自分の息子に腹を立てていた。しかし、どうしようもない。何度信行を罵っても、彼は意に介さない。茶碗お椀と箸を手に、真琴は静かに美雲を見つめる。「お義母様、由美さんのせいではありません。ずっと前から、そう考えていました。だから、数日前に信行さんに話したのです」以前は、いつも「信行」と呼んでいたのに。いつからか、その呼び方をしなくなった。「彼」と呼ぶか、或いは「信行さん」と呼ぶ。その様子を見て、美雲は説得にかかる。「真琴ちゃん、感情的にならないで。もう少し様子を見て、考え直してみない?せっかく一緒になれたんだもの、簡単なことじゃないのよ。しばらく様子を見て、もし信行がまだ前と同じようだったら、お義母さんももうあなたを止めないわ。それで、いいかしら?」それを聞いて、真琴は穏やかな声で言う。「お義母様、結構長い間、様子を見てまいりました」深い溝は、一日にして成らず。信行を好きだったが、彼への想いは来る日も来る日も続く無関心の中で、少しずつ削り取られていった。美雲を見つめ、真琴は続ける。「お義母様、もうこんな風に続けるのは嫌なんです。
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第10話
そう言って電話を切ると、真琴はもう茶碗お椀に手を伸ばすことなく、美雲と信行に向き直って言う。「お義母様、処理しなければならない仕事がありますので、先に失礼いたします」美雲が引き留める。「まだご飯も食べ終わっていないのに」真琴は微笑んで答える。「もうお腹いっぱいですから」「そうなの。じゃあ、先に行って仕事をしなさい。後で夜食が食べたくなったら、お義母さんに言うのよ」「はい」真琴が立ち去るのを、美雲は見送る。だが信行は一瞥もくれず、その態度は相変わらず冷淡なままだ。真琴が部屋に入ると、美雲はようやく信行に向き直り、不機嫌に口を開く。「真琴ちゃんがさっき言ったこと、全部聞こえたでしょう。何度言ったら分かるの。あまりやりすぎないで、調子に乗らないでと言ったはずよ。聞く耳も持たないの。あの子がもうあなたとやっていけないと言っているじゃない。内海家の娘のどこがいいっていうの?一人いなくなったら、また別の一人を引っかけて。どうしてそんなにあの家の人間に執着するの?」信行が口を開く前に、美雲は畳みかける。「真琴ちゃんがこの数年間、片桐家のため、会社のためにどれだけ尽くしてくれたか。あなたのために、どれだけ我慢してきたと思ってるの!あなたには目がないの?それが見えないの?人として、少しは良心を痛めなさい!」母親の長広舌に、信行は冷ややかに言い放つ。「あいつが尽くし、我慢してきたのは、自分なりの考えがあるんだろうさ」その言葉に、美雲の表情が険しくなる。じっと息子を見つめ返した。「その話、どういう意味?真琴ちゃんが片桐家の何かを狙っているとでも言いたいの?真琴ちゃんと長年付き合ってきて、あの子がどんな人間か、分からないはずがないでしょう?その言葉が、心に咎めないと思うの?」信行は無表情で言う。「分かったよ。一晩中、説教を聞くのはもうたくさんだ」美雲は言い続ける。「いいわ。じゃあ、説教はしない。今、あなたに求めるのは一つだけ。これからは、真琴ちゃんと仲良く暮らしなさい。そして年内に、真琴ちゃんを妊娠させること。さもなければ、今後二度と由美に会えると思わないことね」母の脅しに、信行は顔を上げて彼女を見つめる。美雲は一歩も引かず、ただ続ける。「本当に由美をそんなに愛しているなら、あの時、お爺様の
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