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第 115 話

Author: 柏璇
このとき真理は、彼らの目にもう「赤の他人」ではなく「悪い女」として映っていた。

和真が腰を下ろし、言った。「俺が彩乃に電話してみるから、心配しなくていいよ。もし八時までにつながらなかったら、警察を呼ぼう」

そう言って発信を繰り返しながら、ちらりと尋ねた。「その『悪い女』って、真理のこと?」

姉弟はそろってこくりとうなずいた。

「弟を叩いたくせに認めないの。それにパパは、私たちが嘘をついてるって……」若葉は悔しさに声を詰まらせ、それ以上に弟を思って胸を痛めていた。

陽翔は姉を抱きしめ、慰めた。「お姉ちゃん、僕もう痛くないよ。泣かないで」

そんな姉弟の姿に、和真の胸まで痛んだ。

――蒼司って男、本
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