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冬の柘榴

冬の柘榴

Por:  祐希Completado
Idioma: Japanese
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駙馬(ふば/皇帝の婿)は二十五歳、官位は三品に至る高官であり、その人生における唯一の汚点は、この私だ。 だが、彼は私を極めて丁重に扱い、恭しく優しく、決して不平を漏らすことはない。ただ、私の居室へ渡るたび、きまって私の付きの侍女を見つめては、心ここにあらずといった様子になるのだ。 彼はこう言った。 「秋も深まり涼しくなってきた。あの子に肌着を一枚足してやるべきだろう」 「あのような華奢な手で、これほど長く墨を磨らせては、手が痛むのではないか」 「熱い茶を好むのなら、今後は自分で淹れるがよい。あの子が火傷をしてしまう」 そして迎えた、駙馬の誕生日。私は彼のために、二つの祝いを用意した。 一つ目は、侍女を彼の寝所に送り、その身の世話をさせること。 二つ目は、参内して皇帝に勅旨を請い、私に一人の側夫(そくふ/男の側室)を迎え入れることである。

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Capítulo 1

第1話

駙馬(ふば/皇帝の婿)は二十五歳、官位は三品に至る高官であり、その人生における唯一の汚点は、この私だ。

私は粗野で無知な、誰からも疎まれる公主(こうしゅ/姫)だった。運命が変わったのは、同腹の弟が皇帝に即位し、私の身分もより高貴になってからだ。その後、私は時の宰相が一番の愛弟子、裴知昼(はい ちちゅう)に嫁いだ。

裴知昼は善人だった。私が軍営育ちで、詩書に通じていないからといって、決して見下したりはしなかった。世間が私の悪口を言えば言うほど、彼は私に優しく接し、私の部屋を訪れる回数も増えた。

そして、蛍灯(けいとう)を盗み見る回数も増えていった。

蛍灯は、先代皇帝である父が崩御される前に私に下賜された侍女だ。幼い頃は令嬢として育ち、詩書にも通じていたが、父親が罪を犯した原因で、下女になったという。

礼儀正しく、才ある彼女は、私とは対極の存在だった。父上が彼女を私に与えたのは、彼女を手本にして私に淑女になってほしいという願いからだったのだろう。

「じゃあ、『小石榴(こざくろ)』っていうのがあの美しい侍女で、『蛍灯』様が公主ってこと?」

「違う違う!公主様のお名前は唐榴(とう りゅう)。裴様が『小石榴』と呼ぶのに慣れてしまっているだけよ。滅多なことを言うもんじゃないわ!」

「ええ、でも蛍灯の方が、いかにもお姫様らしい響きだもの」

二人の下女が盛り上がっている背後に、私が立っているとも知らずに。

……

蛍灯は私のそばで、おどおどと立ち尽くし、一言も発しない。早朝の掃除に出ていた使用人たちが、こちらの騒ぎに気づき、皆が嘲笑おうと待ち構えている。

軍営上がりの粗野な公主が、癇癪を起したらどうなるか。裴の屋敷はひっくり返るような大騒ぎになるだろう、と。

私は彼らの期待通りに振る舞うつもりなど毛頭なく、わざとらしく咳き込むと、風邪を理由に部屋へと戻った。

中庭には、呆気にとられた使用人たちが取り残された。

「小石榴、朝議が終わったよ。お菓子を持ってきた」

裴知昼が扉を開けて入ってくる。その体には外の風雪がまとわりつき、眼差しは温かく潤んでいる。

私が彼の上着を脱がせている間、彼は持ってきたお菓子を蛍灯の懐に入れた。

「お前の好きな味もある。食べなさい」

蛍灯は温かいお菓子を抱え、怯えたような目で私を見る。私は視線を外し、何でもない風を装って言った。「頂いておきなさい。さあ、早く旦那様にお茶を」

彼女は慌ててお菓子を懐にしまい、茶器に手を伸ばそうとしたが、その手はすぐに裴知昼のしなやかで力強い手によって遮られた。

「小石榴、君は昔から熱い茶が好きだろう。蛍灯の手は柔らかいんだ、火傷をしてしまったらどうする。

今後、こういう雑事は自分でやりなさい」

私は急に興ざめしてしまい、茶を飲む気も失せた。机に向かい、先生から出された課題に取り組もうとする。蛍灯が近寄り、墨を磨ろうとするが、裴知昼が軽く咳払いをした。

「墨磨りは疲れるものだ。小石榴、心を鍛えるためにも、こういうことは下人に任せず、自分ですべきだよ」

あれも駄目、これも駄目。私は手を振り、蛍灯を先に部屋の外へ下がらせた。裴知昼は眉をひそめ、反射的に口を開く。

「外は冷えるのに、あんな薄着で。風邪を引いたらどうするんだ?

小石榴、君は普段から下人に対してこれほど酷い扱いをしているのか?」

裴知昼は気性が穏やかなことで知られ、ましてや女子や目下の者を叱責することなどあり得ない人物だ。幼い頃から、私に対してキツイ言葉を吐いたことなど一度もなかった。それが今、たかが使用人一人のために、私を責めている。

蛍灯は襟元をかき合わせ、私のために声を上げた。

「旦那様、私は寒くありません。私は……へくしゅん!」
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reseñas

ノンスケ
ノンスケ
男はうわきをしてもよく、女はダメだなんて誰が決めたの?って話ですね。時代設定を考えれば、反発も強かっただろうけど、1番腹黒い女が結局夫の方とどうなったのか、ただの付きまといだったのか気になる。
2026-02-18 05:47:53
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蘇枋美郷
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妻が皇帝の姉、立場的にも元々上なのに調子こいたクズ夫がクズ下女に仕事もさせずイチャつき、妻が弟の皇帝に頼んで側夫を連れてきたらキレるって。お前のやってた事と同じことをしただけですが? 他の方の感想にもあったけど、旦那は愛人や側室がいて良いのに、妻側はダメとかおかしい!という発言に拍手!
2026-02-17 13:57:13
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ハイチュウくんが蛍光灯にデレデレしたせいで皇帝の姉が側室を迎えた 身分的に軽んじてはいけなかったのにアホだった 男は妾や側室を何人も持てるのに女が出来ないのはおかしいだろと言ってくれた令嬢がMVP
2026-02-17 10:21:18
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10 Capítulos
第1話
駙馬(ふば/皇帝の婿)は二十五歳、官位は三品に至る高官であり、その人生における唯一の汚点は、この私だ。私は粗野で無知な、誰からも疎まれる公主(こうしゅ/姫)だった。運命が変わったのは、同腹の弟が皇帝に即位し、私の身分もより高貴になってからだ。その後、私は時の宰相が一番の愛弟子、裴知昼(はい ちちゅう)に嫁いだ。裴知昼は善人だった。私が軍営育ちで、詩書に通じていないからといって、決して見下したりはしなかった。世間が私の悪口を言えば言うほど、彼は私に優しく接し、私の部屋を訪れる回数も増えた。そして、蛍灯(けいとう)を盗み見る回数も増えていった。蛍灯は、先代皇帝である父が崩御される前に私に下賜された侍女だ。幼い頃は令嬢として育ち、詩書にも通じていたが、父親が罪を犯した原因で、下女になったという。礼儀正しく、才ある彼女は、私とは対極の存在だった。父上が彼女を私に与えたのは、彼女を手本にして私に淑女になってほしいという願いからだったのだろう。「じゃあ、『小石榴(こざくろ)』っていうのがあの美しい侍女で、『蛍灯』様が公主ってこと?」「違う違う!公主様のお名前は唐榴(とう りゅう)。裴様が『小石榴』と呼ぶのに慣れてしまっているだけよ。滅多なことを言うもんじゃないわ!」「ええ、でも蛍灯の方が、いかにもお姫様らしい響きだもの」二人の下女が盛り上がっている背後に、私が立っているとも知らずに。……蛍灯は私のそばで、おどおどと立ち尽くし、一言も発しない。早朝の掃除に出ていた使用人たちが、こちらの騒ぎに気づき、皆が嘲笑おうと待ち構えている。軍営上がりの粗野な公主が、癇癪を起したらどうなるか。裴の屋敷はひっくり返るような大騒ぎになるだろう、と。私は彼らの期待通りに振る舞うつもりなど毛頭なく、わざとらしく咳き込むと、風邪を理由に部屋へと戻った。中庭には、呆気にとられた使用人たちが取り残された。「小石榴、朝議が終わったよ。お菓子を持ってきた」裴知昼が扉を開けて入ってくる。その体には外の風雪がまとわりつき、眼差しは温かく潤んでいる。私が彼の上着を脱がせている間、彼は持ってきたお菓子を蛍灯の懐に入れた。「お前の好きな味もある。食べなさい」蛍灯は温かいお菓子を抱え、怯えたような目で私を見る。私は視線を外し、何でもない風を装って言
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第2話
誰も反応する暇もなく、裴知昼は自分の外套を脱いで蛍灯に被せ、足早に外へ連れ出した。「医者に診せてくる。風邪を引いては大変だ。小石榴、君ももう大人なのだから、下人を労わる心を学びなさい」部屋から二人の姿が消えると、急に冷え込みが厳しくなったように感じた。もう一人の侍女、春杏(しゅんきょう)が炭火を起こしながら、忌々しそうに吐き捨てる。「あの狐女め!蛍灯が戻ったら、殿下、きつく罰してやらねばなりませんよ!」胸の奥がざらつき、何とも言えない感情が込み上げる。軍営から戻ったばかりの頃、弟以外の誰もが私を見下し、孤立無援だったあの日々と同じだ。私は学問はないが、馬鹿ではない。ここで罰を与えて騒ぎ立てれば、結局、悪評が立つのは私の方だ。それから数日、裴知昼は私の元を訪れなかった。あるいは後ろめたさからか、合わせる顔がないと思ったのか、彼は大量の侍女を送り込んできた。中庭が埋まるほどの人数だ。春杏が教えてくれた。「旦那様が仰るには、あの日怒ったのは悪かったが、下人も人間なのだから、過度に働かせるべきではないと。これらの侍女は、蛍灯の仕事を分担させるために、旦那様が殿下のために用意されたそうです」そう言って、春杏は不満げに口を尖らせる。「あいつに仕事なんてありゃしませんよ。毎日殿下の後ろをついて回って、お茶を出して墨を磨るくらいじゃないですか」私は回廊の先を眺めた。「蛍灯はまだ戻らないの?」「まだです。ずっと旦那様の院にいますよ。人をやって催促させますか?」私は視線を戻した。「いいえ。どうせあの金持ち令嬢気取りじゃ、使い物にならないしね」……都の貴婦人たちは頻繁に宴を催し、私も付き合いで顔を出すことになる。私には教養がなく、「曲水の宴」のような風流な遊びはできないので、庭園をぶらぶらと散策していた。二人の名家のお嬢様が近寄ってきて、当てこすりを言った。「あら、公主殿下にご挨拶を……おや?どちらが公主様かしら?」「前を歩いている方は、立ち居振る舞いがまるで馬の調教師のようね。きっと後ろの、侍女の服を着た方が公主様よ」「そうね、駙馬様は私たちの『公主』をとっても可愛がってらっしゃるもの。あちこち連れ歩いて、おしどり夫婦そのものだわ!」本来なら、ここで侍女が前に出て私の代わりに釈明すべ
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第3話
裴知昼が来たのは私に会うためではなく、蛍灯の肩を持つためだったと知った。茶を汲むことすら惜しむ彼が、私の前で土下座など許せるはずがない。しかも来て早々、門前で寒さに鼻を赤くしている蛍灯を目撃したのだ。裴知昼は理性を失い、なぜ誰も彼女を労わらないのか、私に彼女へ服を買い与えるよう進言すべきだと、使用人たちを怒鳴りつけたらしい。「自分の身を守るのに精一杯で、あいつを心配する余裕なんてあるもんですか!」春杏は目を白黒させている。私は布団の端を握りしめ、胸がざわついた。衣食住において、私は蛍灯に最高のもの与えてきたはずだ。ただ彼女自身が、美しく見せようと薄着を好み、私が特注した冬着を着ようとしなかっただけなのに。……その日以来、裴知昼は私を冷遇することを覚えた。道で会っても目もくれずにすれ違い、遠くから私を見かければ、必ず道を変えて避けるようになった。冬至の日、皇帝が群臣を招いての夜宴があり、私と裴知昼も列席した。朝廷の情勢は不安定で、皇帝はまだ若く、多くの大事は裴知昼の師である宰相が取り仕切っている。我が弟である皇帝も、今は臣下の顔色を窺って動かねばならない。彼は今、形式的に裴知昼の手を取り、世間話をしている。「裴卿、朕の姉上と一緒になって日も経つが、姉上は元気か?」裴知昼は反射的に私を見た。よりにもよって、蛍灯が宮中の者が運んできた点心を、私の服にこぼした。それは私が一番気に入っていた衣装だった。私は思わず、眉をひそめて彼女を睨みつけた。普段は大人しい蛍灯が、この時ばかりはすぐに泣き出した。裴知昼は視線を戻し、話を一転させて皇帝に言った。「殿下はすべてにおいて素晴らしいのですが、下人を苛め抜く点だけは、感心できません」皇帝は眉を寄せ、声を潜めた。「祝いの席だぞ。姉上の粗探しをせよとは言っていない」傍らの宰相が咳払いをすると、皇帝はしどろもどろに言った。「……そうだな、罰が必要だ。では姉上の俸禄一か月分没収と、書の書き写しを命じる!」私は静かに罰を受けた。皇帝ができる限り軽い罰を選んでくれたことは分かっていた。裴知昼は幼馴染だ。私がどんな時に反抗しないか、誰よりもよく知っている。皇帝は今、朝廷で四面楚歌の状態だ。私が我慢すれば済むことなら、弟に迷惑はかけない。子供の頃、私が何か過ち
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第4話
「それに『殿下を説得したけれど聞いてくださらなかった』なんて嘘まで!あいつ、いつ殿下にそんな話をしました?」私は呆れて言った。「行きたくないなら、一人で残ればいい」春杏は鼻を鳴らす。「それじゃあ、まさにあいつの思う壺ですよ!」次の言葉を継ぐ間もなく、勅旨が届いた。回りくどい言い回しだったが、要するに「引き続き裴の屋敷に住め」ということだ。人をやって探らせると、裴知昼が師である宰相の名を使って、皇帝に勅旨を出させたのだと分かった。たかが蛍灯一人のために、裴知昼はそこまでするのか。私は外に見える蛍灯の影をぼんやりと見つめ、自分がとうにこの「お荷物」を抱えきれなくなっていたことに気づいた。出ていくはずが出ていけなくなり、使用人たちは無駄骨を折った。私はこの機に皆を集め、溜まっていた帳簿の整理をすることにした。すると蛍灯が焦ったように割り込んできた。「殿下、そんなことより旦那様のお誕生日が近いです。奥様なのに、どうしてそんなに気が利かないのですか」彼女は使用人の手から倉庫の帳簿を奪い取り、いくつかの品を指さした。「これらはすべて旦那様のお好きなものです。殿下はこれを贈ればよろしいかと」例年、裴知昼への贈り物は蛍灯が手配していたが、こうして指図されると胸が悪くなる。蛍灯は恥ずかしそうに笑い、私に言った。「殿下、旦那様に『この夜明珠(やめいしゅ)は私が選んだ』とお伝えください。きっとお喜びになります」春杏が真っ先に彼女へ唾を吐きかけた。潔癖な蛍灯は飛び上がらんばかりに驚いた。他の使用人たちも汚物を見るような目で彼女を罵る。「恩知らずの狐女め!殿下が良くしてくださったのに、旦那様を奪おうとするなんて!」「殿下、こんな奴はさっさと人買いに売り払ってしまいましょう!」蛍灯は私に見せる顔、裴知昼に見せる顔、そしてこの使用人たちに見せる顔、すべてが違っていた。彼女は金切り声を上げた。「ふん!あんたたち何様のつもり?私に指図しないでよ!」騒がしさに頭痛がし、私は春杏だけを連れて宮中へ逃げ込んだ。罰の一件で負い目のある皇帝は、私を見るなり恐縮し、「姉上」「殿下」と私を呼んで、機嫌を取り始めた。二人きりになってようやく、皇帝は威厳を脱ぎ捨て、子供のような顔を見せた。「裴知昼の誕生日が近い」と私は言った。皇帝
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第5話
皇帝は言った。女を選ぶのは得意だが、男を選んだことはないと。そこで都中に高額の懸賞を出し、美男子の絵姿を募集し、身元を洗い出した上で私の元へ送ってきた。才能がありすぎる者は却下した。そういう男は科挙に一心で、後宮のことなど眼中になく、無学な私も書生は好きではないからだ。家柄が良すぎる者も却下だ。プライドが高く、私を見下すかもしれない。厳選の末、都で名の知れた琴師(ことし)を選んだ。名は秦琅(しん ろう)、地方の出身。恵まれない家庭出身だが身元は綺麗で、芸は売っても身は売らぬ男だ。皇帝はさらに彼の背景を徹底的に調べ上げ、問題なしと判断して身なりを整えさせ、屋敷へ送り込んできたのだ。一方、裴知昼は私の院に運び込まれる花嫁ならぬ花婿輿を、呆然と見つめていた。「これは、一体どういうことだ?」宰相の門生、三品の高官、公主の駙馬である彼も、生涯このような光景は見たことがなかっただろう。だが、私が側夫を迎えるという噂は、すでに使用人の間で広まっていた。「旦那様はご存じありませんでしたか?あの方は殿下が皇帝陛下に請願し、迎え入れられた側夫様です」「馬鹿な!」裴知昼は叫んだ。その場に立ち尽くしたが、やはり私の院へ確かめに行くことにしたようだ。「君たちの公主がこんな出鱈目なことをして、誰も止めなかったのか?」歩きながら、彼は案内する使用人に言った。使用人はきょとんとして、へらりと笑った。「旦那様、何を仰いますか。これは殿下が参内して、陛下と直談判して決まったことですよ。我々も後から知ったのです!」裴知昼の足が止まった。従っていた使用人たちも慌てて立ち止まる。すぐ先には、赤い衣をまとった秦琅が立ち、自らの手で私に毛皮の外套を掛け、私の頭上の雪を払っている姿があった。私は口元をほころばせて言った。「みんな言うのよ。私は軍営育ちだから体が丈夫で、寒さなんて平気だって。私に服を掛けてくれたのは、あなたが初めてよ」秦琅は一瞬驚いた顔をし、温かく微笑んだ。「何を仰います。公主様といえど、か弱い女性ではありませんか」裴知昼は足は重くて、急に動けなくなった。彼は本当に思い出そうとしていた。最後に私へ上着を掛けてやったのは、いつだったかと。温かく柔らかい手が、裴知昼の目を覆った。蛍灯が背伸びをして、顔を紅
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第6話
裴知昼は私の寝台の傍らに腰を下ろした。私は苦労して胡桃の殻を剥いていた。それを見た裴知昼は、私の手からそれを取り上げ、代わりに剥いてくれた。「食べろ」彼はついでに、持参した菓子を私の前へ押しやった。「全部君のものだ」幼い頃、私と裴知昼が喧嘩をしたとき、彼はいつもこうして食べ物で私の機嫌を取ろうとしたものだ。宮中は山海の珍味に溢れているが、皇子や公主の健康を守るため、日々の食事量は厳格に定められていた。裴知昼は私の食い意地が張っていることをよく知っていた。だが今は違う。美味しいものは自分で買える。この胡桃だって、秦琅が故郷の徐州から持ってきてくれた特産品だ。私は首を振って言った。「甘いものは好きじゃなくなったの」「好きじゃない?じゃあ……」「裴知昼、私は芝居をしているんじゃないわ。秦琅を側夫として迎えたのは、本気よ」裴知昼は声を上げて笑った。「小石榴、君のことは分かっている。昔からおてんばで、突拍子もないことをするのが好きだった。だが、世の女子が側夫を迎えるなんて聞いたことがない」「なら、今、前例ができたわ」私は有無を言わせぬ口調で返した。裴知昼がさらに何か言おうとした時、秦琅が扉を開けて入ってきた。裴知昼の顔色は瞬時に曇った。まるで見てはいけないものを見たかのように、裴知昼はすぐに顔を背け、私に問うた。「なぜまだ彼を追い出していないんだ?」秦琅は微笑んだ。「私は殿下の側夫です。追い出されて、どこへ行けと言うのです?」彼は机のそばへ行き、熱い茶を注ぐと、両手で捧げて裴知昼の前に差し出した。「道理から言えば、側夫が家に入ったなら、正夫(せいふ)の方に茶を捧げて敬意を表すべきで……」裴知昼は猛然と立ち上がった。その拍子に茶杯が床に落ち、砕け散った。私は慌てて立ち上がり、秦琅の手を引き寄せた。「どう?火傷しなかった?」その反応を見た裴知昼は、胸に鬱屈したものが込み上げ、堪らず口にした。「熱い茶が私にかかったのに、どうして私には火傷をしたかと聞かないんだ?」私は何も言わず、ただじっと彼を見つめた。裴知昼はそこでようやく思い出した。つい先日まで、自分が同じように蛍灯を気遣っていたことを。彼は深く息を吸い込み、去り際に秦琅を睨みつけると、忠告した。「公主は純真で、礼儀に疎い
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第7話
「裴殿、あなたは殿下のご機嫌を取ろうとなさっているが、殿下が真に何を欲しているかをご存じないのです。殿下は今日、曲など聴きたくないのです。うるさいだけです。ただ頭を揉んでほしいだけ、そうでしょう?なにせ今日は不吉な人に会ってしまわれた。殿下は心を清める必要があるのです」裴知昼は憤然として席を立った。……数日間放置されていた蛍灯は、ようやく裴知昼の時間が空いたのを見て、ここぞとばかりに良き理解者を演じようと擦り寄った。「旦那様、殿下はああいうお方です。規律も礼法もご存じません。でなければ、先代の陛下も当時、殿下を軍営などに送って性根を叩き直させたりなさらなかったでしょう」裴知昼は重いため息をつき、ようやく口を開いた。「そうではない。彼女が軍営に送られたのは、生母に後ろ盾がなく、他の妃嬪の策略に巻き込まれたからだ。小石榴はずっと不憫な境遇だった。でなければ……」そこまで言って、裴知昼は急に言葉を切った。蛍灯は裴知昼が私を庇ったことに不満を抱いていたが、彼が口をつぐんだのを見て、悪口が始まると期待して身を乗り出した。「どうなさいました?」裴知昼は長い沈黙の後、深く嘆息して言った。「私が悪かったのだ。今になってようやく分かった。私がお前のことばかり気にかけていたせいで、彼女をないがしろにしていたのだと」……年末、宮中での宴。裴知昼は朝廷の臣下として、私は公主として招かれ、席は別々に設けられた。だが私は「家族」という名目で、秦琅も一緒に連れて行った。私が側夫を迎えたことは一部の臣下しか知らなかったが、公然と宴に連れてきたことで、この不名誉な事実は白日の下に晒された。周囲からの非難めいた視線が増えていく。皇帝だけは平然としていた。彼にとって、姉のすることはすべて正しいのだ。酒宴も最中に進んだ頃、礼部侍郎(れいぶじろう/外交・科挙などをすべる朝廷の高官)の趙(ちょう)様が、皮肉な笑みを浮かべて口を開いた。「公主殿下、私の記憶が確かならば、しきたりでは宮中の宴席には限りがございます。殿下のお連れの方は、招待者名簿には載っていないようですが?」一瞬にして、多くの視線が一斉にこちらへ集まった。何か面白いことが始まると期待する目だ。私が口を開く前に、か細く怯えたような声が響いた。裴知昼の後ろに控えて
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第8話
背後から裴知昼の声がした。彼は長いことそこに立っていたようだ。秦琅は私の手を放し、穏やかに言った。「私は馬車のそばで殿下をお待ちしております」裴知昼が私の前に歩み寄る。その吐息は白く煙っている。「小石榴」彼の声は低く嗄れていた。「話をしよう」私は袖をかき合わせ、静かに彼を見つめた。「以前のことは、私が悪かった」彼の喉仏が動いた。「君が怒るのも無理はない。私が君を軽んじ、君の気持ちを無視し、多くの辛い思いをさせた」風雪が音もなく彼の肩に積もっていく。「だが、側夫を迎えるなど、あまりに世間離れしている。これでは君自身を矢面に立たせ、天下の笑いものにするようなものだ!私の言うことを聞いてくれ。もうこんな当てつけはやめて、何か方法を考えて、彼を穏便に送り返そう。そして、また昔のように……いいだろう?」私は静かに首を振った。「裴知昼。すべてのことが、昔に戻れるわけじゃないの」彼の瞳の光が少しずつ消えていく。「まさか蛍灯のせいか?蛍灯なら、私が……」「彼女のせいじゃない」私は彼の言葉を遮り、顔を上げて、驚愕する彼の視線を受け止めた。「私自身のせいよ」私ははっきりと告げた。「裴知昼、もういらないの」私は背を向け、宮門の方へと歩き出した。一度も振り返らなかった。秦琅は静かに馬車の傍らに佇み、私が近づくと無言で簾を持ち上げた。馬車内は暖炉で温められていた。裴知昼はまだその場に立ち尽くしていたが、その姿は舞い散る雪の中で次第にぼやけていった。……裴の屋敷では、蛍灯が側室に引き上げられるという噂が流れ始めた。彼女は毎日裴知昼の前で涙を流し、「このように名分もなく旦那様の院に居座るのは、体裁が悪うございます」と訴えているという。そんな話が、断片的に私の耳にも入ってきた。私はそれを聞いても、ただ軽く「うん」と頷くだけだった。秦琅は傍らに座り、温かい茶を淹れてくれた。「殿下が煩わしいとお感じなら、公主府へ戻りましょう」彼の声は優しい。「あそこなら静かです」そうね、ここで汚い話を聞かされることもない。私は頷いた。「荷物をまとめて」公主府はとっくに修繕を終えていたが、私が正式に移り住んでいなかっただけだ。引っ越しはそれほど大掛かりではなかったが、荷
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第9話
春杏がおそるおそる言った。「殿下、旦那様が改心されたようですが、もしかして……」私は答えなかった。彼が何をしようと、すべては手遅れだ。翌朝、私は屋敷の外の騒がしさで目を覚ました。春杏が慌てた様子で入ってくる。顔色が妙だ。「殿下、旦那様が……門の外で跪いておられます」私は衣を羽織って起きた。屋敷の前の石畳の上、裴知昼は薄着一枚で、背筋を伸ばして跪いていた。私は公主府の門の内側、目隠しの壁の横に立ち、外へは出なかった。春杏が少しだけ扉を開けてくれたので、石畳に跪く裴知昼の背中が見えた。彼は寒さに微かに震えていたが、背筋だけは真っ直ぐだった。通りがかりの人々が指をさして噂しているが、彼は聞こえていないかのようだ。「聞いてきて。『何が目的か』って」私は小声で春杏に命じた。春杏は返事をして小走りに駆け寄り、数歩離れたところから言葉を伝えた。裴知昼は顔を上げた。「小石榴、君は私の糟糠の妻だ。過去のことは、互いに悪いところがあった。やり直せないか?」春杏が戻ってきてその言葉を伝えると、私は思わず吹き出してしまった。糟糠の妻?今になって、私が妻だと思い出したのか。私は打掛をかき合わせ、ついに外へ出た。敷居の内側に立ち、彼を見下ろす。「裴知昼、勘違いしているわ。私はあなたの『糟糠の妻』なんかじゃない。私は当今の公主、皇帝の姉よ。あなたと貧しさを共にした覚えはないわ。どこに『糟糠』があるというの?」彼は呆気にとられ、私を見上げた。「今さらそんな態度をとって、自分が被害者だとでも?それとも、一度頭を下げれば、私がありがたがって戻るとでも思った?お帰りなさい。あなたの師匠や、朝廷の皆に、これ以上笑われないうちに」言い捨てて、私は背を向けた。秦琅が手あぶりを抱えて回廊の下で待っていた。口元には微かな笑みを浮かべている。「裴殿、なかなかの名演技ですね。情の深い夫を演じきっていらっしゃる」彼の口調は軽やかだった。裴知昼は公主府の外で丸一日跪き続け、夜の帳が下りる頃、ついに体力の限界を迎えて倒れ、駆けつけた裴家の使用人に強引に担がれて帰っていった。この件は都の新たな笑い話となった。裴知昼はもともと尊厳の高い。これほどの恥をかいては、病と称して休暇を取り、朝議にも出ず、屋敷に引きこもって誰にも会わなくなっ
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第10話
今の私の能力と基盤で、陰謀渦巻く朝廷の中心に無理やり入り込んでも、無用な厄介事を招くだけだと分かっていた。私は皇帝に、都の外にある皇室の荘園を一つ賜りたいと願い出た。私はそこで女子のための学校を開設する準備を始めた。その噂が広まると、多くの議論を呼んだ。称賛する者もいた。民の知を開く、功徳無量の善行であると。裴知昼はどこからその話を聞きつけたのか、「病の体」を引きずって公主府までやってきた。門前払いを食らっても帰らず、門越しに私に会わせろと叫んだ。私は相手にするのも億劫だった。すると彼は伝言をよこした。翰林院(かんりんいん/学者や官僚の機関)に旧友がいるから、適切な女教師を紹介できると。さらに、私の考えは素晴らしく、国と民のためになる、夫として協力するのは当然だ、などと言ってきた。私は春杏を通じて一言だけ返させた。「結構。あなたの力は借りない」女学校はどうにかこうにか立ち上がり、私はそれを「明慧堂(めいけいどう)」と名付けた。徐々にではあるが、開明的な下級官吏や商人の家が、娘を学びに出してくれるようになった。女子が科挙に参加し、朝廷に入り込むには、この道しかないと分かっていた。……裴知昼はついに我慢できなくなり、明慧堂に押し入ってきた。「私たちは、ここまでこじれなければならないのか?」彼の声は枯れていた。堂内の女教師たちは皆聡明な人たちだ。状況を見て、適当な理由をつけて席を外してくれた。春杏も心配そうに私を一瞥し、静かに廊下の端へと下がった。私は手元の書物を閉じ、彼を見上げた。「裴様」私は言った。「離縁しましょう」彼はよろめいた。この日が来ることは分かっていたはずだ。私が側夫を迎えた時から、裴の屋敷を出た時から、彼は悟るべきだった。だが、いざ私の口からその言葉を聞くと、彼の目元は赤く染まった。「小石榴、離縁はしない」裴知昼はしわがれた声で言った。「私が間違っていた。もう一度機会をくれ。最後にもう一度だけ、頼む」昔なら、こんな姿を見せられれば、私はきっと心が揺らいだだろう。だが今、私の心は厚い氷に閉ざされている。私は視線を落とし、もう彼を見なかった。「お帰りください。明慧堂は学びの場。裴様、今後はあまりいらっしゃらないで」翌日、私は直ちに参内し、皇帝に謁
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