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第372話
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元夫、ナニが終わった日 第1119話
和也は当然そんなものはいらないと、即座に「結構です」と断った。しかし、浅井社長が手を振り上げて口を開いた。「ここの看板娘を呼んでこい！そうだ、必ず処女にしろ！それ以外はいらん！」バーの店主はにこにこと笑いながら言った。「今日うちに来たばかりの美女の小春（こはる）ちゃんがいますよ。恋愛経験もなく、見た目も中身もキレイそのものです。きっと皆さんのご要望にぴったりです。呼んできます！」まもなく、小春が一同の前に姿を現した。浅井社長はひと目見て満足げに言った。「常陸社長、見てくださいよ。この子、いいじゃないですか！君、常陸社長の相手をしてあげろ！」小春はすぐに和也を見つけた。これほど身分が高く、品のある若い美丈夫は、社長たちの中でひときわ目を引く存在だ。暗紅色のソファの主席に黒いスーツで腰かける和也は、より一層控えめで謎めいた雰囲気をまとっている。小春は和也の隣に座った。「常陸社長、こんばんは」和也の端正な顔には何の感情も浮かばず、小春を見ることもなく、興味がないのは明らかだ。「君、今年いくつ？」小春「二十一歳です」「二十一？まだ大学生じゃないか！」小春はうなずいた。「はい！家にまだ学生の弟がいるので、私がバイトして稼いでいるんです」今の時代、結婚となると女側に弟がいるだけで尻込みする男も多い。だが、この場にいるような金持ちの社長たちにとって「弟がいる」はむしろ加点項目だ。より従順で弱々しく見え、彼らの過剰な救済欲を満たすからだ。「今夜しっかり常陸社長の相手をしてくれたら、常陸社長が絶対に損はさせんぞ！」「じゃあ常陸社長にみかんをむいてあげな」小春はみかんを手に取り、皮をむき終えると和也を見た。「常陸社長」浅井社長たちがはやし立てた。「おいおい、常陸社長に食べさせてあげないと！」小春は和也の端整な顔を見つめ、心臓がドキドキとうるさく跳ね上がった。和也のような男を前にして緊張してしまうのは当然だ。彼女はみかんの房をそっと和也の口元に差し出した。「常陸社長！」和也は小春を一瞥した。「結構。ありがとう」「結構」に加えて「ありがとう」まで添えた。その丁寧な言い方の下にあるのは、徹底して人を寄せつけない冷たさだ。小春の美しい顔が一気に青ざめたり赤くなったりしてきた。浅井社長は笑った。「
元夫、ナニが終わった日 第1118話
彼の薄い唇が彼女の首筋に触れ、細やかな口づけが落ちていった。まるで彼女に少し依存しているかのようだ。こういうことは、一度火がつくと止まらなくなる。洋子は、密着した身体越しに、彼の高ぶる欲望をはっきり感じ取っている。彼女は少し動いた。「何してるの？」和也「俺が何をしたいと思う？」そう言って彼は彼女の小さな顎をつまみ、赤い唇へと口づけようと身をかがめた。しかし届く寸前で、洋子が手を伸ばして彼の薄い唇を遮った。「ダメ！」和也は動きを止めた。「なんで？」洋子「今は昼間よ。しかもあなたのアシスタントが外にいるでしょ！」そう言い捨てると、彼女は彼を押し離し、そのまま部屋へ駆け込んだ。「もう行かないと。仕事に遅れる！」忙しなく動き回る彼女の姿を見て、和也は心の中で言葉にならないため息を落とした。昼間の彼女は、夜とはまるで別人だ。昼の洋子は、いつもの冷静さと余裕を取り戻し、まるで彼とは親しくもないかのように接する。でも夜の彼女は、彼にまとわりつき、「好き」と言い、求め、火のように熱くなる。身支度を整えた洋子は、部屋のドアを開けた。外では誠が恭しく頭を下げた。「若奥様、おはようございます」洋子「おはよう」そう言って彼女は階段を一気に駆け下りていった。良枝が呼び止めた。「若奥様、まずは朝ごはんを……」「良枝、時間がないの。先に行くね！」洋子の姿はあっという間に視界から消えた。良枝「若奥様、お仕事がどれほど忙しくても朝食は食べないと……」その頃、和也も支度を終えて部屋を出た。誠がその後ろについている。「社長、朝会は三十分遅らせるよう、すでに手配しました」和也「わかった。会社へ向かおう」良枝「若旦那様まで出ていくのですか？お二人とも、なんで朝ごはんも……」……和也は常陸グループへ到着した。この日の予定は非常に詰まっており、気づけばもう昼だ。誠「社長、厨房に昼食を出すよう伝えています」和也は軽くうなずき、スマホを取り出し、ラインを開いた。画面は空っぽだ。洋子からは、一通のメッセージも来ていない。連絡……してこないか。確かに、これまで二人が連絡を取り合ったことは一度もない。だが今は違う。昨夜、二人は関係を持った。しかも彼女は大胆に「好き」と告白し、心がもらえないなら身
元夫、ナニが終わった日 第1117話
和也は彼女を見つめ、真剣に言った。「俺のところに避妊具がないんだけど」洋子は一瞬動きを止めた。彼、このタイミングでようやく家に避妊具がないことを思い出したのか。だが本来、そんなものは必要ない。自分は最初から妊娠するつもりで来ているのだから。洋子は彼に抱きついた。「大丈夫よ」和也は彼女を少し押し離した。「ダメだ。妊娠するかもしれないじゃない？」洋子はその小さな顔を上げた。「子ども、嫌いなの？」和也の整った眉がわずかに動いた。「あまり好きじゃない。それに、父親になる覚悟なんてできてない」洋子「もし妊娠したら？」和也「だから避妊が必要なんだ！」洋子は理解した。彼は、自分に妊娠してほしくないのだ。つまり……もし本当に妊娠しても、彼には知らせられないのか。洋子は気にも留めない。とにかく妊娠さえできれば、その後のことは彼とは無関係なのだから。洋子「妊娠しないわよ。今は安全日だもの」和也は半信半疑だった。「本当か？」嘘に決まっている！自分は最初から騙すつもりだ。だが洋子はとびきり誠実そうな顔で言った。「もちろん本当よ。私だって妊娠したくないもの」そう言って彼女はまた背伸びし、彼の喉元にキスし、唇の端を甘くかすめた。「和也……私を抱いて。ね？」和也は彼女を壁に押し付け、彼女のネグリジェを引き裂くように外し、深く激しく口づけ始めた。……翌朝。和也は寝坊してしまった。すでに八時になっているが、彼はまだ洋子を抱いたまま眠っている。間もなくすると、ドアを叩く音で二人は目を覚まし、外からアシスタントである誠の声がした。「社長」誠が来た。胸の中の洋子が動き、和也も目を開けた。洋子は眠そうに言った。「いま何時？」和也はサイドテーブルの上にあるスマホを手に取り、表示を見た。「八時だ！」洋子はとっさに和也の腕から身を起こした。二人は慌てて起き上がった。二人がこんな時間まで寝ていたのは初めてだ。昨夜は完全に夢中になり、寝たのは明け方だった。洋子「やばい！遅刻する！先に起きるわ！」洋子は布団を跳ね上げて飛び起き、そのまま洗面所へ駆け込んだ。和也は自分に呆れ返った。豪門の後継者としてこれほど仕事を忘れたことはなかった。今朝は会議があるというのに。ベッドを降りると、床には二
元夫、ナニが終わった日 第1116話
和也「……」彼の瞳には、まるで火が落ちたように熱が宿っている。男がこんな挑発に耐えられるはずがない。和也は思わず彼女を抱き寄せ、洋子の両脚は自然と彼の逞しい腰に絡みついた。二人はそのままシャワー室へと入っていった。和也がシャワーの蛇口をひねると、温かな水が頭上から一気に降り注いだ。洋子は手を伸ばして彼の服を脱がせようとした。和也は彼女に口づけながら言った。「洋子、俺たちって今どういう関係なんだ？」洋子「結婚してるでしょ。夫婦関係じゃない？」和也はじっと彼女を見ている。「俺が聞きたいのはそこじゃない」二人はもともと豪門同士の政略結婚で、感情の土台なんてなかった。なのに思いがけず関係を持ってしまった。一度だけならまだしも、どうやらこの先も続けるつもりでいるように思えてしまう。洋子は焦り出した。彼女からすれば、和也はとにかく話が長すぎる。彼女は、やることをやって余計なことを言わない男がタイプなのだ。洋子「そんなに深く考えなくていいのよ。どうだっていいじゃない。将来離婚したって気にする必要なんてないわ。男女の関係なんてそんなものでしょ」和也は彼女の率直さに目を向け、そっと彼女の手を外した。「つまり……俺たち、セフレってこと？」洋子は絶句した。言わなくてもいいのに、なんで言うのよ？和也はきっぱりと言い放った。「俺はどんな女性とでも身体だけの関係になる気はない。もうやめた方がいい」そう言うと和也は踵を返し、出て行こうとした。洋子は呆然とし、頭を高速回転させた。なんとしても和也を引き止めなければ！彼女はすぐに飛びつき、背後から和也の腰に抱きついた。「わかったわ、和也。本当のことを言う」和也「何を？」洋子「和也……実は、私……あなたが好きなの！」和也は一瞬固まり、振り返って彼女を見た。「俺のことが好き？」洋子は心のなかで、好きじゃないけど、と呟いた。だが今は、それを言うしかない。そう言えば、彼をベッドに戻し、子どもをつくる話を進められる。洋子は渾身の演技力を振り絞った。「そうよ、和也、あなたが好きなの！お見合いで初めて会った瞬間から、あなたに惹かれていたわ。でもあなた、私に興味がないし、池本先生が好きなんでしょ？だから、この気持ちは胸にしまっておくしかなかったの……でも、昨夜の出
元夫、ナニが終わった日 第1115話
和也は両手をベッドにつき、洋子の突然の引き寄せに体勢を崩し、その端正な顔が一気に近づいた。二人の距離は息が触れそうなほど近い。互いの呼吸が混じり合い、和也は彼女の香りをふわりと感じた。人工的な香水ではない。入浴後の自然な体の香りだ。柔らかく、甘く、心をくすぐるような香りだ。和也は体を支えながら彼女を見下ろした。「……何してる？」洋子は半分眠っており、目がとろんと霞んでいる。「何でもないよ。抱いてくれて……ありがとう」こんな抱きつき方をしておき、それがお礼だと言うのか？和也は口元を引き上げた。「変わったお礼の仕方だな……もういい、気持ちは受け取った。そろそろ手を離して？」だが洋子は手を離さなかった。今を逃すまいと、彼女は自分からそっと顔を上げ、和也の薄い唇に触れた。和也の身体が一瞬固まった。洋子はちょん、とキスしてすぐに離れ、彼を見上げた。和也「……今度は何のつもりだ？」洋子は腕を彼の首に回したまま言った。「あなたはどう思う？」和也は彼女の赤い唇に視線を落とした。「今夜も欲しいってこと？」洋子は逆に問い返した。「ほしくないの？」その挑発に、和也の目が細くなった。彼は五本の長い指で彼女の手首を軽くつかみ、ベッドに押しつけた。「今朝、俺たちは昨夜の事は忘れるって暗黙の了解だったと思ったんだけど」朝の彼女は確かに淡々としていた。昨夜のことは互いに触れない、そういう雰囲気だった。なのに今は真逆の熱度で迫ってきている。正直、彼にも彼女の意図が読めない。洋子の睫毛が震えた。「……昨夜の出来事を忘れたいの？」和也は紳士らしく、彼女の意思を尊重するように言った。「君次第だ」その言葉を聞いた洋子はまたそっと顔を寄せ、彼へ口づけした。「昨夜は……とても気持ちよかった。今夜も……気持ちよくなりたいの」その瞬間、和也の視線は一気に暗く沈み、奥で危険な火が跳ね出した。洋子は彼の唇の端にキスし、さらに下へと降り、喉仏に触れた。甘える子猫のようでもあり、男を惑わす妖狐のようでもある。途端に昨夜の記憶が津波のように押し寄せてきた。確かに昨夜は燃えるように激しかった。触れるたびに溶け合うような夜だった。和也は喉を鳴らした。その小さな変化を洋子は敏感に察し、彼の指の隙間から手を抜き、再び彼の首に腕を回して深く
元夫、ナニが終わった日 第1114話
それでは困る。良枝は必死に言った。「若旦那様、もう淹れてしまったんですから、無駄にするわけにはいきませんよ。明日は飲まなくてもいいので、今日は飲んでください」和也は良枝を一瞥した。「これ、安眠にいいお茶なんだろう？なら君が飲めばいい」良枝は言葉に詰まった。自分が飲んでどうするのよ？「若旦那様、やはり飲んだほうがいいですよ。飲んで早めに休んでください」キーボードを打つ和也の指がふっと止まり、彼は良枝の持つ茶碗に視線を向けた。「良枝……なんでそんなに俺に飲ませたいんだ？」良枝「……若旦那様の体を気遣ってるだけですよ！飲まないなら、私が飲みます！」疑われるのを恐れた良枝は、茶碗を抱えてそそくさと部屋を出ていった。外に出た途端、良枝は、これは洋子に報告しなければと判断した。彼女は寝室の前に来て、ノックした。すぐに洋子が扉を開けた。「良枝？」良枝は声をひそめた。「若奥様、大変です。若旦那様、今夜どうしてもお茶を飲んでくれません」洋子の睫毛がぴくりと揺れた。「飲まなかったの？」良枝「さようでございます！これ以上勧めたら間違いなく怪しまれます！若奥様、今夜はお茶の助けなしで、完全に若奥様ご自身にかかっています！」「私に？」良枝は洋子の美しい顔立ちと整ったスタイルを見て、安心したように頷いた。「若奥様なら大丈夫です！お茶がなくても、若旦那様が拒むわけありません！今の若旦那様は若くて血気盛んですし、昨夜だって初めて夫婦の営みを済ませたばかりですし……一度味わった男は、必ず思い出しますよ。若奥様、頑張ってください！」そう言い残して良枝は去っていった。洋子「……」部屋に戻ると、彼女は腰を下ろし、自分のデザイン画を取り出した。和也が茶を飲まなかった以上、今夜は自分で動くしかない。きっと、自分ならできるはずだ。洋子は意識を仕事へと向け、集中してデザインを描き続けた。気付けば三時間が経っており、時計を見るとすでに十一時だ。和也はまだ書斎から戻っていない。まぶたが重くなり、彼女は机に突っ伏したまま眠り込んだ。それから三十分後、仕事を終えた和也が部屋に戻ると、すぐに洋子の姿が目に入った。テーブルの小さなスタンドライトに照らされ、淡い灯りの中で彼女は静かに眠っている。彼女が持ってきたのだろう、シャンパンゴ
