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第7話

Author: 小春日和
午後、黒川会長から奈津美に電話がかかってきた。

会長が綾乃を嫌っているのは、奈津美にはよく分かっていた。

綾乃は白石家の一人娘で、性格が高慢すぎるからだ。

白石家の全財産を握っているとはいえ、会長は白石家と黒川家の確執から、綾乃を毛嫌いしていた。

会長は綾乃のことを見栄っ張りだと思い、孫と付き合うことを許さなかった。

一方、自分は従順で分別があり、家柄も申し分なく、品性も容姿も学歴も、黒川家の嫁として最適だった。

しかし、会長の好意も所詮は利益のための演技に過ぎなかった。

黒川家の専用車で送られた奈津美が玄関に入ると、会長は笑顔で声をかけた。

「奈津美、こちらへいらっしゃい」

会長は隣のソファを軽く叩いた。

奈津美は頷いて会長の傍らに歩み寄り、すぐに会長の向かいに立つ綾乃の姿に気付いた。

綾乃は前世と同じく、清楚な美人で、気品のある雰囲気を漂わせていた。

人前では常に頑なで冷淡で、高慢な態度を隠そうともしなかった。

綾乃は熱いお茶を持ったまま、手が赤くなっているのに、なかなか置こうとしない。

奈津美は綾乃の手首に巻かれた包帯に目を留めた。

明らかに、綾乃の自傷行為のことが会長の耳に入ったようだ。

このことを知っている人は少ないはずだった。奈津美はすぐに美香の仕業だと察した。

涼は会長に知られないよう情報を厳重に管理していたのに、美香は会長に告げ口をしに行ったのだ。

本当に命が惜しくないらしい。

「奈津美、婚約パーティーの日は涼が悪かったの。私も厳しく叱りつけたわ。もう怒らないでちょうだい」

会長は慈愛に満ちた表情で、奈津美の手を取って言った。

「奈津美は黒川家の未来の奥様よ。それは変わらないわ。まだ怒っているなら、涼に私の前で改めて謝らせましょう」

「ご親切にありがとうございます。でも、結構です」

「まだ婚約パーティーのことが気になっているのかしら?安心して。今日あなたを呼んだのは、すべてを明らかにするためよ」

会長は向かいに立つ綾乃に目を向けた。

表情が冷たくなり、声にも冷気を帯びた。

「白石さん、あの日が涼と奈津美の婚約パーティーだと知っていながら、わざと自傷行為で涼を引き離したのね。

まさか、まだ黒川家の嫁になる野心があるとでも?」

「......会長様、誤解です。そんなつもりは」

綾乃は顔を蒼白にし、力なく答えた。お茶を持つ手が震えている。

「私はただ......一時に魔が差しただけで......滝川さん、申し訳ありません」

綾乃は俯きながらも、目に不満の色を宿していた。

この状況でさえ、背筋を伸ばしたまま、自分が何も間違っていないという態度を崩さなかった。

奈津美は綾乃の本性をよく知っていた。

綾乃は常に悲劇のヒロインを演じ、世界中が自分に負い目があるかのように振る舞い、高慢な態度を崩さなかった。

前世では、自分と涼の婚約前、綾乃は自分を訪ねてきて、涼とは最も相応しい相手だと大義名分を掲げ、二人の末永い幸せを祝福すると言った。

しかしその直後、婚約パーティーで手首を切り、わざと涼に知らせて、涼を自分のもとから引き離し、町中の笑い者にしたのだ。

本当に気位が高いのなら、こんな卑劣な手段で婚約パーティーから涼を引き離したりはしない。

さらに、涼に婚約者がいると知りながら、関係を続けることもない。

要するに、綾乃は建前と本音が違い、涼が欲しいくせに、自分の高潔さも保ちたいだけだった。

結局、前世では綾乃と涼は苦難を乗り越えて結ばれ、自分は二人の恋愛の生贄となり、弄ばれた末に悲惨な最期を迎えた。

二人がこれほど愛し合っているのなら、自分が邪魔をする必要などない。

奈津美は微笑んで言った。

「おばあさま、この件は綾乃さんとは関係ありません。涼さんとの婚約を取り消すのは私の決心です。

それに......涼さんと綾乃さんは本当に愛し合っています。私は二人の幸せを願っています」

「何を言うの!奈津美は私が選んだ孫の嫁よ。それ以外の女性に黒川家の門をくぐる資格などないわ!」

会長の言葉が終わるか終わらないかのうちに、綾乃の手からお茶碗が落ちた。

「綾乃!」

ちょうど入ってきた涼は、蒼白な顔をした綾乃を見て、すぐに駆け寄り、彼女の手の怪我を確認した。

手首から血が滲み、指先まで熱いお茶で火傷していた。

「おばあちゃん!綾乃はまだ怪我が癒えていないんです。

医師が言うには、あと1ミリ深ければ手が不自由になるところだったんです。

こんな追い詰め方をしないでください!」

綾乃を守る涼の様子を見て、会長は冷笑した。

「まだ1ミリ足りなかったでしょ?

彼女はただお茶を持っていただけよ。私が強要したわけでもないのに。白石さんが自分で持ち続けたのよ。

説教するなら、そんなに意地を張る白石さんに言いなさい。

一生お茶を持ち続けたところで、私は絶対に黒川家に入れないわ!」

涼は眉をひそめ、会長の隣に座る奈津美に視線を向けた。

「お前が密告したのか?」

綾乃の自傷行為については、確実に情報を管理していたはずだ。しかも奈津美にも警告していた。

まさか奈津美にそんな度胸があるとは思わなかった。

「奈津美に何の関係があるの?白石さんが自分から謝りに来たのよ!

涼、今日はみんながいる前で奈津美にきちんと謝りなさい。

それと白石さんにも言っておきなさい。もう黒川家に嫁ぐ望みは捨てなさいって。

うちと白石家とは永遠に付き合いはないのよ!」

「おばあさま、そこまでする必要はありません。私と黒川様の婚約は......」

奈津美の言葉を遮るように、涼が冷たく言い放った。

「奈津美、いい加減にしろ!

おばあちゃんの前で余計なことを言わなければ、綾乃がこんな屈辱を受けることもなかった!」

「涼様......私が自分から謝りに来たんです。奈津美さんは関係ありません......

私はすぐに帰ります。もう二度とお会いしません。

滝川さんこそが涼さんの奥様になれる方です。滝川さんと争うようなことはしないでください」

綾乃は顔を蒼白にしながら、涙を堪えた強情な様子で、誰が見ても同情せずにはいられない姿を見せた。

綾乃はいつもこうだった。口で言うことと、実際の行動が全く違っていた。

案の定、次の瞬間、綾乃は涼の腕の中に倒れ込んだ。

涼は奈津美に冷たい視線を向けると、綾乃を抱き上げた。

涼が綾乃を抱えて出ようとするのを見て、会長は即座に叫んだ。

「涼!そこで止まりなさい!」

涼の足が一瞬止まると、会長はすぐに言った。

「奈津美はあなたの婚約者よ。

他人の女性を抱いて出て行くなんて、体裁が悪いでしょう」

「おばあちゃん、黒川家には二面性のある性悪な女は必要ありません。

同じように、私も心の腐った妻なんて要りません」

そう言い放つと、涼は綾乃を抱いたまま、振り返ることもなく黒川家を出て行った。
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