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第 386 話

Author: 柏璇
「先に入ろう」

リビングの中。

詩織は少し後悔したように言った。「彩乃、私、迷惑かけちゃったかな?」

「そんなことないよ」彩乃は軽く笑った。「あの二人は、子どもたちを利用して亮介を困らせたいだけだから」

そのくらいの考えは、予想がつく。

でも彩乃は明菜のことをよく知っているので、なんだか単純ではない気がしてならなかった。

とはいえ、二人の子どもたちは普通に見えるし、蒼司も彩乃に絡んでこない。今のところ、何が怪しいのかは思いつかなかった。

詩織は長居せず、彩乃は運転手に送らせて家に帰した。

「ママ」若葉が呼んだ。

「ん?どうしたの、若葉?」彩乃が応える。

若葉は唇をぎゅっと結び、弟の手を引きなが
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