Masuk昼は歯科衛生士、夜は秘密のアイドル——。 20歳で夢を諦め、現実を選んだ琴子(28)は、親友・真帆子(29)との再会をきっかけに、再びステージへ立つことになる。二人が所属する新ユニット「魔法のシャーベット」には、“食べた夜だけ本音が溢れる”不思議な魔法がかかっていた。冷静で一途なマネージャー・時雨玲司と、俺様気質のスポンサー・九条雅臣。支える愛と奪う愛に揺れながら、琴子は封じた夢と恋にもう一度向き合っていく。甘く冷たいシャーベットが溶けるとき、本当の気持ちが動き出す——。
Lihat lebih banyakライブから数か月後。『魔法のシャーベット』は、以前よりも多くの人に愛されるユニットへと成長していた。それでも――。朝になれば、琴子と真帆子は白衣に袖を通す。「おはようございます。」「おはよう!」患者を迎え、歯を守り、笑顔を支える。何も変わらない日常。でも、その日常は以前より少しだけ輝いて見えた。診療を終えた夕方。四人は、いつものスタジオへ集まる。玲司が新しいライブ企画書をテーブルへ置いた。「次は全国配信ライブだ。」雅臣が笑う。「夢は一つ叶えたら終わりじゃない。」「また次の夢が始まる。」琴子と真帆子は顔を見合わせて笑った。「忙しくなるね。」「うん。でも……。」「すごく楽しみ!」その時だった。スタジオのチャイムが鳴る。届いたのは、一通の手紙。差出人には、名前ではなく一言だけ書かれていた。『あなたたちに勇気をもらった者より』琴子が封を開く。そこには丁寧な文字が並んでいた。『四十五歳です。』『もう遅いと諦めていた保育士の勉強を始めました。』『ライブを見て、「挑戦するのに遅すぎることはない」と思えました。』『ありがとう。』真帆子は次の手紙を開く。『六十二歳です。』『退職してからピアノを始めました。』『夢を持つことを思い出させてくれてありがとう。』さらにもう一通。『看護学校に挑戦します。』『あなたたちの歌が、私の背中を押してくれました。』静かな部屋に、涙をこらえる音だけが響く。真帆子がそっと微笑んだ。「私たち……。」「ちゃんと届けられたんだね。」玲司は優しく頷く。「夢は、誰かへ受け継がれていく。」雅臣も笑った。「だから夢には価値がある。」琴子は窓の外を見上げた。あの日。歌うことが怖かった自分。夢を追うことに迷っていた自分。全部、無駄じゃなかった。真帆子が琴子へ手を差し出す。「これからも一緒に歌おう。」琴子はその手を握り返した。「もちろん。」玲司は琴子の隣へ歩み寄る。「これから先も。」「仕事も。」「夢も。」「君の隣で支えていく。」琴子は照れくさそうに笑う。「よろしくお願いします。」その様子を見て、雅臣が真帆子の肩を軽く叩いた。「俺たちも負けてられないな。」「真帆子。」「これから先も、ずっと一緒に夢を追いかけよう。」真帆子は満面の笑みで頷いた。「は
ライブから一週間。いつも通り白衣に袖を通し、琴子は診療室へ入った。「おはようございます。」「おはよう!」スタッフたちの笑顔は、いつもと変わらない。夢のようなライブを終えても、今日からは歯科衛生士としての一日が始まる。「琴子さん、お願いします。」「はい。」ユニットへ案内されたのは、三か月ごとにメンテナンスへ通う女性患者だった。クリーニングを終え、最後の説明をしていると、患者が少し照れたように笑う。「あの……。」「はい?」「もしかして……魔法のシャーベットの琴子さん、ですよね?」琴子は一瞬、目を丸くした。「えっ……。」患者は慌てて両手を振る。「ごめんなさい! ご迷惑なら忘れてください!」琴子は優しく微笑んだ。「ありがとうございます。」「気づいてくださったんですね。」その患者は嬉しそうに頷いた。「ライブも配信も見ました。」「すごく感動しました。」「私、四十五歳なんですけど……。」少し恥ずかしそうに笑う。「昔、保育士になる夢を諦めたんです。」琴子は静かに耳を傾ける。「でも、琴子さんたちを見て思ったんです。」「もう一度、勉強してみようかなって。」その言葉に、琴子は胸が熱くなった。「ありがとうございます。」「そう思っていただけたなら、私たちが歌ってきた意味があります。」患者は笑顔で診療室をあとにした。昼休み。休憩室へ行くと、真帆子が興奮した様子で駆け寄ってきた。「聞いて、琴子!」「どうしたの?」「私の患者さんね、『定年してからピアノを始めました』って!」「えっ!」「ライブを見て、『挑戦するのに遅すぎることはない』って思ったんだって。」琴子は思わず笑顔になる。「すごい……。」そこへ玲司と雅臣も昼食を持ってやって来た。「今日は報告が多いな。」玲司が笑う。雅臣もスマートフォンを見せた。「配信のコメントもすごいぞ。」『資格の勉強を始めます!』『夢を諦めなくてよかった。』『勇気をありがとう。』『来年、看護学校を受験します!』画面いっぱいに並ぶ言葉を見て、真帆子の目に涙が浮かぶ。「私たち……。」「誰かの背中を押せたんだね。」玲司は静かに頷いた。「歌は、人の心を動かす。」「でも、その歌に力を与えたのは、君たちが諦めなかった人生だ。」琴子は窓の外を見上げる。夢を叶えた日が、ゴー
第48話 アンコール 「アンコール!」 「アンコール!」 会場中に響き渡る声は、いつまでも止まらなかった。 ライブブースの中で、琴子はヘッドセットを外しかけた手を止める。 「まだ……呼んでくれてる。」 真帆子もモニター越しに客席を見つめ、目を潤ませた。 何千本ものペンライトが、まるで「帰らないで」と語りかけるように揺れている。 玲司が優しく笑った。 「行こう。」 「これが君たちへの答えだ。」 その言葉に、二人は大きく頷く。 舞台裏では、スタッフたちが一斉に動き出していた。 「アンコール映像、準備!」 「照明パターン切り替えます!」 「音響、最終曲スタンバイ!」 「配信再接続、問題なし!」 誰一人として疲れた顔をしていない。 全員が、このライブを最後の一秒まで最高のものにしようとしていた。 「準備完了!」 舞台監督が親指を立てる。 玲司が二人へ視線を向けた。 「楽しんでこい。」 「はい!」 ライブブースの扉が閉まる。 ヘッドセットを装着。 モーションキャプチャーシステムが再び起動する。 「トラッキング正常。」 「フェイス認識正常。」 「音声良好。」 「アンコール配信、スタート!」 暗転していた巨大スクリーンに、一筋の光が差し込んだ。 歓声が爆発する。 『アンコール、ありがとうございます!』 スクリーンの中の琴子が、深く頭を下げる。 真帆子も笑顔いっぱいに手を振った。 『最後に、私たちの大切な一曲を届けます。』 静かなピアノが流れ始める。 曲名は――『夢のつづき』。 この曲は、デビューが決まってから四人で何度も話し合いながら作り上げたオリジナルソングだった。 昼は歯科医院で働き、 夜は夢を追いかける。 そんな二人自身の人生を、そのまま歌にした一曲。 琴子が歌い始める。 〈あの日、小さな一歩を踏み出した〉 真帆子が続く。 〈不安で泣いた夜も、笑えた朝もあった〉 ライブブースでは二人が心を込めて歌う。 その想いは、リアルタイムでスクリーンのアバターへ映し出される。 客席から見えているのは映像。 けれど、その歌声も、表情も、涙も、すべて今この瞬間の本物だった。 サビへ入る。 ミントブルーとラベンダーパープルの光が会場を包み込む。 誰もがペンライトを掲げ、音楽に身を委ねてい
「それでは、一曲目!」イントロが会場中に響き渡る。ライブブースで琴子と真帆子が歌い始めると、巨大スクリーンの中では二人のアバターが軽やかに踊り出した。歓声が一気に大きくなる。「すごい!」「本当に目の前にいるみたい!」客席では何千本ものペンライトが、ミントブルーとラベンダーパープルに揺れていた。一曲目が終わると、割れんばかりの拍手が響く。『こんばんはー!』スクリーンの中の琴子が笑顔で手を振る。『今日は来てくださって、本当にありがとうございます!』真帆子も大きく手を振った。『画面の向こうだけじゃなく、こうして同じ時間を過ごせることが、本当に幸せです!』その言葉に、会場から大きな歓声が返ってくる。二曲目。三曲目。曲が進むにつれ、最初の緊張は消えていった。ライブブースの二人も自然と笑顔になっていく。その姿は、そのままスクリーンのアバターへ映し出されていた。舞台裏では、玲司が映像モニターを見つめる。「いい表情だ。」スタッフも思わず笑う。「二人とも、楽しんでますね。」「それが一番ですよ。」一方、客席後方では雅臣が腕を組みながらステージを見つめていた。真帆子が心から笑っている。その姿だけで十分だった。「……夢、叶えたな。」思わずこぼれた言葉に、自分でも笑ってしまう。ライブはあっという間に終盤を迎えた。最後の曲。『この曲は、夢を追い続けるすべての人へ贈ります。』琴子の言葉に、会場が静かになる。イントロが流れ始める。一音一音に想いを乗せる。歯科衛生士として働く日々。疲れて帰宅してからの配信。眠い目をこすりながら続けたレッスン。何度も諦めそうになった夜。それでも歌うことだけは、やめなかった。真帆子も隣で歌う。同じ夢を見て、同じ景色を目指してきた親友。二人の想いは歌声となって、会場いっぱいに広がっていく。曲が終わる。一瞬の静寂。そして――。「ブラボー!」「最高ー!」「ありがとう!」会場中が総立ちになった。鳴り止まない拍手。涙を流しながらペンライトを振るファン。ライブブースの琴子は、思わず口元を押さえた。「……届いた。」真帆子も目に涙を浮かべながら頷く。「うん。」「私たちの夢、ちゃんと届いた。」その様子を見た玲司は、静かに目を閉じる。ここまで積み重ねてきた努力は、一つも無駄